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中毒/農薬・化学物質

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農薬・化学物質による中毒

工業物質

工業汚染物質として発生する金属で、中毒の原因となるのは、鉄、鉛、亜鉛、カドミウム、砒素、水銀などが挙げられます。

 鉄

鉄を過剰摂取する可能性には、栄養補助食品の誤食があります。植物肥料調合剤にも鉄分が多く含まれていて、犬で中毒を起こすことがあります。

過剰に摂取すると、胃と小腸粘膜に直接的な腐食作用を示して、重度の壊死、穿孔、腹膜炎を引き起こします。中毒症状では、嘔吐、下痢、眠気、ショック、中枢神経系の抑制、胃腸からの出血、代謝性アシドーシス、劇症肝不全、乏尿・無尿、急性腎不全などがみられます。

アナフィラキシーショックが疑われる場合は、それに対する緊急処置が必要です。必要に応じて、全血輸血や重炭酸ナトリウムの投与を行います。催吐処置、胃洗浄も行って、鉄分を吸収させないために、水酸化マグネシウムを投与することもあります。

 鉛

鉛中毒は、昔からよく知られています。症状は、嘔吐、食欲不振など非特異的なものです。原因は、鉛を含んだ塗料(ペンキ)、バッテリー、ハンダ、配管剤や部品などの廃棄物、ゴルフボール、敷物、おもちゃ、錘、絶縁体などがあります。多くは1歳齢以下の動物に多くて、永久歯が生え変わるときの痒み、好奇心、異食性などで、異物を噛んで鉛を摂取してしまうことが発生の一因です。

症状は、嘔吐、腹痛、腹部緊張、食食不振などの胃腸障害と、神経障害がみられます。多量の鉛を摂取して起こる急性症では、神経症状が優勢になります。低用量を長期間にわたって摂取すると、胃腸症状に始まって神経症状が生じて、さらには骨に異常な所見がみられます。

血液検査では、貧血、有核赤血球、好塩基球の出現、X線検査では鉛が確認できることもあります。

治療には、鉛の摂取直後であれば、硫酸ナトリウムや硫酸マグネシウムなど塩類下剤を経口投与して、鉛を非水溶性の硫酸亜鉛に変化させて体外へ排出させます。催吐薬、浣腸、金属除去薬があれば投与します。

 硫化水素

硫化水素は、毒性の強い気体です。硫黄の温泉やアスファルトの蒸気、金属精錬工場、高山、腐敗物、肥料などから発生します。硫化水素は空気より重くて、体高が低い動物に起こりやすいかも知れません。

症状は、粘膜への直接刺激、流涎、眼瞼痙攣、発咳、肺炎などがみられます。呼吸促迫、悪心・嘔吐、錯乱、痙攣、昏睡、ショック、心肺停止にまで進行することがあります。

中毒を起こしていると思われる動物は、硫化水素が発生している場所から速やかに移動させて、全身症状がみられる場合は、その症状に応じた緊急処置が必要です。

農薬類

 除草剤

除草剤の種類は色々ありますが、適切な使用方法で散布された除草剤によって動物が致命的な中毒を起こすことは、まずありません。製品を直接摂取することで、除草剤の中毒は発生します。

フェノキシ系除草剤を大量摂取した場合は、食欲不振、嗜眠、筋緊張、代謝性アシドーシスが生じます。アトリアジン系除草剤やフェニル系除草剤は、長期に亘って摂取すると、中毒が起こって、嘔吐と下痢がみられます。パラコートには、致死的な肺や心臓への障害作用があって、痙攣や過剰興奮、運動失調が起こって、粘膜のびらん、肺線維症、腎不全を発症して死亡します。

フェノキシ系除草剤の中毒では、活性炭とアルカリ性利尿薬の投与を行います。パラコートの中毒は、活性炭や微細粘土末製剤の投与と、腎障害、肺水腫を予防するための処置を行います。酸素吸入は、病態を悪化させるので禁忌です。

その他の除草剤は、胃腸内容物の除去をするために、催吐処置、活性炭の投与や症状に応じた対症療法を行います。

 殺鼠剤

殺鼠剤には、ワルファリンやその類似薬が使用されています。殺鼠剤の管理不十分による誤飲が原因で中毒を起こすことがあります。

最近では、ワルファリンに抵抗性を示すネズミがいます。なので、第二世代のヒドロキシクマリンが開発されています。作用はどちらも血液の凝固を阻害して、殺鼠作用が発現します。第一世代の殺鼠剤は、継続的な摂取で致死量になって、第二世代の殺鼠剤は1回の摂取でネズミは致死します。

中毒症状は、血液凝固阻害作用による外傷部位や粘膜からの出血です。しかしながら、必ずしも鼻出血、血尿、血便、血腫がみられるとは限りません。よく見られる症状は、呼吸困難、嗜眠、食欲不振です。

疑いがあれば、血液凝固系の検査を行いましょう。診断的な治療として、ビタミンK1を投与して、24時間以内に良好な反応があれば、殺鼠剤中毒を疑います。殺鼠剤の種類がわかれば、原因となる抗凝固薬の特定が可能です。

症状が重度で、著しい貧血、低血液量性のショックがみられる場合は、輸血が必要です。症状が軽度の場合や輸血による改善傾向が現れていれば、ビタミンK1を投与して、安静を保つためにケージレストを行って、必要な対症療法を行います。

治療期間は、第一世代のワルファリンによる中毒なら7~10日間、第二世代のワルファリンなら4~6週間が必要です。

 殺虫剤

殺虫剤には、有機リン系、カルバメート系の薬物があります。中毒が起こる原因は、不適切に廃棄された容器を舐めて起こる場合、外部寄生虫駆除の目的で使用した殺虫剤を過量に摂取した場合、長期間摂取した場合に起こすことがあります。

症状は、不安行動、多量の流涎、頻尿、頻回排便、嘔吐、顔面から全身にかけての振戦、縮瞳、硬直性痙攣、起立不能、気管支狭窄、呼吸困難、昏睡、呼吸抑制がみられて、重篤な場合は死亡することもあります。急性症状だと、薬物接触後数分~2時間程度で起こります。持続時間は、2~3分程度であることが多くて、長くて数時間です。

有機リン系とカルバメート系の殺虫剤による中毒は、緊急疾患ですので、疑わしい症状がみられたら迅速な処置が必要です。これらの化合物の摂取が明確なら、無症状であっても、催吐薬と活性炭を投与して、少なくとも8時間は観察を続けてましょう。活性炭の投与は、可及的速やかに行います。症状をみながら、アトロピン、アセチルコリンエステラーゼ活性薬、ジアゼパム、ジフェンヒドラミンの投与を検討します。

 有機塩素剤

有機塩素系の殺虫剤には、オルトジクロロベンゼン、BHC、DDT、クロルデンなどがありましたが、環境への影響もあって、多くは使用されなくなっています。起こりうるとすれば、農村地の古い倉庫内に処分されずに残っている有機塩素剤を誤飲する、ということが考えらます。

症状は、急性に流涎、悪心・嘔吐、活動亢進、過剰興奮、協同運動失調、筋肉硬直、痙攣、てんかん、呼吸不全が、慢性症状では食欲不振、体重減少、削痩、振戦、昏睡などがみられます。治療には、催吐薬の投与と胃洗浄、活性炭や塩類下剤の投与、抗痙攣薬の投与、その他、症状に応じた対症療法を行います。


医薬品

飼い主の使っている薬を、犬や猫が誤って摂取してしまうことがあります。どんな医薬品も、大量に摂取すると副作用・中毒を引き起こします。特に、猫は薬剤に対する感受性が高い傾向があるので、注意してください。