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泌尿器系の疾患/尿石症

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尿石症

結晶化と尿石の形成が起こる条件は

  1.  塩類の尿中尿度が高い
  2.  塩類や結晶の尿路内での貯留時間が長い
  3.  結晶化しやすい尿pH
  4.  結晶形成が起こる核の存在
  5.  尿中の結晶阻害因子の濃度低下

が考えられます。犬は、ミネラルと蛋白質の食事摂取量が多くて、比較的濃縮された尿を産生するので、尿中で塩類の過飽和を起こしやすい傾向があります。尿細管でのカルシウム、シスチン、尿酸などの吸収低下、細菌感染によるアンモニア、リン酸塩なども過飽和の原因になります。

尿石ができてしまう理由はよくわかりません。尿中の塩類の過飽和が、核形成の開始と尿石の成長持続を起こす原因という説があります。犬の尿は、比較的塩類が過飽和状態にあります。飲水量が低下するなど、塩類の尿中濃度が高くなると、排尿回数が低下して、尿石が形成される危険性が増します。

結石の形成の理由もよくわかりませんが、尿中物質が結晶形成を促進したり阻害したりする、という説があります。尿中の有機基質物質が、核形成を促すという考え方があり、核になりうる基質物質として、アルブミン、グロブリン、ムコ蛋白、ヒドロキシプロリン欠乏蛋白が想定されています。蛋白質様の基質物質は、結晶形成を起こす面を提供して、結晶同士を結合させますので、尿中貯留時間を延長させて、結晶化を促します。他の結石の原因として、結晶形成の重要な阻害物質の欠如が初期の核形成を促す因子という説もあります。結晶阻害物質には、クエン酸やグリコスアミノグリカン、ピロリン酸塩が想定されています。これらの尿中濃度が下がると、結晶化と尿石の成長が助長されてしまうという考え方です。
でも、まだ結晶や尿石が形成される機序がわかってません。いずれにしても、尿中の塩類の過飽和がきっかけではあります。

尿結石の特徴

種類X線不透過性
(1.0~3.0度)
尿pH尿路感染好発年齢
ストラバイト2.5アルカリ非常に多い1~8歳
シュウ酸カルシウム3.0様々まれ5~12歳
尿酸塩1.0酸性~中性少ない1~4歳
ケイ酸塩2.5酸性~中性少ない4~9歳
シスチン1.5酸性まれ1~7歳


 ストラバイト尿石

ストラバイトは、ストルバイトと書いてある本もありますけど、リン酸マグネシウム・アンモニウム尿石のことで、犬の一般的な尿石です。膀胱から取り出した尿石を分析すると、リン酸カルシウム(ヒドロキシアパタイト)や炭酸カルシウムも含まれています。

犬の食事は、ミネラルと蛋白質が豊富に含まれているので、尿には、マグネシウム、アンモニウム、リン酸塩が多く含まれ、過飽和状態になることが多いのが特徴です。犬のストラバイト尿石を形成するきっかけには、尿路感染が重要な素因でもあり、ウレアーゼ産生菌であるブドウ球菌やプロテウス属が一般的な感染菌です。ウレアーゼが、尿素をアンモニアと炭酸ガスに分解します。ヒドロキシイオンとアンモニウムイオンが、アンモニアの加水分解で作られて、尿中の水素イオン濃度が低下して、尿がアルカリ性になり、ストラバイトの溶解性が低下します。

尿中アンモニア濃度が高いと、尿路粘膜への細菌の付着を防止する働きを持つグリコサミノグリカンが損傷を受けます。さらには、細菌性膀胱炎は、膀胱壁に影響を与えて、有機細胞屑の量を増やします。有機細胞屑は、結晶化の核になってしまいます。

ストラバイト尿石は、尿路感染症と関係が深いので、雌に多発します。後発する年齢は、比較的若くて、1歳齢未満の犬の尿石は、だいたいストラバイトです。そして、尿路感染を併発していることがほとんどです。

無菌尿の中で、ストラバイト尿石が形成される理由はよくわかりません。猫のストラバイト尿石が、尿路感染がなくても頻発しますが、猫は尿濃縮能が高くて、過飽和度が高いことが原因の一つと考えられますし、薬物、食事、腎尿細管疾患などが、尿のpHを高くする原因となって、ストラバイト尿石が形成されることもあります。

好発犬種もあります。ミニチュア・シュナウザー、プードルやビション・フリーゼ、コッカー・スパニエルで発症が多いようです。膀胱から取り出されるストラバイト尿石は、表面が滑らかで、角が鈍で、多面体や三角錐の形をしていることが多いのが特徴です。

 シュウ酸カルシウム尿石

シュウ酸カルシウム尿石には、一水和物と二水和物があって、犬では一水和物の方がよく観察されます。発症には、尿中カルシウム濃度の増加が関与していると考えられています。高カルシウム尿症は、腸管からのカルシウムの吸収増加、尿細管でのカルシウムの再吸収障害で起こります。ステロイドやフロセミドを服用している場合や、食事に添加されたカルシウムや塩化ナトリウムによっても、高カルシウム尿症が起こります。副腎皮質機能亢進症とシュウ酸カルシウム尿石との関連性も認められています。

原発性上皮小体機能亢進症、腫瘍、ビタミンD中毒などでは、高カルシウム血症が起こって高カルシウム尿症が生じますが、これはそれほど、尿石を起こす頻度として高くはありません。

シュウ酸カルシウム尿石は、雄犬で多く、好発犬種では、ミニチュア・シュナウザー、プードル、ヨーキー、ビション・フリーゼ、シー・ズーなどが挙げられます。肥満は、シュウ酸カルシウム尿石の危険を増加させるようです。雄犬で発生が多いのは、テストステロンが肝臓でシュウ酸塩の産生を増加させることが関与している可能性があります。比較的高齢犬に多いのが特徴で、8~12歳齢の犬に好発します。尿路感染の併発は稀です。発生するときの尿pHは、さまざまです。

 尿酸アンモニウム尿石

尿酸塩結石の多くは、尿酸アンモニウムで構成されます。尿酸、尿酸ナトリウムが100%の尿石は、ほとんどありません。

ダルメシアンは、肝臓の尿酸輸送に障害があって、尿酸からアラントインへの変換ができないため、尿酸の尿中排泄増加を引き起こして、尿酸アンモニウム尿石が頻発します。近位尿細管における尿酸再吸収も低下しているようで、それも尿中の尿酸、尿酸ナトリウムの濃度を上昇させます。

その他、尿酸塩尿石が形成される原因は、尿中のグリコサミノグリカン濃度の低下も一因のようです。尿中のグリコサミノグリカンは、尿酸塩と結合して結晶化を抑制します。

食事中の蛋白量が高いと、尿酸とアンモニウムイオンの尿中排泄が増加することが多く、尿酸塩結石の原因となるようです。肝機能不全(門脈シャントなど)の犬では、腎臓からの尿酸アンモニウム排泄が増加しているので、結石ができやすくなります。門脈シャントの好発品種であるミニチュア・シュナウザー、ヨーキー、ペキニーズでは、尿酸アンモニウム尿石もよく認められます。

症例としては少ないですが、尿路感染症とも関連性はあるようです。ウレアーゼ産生菌は、尿中アンモニア濃度を増加させるので、結晶化が促進されます。

 ケイ酸塩尿石

ケイ酸塩、ケイ酸、ケイ酸マグネシウムなどの摂取に関連しているようです。尿中に結晶はみられません。結石は、金平糖の形をしています。金平糖の結石=ケイ酸塩尿石ではありませんが、金平糖状の結石は、ケイ酸塩尿石の特徴です。

ジャーマン・シェパード、オールド・イングリッシュ・シープドッグ、ラブラドールレトリバー、ゴールデンレトリバーに好発します。中年齢の雄犬に多く、4~9歳が好発年齢です。尿が酸性傾向にあると、出現し易くなります。

 シスチン尿石

シスチン尿症は、腎尿細管輸送の遺伝的疾患です。シスチンは、糸球体から自由に濾過されて、正常なら近位尿細管の上皮細胞で能動的に再吸収されます。シスチン尿症が、シスチン尿石の主な原因と考えられていますが、シスチン尿症なら、シスチン尿石を必ず引き起こすわけでもありません。他の何らかの原因があるようですが、よくわかりません。

酸性尿の状態で、シスチン結石が形成されます。雄犬に多く、好発犬種は、ダックスフント、ヨーキーなどです。若い犬には少なくて、3~6歳齢ぐらいに多い傾向があります。


症状

尿石症では、膀胱炎を引き起こすことが多いので、症状では、血尿、頻尿、排尿困難が認められます。金平糖状の尿石は、滑らかな結石に比べて粘膜刺激を引き起こします。残尿、粘膜過形成によるポリープ形成、結石内への細菌混入が併発することがあります。

雄犬では、尿石が尿道内に流入してしまい、部分的な閉塞や、完全な閉塞を引き起こすことが多々あります。膀胱の拡張や、痛みを伴う排尿や排尿困難、無尿、腎後性高窒素血症を起こして抑うつ、食欲不振、嘔吐などの症状がみられます。尿道が完全に閉塞すると、膀胱や尿道が破裂することもあります。腹腔内や会陰部の皮下への尿の貯留が起こります。

片側の腎結石では、無症状のこともありますが、血尿や慢性腎盂腎炎を伴う場合があります。両側性になると、慢性腎不全に進行することが多いでしょう。尿管結石がある犬も、無症状の場合と、血尿と腹部痛を伴う場合があります。片側性の尿管閉塞は、腎機能の低下を伴わない水腎症を起こすことがあります。

尿石を疑えば、X線検査やエコー検査まで行って診断しましょう。尿道結石が考えられて、排尿困難や排尿時に痛みを感じているようなら、尿道にカテーテルを挿入(雄犬で)することがありますが、ザラッという手応えを感じることもあります。膀胱炎がみられるなら、膀胱結石の可能性が高いので、X線検査やエコー検査で確認しましょう。エコー検査なら、X線透過性の結石も抽出できますし、腎結石、水腎症、水尿管症も診断可能です。


治療

尿道閉塞の解除と膀胱の減圧、が必要です。
手技は、カテーテルを挿入したり、膀胱穿刺を行うこと、可能なら圧迫解除でも。完全に閉塞してると、尿道切開手術が必要な場合もあります。腎後性高窒素血症があるようなら、輸液療法を行って、水分と電解質の平衡を回復させましょう。特に、高カリウム血症は命に関わるので要注意です。尿道閉塞や、膀胱、尿道の破裂に併発することがあり、集中的な治療が必要となります。

ストラバイト尿石、尿酸塩結石、シスチン尿石は、内科的な治療・溶解が効果的です。シュウ酸カルシウム尿石とケイ酸塩尿石は、外科的な除去になります。

外科的な治療のいいのは、尿石の種類が確定できること、解剖学的な異常も治療できること、欠点は、麻酔をかけること、侵襲的であること、根底となる原因が持続すること、です。外科的に除去しても、根本的な原因は除去できないので、再発率は下がりません。

内科治療では、尿中の塩濃度を下げて、溶解性を促進して、尿量を増加させます。欠点は、飼い主が長期にわたって管理を求められることです。費用的には、外科手術と変わりません。長期的な尿検査、細菌培養、X線検査などが必要になるからです。

予防もしっかりと行うべきです。再発防止も必要です。利尿を誘発することと尿路感染症をなくすこと、です。利尿は、尿比重と結石形成塩の尿中濃度を低下させるために、非常に重要です。尿比重は、1.020以下に保ってやるのがいいでしょう。尿路感染症は、細菌培養と感受性試験で、適切に治療してしまいましょう。

  • ストラバイト尿石
    ほとんどの場合、療法食を与えると溶解できます。結石状態から溶解させるには、2~6ヶ月は掛かりますので、そのつもりで治療しましょう。治療期間は、尿石の表面積に比例しますし、尿路感染症の有無にも関連します。X線検査で結石が認められなくなってから、1ヶ月は、療法食で過ごしましょう。結石溶解食では、蛋白質制限をしているので、傷の治癒が阻害されることがある、ということには注意しておきましょう。無菌性のストラバイト尿石なら、治癒期間は早くなります。
    ストラバイト尿石の内科治療は、尿中の結晶物質濃度を下げることが直接的に必要なことですが、細菌性尿路感染症を治療することも重要です。治療開始時に感染が確認できれば、溶解療法を行っている期間を通して抗菌薬を投与します。結石溶解時に、細菌が放出される可能性があります。抗菌薬は、尿の培養と感受性試験の結果に基づいて選択しましょう。食事療法を行っていてもアルカリ尿が続く場合は、細菌感染が持続しているか、飼い主が食事指導に従っていないか、のどちらかです。
    予防は、尿路感染症の防止と酸性尿の維持、結石形成塩の摂取抑制などです。維持食には、蛋白質・マグネシウム・カルシウム・リンが適度に制限されている処方食を選んで与えましょう。酸性尿も産生されます。それでも再発する犬は、素因となる異常があると考えて、詳細な検査を行うことが必要です。尿膜管遺残、膀胱ポリープや、潜在性副腎皮質機能亢進症などが疑われます。ストラバイト尿石に限らず、一度、尿石・結晶がみられた犬は、定期的な尿検査(2~4ヶ月毎)をしておく方が賢明です。
  • シュウ酸カルシウム尿石
    内科治療はできません。外科手術後や、初期段階で尿中に結晶がある状態なら、食事療法で管理します。蛋白質、カルシウム、シュウ酸塩、ナトリウムを適度に制限して、リン、マグネシウム、ビタミンCとDを正常に含んだ療法食が推奨されてます。経験的には、アルカリ尿でも、よく尿中に結晶がみられますので、尿のpH管理には注意しましょう。尿がアルカリ性に傾きすぎると、リン酸カルシウム尿石が形成されるので、注意しましょう。
    サイアザイド系利尿薬がカルシウムの尿排泄を抑制するので、ヒドロクロロサイアザイド(2mg/kg、po、BID)を投与することもあります。療法食との併用で効果が増強されます。
  • 尿酸アンモニウム尿石
    内科治療が可能です。
    肝機能不全を伴わない尿酸アンモニウム結石は、蛋白質と核酸含量の少ない療法食を与えて、尿をアルカリ性に保って、キサンチン酸化酵素阻害薬を投与(アロプリノール)して、尿路感染があれば、それも治療します。ウレアーゼ産生菌は、尿中のアンモニウムイオン濃度を増加させて結晶産生を促進してしまいます。療法食で、肝臓の尿素生成を抑制して、腎髄質の高張性と尿濃縮能を低下させることができますし、アロプリノール(10~15mg/kg、po、BID)は痛風・高尿素血症の治療薬ですが、キサンチン酸化酵素の拮抗阻害作用を持っており、体内の尿酸産生を抑制します。但し、高用量のアロプリノールは、高蛋白食と併用すると、キサンチン尿石を生じることがありますので、投与量や投与期間には注意しておきましょう。尿pHは、7.0を維持するのが適当です。
    アロプリノール
    肝機能不全から尿酸アンモニウム尿石を生じている犬は、先ずは基礎疾患の治療に専念しましょう。肝機能が改善されると、尿石は自然に溶解します。でも、門脈体循環シャントの手術をするのであれば、膀胱内の結石は一緒に除去しましょう。手術できないシャントや微小血管異形成を持っている犬は、療法食により尿酸アンモニウムの飽和抑制や肝性脳症を軽減できることがあります。
  • ケイ酸塩尿石
    ケイ酸塩尿石は、内科的に溶解できない尿石です。外科的除去の後、再発を防止するために、療法食への変更、尿量を増加させること、尿をアルカリ性にすること、が必要です。
  • シスチン尿石
    内科的治療と予防には、蛋白質やメチオニン(シスチンの前駆体)の摂取を減らすこと、尿をアルカリ性にすること、です。食事は、療法食にしておくといいでしょう。蛋白含有量が低く、アルカリ尿を産生して、尿濃縮能を低下させます。尿のpHは、約7.5ぐらいに保つのが適切です。
    他の尿石でもそうですが、尿をアルカリ性に保つ必要があるときには、ストラバイト尿石・結晶の析出に注意しておかなくてはなりません。

尿石を内科治療している間は、最低でも1ヶ月に1回、再診のために、来院してもらいましょう。尿検査とX線検査・エコー検査を行って、尿路感染の治療方針の確認と、結石の大きさを確認します。溶解療法を開始して2ヶ月間、尿石の大きさが変わらないようなら、外科手術を検討します。
尿石は、多くの犬で発生する疾患で、再発例も多いですから、適切な予防法と、定期的な再評価が重要です。