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循環器系の疾患/不整脈/抗不整脈薬

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抗不整脈薬

活動電位

活動電位というのは、細胞の細胞膜に生じる電位の変化です。体内では、ナトリウム(Na)、クロライド(Cl)、カリウム(K)、カルシウム(Ca)などのイオンが細胞を活性化させたりする働きをして、神経細胞や筋肉を動かしたりします。
心筋細胞の活動電位は他の細胞と少し違っていて、左のような位相になります。ナトリウムの急速流入に始まって、カルシウムの流入、最後にカリウムが細胞内から外に出て、元の状態に戻ります。
一つ一つの細胞がこのような活動電位の変化をしながら心臓を動かし、心筋細胞全体の電位の変化を合成して描かれたものが心電図波形になります。

抗不整脈薬ってのは、この膜電位を司るナトリウムやカルシウムの細胞内への流入を阻害したり、交感神経や副交感神経に作用して、不整脈を抑制する働きをする薬剤です。作用機序で便宜的に分類されています。

Ⅰ群抗不整脈薬

Ⅰ群抗不整脈薬は、膜のナトリウムチャネルを阻害して、膜電位の立ち上がり(0相)を抑制します。心筋細胞の伝達速度を遅延させます。
クラスⅠAが活動電位持続時間を延長させる薬剤(キニジン・プロカインアミド・ジソピラミドなど)、クラスⅠBが活動電位持続時間を短縮させる薬剤(リドカイン・メキシレチン・フェニトインなど)、クラスⅠCが活動持続時間を変化させない薬剤(フレカイニド・プロパフェノンなど)です。
Ⅰ群抗不整脈薬は、細胞外カリウム濃度によって効果が影響され、低カリウム血症では効果が減弱します。

クラスⅠA

  • キニジン

    作用は、自動能と伝導速度の抑制、有効不応期の延長です。PR間隔やQT間隔の延長は直接作用であったり、迷走神経の遮断作用で起こります。適応症例は、心室性ならびに上室性頻脈性の不整脈です。
    しかしながら、副作用が多く、使われなくなっています。ジゴキシンとの併用は不可。ジメチジンもキニジンの排泄を遅らせるので、併用不可です。キニジンには、陰性変力作用や非特異的なαアドレナリン受容体遮断作用による血管拡張とそれに続く低血圧が起こる可能性があり、心疾患を持つ動物には要注意であり、元気消失、衰弱やうっ血性心不全も誘発してしまうことああります。静脈内投与も止めておきましょう。
    顕著なQT間隔の延長は、突然死の原因にもなるので要注意です。Torsades de pointesという不整脈です。

  • プロカインアミド

    キニジンと同様の作用を示します。
    適応症例は、早期心室脱分極と頻拍です。心房性不整脈に対する効果はキニジンより弱いです。キニジンに比べて毒性作用は軽度です。それでも血管拡張作用による低血圧やQT延長症候群による突然死には注意しましょう。
    房室伝導障害(第2度、第3度房室ブロック)も起こり得ますので、合わせて注意です。失神や心室細動に移行する可能性があります。

  • ジソピラミド

    他の抗不整脈が使えない、効果が見られないときに使います。

クラスⅠB

  • リドカイン

    犬の心室性不整脈に対する第一選択薬です。
    洞結節、房室伝導、不応期に対する作用はなく、上室性不整脈には効果ありません。プルキンエ繊維での伝導遅延、心筋自動能の抑制作用がある一方で、活動電位持続時間は短縮する働きがあります。リドカインは陰性変力作用や血圧降下作用は最小限であり、心収縮力を抑制しないので心不全を呈する犬には効果的です。
    肝臓での代謝が早く、経口投与は効果がないので、静脈内への持続投与が推奨されますが、不可能な場合は、筋肉内投与でも何とかなるかも知れません。
    副作用として、中枢神経系の興奮が出る場合があります。興奮、痙攣、眼振、全身性の発作などです。副作用がでたらジアゼパム(鎮静薬)を投与して発作をコントロールしましょう。猫では特に敏感に副作用が出て、呼吸停止することがありますので要注意です。また、プロプラノロール、シメチジン、心不全の動物では肝血流量が低下しており、肝臓の代謝能が低下している可能性があり、リドカインの代謝が悪くなって毒性が強く出る可能性があります。

  • メキシレチン

    心室頻拍性不整脈の抑制に効果的です。
    β遮断薬との併用投与により効果が増強され、また、比較的副作用が少ないようです。経口投与での吸収が可能な薬剤です。
    副作用には、嘔吐、食欲不振、振戦、洞性徐脈、血小板減少症などがあります。が、比較的安全な薬です。

  • フェニトイン

    緩徐なカルシウムチャネル阻害作用と中枢神経系作用も持っており、ジギタリス誘発性不整脈に対する有効性を示します。
    この薬は、リドカインに対して反応しない犬のジギタリス誘発性不整脈に対してのみ用います。

クラスⅠC

  • フレカイニド・プロパフェノン

    心伝導速度の顕著な低下を引き起こしますけど、洞拍動や不応期に対しては作用しません。適応症例は、致死的、難治性の心室頻拍に使われることがある程度です。
    他のクラスⅠの薬剤と同様に、血管拡張と低血圧には要注意です。不整脈を誘発してしまうことと、悪心、嘔吐、食欲不振、徐脈、心室内の伝導障害も認められます。そのために、あまり使われない薬剤です。

Ⅱ群抗不整脈薬(β受容体遮断薬)

カテコールアミン作用を遮断して作用します。カテコールアミンってのは、神経伝達物質やその関連薬物の基本骨格になっている化合物のことです。ここでは、アドレナリン、ノルアドレナリンなどになります。α受容体・β受容体に作用して、心筋や血管を収縮させたり弛緩させたり、交感神経・副交感神経の作用などを制御してます。

β受容体を遮断して効果が発現します。β受容体にはサブタイプがあって、β1受容体が主に心筋に存在してて、収縮力、心拍数、房室伝導を調整しています。β2受容体は、気管支の拡張や血管拡張に関与してます。β受容体の作用は、主にβ1受容体を介した作用が遮断されます。なので、心拍数を下げて、心筋酸素消費量を軽減して、房室伝導時間を延長するのがⅡ群抗不整脈薬の主な作用です。心収縮力を弱くする(陰性変力作用)わけですから、心筋不全の動物に対する投与には注意が必要です。

同時に、洞性徐脈、洞不全症候群、高度房室ブロック、重度なうっ血性心不全、カルシウム拮抗薬が投与されている動物(顕著な心拍数低下と心筋収縮性の減弱を引き起こす)には通常投与しません。猫の頻拍性不整脈(上室性、心室性とも)には第1選択薬として考えましょう。

  • プロプラノロール

    第1世代のβ遮断薬で、β1もβ2も両方の受容体を遮断します。つまり、β2受容体拮抗作用による気管支収縮が生じるので、肺水腫を呈する症例には用いません。喘息や慢性細気道疾患を持っている動物にも止めましょう。
    肝臓での代謝による影響が強いので、経口投与よりも静脈内投与がいいでしょう。最近では、β受容体選択的な薬剤の使用が多いです。

  • アテノロール

    β1受容体に選択的な第2世代のβ遮断薬です。洞拍動や房室伝導を遅延し、心室の早期拍動を抑制するために用いられます。経口投与による体内動態が良好です。作用時間も比較的長く、12~24時間持続します。

β遮断薬を長期間投与すると、心臓でのβ受容体の数が増えたり、親和性が亢進したりすることが心機能を改善することとなり、生存期間の延長がみられます。慢性で安定的な心不全に対しては、慎重に投与されることがあります。普通は、投与しない方が無難です。
α1受容体も遮断できる第3世代のβ遮断薬なので、有効性が確認されています。

Ⅲ群抗不整脈薬

活動電位持続時間を延長させる薬物です。殆どのものがカリウムチャネル遮断薬になります。リエントリー性の不整脈と言う、通常は一方向に伝わる刺激が、先天的な異常や心筋梗塞などで逆行するような場合に起こる心室性不整脈です。カリウムチャネルが遮断されることで、不応期が延長し、興奮の伝わらない時間が長くなるので効果が表れるのですが、不応期・活動電位持続時間が延長すると、QT間隔が長くなるので、突然死のリスクがありますから注意しましょう。

  • ソタロール

    非選択的β遮断薬であり、犬では高用量でⅢ群抗不整脈薬作用を示します。なので通常の臨床投与量ではβ遮断作用のみを示します。薬効から、洞拍動の遅延、房室ブロック(第1度)、低血圧を起こす可能性があります。高用量でしか活動電位持続時間の延長が見られないので、Torsades de Pointes(TdP)は犬ではソタロールによる発生は少ないです。

  • アミオダロン

    Ⅲ群抗不整脈薬に分類されていますが、非競合的にα1およびβ遮断作用を持ち、カルシウム拮抗作用も併せ持つ薬剤です。β遮断作用は投与後すぐに現れますが、活動電位持続時間、QT間隔の延長は長期的な投与(数週間単位)で見られる反応です。
    複雑な機序で作用する薬剤で、適応は難治性の心房および心室性頻脈性不整脈に限定するのがいいようです。特に、副伝導路に関与したリエントリー性の不整脈に有効です。
    副作用が多々見られます。食欲低下、消化器障害、肺炎、肺繊維症、肝障害、甲状腺障害、血小板減少症、好中球減少症など。

Ⅳ群抗不整脈薬(カルシウム拮抗薬)

Ⅳ群の抗不整脈薬は、カルシウムチャネルを遮断することで細胞内へのカルシウム流入を減少させる薬剤群です。心筋はカルシウムを利用して収縮するので、これを遮断すれば、冠血管や全身血管の拡張、心筋の弛緩、心収縮性低下がもたらされます。特に、洞結節や房室結節の伝導速度を遅らせる作用、肥大型心筋症、心筋虚血や高血圧には適応されます。
副作用は、血管拡張による低血圧、抑うつ、食欲不振、元気消失、徐脈や房室ブロックになります。もともと、徐脈や房室ブロックを持っている症例や心不全には用いないようにしましょう。β遮断薬との併用も陰性作用が増強されますので処方しない方がいいです。

  • ベラパミル

    心臓に対する作用が最も強いカルシウム拮抗薬です。
    洞結節・房室結節の不応期の延長が、リエントリー性上室頻拍を防ぎます。心房細動における心室応答性を緩徐にする作用があります。陰性変力作用が強く、血管拡張作用もあるため、心筋疾患を基礎疾患で持つ動物には重篤な心不全、低血圧を引き起こす可能性があるので、低用量から投与しましょう。

  • ジルチアゼム

    強い冠血管拡張と軽度な末梢血管拡張作用を持っているが、ベラパミルに比べて陰性変力作用が弱い。心房細動、上室性頻拍に用いられる。猫の肥大型心筋症にもしばしば使われて、心拍数、心収縮、心筋酸素要求量の軽度減少作用だけではなく、心筋弛緩と冠動脈血流の改善効果も見込まれます。
    副作用には食欲不振、悪心、徐脈などが認められますが、比較的毒性は少ない薬剤です。

カルシウム拮抗薬はその他にも種々ありますが、多くは降圧剤として使われます。例えば、アムロジピンは猫の降圧剤の第1選択薬ですが、抗不整脈薬としての有効性は確認されていません。

その他の抗不整脈薬

  • 抗コリン薬(アトロピンなど)

    アセチルコリンがアセチルコリン受容体に結合するのを阻害する薬物のことで、これによって副交感神経(迷走神経)が抑制されます。
    迷走神経が緊張している状態ですと、徐脈や房室ブロックが生じ易く、それをアトロピンなどで是正してやるという抗不整脈治療です。

  • 交感神経作動薬(イソプロテレノールなど)

    Ⅱ群抗不整脈薬と逆の作用で、β受容体を刺激して心筋刺激、心拍数増加作用がありますが、血管拡張作用があり低血圧に注意しましょう。
    カテコールアミン(ドパミン、ノルアドレナリン、アドレナリン)の仲間なので催不整脈作用の可能性があります。静脈内投与で用います。
    房室ブロックや徐脈の治療でイソプロテレノールを用いるよりは、電気的ペーシングの方が効果的で安全です。