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循環器系の疾患/先天性心疾患

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先天性心疾患

比較的多く認められる先天性の短絡(シャントと言いますが)疾患は、動脈管開存です。

 動脈管開存

胎児では大動脈と肺動脈の間のシャントは正常で、それが生後24時間以内に収縮して閉鎖するんですが、うまく閉鎖しなかった結果として生じるのが動脈管開存症です。どうやら小型で、非筋肉性の犬種に好発するようです。マルチーズ、ポメラニアン、ヨークシャーテリア、シェルティ、トイプードルなど。雌犬の方が、雄犬に比べて発生率が3倍程度高いです。

初期の状態では大動脈圧の方が強いので、大動脈から肺動脈への血液の流入(左→右短絡)が起こります。そのため肺の血流量が増えて、左心にうっ血性心不全が起こります。短絡が起こっているため、収縮期も過剰に陰圧になり、動脈管開存症の症例では、脈圧が大きく(強い拍動)なります。
心拍数の増加や体液貯留によって、代償性に血液の体循環が維持されますので、見た目は正常(無症状)です。しかし、増加した血液拍出量を維持するために左心には大きな負荷が掛かりますので、心肥大、心腔内拡大、僧帽弁閉鎖不全、血液の逆流が起こって容量負荷がどんどん大きくなります。慢性的な容量負荷に起因して、心筋収縮力の低下、不整脈、結果として、うっ血性心不全が発現します。

開存口が大きい場合に起こりやすいのですが、症状が進行すると、肺の血管抵抗を増加させる変化が起きてきます。そうすると肺動脈圧が上昇、そのうちに肺動脈圧が大動脈圧を上回り、今度は肺動脈から大動脈への血液の流入(右→左短絡)が生じます。そのため酸素化されていない静脈血が全身に循環してしまいますから、低酸素血症、チアノーゼ、右心の肥大・拡大、赤血球増加症などを引き起こします(アイゼンメンガー症候群という)。

  •  症状
    •  左→右短絡の場合、基本的に無症状です。
    •  幼犬なのに心雑音(連続性雑音)が聴取されたら検査しましょう。前胸部の振戦や大きな脈圧が感知される場合も多いです。
    •  右→左短絡だと、肺高血圧症による症状として、虚脱、呼吸困難、発咳、喀血、失神、チアノーゼが起こったりします。発育不全の場合もあります。ひどくなると、痙攣・突然死も。
    •  多血症(赤血球増加症)による血液粘稠度の亢進のため、雑音が聞き取れないことも。
    •  特に、肺動脈からの逆流血は下行大動脈を通って下半身に運ばれるため、後肢の虚脱・チアノーゼが認められます。上半身は、大動脈から分岐する腕頭動脈・左鎖骨下動脈による正常血が運ばれるので、それらの症状は見られません。
  •  診断
    •  胸部X線検査で、左心の拡大像と、下行大動脈に大きな突出(DV像で1時~3時の方向)が認められます。
    •  逆流性(右→左)なら、胸部X線検査で、左心拡大に加えて、右心の拡大像が見える。
    •  でも今なら、胸部X線検査でおやっ?と思ったら、心エコー検査でカラードプラーを使って、血液の肺動脈内の連続的な乱流(左→右短絡)か、血液の逆流(右→左短絡)を確認しましょう。
  •  治療と予後
    •  動脈管開存の犬は50%が1年以内に死亡します。
    •  動脈管が閉塞していない症例では、うっ血性心不全になります。この場合は、心不全の治療に準じて、フロセミド、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬の投与、運動制限、ナトリウム摂取制限を行いましょう。振収縮力の低下が認められたら、ピモベンダンを追加投与です。
    •  根本的な治療は、外科手術になります。開口している短絡を閉鎖することです。但し、『左→右短絡』の場合のみです。
    •  逆流性短絡(右→左短絡)では、肺高血圧症を併発して右心室圧が高くなっており、血液の逆流によって軽減されています。そのため、動脈管の閉塞手術をすると右心不全が起こりますので、禁忌です。
    •  逆流性短絡(右→左短絡)の動脈管開存症の動物の予後は不良です。しかし、内服で良好に経過する場合もありますので、獣医師とよく相談の上、治療にあたりましょう。

 


心室からの血液が流出する経路において、経路の狭窄が先天的に起こることがあります。大動脈弁下狭窄と肺動脈狭窄が代表的な疾患です。

 大動脈弁下狭窄

大動脈弁の下が狭窄する(文字通り・・・)異常です。大型犬で好発する進行性の疾患です。遺伝子疾患と考えられています。
流路が狭いので、血液の駆出を行うに負荷が掛かり、当然のごとく、心室に負荷が掛かります。重症例では、心室の肥大、房室弁の閉鎖不全も引き起こし、不整脈の発現や心不全に移行したりします。また、大動脈弁下で血液が乱流を起こすため、心内膜を傷つけることがあり、心内膜炎の危険が高いと考えられています。

  •  臨床症状
    •  中程度から重度の大動脈弁下狭窄の動物で、疲れやすい、運動するとすぐに息切れする、呼吸困難、虚脱や失神などの病歴が認められ、突然死が起こることもあります。
    •  収縮期の駆出性心雑音が聴取されます。
    •  大腿動脈(股動脈)の脈拍を調べましょう。弱く、遅いことがあります。
  •  診断
    •  胸部X線では目立った変化が見つからないことが多いです。確定診断には、心エコー検査を行いましょう。左心室の肥大と大動脈弁の下に、孤立性の隆起した組織が認められます。
  •  治療と予後
    •  効果的な治療法はない。重度の動脈弁下狭窄の動物は、外科的な処置で狭窄部位を除去・拡張したりすることもある。
    •  運動制限が第一。
    •  β遮断薬による不整脈の予防と治療を行うこと。
    •  軽度~中程度の症例は、目立った変化無く過ごすことが多いが、重度の症例は、半数以上が3年以内に突然死します。

 肺動脈狭窄

肺動脈弁の異常形成に起因した肺動脈の狭窄で、小型犬に発生頻度が高い疾患です。右心室から出ている肺動脈が細くなって、圧負荷が心臓に掛かりますので、右室肥大・拡張が起こります。

  •  症状
    •  ほとんが無症状です。
    •  ときおり運動不耐性を示したり、失神を起こす病歴があります。
    •  重度な狭窄では、触診で、前胸部の顕著な拍動、やや減弱した大腿動脈の拍動が感知されます。頸静脈の拍動も認められる場合があります。
    •  聴診では収縮期に駆出性雑音が左心基底部で最も強く聴取されます。
  •  診断
    •  胸部X線検査での特徴的な所見は、心臓が『逆D型』を呈することと、肺動脈幹の突出です。言葉で説明してもわかりにくでしょうから、このあたりは胸部X線検査の専門書で確認しておきましょう。
    •  もちろん、心エコー検査による診断は有用です。ドプラー検査での血流量の測定、右心の肥大・拡大像、肺動脈弁の奇形などを確認できると思います。
  •  治療と予後
    •  重度の肺動脈狭窄でなければ、予後は良好ですが、重度の症例では、診断後3年以内に突然死する例が多いようです。特に、三尖弁の逆流、心房細動などの不整脈、うっ血性心不全を伴う動物は、予後不良です。
    •  軽度の症例、臨床症状を認めない症例では治療は不要です。重度の症例では、外科的な処置(バルーン弁形成術)が推奨されます。
    •  運動制限を行うことと、症状の緩和にはβ遮断薬の服用が効果的です。

 


心臓内での短絡(シャント)が先天的に起こる場合があります。左心房と右心房を区切る壁に孔があれば心房中隔欠損、左心室と右心室の間の壁に孔があれば心室中隔欠損ですね。
血液は、圧の高い左側から右側に流れ込みます。なので、肺の過循環が起こります。体循環が減るので、補おうとして血流量と心拍出量の増加が起こります。
肺高血圧症や肺動脈の狭窄が起こると、短絡血流は平衡状態になるか、逆流してしまいます。

 心室中隔欠損

小さな欠損孔であれば臨床的には重要でないこともありますが、大きな欠損孔になると、肺、左心、右室流出路(肺動脈)に負荷が掛かります。左心の拡大とうっ血性心不全(左)の恐れがあります。
非常に大きな欠損孔の場合は、心室一つで機能させるような動きになり、肺動脈圧の増大による右心室の拡大も起こります。

  •  症状
    •  多くの症例で診察時は無症状ですが、運動不耐性やうっ血性心不全の徴候を示します。
    •  聴診で全収縮期性雑音が聴取されましょう。
  •  診断
    •  胸部X線検査では、左心の肥大・拡大、右心の拡大の有無、肺動脈の拡張などの所見を確認してください。
    •  心電図検査では、心室内の伝導障害(脚ブロックなど)が確認されるかも知れません。
    •  心エコー検査で、心室中隔の欠損自体を確認し、左右心室間の短絡血流の確認を行いましょう。
  •  治療と予後
    •  軽度な症例では寿命を全うするでしょう。心筋肥大などにより、場合によっては自然閉塞することもあります。
    •  重度な症例は、外科手術を行うか、経過を観察するか、よく相談してください。運動制限、心不全の内科的な治療は行うべきでしょう。
    •  動脈管開存症の肺高血圧症を併発している場合と同様に、短絡と肺高血圧の両者が存在すれば、外科手術は禁忌です。

 心房中隔欠損

心房中隔欠損の場合も、左房から右房へ血液が短絡し、右心に容量負荷が掛かります。肺高血圧症を併発すれば、右→左の短絡が生じたり、チアノーゼの所見が見られます。

  •  症状
    •  目立った症状はありません。
    •  特徴的な所見は、聴診で聴取される、Ⅱ音の分裂です。
  •  診断
    •  胸部X線検査、心エコー検査においても右心の拡大が認められます。
    •  大きな欠損であれば、エコーで確認できます。
  •  治療と予後
    •  軽度な短絡では無症状であり、治療の不要です。
    •  大きな短絡は外科手術を行うこともあります。要相談です。
    •  運動制限と心不全の内科的治療は必要です。

 


 房室弁の奇形

  •  僧帽弁異形成 [#p183f4d2]
    •  先天性の僧帽弁閉鎖不全と言いましょうか、僧帽弁の構成要素である乳頭筋、腱索、弁尖、弁輪などの奇形による機能異常です。逆流口の大きさで僧帽弁閉鎖不全の程度が決まります。左心房の拡大、左心房圧の増大が起こり、肺浮腫・肺水腫の原因にもなります。
    •  犬では発咳、頻呼吸・呼吸困難、運動不耐性、失神の症状が、猫では加えて食欲不振や元気消退が起こります。
    •  胸部X線検査や心エコー検査で、心腔の拡大や僧帽弁の奇形を確認することで確定診断がされます。
    •  治療は、僧帽弁閉鎖不全による心不全と同じく、内科的な治療を行いましょう。フロセミド・ACE阻害薬並びにピモベンダンの投与が基本です。
    •  軽度な場合の予後は良好、重度な僧帽弁での血液の逆流・狭窄のある動物は予後不良です。
  •  三尖弁異形成 [#xc8929b6]
    •  三尖弁とその関連構造物の奇形です。三尖弁が心室側の側壁に変位して位置する奇形(エプスタイン様奇形)もあります。三尖弁異形成は、ゴールデンレトリバーに報告例が多い症例です。
    •  三尖弁閉鎖不全と同様の病態であり、重症例では右心の拡大、うっ血性心不全(右)が誘発されます。
    •  初期は無症状もしくは軽度な運動不耐性が見られる。症状が進行すると、運動不耐性、腹水貯留、胸水貯留とそれに伴う呼吸困難、食欲不振が見られます。頚動脈の怒張・拍動、心肺音の減弱も症状に現れてきます。
    •  胸部X線検査、心エコー検査とも右心の拡大像が確認されます。胸水や腹水、後大静脈の拡張、肝臓腫大も認められます。
    •  治療はうっ血性心不全の内科的治療に準じます。
    •  重度な症例では胸腔穿刺による胸水の除去が必要な場合もあり、予後はよくないことが多いですが、数年間生存する犬もいます。

 


心臓の奇形が要因で、心臓に戻ってくる静脈血、特に酸素濃度の低い血液が、動脈血(全身循環)に流れ込むような場合、チアノーゼが肉眼的に観察されます。チアノーゼってのは、毛細血管血液中の還元ヘモグロビンが5g/dL以上で起こる症状であり、皮膚や粘膜が青紫色になる状態です。
低酸素症になると、酸素運搬量を増やそうという反応が赤血球の産生を刺激します。赤血球が増えると、血液の粘稠性と抵抗が増加します。血液増加症という状態になる訳ですが、いわゆるドロドロ血の状態になると、さらなる組織の低酸素化、血管内血栓症、出血、脳血管障害、不整脈などが発現します。血栓が静脈血流から心臓内の短絡を通って全身循環に混入すると、さらに危険が増します。
チアノーゼを引き起こす先天性の心疾患として、このページの冒頭の動脈管開存症の逆流性短絡による肺高血圧症と、下記、ファロー四徴症が挙げられます。

 ファロー四徴症

ファロー四徴症ってのは、フランス人医師であるエティエンヌ・ルイ・アルチュール・ファローさんによって報告された先天性心奇形の一種です。何が『四つ』なのかと言うと、①(巨大な)心室中隔欠損、②肺動脈狭窄、③大動脈の右方偏位、④右心室肥大、の4つです。①②の先天的な心疾患に加えて、通常、左心室に開口している大動脈の入り口が、右心室にまたがって開口するという③の先天的な奇形が重なり、右心に掛かる負荷による二次的な④が生じる、というものです。

  •  症状
    •  労作性虚弱、呼吸困難、失神、チアノーゼ、発育不良などがよく認められます。
    •  チアノーゼは運動後に見られることが多いのですが、安静時からチアノーゼが見られる動物もいます。
  •  診断
    •  胸部X線検査でも、心エコー検査でも、心拡大像が顕著で、特に右心にみられます。心エコーで心室中隔欠損、心室中隔に騎乗した大動脈根などを確認しましょう。右→左の短絡も確認できると思います。
  •  治療と予後
    •  根治には開胸手術が必要です。
    •  赤血球増加症や粘稠度の亢進に伴う虚脱、息切れ、発作を軽減するために、瀉血を行うことも必要です。瀉血は、体重1kg当たり5~10mLの血液を除去し、等量の生理食塩水などを投与します。ヘマトクリット値で62~65%程度を目指します。
    •  β遮断薬が症状を軽減することがあります。おそらく、交感神経の緊張や右室の収縮力低下、末梢血管抵抗を増加させることによるものと推察されてます。
    •  血管拡張薬は投与してはいけません。右→左のシャント血流量が増えるからです。
    •  予後は、低酸素・多血症との合併症の重症度次第ですが、安楽死も考えておいて然るべき疾患です。若齢での突然死も多い疾患です。

 その他の先天的異常心疾患

  •  血管輪異常(右大動脈弓遺残)
    •  胎子期(胚形成期)に血管が、食道と気管を巻き込んでしまう奇形です。最も頻度の高いのが、右大動脈弓遺残というものです。
    •  通常は、食道・気管の左側に大動脈が走行しますが、成長の過程で右側に残ってしまい、食道・気管の左側にある動脈管索とで、食道・気管を締め付けるように閉塞させてしまいます。
    •  固形物が食べられない、吐出、発育不良などが離乳後に現れてきます。
    •  外科手術で改善させます。
    •  内科的には、流動食などを立位でゆっくり流し込んでやる、という作業が常時必要です。
  •  三心房心
    •  胎子期に静脈洞弁が退行せず遺残した結果、右心か左心のどちらかが分割されて、心房が3つになる状態です。
    •  症例として多くはありません。若齢期からの持続的な腹水が特徴的な症状です。
    •  治療には外科的に膜を除去することです。