役に立つ動物の病気の情報 | 獣医・獣医学・獣医内科学など

呼吸器系の疾患/気管・気管支の疾患

Top / 呼吸器系の疾患 / 気管・気管支の疾患

気管・気管支の疾患

気管・気管支の疾患の鑑別診断
犬伝染性気管気管支炎
犬の慢性気管支炎
気管虚脱
猫の(特発性)気管支炎
アレルギー性気管支炎
細菌感染・マイコプラズマ感染
肺吸中感染症
腫瘍・異物
気管裂傷
気管の圧迫
  左心房肥大
  肺門リンパ節腫大
  腫瘍

臨床症状

 発咳

咳の強さは、鑑別診断の手助けになります。気道の炎症(気管支炎)や大きな気管支(大気道)の虚脱に伴って起こる発咳は、やかましく耳障りな発作様の咳です。気管虚脱による発咳は、ガーガーと言うような音が混じる咳になるでしょう。肺炎と肺水腫に伴う発咳は、静かな咳です。診察時に発咳がない場合、気管の触診(カフテスト)で誘発されます。気道深部の疾患があれば、カフテストで発咳がみられます。

咳とともに血液が出てくる場合があります。喀血です。咳をした後、血様の唾液が口腔内に見られたり、口角から血の混じった唾液が滴ることがあります。喀血は、フィラリア症や腫瘍でみられることが最も多く、その他、真菌感染症、異物、重度のうっ血性心不全、血栓塞栓症、肺葉の捻転、止血異常(播種性血管内凝固など)でも起こります。

咳の起こるタイミングで、ある程度の鑑別もできますので、注意して観察しましょう。首輪を引っ張るタイミングで咳が出るのは、気管の疾患であろうと推測できます。心不全による咳は、夜間に頻繁に発生する傾向があります。気道の炎症(気管支炎)では、睡眠中や運動の後、冷たい空気に急に触れたときに発生する頻度が高くなります。
犬に比べて、猫は咳をする回数が非常に少なく、咳をする猫では、気管支炎、肺の寄生虫、フィラリア症などを疑いましょう。

 呼吸困難と運動不耐性

下部気道疾患では、気管や肺の機能が低下するため、血液中の酸素濃度が低下します。そのため呼吸数の増加や運動性の低下に始まり、運動をしたがらない、運動によって呼吸困難が認められるといった症状が顕著になってきます。

  •  安静時呼吸数
    その後、安静時まで呼吸困難状態に進行してきます。問い合わせなどがあった時には、飼い主さんに、自宅での安静状態での呼吸数をよく観察してもらうようにしましょう。ストレスのない状態での呼吸数は、20回/分以下です。
  •  粘膜の色調
    口腔粘膜をよく観察しましょう。粘膜が蒼白になっている状態はチアノーゼです。重篤な低酸素血症の徴候で、呼吸努力の増加による代償作用が働いていないことを示しています。
  • 呼吸パターン
    気管・気管支、肺疾患での呼吸困難では、呼吸は速く浅い呼吸になります(浅速呼吸)。聴診で異常な肺音が聞き取れるでしょう。
    特に猫では、健康な状態では呼吸動作は目に付かないですが、呼吸時に胸郭が動いている状態や、開口呼吸をしているならば、重度の呼吸困難な状態にありますから、急いで状態の安定化を図るように処置してあげましょう。

検査

下部気道疾患検査

下部気道疾患の症状を示す犬や猫に対しては、まず病歴をしっかり問診で聞き取ること、身体検査を行い、胸部X線検査と血液検査を欠かさないようにしましょう。その後、さらに詳細な検査(エコーやCT・MRIなど)や、下部気道から採取した検体の評価、特定の疾患の検査を行うこともあるでしょう。

初期診断

  •  身体検査
    呼吸数、粘膜の色調評価、呼吸パターンの観察に加えて、全身の検査を行い、二次的に気管や肺に影響を与える異常を特定していきましょう。
    特に循環器系の疾患については慎重に評価しましょう。咳が主訴で来院する飼い主さんは多いのですが、僧帽弁閉鎖不全による左房拡張が、主幹気管支を圧迫して咳が誘発されている場合があります。つまり、うっ血性心不全なのか、下部気道疾患によるものなのか、鑑別診断をするために胸部X線検査や心エコー検査を行い、診断を進めていきましょう。
    •  胸部聴診
      最初に喉頭付近の気管を聴診しましょう。心音と、この上部気道のいびき音(狭窄音)・喘鳴音を聞き取っておくことで、肺野での聴診がより確実にできるようになります。局所的な気道狭窄による高音は、頸部の気管全域を聴診して、最も強く聞こえる部分を特定できると狭窄部位を特定できます。
      次に、肺を聴診しましょう。胸郭入口から第7~9肋間にあります。左右ともチェックしましょう。非対称性に聴こえると異常です。異常音として認識されるのは、呼吸音の増強、捻髪音、喘鳴音などです。
  •  胸部X線検査
    呼吸器系の疾患の疑いがある犬や猫には必須の検査です。気管の疾患には頸部まで映るように撮影するのがいいでしょう。胸部X線検査を元にして診断計画を立て、鑑別診断が可能になり、追加検査で確定診断していきましょう。
  •  血液検査
    炎症性疾患による貧血や白血球の反応所見、慢性低酸素血症による多血症が認められることがあります。但し、血液検査の感度は高くないので、異常所見がないからと言って、気管や肺の炎症性疾患を除外する根拠にはなりません。注意しましょう。

特定疾患のための検査
生検材料の採取と検査

  •  ほとんどの場合、確定診断を行うために追加検査が必要です。
  •  最も疑わしい鑑別診断は何か? 下部気道の疾患がどこに存在するのか? 症例の呼吸機能低下はどの程度か? どこまでの治療を飼い主が望んでいるのか?  これらを総合的に判断していきましょう。
  •  気管や気管支の洗浄、肺からの吸引などによって採材を行い、検査を行うことも可能です。
  •  種々の病原体を特定するために血清学的な検査を行うことも、診断を疑った場合の確認で行っておくといいでしょう。フィラリアや肺の寄生虫、クリプトコックスやヒストプラズマなどの真菌性肺炎、トキソプラズマ(原虫性肺炎)、細菌性肺炎やウイルス性肺炎の同定が可能です。

呼吸器症状を呈する犬と猫において、
胸部X線検査で異常が認められない場合の下部気道疾患の鑑別診断です。

呼吸困難



肺血栓塞栓症
急性誤嚥
急性肺出血
急性異物吸引
発咳




犬伝染性気管気管支炎
犬の慢性気管支炎
気管虚脱
猫の(特発性)気管支炎
急性異物吸引

気管支壁の肥厚や気管支の拡張によって
胸部X線検査で気管支に異常が認められる場合の鑑別診断です。

犬の慢性気管支炎
猫の(特発性)気管支炎
アレルギー性気管支炎
犬伝染性気管気管支炎
細菌感染症
マイコプラズマ感染症
肺寄生虫症

その他、下部気道疾患の検査で認められる肺の異常は、肺の疾患の項目に記載します。

気管・気管支の疾患

気管と気管支の疾患は、多くは肺実質性の疾患と併発して生じます。肺の疾患の項もご参照の程を。猫のボルデテラ症でも気管支炎の症状を呈しますが、むしろ鼻腔・副鼻腔の疾患や細菌性肺炎の症状を併発することの方が多いでしょう。
犬インフルエンザに罹患した犬は急性の発咳と鼻汁を呈しますが、自然治癒します。犬伝染性気管気管支炎とよく似た症状です。

 犬伝染性気管気管支炎(ケンネルコフ)

犬伝染性気管気管支炎という疾患は、通称:ケンネルコフと呼ばれる疾患で、伝染性が強く、気道に限局した急性疾患です。原因は、犬アデノウイルス2型、パラインフルエンザウイルス、ボルデテラ菌(Bordetella bronchiseptica[気管支敗血症菌])のうち、どれかもしくは複数の感染によるものです。

感染力は強いのですが、合併症がない場合は、自然消失して約2週間あれば改善します。しかしながら、合併症があると重篤な症状になることがありますので気をつけましょう。『ケンネル』コフという名称が付くように、犬舎で感染する場合が多く、特に子犬は、同様の症状を示す犬と接触すると感染するケースが多々あります。

この犬伝染性気管気管支炎だけならいいのですが、子犬の場合、怖いのは『パルボウイルス感染症』です。ブリーダーの犬を診察していると、経験的な感覚ですけど、パルボウイルス感染症とケンネルコフが併発すると最悪のケースになってしまうことが多いのです。犬伝染性気管気管支炎はワクチンで予防できますので、きっちりとワクチン接種を行い、感染を防止しましょう。

  •  症状
    •  感染すると、重度の湿性もしくは乾性の咳が突然始まります。運動時、興奮時、散歩の際に首輪による圧迫などで容易に咳がでます。気管の触診でも発咳が誘発されます。
    •  えずく、吐き気を示す、鼻汁も出ます。が、合併症がなければ2週間程度で治まります。
    •  よって、仮に、呼吸困難、体重減少、食欲不振の持続、下痢、脈絡網膜炎、痙攣を示すようなら、犬ジステンパー感染症、重度の犬インフルエンザ感染症、真菌感染などの深刻な疾患である可能性が高いので注意しましょう。合併症があると、二次感染による細菌性肺炎を発症することもあります。
  •  治療と予後
    •  診断には、症状に基づいて判断しましょう。迎えて間もない子犬が咳をしている、という場合はほとんどの場合、この犬伝染性気管気管支炎(ケンネルコフ)です。しかしながら、合併症がなければ、自然治癒します。
    •  自然治癒はしますが、気道の刺激を少なくすることを目的に、少なくとも7日間程度、安静に、運動と興奮を避けることが重要です。
    •  治療薬として、抗菌薬を用いる必要はあまりありません。主にウイルスの感染であることが原因と言うこと、2週間程度で自然治癒するということが理由ですし、ボルデテラ菌の感染に対する効果も明確ではありません。
    •  気管支拡張薬や抗炎症薬を処方することで十分だと思います。ステロイドの処方は止めておきましょう。

とにかく、ワクチン予防で防げる疾患ですので、きっちりとワクチン接種を行いましょう。子犬の時期には、6~8週齢で開始して、16~20週齢までに3回のワクチン接種が一般的なワクチンプログラムです。その後、1年毎にブースター効果を出すために、追加接種を行えば大丈夫です。

 慢性気管支炎(犬)

「他に関連する疾患がない」にも関わらず、ここ1年間に2ヶ月以上連続して、ほどんど毎日、咳が認められる状態だと、犬の慢性気管支炎と考えられます。
人ではタバコが原因の多くを占めますが、犬では感染、アレルギー、毒物や刺激物の吸引によって引き起こされる長時間持続する炎症であると思われます。刺激物の中には、タバコの伏流もあるかも知れません。
炎症が持続することにより、粘膜の障害、粘液の過剰分泌、気道閉塞が生じて、炎症性物質による刺激や感染に対する反応が増強されます。気道虚脱が生じているケースも多いでしょう。

症状が悪化して来院する場合が多く、通常よりも興奮したり、ストレスがあったり、刺激物やアレルゲンに暴露された状態に陥ると、一過性に慢性気管支炎が悪化するためと思われます。また、細菌感染などの二次的な合併症が生じた場合、左房拡大による気道圧迫や心不全といった併発症が悪化した場合にも、慢性気管支炎の悪化が認められます。

他の活動性疾患
(犬の慢性気管支以外)
犬の慢性気管支炎の合併症
として可能性のある疾患
一般的な併発する心肺疾患
細菌感染
マイコプラズマ感染
気管支の圧迫
肺の寄生虫
フィラリア症
アレルギー性気管支炎
腫瘍・異物
慢性的な誤嚥
気管気管支軟化症
肺高血圧症
細菌感染
マイコプラズマ感染
気管支拡張症



気管虚脱
気管支圧迫
心不全





犬の慢性気管支炎では、病歴を正確に把握しておくべきです。飼育環境の状態、タバコの煙やその他の刺激物や毒性への暴露、移動や子犬との接触など感染源への暴露、これまでの投薬歴、治療への反応などを精査しておきましょう。

犬の慢性気管支炎は、中年齢以上の小型犬種に好発します。小型犬種には、気管虚脱や僧帽弁閉鎖不全に伴う左房拡大による気管支の圧迫がおき易いので、発咳による要因を鑑別することが重要です。

  •  症状
    •  粘液の過剰分泌による、耳障りな咳が主訴です。数ヶ月から数年かけてゆっくり進行するのですが、飼い主は急に咳が始まったということが多くあります。運動不耐性が目立ち、続いて絶え間なく咳をして、呼吸困難になります。体重減少や食欲不振は見られません。
    •  併発症には気をつけましょう。細菌やマイコプラズマの感染、気管気管支軟化症、肺高血圧症、気管支拡張症などが挙げられます。
    •  聴診では、強い呼吸音、肺の捻髪音、喘鳴音が聴取されます。病状が進むと、気管支や胸腔内での気管虚脱による生じる呼気終末に聴取されるクリック音が聞き取れることもあります。
  •  診断と治療・予後
    •  目立った所見が掴みづらい疾患なので、基本的には鑑別診断リストからの消去法で行く方法で診断します。慢性的な咳を引き起こす疾患の除外のために検査を行うことが必要になります。考慮するところは、フィラリア(犬糸状虫)検査、肺の寄生虫のための糞便検査、心エコー検査、一般血液検査・血液生化学検査や尿検査を行いましょう。
    •  慢性気管支炎の治療は対症療法が主体です。併発疾患や合併症に対しては特異的な治療をしていきましょう。慢性気管支炎は完全に治癒することが無いからです。
  •  対症療法
    •  一般管理
      •  増悪因子として想定されるものは排除すること。何らかのアレルギー反応が考えられる場合には、そのアレルゲンと考えられるものを除去する。タバコの煙や芳香剤もなどの刺激物になりそうなものも避けると効果があるかも知れません。
      •  興奮やストレスがトリガーになるようであれば、鎮静剤を服用することも有効な場合があります。
      •  口腔内を清潔に保つことは、気管や気管支への余計な感染を防ぐことができるでしょう。口腔ケアスプレーを使うなどして対処しましょう。
      •  気道内の水和状態を維持することも効果的です。
      •  肥満の犬には減量を。適度な運動も有益ですが、気管支疾患ですので注意して。
    •  薬物療法
      •  症状をコントロールする薬剤は、気管支拡張薬、ステロイド、鎮咳剤です。
      •  気管支拡張薬には、テオフィリン(犬:10mg/kg、猫:5mg/kg)がよく利用されます。比較的低用量でも効果を示します。ステロイドとの併用で抗炎症作用に相乗効果もみられるという報告もあります。アミノフィリン(ネオフィリン、犬:10mg/kg;猫:5mg/kg)を使ってもいいかと思います。
      •  テオフィリンを使う際に、フルオロキノロンやクロラムフェニコールとの併用はできるだけ避けましょう。テオフィリンの排泄が悪くなり、毒性作用が強くでることがあります。どうしても同時に投与するなら、テオフィリンの投与量を1/3~1/2に減量しましょう。
      •  ステロイドも慢性気管支炎の症状改善に有効です。好酸球性気道炎症には特に有効でしょう。プレドニゾロンを0.5~1mg/kgの投与で1週間、効果を確認し、効果がなければ中止しましょう。
      •  咳は、気道分泌の浄化に重要な体の反応です。無理に止める必要なないのですが、気管気管支軟化症や気管虚脱による絶え間ない発咳で体力を消耗したり、無駄な反応になっている場合は、鎮咳剤で抑えてあげましょう。アストマリなどが使用可能です。
    •  合併症の管理
      •  抗菌剤の投与が気管・気管支の細菌感染に対して効果が得られることがあります。通常は1週間以内に効果がみられますが、慢性気管支炎の場合、完全な治癒は期待できないので、症状が安定してから1週間程度、計3~4週間の服用で終了しておきましょう。但し、明らかな肺炎が認められる場合はその限りではありません。
      •  一般的に、気道への感染細菌は、口腔内や咽喉頭部に由来するため、グラム陰性菌が多い。そのため抗菌薬の感受性が推測しづらいので、気道からの検体を細菌培養し感受性試験で確認後に処方するのがいいでしょう。
      •  咳に対する効果は、一進一退で、期待はしない方がいいでしょう。あくまで合併症に対する抗菌薬の投与になります。

 気管支炎(特発性;猫)

猫は犬に比べて気道が過敏に反応し、様々な要因で気管支炎や喘息の症状を呈します。気管支痙攣も起こしやすいので注意深く診察しましょう。気管支炎や喘息症状の猫では、基礎疾患が不明なことが多く、ともすれば特発性気管支炎と診断しがちですが、特発性気管支炎は犬の慢性気管支炎と同様に、他の疾患を除外した結果、診断されるものです。

気管支炎の症状を呈する猫の鑑別診断

診断特発性猫気管支炎と比較して区別可能な徴候
アレルギー性気管支炎

疑わしいアレルゲンを環境中や食事から除去して劇的に臨床症状の改善が認められること。
肺の寄生虫感染

胸部X線検査で結節を認めること。気管洗浄液や糞便中に子虫(猫肺虫)や虫卵を認めること。
フィラリア症

胸部X線検査で肺動脈の拡大を認めることがある。フィラリア抗原キット陽性反応または心エコー検査での成虫の確認。
細菌性気管支炎気道洗浄液に細菌を確認。細菌培養検査で有意な細菌の増殖。
真菌性気管支炎培養により、マイコプラズマの生育を確認すること。
特発性肺線維症

X線検査で特発性気管支炎の猫よりも重篤な肺浸潤像を認める。肺生検で確認すること。



X線検査で特発性気管支炎の猫よりも重篤な肺浸潤像を認める。気道洗浄液や生検材料による細胞診や病理組織診断で悪性所見を示す細胞を確認すること。
トキソプラズマ症


全身症状(発熱、食欲不振、抑うつ)を伴う。気管洗浄液中にタキゾイトを検出すること。血清中の抗体価やIgM抗体価の上昇は補助的な診断です。
誤嚥性肺炎


猫では稀。誤嚥が考えられる病歴や経過の存在。X線検査では肺胞に病変がみられます。肺前葉と中葉が最も重篤な所見になる。気道洗浄液中には、細菌を伴う好中球性炎症が認められる。
猫の特発性気管支炎上記疾患の除外により診断される。

特発性気管支炎の猫では、気道で様々な程度の好酸球の増加を認めることが多く、これはアレルギー反応の特徴的な所見でもあります。アレルギー性気管支炎との鑑別診断はしっかりとしておきましょう。

様々な病態の過程が猫の特発性気管支炎に影響を及ぼします。小気道の閉塞は猫の気管支炎にみられる特徴ですが、生じる原因は個々の疾患で異なります。

猫の気管支疾患における気道閉塞の原因
気管支収縮
気管支平滑筋の肥大
粘液産生の増量
粘液排出の低下
気道腔内の炎症性滲出液
気道壁の炎症性浸潤
上皮過形成
腺肥大
線維化
気腫

気管支痙攣や炎症のように可逆的な原因もあれば、線維症や気腫のような非可逆的な原因もあります。その特徴によって治療法が異なりますので、猫の気管支疾患を分類しておくことが推奨されます。

猫の気管支疾患の分類

分類主徴その他の特徴
気管支喘息


主に気管支収縮による
可逆的な気道閉塞

平滑筋の肥大
粘液産生の増量
好酸球性炎症
急性気管支炎

短期間(<1~3ヶ月)の
可逆的な気道炎症
粘液産生の増量
好中球性またはマクロファージ性炎症
慢性気管支炎




非可逆的な障害(線維化など)を来たす慢性気道炎症(>2~3ヶ月)


粘液産生の増量
好中球性・好酸球性または混合性炎症
感染を惹起するまたは非病原性の常在菌として
  細菌またはマイコプラズマの分離
気管支喘息の併発
肺気腫

末梢気腔の拡張を起こす
気管支および肺胞壁の破壊
空洞性病変
慢性気管支炎の結果または併発
  •  症状
    •  咳と間欠的な呼吸困難が主な症状です。原因は小気道の閉塞によるもので、呼吸困難にある猫は頻呼吸の状態になっているはずです。呼気時に喘鳴音が聴きとれるでしょう。
    •  体重減少、食欲不振、抑うつ、その他の全身症状は発現しません。なので、全身症状が認められる場合は、その他の疾患の可能性を考えます。
    •  アレルゲンや刺激物への暴露を問診でしっかり確認しましょう。猫の特発性気管支炎は、消去法で診断していく疾患なので、特異的な診断が下されることは多くないですが、他の病因を特定することでその疾患に対する治療を行うことがありますので、注意して検査をしていきましょう。但し、猫が危険な状態の場合、状態が安定するまで侵襲性の高い検査は控えること。
  •  治療と予後
    •  緊急時
      •  急性の呼吸困難を呈している猫は、検査を行う前に状態を安定させましょう。気管支拡張薬と即効性のステロイドの投与と酸素吸入です。危険な状態の場合は、静脈内、過度にストレスを与えそうなら筋肉内にデキサメタゾン(2mg/kgまで)を投与します。その後、ケージレストで安静に。酸素吸入は続けましょう。
    •  通常は、生活環境の見直し、ステロイド・気管支拡張薬の服用、必要に応じた抗生剤の使用によって治療していきます。症状をコントロールできれば、予後は良好です。しかしながら、基礎疾患・原因を除去できなければ完治の見込みはありません。長期の内服を継続することになります。不可逆的な慢性気管支炎・肺気腫に進行しないように管理していきましょう。
      •  猫の飼育環境が症状に影響を与えている可能性を排除しましょう。まずはアレルギー性気管支炎の可能性を除去します。特発性気管支炎は、室内の空気を改善することで改善がみられることがあります。タバコの煙やカーペットなどのほこり・カビを減らすなど、空気清浄機を使用するなどして対処するのもいいと思います。環境変化に反応する場合は、1~2週間で効果がみられます。
      •  ステロイドの投与は猫の特発性気管支炎のほとんどのケースで必要になります。効果はかなり劇的です。プレドニゾロンを、開始時は0.5~1mg/kgで1日2回投与、症状が抑制されなければ倍量にしても構いません。1週間が目安です。1週間で症状が改善したら、1日1回の投与に減らして1週間、その後0.5mg/kgの投与量で隔日投与まで減らせるといいでしょう。
      •  症状が重篤な場合は、デキサメタゾン(2mg/kg、iv)を単回投与してみましょう。
      •  気管支拡張薬も有効です。ステロイドに反応しない場合、高用量のステロイド投与が必要な場合、定期的に症状が悪化する場合は、積極的に飲ませましょう。猫にはテオフィリン(5mg/kg)が1日1回投与で効果が認められるので便利です。
    •  マイコプラズマの感染が疑われることもあります。ドキシサイクリン(5~10mg/kg)やクロラムフェニコール(10~15mg/kg)を14日間投与で改善が期待できます。

治療に対して効果がないとき・・・
ステロイドや気管支拡張薬に反応しないとき、長期治療中に症状が悪化した場合は、以下の点を再考しましょう。

処方された薬剤を
服用しているか?
血漿中テオフィリン濃度の測定
長時間作用型ステロイドによる治療を試験的に開始
最初の評価時に
基礎疾患を見逃していないか?




アレルゲンに関する詳細な病歴の再聴取
胸部X線検査、気管洗浄液検査、フィラリア検査、
寄生虫糞便検査を再アプローチ
一般血液検査、血液生化学検査、尿検査の実施
抗マイコプラズマ薬の治療を試験的に開始
アレルゲンと刺激物の暴露を防ぐための環境改善
併発疾患が進行していないか?上記診断アプローチの繰り返し


 気管虚脱・気管気管支軟化症

正常な気管は、断面が円です。多少の柔軟性を持つ輪状靭帯によって結合されている軟骨性気管輪があって、背側は気管筋と気管膜によって結合されています。
構造はこんな感じです↓。

気管断面

気管虚脱

気管虚脱というのは、軟骨輪が平坦化したり、背側の余分な気管膜によって気管の内腔が狭窄する状態を言います。その程度分類が、人の基準ですが、ありますので合わせて図を拾ってきました↑。

ある種の犬では、気管軟骨の先天的な異常を有するために気管虚脱を生じやすいこともあります。最初は無症候性です。気管が狭くなると、当然ながら気流に対する抵抗性が内腔半径に反比例して増加します。呼吸努力も増加して、気道の炎症や咳もひどくなっていきます。胸腔内の気道圧が陰圧になって、さらに気管の狭窄を引き起こしやすくなります。慢性的な炎症性物質の浸潤で、気管の脆弱化が起こります。それを、気管気管支軟化症という診断名で呼びます。

  •  症状
    •  気管虚脱は猫ではあまり起こりません。犬の慢性気管支炎に併発することが多い疾患です。主気管支や肺気管支の虚脱から生じます。比較的、トイ種、ミニチュア種で多い傾向があります。
    •  ガーガーという咳が特徴的な所見です。興奮時や運動時、散歩中に首輪を引っ張ったときに頸部を刺激・圧迫して悪化し、呼吸困難が起こります。
    •  体重減少、食欲不振、抑うつなどの全身症状はみられません。咳がない場合もありますが、気管の触診で誘発されるのが一般的です。
  •  診断
    •  悪化要因や合併症を見逃さないようにしましょう。慢性気管支炎、心疾患、細菌感染、アレルギー性気管支炎、気道の炎症、上部気道閉塞(軟口蓋過長症や鼻孔狭窄、咽頭麻痺など)、肥満や副腎皮質機能亢進症が疑われます。
    •  気管虚脱は、頸部・胸部X線検査で診断できます。まずはレントゲン撮影をしましょう。気管の狭窄がみつかります。呼吸のタイミングを見計らって、呼気時に撮影することを忘れないように。
  •  治療と予後
    •  基本的には内科的治療がメインです。ほとんどの症例で内科的管理で症状をコントロールできます。内科的治療に反応しない場合は予後に注意しましょう。虚脱が胸腔外であれば、外科的処置によりステントの設置をすることで症状は劇的に改善します。但し、ステント設置後も内科治療は継続する必要があります。
    •  第1選択は、気管支拡張薬です。
    •  持続する咳がひどい場合には、鎮咳剤を使用するといいでしょう。
    •  症状が悪化しているときには、抗炎症量のステロイドを短期間使用します。プレドニゾロン(0.5~1mg/kg)を3~5日間は1日2回投与、その後3~4週間で漸減して中止すればいいでしょう。慢性気管支炎を起こしている場合には、間欠的に投与が必要になります。
    •  太りすぎの犬には減量を指示しましょう。
    •  気管を刺激しないために、首輪でなくハーネスを用いるように指導しましょう。過度の興奮を避けて、体温が上がり過ぎないようにも注意しましょう。場合によっては、鎮静剤も考慮してもいいかも知れません。

 アレルギー性気管支炎

アレルギー性気管支炎は、何らかのアレルゲンに対する気道の過敏反応です。吸入による原因が主ですが、食事性のアレルゲンもあるかも知れません。
確定診断には、アレルゲンを同定することと、そのアレルゲンを除去することで症状が改善することが必要です。犬や猫では、人に比べると発生頻度は明らかに低いです。他の気管支炎や発咳を伴う疾患を排除した結果、アレルギー性気管支炎と診断されることが多いのではないでしょうか?
ステロイドや気管支拡張薬を投与して症状をコントロールするのが一般的な治療法です。