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感染症/抗菌薬治療

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抗菌薬治療

選択した抗菌薬は、原因菌に対して的確な作用機序を示すものであり、感染組織で有効な濃度に達するものでなくてはなりません。静菌的な抗生剤が、最大限の効果を発揮するには、正常な免疫応答が必要ですので、免疫抑制下にある動物には、効果が低くなります。飼い主も、獣医師から決められた投与間隔で薬を飲ませること、確実に飲ませること、が必要です。抗菌薬による副作用も考慮して選択することも大切です。

単純な感染や毒性のある抗菌薬を使わざるを得ない場合は、薬効量の下限用量を最長期間、投与します。下限は絶対に下回らないように! 薬剤耐性菌の発生を促してしまいます。一方、細胞内の病原体、嫌気性菌感染症、菌血症などの生命に関わる感染症や中枢神経系感染症では、薬効量の最大用量を最短期間、投与します。また、生命に関わる感染症では、最初の3~5日は、非経口的に抗菌薬を投与すべきです。嘔吐や吐出の場合も含めて、確実に体内に抗菌薬を投与するためです。経口投与は、致命的な状況が改善されてからにしましょう。

単純感染で、免疫応答が正常なら、7~10日の抗菌薬療法で、確実に反応してきます。治療は、臨床症状が消失した後、1~2日程度続ければ大丈夫であることが通常です。しかしながら、慢性感染症、骨感染症、細胞内感染を起こす感染症、肉芽腫形成のみられる感染症、免疫抑制状態の症例では、症状が治まっても、最低1~2週間、通常は、4~6週間の投与が必要です。

抗菌薬の感受性試験結果が判明したら、必要に応じて、選択した抗菌薬を変更します。また、抗菌薬投与3日を経過しても、治療効果が思わしくない場合も、変更を考えましょう。

主な抗菌薬と投与量の目安

薬剤作用機序性質用量投与経路
アセトアミド系
 クロラムフェニコール


蛋白合成阻害


静菌的


犬:15~25mg/kg・BID
猫:10~25mg/kg・BID

po・sc・
iv・im
アミノ配糖体
 ゲンタマイシン
 ネオマイシン
蛋白合成阻害殺菌的
6~8mg/kg・SID
20mg/kg・BID

iv・im・sc
po
カルバペネム系
 イミペネム

細胞壁合成阻害

殺菌的

3~10mg/kg・BID

iv・sc・im
セファロスポリン系
 セファレキシン
 セファゾリン
 セフォキシチン
 セフォキシム
 セフォタキシム

細胞壁合成阻害





殺菌的





20~50mg/kg・BID
20~30mg/kg・BID
15~30mg/kg・BID
5~12.5mg/kg・BID
20~80mg/kg・BID

po
sc・im・iv
sc・im・iv
po
sc・im・iv
マクロライド系
 アジスロマイシン

 クラリスロマイシン
 クリンダマイシン

 エリスロマイシン
 リンコマイシン

 タイロシン

蛋白合成阻害









静菌的









犬:5~10mg/kg・SID
猫:5~15mg/kg・SID
5~10mg/kg・BID
犬:5~20mg/kg・BID
猫5~25mg/kg・BID
10~25mg/kg・BID
10~20mg/kg・BID

5~40mg/kg・BID

po
po
po
po・sc・iv
po・sc
po
po・im・
sc・iv
po
ニトロイミダゾール
 フラジール

蛋白合成阻害

殺菌的

犬:10~25mg/kg・BID

po
ペニシリン系
 アモキシシリン


 アンピシリン

細胞壁合成阻害




殺菌的




10~20mg/kg・BID

猫で50mg/kg・SIDもOK
20~40mg/kg・BID

po・sc・
im・iv
po
sc・im・iv
キノロン系
 エンロフロキサシン


 マルボフロキサシン

核酸合成阻害




殺菌的




犬:5~20mg/kg・SID

猫:5mg/kg・SID
2.75~5.5mg/kg・SID

po・im・
sc・iv
po・im
po
サルファ合剤
 トリブリッセン

中間代謝阻害

殺菌的

15~30mg/kg・BID

po・sc
テトラサイクリン系
 ドキシサイクリン
 テトラサイクリン

蛋白合成阻害


静菌的


5~10mg/kg・BID
20mg/kg・BID

po・iv
po


嫌気性菌感染症

嫌気性菌ってのは、酸素が少ないところでないと発育できない細菌です。ある程度酸素が存在してても発育できるのを通性嫌気性菌、酸素を代謝利用できない酸素存在下では死滅するのが偏性嫌気性菌といいます。嫌気性菌は、口腔や膣粘膜のように、酸素分圧が低くて酸素消費量の低い部位で正常菌叢を構成します。

嫌気性菌による感染は、自分の菌叢からの感染です。血液還流不足、組織壊死、免疫抑制などが原因となります。嫌気性菌は、組織を傷害して、菌巣形成を促進する酵素や物質を産生します。嫌気性菌による感染には、好気性菌が混在しているのが普通ですので、治療にあたっては、考慮が必要です。

感染部位は、口腔咽頭、中枢神経、皮下組織、筋・骨格系、消化管、肝臓、生殖器(膣内)が多く、誤嚥性肺炎や肺葉が硬化している動物では発現し易いようです。症状として嫌気性菌の感染を疑うのは、歯肉炎・口内炎、鼻炎、眼球後膿瘍、咽後膿瘍、誤嚥性肺炎、膿胸、中耳炎・内耳炎、中枢神経感染症、咬傷、開放創・開放骨折、髄膜炎、腹膜炎、細菌性肝炎、子宮蓄膿症、膣炎、菌血症、弁膜性心内膜炎などです。

けんか、異物誤嚥、直近の外科手術・歯科治療、免疫抑制疾患、アミノグリコシドやフルオロキノロン耐性菌の感染症、腐敗臭や黒色滲出液を呈する病変、漿液血液状滲出液を伴う有痛病変を認める症例は、嫌気性菌の感染を疑います。好気性菌培養陰性でも、細胞診で、細菌を伴う好中球性炎症像や硫黄顆粒が認められても、嫌気性菌感染です。

治療は、感染部位の血流と酸素供給を改善すること、です。抗菌薬の投与と、排膿、壊死組織の除去を行います。膿胸、肺炎、腹膜炎、菌血症に伴う症状を示す犬や猫には、非経口的な抗菌薬の投与が必要です。アンピシリン、アモキシシリン、クリンダマイシン、メトロニダゾール、セファロスポリン(第1世代か第2世代)、サルファ剤、クロラムフェニコールあたりを使用します。具体的には、グラム陰性球桿菌が好中球性浸出液中に検出されたら、メトロニダゾール、第1世代のセファロスポリン、アモキシシリンなどを用います。

菌血症/細菌性心内膜炎

歯科処置が、菌血症の原因になることが多いようです。間欠性菌血症は、免疫抑制があったり、危篤状態での発現が多く、泌尿器系や消化器系が感染源となります。持続的な菌血症は、細菌性心内膜炎に伴って起こるのが一般的です。

症状は、間欠的な発熱、元気消失で、原発組織・器官に関連した症状もみられます。敗血症は、感染に対する全身反応で、末梢循環不全となって発現します。

原因が、消化管のような混合細菌叢に由来する場合や、重篤な症状を呈している動物は、グラム陽性・グラム陰性・好気性・嫌気性菌、全てに対して有効な抗菌薬を用いるか、組み合わせて使うことが必要になります。グラム陰性菌にはアミノグリコシドやキノロン、グラム陽性菌と嫌気性菌にはアンピシリン・第一世代セファロスポリン・メトロニダゾール・クリンダマイシンを併用して使います。

5~7日間は、抗菌薬を非経口的に投与しましょう。その間に、培養と感受性試験を行って、結果に基づいて経口薬を選択していくといいでしょう。抗菌薬の服用は、少なくとも4~6週間、継続します。確認のため、投与終了後1週目と4週目に、血液の培養を実施しておくといいでしょう。細菌性心内膜炎の犬や猫は、感染による心臓弁膜障害が残るので、治療しても、予後不良です。

菌血症/細菌性心内膜炎で用いる抗菌薬の処方例

感染因子選択する抗菌薬
敗血症
菌血症
細菌性心内膜炎



1. エンロフロキサシン+ペニシリン
 (ABPC・AMPC・クリンダマイシン・第一世代セファロスポリン)
2.  アミノグリコシド+ペニシリン
 (ABPC・AMPC・クリンダマイシン・第一世代セファロスポリン)
3. 第二・第三世代セファロスポリン
4. イミペネム


呼吸器感染症

細菌性上部気道感染症の多くは、異物、ウイルス感染症、歯根膿瘍、腫瘍、外傷、真菌症や、それ以外の原発性疾患に続発するものです。鼻と副鼻腔上皮の炎症の後、常在細菌叢が形成されて定着します。軟骨炎や骨髄炎に至る深部感染が起こることもあります。上部呼吸気道には、正常でも細菌叢が存在するので、感受性試験の結果を評価するのは困難です。

一次損傷の原因があれば、除去します。経験的に、アモキシシリン、サルファ合剤、第一世代セファロスポリンなどの嫌気性菌に有効な広域スペクトルを持つ抗菌薬が、常在細菌叢の異常増殖に続発する上部気道感染症の治療に処方されます。治療期間の目安は、1~2週間ですが、骨軟骨炎と推測される慢性鼻炎を呈するようなら、4~6週間の投与を行いましょう。症状が治まっても、2週間は処置した方がいいでしょう。慢性鼻炎には、クリンダマイシンがいいようです。嫌気性菌とグラム陽性菌が主な細菌叢で、クリンダマイシンは、軟骨や骨組織に浸透しやすいようです。

猫では、ボルデテラ・マイコプラズマ・クラミジアが、上部気道に感染することがあるので、広域スペクトルの抗菌薬には反応しないことがあります。その場合、ドキシサイクリン・アジスロマイシン・クロラムフェニコール・キノロン類を投与します。バルトネラ症は、ドキシサイクリンに反応しないことがあって、その時にはアジスロマイシンを投与します。細菌感染のケンネルコフは、ボルデテラやマイコプラズマが原因ですが、その場合は、ドキシサイクリン、クロラムフェニコール、キノロン、アモキシシリンが効果的です。

猫の細菌性気管支炎は、アモキシシリンの投与が有効で、慢性気管支炎の犬と猫は、ドキシサイクリン、クロラムフェニコール、キノロン、アモキシシリンが常用されます。

肺炎は、消化管内容物の誤嚥による原因が多いので、混合細菌感染による細菌性肺炎が一般的です。気管支肺炎からは、多種多様な細菌が培養されます。ボルデテラが最も重要な原発性病原菌で、それ以外は、細菌が気道が炎症を起こしている部分で増殖します。
無気肺が確認されたら、嫌気性菌の感染を考えましょう。抗菌薬を非経口的に投与します。キノロン、クリンダマイシン、アジスロマイシン、クロラムフェニコールの単独投与が、広域性抗菌活性と優れた組織移行性、ボルデテラに対する効果からも推奨されます。無気肺がない(細菌性肺炎など)なら、アモキシシリン、サルファ合剤、第一世代セファロスポリンが効果的であると考えられます。投与期間は、少なくとも4週間、症状が消失しても1~2週間は継続しましょう。
気管・気管支表層のボルデテラやマイコプラズマ感染に対しては、ゲンタマイシンの希釈液を噴霧(20~50mg/3~5mLのSaline)が効果的です。

トキソプラズマ症は、胎盤感染や免疫抑制状態の犬や猫に、肺炎を起こします。トキソプラズマ症には、クリンダマイシンやサルファ合剤を使用します。ネオスポーラでも同様の処置です。

気道や食道から、胸腔への異物混入で膿胸を起こしている場合は、壊死組織や異物を除去するために、開胸手術が必要です。血流によって細菌が播種して膿胸を起こすこともあり、この時は、胸腔チューブによる胸腔内洗浄が効果的です。膿胸で、菌血症を呈しているなら、集中した抗菌薬による治療が必要です。膿胸の多くは、好気性菌と嫌気性菌の混合感染です。

呼吸器感染症で用いる抗菌薬の処方例

感染因子選択する抗菌薬
細菌性肺炎



1. アモキシシリン
2. サルファ合剤
3. 第一世代セファロスポリン
4. クロラムフェニコール
菌血症を伴う
細菌性肺炎

1. エンロフロキサシン+ペニシリン
 (ABPC・AMPC・クリンダマイシン・第一世代セファロスポリン)
2. イミペネム
膿胸




1. ペニシリン
2. クリンダマイシン
3. メトロニダゾール
4. クロラムフェニコール
5. 第一世代セファロスポリン
トキソプラズマ症
ネオスポーラ症
1. クリンダマイシン
2. サルファ合剤
上部気道感染症






1. アモキシシリン
2. 第一世代セファロスポリン
3. サルファ合剤
4. クリンダマイシン
5. ドキシサイクリン
6. クロラムフェニコール
7. キノロン


消化管・肝臓感染症

小腸内細菌過剰増殖、肝性脳症、胆管肝炎、肝膿瘍、細菌感染や寄生虫感染の治療は、抗生物質を経口的に投与します。腸内細菌叢の菌が体内に侵入した場合、サルモネラ感染による菌血症を呈する犬や猫に対しては、非経口的に抗生物質を投与します。

ジアルジア症は、メトロニダゾールの投与に反応します。感染が完全に除去される訳ではないですが。25mg/kgで、1日2回、1週間程度投与すれば、脱シストが阻害されて、シストの検出がなくなります。メトロニダゾールの投与量が最大用量なので、症状がなくなって、翌日には投与を中止しても構いません。過剰投与による神経毒性の誘発に注意しましょう。

クロストスポリジウム症には、クリンダマイシンとタイロシン(10~15mg/kg、経口、BID)が有効です。オーシストからのシストの放出を阻害して、下痢を改善します。これも、感染が完全に除去される訳ではありません。治療には、数週間かかります。アミノグリコシドは、傷ついた腸管壁から体内に吸収されて腎毒性を生じるので、出血性下痢を呈する症例には禁忌です。

クロストリジウムの感染や増殖には、タイロシン、メトロニダゾール、アンピシリン、アモキシシリン、テトラサイクリンが有効です。

カンピロバクターの第一選択は、エリスロマイシンですが、キノロンやクロラムフェニコールの方が、嘔吐が少なくて済みます。経験的には、メトロニダゾール(フラジール)を投与してますけど・・・

サルモネラ症では、抗生物質の経口投与では耐性を生じるので、非経口的に投与します。感受性試験の結果が出るまでは、アンピシリン、サルファ合剤、キノロンが経験的に有効だと思います。

ヘリコバクターの感染には、メトロニダゾールに加えて、テトラサイクリン・アモキシシリン・クラリスロマイシンのどれかを組み合わせて処方するようです。多剤併用が困難な猫なら、クラリスロマイシンの単独投与で様子をみるといいようです。

腸内細菌による菌血症は、嫌気性菌とグラム陽性・陰性菌に有効な、殺菌的な非経口抗菌薬を用いて治療します。エンロフロキサシンと、ペニシリンか第一世代のセファロスポリンを併用するのが、一般的に有効です。効果が芳しくなければ、メトロニダゾールの静脈内投与、第二世代のセファロスポリン、。イミペネムも適切な選択薬です。

菌血症を伴わない肝臓感染症には、アモキシシリン、第一世代セファロスポリン、メトロニダゾールを常用抗菌薬として使います。敗血症症状が認められたら、フルオロキノロンが有効です。

肝性脳症に対しては、ペニシリン、メトロニダゾール、ネオマイシンの経口投与で、腸内細菌を減少させると、症状が軽減します。

消化管・肝臓感染症で用いる抗菌薬の処方例

感染因子選択する抗菌薬
カンピロバクター



1. エリスロマイシン
2. キノロン
3. クロラムフェニコール
4. メトロニダゾール
クロストリジウム



1. ペニシリン誘導体
2. タイロシン
3. メトロニダゾール
4. テトラサイクリン誘導体
ヘリコバクター



1. メトロニダゾール+アモキシシリン・テトラサイクリン・
  クラリスロマイシンの併用
2. アモキシシリン+クラリスロマイシン
3. クラリスロマイシン
細菌の異常増殖



1. ペニシリン誘導体
2. メトロニダゾール
3. タイロシン
4. テトラサイクリン誘導体
細菌性胆管肝炎



1. アモキシシリン
2. 第一世代セファロスポリン
3. メトロニダゾール
4. キノロン
肝性脳症


1. ネオマイシン
2. アンピシリン
3. メトロニダゾール
サルモネラ




1. キノロン
2. サルファ合剤
3. アンピシリン・アモキシシリン
4. アミノグリコシド
5. クロラムフェニコール


中枢神経系感染症

クロラムフェニコール、スルホンアミド、トリメトプリム、メトロニダゾール、キノロン類は、脳関門を通過して、中枢神経系に到達する抗生物質なので、中枢性の細菌感染が疑われたら、これらの抗菌薬を投与します。

嫌気性菌やリケッチアの感染では、クロラムフェニコールが第一選択となります。その他では、ペニシリン、テトラサイクリン系(ドキシサイクリン)、クリンダマイシンがあります。クリンダマイシンは、猫のトキソプラズマ症の治療で、効果的な脳組織濃度が得られる抗菌薬です。

中枢神経系感染症で用いる抗菌薬の処方例

感染因子選択する抗菌薬
脳炎



1. クロラムフェニコール
2. サルファ合剤
3. キノロン
4. アモキシシリン
中耳炎/内耳炎




1. アモキシシリン
2. クロラムフェニコール
3. クリンダマイシン
4. 第一世代セファロスポリン
5. キノロン
トキソプラズマ症
ネオスポーラ症
1. クリンダマイシン
2. サルファ合剤


筋・骨格感染症

骨髄炎や椎間板脊椎炎は、嫌気性菌の感染によるものが多く、第一世代セファロスポリン、アモキシシリン、クリンダマイシンは、グラム陽性・嫌気性菌に対して有効であり、骨髄中濃度が高く保たれることから、これらの疾患に経験的に投与されます。グラム陰性菌が疑われたら、キノロン系の抗生剤を使います。抗菌薬の投与は、X線検査所見が消失した後も、最低2週間は継続して投与します。

敗血症性多発性関節炎では、骨髄炎と同様の処置を行います。非敗血症性化膿性多発性関節炎では、関節液の細胞学的所見が、免疫介在性多発性関節炎と類似しています。そのため、鑑別診断の結果を待つ間に投与するのは、ドキシサイクリンが適切です。アモキシシリンは、ライム病の治療に用いられることがあります。リケッチア・マイコプラズマ・L型菌の治療では、フルオロキノロンも用いられます。

トキソプラズマ症による筋疾患は、クリンダマイシンに反応します。ネオスポーラ症は、サルファ合剤、クリンダマイシンに反応することが多い疾患です。ヘパトゾーン症では、サルファ合剤とクリンダマイシンの併用、14日間投与が有効です。

筋・骨格感染症で用いる抗菌薬の処方例

感染因子選択する抗菌薬
骨髄炎




1. アモキシシリン
2. クリンダマイシン
3. 第一世代セファロスポリン
4. クロラムフェニコール
5. キノロン
椎間板脊椎炎




1. 第一世代セファロスポリン
2. アモキシシリン
3. クリンダマイシン
4. クロラムフェニコール
5. キノロン
ヘパトゾーン

クリンダマイシン+サルファ合剤
(急性時)
トキソプラズマ症
ネオスポーラ症
1. クリンダマイシン
2. サルファ合剤

多発性関節炎で用いる抗菌薬の処方例

感染因子選択する抗菌薬
バルトネラ


1. アジスロマイシン
2. キノロン
3. アジスロマイシン+キノロン
ライム病

1. ドキシサイクリン
2. アモキシシリン
エールリヒア
アナプラズマ
1. ドキシサイクリン
2. クロラムフェニコール
L型菌
マイコプラズマ

1. ドキシサイクリン
2. クロラムフェニコール
3. キノロン


皮膚と軟部組織感染症

スタフィロコッカス類(ブドウ球菌)が、犬や猫の膿皮症の最も一般的な原因菌ですが、深在性膿皮症は、どんな菌でも起こりうる疾患です。開放創や膿瘍を初めとして、ほとんどの軟部組織感染は、複数の菌が感染してて、口腔由来の好気性、嫌気性、両方の菌叢が関与していることもあります。

膿皮症や軟部組織感染症で推奨される抗菌薬は、第一世代のセファロスポリン、アモキシシリンのような広域性の抗菌薬を、第一選択にするべきです。その他では、βラクタマーゼ耐性ペニシリンを用いることもあります。表在性脳悲壮の犬や猫の治療に、サルファ合剤を使うことがあるようですが、耐性菌が短期間に生じやすいので、長期間の投与は避けましょう。

常用の抗菌薬に反応しない感染症は、グラム陰性菌、マイコプラズマ感染、真菌などの可能性があります。キノロン類を試してみましょう。それでも効果がないなら、追加検査を行います。組織、膿庖からの細胞、患部の深部組織を採取して、再検査を行いましょう。

皮膚/軟部組織感染症で用いる抗菌薬の処方例

感染因子選択する抗菌薬
膿瘍(嫌気性菌)




1. アンピシリン/アモキシシリン
2. クリンダマイシン
3. メトロニダゾール
4. クロラムフェニコール
5. 第一世代・第二世代セファロスポリン
アクチノマイセス



1. ペニシリン
2. クリンダマイシン
3. エリスロマイシン
4. クロラムフェニコール
グラム陰性菌性膿皮症キノロン系
L型菌


1. ドキシサイクリン
2. エリスロマイシン
3. クロラムフェニコール
ノカルディア属



1. ペニシリン(高用量)
2. 耐性菌には、ペニシリン+ST合剤
3. エリスロマイシン
4. イミペネム
迅速発育性
マイコパクテリウム



1. ドキシサイクリン
2. キノロン
3. サルファ合剤
4. アミノグリコシド
5. クラリスロマイシン
ブドウ球菌性膿皮症



1. 第一世代セファロスポリン
2. アモキシシリン
3. クリンダマイシン・リンコマイシン・エリスロマイシン
4. サルファ合剤(表在性膿皮症に)


泌尿器・生殖器感染症

尿沈渣とグラム染色は、尿路感染症の犬や猫に投与する抗菌薬の選択に役立ちますが、可能なら、培養・感受性試験は実施しましょう。犬の尿路感染の75%はグラム陰性菌です。

沈渣で球菌が認められたらアモキシシリン、桿菌がみられたらサルファ合剤か第一世代セファロスポリンを経験的に投与します。キノロン類は、致命的な症例や耐性菌感染のために留保しておきましょう。前立腺の炎症は、繰り返し尿路感染の原因となるので、雄犬の尿路感染では、前立腺疾患があるとみなして前立腺内に移行する抗菌薬を選択しておきます。

猫の尿路感染の多くは、アモキシシリンが有効です。単純感染なら、2週間の投与で大丈夫でしょう。尿検査、培養・感受性試験を治療終了1週間後にしておくと安心です。

マイコプラズマ感染は、ペニシリン誘導体、セファロスポリン系、サルファ合剤を投与しますが、反応が悪いなら、より効果的なクロラムフェニコール、ドキシサイクリン、キノロンを投与します。

尿路感染と、高窒素血症がある犬や猫は、腎盂腎炎があるものと推定して治療します。経験的に、サルファ合剤やキノロンを選択するのが有効ですが、可能なら感受性試験結果に基づいて、選択しましょう。レプトスピラの感染が疑われたら、アンピシリンの静脈内投与を行います。腎不全が存在すると、テトラサイクリン系、アミノグリコシド系は避けるのはもちろん、キノロンやセファロスポリンでも用量や投与間隔を腎機能の低下にしたがって調節します。腎盂腎炎、慢性尿路疾患、合併疾患の治療は、最低でも6週間、継続しましょう。治療終了後も、尿検査、感受性試験を1週間後、1ヵ月後に実施します。

前立腺の細菌感染は、グラム陰性菌によるものがほとんどです。急性期の前立腺炎症では、どんな抗菌薬でも前立腺に移行しますが、慢性の前立腺炎は、血液-前立腺関門が再構築されて、前立腺液が酸性であるため、塩基性抗菌薬だけが前立腺に移行します。クロラムフェニコールが、高濃度に移行します。慢性前立腺炎の治療期間は、最低6週間、尿検査と前立腺液の培養は、治療終了1週間後と1ヵ月後に実施します。
ペニシリンや第一世代のセファロスポリンでは、急性感染の初期に前立腺に移行して症状は軽減するものの、感染そのものは排除されにくく、慢性化・膿瘍が起こりやすくなります。なので、これらの薬は使わないようにしましょう。

ブルセラ病は、犬に、精巣上体炎、精巣炎、子宮内膜炎、流産・死産、椎間板脊椎炎、ブドウ膜炎を引き起こします。人畜共通伝染病で、抗菌薬の投与でも完治することはありません。人では熱や全身性に炎症が起こります。避妊手術や去勢手術で予防するしかありません。

膣炎は、ヘルペスウイルス感染、尿路感染、異物、膣や外陰部の奇形・腫瘤、尿失禁などに続発する正常細菌叢の異常増殖で起こります。正常細菌叢が原因なので、アモキシシリン、サルファ合剤、第一世代セファロスポリン、テトラサイクリン誘導体、クロラムフェニコールなど、広域スペクトル抗菌薬が有効です。

子宮蓄膿症は、外科処置が必要ですが、併発する菌血症に対して抗菌薬療法を行います。大腸菌や嫌気性菌をやっつけます。術後、静脈点滴で投与すると効果的です。感受性試験の結果を待つ間、サルファ合剤、アモキシシリンなど、大腸菌に有効な広域性抗菌薬を通常、投与します。

乳腺炎には、アンピシリン、アモキシシリン、第一世代のセファロスポリンが、乳汁への移行濃度が適切であり、新生子に比較的安全です。クロラムフェニコール、キノロン系、テトラサイクリン誘導体は、副作用が強いので使用しません。

尿路感染症で用いる抗菌薬の処方例

感染因子選択する抗菌薬
嫌気性尿路感染症



1. アモキシシリン
2. 第一世代セファロスポリン
3. サルファ合剤
4. キノロン
レプトスピラ症


1. ペニシリン・アンピシリンの静脈内投与(急性期)
2. アモキシシリンの経口投与(慢性期)
3. ドキシサイクリン(腎臓の清浄化に)
前立腺炎




1. サルファ合剤
2. キノロン
3. クロラムフェニコール
4. エリスロマイシン
5. クリンダマイシン
子宮蓄膿症



1. キノロン+アモキシシリン
2. クロラムフェニコール
3. サルファ合剤
4. アモキシシリン
マイコプラズマ感染


1. ドキシサイクリン
2. クロラムフェニコール
3. キノロン
ブルセラ病

1. キノロン
2. ドキシサイクリン+キノロン
乳腺炎

1. 第一世代セファロスポリン
2. アモキシシリン