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感染症/予防

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予防

病院での安全管理

 指針

微生物に対する安全管理をしっかり行えば、病院の中でも、飼い主が自宅でも、感染を予防できるようになります。

管理指針
・ 動物に触れる前後は、手を洗う
・ 人畜共通伝染病を取り扱うときには手袋を装着する
・ 手や手袋が汚染されているときは、
    院内の器具、書類、扉や壁への接触は最小限に
・ 院内では、診察着を着用し、こまめに選択する
・ 糞便、分泌物、滲出液で汚れた着衣は交換する
・ 器具類は清潔に保ち、動物への使用の度に消毒する
・ 検査台、ケージ、床は洗浄消毒する
・ 猫用トイレ、尿盆は使用後、洗浄消毒する
感染症が疑われる動物は、隔離する
・ 手術やX線検査は、可能な限り、終業後に行う
・ 診療所内で飲食しないこと

最も感染病原体が伝播されるのは、汚染された手、です。病院の獣医師、スタッフは、常に爪を短く切っておきましょう。個々の症例に対応する前後は、必ず、必ず手を洗いましょう。

手の洗浄・清拭には、紙タオルを使うほうが衛生的です。水道の蛇口を開くときも、紙タオルを使って、消毒石鹸で30秒間、指と爪の間までしっかりと洗浄して、完全にすすいだら、紙タオルで手を拭いて、その紙タオルで蛇口を閉めます。その後、皮膚消毒薬を使用します。汚れた手や手袋で、他の動物、飼い主、食事、扉・壁、引き出しや保管庫の取っ手や中の物、器具類、カルテなどに触らないことです。

院内では、診察着を着用して、履物も、汚れが付きにくく、付いても直ぐ落とせるものを着用しましょう。糞便や分泌物、滲出液で汚れたら、すぐに交換しましょう。聴診器、体温計、手術器具などは、伝染媒体になります。動物に使用するたびに、消毒をしましょう。特に、聴診器は忘れがちです。

感染症が、人と動物との間を移行しないように、院内での飲食は不可です。診察室、検査室は、常に清潔に保って、使用後は、すぐに消毒する癖をつけておきましょう。

 評価

感染動物を、早い時点で評価できると、感染症の蔓延を防ぐことができます。受付で、感染症による消化器系の疾患呼吸器系の疾患が疑われるなら、院内の汚染が最小限になるよう、場所を調整しましょう。下痢を呈している場合、くしゃみで膿性の鼻汁がある、発咳がみられている、発熱などが感染症の疑いを強くします。

 入院

サルモネラ属、カンピロバクター、パルボウイルス感染症、ケンネルコフ症候群、猫の上部気道感染症候群、日本ではまず見ませんが狂犬病やペスト、が疑われると、できれば院内隔離です。狂犬病やペストはもちろんのこと、パルボ、ケンネルコフ、サルモネラ、レプトスピラなどは隔離した方がいいでしょう。

隔離部屋への入退室では、専用の着衣を羽織って、履物も専用にして、出入りの度に必ず手と靴裏の消毒、ゴム手袋をして処置をして、マスクも着用しておくべきです。人畜共通伝染病(人獣共通感染症)なら、動物に咬まれないように細心の注意を払ってください。

糞便の取り扱い、廃棄についても、細心の注意を払って、廃棄袋の外側も消毒剤の噴霧をしましょう。当たり前ですが、食器やトイレは専用に。感染症の中には、体液を介してのみ感染するものもあり、隔離しなくとも、接触だけを避ければよい場合もあります。疑われる感染症が評価できていれば、対応は臨機応変にできます。

 消毒

感染症が疑われる動物は、あちこちにケージ移動させないようにしましょう。ケージ内の消毒は、消毒剤を噴霧して、10~15分程度、作用させてから清拭します。器具類も、消毒液に10分以上浸漬してから、清拭しましょう。ケージ内の糞便や尿、体液などはきれいに拭き取り、消毒することが必要です。床面に糞尿が付着すれば、拭き取った後、消毒液を使ってモップ掛けを行うなど、消毒を徹底します。

消毒剤は、ウイルスや細菌に対しては比較的効果がありますが、寄生虫卵、シスト、オーシストには、高濃度で長時間、作用させなければなりません。清潔さを保って、病院は常にきれいにしておきたいものです。


飼い主の安全管理

飼い主は、別の動物への接触、媒介物や中間宿主に接触するのを避けることが、感染症を予防する最良の方法になります。中には、飼い主に付着して感染するもの、中間宿主(蚊によるフィラリアの媒介など)が運搬して家庭環境に運び込まれるものもあります。

多くは、動物の免疫機能が低下している状態で、症状も重篤になります。子犬、子猫、老齢であったり衰弱している動物、免疫抑制疾患を患っている動物、合併症が発現している動物、ステロイドや細胞毒性のある薬剤を投与されている動物が、危険です。感受性が大きくなっているので、感染源への暴露を避けましょう。多くの動物の集まる場所への移動は、できる限り避けましょう。

公園の砂場などは、環境中で長期間生存できる病原体の一般的な感染源で、パルボウイルスや腸管内寄生虫は、その典型です。若齢の犬や猫など、ワクチンによる免疫応答が獲得できるまで、駆虫、ノミ・ダニ予防が終わるまでは、そのような場所に出掛けることは避けましょう。獣医師によく相談してください。


ワクチン

 ワクチンの種類

ワクチンは、犬と猫の感染症に有効で、感染を防御したり、発症した疾病を軽減させるために接種します。フェレットが犬ジステンパーウイルスに感染する恐れがあるので、フェレットも病院に来て、ワクチンを接種します。ワクチン接種によって、液性免疫、粘膜性免疫、細胞性免疫が誘導されます。

液性免疫反応は、免疫グロブリン(IgM、IgG、IgA、IgE)抗体産生を誘発します。マクロファージが抗原を提示して、Bリンパ球と形質細胞が産生します。感染や発症の防御作用は、病原体や毒素の抗体に結合して、ウイルスの凝集促進、細胞貪食の亢進(オプソニン化)、毒素の中和、細胞表面への吸着阻止、抗体依存性細胞障害の惹起によって起こります。

細胞性免疫応答は、Tリンパ球が関与していて、抗原特異性Tリンパ球が病原体をやっつけたり、マクロファージ、好中球、ナチュラルキラー(NK)細胞など白血球を刺激するサイトカインの産生を促して、病原体の殺滅に介在しています。

今、使っているワクチンは、感染性(弱毒化生)ワクチンと非感染性(不活化)ワクチンの2種類があります。弱毒化ワクチンは、体内で増殖して免疫応答を刺激するので、抗原含量が少なく、アジュバンドは不要です。非感染性ワクチンは、体内で増殖しないので、免疫応答を誘導するには生ワクチンよりも多くの抗原が必要です。アジュバンドを添加しないと、生ワクチンに比べて免疫応答能が低く、持続期間も短いのが特徴です。アジュバンドは、マクロファージの抗原取り込み・リンパ球への抗原提示を、手助けする補助的な溶媒です。以前は、このアジュバンドが、ワクチンの副作用・有害作用を発現する原因でもあったのですが、最近では改良されて、少なくなっています。

 ワクチンの選択

どのワクチンを接種すればいいのか、というのは、本来、非常に悩むところなのですが、様々な経緯と医学的な見解を持って、現在、犬では5種・6種のワクチンか、レプトスピラを含む8種・9種・11種までのワクチンのどちらかを選択することが多く、猫では3種か5種のどちらかの選択肢があって、家の中で100%飼育するのであれば、3種で大丈夫でしょう。フェレットは、犬5種ワクチンでいいかと思います。

理想的には、全ての犬や猫が利用可能なワクチンの全てを必要としているわけではなく、必要なもののみ接種する方がいいのでしょうが、単味ワクチンを分けて投与する手間とコストを考えると、飼い主さんにもあまり受け入れられません。犬や猫が病院に来る負荷、ストレスを考えて、獣医師としてもあまり奨めません。但し、余分なものまで接種する必要はありません。猫白血病ウイルスは、生体外で数分しか存在できないので、飼い主が室内にウイルスを運び込むことはないですし、室内猫がウイルスと接触する機会はありません。なので、室内100%飼育猫は、猫3種ワクチンで十分なわけです。

ワクチンが効果を発揮しない要因
・ 免疫応答が惹起されない
・ 既に野外株に感染している
・ 感染暴露量に圧倒されて免疫応答が誘導されない
・ 潜伏感染期にあった状態でのワクチン接種
・ ワクチン接種の失敗
・ 動物が免疫抑制にあって反応しない
・ 低体温や発熱で反応しない
・ 移行抗体を持っていて、ワクチンの反応を干渉
・ 弱毒生ワクチンが疾病を惹起

ワクチンの応答に影響を与える要因や、ワクチン接種が問題になる要因があります。体温が低下している動物は、Tリンパ球やマクロファージの活性が低下して、ワクチン接種に対して正常な応答ができない場合があります。逆に、体温が40度を超える状態でも、反応が鈍くなります。特に、犬ジステンパーウイルス。FIV感染、FeLV感染、犬パルボウイルス感染がある動物、消耗性疾患、免疫力が低下している動物でも、応答が十分にできないことがあります。

動物体内の特異抗体価が高ければ、ワクチンの効果は減殺されてしまいます。移行抗体(母子免疫)を持っている子犬や子猫には、考慮する必要があります。ワクチンを接種したときに、すでに感染を受けていて潜伏期間にあったため、ワクチン接種後に発症してしまうこともあります。麻酔下でのワクチン接種は、効果の減少があったり、副作用が起こってもはっきり発現しないので、避けるべきです。

全てのワクチンは、副作用を引き起こす可能性がありますが、健康な動物に投与する限り、その頻度は非常に低いものです。ワクチンの副作用が怖いからという理由でワクチンを接種しないことで、命に関わる感染症を発症する危険の方が大きいのではないでしょうか。ワクチンで、アレルギー反応を起こすことがわかっていれば、ワクチン接種前に処置をしておけば防げます。免疫介在性の疾患に罹患している動物には、ワクチンの接種は疑問です。免疫刺激によって病態が増悪する可能性があります。注意しましょう。

 犬のワクチン接種

すべての犬は、少なくとも年1回、ワクチンを接種をします。ほとんどの病原体に対して多くの製品があるのですが、日本で推奨されている感染症予防の混合ワクチンは、5種・6種ワクチン、レプトスピラを含む8種・9種・11種ワクチン、レプトスピラの単味ワクチンです。それと最も重要な、狂犬病ワクチンの接種です。

6種の混合ワクチンに含まれるのは、犬パルボウイルス犬アデノウイルス犬ジステンパーウイルス、犬パラインフルエンザウイルス、犬コロナウイルスを弱毒化して培養細胞で増殖させて冷凍乾燥させたもの(生ワクチン)です。レプトスピラは、不活化ワクチンで、液状になっています。

犬パルボウイルスは、不活化ワクチンを用いると移行抗体の干渉を受けつ可能性が高いので、生ワクチンを用います。犬アデノウイルスは、1型ワクチンでは、副作用が出るので、2型アデノウイルスワクチンを用いるのですが、アデノウイルス1型が原因の犬伝染性肝炎と、アデノウイルス2型が原因のケンネルコフに交差防御反応を示すので、2型ワクチンの接種のみで、両方の感染症を予防できます。犬ジステンパーウイルスを含めた3種のワクチン(対応4疾患)は、それらの疾患による致死率・感染力が高く、犬には絶対に投与が必要です。

犬パラインフルエンザウイルスは、ケンネルコフの原因となるウイルスです。生命に関わる疾患を起こさないウイルスで、人畜共通伝染病でもないですが、パルボウイルスや他の疾患と併発すると、致死率が上がるので接種しておきましょう。同じ理由で、犬コロナウイルスも同時に接種しておく方が望ましいワクチンです。コロナウイルス単体では、軽度な胃腸疾患で済みますし、発生率も低いです。しかし、パルボと同時に発症すると、致死率が高くなります。

レプトスピラの流行地域で飼育されている犬には、レプトスピラを含有するワクチンを接種しておくべきです。レプトスピラは世界中で発生しています。市販されているワクチンには、いくつかの血清型が含まれていますが、レプトスピラの血清型は250種程度あって、自然界にはどのワクチンにも含まれていない血清型があり、完全に防げるわけではありません。血清型の間で交差防御反応もありますが、わずかです。最も広く予防するには、11種ワクチンを接種して、レプトスピラ単味ワクチンを追加接種することです。そうすれば、8血清型のレプトスピラ感染が予防できます。詳しくは、予防プログラムを参照してください。

子犬に対しては、6週齢頃から開始して、4週間毎に追加接種します。1回目は、5種もしくは6種ワクチンを接種します。2回目以降は、レプトスピラ含有のワクチンを接種します。レプトスピラは不活化ワクチンですので、2回接種することでブースター効果が得られて効果を発揮します。不活化ですので、移行抗体がある時期に接種すると、効果が得られません。以降、1年に1回の追加投与を行います。レプトスピラの単味ワクチンは、その間に接種するといいでしょう。

狂犬病のワクチンは、法律で義務付けられています。すべての犬に接種します。早くて12週齢から接種可能ですが、現実的には、混合ワクチン接種が終わってからになります。不活化ワクチンですが、1回の接種で抗体を獲得します。


 猫のワクチン接種

すべての猫にも、少なくとも1年に1回、ワクチン接種をします。猫のワクチンの多くは、3種もしくは5種ワクチンです。6種以上のワクチンには、カリシウイルス株が追加されています。カリシウイルスは変異しやすいためです。

必ず接種すべきワクチンは、猫ウイルス性鼻気管炎(猫ヘルペスウイルス感染)・猫カリシウイルス感染症猫汎白血球減少症(パルボウイルス感染)です。風邪のような症状や、腸炎症状がみられます。

私が使っているのは、生ワクチンですが、不活化ワクチンもあります。生ワクチンの場合、体調が悪い猫、衰弱している猫、妊娠している猫には、接種しないようにしましょう。子猫には、6週齢で1回目のワクチン接種を行って、4週間後に追加接種をします。16週齢までには終わらせておきましょう。以降、1年に1回の接種を行います(ブースター効果)。保護した際に16週齢を超えている猫や、ワクチンの接種歴が不明の猫にも4週間あけて、2回接種します。

5種のワクチンには、クラミジア病(クラミドフィラ・フェリスによる感染)と猫白血病ウイルス(FeLV)感染症ワクチンが含まれています。クラミジア病は、一般的には、軽度の結膜炎を呈するだけで、抗生物質で治療できます。別の猫との接触がある猫には接種しておいた方がいいワクチンです。FeLVワクチンも、外出する猫、FeLV感染状況が不明な猫との接触がある猫には接種しておくべきです。既に持続的なウイルス血症の猫には効果がないですが、ウイルス血症や潜伏感染している猫に投与しても、有害作用はありません。FeLVワクチンを接種する前には、ウイルス検査を行いましょう。

猫エイズウイルス(FIV)ワクチンもあります。予防を行うなら、初年度は3~4週間間隔で3回の接種を行い、その後、1年毎に追加接種を行います。これもワクチン接種前には、ウイルス検査を行いましょう。抗体陽性なら、ワクチン接種は行いません。
このワクチンの問題点として、接種後は、検査で陽性反応が出ます。そうなると感染の判断をできなくなります。野外に出る猫、喧嘩をしたことがわかっている猫、FIV感染猫と一緒に飼育されている猫など、感染の危険性が高い猫にのみ、接種するべきかと思います。

狂犬病ですが、猫も哺乳動物なので、狂犬病が感染します。本来であれば、犬と同じく、1年に1回の接種が必要なのですが、幸い、日本は、永らく狂犬病が発症しておりません。なので、法律でも犬以外は狂犬病ワクチンの接種義務はありません。ですが、犬で狂犬病の発症が確認されたら、猫も対象になります。なので、犬の飼い主さん、狂犬病の予防接種は、必ず受けてください。