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消化器系の疾患

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消化器系の疾患

 臨床症状

  •  嚥下困難、口臭、流涎
    •  口腔疾患をもつ動物では、嚥下困難、口臭、流涎を同時に認めることがあります。嚥下困難(摂食困難)は、口の痛み、腫瘤、異物、外傷、神経筋機能障害が原因で起こります。口臭は、口腔内の異常な細菌増殖が原因です。組織の壊死、歯石・歯周炎や、食道での食物の停滞でも細菌増殖が起こる場合があります。流涎は、「りゅうぜん」と読んで、よだれのことですが、多くの場合、悪心(吐き気)によるものです。口の痛みや嚥下できないときにも起こります。
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  •  吐出、嘔吐、喀出、吐血
    •  吐出は、物(食物、水、唾液)を口、咽頭、食道から排出すること、嘔吐は、胃や腸から物質を排出すること、喀出は気道から物質を排出すること、吐血は嘔吐物に血が混じることです。
      これらは明確に区別しないといけません。
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  •  下痢、血便、メレナ
    •  下痢とは、糞便中の水分量が過剰になっている状態です。水分量が多少増えると形はあるが軟らかい軟便になります。粘液が混じることもあります。粘液は大腸疾患によるものです。下痢の場合、まずは急性なのか慢性的なものなのか、を判断しましょう。血便は、便に血液(鮮血)が混じっている状態を言います。下痢の中に血液が混じっていると大腸疾患を考えますが、正常便に血液が混じると出血性の疾患を疑います。便の表面に血液が付着しているか、血液が糞便中に混ざっているか、で出血部位も異なります。メレナとは、血液の消化が原因で出てくる糞便であり、コールタール様の黒色便です。
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  •  しぶり、便秘、便失禁
    •  排尿時や排便時に尿や便が出にくかったり痛みを伴うために力むことをしぶりと呼びます。排便困難は、直腸からの糞便の排出に疼痛や困難を伴うことを言います。結腸、膀胱、尿道の閉塞性または炎症性病変が原因です。便の排出回数が少なく困難である状態になると便秘となります。著しく便の回数が少ないと閉塞性便秘となります。逆に、排便がコントロールできず、無意識に排便がなされる状態は、便失禁となります。
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  •  体重減少、食欲不振
    •  体重減少は、二次的な問題です。特異的な問題(腹水、嘔吐、下痢、多飲多尿)が存在するなら、先にその原因を検討しましょう。特定の疾患を限定できるような症状がないなら、食欲の有無を確認して、食欲不振なのか、食欲があっても体重が減少しているのか、をみていく必要があります。食欲不振についても原因が明らかであれば、その疾患の治療を行います。原因不明の食欲不振の場合、詳細な検査を検討しましょう。
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  •  腹水、急性腹症、腹部疼痛、腹部膨満、腹囲膨満
    •  腹水の原因には、通常、低アルブミン血症、門脈圧亢進、腹膜炎が考えられます。急性腹症は、ショック、敗血症、激しい疼痛を伴う腹部疾患によって起こります。命に関わる状態に陥るので、即治療に入りましょう。腹部の疼痛がみられたら、痛みの元を同定して、腹腔内に由来するものか、腹腔外に由来するものか、を判別しましょう。腹部膨満を訴える飼い主さんが来院したら、急性腹症を疑い、それが除外されたら他の原因を特定していきましょう。腹囲膨満は、肝胆系の疾患で起こることがあり、臓器腫大、腹水による腹腔の拡張、腹部の筋の緊張低下によって引き起こされます。
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  •  黄疸、ビリルビン尿、便の色
    •  犬や猫の血清や組織が過剰の胆汁色素(ビリルビン)で黄色く見える状態が黄疸です。特に、『黄色い猫』は要注意です。正常ならビリルビンは肝臓に取り込まれて排泄されますが、大量で持続的な胆汁組織の産生増加(高ビリルビン血症)や胆汁色素の排泄障害(胆汁うっ滞)が原因で組織や血漿が黄色くなります。犬では腎臓のビリルビン吸収能力が低いので、正常でもビリルビン尿がみられることがあります。猫は尿細管でビリルビンが吸収されるので尿中にビリルビンは出てこない。なので、猫のビリルビン尿は高ビリルビン血症を示します。黄疸や高ビリルビン血症に先行して、ビリルビン尿がみられることが多く、飼い主による主訴で、『おしっこが黄色い』ということがあれば、黄疸を疑っておきましょう。胆汁は、胆嚢に貯蔵されますが、その後、腸管に分泌されます。それが便の色にも反映されるのですが、胆汁の排泄が正常に行われないと、便は無胆汁便になり、白っぽい便になります。
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  •  肝性脳症、血液凝固障害、多飲・多尿
    •  肝胆疾患が重篤な犬や猫では、吸収された腸管内毒素が肝臓で代謝されず、大脳皮質に影響を与えます。異常な神経活動や神経系機能不全を起こします。それが肝性脳症です。重度の肝胆疾患では、出血傾向(血液凝固障害)を示す可能性もあります。肝臓では、多くの凝固因子・凝固阻止因子が合成されますので、止血に対して肝臓の役割は不可欠です。多飲と多尿は、いくつかの疾患の特徴的な症状ですが、重篤な肝細胞機能不全や門脈体循環シャントの症状でもあります。
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 検査

獣医さんってのは、触診でお腹を触っているときに、個々の臓器を可能な限り識別してます。正常なら、小腸、大腸、膀胱は簡単に認識できます。腹水があったり、腹痛の動物、肥満などの場合は難しくなります。猫なら、左右とも腎臓を触知できます。脾腫、肝腫、腸や腸間膜の腫瘤、腸内異物が大きければ、触知可能です。
お腹を触られるのを嫌がる犬や猫もいますし、緊張で腹筋が硬くなってる場合もあります。一度、お腹に触れて、再度、触れるという動作が必要です。一回の診察で、2~3回、腹部の触診をする方がいいでしょう。
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 基本的な治療と方針

消化器系の疾患について、治療にあたっての一般原則を記載しておきます。
大きく分類すると、①輸液療法②栄養管理③内服薬による内科治療です。
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 口腔、咽頭、食道の疾患

消化管の入り口である口腔内では、炎症、増殖性の疾患、さらには腫瘤性の病変がみられることがあります。悪性黒色腫(メラノーマ)は転移も早く非常に厄介です。喉を食べ物が通る際に飲み込むことができない嚥下障害、食道の筋肉の緊張が消失した状態である食道アトニーや食道の閉塞が、口から胃までの間に起こる主な疾患です。
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 胃の疾患

胃で起こる疾患としては、胃炎、胃潰瘍・びらん、胃の流出路の閉塞や食べ物の停滞、浸潤性の疾患があります。
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 腸の疾患

腸の疾患では、下痢、細菌感染症、消化管内の寄生虫について、消化・吸収に関わる病気、小腸性の疾患と大腸性の疾患、肛門周囲の疾患から、最後は便秘に至るまで、多岐に亘ります。
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 腹腔・腹膜の疾患

腹膜とは、胃や肝臓など腹腔内の臓器をおおっている薄い半透明の膜(漿膜)です。厳密には、腹膜で囲まれた部分は腹膜腔と言いますが、まとめて腹腔と呼んでますな。
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 肝臓・胆道の疾患

犬の肝臓や胆道の疾患では、食欲不振、体重減少、腹水、黄疸、肝性昏睡など、様々な症状が認められます。しかし、これらの症状は、肝臓や胆道の疾患に特異的なものではないので、他の疾患との鑑別を、検査を行ってスクリーニングしていくことになります。
肝臓や胆道の疾患は、臓器機能に予備能力が高く、多少の異常があっても症状に現れてこないので、可能な限り早期発見をできるように、定期的な検診を受けておくことをお薦めします。

肝胆疾患の臨床症状

一般的または非特異的な症状よく認められるが特徴的ではない症状
食欲不振
抑うつ
嗜眠
体重減少
乏しい被毛または被毛粗剛
悪心・嘔吐
下痢
脱水
多飲多尿
腹囲膨満
  臓器腫大・腹水貯留・腹筋の緊張低下
黄疸・ビリルビン尿・無胆汁便
代謝性脳症
血液凝固障害




猫は、総胆管と膵管の十二指腸への出口が1つになっているため、猫の肝臓や胆道の疾患では、肝臓・胆嚢・膵臓が一気に悪くなる(三臓器炎)ことが多く、猫の黄疸には警戒が必要です。

犬の肝臓・胆道疾患と、猫の肝臓・胆道疾患を分けて記載しておきます。

  1.  犬の肝臓・胆道疾患
  2.  猫の肝臓・胆道疾患

 肝臓疾患の合併症

肝不全の犬で、頻繁に見られる合併症について、まとめておきます。
急性もしくは慢性に進行する機能的な肝細胞の喪失、原発性肝胆道系疾患によって引き起こされる肝内門脈圧亢進、後天的な門脈体循環シャントなどが、発生します。先天性門脈体循環シャントに起因する肝性脳症は、犬でも猫でもみられます。蛋白質カロリー欠乏も、犬でも猫でもみられて、慢性肝疾患で顕著に認められます。
猫では、胆管疾患の併発、膵臓疾患、小腸疾患(三徴症)の影響で、血液凝固障害がよくみられます。

肝臓疾患の合併症の治療は、犬や猫のQOLを維持するために必要であり、肝臓の機能を回復させるために不可欠なことです。
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 膵外分泌疾患

膵臓は、胃の下にへばり付くように位置しており、左葉と右葉の二葉あって、左葉が横行結腸と胃の大彎の間に横向きに、右葉が十二指腸に沿って縦向きに走行してます。膵臓に炎症が起こると、隣接する臓器が影響を受けます。

膵臓は、酵素などの外分泌を担う腺房細胞で組織の90%を構成して、残りの10%は、インスリンなどの内分泌を担う膵島(ランゲルハンス島)が腺房細胞の間に散在しています。両者は互いに連携しながら、消化や代謝を調整しています。膵外分泌腺の主な機能は、消化酵素、重炭酸塩、内因子を十二指腸に分泌することです。膵酵素は、大きな食物分子の初期消化に関与しますが、膵酵素が機能するには、アルカリ性の環境下が必要で、そのため膵臓から重炭酸塩が分泌されるわけです。

膵臓から分泌される膵液内の消化酵素には、活性のない前駆体(チモーゲン)として分泌されるプロテアーゼ、ホスホリパーゼ、リボヌクレアーゼ、デオキシリボヌクレアーゼと、活性型の分子として分泌されるαアミラーゼとリパーゼがあります。膵臓は、唯一、リパーゼの産生臓器であり、重要です。正常な犬や猫では、食欲、胃の充満、十二指腸内の脂肪や蛋白質の存在が、膵外分泌を刺激します。消化管運動を司る迷走神経と、小腸由来ホルモンであるセクレチンとコレシストキニンの作用によるものです。

膵炎に関しては、トリプシンの病態生理が関与しています。トリプシンの前駆物質は、トリプシノーゲンというチモーゲンですが、トリプシノーゲンは、小腸内で刷子縁に存在する酵素(エンテロキナーゼ)によって活性化されます。活性化されたトリプシンは、消化管腔で他のチモーゲンを活性化する働きもあります。他の消化酵素も、ペプチンやエンテロキナーゼで活性化されます。

内因子は、ビタミンB12を吸収するために必要な物質で、猫では膵臓からのみ分泌されます。犬は、胃からも分泌されますが、膵臓が主要な分泌源です。

膵外分泌疾患で多いのは膵炎(急性・慢性)膵外分泌不全症と、頻度は低いですが腫瘍や膿瘍・嚢胞がみられることがあります。
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