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感染症/リケッチア感染症

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リケッチア感染症

アナプラズマ症

 顆粒球性アナプラズマ症

犬の顆粒球性アナプラズマは、Anaplasma phagocytophilumが原因菌で、様々な動物種に感染します。世界中でみられます。自然界での保菌動物は、小型哺乳類とシカ、です。Ixodes属のマダニによって媒介される疾患です。鳥類が、感染マダニの保有宿主でもあり、マダニを拡散します。

マダニが犬に付着してから感染するには、24~48時間が必要で、感染後、1~2週間で症状が発現します。好中球のファゴソームが異物を取り込むと細胞内でリソソームと融合して分解されますが、Anaplasma phagocytophilumは、ファゴソームとリソソームの融合を阻害します。どうやって阻害しているかは、まだわかりません。

  •  症状
    •  感染しても、すべての犬が症状を示すわけではありません。何故かは、わかりません。症状を示すと急性疾患を引き起こして、発熱、嗜眠、食欲不振がみられます。
    •  筋肉と骨の疼痛を伴う筋硬直と跛行もみられて、多発性関節炎との関連性もあります。その他、嘔吐、下痢、呼吸困難、発咳、リンパ節腫脹、肝・脾腫大、中枢神経症状として発作や運動失調もみられることがあります。
    •  発症しない犬や、回復した犬は、不顕性の保菌動物になります。疾患が再発することもあります。

血液検査や尿検査での異常は軽度です。血小板減少症とリンパ球減少症がみられますが、好中球数は正常です。血液塗末で、好中球内の桑実胚が、罹患した犬で見られるので、感染が確認できますが、エールリヒア症の犬顆粒球性疾患でも同様の桑実胚がみられます。エールリヒアは熱帯地方で発生する疾患なので鑑別できますが、日本では発生がないです。

不顕性感染か、急性症状になるので、問診をしっかりして、マダニとの接触があって症状が出ていれば、エールリヒア症やバベシア症などとの鑑別をしておきたいところです。症状がなければ、マダニ予防を徹底しましょう。

  •  治療
    •  抗生物質が有効です。
    •  ドキシサイクリン(5~10mg/kg、経口、1日1~2回投与)の2週間投与が効果的です。テトラサイクリンなら、20mg/kgにて、経口、BIDを2~3週間の投与が推奨されます。

人への感染と予防
アナプラズマ症は、人畜共通伝染病です。人へは、マダニからの直接感染の可能性が最も高いので、マダニに刺されないようにしてください。ワクチンとかないですし、犬は再感染しやすいので、流行地域でのマダニ感染予防を徹底することが必要かと。

  •  猫の顆粒球性アナプラズマ症について
    Anaplasma phagocytophilumが猫にも感染して、犬と同様の病態を呈することがあるようですが、Anaplasma phagocytophilumはマダニが媒介する疾患なのであり、猫にはマダニの感染はほとんどないので、それほど心配は要りません。もし仮に、顆粒球性のアナプラズマ症と診断されたら、ドキシサイクリンやテトラサイクリンにより、2~3日で改善します。


 血小板減少性アナプラズマ症

犬の血小板減少性アナプラズマは、Anaplasma platysが原因です。マダニが媒介します。犬では、これも不顕性感染が多く、症状では微熱を示すのみ、ということが通常です。人にも感染する人畜共通伝染病ですが、人への感染と予防への対処方法は、Anaplasma phagocytophilumと同じです。

重篤な症状になると、発熱、ブドウ膜炎、出血が認められます。エールリヒアとの重複感染で、症状が悪化することがあります。

貧血や血小板減少、好中球性の白血球増加症が起こります。血小板中に桑実胚がみられることがあります。流行地で貧血や血小板の減少がみられたら、疑っておきましょう。でも、マダニ感染症で貧血だと、まずはバベシア症を疑いますけど・・・

鑑別診断ができて、アナプラズマ症となれば、ドキシサイクリンやテトラサイクリンの治療が有効です。エールリヒアとの重複感染なら、4週間以上の治療期間が必要です。

エールリヒア症

 単球性エールリヒア症

犬の単球性エールリヒア症の病原体は、Ehrlichia canisが最も多くて、最も重篤な症状を呈します。これもマダニを介して感染する病気です。他のマダニ媒介性病原体と重感染を起こすこともよくあります。

この菌体は、マダニ体内での経卵感染はなく、感染していないマダニが、急性期のリケッチア血症の犬を吸血してダニが感染し、その後、他の犬にそのダニが寄生して吸血した際に、他の犬に感染します。

この感染症は、急性期、不顕性期、慢性期があります。急性期は、菌が小血管周辺の単核細胞に付着したり、内皮組織内に移動して血管炎を起こします。急性期は、感染後1~3週間後から始まって、2~4週間程度、持続します。免疫が正常なら、犬は、ほぼ生存して保菌犬となります。不顕性期は、数ヶ月から数年、持続します。不顕性期に菌体を排除できる犬もいますが、細胞内に持続感染すると、慢性期に移行します。重症度は、菌の種類や動物の状態によりますし、混合感染でより悪くなる場合もあります。細胞性免疫が低下していると、重篤な疾病になります。

  •  症状
    •  急性期: 血管炎を呈するので、紅斑熱とよく似た症状となります。血管炎と軽度な血小板減少症が、点状出血や出血所見が認められます。急性期の出血はそれほどひどくありません。
    •  慢性期: 血小板減少症、血管炎に加えて、血小板機能異常が起こります。汎血球減少から可視粘膜の蒼白が発現します。肝腫大、脾腫、リンパ節の腫大が、免疫が活性化されたために認められることが多いのが特徴です。
    •  血管炎や炎症に伴う間質性、肺胞性の水腫、肺実質からの出血や白血球減少による二次感染が、呼吸困難や発咳の原因となります。
    •  可能性多発性関節炎を発症する犬では、硬直、運動不耐性、関節の腫大・疼痛が認められます。
    •  眼炎症状が一般的で、眼底血管の蛇行、網脈血管周囲への浸潤、網膜出血、網膜剥離、ブドウ膜炎があります。
    •  中枢神経症状では、抑うつ、運動失調、不全麻痺、眼振や発作が見られることがあります。

血液検査で血小板減少、白血球減少、貧血が認められたら、エールリヒア症も疑っておきましょう。再生性貧血の原因は出血によるもの、正球性正色素性非再生性貧血は、慢性期の骨髄抑制で起こります。症状から考えて、疑いが強いなら、検査機関で抗体価を測定してもらえば、仮診断が可能です。

  •  治療
    •  維持療法を行います。ドキシサイクリン(20mg/kg、経口、SID)を4週間、継続投与します。症状と血小板減少は、速やかに改善します。7日以内に改善が見られないと、別の疾患を疑いましょう。
    •  その他、テトラサイクリン、クロラムフェニコールなども効果的ですが、キノロン系は効果ありません。
    •  急性感染では、抗炎症作用・免疫抑制量のステロイド投与(プレドニゾロン2mg/kg、経口、SID、3日投与)が効果的な場合があります。

感染犬の中には、長期間にわたって、抗体陽性を示す犬もいて、治療で完全に除去されるかどうかは、わかりません。抗体陽性犬に対して治療を行うかどうか、ですが、抗体陽性の犬が必ずしも慢性期に移行するわけでもなく、予防的な抗菌薬の投与が慢性期への移行を防ぐのかどうかもわからず、感染が除去されても、マダニ予防がいい加減なら再感染が起こりうること、抗菌薬による耐性菌出現の危険性を考えると・・・不要でしょうか。

  •  予後
    •  急性のエールリヒア症の予後は良好です。適切な治療で、数日で、発熱、点状出血、嘔吐、下痢、鼻出血、血小板減少が改善します。
    •  慢性症例では、重症のものもあります。骨髄抑制が起こって、長期間改善しない場合があります。

人への感染と予防
人へもマダニを介在して感染します。犬から直接もらうことはありません。なので、マダニ予防を、常に、行いましょう。月に1度の、スポット薬の滴下で防げます。経卵感染しませんから、マダニ寄生を防御すれば、環境中から菌体を排除可能です。

  •  猫の単球性エールリヒア症
    アナプラズマ症と同様、エールリヒア症もマダニ介在性の感染症であり、猫にはマダニの感染はほとんどみられないことから、猫のエールヒリア症は重要ではありません。だた、獣医学領域では、アナプラズマ症と同じで、猫への感染報告はあります。症状や診断、治療方法も、犬の場合と同じです。テトラサイクリン、ドキシサイクリンの投与で改善します。

 顆粒球性エールリヒア症

顆粒球性エールリヒア症の病原体は、Ehrlihcia ewingiiです。これも、マダニによる感染症で、熱帯地方を中心に発生しています。感染を防ぐには、マダニを排除することです。

好中球、好酸球に桑実胚を形成して、発熱、嗜眠、食欲不振、抑うつ、硬直、多発性関節炎症状を示します。他にも、嘔吐、下痢、浮腫、運動失調、不全麻痺、前庭疾患などの神経症状がみられることもあります。症状は軽度で、感染犬から感染することはなく、不顕性であることも多い疾患です。

化膿性多発性関節炎が、最も多く認められる症状でもあって、軽度であるが単球性エールリヒア症と同じように、血小板減少、貧血もみられます。

治療には、ドキシサイクリン(10mg/kg、経口、SID、4週間投与)、テトラサイクリン、クロラムフェニコールが有効です。


日本紅斑熱

Rickettsia japonicaが病原体です。獣医学的には、元々、有名なのはロッキー山紅斑熱で、この原因菌は、Rickettsia rickettsiiです。この日本版と考えて構いません。これもマダニ媒介性の疾患です。げっ歯類や野生のシカとの感染が成立しているようです。

マダニの体内で、経卵感染もしますので、吸血しなくても、若虫と幼虫も感染を引き起こします。人や犬の体内に入ると、このリケッチアは、内皮系組織で増殖して、脈管炎を引き起こします。Rickettsia japonicaは、日本固有の病原体ですが、同じような紅斑熱群は、世界中で発生してて、輸入感染症としても獣医学的に重要な疾患です。

  •  症状
    •  犬がマダニに吸血されて、感染が進行すると、吸血後2週間ぐらいして、発熱や抑うつ症状が出ます。皮膚に、充血、点状出血、浮腫、壊死が認められます。鼻出血、結膜下出血、前房出血、前部ブドウ膜炎、虹彩出血、網膜点状出血、網膜浮腫がよく見られます。ときおり消化器症状も見られます。
    •  出血は、血管炎に由来します。血小板の消費による原因もありますが、免疫介在性の血小板減少症も起こるようで、播種性血管内凝固(DIC)も認められることがあります。
    •  中枢神経症状には、眼振・運動失調・斜頸などの前庭障害、発作、知覚過敏があります。治療をしないと、心原性の不整脈やショック、肺疾患、急性腎不全、重度中枢疾患で死亡します。

人では、発疹と頭痛、発熱、倦怠感を伴って発症します。潜伏期が2~8日と、ツツガムシ病の10~14日に比べやや短いのが特徴です。ツツガムシ病との臨床的な鑑別は困難です。

検査所見では、肝酵素(AST、ALT、ALP)の上昇、白血球減少および血小板減少、出血や血管炎によるアルブミンの組織移行による低アルブミン血症などがみられます。

  •  治療
    •  消化管からの水分と電解質の喪失、腎疾患、DICと貧血に対して、支持療法を行います。血管炎が重度だと、過剰補液による呼吸器や中枢神経の症状が悪化します。
    •  テトラサイクリン(20mg/kg、経口、BID、2~3週間投与)が第一選択薬で、ドキシサイクリン(5~10mg/kg、経口、BID、2~3週間投与)も効果が得られます。脂溶性が高いので、テトラサイクリンよりも消化管吸収、中枢神経への移行が良好です。5ヶ月齢以下の子犬には、クロラムフェニコール(20~25mg/kg、経口、BID、2週間投与)します。エンロフロキサシン(3mg/kg、経口、BID、1週間投与)も効きます。
    •  βラクタム系の抗生剤は、無効です。
    •  発熱、抑うつ、血小板減少は、治療開始後、24~48時間で改善します。

人への感染と予防
犬との接触で、直接、人に感染することはありませんが、犬が持ち込んだマダニで、人が感染します。犬に付着しているマダニを、素手で除去する際にも感染する可能性がありますので、注意しましょう。アルコールで弱らせて、ピンセットで抜去します。

発生は、マダニの活動が活発な、4~9月に増えますが、マダニを確実に制御することで、感染が予防されます。一度感染した犬への再感染はありません。終生免疫を獲得するようです。


その他のリケッチア感染症

Rickettsia felis
日本では問題にならないんですけど、Rickettsia felisというリケッチアが、ネコノミに寄生してて、紅斑熱様症状を発症させます。人に、発熱、頭痛、筋肉痛、斑状発疹がみられます。治療法は確立されてませんが、ドキシサイクリンやフルオロキノロンが効くはずです。ノミの予防をしましょう。

サケ中毒
サケの生食で犬に感染します。猫は感染しません。Neorickettsia helminthoecaが病原体です。これも日本にはありませんが、アラスカからサンフランシスコあたりのアメリカ北西部太平洋岸で認められる疾患です。このあたりに住む吸虫(Nanophyetus salmincola)がリケッチアを媒介するのですが、その吸虫に感染したサケを生で食べると感染します。発熱程度で回復するのが通常ですが、嘔吐や下痢を伴うこともあります。下痢は、小腸性下痢で、出血することもあります。下痢や嘔吐に対する対症療法と、リケッチアと吸虫の駆除で治療可能です。テトラサイクリン、ドキシサイクリン、クロラムフェニコールで、リケッチアは駆除できます。吸虫は、ドロンタールプラスで駆虫します。

Q熱
不明熱(Query fever;Q熱、コクシエラ症)と言われるもので、猫の出産・流産に関係しますが、人畜共通伝染病として重要ですので、詳細はそちらに。