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循環器系の疾患/不整脈/よく認められる不整脈と診断

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よく認められる不整脈と診断

頻拍性不整脈

  •  速い心拍で、不規則な調律の場合

    早期収縮で起こることが一般的であり、心室充満を障害するため1回の心拍出量が減少してしまいます。心房の早期収縮は、心室の興奮している時間が心房からの刺激が入ってくる頻度に追いつかず、心室に刺激が伝わらないことがあり、脈拍欠損が起こります。そのため不規則な調律になります。
    心室頻拍や上室頻拍、心房細動は深刻な血行動態障害を引き起こすので要注意です。

  •  速い心拍で、規則的な調律の場合

    洞性頻脈、持続性上室頻拍、持続性心室頻拍が起きている場合に見られます。持続性で速い不整脈では、心拍出量、血圧、冠血管血液循環量の低下が起こります。元気消失、蒼白、さらには運動不耐性、失神・発作、呼吸困難、最悪の場合には突然死もあり得ます。

    •  洞性頻脈洞性頻脈は興奮しても生じるものですが、病的なこととして問題視すべきなのは、不安、疼痛、発熱、甲状腺疾患、心不全、低血圧、ショック、毒物の摂取や薬剤によるものと考えられる場合です。
    •  交感神経の緊張や薬物に誘発される迷走神経の遮断が原因です。
    •  上室性頻拍は、心拍数が300回/分以上になることもあります。心室へ刺激が規則的に伝わるので、QRS群は正常波形です。

上室頻拍

基礎疾患はしっかりと管理した上で、頻発する上室性期外収縮や発作性頻拍に対する治療を行いましょう。心不全や拡張型心筋症の動物で、上室頻拍を併発する場合には、ジゴキシン(経口投与)が第1選択になります。無効の場合は、β遮断薬もしくはジルチアゼム(カルシウム拮抗薬)で治療しましょう。

肥大型心筋症や甲状腺機能亢進症の猫で上室性頻拍が生じた場合は、アテノロール(β遮断薬)で治療をしましょう。

難治性の上室頻拍は、クラスⅠAの抗不整脈薬、それがダメならクラスⅢ群で治療です。

  •  急性治療
    •  急性で持続的な上室頻拍には積極的な治療をしましょう。
    •  緊急では、迷走神経の刺激を行うと有益なことが多々あります。頸動脈洞(下顎下方の頸静脈の走っている溝あたり)のマッサージか、迷走神経は目の奥の方に走っていますから、眼球を15~20秒程度、圧をかけると刺激されます。正常な動物でも両眼を押すと心拍数が下がります。
    •  迷走神経刺激は、房室伝導を一時的に遅らせたり遮断したりするので、WPW症候群などの房室結節を含むリエントリー性の持続性上室頻拍を止めることができます。
    •  止まらなければ、陰性変力作用が弱いジルチアゼム(静脈内投与)を投与します。ベラパミル(iv)も有効ですが、陰性変力作用が強いので、心筋障害、心不全の場合は推奨されません。
  •  発作性房室回帰性頻拍
    •  副伝導路と房室結節を含むリエントリー性の頻拍です。副伝導路もしくは房室結節の伝導遅延や不応期を延長させればいいわけです。緊急時には上記の迷走神経刺激を先ずは試みてみましょう。
    •  伝導遅延や不応期の延長には、カルシウム拮抗薬(Ⅳ群抗不整脈薬;ジルチアゼムなど)やβ遮断薬です。Ⅲ群は心室の不応期延長なので不可です。
  •  持続的な異所性刺激による心房頻拍
    •  迷走神経の刺激に反応しない場合は、異所性自動能による頻拍である可能性が高いです。この場合は心室拍動の管理に治療方針を変更するのが得策です。
    •  基本的には、房室伝導時間の延長、不応期の延長を目標にするのでジルチアゼムかβ遮断薬の投与ですが、ソタロールやアミオダロンの使用も検討します。

心室頻拍

心室性の不整脈に対する治療指針は難しいので慎重に行いましょう。臨床症状がなければもちろん治療の対象にはなりませんが、では、どの程度の心室性不整脈なら治療を行うのか、それは各獣医師の裁量で判断するしかありません。
抗不整脈薬は不整脈を軽減もしますが、毒性作用として不整脈を誘発してしまうこともあります。

心室性の不整脈の治療は、基礎疾患の有無、不整脈の重症度、血行動態障害の有無を総合的に判断して行うべきです。例えば、拡張型心筋症、不整脈源性右室心筋症(ボクサー犬)、肥大型心筋症、大動脈弁下狭窄など、これらの疾患は不整脈に関連した突然死を引き起こす疾患なので、すぐに治療を始めましょう。但し、不整脈の治療が予後の改善につながるかどうか、は未知数です。

不整脈治療の目標は、血行動態を安定させること、です。

  •  持続性心室頻拍
    •  持続性心室頻拍では動脈圧の顕著な低下を招くので、急性治療が必要です。第1選択薬は、リドカインです。
    •  2mg/kgをbolus投与(犬)し、効果が確認されれば持続点滴を行いましょう。投与量は25~80μg/kg/分です。
    •  反応がなければ、ソタロール(po)かアミオダロン(iv)の投与を行います。低用量から開始して、低血圧に注意しましょう。
    •  効果がなければ、プロカインアミドやキニジン(imもしくはpo)を次に試みます。それでも効果がなければ、用量を増やすか、β遮断薬を加えてみます。キニジンは降圧作用があるので、静脈内投与は不可です。
  •  猫の心室性不整脈
    •  第1選択薬はβ遮断薬です。
    •  効けば、基礎疾患の治療です。無効ならば、低用量のリドカインで反応を見ましょう。猫には神経毒性が強いので注意しましょう。
    •  無効なら、プロカインアミド、ソタロールと試していきます。

引き続き、心電図の監視は重要です。
上記、初期治療の反応が悪い場合は、再評価が必要となってきましょう。以下の内容を考慮しながら進めていくといいと思います。

  1.  心電図の再評価
    •  伝導障害性の心室頻拍ならカルシウム拮抗薬が有効である  など
  2.  血清カリウムの再評価
    •  低カリウム血症によるⅠ群不整脈薬の効果減弱を考慮
    •  血清カリウム濃度の補正を行いましょう
  3.  抗不整脈薬の用量を最高用量まで増加
  4.  Ⅲ群不整脈薬・β遮断薬をⅠ群不整脈薬と併用して投与
  5.  抗不整脈薬による催不整脈作用を警戒
    •  TdP  など
  6.  不整脈が抑制できなくとも動物の状態が安定しているなら、支持療法を継続し、基礎疾患やその他の異常を改善していくこと

心室頻拍の長期治療・慢性治療については、効果が確認された抗不整脈薬を経口投与で継続的に服用させることになります。異所性心室興奮を抑制し、不整脈による突然死のリスクを可能な限り下げていきましょう。
以下に、現在、よく用いられる方法を記載しておきます。

  1.  Ⅰ群抗不整脈薬単独治療
  2.  Ⅰ群抗不整脈薬とβ遮断薬の併用
    •  特にプロカインアミドとアテノロールの併用が好まれます。
    •  β遮断薬は、交感神経刺激やカテコールアミンの放出によって引き起こされる心室性不整脈と上室性不整脈にも有効です。心室細動に対する予防効果も期待できます。
  3.  Ⅲ群抗不整脈薬
    •  ソタロールやアミオダロンによる不応期の延長作用が、抗細動効果の見られることがあります。
    •  QT間隔の延長による副作用に注意が必要ですが、犬では高用量で活動電位持続時間の延長が起こるので、人に比べて安全です。

心房細動

心房拡大が認められる症例には、心房細動が発現する可能性が高く、心房細動に対して心室の応答性が速い場合には重篤な不整脈になります。心室充満時間が短くなり、1回拍出量が減少し、心筋機能が低下します。
拡張型心筋症、慢性の僧帽弁・三尖弁閉鎖不全、猫の肥大型心筋症では、心房細動が発現しやすいので注意しましょう。

洞調律の維持が難しい状態ですので、房室伝導を遅延させることによる心室応答性の低減が治療方針になります。心拍数は150bpm以下に維持することが望ましい状態です。
心房細動の第1選択薬はジゴキシン(経口投与)です。しかし、ジゴキシンの単独投与では十分な心拍数の減少を望めないので、ジルチアゼムを投与することが有効です。心室拍動や房室伝導の遅延が見られるまで漸増しながら使用しましょう。アミオダロンも心拍制御に有効です。洞調律に復帰することもあるようです。
猫の肥大型心筋症では、β遮断薬が第1選択です。無効ならジルチアゼムも。

心室早期興奮の症例で心房細動が併発している場合は、心室の不応期の延長をさせるため、アミオダロンやソタロール(Ⅲ群抗不整脈薬)を使います。心電図の正確な解析が大切ですね。

心房拡大が認められず、器質的な変化が心臓にないと思われる動物で、心房細動がみられることがあります。心室応答性が遅いので、重篤な不整脈にならないこともあり、ジルチアゼムの短期間投与、Ⅲ群、ⅠC群抗不整脈薬などで洞調律に復帰することがあります。自然に戻ることもあります。
迷走神経の亢進による突発性の心房細動には、リドカイン(iv)の投与が効果的です。

徐脈性不整脈

洞性徐脈

洞性徐脈は正常な犬でも起こります。猫では稀ですので、基礎疾患や全身性疾患(高カリウム血症など)を考えましょう。
衰弱、運動不耐性、失神などが洞性徐脈を起因として起こっているのであれば、抗コリン作動薬(アトロピンなど)、交感神経作動薬(イソプロテレノールなど)を用いて治療を行います。β遮断薬などの薬物性の徐脈であれば、投薬を中断し、必要に応じて拮抗作用のある薬剤を投与すれば回復します。

薬剤による徐脈以外では、中枢神経系の外傷や疾患、洞房結節の器質性疾患、低体温、高カリウム血症、甲状腺機能低下症、迷走神経緊張の亢進などに関連して生じます。

犬では、呼吸性洞性不整脈は正常所見です。

洞不全症候群(Sick Sinus Syndrome)

洞房機能の異常による徐脈性の疾患です。
徐脈による心拍出量の急激な低下をきたし、それに伴う脳血流減少により一時的な虚脱や失神を起こすことが問題になります。
通常は反応するはずのアトロピンの負荷試験で、心拍数の上昇が見られない場合は、この疾患を疑います。
薬物に対する反応性がないので、人工ペースメーカーが必要になります。

心房停止

心房の電気的活動が欠除している状態です。洞調律がないため心室に刺激が届かず、心室補充調律によって心臓が活動している状態です。心室に器質的な変化があると予後不良になります。薬物療法は非効果的です。

心電図上は、P波の欠除として認識されますが、高カリウム血症の動物ではP波が欠如するので、血清カリウム濃度を正常に保ち、洞調律(P波)の回復を確認しましょう。

房室伝導ブロック

第1度房室ブロックとⅠ型第2度房室ブロックは、迷走神経の緊張や薬剤による影響によることが多く、運動や抗コリン作動薬で消失します。
治療の対象になるのは、Ⅱ型第2度房室ブロックや完全房室ブロックです。これらの疾患では、元気消失、運動不耐性、虚脱、失神、その他の心拍出量の低下に起因する症状が発現します。
しかしながら、薬剤による治療に大きな効果は期待できず、これも人工ペースメーカーが必要かも知れません。