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内分泌・代謝系の疾患/多食・肥満・高脂血症

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多食・肥満・高脂血症

体重減少を伴う多食

体重減少を伴う多食症の病因

病因検査方法
不十分な栄養摂取食事内容の変更に対する反応
甲状腺機能亢進症T4、fT4値の測定
糖尿病血糖値、尿糖の測定
消化器疾患
  寄生虫
  浸潤性腸疾患
  ヒストプラズマ症
  リンパ管拡張症

糞便検査
腸生検
腸生検
腸生検
膵外分泌不全トリプシン様反応物質(TLI)測定
蛋白喪失性腎症尿検査、尿蛋白/クレアチニン比
視床下部腫瘤CT・MRI検査

体重減少を伴う多食の原因で多いのは、甲状腺機能亢進症、糖尿病、消化器疾患です。消化器疾患としては、寄生虫によるもの、膵外分泌不全、浸潤性腸疾患、リンパ管拡張症、腫瘍(リンパ腫)などが挙げられます。多飲・多尿は糖尿病の一般的な症状で、甲状腺腫大があれば甲状腺機能亢進症が疑われます。多量の糞便は、膵外分泌不全で認められますし、下痢や嘔吐がひどいけれども食欲があれば、食べても体重は減少するでしょう。腹部触診で、腸管の異常なループ形成や腸間膜リンパ節の腫脹が触知できることもあります。著間膜リンパ節の腫脹は、浸潤性疾患で認められますが、消化器型リンパ腫や好酸球性腸炎、ヒストプラズマ症でも起こります。

獣医さんが飼い主に対して確認すべきことは、食事の種類、食事量とそこから計算できる1日のカロリー摂取量、食事の給餌方法や回数、多頭飼いなら他の犬や猫との競争がないか、などです。1日のカロリー必要量は、年齢や1日の運動量など、種々の要因で変化します。1日のカロリー摂取量の計算は、安静時エネルギー要求量(RER)から計算します。RERは、70×(体重kgの3/4乗)kcalもしくは、30×体重kg+70 kcalで導きます。RERを元に、維持エネルギー要求量(MER)を算出します。MERは、避妊・去勢猫はRERの1.2倍、未処置の猫は1.4倍、避妊・去勢犬は1.6倍、未処置の犬は1.8倍で計算します。

診察で十分な所見が得られない場合には、血液検査や尿検査、サイロキシン濃度の測定、糞便検査などが必要です。血液検査で異常所見がない場合は、栄養失調が疑われます。栄養バランスが整った消化吸収の良い食事に変更して、適切なカロリーを摂取させましょう。適切な食事を与えてから、2~4週間後に体重を測定して、症状の改善と体重増加がみられれば、診断が正しかったと判断できます。体重増加が認められない場合は、飼い主が適切に食事を与えているか、不顕性疾患、消化管疾患があるか、などを検討する必要があります。

肥満

肥満は体脂肪の過剰な蓄積です。肥満は、いろいろな疾患の病因の一つで、原疾患を悪化させることがあります。関節炎や糖尿病、肝リピドーシス、猫の下部尿路疾患、避妊雌犬の尿失禁、便秘、皮膚病、循環器障害、呼吸器障害、麻酔や外科手術の危険性の増大などが起こります。寿命においても、削痩している犬の方が、肥満犬よりも長生きであるというデータがあります。

肥満の有害作用
寿命短縮
歩行障害 -関節疾患の悪化、椎間板疾患
呼吸障害
循環器障害と全身性高血圧
運動不耐性
炭水化物不耐性 -糖尿病
高脂血症
肝リピドーシス
膵炎
便秘
猫の下部尿路疾患
避妊雌犬の失禁
繁殖障害 -難産
皮膚障害 -脂漏症、膿皮症
外科手術や麻酔の危険性の増大


 肥満の要因

1日のエネルギー摂取量が、エネルギー消費量を超過し続けると肥満になります。多くの環境要因と社会的要因があります。生活が室内に制限されて毎日の運動量が減少したり、飼い主が過剰に食事を与えることが大きな原因です。

飼い主さんは、食欲のあることは健康な証拠と考えて食事を与えすぎたり、留守番の際に食事を与えたり、おやつをあげる、食事を欲しがる仕草に対して甘やかしてしまう、ということがあります。また、エネルギー要求量が変化しても、与える食事の量を調節する飼い主さんは、あまりおられません。夏と冬、成長期、老齢、避妊・去勢の有無、運動量でエネルギー要求量は変わってきます。

食事を変えたときに、そのフードがエネルギーが高い場合、それまでの食事量を与え続けると、エネルギー過多になってしまいます。また、動物の体にとって、少しのおやつが、カロリーの大きな過剰摂取になります。そして、一般論です(あくまで一般論です...)が、飼い主が肥満であれば、ペットも肥満である傾向があります。飼い主が、体重増加にあまり興味を示さないのでしょうか・・・

犬種によっては、遺伝的に、1日に極わずかなカロリーしか必要としない種類があります。肥満の危険性の高い犬種は、レトリバー、ダックスフンド、ビーグルなどです。去勢や避妊すると、肥満の危険性が高くなります。去勢や避妊をすると、ホルモンに変調が起こってエネルギー消費が低下します。

内分泌異常によっては肥満が認められますが、一般的に疾病や薬物による肥満は多くありません。内分泌異常では、甲状腺機能低下症、副腎皮質機能亢進症、高インスリン血症、先端巨大症などで肥満になります。ステロイド投与をしている場合、副作用で食欲が増進しますので、体重増加には気をつけましょう。

 診断

肥満の定義では、身体機能に最適な体脂肪以上の脂肪が沈着した病理的状態、ということなのですが、どの程度の脂肪が過剰な蓄積なのか、どの程度の脂肪が適量なのか、と言われると、大変難しいものがあります。獣医師によっても判断がことなるかと思います。一般的には、ボディコンディションスコアを使っています。

ボディコンディションスコア(BCS)

削痩(BCS 1/5)体重不足、体脂肪がみられない
体重低下(BCS 2/5)骨格がみえる、体脂肪はわずか
適度(BCS 3/5)

肋骨は容易に触診できるが視診はできない
体脂肪は中程度
過剰体重(BCS 4/5)

肋骨がかろうじて触診できる
体重は正常より重い
肥満(BCS 5/5)

肋骨が触診不可、体脂肪は相当量
過剰な体脂肪による身体障害がある


 治療(減量方法)

肥満、過剰体重と判断したら、まず、体重を測定して、BCSを決定し、食事の記録を厳密に調べて、1日のカロリー摂取量を計算しましょう。目標体重に向けて、じっくりと取り組む飼い主の姿勢が重要です。短期間での大幅な体重減少はあまり好ましくありません。目安は、2週間で現在の体重の2~3%の減量、1ヶ月で4~5%の減量目標程度でいいでしょう。

急な減量では、犬や猫が、突然、ごく少量の食事しか与えられず、余計におねだりやゴミ漁りが助長される場合もあります。また、急な減量では、脂肪組織よりも、無脂肪組織の減量が大きくなります。さらに、急な減量は、リバウンドが起こりやすいということもあります。1週間に2%以上の減量は、控えましょう。今与えている食事量の、80%を与えれば、1週間で1~2%以内の減量が可能です。

与える食事のカロリー量を決定するためには、正確な食事の記録を作ることが有効です。

  •  フードの銘柄
  •  1日に与える食事量
  •  給与方法(自由採食か、定時採食か)
  •  誰が食事を与えるか
  •  他に食事を与えそうな人がいるか(子供、老人)
  •  あやつや人の食事のおこぼれを摂取していないか
  •  多頭飼いの場合、他のペットの食事を食べていないか

などを調べていきましょう。正確な食事量がわからない時は、RERを基準にして、食事量を調節します。肥満の場合は、RERの80%を給餌量にすればいいでしょう。減量を開始したときは、頻繁に体重を測定して、それでも体重が増えるのか、変わらないのか、期待通りに減るのか、急激に減少するのか、を見極めます。

与えるフードに関しては、今までの食事を減らして与えるのか、減量用の処方食を与えるのか、という選択肢があります。減量用の処方食を用いるメリットは、見た目には、食事を減らしたようには見えないこと、犬や猫に満腹感を与えられることです。処方食を使わないのであれば、栄養バランスに優れた消化吸収のいいフードを、食事量を守って給餌してやることで、体重管理が可能です。

食事に関する問題を解決したら、給与方法を考えますが、減量のためには、定時採食がいいでしょう。給餌した時間帯に食べない場合は、食事を引き上げて構いません(犬の場合)。犬は、欲しければ、そのうちに食べます。そして、食事を与える人は、家族の中で1人に決めてください。他の家族が、軽率に、おやつなど不要なものをあげないようにするためです。おやつをどうしてもあげたいのであれば、カロリー計算をして、おやつのカロリー分、1日の食事量を減らして給餌しましょう。

飼い主が食事を作っている時間や食事中は、動物はケージ内で過ごすか、部屋に入れないようにすることが必要です。飼い主には、食事やおやつの量を記録してもらうことも、本気で減量させたいのであれば、効果的です。

猫の場合の食事管理は難しいのですが、猫は、1日のうち、4時間、食事時間を与えておいてやれば、1日の必要カロリーを食べることができます。多頭飼いの猫がいて、一方が太っていて、他方が痩せている、ということであれば、食事管理がうまくいっていない可能性は高く、太っている方が、痩せている猫の食事を食べていると考えていいでしょう。食事の一つを、高いところにおいて、太った猫が飛び上がれないところで痩せた猫の食事をさせる、というような工夫が必要です。

運動もある程度必要でしょう。猫には、レーザーポイントを使うとか、興味を示して遊ぶおもちゃを使って運動させましょう。犬は、20分以上の散歩が効果的です。

体重は、2週間ごとに計測しましょう。摂食の状態も、評価しておくことが必要です。目標は、1週間で1~2%以内の減量です。体重の減少が全くみられないのであれば、計画を見直しましょう。

犬や猫のダイエットは、飼い主が頑張るしかありません。モチベーションを高く保つことが必要ですので、日々、体重を計測して、減っていることを実感する、写真を撮っておいて、痩せ具合を実感する、など、意欲を引き出して頑張りましょう。

犬や猫が、理想体型に達したら、1日の摂取カロリーは理想体型を維持するための量に調節しましょう。定期的に、体重を測定することは忘れずに。

 予防

理想的なら、肥満の治療には努力を要するので、治療よりも予防に力を注いだ方がいいでしょう。飼い主さんには、肥満が引き起こす疾患について説明をしておくべきです。寿命まで短くなることには説得力があると思います。

避妊や去勢手術を受けた犬や猫は、エネルギー要求量が著しく減少しますので、術後は、カロリー管理を始めましょう。理想的な体型を維持するためには、食事量を守って、規則正しく食事と摂るようにします。少なくとも、年に1回、健康診断をしておくことをお奨めします。


高脂血症

血液中のトリグリセリドやコレステロール濃度が増加している状態が高脂血症です。10時間以上の絶食状態での高脂血症は、リポ蛋白の産生亢進か、消費低下による異常所見です。リポ蛋白は、不溶性のトリグリセリドとコレステロールを血液中で運搬する働きを持ちます。リポ蛋白の構造は、トリグリセリドとコレステロールエステルを中核に、周囲の表層はコレステロールとリン脂質、アポリポ蛋白で構成されています。アポリポ蛋白は、細胞表面のレセプターとの結合や酵素の活性化を担っています。

リポ蛋白は、カイロミクロン、超低密度リポ蛋白(VLDL)、低密度リポ蛋白(LDL)、高密度リポ蛋白(HDL)に分類されます。カイロミクロンは、トリグリセリドで構成されていて、HDLはトリグリセリドを含まず、所謂、善玉コレステロールと言われているものです。LDLは、悪玉コレステロールと言われてます。カイロミクロンとVLDLは、主にトリグリセリドの代謝を行って、LDLとHDLは、主にコレステロールの代謝を行います。人は、LDLの含量が優位ですが、犬・猫ではHDLが優位で、そのお陰で粥状動脈硬化症の進行には抵抗性があります。

病態
消化吸収されたコレステロールとトリグリセリドは、小腸内で取り込まれて、カイロミクロン粒子になります。カイロミクロン粒子は、腸間膜リンパに取り込まれて、胸管を経て、循環血中に入ります。カイロミクロンは、脂肪組織と筋肉組織を通過できるので、毛細血管内皮表面に存在する酵素であるリポ蛋白リパーゼに接触します。リポ蛋白リパーゼは、アポ蛋白C=Ⅱによって活性化された後、リポ蛋白の中核のトリグリセリドを、遊離脂肪酸とグリセリンに加水分解します。遊離脂肪酸は、脂肪組織内に拡散して、トリグリセリドに再合成されて脂肪として蓄積されるか、筋細胞などのエネルギーとして利用されます。

リポ蛋白リパーゼの活性は、ヘパリン、インスリン、グルカゴン、甲状腺ホルモンなどの影響を受けます。カイロミクロンの表面は、トリグリセリド成分の消失によって変化して、残余乳状脂粒になります。その脂粒は、肝臓の特異的なレセプターに認識されて、循環血中から除去されます。肝細胞内では、残余乳状脂流は分解されて利用されます。カイロミクロンは、脂肪を含んだ肉を食した30分から2時間後に血漿中に出現して、6~10時間以内には完全に加水分解されて消失します。

直接エネルギーに酸化されなかった過剰の遊離脂肪酸が、肝臓でトリグリセリドに変換されます。遊離脂肪酸は、残余乳状脂粒に存在する余剰の食物性トリグリセリド、食物性炭水化物の余剰部分からの二次的内因性産物、さらには、遊離脂肪酸の過剰な内因性動員から産生されます。遊離脂肪酸は、細胞内酵素のホルモン感受性リパーゼの活性によって、脂肪組織から遊離します。ホルモン感受性リパーゼは、貯蔵されているトリグリセリドを、遊離脂肪酸とグリセリンに加水分解します。ホルモン感受性リパーゼに対する刺激因子は、エピネフリン、ノルエピネフリン、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)、コルチコステロイド、成長ホルモン、甲状腺ホルモンです。

さらに、ホルモン感受性リパーゼは、インスリン低下によって活性化されます。これは、絶食期間中にエネルギーを供給し続けるための、正常な生理的な反応です。また、代謝に変調を来たしている病態では、不適切に活性化されることがあります。

肝細胞から産生されたトリグリセリドは、VLDL粒子に取り込まれて、血中に分泌されます。VLDL粒子は、肝臓から継続的に産生されて、絶食時にはトリグリセリドの運搬体になります。また、VLDL粒子は、肝臓からコレステロールを運び出すので、相当量のコレステロールを含んでいます。カイロミクロンの代謝と同様、内皮のリポ蛋白リパーゼは、VLDL粒子の一部からトリグリセリドを遊離脂肪酸とグリセリンに加水分解します。遊離脂肪酸は、酸化されてエネルギーになるか、トリグリセリドに還元されて貯蔵されます。

トリグリセリドの中核が取り除かれたVLDL粒子は、残余脂粒となって、肝臓で排泄されて、異化作用を受けます。その後、肝臓リパーゼが、残っているトリグリセリドを全て取り去って、残余VLDL粒子をLDL粒子に変換します。

LDL粒子は、コレステロールとリン脂質に富んで、コレステロールを組織に運搬する働きがあります。組織では、コレステロールは細胞膜合成とステロイドホルモンの産生に使われます。最終的に、LDL粒子は、LDLレセプターに結合して、肝臓で除去されます。VLDL粒子に加えて、肝臓では、HDL粒子も分泌されます。HDL粒子は活性化して、細胞と他のリポ蛋白から過剰かつエステル化していないコレステロールを一掃して、肝臓に戻して、胆管に排出します。これが、コレステロールの逆輸送です。

高トリグリセリド血症は、カイロミクロンの産生増加、すなわち脂質採食の過剰があるのにカイロミクロン粒子の排泄が増加しない場合と、VLDLの産生増加、すなわち脂質や炭水化物の摂食過剰、内因性の脂質の過剰な産生や動員があるのにVLDLの排泄が増加しない場合に、二次的に発生します。

高コレステロール血症は、LDLの前駆物質(VLDL)の産生増加、LDLやHDLの排泄低下の結果、生じます。

高脂血症の要因
食後にみられる高脂血症は、正常な生理現象で、トリグリセリドを多く含むカイロミクロンの産生によるものです。2~10時間以内に消失します。病的な高脂血症には、遺伝性、家族性のものや、疾病に続発して起こるものがあります。

原発性(遺伝性や家族性)の高トリグリセリド血症は、ミニチュア・シュナウザーの特発性高脂血症や、猫の高カイロミクロン血症があります。ミニチュア・シュナウザーの特発性高脂血症には高カイロミクロン血症の併発もあり、VLDL粒子過剰による重症の高トリグリセリド血症と軽症の高コレステロール血症があります。発症の原因はわかりません。

猫の家族性高脂血症は、VLDLの微増を伴う絶食性高カイロミクロン血症です。不活性型リボ蛋白リパーゼの産生による機能異常です。

特発性高脂血症に関連する疾患には、甲状腺機能低下症、糖尿病、副腎皮質機能亢進症、ネフローゼ症候群、膵炎があります。犬の高コレステロール血症は、甲状腺機能低下症が最も多い原因です。これは、脂質の分解と合成の低下に起因しますが、特に脂質分解の低下が重度です。リポ蛋白リパーゼ活性の低下は、高トリグリセリドリポ蛋白の排泄不全を引き起こして、甲状腺ホルモンの欠乏がコレステロールの胆管排泄も減少させます。肝臓内のコレステロール濃度が増加する結果、肝性LDLレセプターが抑制されて、循環血液中のコレステロールに富んだLDLとHDL粒子の濃度が増加します。

糖尿病によるインスリン欠乏では、リポ蛋白リパーゼの産生が減少して、トリグリセリドに富むリポ蛋白の排出が抑制されます。さらに、インスリン欠乏では、ホルモン感受性リパーゼが活性化して、血中内に大量の遊離脂肪酸が放出されます。これらの遊離脂肪酸は、結果的に、肝臓でトリグリセリドに変換されて、VLDL粒子に取り込まれて循環血液中に再分泌されます。糖尿病でみられる高トリグリセリド血症は、リポ蛋白リパーゼの減少とVLDL粒子の産生増加と排出減少の双方に起因するものです。

インスリン欠乏では、肝臓でのコレステロールの合成が増加します。肝臓内コレステロール濃度の増加は、肝細胞のLDLレセプターを抑制して、その結果、循環LDLとHDLの排出が減少して、高コレステロール血症が生じます。

副腎皮質機能亢進症に続発する高トリグリセリド血症の機序は、ホルモン感受性リパーゼ刺激して、循環血液中に遊離脂肪酸が放出されることによるものです。糖尿病の場合と同じで、過剰な遊離脂肪酸は、VLDL粒子に取り込まれます。さらに、グルココルチコイドによって、リポ蛋白リパーゼの活性が阻止されて、トリグリセリドに富むリポ蛋白の排出は減少します。

 症状

間欠的な嘔吐や下痢が、高トリグリセリドの主な症状です。重症の場合(1000mg/dL以上)は、膵炎、網膜脂血症、発作、皮膚黄色腫、末梢神経麻痺、行動異常などを伴います。皮膚黄色腫では、脂質が充満したマクロファージと泡沫細胞がみられます。猫の高トリグリセリドでよく認められる所見です。重症のコレステロール血症は、脂質性角膜環、網膜脂血症、粥状動脈硬化を伴います。

高トリグリセリド血症は、血液検査の結果に影響を及ぼします。ビリルビン、リン、ALP、血糖値、総蛋白などが上昇する傾向があって、クレアチニン、BUN、ALTなどは低値傾向を示します。高脂血症では、溶血を起こすことがあって、また、高ビリルビン血症でコレステロール値は低く評価されます。血漿に白濁がみられるときは、解釈に注意しましょう。検査機関では、超遠心で処理して脂質を分離除去してると思いますので、大丈夫と思います。

血漿が乳化している場合、トリグリセリド濃度は、1000mg/dL以上であると思われます。コレステロールが高値では、乳化血清は生じません。高脂血症を確認するには、12時間程度絶食した後の採血がいいでしょう。検査値の目安は、血清トリグリセリド濃度が、犬:50~150mg/dL、猫:20~110mg/dL、血清コレステロール濃度は、犬:125~300mg/dL、猫:95~130mg/dLです。

 治療

治療を開始する前は、高脂血症が原発性なのか、基礎疾患による続発性なのか、を判断するためにしっかり検査しましょう。基礎疾患による続発性高脂血症は、代謝障害を是正すれば改善します。最低限、血液検査、尿検査、サイロキシン濃度測定は必要です。初期検査の結果をみて、腹部エコー検査、ACTH刺激試験などが必要になります。

高脂血症の治療は、長期治療になるので、飼い主には十分な説明をして、治療を継続してもらえるようにしましょう。トリグリセリド値は、消化管や肝臓からのわずかな増加でも上昇して、分解作用機序が抑制されていると考えていいでしょう。膵炎などの合併症を予防するために治療して、少なくとも400gm/dL以下まで低下させます。

カイロミクロンは、食物性脂肪から産生されますので、食事による脂肪摂取を制限することが、治療の基本です。食事の記録を検討して、食事内の脂肪含量を可能な限り、低くしましょう。簡単な方法としては、低脂肪療法食を与えることです。普段からの予防的な処置として、ω3脂肪酸を多く含むフードを与えると、VLDL粒子の産生を抑えますし、魚油(EPA、DHAなど)はトリグリセリド合成酵素に反応する基質が少ないので、トリグリセリドの少ないVLDL粒子が形成されます。

高トリグリセリド血症の薬物療法は、毒性が強いので、トリグリセリド濃度がかなり高い状態(500mg/dL以上)で、食事で改善できないときのみ用いるようにします。ナイアシンやスタチンが使われます。

ナイアシン(100mg/日)は、脂肪細胞から放出される脂肪酸が減少して、VLDL粒子の産生低下によって血清トリグリセリド濃度を低下させます。しかし、嘔吐、下痢、皮膚の紅斑、瘙痒、肝機能異常などの副作用が頻発します。プロスタグランジン・プロスタサイクリンの放出に関連して起こります。

スタチン(10~20mg/日)は、ヒドロキシメチル-グルタリルコエンザイムA(HMG-CoA)還元酵素阻害薬で、コレステロールの合成を抑制します。細胞内コレステロール濃度が低下した結果、肝臓LDLレセプターが増加して、それによって循環血からのLDLの除去と排泄が促進されます。肝臓でのVLDL産生も減少させます。

高コレステロール血症は、基礎疾患に関連して起こることがほとんどです。異常を来たした代謝を制御すれば改善します。犬や猫では、HDLが多いので、
ほとんど健康には影響ありません。治療をするのは、余程の高値(800mg/dL以上)を長期間示して、粥状動脈硬化症に進行しかねない症例のみ、低脂肪食による食事療法を行います。可溶性の線維を食事に加えることで、腸管での胆汁酸再吸収が阻害されて、肝臓で胆汁酸の合成をするためにコレステロールを利用するので、血清コレステロール濃度は低下します。

食事療法で反応しない場合のみ、HMG-CoA還元酵素阻害剤(スタチン)を用いて治療しましょう。肝毒性の副作用があるので、肝疾患のある犬には投与しません。