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内分泌・代謝系の疾患/アジソン

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副腎皮質機能低下症(アジソン病)

特発性の副腎皮質機能低下症のほか、腫瘍、肉芽腫性疾患、出血性梗塞動脈血栓症、ミトタンやトリロスタン治療による両側性の副腎皮質の破壊によって副腎皮質機能の低下不全が起こることもあります。症状は、副腎皮質の90%以上が破壊されたら出てきます。副腎皮質の障害は一様に起こるので、結果として、アルドステロンとグルココルチコイド、両方の欠乏が生じます。副腎皮質の破壊は進行性で、最終的には完全な副腎皮質の機能不全が起こります。副腎皮質機能低下症の初期では、ストレス下にあるときだけ、症状の発現が認められます。

ミネラルコルチコイド(アルドステロン)は、体内のナトリウム・カリウム・水分を調節します。原発性の副腎皮質不全では、アルドステロン分泌の低下によって、腎臓でのナトリウムとクロールの保持とカリウムの排泄が障害されて、低ナトリウム血症、低クロール血症、高カリウム血症が起こります。ナトリウムとクロールが保持されないので、細胞外液が減少して、そのため循環血液量が減少して、低血圧、心拍出量の減少、腎臓やその他の組織への体液循環の減少などが徐々に発現します。

高カリウム血症は、心機能に対する有害な作用を及ぼします。心筋の興奮性が低下して、心筋不応期の延長、伝導遅延が起こります。

併発するグルココルチコイドの欠乏によって、消化器症状や精神状態の変化が起きます。副腎皮質機能低下症の特徴に、ストレスへの不耐性があって、ストレスに曝されたときに、症状が明瞭になることがよくあります。

グルココルチコイドの欠乏を示す症状によって来院した副腎皮質機能低下症を疑う犬や猫が、電解質濃度が正常であることがあります。グルココルチコイド分泌の欠乏がありますが、ミネラルコルチコイドの分泌が正常である場合、非定型副腎皮質機能低下症と呼びます。

下垂体機能不全によってグルココルチコイド欠乏が起こる病態は、続発性副腎皮質機能低下症と分類しています。下垂体や視床下部の破壊性病変、外因性グルココルチコイドの長期投与などが原因となります。

症状

副腎皮質機能低下症は、比較的低年齢で発症することが多く、雌犬に多いのが特徴です。グルココルチコイド欠乏性の副腎皮質機能低下症は、高齢で発症することが多い傾向があります。猫での発症は多くありません。

最も一般的な症状は、消化器症状と精神状態の変化で、元気消失、食欲不振、嘔吐、体重減少などです。その他にみられる所見には、脱水、徐脈、股動脈圧の低下、腹部の疼痛などがあります。徐脈や血液循環量の減少による症状がみられるなら、高カリウム血症と副腎皮質機能低下症を疑いましょう。

症状の目立たないことが多く、他の消化器疾患や泌尿器疾患と間違えることもありますので、注意しましょう。注意深く観察すると、病状に波があることがわかりますし、ときおり起こる症状(ストレス下にあるときなど)を捕らえることもできますが、飼い主さんにそこまで要求するのは厳しいかと思います。

低ナトリウム血症や高カリウム血症が重度になると、循環血液量の減少、腎前性高窒素血症、不整脈が起こって、アジソンクリーゼを来たします。重度のショック状態に陥いることを言います。症状は同じですが、程度が重く、瀕死状態になります。当然ながら、緊急治療が必要です。

診断

臨床病理検査
副腎皮質機能低下症に特徴的な所見は、電解質異常です。高カリウム血症、低ナトリウム・クロール血症が症状とともに認められれば、仮診断が可能です。ナトリウム/カリウム比を指標にしてもいいかも知れません。27以下が異常です。

電解質の変化だけでは確定診断できません。発病初期にグルココルチコイドのみの欠乏による副腎皮質機能不全や、非定型副腎皮質機能低下症、下垂体の機能不全による続発性の副腎皮質機能不全の場合、電解質は動きません。また、肝臓、消化器、泌尿器系の疾患では、電解質の変化が顕著に見られるので、鑑別が必要です。

副腎皮質機能低下症を診断する手掛かりは、低アルブミン血症、低コレステロール血症、低血糖、高窒素血症などがみられることです。腎不全との鑑別が非常に難しいので、要注意です。副腎皮質機能不全による高窒素血症は、腎血流量の減少と循環血液量の減少、低血圧によって起こる糸球体濾過量が低下して、二次的に生じるものです。その代償として、尿比重が上昇するため、尿比重によって腎前性と腎性が区別され、副腎皮質機能低下症と急性腎不全が鑑別されます。副腎皮質機能低下症での尿比重は、1.030以上になります。

しかしながら、副腎皮質機能低下症の犬・猫の多くは、尿濃縮能が障害されています。副腎皮質機能低下症では、アルドステロンの分泌が低下しますから、ナトリウムも水分も再吸収されず尿中に出てきてしまいます。そのため、尿比重が等張性(1.007~1.015)を示す症例があります。これが腎不全との鑑別を難しくしている原因でもあります。幸い、急性腎不全と副腎皮質機能低下症の初期治療は、ほとんど同じですので、輸液や支持療法を行いながら、内分泌検査で確定診断をしましょう。

心電図検査
高カリウム血症を生じるので、心電図に異常が認められます。徐脈やT波の増高、QRS群の延長、PR間隔の延長(房室ブロック)、さらには、STの上昇、完全房室ブロックや心室性不整脈などがみられ、心停止を起こすこともあります。心電図は、高カリウム血症の確認や重症度を判断する手段として有効です。

画像診断
重度の循環血液量が減少すると、胸部X線で、下行大動脈や後大静脈が細くなっている像がみられることがあります。併発する巨大食道症が見つかることもあります。腹部エコー検査で、小さな副腎が抽出されることがあって、その所見は副腎の萎縮を示唆します。

確定診断
副腎皮質機能低下症を強く疑う所見がみられたら、ACTH刺激試験を行って確定診断します。合成ACTHを、0.25mg/headで筋肉内投与して、1時間後の血清コルチゾル濃度を測定します。ACTH投与後のコルチゾル値が3.0μg/dL未満であれば、副腎皮質機能低下症と診断していいでしょう。

原発性と続発性副腎皮質機能低下症の鑑別基準

 原発性原発性非定型続発性
血清電解質

高カリウム血症
低ナトリウム血症
正常

正常

ACTH刺激試験
  投与後コルチゾル
  投与後アルドステロン

低値
低値

低値
正常

低値
正常
内因性ACTH高値高値低値

ACTH刺激試験だけからは、原発性副腎皮質機能低下症と下垂体不全による続発性副腎皮質機能低下症、ミトタンやトリロスタンの過剰投与による原発性副腎皮質破壊の鑑別はできません。電解質を測定して、その異常の有無と合わせて考えましょう。続発性の副腎皮質機能低下症と診断されれば、グルココルチコイドの補充療法のみが必要です。これらの鑑別は、定期的な電解質濃度の測定や内因性ACTHの測定、さらには、アルドステロン濃度の測定が診断の補助になることもあります。

治療

治療を積極的に行うかどうかは、症状の重篤度と副腎不全の原因によります。原発性副腎皮質機能低下症の犬や猫が来院するのは、多くが急性アジソンクリーゼを起こしている状態で運ばれてくるので、積極的な緊急治療が必要です。グルココルチコイド単独の欠乏による副腎皮質機能低下症では、慢性的な経過を辿ることが多く、治療よりも診断を下すことの方が困難です。

 アジソンクリーゼの治療

急性の原発性副腎機能不全(アジソンクリーゼ)の治療は、低血圧、循環血液量の減少、電解質の不均衡、代謝性アシドーシスの改善を行います。そのために輸液点滴を行い、血管系の状態を改善して、その後、ステロイドを迅速に投与します。

アジソンクリーゼの初期治療
輸液療法
  輸液;生理食塩水(ブドウ糖を5%になるように添加)
  輸液速度:40~80mL/kg
  カリウム添加は禁忌

グルココルチコイド療法
  デキサメタゾン 0.5~1mg/kg、iv
  経口プレドニゾロンが投与できるまで、0.05~0.1mg/kgをBIDで点滴静注

ミネラルコルチコイド療法
  ピバル酸デソキシコルチコステロン(DOCP) 2mg/kg、im・sc

副腎皮質機能低下症による血管の虚脱とショックは致死的です。循環血液量の減少を迅速に補正することが、最優先で最重要な治療になります。生理食塩水を点滴液として選択して、循環血液量の減少や低ナトリウム血症、低クロール血症を緩和させます。高カリウム血症は、輸液による希釈と、腎血流量の増加に伴って改善します。カリウムの添加は禁忌です。低血糖が疑われるか、既に認められるのであれば、ブドウ糖液を加えて5%ブドウ糖溶液に調製しましょう。

副腎皮質機能低下症の犬や猫は、軽度の代謝性アシドーシスを呈していることが多いのですが、輸液療法によって循環血流量が増加して、組織還流量と糸球体濾過率が改善することに伴って、自然に修正されます。ショック状態にあるなら、アシドーシスを補正するための重炭酸塩の投与を行うことも考慮に入れておいた方がいいと思います。

重炭酸ナトリウムを投与すると、代謝性アシドーシスが補正されると同時に、カリウム濃度も低下してきます。重炭酸ナトリウムによるカリウムイオンの細胞内移動と、生理食塩水による希釈、腎血流量の改善でカリウム濃度が低下し、それに伴ってECG上の異常は正常に戻ります。

グルココルチコイドとミネラルコルチコイド療法も必要です。グルココルチコイドはACTH刺激試験を行ってから投与する方がいいのですが、デキサメタゾンはコルチゾル濃度測定に影響を与えないので、結果を待たずに投与が可能です。デキサメタゾン(0.5~1mg/kg、iv)を投与して、安全に経口投与が可能になるまで、0.05~0.1mg/kgを輸液剤に混ぜて12時間ごとに点滴投与します。

ミネラルコルチコイド剤は、ピバル酸デソキシコルチコステロン(DOCP)を使用します。2mg/kgを、筋肉内投与します。通常は、1回の投与で効果が得られます。生理食塩水の点滴とDOCPの筋肉内投与で、副腎皮質機能低下症の症例のほとんどは、24時間以内に電解質異常が補正されます。副腎皮質機能の正常な犬にDOCPを投与しても、副作用はありません。

適切な治療によって、急性副腎機能不全の多くは、24~48時間以内に症状の劇的な改善が認められます。その後、2~4日かけて徐々に点滴を減量して、水分と食事を経口摂取させるようにしましょう。続いて、ミネラルコルチコイドとグルココルチコイドの維持療法を開始します。維持療法に順応できないと、電解質の不均衡の持続、グルココルチコイドの不足、内分泌疾患の併発、その他の合併症などを疑うことが必要になります。

 維持療法

原発性副腎皮質機能低下症の維持療法には、ミネラルコルチコイドとグルココルチコイドも必要です。投与するミネラルコルチコイドであるピバル酸デソキシコルチコステロン(DOCP)は、グルココルチコイド作用をほとんど持たないためです。

DOCPは、緩徐にホルモンが放出されます。開始量は、2mg/kgで筋肉内投与します。維持投与をするには、25日ごとの投与になりますが、1回目の投与12日後と25日後に電解質濃度を測定して、DOCPの用量を調節します。12日後に低ナトリウム血症や高カリウム血症が認められたら、次の投与量は10%増量して投与します。12日後の電解質が正常で、25日後の電解質が異常であったならば、投与間隔を23日間隔にしましょう。

DOCPの副作用は、多飲・多尿だけであり、DOCPの投与量を減量すれば改善します。併用して用いるグルココルチコイドは、プレドニゾロン(0.25mg/kg、1日2回)ですが、必要量は少なくて済みます。症状が改善して、電解質濃度も安定したら、DOCPの投与量を10%減量して、投与間隔を21日ごとにします。最終的には、電解質を正常範囲内に維持できるDOCPの投与量を見つけることが必要です。

グルココルチコイドは、初期には必ず投与が必要になります。プレドニゾロンを、開始量を0.25mg/kg、1日2回として、1~2ヶ月かけて、副腎皮質機能低下症の症状が起きない最低量まで漸減して、1日1回投与にします。最終的には、DOCPの投与をしている犬や猫では、ストレス下にある時以外は、プレドニゾロンの投与は必要でなくなります。飼い主には、あらかじめプレドニゾロンを処方しておいて、ストレスに曝されたときには、投与するように伝えておきましょう。

適切な治療を行っていても症状が続く場合は、ステロイドの補充が不十分であることが考えられます。副腎皮質機能低下症であった犬や猫が、健康でストレスがなければ、プレドニゾロン投与量は低用量で済みますが、ストレスや疾病が生じると、プレドニゾロンを0.25~0.5mg/kgで、1日2回の投与が必要になります。十分な量なプレドニゾロンを投与しないと、元気消失、食欲不振、嘔吐といった症状が続いたり、悪化したりします。ストレスや疾病の影響を抑制するプレドニゾロンの投与量はまちまちなので、必要最大量を投与して、数週間かけて漸減していくのが適切です。

予後

副腎皮質機能低下症の予後は、通常、非常に良好です。治療を左右する大きな因子は、飼い主の治療に対する取り組みです。飼い主が治療に積極的で、定期的な検査を行えば、副腎皮質機能低下症は寿命を全うできます。

 非定型副腎皮質機能低下症

副腎皮質機能低下症を示す犬や猫で、グルココルチコイド欠乏の症状はあるものの、電解質濃度が正常範囲の症例があります。このような、グルココルチコイドの欠乏はあるけれども、ミネラルコルチコイドの欠乏がない場合は、非定型副腎皮質機能低下症と呼んでいます。

グルココルチコイド欠乏が、原発性であるか、下垂体からのACTH分泌不全の可能性が考えられます。副腎原発の場合は、内因性ACTH濃度は増加していて、下垂体原発の場合は、低下しています。副腎原発でグルココルチコイド欠乏があって、ミネラルコルチコイド欠乏がないなら、通常の原発性副腎皮質機能低下症の初期で、束状帯の破壊が球状帯よりも進行していると考えられます。いずれ、ミネラルコルチコイドの欠乏と電解質異常が発生します。しかし、中にはミネラルコルチコイド欠乏に進行しない症例もあります。原因は、よくわかりません。

下垂体機能不全によるグルココルチコイド欠乏は、続発性副腎皮質機能低下症といいますが、下垂体や視床下部の破壊病変やグルココルチコイドの長期投与が原因として多いようです。ステロイドの長期投与で副腎萎縮が起こっていることもありますが、投薬を中止すれば、2~4週間以内に回復します。

グルココルチコイド欠乏性副腎皮質機能低下症は、慢性的で、不明確な消化器症状で見つかります。通常の血液検査や尿検査では異常がないので、みつかりません。診断には、ACTH刺激試験が必要です。治療は、グルココルチコイドの投与になります。

ステロイドの過剰投与による続発性副腎皮質機能低下症は、投与量の漸減と投与頻度を減らして、最終的に投与を中止しましょう。続発性副腎皮質機能低下症では、ミネラルコルチコイドの欠乏は起こりませんが、ミネラルコルチコイド欠乏に進行することがありますので、定期的な電解質の測定は欠かさず行いましょう。