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循環器系の疾患/心膜疾患・心臓腫瘍

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心膜疾患

心膜疾患で最も多いのは、心嚢水の貯留であり、その他の先天性もしくは後天性心膜疾患はあまり見られません。

心嚢水貯留

貯留液について

  •  出血
    •  犬では出血性の心嚢水が多いようです。暗赤色で、比重が1.015、蛋白量が3g/dL以上です。
    •  原因としては、腫瘍性の出血性心嚢水で、犬では血管肉腫が最も原因として多いようです。
    •  中年齢(6~7歳)の大型犬で、特発性の良性出血性心嚢水の貯留が見られます。これは、心膜の炎症に、び慢性もしくは血管周囲性の繊維化や局所の出血を伴うことで生じます。
  •  漏出液
    •  透明なものや、混濁してわずかにピンク色のものがあります。細胞は少なくて、比重、蛋白量も少なめです。心嚢水の貯留量は少なめで、心タンポナーデが起こることは稀です。
    •  原因は、うっ血性心不全、低アルブミン血症、腹膜心膜横隔膜ヘルニア(先天性疾患)、心膜嚢胞、血管透過性の亢進(尿毒症など)が考えられます。
  •  滲出液
    •  混濁した不透明な漿液血液性の液体です。有核細胞が多く、比重や蛋白量も高くなります。
    •  猫伝染性腹膜炎(FIP)が最も重要な原因です。
    •  感染からの波及が原因ともなります。各種細菌類による感染と、アクチノミセスも原因になります。他では、犬ではレプトスピラ症やジステンパーウイルス感染症、猫ではトキソプラズマ症でも生じることがあります。

心嚢に液体が貯留して、心嚢内圧が心室の拡張期圧より大きくなると臨床症状が出てきます。心膜は伸張性が低いので、急激な心嚢水の貯留や大量の心嚢水の貯留があると、心タンポナーデになります。心嚢水が大量であると、肺や気管を圧迫して咳嗽を刺激しますし、食道を圧迫すると嚥下困難や吐出が起こります。

心タンポナーデ

心臓と心臓を覆う心外膜の間に液体が大量に貯留することによって心臓の拍動が阻害された状態が心タンポナーデです。心嚢水の貯留は、心タンポナーデの状態になることが臨床的に問題で、心タンポナーデと診断できれば早急に処置しましょう。命に関わります。
心嚢水の貯留と心タンポナーデの発現は、心嚢水の貯留速度と心膜の伸展性に依存します。心膜は伸展性が低いので、少量でも急速に心嚢水が貯留すれば心嚢内圧が顕著に上昇して心タンポナーデの状態になりましょう。心嚢水が大量の場合は、心嚢水が徐々に貯留したことを示しています。

右心は左心に比べて壁が薄く内圧も低いので、全身静脈のうっ血と右心性心不全徴候から認められるのが一般的です。腹水や胸水が溜まります。その後、冠動脈血流が減少し、収縮機能も拡張機能も損なわれ、心拍出量の減少や動脈圧の低下、全身臓器への還流不全によるショックで死亡します。

腹水の貯留の前に、元気消失、運動不耐性、食欲不振が見られるのが通常です。腫瘍性疾患を起因とする心タンポナーデでは失神が多く、腫瘍が無い場合は顕著な腹水の貯留する傾向があります。

心嚢水の貯留だけでは心雑音はありません。心音は減弱しますし、前胸部の拍動も弱くなります。胸部X線検査で心臓の拡大像、心エコー検査では少量の心嚢水でも高感度に検出されますから、見逃さないようにしましょう。
それと、心タンポナーデでは、心電図でQRS群が低電位になり、QRSの高さが1拍毎に変化する様子が計測されます。特徴的な所見として知っておいたらいいと思います。

治療と予後

心タンポナーデと、それ以外でのうっ血性右心不全との治療は異なります。
心タンポナーデの場合、利尿薬とACE阻害薬では心拍出量はさらに減少して低血圧やショックが増悪します。陽性変力作用薬も効きません。
心タンポナーデの第1選択の治療は心膜穿刺です。心嚢水を除去すれば、うっ血性心不全症状は改善します。利尿薬を投与するなら、心嚢水の除去後、です。滲出液が再発するなら、心エコー検査などを行い、中皮腫、悪性組織球症、その他の腫瘍を疑いましょう。

数回の心膜穿刺と抗炎症療法に反応せず心嚢水が貯留する場合、外科的に心膜の除去を行います。心膜の除去により、胸膜表面からの心嚢水の吸収が可能になります。手技・手法は経験者に確認してください。同時に、腫瘍があれば可能な限り除去するといいようです。しかしながら、予後はそれほど改善しません。

除去した心嚢水は、細菌培養と薬剤感受性試験を行っておきましょう。感染性心膜炎の場合は、効果的な抗菌剤を用いて積極的に治療すべきです。収縮性心膜疾患(心外膜と心膜へのフィブリン沈着)へ移行する可能性があります。

外傷、左房破裂、凝固障害による心嚢内出血でも積極的に心膜穿刺で心嚢水を除去しましょう。但し、持続的に出血が生じる危険性がありますから、心嚢水の除去は、心タンポナーデの症状が改善できる必要量だけにします。動物の状態を見ながら、外科処置を行ったり、凝固機能の評価を行い、治療にあたりましょう。

収縮性心膜疾患

心膜の肥厚と瘢痕化によって心室の拡張が制限されてしまうために機能が損なわれる疾患です。原因は明確ではないですが、フィブリンの沈着を伴う急性炎症、感染性心膜炎などが先行して起こっていると考えられます。

心室が十分に拡張できず、心室の充満が起こらなくなります。心拍出量が減少します。心不全の代償性作用により、体液貯留、頻拍、血管収縮が起こります。主に、うっ血性右心不全の臨床症状が現れます。

  •  症状
    •  腹部膨満(腹水)、頻呼吸や努力性呼吸、疲労、虚脱、失神が主訴です。大腿動脈の拍動と心音の減弱が特徴的な所見です。心室を充満させるために、静脈圧が高くなりますので、頸静脈の怒張もみられます。
  •  治療と予後
    •  外科的に心膜を切除するしか方法はないようです。進行性の疾患ですので、外科手術がうまくいかないと致死的です。
    •  心膜の外側(胸腔側)なら比較的手術の成功率は高いですが、心臓側の心膜が肥厚したり瘢痕化していると、心外膜も剥離する必要が出てきます。それは難手術です。心臓周辺の手術による心筋外傷による不整脈は、どの疾患においても合併症の一つです。
    •  術後は利尿薬やACE阻害薬で管理可能です。

先天性心膜疾患

先天性の心膜疾患は3つ程あります。

  1.  腹膜心膜横隔膜ヘルニア
  2.  心膜嚢胞
  3.  心膜欠損
    ですが、最も多いのは腹膜心膜横隔膜ヘルニアです。
  •  腹膜心膜横隔膜ヘルニア
    •  先天的な発育異常で心膜が腹膜とつながってしまっている疾患です。そのため腹腔内臓器の心嚢内へのヘルニアが生じます。胸部X線検査や心エコー検査で確定診断できるでしょう。
    •  多くは無症状で経過するのですが、消化器症状や呼吸器症状が見られることがあります。嘔吐・下痢、食欲不振、発咳、呼吸困難、喘鳴などが症状です。
    •  ヘルニアを起こしている臓器を元の位置に戻し、腹膜と心膜間のヘルニア部位を閉塞する外科手術で改善できます。

心臓腫瘍

心エコー検査の普及で、生前に心臓腫瘍の診断が下されることが増えていますが、その発生率はとても低いです。犬の心臓の腫瘍で多いのは、血管肉腫です。右房や右心耳に発生することが多い腫瘍です。その他では、心基底部腫瘍、中皮腫です。多くの場合、右心が侵され、心嚢水の貯留と心タンポナーデを経由して臨床症状を呈します。猫ではリンパ腫が多いようです。

  •  症状
    •  心臓腫瘍で認められる症状は、右心房や右心室内の血流障害や心タンポナーデによるうっ血性右心不全症状です。不整脈が誘発されることもあり、その結果、失神や虚脱が起こることも考えられます。
    •  残念ながら、予後はよくないです。効果的な治療法も今のところありません。腫瘍の位置と大きさによっては外科的摘出が可能な場合があります。リンパ球療法あたりは今後どうでしょうか?
    •  心タンポナーデが生じたら治療を行い、必要に応じて心膜穿刺、ステロイドによる消炎効果など、保存療法で対応するのが一般的です。