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循環器系の疾患/心血管系の検査/心電図検査

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心電図検査

心電図に関しても、これだけで本が1冊書けるものであり、また、波形を読み取ることが必要です。なので、簡単な説明だけにしておきます。
それと、一般診療で数秒~数十秒の心電図検査で異常波形が見られることは、ほぼありません。不整脈が気になるようでしたら、24時間心電図(ホルター心電図)を用いて検査しましょう。

 正常心電図波形

画像の説明

心調律は、洞房結節から始まります。伝導経路を介して心臓を活動させます。心房の活動です。その時に見られるのがP波ですね。心筋の活動を表すのがQRS波。その後、心筋が再分極したときに見られるのがT波です。u波ってのが最後にある場合がありますが気にしなくていいです。よくわかってません。

波形説明
P波心房筋の活動。標準肢誘導のⅡ誘導とaVf誘導では陽性(上向き)
PR間隔心房筋活動の開始から房室結節、ヒス束、プルキンエ繊維までの伝導時間。波形で言うと、P波の始まりからQ波の始まりまで。横向きに見ます。
QRS群心室筋の活動。最初の陰性波(下向き)をQ、最初の陽性波をR、R波の後の陰性波をSと定義してます。QとSは存在しないこことがあります。QRSの横向きの時間をQRS幅と呼び、心室の収縮時間を表します。
ST部分心室脱分極と再分極の間の期間を表します。波形で言うと、S波の終わりからT波の始まりまでの一旦フラットになる部分です。 心臓か虚血状態になると下降することがあります。
T波心室筋の再分極を表します。
QT間隔心室の脱分極と再分極の合計時間。
RR間隔Rの頂点とRの頂点の間の時間。心拍数を表します。

波形の測定は、通常、犬や猫を右側横臥で寝かせた状態で測定します。体位を一定に保つことが必要です。体位が変わると波形の振幅が変わります。電位(心電図上の高さ)の評価はあきらめて、心電図異常波形の評価や心拍数、心調律、PR間隔やQT間隔(心電図上の時間計測値)を評価するなら、自然に立った状態や座った状態(安静状態)で結構です。
測定する誘導法は、標準肢誘導(6誘導心電図)で十分といいますか、仮に動物病院に心電計を持っていても、標準肢誘導しか測定できません。胸部単極誘導を測定する機器がある動物病院なんぞ、ないでしょう。
6誘導心電図、というのは、私たちが心電図をとるときも同じですが、手首と足首につける電極で測定する波形です。胸のところに吸盤でペタペタ付けて測定するのが胸部誘導。犬や猫では、V10誘導は有用だと思います。
犬では、毛が多く、心電図にアーティファクト(雑音)が混じることが多いです。それと、人間のように安静にしていてくれないこともあります。筋肉の緊張や震えが心電図に反映されてしまうことが多いです。動物を落ち着かせること、心電図測定用のペーストを電極部分に多めにつけるなどして、アーティファクトが最小限になるよう対処しましょう。

 心電図の判読

心電計があれば、心電図に取り込まれた心電図を、「記録」ボタンを押せば、記録されて印刷されて出力されます。通常、1秒間に5cmの進み具合で5秒間の記録が打ち出されます。
我々が最も見るのが、Ⅱ誘導です。右手と左足をつなぐ線上での心臓の電気刺激を捕らえるものです。心臓を長軸方向に切るので、一般的には最も波高が高くなります。
今は、グラフにものさしで線を引いて、自分で計算して計測値を出す必要はなく、心電計が自動的に数値を読み取って波形と共に出力してくれます。
その数値を下の正常基準値と見比べてください。
同時に、心電計は自動診断をしてくれますが、その診断結果は額面どおり受け取らないように。しっかり自分で評価できるようにしましょう。
そのためには、計測値を評価するのではなく、波形をしっかりみることです。

犬・猫の正常心電図の基準値

項目
心拍数毎分70~160回毎分120~240回
平均電気軸+40~+100度0~+160度
P波の幅0.04秒以下0.035~0.04秒以下
P波の高さ0.4mV以下0.2mV以下
PR間隔0.06~0.13秒0.05~0.09秒
QRS幅0.05秒0.04秒
R波の高さ2.5mV以下0.9mV以下
SR部分-0.2mV~+0.15mVの変化顕著な変化なし
T波R波の高さの25%未満。陽性、陰性、二相性の場合もある。0.3mV以下。陽性が多い。
QT間隔0.15~0.25秒0.12~0.18秒

 洞性調律

心臓の調律は、洞房結節から起こります。P波はⅡ誘導では陽性波になります。PR間隔はほぼ一定です。正常時のRR間隔の変動は10%以下です。RR間隔は、完全に一定ではなく、必ず揺らいでます。交感神経と副交感神経のバランスで成り立っているので、微妙な変化があります。
ちなみに、その心拍数の揺らぎを解析するのが心拍変動解析です。ストレスなどの測定にそのうち利用されるでしょう。

洞性不整脈というのがあります。これは呼吸の影響で洞性調律が早くなったり遅くなったりするものです。迷走神経の緊張が関わってて、吸うときに心拍が早くなり、吐くときに遅くなります。呼吸に関しては、P波の高さ・形が、息を吸うときにテント状に高くなり、吐くときに平坦になる場合があります。ワンダリングペースメーカーといいます。
これらの変化は犬ではよくみられます。

洞性徐脈と洞性頻脈の原因

洞性徐脈洞性頻脈
低体温高体温/発熱
甲状腺機能低下症甲状腺機能亢進症
心停止貧血/低酸素
頭蓋内圧の上昇心不全
脳幹病変ショック
高カリウム血症低血圧
尿毒症敗血症
眼球圧迫不安/恐怖
頚動脈洞圧迫運動/興奮
気道閉塞痛み

一般的に、迷走神経を刺激すること(眼球圧迫など)は徐脈に、交感神経を刺激することは頻脈を引き起こします。

洞停止は、心拍が1回分以上抜けた拍動のことを言います。RR間隔でいいますと、倍以上のとき。脈の飛び方がひどいと、気絶したり虚脱状態になったりしますので注意しましょう。洞房ブロックとの区別は心電図上ではできません。

 異所性調律

洞結節以外からの刺激で心臓が収縮することです。どの場所で、どのタイミングで発生するか、というのを心電図から読み取ります。

上室性なのか心室性なのか、通常の拍動を刻んでいる洞結節の刺激より早く出現したものか、長い休止期の後に出るのか、などを判断します。異所性刺激の一部を書いておきます。

  •  上室性期外収縮
    •  心房もしくは房室結合部(房室結節より上位)から収縮の刺激が出た場合です。特徴としては、異常なP波が見られることと、房室結節以下の心室は正常に収縮するのでQRS-Tは正常に現れます。
  •  上室頻拍
    •  心房に病巣があり、急速な放電もしくは心房内の異常回路における電気刺激の伝導が原因です。
  •  心房粗動
    •  心房内で電気的な刺激が繰り返されて発生します。心電図波形の基線が鋸歯状になります。
  •  心房細動
    •  心房の疾患・拡大の結果起こることが多く、心房頻拍・心房粗動に続いて起こります。
  •  心室性期外収縮
    •  房室結節より下位の心室のどこかで電気的な刺激が発生して、通常のQRS波形とは異なる幅の広い異常波形が見られます。心室筋は活性化していません。
    •  異常波形が一定のときは、同じ場所での異所性刺激、異常波形の形が個々で異なる場合、多源性・多形性といいます。
  •  心室頻拍 
    •  心室性期外収縮が連続して起こる場合です。P波は心室に伝わらない。
    •  QT延長が原因で生じるtorsades de pointes(トルサド・ド・ポアン)も心室頻拍の一つです。
  •  心室細動
    •  致命的な異常波形です。心室での無秩序な電気活動が起こっている状態です。
    •  電気的な刺激に協調性がないため、心臓の正常な収縮、血液の拍出ができない。

 伝導障害

  •  房室伝導障害
    •  心房からの刺激が心室に伝導されるときに遅延が生じるのが房室伝導障害(房室ブロック)です。PR間隔の延長を伴います。
    •  第1度房室ブロック
      •  PR間隔が130ms以上に延長する場合です。刺激の伝導は正常に行われます。治療の対象にはなりません。
    •  第2度房室ブロック
      •  心房の刺激が心室に伝わらない場合は第2度房室ブロックです。心電図上ではP波だけが見られてQRS群が抜けてしまいます。モビッツⅠ型(ウェンケバッハ型)とⅡ型がの2つのタイプがあります。
      •  PR間隔が徐々に延びて、QRSが抜けてしまうのがⅠ型。房室結節の疾患や迷走神経の緊張によって引き起こされます。
      •  PR間隔が長いまま一定の場合がⅡ型。ヒス束や脚枝に原因があり、補充収縮が見られます。
    •  第3度(完全)房室ブロック
      •  洞性結節からの刺激が心室に伝わらない状態です。心房と心室の動きが乖離して、心電図上でみられるQRS群は幅広な補充収縮です。
  •  心室内伝導障害・脚ブロック
    •  心室内を走行する右脚・左脚の電気伝導が遅くなったりブロックされたりすると異常波形が生じます。二峰性のR波が見られたり、深いS波が現れたりします。
  •  心室異常早期興奮
    •  通常の電気刺激の通り道である房室結節よりも早く興奮を伝えてしまう副伝導路が存在すると、心室が異常に早く興奮して収縮してしまいます。房室結節は、興奮が伝わる時間調整をしています。
    •  ウォルフ・パーキンソン・ホワイト(WPW)症候群で、この異常な早期興奮が起こります。
    •  危険なのは、興奮が側副路や房室結節を通じて上室性に再流入(逆流)して、上室頻拍を生じること。虚脱、失神、うっ血性心不全や突然死を引き起こす可能性があります。

 ST-Tの異常

  •  STの上昇・下降
    •  心筋虚血やその他の心筋損傷で、STが下降したり上昇したりします。下にまとめておきます。
  •  QT間隔の延長
    •  正常なQT間隔は、心拍数(RR間隔)に反比例します。心拍数が増えればQT間隔は短くなり、心拍数が減ればQT間隔は長くなります。ですので、QTの延長を評価するときには、RR間隔で補正した数値を用います。QTcと言いますけど、一般的にはRRの平方根で補正します。でも、3乗根で補正したほうが正確です。
    •  QT延長症候群は、torsades de pointes(トルサド・ド・ポアン)という不整脈を引き起こして、突然死の原因になります。薬物の影響によるQT延長が問題になって、製薬会社でも新薬の開発時には薬物によるQT間隔への影響を調べます。
ST低下心筋虚血
心筋梗塞/心内膜下の損傷
高カリウム血症
低カリウム血症
ジギタリス中毒
ST上昇心膜炎
左心室心膜損傷
心筋梗塞
心筋低酸素
ジギタリス中毒
QT間隔の延長低カルシウム血症
低カリウム血症
キニジン中毒
エチレングリコール中毒
低体温
中枢神経系の異常
QT間隔の短縮高カルシウム血症
高カリウム血症
ジギタリス中毒
T波増高心筋低酸素
心室拡大
心室内伝導異常
高カリウム血症
代謝性または呼吸器系疾患
テント状T波高カリウム血症

大学&社会人で心電図を結構やってたもんですから色々と書きましたが、あくまで概略です。
実際の波形をみて、「あ、期外収縮」とか、「STが下がってる」とか判断できないことには何の意味もありませんので、この程度にしておきます。