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免疫介在性の疾患/その他

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その他の免疫介在性疾患

免疫介在性血小板減少症

免疫介在性好中球減少症(特発性血小板減少性紫斑病)は、抗体介在性に血小板の破壊が進行する臨床症候群です。血小板減少症の最も多い原因で、原発性と二次性の疾患があります。

原発性血小板減少症(自己免疫性血小板減少症)は、抗体が血小板の抗原に対して産生されてしまいます。潜在的な免疫制御異常によるものと推測されています。犬の標的抗原の一つとして、血小板の膜糖蛋白Ⅱb/Ⅲaに対する抗体が同定されています。他にも抗原はあるかも知れません。

犬では、原発性の免疫介在性好中球減少症が、血小板減少症の原因ですが、猫で起こることは稀です。ストレス、気温の変化、ホルモンバランスの変化、ワクチン接種、手術などが要因となって起こることがあります。

二次性の免疫介在性好中球減少症では、抗体介在性の血小板の破壊が、潜在的な炎症や腫瘍性疾患によって生じます。免疫介在性好中球減少症は、全身性エリテマトーデスの一徴候としても起こりうる疾患で、IMHAと同時に起こることもあります(エバンス症候群)。

 症状

原発性の免疫介在性好中球減少症は、比較的高齢な犬に起こることが多く、好発犬種も認められます。皮膚や粘膜での点状出血、斑状出血が突然始まって、鼻出血、血便、吐血、易出血性、元気消失、虚脱、食欲低下などを示します。診察で、メレナ、赤色尿、前眼房の出血、網膜の出血、粘膜蒼白が確認されます。

中枢神経や眼への出血で、神経症状と眼が見えなくなる状態になることがあります。免疫介在性好中球減少症では、命に危険を及ぼすほどの出血は、稀です。IMHAが併発しない限り、貧血の進行は徐々に起こります。貧血が重度になると、元気消失に加えて、運動不耐性、頻呼吸、頻脈、心雑音が明らかとなることもあります。中には、出血症状が認められず、他の原因で行った血液検査で偶然見つかることもあります。

 診断

免疫介在性好中球減少症は、他の疾患と関連して生じることが多くて、原発性の免疫介在性好中球減少症の診断には、他の血小板減少症の原因を除外して行うしかありません。バベシア、フィラリア、全身性エリテマトーデス、サルファ合剤への薬物反応や腫瘍などの原因があっても、それらは免疫介在性の機序が関与しているので、診断も非常に難しくなります。免疫介在性好中球減少症の血液塗抹では、血小板の断片(微小血小板症)がみられることがあります。

骨髄癆、腫瘍、巨核球無形成、再生不良性貧血との鑑別が必要です。免疫介在性好中球減少症は、骨髄の生検で、巨核球数は、正常です。免疫介在性好中球減少症で巨核球数が低下していると、それが潜在的な感染で生じていない限り、予後が悪くなります。エールリヒアやライム病で二次的に生じることがあります。

犬と猫の血小板減少症の原因

原因機序
免疫介在性抗体介在性原発性/二次性二次性/原発性
腫瘍


抗体介在性
骨髄抑制
骨髄癆
リンパ腫・血管肉腫・白血病
悪性組織球腫 他

白血病・血管肉腫 他


感染



抗体介在性
骨髄抑制
骨髄癆

エールヒリア・アナプラズマ
日本紅斑熱・バルトネラ症
フィラリア症・菌血症
ジステンパーウイルス
FeLV・FIV・FIP
猫汎白血球減少症
トキソプラズマ症

薬剤・ワクチン
毒素への暴露

抗体介在性
骨髄抑制
特異体質
抗菌薬(サルファ合剤)
フェノバルビタール

メチマゾール


DIC

血小板の消費

腫瘍・肝疾患
感染・膵炎
腫瘍・肝疾患
感染・膵炎

 治療

免疫抑制療法
免疫抑制剤は、治療の第1選択です。高用量のステロイドが、マクロファージ介在性の血小板破壊を阻害します。プレドニゾロン(1~2mg/kg、BID)を投与します。血小板数が重度に減少(15,000/μL以下)している犬では、ビンクリスチンを単回投与(0.02mg/kg、静脈内)することで、迅速な血小板増加の見込めることがあります。治療に効果が見られると、治療開始1週間で、血小板数は、50,000/μL以上に増加します。

血小板数が、正常範囲内まで増加すれば、プレドニゾロンを漸減していきます。再発の危険性を考慮して、3~6ヶ月の期間を掛けて、減量します。6ヵ月後に、プレドニゾロンの低用量、隔日投与で寛解状態が維持できたら、休薬します。

プレドニゾロン単独で、治療に効果がなく、血小板数が、100,000/μL以上にならない場合や、プレドニゾロンの副作用が強く出る場合は、アザチオプリンの追加投与を検討します。投与量は、2mg/kg・SID、です。アザチオプリンの効果がみられたら、プレドニゾロンを減量していきます。その間、アザチオプリンの用量はそのままです。プレドニゾロンの投与が終了したら、アザチオプリンを減量していきます。再発がみられたら、血小板数を基準範囲内に維持できる最低用量で、生涯、投与を継続する必要があります。

免疫抑制剤を投与中は、2週間ごとに血小板数の測定を行いましょう。維持すべき血小板数は、100,000/μL以上です。難治性の場合、シクロスポリンや免疫グロブリンの投与が有用なことがあります。慢性的に再発してしまう免疫介在性血小板減少症では、脾臓摘出も適用されます。

支持療法
予後を良好にするには、支持療法が重要です。しかし、血小板が減少していますから、出血を避けるように注意しましょう。侵襲性のある処置は、静脈穿刺以外、最小限に留めて、ケージレストと運動制限で、出血のリスクを減らします。

神経系や眼からの出血には特に注意して、モニタリングを行います。出血の多い症例や、著しい貧血のある症例に対しては、輸血をします。新鮮な全血で、出血を止める血小板の供給が可能です。効果は約48時間、持続します。

ステロイドの副作用による消化管の出血は、H2ブロッカー(ファモチジンなど)やプロトンポンプ阻害薬(オメプラゾール)、スクラルファートで改善できます。

IMHAの併発(エバンス症候群)の治療は、ステロイドにアザチオプリンを併用投与します。血小板数の減少が顕著な場合(15,000/μL以下)は、ビンクリスチンの単回投与を検討します。出血が激しいなら、輸血です。当然ですが、エバンス症候群では、ヘパリン治療は禁忌です。

 予後

免疫介在性血小板減少症の予後は、それほど悪くはありません。再発が一般的で、半数程度の犬にみられますが、多くはその後の治療にも反応してくれます。

巨核球低形成があると、予後は悪くなります。IMHAが併発しても予後が悪く、致死的になります。

免疫介在性好中球減少症

犬や猫の自己免疫性が原因となる好中球減少症は、稀です。診断は、他の疾患を除外してのみ可能です。原発性のものから、感染性、薬剤関連性、腫瘍、他の免疫介在性疾患からの二次的なもの、が原因として考えられます。

  •  症状
    •  比較的、若齢犬でみられます。
    •  発熱、跛行、食欲低下、元気消失があります。
    •  検査では、好中球の減少と、軽度の貧血、高グロブリン血症、ALPの高値がみられます。
  •  治療
    •  プレドニゾロン(2~4mg/kg/日)を初期用量として投与します。
    •  比較的効果的な反応をします。多くは、再発することなく、ステロイドを漸減することができます。


特発性再生不良性貧血

再生不良性貧血(再生不良性汎血球減少症)は、骨髄由来の血球減少と、脂肪組織で置換された低形成・無細胞性の骨髄を特徴とする疾患です。原因には、感染因子、ホルモン異常(エストロジェン)、薬剤関連性、放射線関連性、特発性などが考えられます。

特発性再生不良性貧血の原因は、わかりません。人では免疫介在性であることと、免疫抑制剤に反応するので、免疫介在性だろうと考えられます。治療は、感染性因子の疑いが除外されたら、プレドニゾロンやシクロスポリンで治療しましょう。予後、要注意です。


多発性関節炎

免疫介在性多発性関節炎は、2箇所以上の関節で起こる、慢性炎症です。関節液からは、病原体が分離できず、免疫抑制療法に反応を示すものです。主に、Ⅲ型免疫複合体過敏症で、滑膜に免疫複合体が沈着して、局所の炎症と蛋白分解酵素やサイトカインの放出が始まって、関節の変性が生じる疾患です。

ちなみに、関節リウマチは、滑膜への単核細胞の血管周囲への浸潤を伴ったⅣ型過敏症です。

免疫介在性多発性関節炎は、原発性と二次性に分類されます。原発性の多発性関節炎の原因は、わかりません。潜在的な免疫系の機能不全や異常によるものと推察されます。二次性の多発性関節炎では、関節における免疫複合体の沈着が、潜在的な炎症や腫瘍性疾患から発生します。慢性の細菌感染、アナプラズマ、エールリヒア、ライム病も多発性関節炎の原因となりますが、罹患した関節からは病原体が認められず、培養しても増殖は見られません。

犬や猫で認識されている多発性関節炎

症候群疾患の特徴
特発性非びらん性遠位の小さな関節
二次性非びらん性基礎疾患の症状も認められる
犬種特異的な
特発性非びらん性
より重症になる。髄膜の炎症を併発する。
秋田犬、ワイマラナー、ニューファンドランド
家族性発熱
(シャーペイ)
回帰性の発熱。罹患した関節周囲の軟部組織の腫脹。
全身性アミロイドーシスになりやすい。
リンパ球形質細胞性滑膜炎

全身性の症状はない。
前十字靭帯断裂、関節液中にリンパ球と形質細胞がみられる。
全身性エリテマトーデス多臓器にわたる免疫疾患
関節リウマチ


初期症状は、非びらん性に類似。
関節(手根骨・飛節・指骨)の摩擦音から緩み、脱臼、変形へ進行。
びらん性
(グレーハウンド)
指骨、手根骨、飛節、肘、膝のびらん性変化
関節液のリンパ球形質細胞性の炎症
慢性進行性(猫)複数の関節で、びらん性・増殖性の変化

 症状

症状は、発熱、食欲不振、元気消失がみられ、動物は歩き回れない状態になります。神経症状が初めに疑われることもあるぐらいですが、神経学的検査を行えば、正常です。関節の腫脹や関節包の腫脹、関節痛は、軽度なことが多く、発熱が唯一の症状であることもあります。多発性関節炎は、不明熱の原因の一つです。

多発性関節炎の関節痛は、頸部の痛みを伴うこともあります。髄膜の炎症が報告されています。神経学的な異常がないのに、頸部の痛みがある犬や猫では、多発性関節炎を疑いましょう。

猫で、全身性の知覚過敏が生じることもあり、活動性が著しく低下して、隠れてしまうこともあります。糜爛型の多発性関節炎では、関節が、病気の進行とともに変形して破壊されて、重度な歩行異常が生じることがあります。不可逆的な変化で、歩行困難に陥ります。

 診断

免疫介在性多発性関節炎の特徴は、2箇所以上の関節の滑膜に、非感染性の炎症が存在することで、疑いがあれば、関節から関節液を採取して解析します。関節液の細胞診と培養を行います。関節液は、より遠位の関節、3~4箇所から採取するのが理想的で、手根関節、足根関節、膝関節から採取しましょう。関節液は、粘稠性が低くなって、量が増加して、不透明になっています。

診断は、感染のない好中球性の炎症を明らかにするのですが、関節液の培養や感受性試験も参考になります。その後、原発性自己免疫疾患なのか、感染や腫瘍による二次的な疾患なのか、を判断していきます。血液検査を行ったり、鑑別診断のため、リウマチ因子や抗核抗体検査を行いましょう。

 治療と予後

二次性の多発性関節炎では、抗炎症量のステロイドか、非ステロイド系抗炎症薬で、治癒します。原発性の自己免疫性多発性関節炎の犬は、免疫抑制量のステロイド(2~4mg/kg/日)の投与を、第1選択にします。

ステロイド単独療法、ステイロイドの休薬で再発する犬には、アザチオプリンやシクロスポリンの追加投与が必要です。重度の多発性関節炎には、積極的な免疫抑制療法が必要です。全身性エリテマトーデスに続発する多発性関節炎、秋田犬に特異的な多発性関節炎、関節リウマチなどが、その対象です。

免疫抑制剤を漸減していく際は、関節液の細胞学的検査を行ってから、減じていきます。症状がなくっても、関節液の炎症が寛解していないことには、疾患は再発します。再発すると、関節に対する傷害は進行して、結局は変性性の関節疾患を生じてしまいます。

特発性非びらん性多発性関節炎の犬の多くは、初期治療によく反応します。多くは、3~4ヵ月で治療を終わることができます。予後も良好です。

全身性エリテマトーデス

特異的な組織の蛋白に対する抗体(Ⅱ型過敏症)と免疫複合体の沈着(Ⅲ型過敏症)によって、多臓器への免疫介在性の傷害を引き起こす多臓器免疫疾患です。Ⅳ型(遅延型過敏症)の機序も組織傷害に関与していると思われます。

潜在的な原因は、まだまだわかっていないようですが、CD4/CD8比の増加、T細胞活性化マーカーの発現増加、顕著なリンパ球減少が疑われています。これらの所見から、全身性エリテマトーデスの犬では、サプレッサーT細胞が欠損してることが示唆されます。

遺伝的な要因もあります。ジャーマン・シェパード、シェルティ、コリー、ビーグル、プードルが好発犬種です。環境因子や感染因子、薬剤による反応性も、要因としてあり得るようです。犬でも、それほど認められる疾患ではありませんが、猫ではもっと稀です。中年齢に起こりやすいですが、性差はありません。

 症状

どんな臓器でも罹患する可能性があって、さまざまな症状がみられます。発熱が必ずあって、非びらん性多発性関節炎から生じる跛行と関節の腫脹、皮膚症状が多くみられて、体重減少、嘔吐、多飲・多尿からなる腎不全などが認められます。糸球体腎炎による蛋白尿もみられます。

皮膚の病変は、日光に当たった皮膚にみられて、光線過敏症と考えられます。皮膚症状では、脱毛、紅斑、潰瘍、痂皮、過角化がみられます。

他の症状では、溶血性貧血、赤芽球癆、血小板減少症、白血球減少症、筋炎、胸膜心膜炎、中枢神経の異常など、です。

再発と寛解を繰り返します。再発した場合には、それまでの罹患臓器とは別の臓器が罹患することもあります。

 診断

免疫介在性の疾患の犬や猫で、複数の臓器が罹患していると思われる場合は、全身性エリテマトーデスを疑います。多数の臓器が罹患していることもあるので、血液検査、尿検査、関節液、眼底検査、X線検査、エコー検査などなど、できうる限りの検査をしておいた方がいいでしょう。感染性疾患の抗体価測定、クームス試験、骨髄生検、皮膚・腎臓生検、なども考えておきましょう。

 治療と予後

高用量ステロイド投与(1~2mg/kg、BID)で、治療を開始します。寛解すれば、用量を減量していきます。多くは、寛解を得るために、アザチオプリンやシクロスポリンの追加投与が必要となります。

予後には、要注意です。再発するのが普通で、長期的な治療が必要です。生涯にわたる免疫抑制療法が必要なこともあります。再発時は、初診時とは別の臓器の異常や症状を示すこともあります。


糸球体腎炎

後天性の糸球体腎炎は、犬で多く、免疫複合体が糸球体の毛細血管に存在することによって生じます。免疫複合体は、糸球体に沈着したり、トラップされる血中抗原抗体複合体であることもありますし、血中の抗体が糸球体の毛細血管壁内で、内因性の糸球体の抗原や糸球体以外の抗原と反応して、その場で免疫複合体が形成されることもあります。免疫複合体が沈着する原因は、感染や炎症性疾患が一般的ですが、残念ながら、その潜在的な原因の特定は困難です。

糸球体腎炎に関与する感染と炎症性疾患
エールリヒア症
フィラリア症
レプトスピラ症
ライム病
ブルセラ症
心内膜炎・腎盂腎炎・前立腺炎

糸球体自体に免疫複合体が沈着する原因は、抗体が糸球体毛細血管の基底膜に対して賛成されている場合の自己免疫疾患の場合や、抗原が糸球体の毛細血管に局在する場合とがあります。

免疫複合体が沈着する原因が何であろうとも、症状は同じで、蛋白尿、全身性高血圧、腎不全、血栓塞栓症が生じやすくなります。

症状
糸球体腎炎の特徴は、蛋白尿です。一般の尿検査で検出可能です。多くは、偶然、別の疾病の検査でみつかります。なので、目立った臨床所見はありません。あっても、少しの体重減少、嗜眠、食欲低下です。

腎不全の症状を呈して来院して、蛋白尿が同定されることもあります。ネフローゼ症候群では、蛋白尿、低アルブミン血症、高コレステロール血症、浮腫や腹水が特徴で、症状は重篤で、急性に進行します。

糸球体腎炎の犬では、高血圧や血液凝固亢進に関与することがあります。高血圧で、網膜の変化と視力の低下が生じることがあって、血液凝固亢進は、血栓塞栓症を呈することがあります。

診断
蛋白尿がわかれば、尿細管の異常が存在するか、糸球体腎炎の原因と考えられる感染性疾患や炎症性疾患をみつけられるかが鍵です。血液検査、尿検査、X線検査などは行っておきましょう。腎臓のエコー検査では、腎盂腎炎、腎結石、他の潜在的な腎疾患をみつけられることもありますが、糸球体腎炎に関する異常を抽出することはできません。

腎生検を行うと、基礎疾患の進行を確定できて、疾患の重症度もわかります。治療方針や予後も予測できます。

治療
治療方針は、あれば基礎疾患の治療、尿への蛋白喪失を減じること、血栓塞栓症の予防、適切な食事療法と支持療法の開始を目指すことです。

蛋白尿の第1選択薬には、AEC阻害薬(0.5mg/kg、SID)を用います。最も効果的です。

血栓塞栓症の予防をするために、抗凝固薬を使います。特に、アンチトロンビンの減少がみられたら、必要になります。低用量アスピリン(0.5mg/kg、SID)が、抗凝固効果と免疫複合体に対する糸球体の反応を低下させます。

その他、血圧の管理、食事管理、浮腫や腹水があれば、その管理も行いましょう。腎不全の治療も必要になる場合があります。腎不全の治療については、該当ページをご参照下さい。

特発性免疫介在性糸球体腎炎には、免疫抑制が有効なはずなんですが、糸球体腎炎に免疫抑制療法が効果的であったという例はなく、むしろ蛋白尿を悪化させます。全身性エリテマトーデスのような免疫疾患の一部として糸球体腎炎が生じている場合でないと、免疫抑制剤の投与は行いません。

治療に対する反応は、毎月、蛋白尿、BUN、クレアチニン、血圧をモニタリングしましょう。

予後
症状の重症度、基礎疾患の生検所見、治療に対する反応で変化します。尿毒症が併発していると、予後、要注意です。免疫複合体の沈着が可逆的であったり、食事療法やACE阻害薬に反応して、蛋白尿が軽減できれば、予後、良好です。泌尿器系の疾患のページもご参照を。


後天性重症筋無力症

シナプス後膜のニコチン作用型アセチルコリン受容体の欠損や異常で生じる、神経筋伝達疾患です。他の免疫介在性の疾患と同様に、原発性の自己免疫疾患であったり、胸腺腫やその他の腫瘍などに関連して起こることもあります。

後天性重症筋無力症は、アセチルコリン受容体に対する抗体が、アセチルコリンとその受容体の相互作用を阻害する、自己免疫疾患です。抗体は、アセチルコリン受容体を架橋して、受容体の内在化を引き起こします。補体介在性のシナプス後膜の傷害も、神経筋をブロックすることに関与しています。

  •  症状
    •  全身の虚脱が一般的な症状で、巨大食道が併発することもあります。
    •  局所的な重症筋無力症の症状は、巨大食道のために生じる吐出、嚥下困難、声の変化、脳神経の異常などです。
    •  急性致死型では、重度の虚脱と脊髄反射の喪失が認められて、巨大食道と誤嚥性肺炎の併発が多く見られます。
    •  猫では、巨大食道がない全身性の虚脱と、前縦隔の腫瘤に関連した全身性の虚脱です。

診断には、アセチルコリン受容体に対する自己抗体の測定が特異的です。先天的な重症筋無力症の原因ではないので、その場合は、検査結果は陰性です。抗コリンエステラーゼ薬に反応すれば、重症筋無力症を疑えます。診断ができれば、基礎疾患の有無を調べておくべきです。

  •  治療
    •  第1選択薬は、コリンエステラーゼ阻害薬です。神経筋接合部に作用して、アセチルコリンを増加させて、アセチルコリンの作用を遷延化させることで作用します。
    •  ピリドスチグミン(0.5~3mg/kg、経口、BID)が経口薬なので試みてみます。経口薬が投与できない状態なら、ネオスチグミン(0.04mg/kg、BID)を筋肉内投与します。
    •  コリンエステラーゼ阻害薬単独で反応しないなら、ステロイドの投与を考慮します。誤嚥性肺炎、糖尿病、消化管潰瘍がある症例には、ステロイドの投与量が過剰にならないよう、注意を払いましょう。
    •  プレドニゾロンは、低用量で開始します。0.5mg/kg・経口・隔日投与~1mg/kg・経口・BIDの免疫抑制の最低量あたりから開始して、反応が得られなければ、2週間後に用量を増量します。
    •  効果がも一つなら、アザチオプリン(犬:2mg/kg、po、SID)やシクロスポリン(5mg/kg、po、SID)を補助的に使用します。

犬では、後天性重症筋無力症は、自然寛解することがあります。寛解しない犬は、潜在的な腫瘍が存在している可能性が高いと考えられます。

免疫介在性筋炎

 咀嚼筋炎

咀嚼筋(側頭筋、咬筋、顎二腹筋)に影響を及ぼす、局所的な筋炎です。咀嚼筋は、独特の筋線維型を持っていて、咀嚼筋炎を起こす犬の多くは、この筋線維型に対する抗体を持っています。

犬でよく起こります。猫は起こりません。症状は、開口傷害、咀嚼筋の腫脹や痛み、重度の筋の萎縮などです。筋の腫脹や痛みは、急性期の所見で、急性期に治療が行えないと、重度の筋萎縮と開口不能な慢性期に進行します。しかしながら、多くの症例で急性期の症状は認識できず、飼い主からの主訴は、筋の萎縮と、顎を開くことができない、という内容になってしまいます。重症になると、顎は、数センチしか開くことができず、食事が出来ません。発熱、抑うつ、体重減少、嚥下困難、発声困難、眼球突出などもみられます。

診断には、抗体価を調べるのがいいのでしょうが、筋肉の生検を行います。リンパ球や組織球、マクロファージの多巣性の浸潤が認められます。筋線維の萎縮や線維化もあり、筋線維が結合組織に置き換わってしまっていることもあります。あと、クレアチンキナーゼが上昇することもあります。

治療は、免疫抑制量のプレドニゾロン(2~4mg/kg、経口、SID)を投与します。顎関節の骨折と脱臼の恐れがあるので、無理に開口させようとしてはいけません。症状は、ステロイドの投与で改善します。寛解したら、数ヶ月掛けて、用量を漸減します。

プレドニゾロンの減量で、再発する犬は、長期的な治療を行うとともに、アザチオプリンを追加投与する必要もあるかも知れません。再発を防止するには、急に漸減せず、ゆっくりと用量を下げていきましょう。

治療の目安は、正常な筋の機能回復と、QOLの向上です。重度の線維化が起こっていると、筋の萎縮は持続しますし、免疫抑制療法でも症状は悪化します。機能が戻るかどうか、が予後を左右する点で、通常は、予後は良好です。

 多発性筋炎

骨格筋にリンパ球が浸潤する疾患です。多くの場合、原発性自己免疫疾患なのですが、腫瘍随伴性免疫介在性筋炎は、犬で、リンパ腫、気管支癌、骨髄性白血病、扁桃癌と関連しています。特異的な誘因抗原はわかっていませんが、傷害を起こす機序としては、細胞傷害性T細胞の関与(Ⅳ型遅延型過敏症)が疑われています。

犬でも猫でも、頻度は少ない疾患です。若齢の大型犬(ボクサーやニューファンドランド)に、たまにみられる程度です。症状は、運動で悪化する全身性の虚弱と、強直性歩様です。筋肉に痛みを示して、嚥下困難、全身性の筋萎縮、発声困難、発熱も認められることがあります。咀嚼筋炎の併発や、全身性エリテマトーデスや多発性関節炎に併発することもあります。

診断には、症状とクレアチンキナーゼの上昇、筋肉の生検を行います。筋肉の生検は、感染性の要因を除外するために、重要です。咀嚼筋炎と同様の所見を示しますが、多発性筋炎では、好酸球が存在すると、感染性の疑いが高くなります。特に、ボクサー犬では、多発性筋炎が、腫瘍の前兆であることもあるので、要注意です。

治療は、咀嚼筋炎と同様(プレドニゾロン、2~4mg/kg、経口、SID)です。治療によって、機能は回復しますので、予後は良好です。

 皮膚筋炎

コリーやシェルティに、非常に稀に認められる皮膚、骨格筋、血管系を侵す免疫介在性の疾患です。常染色体性優性遺伝の様式を示して、免疫複合体の沈着が原因と疑われています。

皮膚病変が、2~4ヶ月齢で進行して、筋炎の症状は後に現れてきます。側頭筋に罹患することが多くなって、筋の萎縮と嚥下困難がみられます。重症例では、巨大食道や、筋の萎縮を伴う全身性の多発性筋炎があります。クレアチンキナーゼはあまり上昇しません。

治療は、皮膚のケアと、免疫抑制療法です。プレドニゾロン(2~4mg/kg、経口、SID)を投与しますが、長期の治療と再発が普通です。補助的に、日光を避けること、雄は去勢すること、ビタミンEを添加することで、症状が改善することがあります。重度な症例は、予後不良です。