役に立つ動物の病気の情報 | 獣医・獣医学・獣医内科学など

感染症/細菌感染症

Top / 感染症 / 細菌感染症

細菌感染症

猫バルトネラ症

バルトネラ・ヘンセラ菌が、人の猫ひっかき病の原因菌として重要です。猫ひっかき病は、猫に引っ掻かれた傷が、10日ほどして赤く腫れて、リンパ節が腫脹する疾患です。発熱、倦怠感、関節痛が主な症状です。

バルトネラ菌は、内皮や赤血球内に局在するので、菌を完全に排除するのは困難です。猫のみを介して伝播するので、多くの猫がバルトネラ菌に不顕性感染をしています。バルトネラ菌は、ネコノミの糞便中に排泄されて、排泄後も何日も生存できます。バルトネラ菌を含むノミ糞が、猫が毛づくろいする際に、歯や爪の間に付着して、その結果、猫が人を引っ掻いたり、噛みついたりすると感染します。バルトネラ菌は、健常猫の歯肉炎・口内炎を呈している口腔内からも検出されます。

  •  症状
    •  多くの猫は、バルトネラの感染に対して無症状で、問題がありません。
    •  頻度は低いようですが、間接的に、発熱、抑うつ、リンパ節腫脹、ブドウ膜炎、歯肉炎、神経症状を示すことがあります。特に、眼疾患にはバルトネラ菌が関与していると考えられます。
  •  診断
    •  バルトネラの感染は、血液培養・PCR・血清検査などで評価できますが、猫に症状がでることは稀であることと検査の信頼性が低いことから、わざわざ実施する必要はありません。疑わしい症例のみ、抗体検査に出してみましょう。しかも、検査結果が陽性になったからと言っても、確定診断できるとは限りません。
  •  治療
    •  治療は、症状を呈している猫に対してのみ、行います。ただ、呈している症状が、バルトネラ症によるものなのか、という鑑別は難しいです。
    •  健康な猫に、抗菌薬を用いても、猫ひっかき病の感染リスクを下げることはできませんし、バルトネラ菌を排除できない抗菌薬を無駄に投与することで、耐性菌が出現する機会を増やすので、止めましょう。
    •  治療に用いる抗菌薬は、広域性の抗生物質です。ドキシサイクリン(10mg/kg、経口、7日間投与)が推奨されます。有効性を確認したら、症状改善後2~4週間の継続治療をします。1週間の投与で効果がないか、ドキシサイクリンが使用できないがバルトネラ症の疑いを除去できない場合は、アジスロマイシンやフルオロキノロンを使います。

それでも効果がないなら、バルトネラでない可能性が高いので、他の疾患を疑って調べます。広域性の抗菌薬を投与すると、バルトネラに似た症状の他の感染症を引き起こす細菌にも効果を示すして、抗炎症作用を示しますから、何だかわからないうちに治ってしまうことがあります。

人への感染と予防
バルトネラ症は、人畜共通伝染病で、私らは特に注意しておかなくてはなりません。特に、免疫抑制状態にあるときには、注意が必要ですが、何よりも予防を行うことが重要です。対処法は...

  •  猫のノミの駆除は、年間を通じて行うこと
  •  定期的に爪を切ってやる
  •  猫に引っ掻かれること、咬みつかれる機会を減らす
  •  猫に引っ掻かれたら、外傷部位を洗浄して、医師(←人間の)に相談しましょう
  •  唾液を介した感染は報告されてませんが、猫に開放性の傷は舐めさせないように・・・(普通、しないけど...)
  •  猫を室内で飼育する。それでもノミの予防を通年で行うこと。毎月、レボリューションの滴下を行えば、予防できます。


 犬のバルトネラ症

猫の方が重要ですが、犬でもバルトネラ菌の感染があります。主な感染源は、ノミ・マダニですが、シラミによって媒介される種類もあります。ネコノミとは言うものの、犬にも寄生します。

健常犬でも血清中から抗体が検出されますので、不顕性感染が多いと考えられますが、出てくる症状には、心内膜炎、発熱、不整脈、肝炎、肉芽腫性リンパ腫、皮膚血管炎、鼻炎、多発性関節炎、髄膜脳炎、血小板減少症、好酸球増加症、単球増加症、免疫介在性溶血性貧血、鼻出血、ブドウ膜炎があります。

  •  治療
    •  犬のバルトネラ症では、ドキシサイクリンに耐性があります。フルオロキノロンやアジスロマイシンが効果的です。4~6週間の投与を行いましょう。

人への感染と予防
猫の場合と同様に、人へも感染しますので、犬からの咬みつき、引っ掻きには注意しておきましょう。感染経路を遮断すること、すなわちノミとマダニの駆除をしっかり行えば、感染の危険を減らすことができます。毎月、フロントラインやマイフリーガードで処置することをお奨めします。


レプトスピラ症

レプトスピラを甘く見てはいけません。認知度が低く、過小評価されていますが、今でも、毎年、国内でレプトスピラによる死亡者が出ています。全世界で発生している感染症です。レプトスピラは、幅0.1~0.2μm、長さ6~12μmで、運動性があって、螺旋状のスピロヘータ類に属する、人畜共通伝染病です。レプトスピラは血清型が多く、国や地域によって優勢な血清型が違います。

レプトスピラの感染は、世界中の亜熱帯地域で見られており、農村部だけでなく、都市周辺の水辺・川べり、湿地、公共に解放されている水場でも起こりえます。発症時期は、夏から初秋にかけてが圧倒的に多くて、雨の多い年は、発生件数が増えます。レプトスピラには、病原性と非病原性菌があって、非病原性菌の感染なら、不顕性感染となるだけです。病原性菌が感染すると、症状が現れます。

尿中に排泄されるレプトスピラは、体表の皮膚の擦り傷や、粘膜を介して、体内に侵入します。咬み傷や、性交、経胎盤感染も起こします。土壌や敷き藁からも感染しますし、汚染された食事・水を摂取しても感染します。抗体を有している動物は、菌体を速やかに排泄して、不顕性感染に移行します。なので、ワクチン接種が有効です。ワクチン接種をしていない犬、免疫がない犬は、品種・年齢・性別に関係なく、感染の恐れがあります。

運悪く犬に感染すると、各組織内で菌体が増殖します。特に、肝臓と腎臓で顕著に増殖します。菌体の増殖と毒素産生によって誘発される炎症で、腎臓、肝臓、肺などが傷害を受けます。適切な治療と免疫反応で改善しますが、慢性肝炎・慢性腎臓病に移行することもよくあります。猫は、たいてい不顕性感染となりますが、菌体を排出するので、注意が必要です。

  •  症状
    •  食欲不振、抑うつ、全身の筋肉の知覚過敏、呼吸促迫、嘔吐が見られます。身体検査で、発熱、粘膜蒼白、頻拍も認められます。
    •  血小板減少、播種性血管内凝固が原因で、点状出血・斑状出血・黒色タール便・鼻出血が起こりますし、急性感染症の場合、腎不全、肝不全が起こる前に死亡します。
    •  亜急性であれば、発熱、抑うつと、溶血性疾患、肝・腎疾患が認められます。乏尿性・無尿性の腎不全に移行することもあります。その他、結膜炎、ブドウ膜炎、鼻炎、扁桃炎、発咳、呼吸困難を示すこともあります。
    •  死亡を免れた犬の中には、慢性間質性腎炎や、慢性進行性肝炎に進行する症例もあります。多飲・多尿、体重減少、腹水、肝不全から二次的に生じる肝性脳症は、慢性レプトスピラ症の最も一般的な症状です。

レプトスピラ症の診断は、非常に困難です。レプトスピラの分離培養ができれば確定できるでしょうが、結果を得るのに1ヶ月近く掛かる上に、専用の培地が必要で、そんなの持ってる病院なんてないし、非現実的です。結果が出るまでに、死亡したら大変です。抗体検査やPCRを使う方法もありますが、レプトスピラは血清型多いので、数種類の抗体検査が必要であることと、PCRでは血清型の区別がつかないので、特異抗体の検出が必要で、これも現実的ではありません。

結局のところ、問診と症状、臨床検査の結果を総合的に判断していくことが必要です。レプトスピラに汚染されている可能性のある尿、水溜り、川べり、土壌に接触する機会があったのかどうか。犬連れでの旅行、川や山、ドッグランに行ったか、散歩コースがどうか、ネズミやアライグマなどの出没地域があるか、を確認しましょう。

血液検査では、白血球の増加、血小板の減少、貧血(再生性・非再生性)、高窒素血症、高ビリルビン血症、ALT・AST・ALP・CK活性の上昇、電解質異常があります。尿検査では、ビリルビン尿、尿比重の低下、細菌尿でない膿尿と血尿、X線検査所見では、腎腫大、肝腫大、肺の間質と肺胞の炎症浸潤像が認められます。

  •  治療
    •  腎臓への感染があれば、利尿を強力に促進させるために、補液療法を行います。
    •  同時に、重篤な犬には、アンピシリン(20mg/kg)を静脈内投与しましょう。キノロン系の抗生剤が有効でもありますので、急性期には併用しても構いません。
    •  食欲があれば、アモキシシリンの経口投与も構いませんが、2週間は投薬が必要です。
    •  治療後、腎臓に保菌されているレプトスピラを除くために、ドキシサイクリン(2.5~5mg/kg、経口、BID)の投与を2週間継続します。

人への感染と予防
レプトスピラは、人へも感染します。人が犬血清型の抗体を持っていることもあります。つまり、犬が人への感染源となり得ることを示しています。レプトスピラ症を疑う犬への接触、尿、汚染された水には触れないようにして、触れるときは手袋して接すること、入院しているなら、日々のケアは、最後に行うなど、注意して取り扱いましょう。当然ながら、汚染物は、適切に消毒をします。

レプトスピラへの暴露を最小限にするためには、予防が最適です。ワクチンの接種によって、感染の危険性を最小限に抑えましょう。日本で販売されているワクチンで最も多くの血清型を含んでいるワクチン(2014年現在)は、11種ワクチンです。ここに含まれるレプトスピラの血清型は、カニコーラ・コペンハーゲニー・オータムナリス・オーストラリス・ヘブドマディスの5種類です。このワクチン接種で、含まれていない血清型に対しても、交差反応を示すことがあります。必ずという訳ではありませんし、すべてを網羅できる訳でもありませんので、注意しましょう。さらに、レプトスピラ単味ワクチン(バンガードL4)というのもあって、カニコーラ・イクテロヘモラジー・ポモナ・グリッポチフォーサという血清型を含んでいます。これらを併用すれば、8種類のレプトスピラの血清型を予防できて、感染をより防御できる可能性が広がります。予防プログラムも参照してください。


レプトスピラ


マイコプラズマ・ウレアプラズマ

マイコプラズマ属とウレアプラズマ属は、小型で、細胞壁を欠いて、保護膜に包まれて、環境中からの栄養物に依存して存在する細菌の一種です。一部のマイコプラズマやウレアプラズマは、膣や咽頭など、粘膜上の常在菌と考えられます。呼吸器系の疾患泌尿器系の疾患・生殖器系の疾患で、菌が同定されることが多く、鼻副鼻腔炎、下部呼吸器疾患、膿胸や腎盂腎炎、下部尿路疾患と関連していると考えられます。

ヘモバルトネラが、マイコプラズマ属に分類されるようになりました。ヘモバルトネラは、赤血球に付着して、貧血を引き起こします。

マイコプラズマは、猫の結膜炎、上部気道感染症、多発性関節炎、犬には肺炎を引き起こす可能性が示唆されますが、マイコプラズマもウレアプラズマも、健康な犬や猫からも分離されるので、病原性を持っているかどうかは、判断がつきません。日和見感染と考えていいかも知れません。ウレアプラズマは、健康な犬の膣や包皮から分離されますし、日和見感染的な要素は多分にあります。

  •  症状
    •  猫で、結膜炎、角膜炎、粘液膿性の鼻汁、発咳、呼吸困難、発熱、皮下膿瘍、関節腫脹や跛行、流産があれば、マイコプラズマを考慮しておきます。猫では、下部尿路疾患の原因とはならないようです。
    •  犬は、発咳、呼吸困難、発熱、頻尿、血尿、高窒素血症、関節腫脹や跛行、膣の粘液性排出物、。不妊症があれば、マイコプラズマやウレアプラズマを原因の一つとして考慮します。

下部気道や子宮、関節の組織から培養されるマイコプラズマ・ウレアプラズマが確認されたら、疾患に関与している可能性が強いと考えられます。健常動物からも同定されるので、確定的なことは言えません。

マイコプラズマ・ウレアプラズマは、一般的な細胞診では認められないこと、好気性培養では発育しないことから、好中球が浸潤している炎症で、細菌が認められず、好気性培養で増殖しないなら、マイコプラズマかウレアプラズマが疑われます。

マイコプラズマ・ウレアプラズマは、細胞壁がありませんので、ペニシリンやセファロスポリンのような細胞壁合成阻害作用の抗生物質に無反応なときは、マイコプラズマ・ウレアプラズマを強く疑ってもいいでしょう。診断の補助になります。

  •  治療
    •  免疫力が正常で、命を脅かす疾患でないなら、ドキシサイクリン(5~10mg/kg、経口、1日1~2回)の投与が効果的です。
    •  グラム陰性菌の混合感染、命を脅かす疾患、テトラサイクリン耐性株が疑われたら、フルオロキノロン、アジスロマイシンを選択します。
    •  妊娠動物には、エリスロマイシン(20mg/kg、経口、BID)もしくはリンコマイシン(20mg/kg、経口、BID)を用います。
    •  その他、有効な抗生剤は、タイロシン、クリンダマイシン、テトラサイクリン、クロラムフェニコール、アミノグリコシド、です。
    •  下部気道、皮下、関節への感染は、4~6週間の投与が必要です。

人への感染と予防
人への感染は少ないです。猫による咬傷感染には注意しておきましょう。
マイコプラズマもウレアプラズマも、日和見感染の様相が強いので、動物間の感染も少ないでしょう。結膜炎や呼吸器疾患が猫間で感染することはあるかも知れません。症状が治まるまで、隔離しておくに越したことはないでしょう。

マイコプラズマ属もウレアプラズマ属も、消毒剤には感受性があって、体外に出るとすぐに死滅しますので、感染力はそれほど強くありません。でも、消毒は確実に。

ペスト(猫)

衛生状態の改善で、日本じゃ永らく発生してませんが、ネズミとノミの間で感染が成立しています。プレーリー・ドッグも保菌動物です。輸入が制限されているので、これも感染予防に役立っています。

Yersinia petisが原因菌です。通性嫌気性・グラム陰性・球桿菌です。猫は、ペスト菌に対して感受性があって、感染するとほとんど死亡します。犬は、抵抗性を持っています。感染は、猫が、保菌しているノミに咬まれたり、保菌しているげっ歯類(ネズミ)を捕食したり、菌体を吸入したりして、感染します。ですので、感染する猫は、屋外で動物を捕食している猫です。菌の潜伏期間は、ノミに咬まれたら2~6日、菌体を摂取・吸入した場合は1~3日です。侵入した菌は、扁桃腺や咽頭のリンパ節内増殖してから、血流を介して全身に拡散して、感染した組織で好中球主体の炎症反応を起こして膿瘍を形成します。

  •  症状
    •  猫でも人でも、感染すると、腺ペスト・敗血症ペスト・肺ペストが認められます。敗血症ペストや肺ペストの猫は、予後不良です。
    •  食欲不振、抑うつ、頸部の腫脹、呼吸困難、発咳が症状です。肺ペストだと、発咳を伴う呼吸困難があります。
    •  感染した猫は、扁桃腺、下額リンパ節、前頸部リンパ節の腫大が触知されることがあります。

Yersinia petisに特徴的な血液検査所見はありません。菌血症症状が認められます。好中球増加、左方移動、リンパ球減少、低アルブミン血症、高グロブリン血症、高血糖、高窒素血症、低カリウム血症、低クロール血症、高ビリルビン血症、ALP・ALTの増加が頻繁に見られます。

肺ペストのX線検査所見で、肺の間質と肺胞に、び慢性の不透過像の亢進が認められます。リンパ節の吸引生検で、リンパ節の過形成、好中球の浸潤、両極染色性桿菌などが確認されるでしょう。

しかしながら、検査をしても、日本では猫のペストの発症を知っている獣医さんが少ないですから、診断ができるのか・・・非常に疑問です。そもそも頭の中の鑑別診断から除外されている可能性が高いです。診断には、げっ歯類に寄生したノミとの感染の可能性があったのか、ということを問診で聞き出すことが重要かもしれません。

  •  万が一、発生したときの治療
    •  まずは、隔離です。
    •  処置するにも、手袋、専用の着衣を用意して、特に頸部リンパ節の膿瘍があるなら、排膿・洗浄を行います。
    •  その後は、菌血症の治療に準じて処置します。抗菌薬は、静脈内に投与しますが、どの抗菌薬が効果があるのか、もわかりませんので、ゲンタマイシン(2~4mg/kg)やエンロフロキサシン(5mg/kg)を使ってみましょう。クロラムフェニコール(15mg/kg)が、中枢神経症状を呈する猫には有効なようです。
    •  菌血症を乗り越えて生存した場合でも、3~4週間は、抗菌薬を投与する方がいいようです。ドキシサイクリン(5mg/kg)やテトラサイクリン(20mg/kg)が適切なようです。

人への感染と予防
ペストが流行してしまうと大変なことなんですが、世界には常在地域もあります。人への感染経路は、ペスト菌に感染したノミとの接触、感染した猫の組織や排泄物との接触・咬まれる・引っ掻かれること、です。菌体は乾燥に弱いのですが、感染した動物の死骸体内では、数週間~数ヶ月以上生存しますし、ノミの体内では1年以上生存します。

常在地域への旅行をするなら、菌血症症状、呼吸器症状、頸部の排膿・腫瘤がある猫には近づかない、というか、野良猫には接触しないようにしましょうか。そんな猫がいたら、すぐに隔離して、ノミに対する処置をしておきましょう。そして、そんな猫に接触したら、医師(←人間の)の診察を受けましょう。

エルシニア菌の耐性菌は稀で、感染猫も抗菌薬で適切に治療すれば、3日後以降は、人への感染性は消失します。感染猫を処置した場所は、当然のことながら、徹底的に消毒して、接触・従事するスタッフは最小限にするよう勤めることが必要です。