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感染症/真菌感染症

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真菌感染症

全身性真菌感染症の病原体とその特徴

病原体特徴
コクシジオイデス症
 Coccidioides immitis

内生胞子を含む細胞外球状体、直径20~200μm
PAS染色で濃い赤色から紫に染まる二重外壁
 内生胞子は明るい赤色に染まる
クリプトコッカス症
 Cryptococcus neoformans

細胞外酵母、直径3.5~7.0μm
厚く染色されない莢膜、基部の狭い発芽
グラム染色で莢膜は赤色を帯びた紫に染色される
ブラストミセス症
 Blastomyces dermatitidis
細胞外酵母、直径5~20μm
厚い屈折性の二重壁、基部の広い発芽
ヒストプラズマ症
 Histoplasma capsulatum
単核貪食細胞中の細胞内酵母、直径2~4μm
ライト染色で中心が好塩基性に染まる明るい菌体


コクシジオイデス症

Coccidioides immitisが原因菌で、二形性の真菌です。これも、アメリカの風土病で、低地の、降水量の少ない高温地帯、アルカリ性砂漠様土壌の深部で見つかる真菌です。分節分生子(幅2~4μm、長さ3~10μm)を形成して、吸入か傷口から脊椎動物体内へ侵入します。雨期の後、多数の分節分生子が土壌表面に出現して、風に乗って拡散します。なので、雨の多い年には、感染が増えます。

吸収された分節分生子が、好中球性の炎症と、組織球、リンパ球、形質細胞の浸潤を引き起こします。動物の細胞性免疫反応が正常ならば、感染は阻害されます。人もそうですが、感染した犬や猫も、多くは不顕性ですが、主に、肺や皮膚に病変を引き起こします。内生胞子を含む球状体が組織内で形成されます。

  •  症状
    •  犬の多くに、骨、関節の腫脹と疼痛を伴って、跛行がみられます。主訴は、咳嗽、呼吸困難、食欲不振、体重減少、跛行、眼の炎症、下痢などです。
    •  呼吸器疾患では、胸膜での滲出物に起因する肺の水泡音、喘鳴などが聴取されます。右心不全徴候によって肝腫大、胸水、腹水の貯留がみられて、収縮性心膜炎が生じ得ます。
    •  皮膚疾患では、皮下の膿瘍、結節、潰瘍、瘻管形成があると、骨にも炎症が及びます。
    •  眼や中枢神経異常では、角膜炎、虹彩炎、肉芽腫性ブドウ膜炎、緑内障、抑うつ、痙攣発作、運動失調、行動変化が観察されます。

診断は、血液検査での正球性正色素性非再生性貧血、単球増加があれば、疑うのですが、真菌疾患ではこのあたりの変化が、よくみられます。高グロブリン血症、低アルブミン症、腎性高窒素血症、蛋白尿が併発していれば、より疑いが強くなるかと思います。呼吸器疾患では、胸部X線検査で異常が見つかります。

確定診断には、細胞診と病理検査で病原体を検出することが必要ですが、菌を見つけることは困難です。

  •  治療
    •  ケトコナゾールで治療します。
    •  ケトコナゾールの副作用で、食欲不振、嘔吐、下痢、体重減少、肝酵素の上昇が起こります。それらの症状が問題となる場合は、イトラコナゾールを投与します。
    •  投与期間は、長期間に及びます。症状がなくなってから、最低1ヶ月は投与を継続しましょう。

人への感染と予防
人では、多くは無症状、もしくは、一過性の呼吸器症状や皮膚病変がみられます。通常は症状が軽く、風邪のような症状や、皮膚の潰瘍がみられます。少数で、肺に空砲が形成され、肺の初期感染が進行して、全身性に血流に乗って播種することがあります。播種性疾患では、死亡例も認められます。

感染動物から人への病原体の伝播はありません。菌糸形が、体外で行われるので、包帯や培地など、媒介物の取り扱いには注意してください。予防は、流行地を避ける、ということしかありません。

クリプトコッカス症

Cryptococcus neoformansが主な原因病原体です。3.5~7.0μmの酵母様病原体で、世界中に分布しています。厚い多糖類莢膜に覆われていて、基部の狭い発芽を行って増殖します。莢膜は、形質細胞の機能、食作用、白血球遊走能、オプソニン作用を抑制して、感染を増長させます。

主な伝播経路は、吸入です。一般的には、鼻と肺に病態が現れますが、血行性に全身へ拡散します。鼻腔から中枢神経系にも広がります。不顕性感染もしていると思われます。細胞性免疫が不十分だと、肉芽腫性病変を形成することがあります。

  •  症状
    •  猫の全身性感染症では、最も一般的な原因です。上部・下部呼吸器症状、皮下結節、口腔内炎症、発熱、中枢神経症状が認められます。鼻咽頭が主な感染部位で、いびきや荒い呼吸が主症状です。
    •  鼻腔内への感染が最も多く、くしゃみと鼻汁の排泄の主訴が目立ちます。鼻腔の外側から突き出た肉芽腫性病変、鼻梁にかかる顔の変形、鼻鏡の潰瘍性病変が一般的です。鼻炎を生じている猫は、下顎リンパ節が腫脹しています。
    •  皮膚や皮下には、1cm未満の腫瘤が単発もしくは多発性によく発生します。潰瘍になっていると漿液が排出されます。
    •  眼に感染すると、ブドウ膜炎、脈絡膜炎、視神経炎が発現して、水晶体脱臼と緑内障に移行します。中枢神経系病変は、肉芽腫形成による髄膜脳炎です。抑うつ、行動変化、痙攣発作、盲目、旋回、運動失調、嗅覚欠如、不全麻痺がみられます。
    •  犬でも同様の症状がみられることがあります。

検査では、非再生性貧血と単球増加症があります。真菌症によくある所見です。X線検査での特徴は、鼻腔軟部組織に肉芽、鼻腔の骨の変形や溶解です。症状、細胞診、病理検査、培養などで病原体を確認して確定診断になります。

  •  治療
    •  治療は、ケトコナゾールやイトラコナゾールの投与が選択されます。
    •  ケトコナゾールは、食欲不振、嘔吐、下痢、体重減少、肝酵素活性上昇などの副作用を起こすことがあるので、副作用がみられたりしたら、休薬して、症状が治まったら投与量を半分にして再開するか、イトラコナゾールを使いましょう。

鼻や皮膚の病変は、投薬によく反応して治癒しますが、眼病変や中枢神経症状の反応性はよくありません。症状がなくなっても、最低1~2ヶ月は治療を継続しましょう。

人への感染と予防
人も環境中のクリプトコッカスに暴露されて症状を示すことがありますが、動物との接触で、人に伝播することはありません。


プラストミセス症

Blastomyces dermatitidisが原因菌で、アメリカの風土病です。腐生性酵母で、細胞外の酵母体(直径5~20μm)は、基部の幅広い発芽をして、脊椎動物に寄生して増殖します。

湿度が高く、霧が多い掘削現場や水辺周辺の砂地で、特に酸性土壌で多発します。季節的には、秋に発生件数が多いようです。感染は、環境中の分生子を吸引することと、開放創からの侵入によるものです。病原体は、肺で増殖して、血流に乗って他の組織、皮膚や皮下組織、眼、骨、リンパ節、外鼻孔、脳、精巣、鼻道、前立腺、肝臓、乳腺、外陰部、心臓へ播種する可能性があります。細胞性免疫反応不全の動物では、病原体の排除が不完全になって、化膿性肉芽腫性炎症を生じることもあります。潜在性感染はないようです。

  •  症状
    •  犬での一般的な症状は、食欲不振、発咳、呼吸困難、運動不耐性、体重減少、抑うつ、眼疾患、皮膚病変、跛行などです。
    •  感染犬の約半数例に発熱がみられて、間質性肺病変や肺門リンパ節の腫脹のために発咳があり、乾性肺胞音や呼吸困難がみられます。前大静脈症候群で生じる乳び胸でも呼吸困難を発現します。
    •  心臓にブラストミセスが感染すると、心筋炎由来の伝導障害や、弁膜性心内膜炎も起こります。
    •  感染犬の20~30%で、リンパ節、皮膚、皮下の結節、膿瘍や潰瘍がみられます。脾腫もみられて、脊椎や四肢骨の骨髄炎が原因で、跛行が30%程度の感染犬に認められます。精巣、前立腺、膀胱、腎臓への感染はみられません。
    •  感染犬の30%程度に、眼病変として、ブドウ膜炎、内眼球炎、眼球後部の疾患、視神経炎がみられます。中枢神経系への感染で、抑うつ、痙攣発作の生じることもあります。
    •  猫でも、呼吸器疾患、中枢神経系疾患、局所リンパ節疾患、皮膚病、眼病、消化器疾患、尿路疾患を示します。胸膜や腹膜での滲出液で、呼吸困難や腹部膨満が生じることがあります。

診断は、血液検査での、正球性正色素性の非再生性貧血、リンパ球減少、好中球の増加、単球増加があれば、まず疑います。慢性炎症になれば、低アルブミン血症と高グロブリン血症がみられます。呼吸器症状があると、胸部X線検査で、間質性肺病変が特徴的です。孤立性腫瘤と胸水がときおり発現します。確定診断には、細胞診や病理検査で病原体を検出することが必要です。

  •  治療
    •  真菌と判断できれば、ケトコナゾール(10mg/kg、経口、1日1~2回投与)やイトラコナゾール(犬:5mg/kg、BIDで4日間、その後5~10mg/kg、SID、 猫:50~100mg/猫/日、経口)が用いられます。
    •  治療期間は、長くかかると考えておきましょう。病変がなくなってからも、2~4週間の投与が必要です。

再発することが多いですが、再発したら、治療方針を再検討しましょう。ブドウ膜炎や内眼球炎の場合は、眼球摘出手術が必要になります。

人への感染と予防
酵母菌は、感染性がないので、犬や猫から直接人に感染することは、ほとんどありません。予防は、多発地域で水辺を避けて、病原体への暴露を避けることが唯一の方法です。

ヒストプラズマ症

Histoplasma capsulatumが原因菌で、熱帯、亜熱帯気候の全ての地域の土壌中にみられる腐生性の二形性真菌です。鳥やコウモリの排泄物に汚染された土壌には、結構な濃度で含まれています。日本でも犬に病原体が確認されています。犬は、通常、病原体に暴露されていますが、発症率は高くありません。

環境中での病原体の菌糸形は、小分生子(2~4μm)と大分生子(5~18μm)が認められます。動物に感染すると、2~4μmの酵母形が、単核球系貪食細胞の細胞質内にみられます。感染は、小分生子の摂取、吸入で生じます。症状の発現は、免疫抑制が素因となります。体内に入り込んだ病原体は、単核球の食作用によって取り込まれて酵母形に形を変えて、さらに全身性に血液とリンパ組織に運ばれます。肉芽腫性炎症によって、持続性感染と臨床徴候の発現がみられます。猫では、播種性病変が一般的です。

  •  症状
    •  犬では、潜在感染、肺感染、播種性感染が起こります。食欲不振、発熱、抑うつ、体重減少、発咳、呼吸困難、下痢を主訴に飼い主が来院します。下痢は大腸性下痢が一般的ですが、小腸性下痢や蛋白喪失性腸症を起こすこともあります。
    •  診察で抑うつ、肺胞呼吸音の増高、喘鳴、発熱、粘膜蒼白、肝腫大、脾腫、黄疸、腹水、腹腔内リンパ節の腫大のみられることがあります。肺門リンパ節が大きく腫脹して、気道の閉塞が生じることもあります。
    •  骨の感染、多発性関節炎による跛行、末梢性リンパ節炎、脈絡網膜炎、中枢神経の異常、皮膚病が生じることもあります。クリプトコッカス症やブラストミセス症と違って、皮下の結節からの排膿や潰瘍の形成はありません。
    •  猫は、無症状か播種性病変です。FeLVの同時感染で、免疫不全状態が症状を出現させていることがあります。
    •  猫でも、抑うつ、体重減少、食欲不振、跛行、呼吸困難が普通に認められます。診察では、発熱、粘膜蒼白、肺音の異常、口腔粘膜のびらんや潰瘍、末梢リンパ・腹腔内リンパ節炎、黄疸、骨病変周囲軟部組織の腫脹、肝腫大、皮膚の結節、脾腫がみられます。犬と同様です。
    •  眼には、結膜炎、脈絡網膜炎、網膜剥離、視神経炎、ときには緑内障で失明に至ることもあります。抑うつ以外には中枢神経症状はありません。

検査診断で、正球性正色素性非再生性貧血がみられます。全身性真菌症に通常みられる所見です。ヒストプラズマ症では、循環血液中に真菌が観察されることがあります。これは、他の真菌症と異なります。単核球系細胞の感染が多く、好酸球内にもみられます。その他、播種性血管内凝固による血小板減少がみられることもあります。X線検査では、リンパ節の腫大や結節、肉芽がみられますが、確定診断には、他の真菌症同様、細胞診や病理検査での病原体を確認することが必要です。

  •  治療
    •  イトラコナゾールの投与が、効果が高く、副作用も少ないので、第1選択です。投与期間は、症状がなくなってから、少なくとも1ヶ月間は継続しましょう。
    •  ケトコナゾールも効果がありますが、副作用には注意しましょう。
    •  ステロイドの投与で、リンパ節の腫脹が、速やかに軽減することもありますが、免疫抑制による症状の悪化も起こり得ますから、十分に留意して投与する必要があります。

人への感染と予防
酵母形は、感染性がないので、感染動物から人への直接的な伝播はありません。予防には、汚染地域の土壌との接触を避けることしかありません。