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内分泌・代謝系の疾患/甲状腺機能低下症

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甲状腺機能低下症

原発性甲状腺機能低下症の甲状腺は、ゆっくりと知らないうちに破壊されてしまい、甲状腺ホルモン濃度の低下や症状の発現も徐々にみられます。1~3年程度かかることがほとんどです。症状は、甲状腺の75%以上が障害を受けないと、発現しません。

二次性甲状腺機能低下症は、下垂体の発育不全や下垂体の機能異常による甲状腺刺激ホルモン(TSH)分泌不全と、それによって起こる二次性の甲状腺ホルモン合成・分泌不足によって生じます。TSHが不足して、甲状腺の濾胞は徐々に萎縮します。ホルモンやステロイドによる下垂体機能の抑制によっても生じます。

三次性甲状腺機能低下症も起こる可能性があります(犬での報告はないけど...)。これは、視床下部の視索上核と室傍核にあるペプチド作動性ニューロンの甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)の分泌不足で生じうる疾患です。TRHの欠乏は、TSHの分泌不足と甲状腺濾胞の萎縮を引き起こします。

先天性の原発性甲状腺機能低下症は稀ですが、食事性ヨウ素摂取不足、ホルモン合成異常(ヨウ素の有機化障害)、甲状腺発達不全などが原因になります。

症状

一般的に、中年齢の犬に発症します。好発犬種がありますが、性差はみられません。現れる症状は、年齢や犬種で多少異なってきます。脱毛が著しい場合や、被毛全体が薄くなる犬種があったり、といった具合です。

共通した症状は、細胞の代謝低下と犬の精神状態や、活動性の低下です。精神的に反応が鈍くなり、元気消失、運動不耐性がみられて、運動や散歩を嫌がります。食欲や実際の食事量が増えていないにも関わらず、体重は増加傾向を示します。

甲状腺機能低下症の犬にみられる主な症状

代謝性の変化元気消失・無気力・活動低下・体重増加
皮膚の変化

内分泌性脱毛(対称性・尻尾の脱毛)
脂漏症・皮膚炎・膿皮症
繁殖に及ぼす影響

発情間期の延長・発情の減弱、潜在化・発情出血の延長
異常な乳漏や雌性化乳房
神経骨格筋の異常

虚弱・ナックリング・運動失調・旋回
前庭症状・顔面神経麻痺・発作・咽頭麻痺
眼に及ぼす変化角膜への脂肪沈着・角膜潰瘍・ブドウ膜炎
心機能に及ぼす変化収縮率低下・徐脈・不整脈
消化管に及ぼす変化下痢・便秘
血液に及ぼす変化貧血・高脂血症・凝固障害

上記変化が徐々に進行して、徐々に症状として現れてくるので、飼い主がなかなか気付かないことがあります。主に感づく症状は皮膚症状で、その他では神経骨格筋系の症状です。

皮膚症状
皮膚と被毛の変化は、甲状腺機能低下症の犬で、最も目立つ異常です。よく見られるのは、両側対称性で、痒みを伴わない(非瘙痒性)脱毛で、頭部と先端部は侵されないのが特徴です。脱毛は、局所性、汎発性で、尾だけが脱毛(ラットテイル)することもありますが、磨耗や摩擦の多い部分から脱毛が始まることが通常です。痒みを伴わない内分泌性脱毛に加えて、元気消失や体重増加がみられてるが、多飲・多尿を示さない犬は、甲状腺機能低下症が最も疑いの強い疾患です。

脂漏症と膿皮症も多く認められます。甲状腺ホルモンが不足すると、液性免疫反応が抑制されて、T細胞の機能が低下して、血中のリンパ球数が減少します。脂漏症は、乾性脂漏も湿性脂漏もどちらもみられます。脂漏症や膿皮症は、瘙痒を伴うので、二次性に脂漏症や膿皮症を発症した甲状腺機能低下症の犬は、当初、痒みを伴う皮膚疾患で来院することがあります。

被毛がしばしば粗剛になって乾燥して、容易に脱毛してしまいます。毛が生えるのは遅くなって、角化亢進のため、落屑や鱗屑が生じます。色素沈着も認められます。慢性外耳炎を呈する犬もいます。

重症例では、ムコ多糖類が真皮に蓄積されて水分と結合するために、皮膚が肥厚します。この状態は、粘液水腫と呼ばれて、犬の額や顔面の皮膚が厚くなって、側頭部が丸くなって、顔の皺が腫脹して厚くなって、上眼瞼が下垂して、眠たそうな表情になります。

神経骨格筋症状
神経症状が主徴となる場合があります。脱髄や軸索障害によって、中枢性、末梢神経系に由来する症状が引き起こされます。中枢神経系に由来する症状では、神経周膜や神経内膜へのムコ多糖類の沈着、大脳の動脈硬化、一過性脳虚血や脳梗塞、重度な高脂血症に続発して発現するもので、発作、運動失調、旋回運動、虚弱、固有位置感覚や姿勢反応の消失などがあります。前庭障害による捻転斜頸や眼振、顔面麻痺を伴うこともあります。

末梢性神経障害には、顔面神経麻痺、虚弱、爪の背側の磨耗を伴うナックリング、跛行などが挙げられます。筋萎縮が認められることもありますが、筋肉痛はありません。

繁殖障害
雄犬への繁殖障害、繁殖能力に対する影響はありません。
雌犬では、発情間期の延長と発情周期の障害、発情が微弱になったり不顕性になったり、発情出血が長期化することなどが、あります。

眼・心機能・消化管・血液に及ぼす変化
稀ではありますが、眼、循環器系、消化器系や凝固系に異常がみられることもあります。これらの症状が出ているなら、他の一般的な甲状腺機能低下症の症状は既に呈しているはずです。心収縮力の低下が認められることがありますが、軽度で無徴候です。長時間の麻酔や輸液を必要とする手術で顕在化することがあります。凝固系には、第Ⅷ因子(フォンヴィレプランド因子)の抗原活性の低下が関与するかも知れないと言われていますが、出血性疾患があれば、考えましょう。

粘液水腫性昏睡
重度の甲状腺機能低下症でみられる、ごく稀な症状で、著しい虚弱、低体温、徐脈、意識レベルの低下から、昏迷・昏睡へ進行します。血液検査では、高脂血症、高コレステロール血症、非再生性貧血の典型的所見に加えて、低酸素血症、高ナトリウム血症、低血糖などの所見がみられます。甲状腺ホルモン濃度は、著しく低値になっており、TSHは上昇しています。

クレチン病
子犬の甲状腺機能低下症は、クレチン病といいます。発育不良と精神発達遅延が起こります。犬の体格は不均衡で、頭は幅広で大きくなって、舌は厚く突き出して、体幹は幅広でずんぐり、四肢は短いのが特徴です。精神的に鈍麻で、元気がありません。産毛が残って、脱毛、食欲不振、歯牙形成が遅れて、甲状腺腫なども認められます。

多腺性自己免疫症候群
リンパ球性甲状腺炎の発生機序には、自己免疫が関与していると思われますので、他の自己免疫性内分泌疾患を併発するかも知れません。考えられるのは、副腎皮質機能低下症、糖尿病、上皮小体機能低下症、リンパ球性精巣炎など、です。これらの疾患は個別に現れてきます。発症するたびに、対処していくしかありません。自己免疫に関与しますが、免疫抑制剤の使用は控えましょう。

臨床病理所見

血液検査で認められるのは、高コレステロール血症と高トリグリセリド血症です。高トリグリセリド血症は、中性脂肪が多いので、乳び血症として認められるものです。甲状腺機能低下症の症例では、コレステロール値が1000mg/dLを超えることもあります。これらの血液検査での所見と症状から、疑える疾患です。

貧血がみられるなら、軽度の正球性色素性非再生性貧血です。白血球数、血小板数は正常です。LDH、ALT、AST、ALPが軽度に上昇してることもありますが、特徴的な変化ではありません。軽度の高カルシウム血症もみられるかも知れません。尿検査は正常です。多尿や低張尿、尿路感染は、甲状腺機能低下症の症状ではありません。

皮膚病理所見
内分泌性脱毛を疑う場合は、原因を特定できないことが多いので、皮膚生検を行うことがよくあります。甲状腺機能低下症では、空胞化したり、肥厚した立毛筋、真皮の肥厚などが認められます。二次性の膿皮症があれば、炎症細胞の浸潤が認められます。

超音波検査
たいていの場合、甲状腺の大きさと体積が顕著に減少して、高エコー源性を示します。

甲状腺機能検査
血清中の甲状腺ホルモン濃度を測定します。3,5,3'5'-テトラヨードサイロニン(サイロキシン)ってのがあって、これをT4と言ってます。T4が甲状腺から分泌されるホルモンの多数を占めてて、残りは少量のT3(3,5,3'-トリヨードサイロニン)と、微量のrT3(3,3',5'-トリヨードサイロニン)です。

血中のT4の99%以上は、血漿蛋白に結合して、これは血漿遊離サイロキシン(fT4)の濃度を一定に保つための緩衝作用を持っています。蛋白と結合していない遊離T4が、生理活性を持っていて、下垂体のTSH分泌に対して、負のフィードバックをかけて、体細胞壁を通過できます。細胞内では、fT4が、脱ヨードかされてT3やrT3になります。組織の代謝要求量に左右されて、T3になったりrT3に変換されたりしますが、通常状態ではT3が優先的に産生されて、生理活性もT3だけが持っています。

全てのT4は、甲状腺由来の物質ですので、血清T4とfT4濃度、TSH濃度の測定を持って、甲状腺機能の検査を行います。検査機関で簡単に測ってくれます。まとめて測定できるので、ケチらず、全部測定してもらいましょう。

  •  血清T4濃度
    •  循環血液中の、蛋白結合T4と遊離T4の総和です。甲状腺機能低下症なら、血清T4濃度は低くなっているはずです。非甲状腺疾患や投薬によっても濃度に影響を受けるので、判断は難しいですけど、0.8μg/dLを下回るようだと、疑いが強くなります。1.5μg/dLを上回れば、正常です。その間の値のときは、悩みましょう。
  •  血清fT4濃度
    •  遊離T4は、循環血液中のT4のうち、非蛋白結合体で、循環しているT4の1%未満です。T4濃度だけでは判断がつかない場合に、fT4の計測値とともに評価していきます。血清fT4が1.5ng/dL以上なら正常、0.6ng/dL以下なら、強く疑っていいかと思います。間の数値なら、悩みます。
  •  血清TSH濃度
    •  TSHの濃度を測定すれば、下垂体と甲状腺との相互作用を推察できます。単独の計測値では評価せず、T4、fT4の結果と一緒に考察しましょう。甲状腺機能低下症の犬では、TSH濃度が上昇しているはずです。血清TSH濃度が、0.6ng/mL以上であれば、甲状腺機能低下症の可能性があります。

甲状腺機能検査に影響する因子
さまざまな要因が甲状腺ホルモンや内因性TSHに影響を与えるので、正常な甲状腺でも、異常値が測定されてしまうことがあります。検査値だけを信じるのではなく、必ず症状と合わせて判断していきましょう。特に、甲状腺が正常な犬で、甲状腺ホルモン値を低下させる要因には、euthyroid sick syndrome、薬剤性、犬種特異性などを考慮しておく必要があります。

euthyroid sick syndrome
甲状腺が正常な犬で、併発疾患で、血清中甲状腺ホルモン濃度が低下する現象を、euthyroid sick syndromeといいます。血清中甲状腺ホルモン濃度の低下は、視床下部や下垂体の抑制によるTSH分泌低下、T4合成の低下、血漿中の結合蛋白の量や親和性の低下、T4からT3への脱ヨード化の障害などで起こります。血清T4やfT4の低下は、細胞の代謝を低下させるための、生理的な適応です。甲状腺自体は正常な状態です。

色々な疾患の重症度や代謝変動で、T4、fT4、TSHの濃度が変化します。診断は、甲状腺機能低下症を除外することで行います。基礎疾患をしっかり見つけて、適切に治療すれば、血清中甲状腺ホルモン濃度は正常に戻ります。チラージンを投与しては、いけません。

薬剤性
どんな薬剤でも、甲状腺ホルモン検査に影響を与える可能性があることを認識しておきましょう。病歴、症状、検査結果が甲状腺機能低下症と似ていると、余計に注意が必要です。

  •  ステロイド
    •  血清T4とfT4濃度を低下させます。
    •  血清甲状腺ホルモン抑制の程度と期間は、用量、投与期間、ステロイドの強さに比例します。元の数値に戻るには、休薬後、4~8週間程度、必要です。
    •  ステロイドの投与が、甲状腺機能低下症の症状につながることはありません。自己免疫性疾患の犬などの治療で、高用量ステロイドを長期間投与していたら、ステロイド誘発性の二次性甲状腺機能低下症が発現して、チラージンを服用する必要が出てくることがあります。
  •  フェノバルビタール
    •  治療用量のフェノバルビタールは、血清T4とfT4濃度を、甲状腺機能低下症の域まで低下させます。それに伴うTHS濃度の上昇がみられますが、投薬を止めれば、TSHはすぐに基準内の数値に戻ります。T4とfT4濃度が治療前の数値に戻るには、1ヶ月程度必要です。
    •  フェノバルビタールを用いたくないなら、臭化カリウムを用いるといいかと。T4、fT4、TSHに影響しません。
  •  サルファ剤
    •  サルファ剤も、T4とfT4の低値とTSHの高値をもたらします。投与1主幹程度でT4・fT4濃度が低下して、2~3週間でTSG濃度が基準値を超えることがあります。長期投与するときは、注意しましょう。
    •  投与を止めれば、1~2週間程度で治まります。

犬種による差
グレーハウンドやシベリアンハスキーなどは、血清T4とfT4が低く、TSHは高いということが知られています。T4やfT4の値は、一般の検査標準値を下回ることもあるので、注意しましょう。0.4μg/dLや0.4ng/dLでも、正常値だったりします。


治療

治療を行っていく上では、しっかりとした診断が必要になりますが、甲状腺機能検査を実施する前に、必ず、手順を追って、診察していきましょう。症状が甲状腺機能亢進症に特徴的であること、一般的な血液検査で特徴的な所見を認めること、それらを確認してから、T4・fT4・TSH濃度を全て確認して確定診断していくことが重要です。それでも診断が難解なことがあるのですが、疑いが強まったら、チラージンの試験的な投与を行ってもいいと思います。

治療に反応すれば、甲状腺機能低下症か、甲状腺ホルモンに反応する疾患、です。治療効果を認めたら、甲状腺ホルモンを漸減しますが、症状が再発すれば、甲状腺機能低下症です。投薬を止めても症状が再発しないなら、甲状腺ホルモン反応性の疾患であったと考えましょう。それを確実に判断するには、投薬中止後、2ヵ月後を目処にT4値、fT4値を測定してみましょう。これは、甲状腺ホルモン治療を行っている犬が、本当に甲状腺機能低下症どうか、を判断する方法でもあります。先天性の甲状腺機能低下症の子犬の判断も同様です。

レボチロキシンナトリウム(合成T4)による治療
合成レボチロキシン(チラージン)は、甲状腺機能低下症の第1選択薬です。経口投与で血清T4、T3、TSH値が正常になります。末梢組織で、代謝活性の高いT3に変換されることが示されています。

初期投与量は、0.02mg/kgで、初期最大投与量は0.8mgまでです。通常、1日1回投与です。吸収と代謝に個体差があるので、臨床症状の改善が認められるよう投与量や投与間隔を調節していきます。

治療に対する反応
治療の効果を判断するためには、チラージンの投与は少なくとも4週間継続した後に行います。適切な治療を行えば、症状や血液検査所見が全て改善します。精神面、敏捷性、活動性の改善は、治療開始1週間程度で認められます。改善が認められないと、甲状腺機能低下症の診断が正しくなかったかも、ということを考えなくてはなりません。

内分泌性脱毛は、1ヶ月程に被毛の再生が始まります。被毛が完全に再生して、色素沈着が消失するには、数ヶ月かかります。治療初期は、発毛休止期の毛が大量に抜けるので、症状が悪化したように見受けられるので、飼い主への説明を明確に行いましょう。

神経症状は、治療開始から数日で改善します。但し、完全に改善するには、半年程度の期間を要すると思われます。

治療に反応しない場合
治療を始めて2ヶ月経っても、症状の改善が認められない場合は、診断を疑いましょう。甲状腺機能亢進症ではない、可能性があります。副腎皮質機能亢進症で多飲・多尿を示さないだけ、かも知れません。コルチゾルが、血清中の甲状腺ホルモンを抑制します。併発疾患として、アレルギー性皮膚炎、ノミ過敏症がよくあるのですが、それらを見落としていると、治療の反応性が思わしくない場合があります。

その他、飼い主による投薬がうまくいっていない、投与量が不十分、薬剤の吸収不良などの原因が考えられます。チラージンにあまり反応しないときは、常に治療に至った経緯を厳密に再評価して、投与後の甲状腺ホルモン濃度を測定しましょう。甲状腺機能低下症であれば、チラージンは効果的です。

経過観察
チラージンに対する症状の反応性、投与前と投与後のT4、TSHの測定を行います。投与後の検査ポイントは、投与開始4週間後と、甲状腺中毒が発現した時点です。治療に対する反応が乏しいために、チラージンの投与量を変更した場合も、その4週間後に測定します。

測定ポイントは、チラージン投与4~6時間後です。その際の血清T4濃度は、1.5~4.5μg/dLの範囲内が理想的です。T4濃度が6μg/dLを超えるようだと、チラージンの投与量を減量します。T4濃度が1.5μg/dL以下だと、甲状腺機能低下症を疑う症状が残っていたり、TSH値が高値を示しているようなら、チラージンの投与量を増やしたり、投与回数を増やしたりします。治療に対する反応がいいようなら、そのままで構いません。

甲状腺中毒
チラージンが過剰投与されたら、甲状腺中毒になります。代謝の遅い犬でよく起こりますが、稀に、低用量のチラージンに感受性の強い個体もいます。理由はわかりません。

甲状腺中毒の症状は、呼吸促迫、神経過敏、攻撃性、多飲・多尿、多食、体重減少などです。疑いがあれば、甲状腺ホルモンの測定をしますが、T4・fT4が高値で、TSHが検出限界未満であれば、甲状腺中毒と判断していいかと。但し、ときおり、T4・fT4値が基準内の犬もいますので、注意しましょう。

対処方法は、投与量や投与回数の変更です。症状が重篤であれば、数日間、休薬させましょう。甲状腺中毒の原因が、投薬によるもので、適切に治療が変更されれば、症状は2~3日で治まります。

 予後

成犬の甲状腺機能低下症で、適切な治療を受ければ、予後良好です。子犬の場合(クレチン病)は、注意しましょう。治療を開始した時点での、骨や関節の異常の程度によります。変性性の骨関節炎が、発育異常で発現することがあります。

下垂体の先天性奇形による二次性甲状腺機能低下症は、予後不良です。この疾患は、生後すぐに異常がでるためです。投薬で下垂体機能が抑制されて生じる後天性二次性甲状腺機能低下症は、予後良好ですが、ステロイドの投薬などが回避できないのであれば、チラージンを併用して服用する必要があります。脳腫瘍による下垂体の破壊で生じる後天性二次性甲状腺機能低下症は、予後不良です。


 猫の甲状腺機能低下症

猫の甲状腺機能低下症の原因は、医原性のものが一般的です。甲状腺の摘出によるもの、抗甲状腺薬の過剰投与によるもの、がほとんどです。自然発生の原発性甲状腺機能低下症は稀です。先天性のものは、ヨウ素の有機化障害などの甲状腺ホルモン合障害、甲状腺形成不全が原因として知られています。

症状
元気消失、食欲不振、肥満、脂漏症が一般的です。その他の皮膚病変として、乾燥した粗剛なぼさぼさの被毛、抜けやすくて再生性の乏しい被毛、脱毛などです。診察において、徐脈や軽度の低体温が認められることがあります。

先天性の甲状腺機能低下症の症状は、犬と同様です。生まれた頃は正常ですが、8週齢ごろには、成長の遅れが目立ちます。数ヶ月後には、頭部の拡大、短くて太い頸部、短い四肢を伴う不均衡性矮小症がみられます。元気消失、精神的鈍麻、便秘、低体温、徐脈、永久歯の発育遅延などが、主な症状です。被毛はほとんど産毛です。

診断
診断も犬の場合と同様です。疑いを持てば、血液検査、尿検査と、T4・fT4・TSHを測定しましょう。血液検査では、高コレステロール血症と軽度の非再生性貧血が認められます。確定診断には、チラージンの試験治療への反応性をみます。これも犬と同じです。

治療
治療も犬と同じです。チラージンを投与します。投与開始量は、0.05~0,1mg/回(SIDかBIDで)です。4週間は投与を継続して、経過観察後、T4値を測定して評価しましょう。治療目標は、症状の改善と、甲状腺機能亢進症の症状を予防することです。なので、血清T4値が、1.0~2.5μg/dLの範囲に維持できるように、チラージンの投薬量と投与回数を調節します。猫は、甲状腺機能亢進症になりやすいので、注意が必要です。

チラージン投与開始4~8週後に、T4値が基準範囲内にありながら、症状の改善が乏しいなら、診断をやり直しです。

予後
治療を適切に行えば、予後良好です。先天性甲状腺機能低下症の子猫の予後は、要注意です。治療開始時点での骨格異常の重症度次第です。多くは治療に反応して改善してくれるのですが、骨や関節の発達異常のために、筋骨格系の異常が持続したり、新たに発生したりしてしまいます。