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内分泌・代謝系の疾患/カルシウム

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電解質異常(カルシウム)

高カルシウム血症

血清カルシウム濃度が、12mg/dL以上の場合に、高カルシウム血症と考えます。発生頻度は多くありません。持続性の高カルシウム血症は、骨や腎臓からのカルシウム再吸収や、消化管からのカルシウム吸収の亢進によって生じます。悪性体液性高カルシウム血症というのがあって、腫瘍が破骨細胞活性や腎臓でのカルシウム再吸収を促進する物質を産生した場合に生じます。関与する物資は、上皮小体ホルモン(PTH)、上皮小体ホルモン関連ペプチド、1,25-ジハイドロキシビタミンD、インターロイキン-1、腫瘍壊死因子のようなサイトカイン、プロスタグランジン、腎1αヒドロキシラーゼ刺激液性物質などがあります。腫瘍の骨転移によって、局所的な骨融解が生じて高カルシウム血症が発症することもあります。他では、糸球体濾過の減少によるカルシウム排泄障害、脱水による血漿量の減少でも起こります。

犬・猫で、高カルシウム血症の病因となる疾患は、リンパ腫による悪性体液性高カルシウム血症、副腎皮質機能低下症、慢性腎不全、ビタミンD過剰症、原発性上皮小体機能亢進症があります。

慢性腎不全で発現する高カルシウム血症の病態は複雑なようです。腎不全がPTHの分泌に影響を与えるようですが、自律的な上皮小体機能亢進、長期間に及ぶ腎性二次性上皮小体機能亢進症によるPTH分泌増加、腎尿細管細胞によるPTH排泄低下、PTHを介した腸管からのカルシウム吸収増加、PTHを媒介した骨再吸収の増加、腎臓からのカルシウム排泄低下、などが起こっているようです。

一方で、長期にわたる高カルシウム血症で、腎不全や高窒素血症が引き起こされることもあるようで、特に、血清リン酸濃度が正常値以上になっていると生じやすいようです。腎不全が原発性なのか、二次性なのか、を判断することは重要です。

 症状

カルシウム濃度の高値は、全身に影響しますが、特に注意すべきは、神経筋、胃・腸管、腎臓や心臓への影響が重要です。二次性腎性尿崩症、腎臓の異所性石灰化などは多飲・多尿を引き起こします。消化管平滑筋の興奮性減弱を伴う中枢神経系・末梢神経系の興奮性低下が、元気消失、食欲不振、便秘、衰弱を来たして、発作を起こすこともあります。心電図上、PR間隔の延長とQT間隔の短縮が認められて、重度の高カルシウム血症(18mg/dL以上)では、不整脈が生じることもあります。

カルシウム濃度の増加が軽度なら、症状はほとんど認められません。血液検査で、偶発的にみつかる程度です。カルシウム濃度は14mg/dL以下と考えられます。14mg/dL以上だと、症状が強くなって、18mg/dL以上の場合は、命に関わる所見(不整脈など)が出ることがあって、カルシウム尿結石が発現することもあります。

診断
高カルシウム血症の診断は、12時間の絶食を行って測定したカルシウム濃度で判断しましょう。その他の血液検査結果、尿検査の結果を含めて判断することが必要です。特に、腎機能の評価は慎重に評価しましょう。

副腎皮質機能低下症で起こる高カルシウム血症は、ミネラルコルチコイドの欠損とともに生じて、低ナトリウム血症・高カリウム血症・腎前性高窒素血症が併発します。悪性体液性高カルシウム血症や原発性上皮小体機能亢進症では、リン濃度が低値傾向を示します。リン濃度が増加していて、腎機能が正常ならは、ビタミンD過剰症や骨腫瘍による骨融解を疑います。

腎不全が原発性なのか、他の疾患で起こる高カルシウム血症による二次的なものなのか、を判断するためには、血清イオン化カルシウム濃度を測定することが診断の助けになります。腎不全であれば、血清イオン化カルシウム濃度は低下しており、他の疾患では増加しているはずです。

高カルシウム血症で、リン濃度が上がっていなければ、悪性体液性高カルシウム血症(リンパ腫が多い)や原発性上皮小体機能亢進症を、最初に鑑別します。上皮小体機能亢進症は、比較的症状は軽く、多くは健康です。全身症状を示すなら、リンパ節、腹腔、直腸などの触診で、腫瘤、腫脹、肝腫大・脾腫大、長骨の痛みなどがないかどうか、を確認しましょう。鑑別診断をするため、X線検査、エコー検査やPTH濃度の測定などが必要です。

種々の原因が除去されると、特発性高カルシウム血症と診断せざるを得ないのですが、病因が明らかではなく、これといった治療法がありません。食事を変更して、カルシウム濃度を上げない、リン濃度を上げない、腎臓用処方食に変更すること、ぐらいしかできることがありません。

 治療

基礎疾患を根治することが必要です。症状が重篤である場合、血清カルシウム濃度が16mg/dL以上の場合、高窒素血症が併発している場合は、中毒量以下に血清カルシウム濃度を低下させるために、支持療法を行います。水分補正、ナトリウムの利尿、利尿薬(フロセミド)の投与などを行います。

高カルシウム血症では多飲・多尿がありますが、飼い主が飲水を制限していると、腎前性高窒素血症が認められることがあります。その場合は、減少している体液の補充が完了するまで、利尿薬を投与してはいけません。

治療方針
・ 体液不足の補正
・ 生理食塩水による利尿 60~180mL/kg/日(iv)
・ フロセミド 2~4mg/kg(iv、po)1日2回
・ 診断確定後(リンパ腫など)
   プレドニゾロン 1~2mg/kg
・ カルシトニン 4~8IU/kg(sc)

支持療法が有効でないような重度の高カルシウム血症の改善には、カルシトニン(4~8IU/kg、sc、BID)の投与が有効です。破骨細胞活性を抑制します。カルシトニンの作用発現は速やかですが、作用時間は短時間で、耐性が生じやすいので、有用性は限られています。確定診断後は、プレドニゾロンに切り替えるなどの対処が必要です。カルシトニンによる副作用は、食欲不振と嘔吐です。

基礎疾患の回復度によっては、治療期間が長くなることもあります。その場合は、フロセミドや低カルシウム食などを用いて管理していくことが必要です。

低カルシウム血症

血清カルシウム濃度が、犬で9mg/dL以下、猫で8mg/dL以下になると、低カルシウム血症といえます。原因は、乳汁中のカルシウム不足(産褥テタニー)、骨や腎臓からの再吸収の減少、消化管からの吸収減少、エチレングリコール中毒や急性膵炎が考えられます。急性の高リン血症で、二次的に低カルシウム血症が起こることがあります。

 症状

カルシウム濃度が、7.5~9.0mg/dLなら、無症状です。7.5mg/dL以下なら、元気消失、食欲不振がみられて、その後、主に神経症状が認められます。低カルシウムでは、ニューロンの興奮性が亢進して神経過敏が起こって、微細な筋攣縮、歩様硬直、テタニーや発作があります。発作では、尿失禁や意識喪失を伴いません。

低カルシウム血症と診断したら、膵炎の検査、上皮小体機能低下症の可能性を調べておきましょう。治療には、基礎疾患の根治が必要です。

 治療

血清カルシウム濃度が7.5mg/dL以下なら、ビタミンDやカルシウムの投与を行います。テタニーがみられたら、10%グルコン酸カルシウム(0.5~1.5mL/kg)を効果が出るまでゆっくり静脈内投与します。グルコン酸カルシウムは、血管外に漏出しても影響はありません。

カルシウム投与中は、心電図をモニタリングして、徐脈やQT間隔の短縮が発現したら、一時的に静脈内投与を中止します。高リン血症を併発しているなら、腎臓の異所性石灰化の可能性が高くなるので、慎重に投与しましょう。

テタニー症状が消失したら、経口ビタミンD(カルシトリオール)やカルシウム(25mg/kg)を与えましょう。

低カルシウム血症の基礎疾患が既になく、低カルシウムが一過性のものであれば、グルコン酸カルシウムを皮下投与(3倍希釈)すれば、単回投与で改善します。

慢性的に低カルシウム血症を来たす疾患では、グルコン酸カルシウム(60~90mg/kg/日)を点滴投与します。10%グルコン酸カルシウムは、10mLでカルシウム93mgを含有しています。カルシウムは、生理食塩水に加えます。乳酸塩、酢酸塩、重炭酸イオン、リン酸塩にお触れると、カルシウムが沈着しますので、禁忌です。投与は、血清カルシウム濃度が8mg/dLを超えたら中止します。

上皮小体機能低下症や、甲状腺機能亢進症で両側性に甲状腺を切除して上皮小体が切除されてしまった場合は、長期的なカルシウムの維持療法が必要になります。ビタミンDの経口投与を行います。ビタミンDは、腸内のカルシウムとリンの吸収を亢進して、上皮小体ホルモンとともに骨からカルシウムとリンを遊離させます。カルシウムは、維持療法の初期段階で、ビタミンDと併用して経口投与します。

維持療法では、症状を抑えて、高カルシウム血症を防ぎつつ、残存している上皮小体を刺激するか、異所性上皮小体が機能するように刺激を与えて、カルシウム濃度を9~10mg/dLに維持します。頻回に電解質濃度を測定して、投与量を調節しましょう。ビタミンDの投与は、生涯必要となりますが、上皮小体が一部でも残っていれば、漸減して、中止することが可能です。