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内分泌・代謝系の疾患/猫のクッシング

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猫の副腎皮質機能亢進症

猫はステロイドに対して強いので医原性の副腎皮質機能亢進症は少なく、猫の副腎皮質機能亢進症は、下垂体性と副腎性です。副腎腫瘍は、腺腫と腺癌があります。下垂体性の副腎皮質機能亢進症では、下垂体に微小腺腫、巨大腺腫、腺癌が認められます。

症状

発症するのは10歳齢以上の高齢猫で、糖尿病との間に強い相関があります。副腎皮質機能亢進症で多く認められる初期症状(多飲・多尿、多食)は、副腎皮質機能亢進症よりも糖尿病に起因する症状である可能性が高いかも知れません。全体的に症状は、犬に比べると軽度です。

特に、最初は副腎皮質機能亢進症の症状が軽度で、下垂体-副腎皮質の内分泌検査の結果が不明瞭なことが多くて、糖尿病の解釈も難しい状態です。時間の経過とともに、副腎皮質機能亢進症の症状が明らかとなって、積極的なインスリン療法にも関わらず、徐々に衰弱して、体重減少や悪液質が起こって。上皮や真皮の萎縮のために皮膚が非常に弱くなり、薄くなって、破れやすく、潰瘍になってしまいます。毛づくろいや、診察のときにも起こるほどです。皮膚の脆弱性や悪液質が現れたら、インスリン抵抗性はかなり重度になっていると考えられます。

診断

検査では、尿糖、高血糖、高コレステロール血症、ALTの軽度な上昇が認められます。併発する糖尿病をうまくコントロールできないために生じている変化です。猫では、ステロイド誘発性の肝障害で生じる肝臓の組織学的な変化がないこと、ステロイド誘導性のALPアイソザイム活性が存在しないこと、ALP活性の半減期が相対的に短いので、ALP活性の上昇は認められません。尿の異常も、猫ではほとんど認められません。

画像診断
猫でも、画像診断(腹部エコー検査)は有用です。健康な猫では。副腎の最大幅は0.5cm以下です。0.5cm以上の副腎が抽出されたら、副腎の腫大を疑います。副腎皮質機能亢進症を示唆する症状、臨床病理検査、内分泌検査の結果が副腎皮質機能亢進症を疑わせる猫で、副腎が簡単に抽出されて。両側性に主題していると、下垂体性副腎皮質機能亢進症の可能性が高いと考えます。下垂体の腫瘍の検出、副腎腫瘤の大きさや周囲の血管や組織への浸潤を評価するには、CTやMRI検査を行うことが有効です。

 下垂体-副腎皮質の内分泌検査

検査は犬と同じですが、検査方法と結果の解釈に、少し違いがあります。猫の副腎皮質機能亢進症を診断するときには、尿コルチゾル/クレアチニン比、デキサメタゾン抑制試験、腹部エコー検査が信頼性の高い検査です。猫は、ACTH刺激試験の感度は低いので、あまり行いません。下垂体性と副腎性の鑑別も、ACTH濃度を測定するより、腹部エコー検査を行った方が信頼性は上です。

全ての検査で異常値が認められればいいのですが、だいたい、偽陽性や偽陰性となります。尿コルチゾル/クレアチニン比とデキサメタゾン抑制試験が正常なら、副腎皮質機能亢進症の可能性は低いですが、それでも確定診断はせず、疑わしい場合も含めて、1~2ヶ月後に再評価を行いましょう。

尿コルチゾル/クレアチニン比
猫でも副腎皮質機能亢進症のスクリーニングには、尿コルチゾル/クレアチニン比で行うことが可能です。尿コルチゾル/クレアチニン比が正常なら、副腎皮質機能亢進症でない可能性は高く、検査値が上昇している場合は、デキサメタゾン抑制試験を行う根拠になります。

検査方法結果解釈
尿コルチゾル/
クレアチニン比
自宅で採尿

正常
増加
クッシング症候群ではない
他の検査を行う(クッシングかも...)

デキサメタゾン抑制試験
健康な猫では、デキサメタゾンによる血清コルチゾル濃度の抑制がみられないことがあって、投与8時間後にも高値が認められることがあります。低用量では、十分に抑制されないことが多く、猫の場合、デキサメタゾンの抑制試験は、0.1mg/kgを静脈内投与して、投与前、投与4時間後と8時間後の血清コルチゾル濃度を測定します。猫の場合、この検査では確定診断まで持っていけません。疑いが強まれば、腹部エコー検査を実施しましょう。

検査方法結果解釈
デキサメタゾン
抑制試験

デキサメタゾン0.1mg/kg、iv
コルチゾル測定(4hr&8hr後)

4時間後↓ 8時間後↓
4時間後↓ 8時間後↑
4時間後↑ 8時間後↑
正常
疑いあり
強く疑う

ACTH刺激試験
ACTH投与後の血清コルチゾルのTmaxは非常に早く、採血は30分後から測定しておいた方がいいと思います。コルチゾル濃度の正常値は、5~15μg/dLです。ACTH刺激後に15μg/dL以上のコルチゾル濃度があれば、副腎皮質機能亢進症が示唆されますが、感度は低いと思っておきましょう。

内因性ACTH濃度
猫のACTH濃度の正常値は、2~13pmol/Lです。検出限界以下になると、副腎腫瘍による副腎皮質機能亢進症が疑われて、10pmol/L以上になると、下垂体性副腎皮質機能亢進症が示唆されます。

治療

下垂体性副腎皮質機能亢進症の内科的治療は確立しておらず、治療が難しい疾患です。ミトタンやケトコナゾールで効果が得られないので、トリロスタンが治療の第一選択となります。

トリロスタンの初期用量は、1~2mg/kg、1日1回投与です。投与による症状の改善と、尿コルチゾル/クレアチニン比、電解質濃度を測定して、投与量と投与頻度の調整を行います。症状の改善がみられないなら、先ずは、投与回数を1日2回に増やして様子を見ましょう。

副腎腫瘍があれば、外科的な摘出が第一選択です。手術を行う前には、トリロスタンを4~6週間投与して、周術期の合併症の可能性を減らすこと、皮膚の脆弱性を是正して創傷治癒の改善などをします。両側性に副腎の摘出を行ったら、すぐに副腎皮質機能低下症の治療を開始します。

ピバル酸デソキシコルチコステロン(DOCP)の2mg/kgを、筋肉内か皮下投与で25日間隔で投与、もしくは、プレドニゾロンを1~2mg/kgで1日1回投与を行います。DOCPを投与したら、電解質濃度を25日後に測定して、投与量を調整しましょう。

副腎皮質機能亢進症が改善すると、糖尿病も改善しますので、多くの猫でインスリン投与が不要となったり、少ない用量で血糖値がコントロールできるようになります。

予後

副腎皮質機能亢進症の猫の予後には、十分に注意しましょう。治療をしないと、慢性の高コルチコイド血症やインスリン抵抗性の糖尿病による皮膚への悪影響、体重減少とそれに伴う重度の悪液質などで、数ヶ月で死亡します。

トリロスタンの有効性は明確ではありませんが、副腎摘出は功を奏する場合があります。術前管理も行い、手術による合併症にも細心の注意を払いつつ、副腎機能不全を管理をしっかり行えば、いい結果を得ることが可能です。電解質の定期的な評価も行ってください。