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呼吸器系の疾患/呼吸困難・救急治療

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呼吸困難

呼吸困難が認められる動物に対しては、ストレスの軽減、ケージレスト(安静)、涼しい場所の確保、酸素の補給を先ずは行いましょう。多くの場合、状態は好転します。ケージ内での安静は極めて重要です。

呼吸困難



急性呼吸困難を呈すると、閉塞に続いて起こる悪循環により進行性に呼吸状態が悪化していきます。治療による介入で、この悪循環の経路をどこかで断ってやる必要があります。

胸腔外気道(上部気道)閉塞

喉頭麻痺や短頭種気道症候群が上部気道の閉塞の原因として一般的です。他では異物、狭窄、腫瘍、肉芽腫、気管形成不全、気管虚脱といった疾患で呼吸困難が生じます。
慢性的な疾患ですが、症状は急変します。吸気時の呼吸努力の増加による閉塞が増悪し、悪循環に陥るためです。動物を鎮静化し、涼しい環境下で酸素ケージに移してあげましょう。さらに、内科的な処置で悪循環を断ち切ると、ある程度安定化させることが可能です。鎮静剤やコルチコステロイド(デキサメタゾン0.1mg/kg、ivなど)で局所の炎症を軽減させることも考えましょう。

鎮静や酸素吸入を行っても呼吸困難を改善できない場合、気管チューブの挿入などの処置を適切に行いましょう。

胸腔内気道閉塞

胸腔内の気道閉塞が起こることは稀です。この場合は、呼気時の呼吸努力の顕著な増大が認められます。主な原因としては、気管支や胸腔内気管の虚脱が挙げられます。高ピッチの喘鳴による咳のような音が呼気時に聴こえ、捻髪音や喘鳴が聴診にて聴取されます。
その他の原因としては、異物、肺虫感染の進行、気管の腫瘍、気管狭窄、肺門リンパ節の腫大による気管圧迫などが考えられます。

この疾患でも鎮静、酸素吸入、ストレスの軽減で状態を安定させてやることが必要です。

肺実質の疾患

肺実質の疾患では

  •  小気道の閉塞・・・猫の特発性気管支炎などの閉塞性肺疾患
  •  肺の運動性低下・・・肺繊維症などのように肺が硬くなる状態;拘束性肺疾患
  •  肺循環の阻害・・・肺血栓塞栓症など

が原因で低酸素血症と呼吸困難が発現します。
肺実質疾患で呼吸困難を呈する動物は、呼吸数の顕著な増加を示します。閉塞性肺疾患場合、呼気時の呼吸努力の増加を伴い、喘鳴音が聴取されましょう。拘束性肺疾患の場合、吸気が延長し捻髪音が最も多く聴取されます。
肺疾患による重篤な呼吸困難を呈している犬や猫を安定させる治療としては、先ずは酸素供給です。酸素供給のみでは効果がみられない時には、気管支拡張薬、利尿薬、ステロイドの投与を検討しましょう。

気管支拡張薬は、気管支疾患の猫(閉塞性肺疾患)への適用が一般的です。緊急状態では交感神経作動薬を用いるのも効果的です。

肺水腫の管理には、フロセミド(2mg/kg)などの利尿剤を用いましょう。但し、一時的な循環血液量の減少と脱水には注意をしながらの使用を考えておきましょう。

炎症性疾患や急性呼吸困難を示す動物にはステロイドの投与が奏功すると考えられますが、感染性疾患を増悪させる副作用については常に考慮しましょう。猫の特発性気管支炎、フィラリア症の血栓塞栓症、肺の真菌感染症の治療開始直後の呼吸不全に対して、短時間作用型のステロイドの投与が効果的です。

敗血症の所見(ex. 発熱、左方移動を伴う好中球性白血球増加など)、細菌性肺炎、誤嚥性肺炎が疑われた場合には、広域スペクトルの抗菌薬を投与しておきましょう。感受性試験の結果を得た後は、その限りではありません。

胸腔の疾患

胸腔の疾患では、肺の拡張が妨げられることによって呼吸困難を引き起こします。呼吸数の著しい増加を認めます。腹部の動きが顕著に大きくなります。
胸腔内疾患による呼吸困難の症例では、ほとんどの場合、胸水貯留か気胸の状態です。これらの症状が確認されれば、胸腔穿刺を直ぐに行うべきでしょう。貯留した液体や空気は可能な限り大量に除去すべきですが、血胸の場合には、呼吸困難が起きる原因が肺の拡張不全というよりも失血によるものであることが多く、必要最低限の量の貯留水を抜去し、残りは胸膜から再吸収させて、状態の改善状況を観察していきましょう。
胸腔疾患で呼吸困難が生じる他の理由としては、横隔膜ヘルニアや縦隔の腫瘤が考えられます。


救急治療(酸素補給)

動脈血酸素分圧を60mmHg以上に保ってやるために酸素の補給が施されます。呼吸困難や努力性呼吸をしている全ての犬や猫に対して行った方がよい処置です。チアノーゼなら尚更です。低酸素血症の原因も特定し、特異的な治療も平行して実施しましょう。

吸入させる酸素は、酸素マスク、鼻カテーテル、気管チューブなどを使って補給します。投与するのは酸素ボンベからの100%酸素を使いましょう。50%以上の空気を含む酸素の吸入は、肺上皮に対して毒性があり、肺機能の低下とともに死に至ることもあります。12時間以上の酸素供給はしないように。
酸素ボンベの酸素は水分を含んでいないので、気道内が乾燥します。最近のベンチレータには加熱加湿器が組み込まれているでしょうが、ない場合は、ネブライザーを利用するなどして乾燥を防ぎましょう。

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