役に立つ動物の病気の情報 | 獣医・獣医学・獣医内科学など

内分泌・代謝系の疾患/カリウム

Top / 内分泌・代謝系の疾患 / カリウム

電解質異常(カリウム)

高カリウム血症

一般的な基準では、血清カリウム濃度が5.5mEq/Lを超えると、高カリウム血症と判断します。高カリウム血症は、細胞内から細胞外へのカリウムの移動や尿中へのカリウム排泄障害などによって起こります。尿中へのカリウム排泄障害が比較的一般的に高カリウム血症の起こる原因ですが、腎不全や副腎皮質低下症で発現します。

 症状

軽度から中等度の高カリウム血症(K濃度で6.5mEq/L以下)では、無症状です。特徴的な所見は、骨格筋の衰弱で、高カリウム血症が増悪することで発現してきます。骨格筋の衰弱は、細胞膜静止電位が閾値の膜電位まで減少して、再分極やそれに引き続く細胞の興奮が障害されて出現します。そうなると、心筋細胞にも影響して、心筋の興奮性が減少して、心筋の不応期の延長や伝導遅延が生じます。血清カリウム濃度が極度に高くなると、致死的な心調律障害を来たします。

カリウム濃度の異常に関する心電図変化

高カリウム血症低カリウム血症
血清カリウム値:5.6~6.5mEq/L
  徐脈・T波の増高と先鋭化
血清カリウム値:6.6~7.5mEq/L
  R波振幅減少・QRS幅の延長
血清カリウム値:7.6~8.5mEq/L
  P波振幅減少・PR間隔の延長
血清カリウム値:>8.5mEq/L
  Pは消失・ST-segmentの上昇
  完全房室ブロック・心室性不整脈・心停止
T波 振幅減少
ST-segmentの低下
QT間隔の延長
上室性・心室性の不整脈





血中の電解質濃度の測定や心電図で、高カリウム血症の診断を行います。最もよく起こる原因は、医原性の高カリウム血症で、静脈輸液による過剰なカリウム投与です。他の原因では、腎不全、特に乏尿性や無尿性の腎不全によるもの、尿路閉塞によるもの、尿路系の破裂による尿腹、副腎皮質機能低下症が考えられます。ACTH刺激試験や、画像診断を行いましょう。

 治療

原因となっている基礎疾患を治療することが必要です。対症療法の開始は、カリウム濃度が7mEq/L以上となっている場合か、完全房室ブロックや心室性期外収縮がECGで認められた場合です。迅速な治療を始めるかどうか、が予後に関わってきます。対症療法の目的は、心毒性作用を除去して、可能であれば、血清カリウム濃度を正常値に維持することです。正常な排尿をしていて、カリウム濃度が7mEq/L以下の無症状の症例では、緊急の治療は必要ありませんが、基礎疾患をみつけて治療を始めましょう。

体液の欠乏を補って、体液平衡が正常化するように静脈輸液量を調整すると、腎血流とカリウム排泄の増加、血清カリウムの希釈が行われて、症状が改善していきます。輸液は、生理食塩水を使用します。

輸液にブドウ糖を添加(5%)して投与したり、50%ブドウ糖溶液を、1~2mL/kgで静脈内投与(bolus)することも可能です。ブドウ糖がインスリンの分泌を刺激して、グルコースとカリウムの細胞外から細胞内への移動を促進します。

心毒性を防止するため、補助的な治療が必要となることもあります。重炭酸ナトリウム(1~2mEq/kg、bolus)やインスリンの投与(0.1~1U/kg、iv)で、カリウムが細胞外から細胞内へ移動します。カルシウムを静脈内投与することで、カリウムの放出を防ぐことができますが、カリウムの濃度を下げるのではなく、心伝導を正常に保つために行う救命救急治療です。

低カリウム血症

一般的には、血清カリウム濃度が4mEq/L以下の場合、低カリウム血症と判断します。カリウムが細胞外から細胞内へ移動した場合、カリウムの尿中排泄や消化管への分泌が増加した場合に発生します。

 症状

軽度から中等度の低カリウム血症(K濃度3.0~4.0mEq/L)では、症状はありません。カリウム濃度の低下は、細胞膜が過分極して、その後、分極が生じにくくなるので、重度の低カリウム血症では、主として中枢神経系、心血管系の障害が認められます。

低カリウムの一般的な症状は、骨格筋の衰弱で、後肢が広がったりします。心臓には、心筋収縮性の低下、心拍出量の減少、心調律の異常などが生じます。代謝性の障害では、低カリウム血症性腎症があって、慢性尿細管性間質性腎炎、腎機能障害や高窒素血症が特徴的で、症状では、多飲・多尿、尿濃縮能の低下を呈します。低カリウム血症性多発性筋症は、クレアチニンキナーゼ活性の上昇と筋電図に異常が特徴的です。臨床的には、腹部膨満、食欲不振、嘔吐、便秘を呈する麻痺性腸閉塞があります。

 治療

血清カリウム濃度が3mEq/L以下になるか、低カリウム血症の症状が出ているか、カリウムの喪失がさらに進行しそうであると考えられる場合に、治療が必要です。糖尿病性ケトアシドーシスにおけるインスリン療法などは、低カリウム血症を起こすので、カリウムの補正を念頭において治療にあたりましょう。

治療では、高カリウム血症を起こすことなく、正常なカリウム濃度に回復させて、維持することが求められます。軽度であれば、バナナを経口的に投与しても構いませんが、嘔吐や食欲不振もあると考えられますので、一般的には静脈内投与を行います。

カリウム補正値

血清カリウム濃度
(mEq/L)
輸液1L当たりの
カリウム補充量
点滴流量速度
(mL/kg/h)
>3.5
3.0~3.5
2.5~3.0
2.0~2.5
<2.0
20mEq
30mEq
40mEq
60mEq
80mEq
25
16
12
8
6

塩化カリウムは、30mEq/L以下に希釈すれば皮下投与も可能ですが、静脈内投与の方が、投与量の管理がしやすいので、いいと思います。静脈内に投与する場合、0.5mEq/kg/時を超えないように、投与速度には注意して下さい。

治療中は、定期的にカリウム濃度を測定することが重要です。添加するカリウムの補正は、測定の都度行います。症状は、カリウム濃度を補正して、1~5日以内に改善してきます。