役に立つ動物の病気の情報 | 獣医・獣医学・獣医内科学など

泌尿器系の疾患/腎不全

Top / 泌尿器系の疾患 / 腎不全

腎不全

急性腎不全

腎臓ってのは、血流量が多くて、心拍出量の20%程度が流れ込んできます。なので、血液を介して、腎臓には他の臓器よりも毒素の入り込む余地が大きくなります。腎皮質は、とくに毒性物質に対する感受性が高いのですが、それは、腎血流の90%が腎皮質を通過して、大きな表面積を有する糸球体毛細血管が存在するためです。腎皮質内には輸送機能が備わっていて、代謝率が高いこともあり、近位尿細管とヘンレ係蹄上行脚の太い部分は、虚血や毒性物質の傷害を受けやすいのも原因の一つです。

毒性物質は、ATP(アデノシン三リン酸)を産生する代謝経路を阻害して、虚血は、細胞の貯蔵ATPを枯渇させます。エネルギーが喪失されると、ナトリウム-カリウム(Na/K)ポンプの不全に陥って、細胞が腫大して死滅します。糸球体濾過液から水と電解質が吸収されると、尿細管上皮は、さらに高濃度の毒性物質に曝されます。尿細管上皮細胞で分泌される物質や、吸収される物質は、細胞内に高濃度に集積してしまいます。例えば、ゲンタマイシンなどがそうで、ゲンタマイシンの腎毒性は、このような機序で起こる訳です。ヘンレ係蹄の対向流増幅系が、腎髄質で毒素を濃縮することも素因になります。

腎臓も、薬物や毒素の生体内変化に重要な役割を果たしているのですが、その生体内変化で、元の物質よりも毒性の強い代謝物を産生してしまうことがあります。エチレングリコールの酸化代謝によるグリコール酸とシュウ酸の産生などが、代表的なものです。

虚血や中毒を起こしやすい理由
・ 血流量が多い (心拍出量の20%; 腎血流の90%が皮質に供給される)
・ 糸球体毛細血管の表面積が大きい
・ 近位尿細管やヘンレ係蹄上行脚の太い部分は代謝率が高く
     低酸素症や栄養欠乏の影響を受けやすい
・ 尿細管上皮細胞内で毒性物質が濃縮される (分泌や再吸収)
・ 髄質内で毒性物質が濃縮される (対向流増幅系)
・ 胃物代謝で毒性代謝物が生成される

腎毒性を有する薬物や化合物があります。有名なのは、ゲンタマイシンとエチレングリコールで、急性腎不全の一般的な原因でもあります。犬や猫に、腎毒性があると考えられる物質を示しておきます。

治療薬重金属・有機化合物その他
抗生物質
 アミノグリコシド
 セファロスポリン
 サルファ剤
 テトラサイクリン
鎮痛薬
 非ステロイド系抗炎症薬





重金属
 鉛・水銀
 カドミウム・クロミウム
有機化合物
 エチレングリコール
 四塩化炭素
 クロロホルム
 殺虫剤・除草剤




色素
 ヘモグロビン・ミオグロビン
X線造影剤
化学療法薬
 シスプラチン
 メトトレキサート
 ドキソルビジン
麻酔薬
 メソキシフルレン

高カルシウム血症
干しブドウ

急性腎不全は、入院中の検査や治療でも偶発的に起こることがありますから、注意しましょう。麻酔や手術で、低血圧や腎血流の低下が、原因になります。潜在的に腎機能不全を持っている高齢の犬や猫に対して、適切な輸液療法を行わずに、長時間の麻酔をかけると、腎虚血や急性腎不全が起こることがあります。低血圧や腎血流量の低下は、血管拡張薬や非ステロイド系抗炎症薬でも生じることがあります。

Na/Kポンプの活性低下による細胞の腫大は、水分が細胞外腔から浸透圧で細胞内に引き込まれることで起こります。それによって、血漿中の水分量が低下して、腎血管内で赤血球の凝集と血管の充血やうっ滞が起こって、糸球体の血流低下、低酸素症、栄養の供給低下が誘発されます。

このような虚血、毒性物質による尿細管細胞の腫大、傷害、細胞死から起こる共通の結果は、ネフロンの機能障害と糸球体濾過率の減少です。

腎血流量の低下や虚血を引き起こす原因
脱水・循環血液量の減少・膠質浸透圧の低下
出血・血液粘稠度の上昇
敗血症・ショック・血管拡張
非ステロイド性抗炎症薬の投与
腎臓におけるプロスタグランジンの産生低下
高体温・低体温・火傷・外傷
腎血管における血栓症や微小血栓形成
輸血・深麻酔

急性腎不全では、尿細管の閉塞、逆漏れ、腎細動脈の収縮、糸球体毛細血管透過性の低下などで、個々のネフロンで糸球体濾過機能障害と減少が起こります。尿細管内では、細胞屑が濃縮して、ネフロンを通る濾液の流れを妨げます。間質の浮腫も尿細管を圧迫して、閉塞を起こします。

尿細管細胞が傷つくと、濾液の逆漏れ・異常な再吸収が起こります。濾液が尿細管から間質へ漏れて、血管系に入り込みます。尿細管の逆漏れは、尿細管が閉塞すると、近位尿細管圧が上昇して、さらに進行します。近位尿細管分節が損傷を受けると、溶質と水分の再吸収が低下して、遠位ネフロンと緻密斑に送られる溶質と水分が増加しますので、糸球体輸入動脈の収縮が起こります。そうすると腎血流量が低下してしまいます。
血管収縮を起こす物質は、ナトリウム排泄増加因子、レニン・アンジオテンシン系、トロンボキサンなどが関与していると考えられています。

急性腎不全を起こす尿細管傷害には、開始期・維持期・回復期が存在します。開始期には、治療で腎臓の傷害を緩和できれば、急性腎不全を防ぐことができます。尿細管は傷害を受けていても、腎機能は異常がないからです。でも、初期の腎不全なんて、飼い主さん、気付きません。現実的ではありません。偶然に、尿検査をして、沈渣中に腎尿細管上皮細胞と円柱が存在すれば、急性腎不全の開始期を疑うことができますけど。
維持期には、尿細管病変とネフロンの機能障害が発生します。腎性高窒素血症と尿濃縮不全が認められる所見です。ここで治療を行えれば、致死的なことは少ないのですが、それでも既存の腎病変、腎機能の改善や回復は起こりません。
回復期になって、腎病変は修復され、腎機能が改善します。尿細管の損傷で、基底膜が傷もなく残っている状態であり、上皮細胞が生存していれば、可逆的です。新しくネフロンを作ることはできませんが、元々腎臓が持っている予備ネフロン(通常時の50%)の残存分が、機能的な肥大によって、減少したネフロン分を代償して機能を保つことができます。腎機能の回復が不完全でも、適切な機能が認められるようになることもあります。

レプトスピラ症は、急性腎不全を引き起こします。人にも感染する人畜共通感染症なので、しっかりワクチンで予防しましょう。腎尿細管上皮細胞内で定着して増殖して、急性間質性腎炎を起こします。腎血管炎と腎腫大が、さらなる血流を阻害して、悪化します。

随分と以前になりますが、中国産のペットフードだったか、汚染された原材料を用いた粗悪なフードの摂取で急性腎不全が起こって犬が死亡する事故がありました。原因物質は、メラニンとシアヌル酸だったようですが、これらが化学反応を起こして、不溶解性の結晶が遠位尿細管内で形成されて腎機能の低下を起こしたようです。重度の急性腎不全と尿濃縮不全を伴う高窒素血症を示したようです。結晶尿が多くの症例でみられて、回復には長期間の静脈内輸液療法が必要になることがありますので、食事にはくれぐれも気をつけて、高品質の安全なフードをいつも与えてあげましょう。ここでケチると、結局、医療費で高くつきます。


 症状

急性腎不全でみられる症状は、嗜眠、食欲不振、嘔吐、下痢、脱水などですが、特徴的までとはいきませんが、口腔内潰瘍や口臭(尿毒症臭)が認められることがあります。急性腎不全を疑うのは、高窒素血症と、等張尿やほとんど濃縮されていない尿が持続する場合です。アジソン病、高カルシウム血症、フロセミドの大量投与などで、同様の所見がみられることもありますが、これら腎前性の疾患は、体液の補充で高窒素血症が消失します。

急性腎不全は、腎臓が傷害を受けてから、数時間から数日以内に起こります。全身状態は比較的いいのですが、腎臓の腫大、血液濃縮、高カリウム血症、代謝性アシドーシスや、尿沈渣で顆粒円柱、上皮細胞が観察されると思います。

腎生検をすると、混濁浮腫をや壊死を起こした近位尿細管細胞の変性と、それに伴う間質の浮腫と、単核球、多形核白血球の浸潤が認められます。組織学的検査をすれば、尿細管の再生所見と、尿細管基底膜が無傷で残存しているか否かを見れるので、予後の判断に役立ちます。多数の顆粒円柱、広範囲の尿細管細胞壊死、間質の石灰沈着と線維症、基底膜の断裂などは、予後不良所見です。


 危険因子について

病院外では、事故や毒物となる物質の摂取が危険因子になります。飼い主がしっかり予防すべきことです。
院内では、中毒性、虚血性の急性腎不全の潜在的な危険因子を認識しておかなくてはなりません。薬の組み合わせで症状がでることもありますし、麻酔が必要な症例や、腎毒性を持つ薬の投薬が必要な場合もありますので、どちらを選択するのか、効果と危険性を比べて判断していかなくてはなりません。可能な限り、腎臓に損傷を与える原因や危険因子を排除して、是正していきましょう。

急性腎不全の危険因子
既存の腎疾患や腎機能不全
脱水
心拍出量の低下
敗血症・子宮蓄膿症
播種性血管内凝固(DIC)
発熱
肝疾患
電解質異常(低カリウム血症や高カルシウム血症)
利尿薬と腎毒性薬(アミノグリコシド系)の併用
腎毒性薬(アミノグリコシド・非ステロイド系抗炎症薬)の併用
蛋白摂取量の低下
糖尿病

急性腎不全の危険因子には、腎血流を阻害する疾患、潜在的な腎疾患、電解質の不均衡、腎毒性薬による治療、食事の影響などがあります。
腎血流量の低下は、腎臓に対する腎毒性や腎虚血性障害の危険性を増加させます。脱水と体液枯渇は、腎血流量低下の原因となります。血流量の低下は、心拍出量の低下や血漿膠質浸透圧の低下、血液粘稠度の上昇、全身性血管拡張からも起こります。体液の枯渇で、尿細管液の流量が低下すると、尿細管再吸収が促進されて、尿細管内の腎毒性薬の濃度が上昇します。

既に腎疾患を持っている場合や、症例が高齢の場合、ある程度、腎機能が低下していることが多いので、腎毒性に対する感受性が高くなっている可能性があります。高齢の動物では、尿の濃縮能も低下していますから、脱水に対する代償機能も低下しています。腎疾患を既に持っていると、血管拡張性のプロスタグランジンの産生も低下してますから、それによって生じる不均衡な血管収縮から、腎血流量の低下が起こります。

カリウムの摂取量が低下すると、ゲンタマイシンの腎毒性が強まることがわかっています。カリウムの枯渇が細胞壊死を起こしやすいからと考えられます。嘔吐、下痢、食欲不振が続いている症例には、体内のカリウム濃度の低下に注意しましょう。ゲンタマイシンの投与では、カリウムの尿中排泄が増えます。互いに悪影響を及ぼしあうので、注意して投与を行う必要があります。

フロセミドとゲンタマイシンの組み合わせも、よくありません。フロセミドで脱水が起こり、ゲンタマイシンの分布が制限されて、腎皮質からの取り込みが増加するので、腎毒性が強く出ることがあります。かと言って、水分補給を行っても、ゲンタマイシンの腎毒性は消失しません(程度は軽くなります)。これは、フロセミドが、ゲンタマイシンの尿細管での取り込みを促進するためです。

非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)も危険因子です。レニン濃度の増加を伴う状態で、問題となります。レニン濃度の増加は、ナトリウムや体液の枯渇(脱水状態)、低血圧、うっ血性心不全、慢性腎臓病などで起こります。レニン濃度が高くなると、アンジオテンシンとアルドステロンの産生を刺激しますので、腎血流と糸球体濾過率を低下させます。通常は、腎臓のプロスタグランジンが作用して、是正してくれますが、NSAIDsは、プロスタグランジンの保護作用を低下させるようです。非選択的COX阻害薬だけでなく、COX-2特異的阻害薬でも、だめです。犬は、腎臓にCOX-2受容体があって発現しているので、感受性が高いためです。ACE阻害薬を投与している症例では、NSAIDsが、ACE阻害薬のプロスタグランジンの産生刺激による効果を打ち消すので、腎毒性が強く出てしまいます。気をつけましょう。

高蛋白食で、クレアチニンクリアランスとゲンタマイシンの腎排泄が維持されたというデータがあります。なので、食欲不振で蛋白摂取量が低下している症例は、危険因子となることを知っておきましょう。


 治療

治療でやることは、腎血行動態の障害を除去すること、水分と溶質の不均衡を緩和すること、ネフロンの修復と肥大に時間的余裕を与えること、です。クレアチニン濃度が低下して、尿量が増えたら、治療に反応している証拠です。利尿によって、BUN(尿素窒素)、リン、カリウム濃度が低下するので、過剰な水和が緩和され、治療効果が上がります。この尿量の増加は、尿細管での濾過液の再吸収低下によるものです。尿量の増加が、糸球体濾過率の改善を意味するものではない、ということです。

急性腎不全の犬も猫も、脱水状態にあります。尿濃縮能の低下に、消化管からの体液喪失(嘔吐や下痢など)があるためです。体液補給で脱水状態を改善すると、腎前性の成分が是正されて、以降の虚血性尿細管傷害を防ぐことができます。水分補給で利尿が確保されると、溶質(カリウムや尿素窒素など)の排泄が促進されます。尿細管の流量が増加すると、溶質の再吸収が抑制されます。

急性腎不全の治療指針
腎毒性薬の投薬中止。活性炭などを投与して、吸収を抑制する。
解毒が可能なら、その処置。
腎前性・腎後性の異常が特定されれば、治療。
 ↓
輸液点滴
 生理食塩水を、6時間で不足分を補充。
 維持量を継続点滴。持続する喪失分を補充。
 ↓
尿量測定
電解質異常を補正: 高カルシウム性腎症を鑑別する。
 ↓
必要に応じて、尿量の増加、利尿薬を投与。
 マンニトール・フロセミド
 ↓
高リン血症を是正: リン制限食の給餌
嘔吐や胃腸炎を治療
H2遮断薬で胃酸の過剰分泌を抑制
1日の最低必要カロリーの給餌(70~100kcal/kg/日)

急性腎不全は、大量の輸液を急速投与しなければなりません。静脈を確保して、最初の6時間以内に、不足している体液を補充してやりましょう。心疾患がある症例は、多少時間を掛けても構いません。最初に、20mL/kgの輸液を10分で投与してみましょう。体液過剰の判断ができます。
最初の6時間で体液を補充するのは、腎血流を速やかに改善して、虚血性傷害の持続防止のためです。輸液剤は、生理食塩水です。高ナトリウム血症があるなら、ブドウ糖2.5%添加して投与する方がいいようです。過水和状態を防ぐために、体重測定・赤血球容積・血中総蛋白量を頻繁に計測しておきます。気管支肺胞音、ラ音や喘鳴、頻脈、結膜浮腫、漿液性鼻汁があると、過剰な点滴量で過水和状態と判断できます。肺水腫が生じているために認められます。

点滴を行っている状態で、尿量(mL/kg/時)と電解質の測定を行います。
維持輸液量の2/3が尿への体液喪失ですので、尿量を測定しておくと、輸液維持必要量が計算できます。乏尿性の急性腎不全と非乏尿性の場合では、輸液量も大きく変わってきます。
ときおり、カルシウムの平衡異常が起きることがありますので、電解質測定では、カルシウム濃度にも注意しておきます。高カルシウム血症が認められたら、腫瘍やビタミンD3中毒など、原発性疾患を疑いましょう。治療は、生理食塩水の点滴継続と、フロセミドによる利尿を促すことです。

乏尿性急性腎不全では、高カリウム血症を起こす危険性があります。血中カリウム濃度が、6.5~7.0mEq/Lを超えるようだと、心伝道系の異常や心電図に変化がでます。頻脈、心房停止、心室固有調律、心室性品脈、心室細動、心停止や、T波の先鋭化、PR間隔延長、QRS幅増大、P波の消失などがおこります。突然死の原因ともなりますので、要注意です。
カリウムを含まない輸液を行って、尿量を増加させれば、改善します。重度な高カリウム血症には、重炭酸ナトリウムを投与します。効果は、一時的なものですので、輸液を継続して、利尿を促進して、カリウムを排泄させましょう。重炭酸ナトリウムは、同時に代謝性アシドーシスも是正しますが、輸液療法で消失することが多いので、特別な治療は通常不要です。

乏尿の症例は、輸液点滴を行って体液量を増加させても、乏尿が持続する場合が多く、利尿薬を投与するのですが、効果はあまり期待できません。多尿性の症例は、尿細管の傷害も軽く、排泄も十分にありますが、利尿薬を用いるときには、脱水がないようにして、体液を増加させた後で行います。用いる薬剤は、フロセミドかマンニトールが適切です。
フロセミドは、ヘンレ係蹄行脚の太い部分で、ClとNaの再吸収を阻害して、ナトリウム排泄利尿作用と浸透圧性利尿作用を引き起こします。投与量は、2~6mg/kgです。
10%もしくは20%マンニトール液は、0.5~1.0g/kgの用量で投与します。浸透圧利尿薬です。全量を、15~20分かけて、緩徐に静脈内投与します。効果があれば、1時間以内に尿量が増加します。マンニトールは、尿細管の腫大を軽減させて、尿細管流量を増加させて、尿細管の閉塞や壊死を予防します。過水和状態でのマンニトールの使用は禁忌です。血管容積を拡大するので、肺水腫を併発します。

利尿が確保されてもされていなくても、輸液療法で、尿、呼吸、嘔吐や下痢で失われる体液喪失分を補うようにします。呼吸では、1日あたり、20mL/kg程度の水分喪失があると推測されます。体液の喪失や増加は、体重から間接的に推定できますので、1日2~3回の体重測定をしておきましょう。

利尿が確保されて、高ナトリウム血症や高カリウム血症がない症例には、リンゲル液や乳酸リンゲル液を点滴液で使用しましょう。急性腎不全の回復期には、尿量と電解質の喪失が大きくなります。嘔吐や食欲不振があれば、カリウム添加も必要になってきます。
利尿の促進、維持ができたら、輸液量を漸減していきます。BUN・リン濃度が低下嘔吐と下痢がない食欲や飲水が回復したら、減らしていきます。目安としては、輸液を開始してから、1週間~10日以上掛かると思います。必要量の25%を、毎日減らしていきます。輸液量を減らして、体重が減少したり、赤血球容積、総蛋白、BUN・クレアチニン濃度が上昇するようなことがあれば、維持量に戻しましょう。

  • 予後
    重度の尿毒症、アシドーシス、高カリウム血症が持続すると、予後不良です。腎臓の傷害が重度で、修復に時間が掛かる、腎機能の回復に何週間も掛かる場合も、予後はよくありません。
    尿細管が再生して、代償性にネフロンが機能してくれると、予後良好です。概ね、治療に対しては、3~5日以内に反応してきます。それでも、腎機能の回復には時間が掛かることを、飼い主には説明しておきましょう。見た目で元気に見えると、飼い主は治ったものと思います。継続してケアをしておかないと、再発したり、一層悪くなることもあります。注意しましょう。
    初期の高窒素血症や尿毒症の程度、輸液療法に対する反応、腎臓病変の病理組織学的所見が、予後の判定に重要な指標になります。


慢性腎臓病

慢性腎臓病になると、原因を特定することは困難です。糸球体の傷害や尿細管の傷害は、結果としてネフロンの喪失ということで確認されて、病理組織学的にも非特異的な変化でしか認められないためです。糸球体疾患が、慢性腎臓病の原因になっていることがわかってきたようですが。

慢性腎臓病を引き起こす疾患
免疫疾患
   全身性エリテマトーデス・糸球体腎炎・血管炎
アミロイド症
腫瘍
腎毒性物質
腎虚血
炎症・伝染性疾患
   腎盂腎炎・レプトスピラ症・腎結石
遺伝性・先天性疾患
   腎低形成、腎異形成・多発性嚢胞腎・好発犬種、猫種
尿路閉鎖
特発性

慢性腎臓病の腎臓では、ネフロンの喪失と糸球体濾過率の低下がみられます。糸球体濾過率が低下すると、体外へ排出される物質の血漿濃度が上昇します。この血漿中には、さまざまな物質が含まれいます。腎臓は、老廃物を排泄して、体液と電解質の平衡を維持する重要な働きの他に、内分泌臓器としても機能してて、いくつかのペプチドホルモンを分解しているからです。ホルモン障害も、慢性腎臓病に影響を与えているようです。例えば、慢性腎不全では、エリスロポエチンとカルシトリオールの産生低下があって、非再生性貧血と上皮小体機能亢進症を引き起こします。ガストリン濃度の上昇で、胃炎が起きることもあります。

症状は、尿毒症症候群を示して、血漿中のさまざまな物質の濃度上昇で起こるものと考えられます。ナトリウムと水の不均衡、貧血、神経学的障害、消化器障害、免疫不全、骨異栄養症、代謝性アシドーシスなどが組み合わさった起こります。骨異栄養症は、上皮小体機能亢進症で起こるのですが、血漿カルシウム濃度やリン濃度を正常に保とうとする働きによって発症します。

慢性腎臓病になると、腎機能を正常に維持しようとして、無傷の予備ネフロンなどが肥大して、糸球体濾過率を増加させます。しかしながら、個々のネフロンに負荷が掛かり、蛋白尿や糸球体硬化症が起こり、さらにネフロンを減少させてしまいます。
ネフロン喪失


 症状

症状は、数ヶ月から数年を経て、現れてきます。高窒素血症の程度に比べて軽い症状が多く、体重減少、多飲多尿、削痩、非再生性貧血がみられます。腎臓は、萎縮して不規則な形になっていることが多いのが特徴です。X線検査で確認できます。エコー検査では、皮質と髄質の境界が喪失している像が見られることが多く、皮質はエコー源性が上昇します。慢性腎不全では、3/4以上のネフロンが傷害を受けていると考えられ、線維化が起きているということを示しています。

X線検査やエコー検査では、腎盂腎炎や尿石症・結石症も特定できるので、鑑別診断のために、しっかりと検査しておきましょう。慢性腎臓病の場合は、生検は行いませんが、病理組織学的な変化として、尿細管の喪失とそれに伴う線維症と石灰沈着による置換、糸球体硬化症、糸球体の萎縮、間質における単核球(小リンパ球・形質細胞・マクロファージなど)の増殖巣と線維性結合組織による置換などが認められます。

 病期分類

慢性腎臓病と判断して、輸液療法で腎前性高窒素症を改善したら、血清クレアチニン濃度によって、病期を分類し、診断や治療を行います。国際腎臓病研究会が設定した指針を使います。

クレアチニン
濃度
第Ⅰ期
非高窒素血症
第Ⅱ期
軽度高窒素血症
第Ⅲ期
中等度高窒素血症
第Ⅳ期
重度高窒素血症
猫(mg/dL)
犬(mg/dL)
< 1.6
< 1.4
1.6 ~ 2.8
1.4 ~ 2.0
2.9 ~ 5.0
2.1 ~ 5.0
> 5.0
> 5.0

血清クレアチニン濃度は、腎前性・腎後性高窒素血症の原因を除外するために、尿比重と身体所見を考慮に入れて考えます。蛋白尿と全身性高血圧の有無によって、さらに細かく考えていくことが必要です。

慢性腎不全のⅡ期からⅣ期は、腎性高窒素血症に基づいて、腎不全を判断していきます。腎不全は、高窒素血症の持続と、尿濃縮不全の重複が基準です。Ⅰ期は、蛋白尿や尿濃縮障害の持続、正常範囲内でのクレアチニン濃度の増加を元に診断します。Ⅰ期でも、触診やエコー検査で、腎臓の異常所見がみられることもあります。


 治療

慢性腎臓病が同定されたら、腎疾患の特徴腎疾患と腎機能の安定性の特徴腎機能低下に伴う症例の問題の特徴、を明らかにしていきます。腎機能の安定性は、腎疾患初期にみられた異常を経時的に観察することで評価できます。血液検査、尿検査、尿蛋白の定量、血圧測定などが含まれます。慢性腎臓病の初期では、治療を適切に行えば、腎機能の改善・安定が図れる可能性が高く、そのためにも、腎疾患と腎機能の安定性の特徴、を明らかしておくことは非常に重要です。第Ⅱ期以降、症状が進行すれば、臨床症状がより重要であるので、臨床的な問題を明確にしていきます。食欲不振、嘔吐、アシドーシス、カリウムの枯渇、高血圧、貧血に注意しましょう。

慢性腎臓病の病期に応じた治療優先度

 第Ⅰ期第Ⅱ期第Ⅲ期第Ⅳ期
特異的な腎臓病の
検査と治療
↑↑↑↑↑
腎臓病の進行を評価
腎臓保護療法の開始
↑↑↑↑↑↑
症例における
問題の評価と治療
↑↑↑↑↑

治療も、病期に応じて行います。
慢性腎臓病の初期(第Ⅱ期)には、腎結石や細菌性腎盂腎炎に対する特異的な治療や、腎疾患の進行を抑える治療(腎臓保護療法)が最適です。血清リン濃度を下げるための食事療法、全身性高血圧や糸球体内高血圧を正常化して、蛋白尿を軽減するためにACE阻害薬を投与します。それ以降の病期では、腎機能低下に伴う臨床症状を緩和する治療を行います。

原発原因を検出できたなら、原疾患に対する特異的な治療は有効です。腎傷害の程度を軽減できます。高齢の犬や猫では、尿路感染の発生率が高く、慢性腎臓病では、尿濃縮能が低下して、尿の抗菌力が落ちるので、余計に発生が高くなります。細菌性腎盂腎炎は、上行性に感染する可能性が高いと考えられます。これらは、抗菌薬で特異的に治療できます。腎盂腎炎の進行を止めれば、腎結石の危険性も軽減できますし、腎傷害が阻止できます。腎結石が出来てしまうと、抗菌薬では効果がないので、手術が必要になります。麻酔や手術は、慢性腎不全の犬や猫の腎機能を、さらに低下させてしまいます。なので、尿路の閉塞が起こらない限り、手術は避けましょう。

高血圧も、慢性腎臓病の症状をややこしくさせます。高血圧がみられたら、血管拡張薬(ACE阻害薬やカルシウムチャンネル遮断薬)を投与します。第1選択は、ACE阻害薬(0.5mg/kg、sid)です。糸球体内高血圧と蛋白尿にも有効で、腎臓の保護作用もあります。カルシウム拮抗薬では、アムロジピンが推奨(猫)されるのですが、アムロジピンにはレニン・アンジオテンシン系を刺激して、輸出細動脈を収縮させて糸球体をより高血圧にしてしまうことがあるようで、ACE阻害薬と併用するのがいいようです。重度な高血圧で、ACE阻害薬でも効果が少ないなら、アムロジピン(0.625mg/猫;犬では2.5mg/head)を併用しましょう。

しばらくすると、交感神経系を介した心拍数の増加と、アルドステロンを介したナトリウムと水分の貯留で、血管拡張作用が減弱することがあります。その際は、利尿薬、アルドステロン拮抗薬、β遮断薬を追加投与すると、ACE阻害薬やカルシウム拮抗薬の作用を助けてくれます。単独では、効果ありませんよ。血圧は、150mmHg(収縮期圧)以下にしたいところです。これなら、眼、脳、腎臓、心臓などに対する傷害は与えないようです。

慢性腎臓病の、Ⅲ期・Ⅳ期の犬や猫は、たいてい腎病変が進行して、腎機能が低下しています。腎機能の低下は、血清クレアチニン濃度をモニタリングして評価します。

食事中のリンを制限するのも、重要な治療法です。腎臓用の療法食を食べるようにしましょう。高リン血症の起こる理由は、腎臓でのリン酸塩の排泄低下から、です。また、腎臓では、活性化ビタミンD3の産生が減少して、腸からのカルシウム吸収が低下して、これが腎臓のカルシウムの再吸収障害と組み合わさると、血漿中のイオン化カルシウムの濃度が低下します。ビタミンD3と血清カルシウム濃度の低下は、上皮小体ホルモンの分泌を促して、この段階では、腎臓からのリン酸塩の排泄促進と、腎臓でのカルシウム再吸収と骨および腸からのカルシウム吸収を増加させます。しかし、上皮小体機能亢進症が重度になってしまうと、骨異栄養症、骨髄抑制、軟組織への石灰沈着が生じます。腎臓の傷害を受けた組織へも石灰沈着が起こるので、腎機能が低下します。このような石灰沈着や線維化は、リンの摂取を制限すると予防できることがわかっていますので、適切な療法食を与えて、必要に応じて、リン酸結合剤を投与すると、高リン血症と二次性上皮小体機能亢進症は抑制できますので、生存期間も延長します。
カルシトリオールの投与も有効なようですが、カルシトリオールの投与は、食事療法で、高リン血症が管理できるまでは行わないようにしましょう。カルシウム濃度とリン濃度が高すぎても、カルシトリオールの投与は逆効果です。

蛋白尿の診断と治療も、順を追って行いましょう。
蛋白尿が認められたら、次は、起源の同定をします。腎性蛋白尿であるかどうか、というところが重要です。連続して蛋白尿をモニタリングして、持続的なものか、一時的なものか、を確認します。2週間間隔で、2回とも蛋白陽性なら、持続的と判断していいでしょう。慢性腎不全の犬や猫では、程度が軽くても、蛋白尿は生存期間を短縮します。持続する蛋白尿で、高窒素血症が悪化するようなら、ACE阻害薬と食事療法(蛋白制限食)で治療を開始します。

慢性腎臓病の末期、腎不全や尿毒症を呈して、QOLが悪い動物は、対症療法が治療の主体になります。食事は、リンの制限・蛋白質の制限を行います。療法食を食べるのがいいと思います。
蛋白質は、高品質の蛋白質を少量、必要最小限の必須アミノ酸が摂取できるように与えるのが理想です。これにより、腎臓から排出される尿素、その他の窒素老廃物が減少します。蛋白制限食を食べていると、エネルギー必要量が不足することがあります。カロリー必要量を満たす炭水化物や脂肪が十分に含まれていないと、体内の蛋白質が異化されてエネルギーと使われるので、腎臓から排泄される老廃物が増えてしまいます。そうなると、腎不全の悪化につながりますから、要警戒です。
食事をしっかり管理すれば、体重、クレアチニンやアルブミン濃度の安定、BUNやリン濃度の低下が、治療の反応として現れてきます。腎不全の早い段階から、蛋白質の制限食を考慮して、必要最低限の高品質で消化の良い蛋白質を、腎機能の程度に応じて、最大限に与えてみましょう。

び慢性の筋肉衰弱がみられると、低カリウム血症やカリウムの枯渇を考慮しましょう。カリウムを経口投与すれば、2~3日で改善します。腎不全では、食欲不振、多飲多尿、嘔吐が起きますが、これらはカリウムの枯渇を引き起こします。しかしながら、血中のカリウム濃度には影響を与えない(むしろ上がることがある)ことが多く、これは、骨格筋に存在するカリウムから使われるためと思われます。特に、猫では、慢性腎臓病の初期段階から経口的にカリウムを補充しておく方がいいでしょう。

慢性腎臓病では、嘔吐や食欲不振がよく起こりますので、カロリー摂取が低下します。嘔吐や食欲不振の原因は、尿毒素による化学受容器誘発帯の刺激ガストリンの排泄低下と胃酸分泌の増加尿毒症による消化器の刺激、です。この機序を考えると、メトクロプラミドで抑制することができましょう。メトクロプラミドは、胃酸分泌を起こすことなく、胃の運動性と胃内容物の排出を促進するので、腎不全の症例にも適当です。H2受容体遮断薬(ファモチジンなど)も、胃酸分泌を抑えて、結果的に嘔吐を軽減できることがあります。嘔吐や尿毒素の粘膜面への作用で、胃炎、口内潰瘍、口内炎、舌炎なども起こります。そのため食欲不振が持続してしまうこともありますので、必要に応じて、胃瘻チューブなどを留置して、カロリー摂取と水分補給をしてあげましょう。
腎不全の症例に対しては、生涯続く治療が必要になることが多いので、自宅で皮下点滴(10~50mL/kg)を1~3日毎に行うことを指導しておくといいと思います。輸液皮下点滴でも、QOLを改善できる症例も多々あります。

慢性腎不全で認められる非再生性貧血は、エリスロポエチンの産生低下、赤血球の寿命短縮、消化管からの失血、赤血球生成に影響を及ぼす上皮小体ホルモンなど、尿毒素の作用が複合して起こります。栄養不足(ビタミンB6・B12、ナイアシン、葉酸など)や鉄の枯渇でも、貧血は起こります。経験的なものですが、貧血がみられると予後が悪い気がします。嗜眠や衰弱がみられれたら、貧血が原因と思われます。
非再生性貧血には、ヒト組み換えエリスロポエチンが有効です。100U/kgを、週3回、皮下投与します。ヘマトクリット値で、犬:40%、猫:35%に戻れば、投与間隔を延長します。週1~2回で大丈夫でしょう。食欲増進、体重増加、体力増強、QOLの向上が認められます。但し、ヒト組み換え製剤ですので、いずれ抗体が産生されて、効かなくなります。今は、それを理解した上で、使用するしかありません。