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感染症/人畜共通伝染病

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人畜共通伝染病(人獣共通感染症、ズーノーシス)

人畜共通伝染病の予防指針
・ 飼い主への情報提供をしっかり行うこと
・ 報告義務のある人畜共通伝染病が診断されたら速やかに行うこと
・ 狂犬病ワクチン接種は必ず行うこと
・ 鉤虫や回虫の定期的な駆除を行うこと
・ ノミとマダニの駆除を常に行うこと
・ 咬まれたり、引掻かれたりしないように気をつけること

・ 飼い始める時は、動物病院での健康診断を行う
・ 定期検診を年1~2回、受信する
・ トイレや糞便の処理を的確に行い、清潔に保つ
・ 手洗い施行
・ ペットと食器を共用しない
・ 動物に舐められないように
・ 猫の爪は頻繁に切る
・ ハエやゴキブリを可能な限り駆除する
・ 肉は加熱調理する
・ 生肉を触ったら、石鹸と水でしっかり手を洗う


腸管感染の人畜共通伝染病

人と動物に共通する消化管の感染因子は比較的多くあって、人の健康を脅かす可能性があるので、診断を怠らないようにしましょう。糞便検査を必ず行って、寄生虫卵、カンピロバクターのような細菌感染を防止するように努めましょう。

 線虫

犬回虫や猫回虫に注意しましょう。回虫は、糞便中の虫卵として伝播することが多く、虫卵で子虫が形成されて1~3週間後に感染性が生じます。環境中で数ヶ月間、生存可能で、人は子虫形性卵を経口摂取して感染してしまいます。

一般的には、犬の方が、猫よりも、虫卵を拡散することに注意すべきなんですが、野良猫が公園の砂場で排便することが感染経路として重要な場合があります。特に、小さな子供は注意が必要です。但し、排泄された虫卵が直ちに感染性を持つ訳ではないので、素早く処理すれば感染のリスクは低くなります。同時に、人が犬や猫に触ることで感染することもありません。

鉤虫類、糞線虫などは、糞便中に虫卵が排出されると、1~3日間で発育して、感染子虫が遊出します。遊出した子虫が、人や動物に対して、経皮感染します。子虫形性卵の摂取後には、人に好酸球性腸炎も引き起こします。

鞭虫は、犬の大腸性下痢に関連する寄生虫ですが、人に対して消化管症状を起こすことはありません。

症状
犬や猫への回虫感染は、不顕性感染も多いです。症状が出ると、被毛の粗剛、発育不全や胃腸症状を呈します。感染性虫卵を摂取した後、子虫は腸壁を穿孔して組織移行します。皮膚、肺、中枢神経系、眼などに好酸球性肉芽反応が起こって、症状を引き起こします。

人には、皮膚の発疹、発熱、発育不良、中枢神経症状、発咳、肺胞浸潤、肝臓や脾臓の腫大があります。末梢での好酸球増加症もよくみられる所見です。眼内子虫移行症では、網膜病変がみられて、視力低下の原因になります。ブドウ膜炎や内眼球炎も起こります。内臓子虫移行症は、幼児にみられることが多いのが特徴です。

犬や猫への鉤虫や糞線虫の感染は、不顕性感染もありますが、被毛の粗剛、発育不良、嘔吐や下痢を示します。子犬や子猫への重度の寄生では、出血性貧血のたね、粘膜蒼白が認められます。

人には、皮膚表皮接合部を子虫が通過できないので、多くは表皮内で死滅します。運悪く体内移行してしまう際に、紅斑性で、痒感のある皮膚の隧道ができますが、数週間以内に消失します。腸管に寄生すると、腹痛が起きます。

予防
回虫と鉤虫の予防は、糞便を適切に処理することで行います。
糞便検査で、虫卵を確認したら、駆虫薬(ドロンタール)を投与して駆除しましょう。回虫や鉤虫は、不顕性感染も多いので、特に、子犬や子猫の時期に、検便で虫卵が確認できなくても、駆虫しておくといいでしょう。胎盤感染するので、母犬や母猫も、駆虫しておくべきです。

流行地域では、定期的な駆除薬の投与(3ヶ月に1回)が推奨されています。イベルメクチンも腸管内寄生虫の駆虫薬として使用可能ですが、毎月のフィラリア予防の用量ではあまり効果は期待できないので、ドロンタールを用いた方がいいと思います。猫は、レボリューションで、フィラリアと共に回虫の駆除が可能です。

 条虫

瓜実条虫やエキノコッカス(単包条虫や多包条虫)が、人に寄生する条虫です。瓜実条虫は、ノミによって伝播されて、子供に寄生することが多くて、下痢や肛門部の瘙痒があります。

エキノコッカスは、日本では、北海道で見られるのが一般的です。それは、エキノコッカス属の終宿主が野生の肉食獣で、最も一般的な終宿主がキツネ、だからです。終宿主の糞便中に虫卵が排出されて、周囲の地面や水、植物等を汚染します。それを羊、牛、豚、山羊などの草食獣や、ウサギなどのげっ歯類が経口摂取して中間宿主となります。羊やウサギの肉を摂取した犬の糞便(単包条虫)で伝播したり、感染したげっ歯類を捕食した犬や猫(多包条虫)の糞便で伝播します。人への感染も、経口摂取です。人がエキノコッカスの虫卵を摂取すると、ただちに感染能を示して、門脈循環に入って、肝臓やその他の組織に伝播します。

治療は、ドロンタールで行います。
予防は、犬や猫に、捕食をさせないこと、市販の肉などは加熱調理してから与えること、です。北海道で、自由に外で行動する可能性がある犬や猫には、ドロンタールを毎月服用させて、ノミの駆除もしっかり行いましょう。

 コクシジウム

コクシジウムってのは、消化管などの細胞内に寄生する原生生物の一群、のことを言うんですが、獣医界で、単に「コクシジウム」というと、鶏のコクシジウムのことを指して、アイメリア属の感染が重要です。コクシジウムは、消化管、消化腺の上皮細胞内に寄生することが原則です。ここでは、犬や猫などの小動物臨床で、コクシジウム類で、人畜共通伝染病として必要なもの(クリプトスポリジウムとトキソプラズマ)を記載しておきます。

クリプトスポリジウム
クリプトスポリジウムは、哺乳類、鳥類、亀や魚類を含めて、多くの脊椎動物の呼吸器や腸上皮に生息しています。げっ歯類、犬、猫、牛や人など、いくつかの哺乳類に、胃腸疾患を起こすことが知られています。薄い壁を持った自家感染性オーシストと、厚い壁の抵抗性オーシストがあります。後者は、糞便を介して伝播します。オーシスト(直径4~6μm)では胞子が形成されて、直ちに他の宿主に対して感染性を持ちます。

クリプトスポリジウムに感染している率は、比較的高く、下痢が長引く犬や猫では、検査をしておいた方がいいと思います。糞便中にオーシストがみられることが稀なので、抗体価を調べられるのであれば、調べておいた方がいいでしょう。感染経路は、糞便から口への汚染、汚染された水の摂取など、人から人へのオーシストとの接触も考えられます。

犬や猫でのクリプトスポリジウムの寄生の多くは不顕性です。下痢は、小腸性です。免疫抑制で発症することがあります。治療には、アジスロマイシン(10mg/kg/日)、タイロシン(10~15mg/kg、BID)で、症状は改善します。消化管から完全に除去することは出来ません。予防は、接触をさけることだけです。クリプトスポリジウムは、一般の消毒液には比較的耐性があります。乾燥、凍結や煮沸消毒することで、不活化します。

トキソプラズマ
世界中に分布するコクシジウムの仲間です。猫が唯一の終宿主です。腸上皮で有性生殖を行って、糞便中に抵抗性のある未分化オーシストを排泄します。酸素存在下で、1~5日かけてオーシストが胞子を形成して感染性を持ちます。感染すると、腸管外で発育が進行して、病原体を含むシストが組織内に分布します。感染は、胞子形成オーシストの摂取、組織内のシストの摂取、経胎盤で起こります。妊娠中は、十分に注意してください。

猫や犬での症状は、発熱、ブドウ膜炎、肺疾患、肝障害、中枢神経障害です。健康な人での感染は、多くは無症状なんですが、発熱、リンパ節の腫脹、倦怠感がみられることもあります。胎盤感染すると、死産、水頭症、肝臓や脾臓の腫大、脈絡膜炎などがみられます。免疫抑制状態になると、感染が活性化されることもあります。

トキソプラズマは、有名な人畜共通伝染病ではありますが、猫から直接的な感染は、まずありません。オーシストの排泄期間は、感染してから数日~数週間であり、その上、感染性を持つ胞子をを形成するにも時間が掛かるので、新鮮便との直接接触は、感染の原因とはなりません。なので、妊婦が猫を飼ってはいけない、ということにはならないので、安心してください。


 鞭毛虫

鞭毛虫(ジアルジア)は、糞便との接触で伝播する、腸管原虫です。シストが感染性となるまでの発育期間は不要です。他にも、アメーバや繊毛虫などの腸管原虫がありますが、犬や猫では稀な疾患ですので、省略します。

ジアルジア感染は、一般的で、小腸性下痢を呈する犬や猫からも検出されます。免疫不全の症例や、幼犬でよく観察されて、重篤になることがあります。糞便中にシストとして排出されると、すぐに感染性を示すので、犬・猫と人との間で、直接感染する可能性がある人畜共通伝染病です。

感染率が比較的高いですし、糞便検査を、全ての犬や猫で、早い時期に行った方がよく、症状があれば、メトロニダゾールなどで治療を行い、ドロンタールで駆除する処置を取ります。糞便中には、トロフォゾイトが検出できます。治療や駆虫薬で、症状の改善やトロフォゾイトの検出ができなくなっても、消化管から完全に排除することはできません。多くの犬や猫は、再感染がみられます。治療の目標は、下痢を治めることです。

予防は、糞便の取り扱いに注意して、煮沸消毒、手洗い施行を行うこと、です。


 細菌

サルモネラ、大腸菌、エルシニア、ヘリコパクター、カンピロバクターといった細菌は、犬や猫に感染して、人の疾病の原因ともなります。感染は、動物から人への、糞便から付着して経口感染です。

サルモネラの感染は、犬や猫では不顕性感染のこともあります。症状が出ると、胃腸炎や菌血症に移行します。子宮内に感染すると、突発性流産、死産、新生子の出生後の死亡が起こります。猫と人のサルモネラ感染は、小鳥の感染と関連しています。治療は、抗生物質で行えば症状も抑えられますが、不顕性感染している場合は、耐性菌が出現する機会を与えるので、処方してはいけません。

ヘリコパクター菌は、犬や猫で感染が確認されているようですが、人への感染があるかどうかは、定かではありません。感染すると、嘔吐、ゲップなどが目立つようになります。

カンピロバクターも、犬や猫には胃腸炎を起こします。若齢の犬で、カンピロバクターが下痢便の検便でよく観察されます。これも抗生剤で治療すれば、症状は改善します。消化管からの排除は不可能です。

エルシニアは、動物では症状を呈さないようですが、人では、発熱、腹痛、多発性関節炎、菌血症の原因となります。

上記、細菌による人畜共通伝染病を予防するには、衛生管理をしっかりすることと、糞便への暴露を少なくすることが基本です。


咬傷・掻傷・滲出物による人畜共通伝染病

 細菌

犬や猫による咬傷や引っ掻き傷によって、健常人なら、普通は、局所感染を起こします。犬や猫の口の中(歯肉)には、カプノサイトファーガ・カニモルサスというグラム陰性の桿菌が存在していて、これに感染した場合に全身性に症状を示すことがあります。

犬や猫の口腔内には、多種多様な細菌が生息していて、不顕性に保菌しています。咬まれたり、引っ掻かれたりすると、局所性に蜂窩織炎が認められます。菌血症や発熱、倦怠感がみられることもあり、免疫不全や脾臓摘出をした人では、症状が重篤になって、死亡することもあります。その原因菌がカプノサイトファーガ・カニモルサスです。局所創傷部の処置や抗生物質で治療をしましょう。ペニシリンやセファロスポリンで大丈夫です。保菌している犬や猫の治療は不要です。

猫の咬傷では、マイコプラズマ感染に注意しましょう。人で、フレグモーネや敗血症性関節炎がみられることがあります。マイコプラズマのようなL型菌は、細胞壁がありませんので、ペニシリンやセファロスポリンのような細胞壁合成阻害作用を持つ抗生物質は効き目がありません。猫で、慢性的に皮膚の創傷で排膿がみられる場合や瘻管を形成している場合は、必要なら手袋を着用して、手洗いを徹底しましょう。

バルトネラ菌は、猫ひっかき病、細菌性血管腫や細菌性紫斑病の原因菌です。ノミが媒介する疾病ですから、ノミを駆除することは重要です。人が猫ひっかき病に罹ると、リンパ節の腫脹、発熱、倦怠期、体重減少、筋肉痛、頭痛、結膜炎、発疹、関節痛などの症状を呈します。猫ひっかき病の潜伏期間は約3週間です。治癒するには、数ヶ月掛かることがあります。人から人には感染しません。細菌性紫斑病は、肝臓でのび慢性全身性脈管炎です。

バルトネラ菌を潜在的に保菌している猫に対して、抗生剤を投与しても、猫ひっかき病を予防することはできません。あくまで、ノミの駆除をしっかりと行って、猫の爪は短くしておき、咬まれたり引っ掻かれたりすることのないように、気をつけることです。

エルシニア菌(Yersinia pestis)が原因となるペストも人畜共通伝染病として重要です。グラム陰性桿菌であり、げっ歯類が自然宿主となってて、猫がげっ歯類(ネズミ類)やウサギを摂食すること、エルシニアに感染したノミに猫が咬まれて感染することが感染経路です。犬は抵抗性があって、感染には重要ではありません。人への感染は、感染猫との接触で、肺ペストの猫の呼吸器分泌物の吸入、猫による咬傷、粘膜や滲出液のついた皮膚からの感染で起こります。人での症状は、発熱、頭痛、倦怠感などです。猫での症状は、化膿性リンパ節炎が主な徴候です。ペストの疑いがあれば、ノミの駆除を行って、抗菌薬を投与します。投与後4日後には、人に対して感染性はなくなります。

野兎病というのがあります。Francisella tularensisが原因菌です。グラム陰性桿菌です。「やと」と読みますが、「ノウサギ」ですね。野兎でみられることがあるので、そういう名前になったのでしょう。鼠などのげっ歯類も感染源となります。マダニが媒介します。人への感染は、感染猫との接触が原因のようです。猫は、マダニに刺咬される場合と、感染したウサギやげっ歯類を摂食することで感染します。犬は感染源ではないですが、マダニを環境中に持ち込む可能性がありますので、注意しましょう。

野兎病に感染した猫は、全身性リンパ節の腫脹、肝臓や脾臓などでの膿瘍形性、結果として発熱、食欲不振、黄疸がみられ、重症例では死亡します。人では、潰瘍腺型、眼リンパ節型、口腔咽頭炎型、肺炎型、腸チフス型があるようです。ペストとは異なって、病原体は感染猫の滲出液やリンパ節の穿刺標本中には認められないことが多いのが特徴です。

野兎病の明確な治療法はわかりません。人では、ストレプトマイシンやゲンタマイシンがよく使われるようです。予防には、野兎や感染猫への接触を避けることと、マダニ駆除を行うことです。


 真菌

真菌の中で、スポロトリコーシスと皮膚糸状菌は、人に直接感染します。動物では、猫によく感染します。猫同士、爪で引っ掻いたときや、人が猫に引っ掻かれた時、創傷部の皮下粘膜が真菌に汚染されて感染します。ヒストプラズマ、ブラストミセス、コクシジオイデス、アスペルギルス、クリプトコッカスも真菌の感染症ですが、共通環境下への暴露による感染であり、直接感染とはちと、違います。

スポロトリコーシスは、世界中に分布してて、土壌の常在菌と考えられます。感染すると、猫では体表リンパ節、皮膚に起こります。全身に播種することもあります。皮膚の瘻管形成は、よく見られる所見です。菌体は、糞便、組織、滲出液中に排出するので、獣医さんは、特に感染に注意しましょう。

人での症状も、猫と同様です。犬からは菌体は排出されないので、感染源としての危険性は低いです。治療には、イトラコナゾールやケトコナゾールが効果的です。予防は、手洗いをしっかり行うことです。


 ウイルス

最も重大な人畜共通伝染病は、日本では認識が薄いですけど、狂犬病です。これは、狂犬病は神経系の疾患の項に記載しています。参照してください。

オーエスキー病(仮性狂犬病)という、豚に感染するヘルペスウイルスがあって、人や犬に対して暴露されると、感染性のない痒感を伴う皮膚病を発症します。犬では、たまに、抑うつや発作が特徴的な中枢神経性症状を発現します。


呼吸器と眼の人畜共通伝染病

ボルデテラ菌は、犬や猫の気道感染を引き起こす細菌です。原因菌は、Bordetella bronchisepticaで、人の気管支敗血症菌と言われるものです。犬や猫でも、気管支炎が主要な徴候ですが、肺炎、くしゃみ、鼻汁の原因にもなります。人への感染で注意するのは、免疫不全の状態で症状が重くなるということです。抗生剤が効きます。アモキシシリン、クロラムフェニコール、エンロフロキサシン、テトラサイクリンなど、全て効果的です。犬や猫は、治療後も排菌しているので注意しましょう。

クラミジア病は、猫の緩慢な結膜疾患と鼻炎を起こします。原因菌は、Chlamydophila felisです。猫と人との間で伝播していると考えられています。猫の眼の滲出物に接触した人で、結膜炎が報告されています。目薬で、テトラサイクリンやクロラムフェニコールが有効です。治療時に、呼吸器や眼からの分泌物が、直接結膜に接触しないように注意しましょう。手洗いの施行が予防にもなりますが、猫5種ワクチンの接種で予防も出来ます。

メチシリン耐性ブドウ球菌(MRSA)の蔓延が重要な問題として起こっていますが、MRSAを人畜共通病原体と考えておいた方がいいようです。人は連鎖球菌性咽頭炎の原因菌(Streptococcus属)の自然宿主で、これが犬や猫との接触で、犬や猫に一過性もしくは不顕性に感染して咽頭で増殖、それが、他の人に伝播していく感染形態もあるようです。耐性菌の出現は、無駄な抗生剤の投与に起因することも多々あって、特に、人で使用する抗生剤を、犬や猫にも使っているために、犬や猫から感染した細菌が耐性を獲得している、ということが起こっています。可能な限り、犬や猫には、動物用の抗生剤を使用するようにしましょう。同時に、抗生剤の使用量はしっかりと守りましょう。治療効果のない用量を投与することでも耐性菌の出現の危険性が増加しますので。

エルシニア症(ペスト)や野兎病も、呼吸器分泌物を介して、猫から人に伝播します(上記項目参照)。ペストや野兎病の流行地域では、X線検査で肺炎を疑う猫がいたら、取り扱いに注意しましょう。手袋、マスク、眼鏡の着用や、手洗いなど清潔に保つことが予防になります。

ウイルス性の疾患として、鳥インフルエンザA型(H5N1型)は、感染鳥に暴露されて猫に感染することがあります。呼吸器症状を示したり、不顕性感染を起こすこともあります。これまでは、感染猫から人への感染されたという報告はないですが、ウイルスはいつ突然変異をして、人への感染能を獲得するかわかりませんので、注意しておく必要があります。


生殖器と泌尿器の人畜共通伝染病

Coxiella burnetii(Q熱)は、リケッチアで、多くのマダニがこれに自然感染しています。牛、羊、山羊は不顕性感染していることがあり、尿、糞便、乳や分娩で病原体を環境中に排出することがあります。

猫への感染が一般的で、突発性流産に関係しています。マダニの媒介、汚染した肉の摂取や環境からの飛沫吸入で起こります。人への感染は、分娩や流産した猫を介した飛沫暴露で起こります。感染後、4~30日で発症して、発熱、倦怠感、頭痛、間質性肺炎、筋肉痛・関節痛など、リケッチア症でみられる急性徴候を示します。慢性Q熱に進行することがあり、肝炎や弁膜性心内膜炎の症状が発現します。

治療には、テトラサイクリン、クロラムフェニコール、キノロンが有効です。猫の分娩や流産を取り扱う際には、手袋をするなり、マスクを着用するなり、これらは普通のことですが、忘れずに。分娩猫、流産猫を取り扱った後に、発熱や呼吸器症状が出たら、病院(←人間の)に行きましょう。

レプトスピラは、感染した犬や猫の尿を介して、人に伝播して、症状を引き起こします。レプトスピラ菌は、皮膚の擦り傷や粘膜を介して、人の体内に侵入します。症状は、菌の血清型でさまざまですが、犬で起こる症状とよく似ています。発熱、倦怠感、尿路感染、肝疾患、ブドウ膜炎、中枢神経疾患がみられます。レプトスピラ症の疑いがある犬を扱う際には、手袋を着用するなどの対処を行いましょう。使った器具で、再利用するものは、洗剤でよく洗浄して、ヨウ素を含む消毒液で殺菌してください。

Brucella canis(ブルセラ症)は、犬の精巣、前立腺、子宮や膣を好んで感染する疾病です。感染は、交尾によって伝播して、犬の体内で菌は維持されます。膣や分娩排出物への直接接触で、人にも感染します。

犬での症状は、流産、死産、不妊、精巣炎、精巣上体炎、膣の排出物、ブドウ膜炎、椎間板脊椎炎や菌血症などがみられます。人の場合は、間欠性の発熱、抑うつ、倦怠感が一般的です。疑わしい症例は、検査機関で抗体検査を行いましょう。

長期の抗菌薬療法を行っても、多くの場合、感染の完全治癒には至りません。テトラサイクリン系の抗菌薬が有効ですが、細胞内寄生をするので、キノロン系の抗菌薬を併用する必要があります。これは人の治療も同じなのですが、と言いますか、人はこれで治療しますが、ブルセラ病は法定伝染病なので、これが確定診断されると、動物は殺処分です。なので、治療はしたくてもできません。

卵巣・子宮摘出手術(避妊手術)や去勢手術を行うことで、人の環境中への菌の汚染を軽減させることが予防につながります。


共通媒介動物・共有環境の人畜共通伝染病

ノミやマダニ、蚊などが人畜共通伝染病の共通媒介動物になって、犬や猫と人との間で、感染症を伝播させることがあります。リケッチア、エールヒリア、アナプラズマ、ライム病、バルトネラ、瓜実条虫などがノミやマダニで感染します。日本脳炎とかは、蚊が媒介します。日本以外では、ウエストナイル熱っていう蚊が媒介する病気が、類似のウイルス感染症です。

ノミやマダニ媒介性の人畜共通伝染病では、ペットが環境中にノミやダニを持ち込んできて、その結果、人が暴露されて感染するということが起こり得ます。もちろん、動物に寄生していなくても、直接、人に寄生して感染することもあります。

犬や猫に対するノミ・ダニ予防、駆除は、常に実施するべきで、年間を通じて行う方が安全です。寄生しているノミやダニを見つけたら、速やかに処置しましょう。但し、ダニはむやみに掴んで引っ張ってはいけません。針が皮内に残ってしまいます。動物病院で対処してもらいましょう。

直接感染では伝播しませんが、ペットと同じ環境中にいることで感染するものがあります。真菌症などがそうです。ヒストプラズマ、コクシジオイデス、ブラストミセス、クリプトコッカス、アスペルギルスなど、各項目を参照してください。