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内分泌・代謝系の疾患/腫瘍と腫瘤

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内分泌に関する副腎の腫瘍・腫瘤

主な副腎腫瘍

 分泌ホルモン症状
非機能性副腎腫瘍なしなし
副腎皮質腫瘍





コルチゾル
アルドステロン
プロジェステロン
ステロイドホルモン前躯体
  17-OH プロジェステロン
  デオキシコルチコステロン
副腎皮質機能亢進症
アルドステロン症
副腎皮質機能亢進症と同様

副腎皮質機能亢進症と同様
アルドステロン症と同様
副腎髄質腫瘍エピネフリン褐色細胞腫

褐色脂肪腫

 褐色細胞腫は副腎髄質や傍神経節のクロム親和性細胞を起源とする腫瘍で、カテコラミンを産生します。犬の褐色細胞腫は半数程度が良性、残りが悪性と考えられていますが、悪性腫瘍と思っておいた方がいいと思われます。副腎付近にある腹腔静脈や後大静脈の内腔へ浸潤したり、巻き込んで圧迫することが多く、また、肝臓、肺、付属リンパ節、骨、中枢神経への遠隔転移も起こります。

 症状

高齢の犬や猫での発生が多いのですが、半数程度は症状を現さないことがあります。症状は、腫瘍が転移病変が体腔内で大きくなったり、カテコールアミンの過剰分泌が起こった結果で生じます。認められる症状は、全身虚脱や発作的虚脱です。それに付随して、呼吸器系・循環器系、骨格系の異常がみられて、過剰なパンティング、頻呼吸、頻脈、筋肉萎縮などがあります。

カテコールアミンの過剰分泌は、全身性高血圧、高血圧による鼻出血、網膜出血、網膜剥離などを引き起こします。カテコールアミンの分泌は散発的なので、症状が出たり出なかったりすることにもなり、出るときは発作的な症状にもなります。急性に大量のカテコールアミンが持続的に腫瘍から分泌されると、突然死の原因にもなります。

 診断

腹部エコー検査で偶然見つかる副腎腫瘤、偶然わかった全身性高血圧などがあれば、褐色細胞腫を疑っておきましょう。血液検査や尿検査では目立った所見はみられません。

腹部エコー検査で副腎の腫瘤がみられたら、褐色細胞腫も鑑別診断の一つに挙げられるわけですが、副腎皮質機能亢進症でも、パンティングや虚脱といった褐色細胞腫でみられる症状と似た症状を呈するので、副腎に腫瘤がある場合で、副腎皮質機能亢進症が除外されたら、褐色細胞腫ではないか、と考えていくのが手順です。

 治療

過剰なアドレナリン刺激に対する薬物療法を行ってから、腫瘍を外科的に摘出することが褐色細胞腫の治療法です。ミトタンは、副腎髄質から発生した腫瘍の治療に効果がありません。長期の薬物療法は、過剰なカテコールアミン分泌を抑制するのが目的です。

周術期の合併症が、特に麻酔導入期や手術で腫瘍を除去しているときに起こりやすく、致死的です。最も注意するのは、収縮期圧が300mmHgを超える急性で重篤な高血圧です。その他、重度の頻脈(250回/分以上)、不整脈、大出血があります。術前には、αアドレナリン遮断薬を投与して、高血圧による重篤な症状や循環血液量の減少を防いで、円滑な麻酔導入を心掛けましょう。

フェノキシベンザミンが第一選択のαアドレナリン遮断薬です。術前に、初期用量0.5mg/kg、1日2回投与で開始します。褐色細胞腫による高血圧は、容易にコントロールできないので、手術時の高血圧を抑制するために、低血圧症状(元気消失、失神)や副作用による嘔吐が見られる用量まで漸増するか、2.5mg/kg、1日2回投与に達するまで数日毎にフェノキシベンザミンの投与量を徐々に増加します。手術前1~2週間で行います。手術中に、フェントラミンを投与することも効果的です。それでも合併症が起こる可能性があるので、術中の十分なモニタリングが必要です。

重度の頻脈がみられた場合、βアドレナリン遮断薬を投与します。プロプラノロール(0.2~1mg/kg、BID)か、アテノロール(0.2~1mg/kg、SID)を投与しましょう。

長期の薬物治療は、過剰なカテコールアミンの分泌抑制が目的です。フェノキシベンザミン(0.5mg/kg、BID、経口)を高血圧による症状改善のために投与して、頻脈や不整脈を治療するためには、プロプラノロールやアテノロールを適宜、投与します。β受容体の遮断による骨格筋の血管拡張が、高血圧を引き起こすことがあるので、βアドレナリン遮断薬は、αアドレナリン遮断薬を投与してから投与するようにしましょう。

 予後

予後は、副腎腫瘤の大きさ・悪性度、周囲の血管や組織への浸潤、遠隔転移、手術を行うならば、合併症の有無によって左右されます。大血管に浸
潤すると数カ月以内に死亡します。遠隔転移は肺、肝臓、脾臓、腎臓、骨、心臓、膵臓、リンパ節で報告されています。

血管への浸潤がなく、腫瘍も小さく、カテコールアミンの過剰分泌に対してαアドレナリン遮断薬が効果的なら、1年以上は生存可能です。手術で腫瘍が切除できれば、予後は比較的良好で、完全に摘出できれば寿命を全うできます。


偶発的な腫瘤

腹部エコー検査が日常的に使用できるようになったことで、副腎の腫瘤が偶然見つかる機会が増えました。それらをどの程度積極的に治療するかは、状態によります。

腹部エコー検査をしたそもそもの理由、犬や猫の年齢、腫瘤からのホルモン分泌の可能性、腫瘤が悪性の可能性が高いのか良性の可能性が高いのか、腫瘤の大きさと浸潤性、飼い主の希望などが考慮されます。

腫瘤が必ずしも腫瘍であるとは限りませんし、ホルモンを産生・分泌しているかもわかりません。正常組織であることもありますし、肉芽腫、嚢胞、出血性結節、炎症性結節のこともあります。腫瘤が腫瘍か否か、良性か悪性かを判断するのは難しいですが、一般的に、大きな腫瘤、周囲の血管や組織への浸潤性がみられると悪性腫瘍の可能性が高くなります。悪性腫瘍なら、副腎を外科的に摘出する治療が第一選択です。

副腎の腫瘍は、非機能性であれば、ホルモンを分泌することもないですし、症状もありません。機能性の腫瘍であれば、コルチゾル、アルドステロン、プロジェステロン、ステロイドホルモン前躯体、カテコールアミン(エピネフリン)などを過剰に分泌します。

よく起こるのは、コルチゾル(副腎皮質機能亢進症)とカテコラミン(褐色細胞腫)の分泌過剰です。アルドステロンの過剰分泌は、ナトリウムの保持とカリウムの喪失に働きます。高ナトリウム血症は、全身性の高血圧、低カリウム血症は、元気消失や虚弱状態を引き起こします。プロジェステロン分泌性の腫瘍は、犬よりも猫の方が多く、糖尿病や皮膚脆弱性症候群が発生します。上皮や真皮が進行性に萎縮して、斑状の内分泌性脱毛、皮膚が簡単に裂けてしまう症状がみられます。

副腎腫瘍を偶発的に発見してしまったら、血液検査、尿検査を見直して、副腎皮質機能亢進症、アルドステロン血症、褐色細胞腫の所見の有無を確認して、確定診断に必要な検査を順次実施しましょう。手術をするなら、それぞれの疾患に対して然るべき周術期の準備を行います。特に、手術中の高血圧や不整脈の発生は致死的な場合がありますので、細心の注意を払うべきです。

腫瘤が小さい場合(2cm以下)で、犬や猫も健康体であり、副腎機能の不全が確認されないのであれば、積極的な診断検査や治療は行わない方がいいでしょう。そのような症例は、2ヶ月ごとに繰り返し腹部エコー検査を行って、腫瘤の成長経過を観察します。大きくならないなら、少しずつ期間を開けて、エコー検査を行います。腫瘤が大きくなったり、症状が発現するなら、治療をしましょう。