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内分泌・代謝系の疾患/ナトリウム

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電解質異常(ナトリウム)

高ナトリウム血症

血清ナトリウム濃度が、160mEq/Lを肥えると、高ナトリウム血症と考えます。水分の喪失が多くなると発現するのが一般的です。尿崩症のように、水分のみの喪失があって、電解質の喪失を伴わない場合や、消化管での水分喪失や腎不全による水分と塩分の喪失はあるが、水分の喪失の方が勝る場合とがあります。水分摂取の減少などの体液減少も、水分喪失状態にあたります。神経疾患による潜在性口渇や口渇機能異常、パソプレッシン分泌における浸透圧調節の異常などからも、高ナトリウム血症になります。

一般的ではありませんが、塩分過剰投与による医原性の高ナトリウム血症や、原発性高アルドステロン血症に起因するナトリウム保持作用で生じることもあります。原発性高アルドステロン血症は、アルドステロン分泌性の副腎腫瘍や特発性の両側性副腎過形成によって発現します。高ナトリウムとともに、低カリウム血症と全身性高血圧症を引き起こします。

 症状

高ナトリウム血症による症状は、血清中のナトリウム濃度が170mEq/Lを超えたぐらいで出てきます。まず中枢神経系に生じて、元気消退、衰弱、筋線維束攣縮、方向感覚の喪失、行動異常、運動失調、発作、昏迷、昏睡などが出ます。
神経細胞の脱水で生じます。体液は、細胞内から細胞外へと移動するためです。結果、脳が萎縮して、髄膜の血管が障害を受けて破裂して、出血、血腫、静脈血栓、脳梗塞、虚血が発生します。体内で脱水があっても、皮膚へは影響がないので、見た目は脱水状態とは見えません。

重症度は、ナトリウム濃度の増加と進行速度に関連します。通常は、170mEq/Lを超えない限り、症状は発現しませんが、進行が急速な場合は、170mEq/L以下でも症状が出てくることがあります。緩徐なナトリウム濃度の上昇では、高値になってから症状が出ます。

血液検査で高ナトリウム血症が確認されたら、基礎疾患を調べます。特に、尿比重の測定は有用です。高ナトリウム血症になると、バソプレシンの放出が刺激されて、高張尿になります。

高ナトリウム血症で、尿比重が1.008以下なら、中枢性もしくは腎性尿崩症です。尿比重が1.030以上なら、バソプレシン-尿細管系は正常で、ナトリウム保持の亢進、原発性の口渇感は低下していたり欠如していたり、消化管内や内在性の水分喪失が示唆されます。尿比重が、1.008~1.030なら、バソプレシンの分泌低下や、バソプレシンに対する尿細管反応性の低下が示唆されて、多くは原発性腎疾患に続発して起こるものです。

 治療

治療は、細胞外液量を正常に戻して、脱水を改善することを目指します。合併症に注意しながら、点滴を行って、基礎疾患を治療しますが、まずは、細胞外液量を正常に戻すことが重要です。

ナトリウムが増えると、カリウムが減少しているはずで、脱水に対する点滴には、カリウムを添加した生理食塩水を用います。急速な点滴の投与は禁忌です。点滴中に起こる神経症状や発作は、大脳に浮腫が起こっていると考えられるので、マンニトールでの補正が必要となります。細胞外液が希釈されて体液が急速に増量すると、細胞内への溶液の移動が生じて、脳浮腫が起こります。徐々に点滴を行うことで、脳細胞では蓄積した細胞内溶質を徐々に減少させて、浮腫を起こさずに細胞内外の浸透圧を平衡に保ちます。

カリウム補正値

血清カリウム濃度
(mEq/L)
輸液1L当たりの
カリウム補充量
点滴流量速度
(mL/kg/h)
>3.5
3.0~3.5
2.5~3.0
2.0~2.5
<2.0
20mEq
30mEq
40mEq
60mEq
80mEq
25
16
12
8
6

細胞外液を補正した後、ナトリウム濃度を測定して、高ナトリウム血症が続いている場合は、水分不足分を補正します。補正は、

   0.3×体重(kg)×[(測定Na値 - 140)/140]

の補正式で計算します。血液量が正常になって、水和されたら、維持点滴液として、生理食塩水にブドウ糖を2.5%添加して点滴を継続します。水分欠乏の補正は緩徐に行うことが必要で、24時間で欠乏量の50%程度を補って、残りは、48時間程度かけて補正するようにしましょう。血清ナトリウム濃度は、1mEq/L/時以下の割合で低下させるのがいいでしょう。血清ナトリウム濃度を徐々に低下させることによって、細胞外分画から細胞内分画への溶液の移動が最小限になり、神経細胞の膨張や脳浮腫、頭蓋内圧の上昇が防止できます。輸液治療開始後に、中枢神経症状が悪化したら、輸液速度を減少させましょう。

まれに、高ナトリウム血症の症例で、細胞外液量が増加していることがあります。そうなると、治療が困難です。細胞外液を増加させず、肺のうっ血や肺水腫を起こさず、血清ナトリウムを低下させなければなりません。治療には、ループ利尿薬(フロセミド)を用います。1~2mg/kgを、経口もしくは静脈内投与で、1日2回投与して、ナトリウムの尿中排泄を促します。

低ナトリウム血症

一般的に、血清ナトリウム濃度が140mEq/L未満になると、低ナトリウム血症と判断します。腎臓からの過剰なナトリウム排泄や水分保持の増加が原因となって生じます。水分保持は、細胞外液の減少に対する正常な反応としても起こりますが、抗利尿ホルモンの分泌によっても起こることがあります。低ナトリウム血症の多くは、ナトリウムの平衡異常よりも、腎臓からの水分排泄障害に起因する体液平衡異常によって発現します。

検査方法によっては、ナトリウム濃度の測定値が、みかけより低くなる場合があるので、認識しておきましょう。高脂血症や重度の高蛋白血症があって、血漿中のトリグリセリドや蛋白が上昇すると、総血漿ナトリウム濃度が低下します。

低ナトリウム血症は、細胞外液における浸透圧性活性溶質(グルコースやマンニトールなど)の上昇でも起こります。細胞外液内の浸透圧活性物質の上昇によって、細胞内液から細胞外液に液体が移動して、そのためナトリウム濃度が減少します。一般に、グルコース濃度が100mg/dL上昇すると、ナトリウム濃度は1.6mEq/L低下しますが、血糖値が500mg/dL以上になると、ナトリウム濃度の減少は、さらに顕著になります。

 症状

低ナトリウム血症でも、神経症状が厄介です。元気消失、食欲不振、嘔吐、衰弱、筋線維束攣縮、発作、昏睡などがみられます。重篤度は、ナトリウム濃度と低下する速度によります。慢性的な変化で、ナトリウム濃度の低下が緩やかであるほど、脳は、カリウムや他の細胞内分子を排出できるので、浸透圧変化を補うことができて、症状は緩やかです。

電解質濃度の測定で、低ナトリウム血症の診断は可能ですが、基礎疾患のために必要以上に低下していることもありますので、評価に考慮が必要です。

 治療

治療は、基礎疾患の改善をすることですが、必要に応じて、ナトリウム濃度と血漿浸透圧濃度を回復させます。体液の浸透圧濃度を補正することと、細胞外液のナトリウム濃度を上昇させて細胞容積を正常に戻すことを目指します。

治療は、静脈内輸液や水分制限を行います。細胞外液の浸透圧が上昇することで、細胞から水分が出て、細胞の容積が減少します。慢性で無症状の低ナトリウム血症では、保存療法がいいでしょう。

軽度の低ナトリウム血症(Na濃度135mEq/L以上)は、乳酸リンゲルかリンゲル液を、比較的重度で症状を示す低ナトリウム血症(Na濃度135mEq/L以下)は、生理食塩水を点滴液として用います。

電解質濃度をモニタリングしながら、24~48時間かけて、徐々に改善していきます。低ナトリウム血症が、急性で重度であればあるほど、ナトリウム濃度の補正は時間を掛けて行います。120mEq/L以下のナトリウム濃度や、神経症状が出ている犬や猫では、急速な上昇は危険です。6~8時間かけて、血清ナトリウム濃度を、125mEq/L以上にしていきましょう。

犬や猫が、浮腫を呈している場合は、ナトリウム制限食や利尿薬を使用します。