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消化器系の疾患/吐出・嘔吐・喀出・吐血

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臨床症状-吐出・嘔吐・喀出・吐血

吐出も嘔吐も、物質を吐いている状態ですが、胃まで達したものか、そうでないか、で区別されます。吐出しているようにみえて嘔吐している動物もいれば、その逆もあります。

吐出と嘔吐の区別

症状吐出嘔吐
前兆となる吐き気
むかつき(レッチング)
吐き出される物
  食物
  胆汁
  血液
頸部食道の拡張
尿試験紙による吐物の分析
  pH
  胆汁
なし
なし

±
なし
±(未消化)
±

7以上
なし
あり
あり

±
±
±(消化または未消化)
なし

5以下
±

診察で判断できない場合、吐物のpH測定とビリルビン含有の有無を確認すると区別可能です。pHが5以下でビリルビンが含まれるなら嘔吐物、pHが7以上でビリルビンが認められないなら吐出物と考えていいでしょう。
それでも判断できなければ、X線検査を行って、食道の機能障害の有無を判断しましょう。

喀出は、通常、咳と関連して起こります。咳がひどく、のどに食物がつかえている場合などは、吐出や嘔吐もみられるので、注意深く観察することが必要です。

吐血物には、血液が消化された状態(コーヒー様)で混じったり、鮮血が混じることがあります。口腔内に病変がある動物は、口唇から血が滴ることがありますし、喀血(発咳とともに血液が排出されること)とも異なりますので、しっかり区別しましょう。

吐出

吐出が確認されたら、病変の部位が、口腔、咽喉頭、食道のどこにあるのか、を特定します。嚥下困難が存在する場合には、病歴の問診を行い、食事の様子をしっかり観察することが必要です。嚥下困難における頸の過度の曲げ伸ばしをする、繰り返し飲み込もうとする動作がある、嚥下中の口から食物を落下する、などの様子が伺えます。神経筋障害で嚥下困難が起きている場合は、固形物よりも液体を飲み込む方が困難です。水を飲み込むときに咳き込むことが度々あります。

吐出に加えて嚥下困難がみられる場合は、口腔、咽頭、輪状咽頭の機能障害であることが多いでしょう。嚥下困難がみられない場合は、食道の機能障害であることが多い。食道の閉塞化、筋の虚脱が原因です。食道のX線検査もしくはバリウム造影が診断に有効な検査です。
吐出がありながら、バリウム造影X線検査で異常がみつからない場合は、吐出ではないか、潜在性疾患であると考えられます。潜在性の疾患として考えられるのは、食道の部分的狭窄、食道炎、胃食道逆流などです。

食道閉塞の原因

先天性後天性
 血管輪の奇形
 (右大動脈弓遺残 他)



 異物
 瘢痕/狭窄
 腫瘍
 アカラシア
 胃食道重積

食道閉塞は、先天的にも後天的にもみられて、多くの場合、血管形成の奇形や異物によって起こります。循環器系の疾患に記載していますが、右大動脈弓遺残に代表される血管輪の奇形が先天的な疾患では多く、後天的なものでは、管腔内の異常異物(腫瘍など)や食道炎に続発する瘢痕形成によるものが多い。部分的な食道狭窄にも注意しましょう。

食道虚脱にも先天的なもの、後天的なものがあります。先天的なものは原因不明です。後天的な食道虚脱は、基礎疾患による神経筋伝達異常によるものがほとんどです。

食道虚脱の主な原因
先天性
後天性
 重症筋無力症
 副腎皮質機能低下症
 食道炎
 筋障害/神経障害

食道炎を起こす基礎疾患には、胃食道逆流、異物、薬の誤飲、持続的な嘔吐、胃酸過多、真菌感染が考えられます。食道虚脱を起こす他の原因として、寄生虫の感染、破傷風や犬ジステンパーによる感染、鉛中毒やボツリヌス中毒も考えられます。

嘔吐

嘔吐の原因
乗り物酔い
食事性
催吐性物質の摂取
胃腸管の閉塞
胃腸および腹腔の炎症
消化管以外の疾患による刺激

嘔吐の原因として考えられるのは、①乗り物酔い②嘔吐を引き起こす毒性物質・薬剤の摂取③胃腸管の閉塞④胃腸や腹腔内の炎症または刺激⑤延髄の嘔吐中枢または化学的嘔吐受容器領域(CTZ)を刺激する胃腸管外の疾患、が挙げられます。ストレスや中枢神経系のも考えられますので、頭に入れておきましょう。

すぐに嘔吐の原因が特定できない場合は、嘔吐が急性か、慢性か、吐血があるか否か、を見ていきます。

急性の嘔吐では、まず、明確な原因を調べましょう。異物の摂取、中毒、臓器不全、パルボウイルス感染症などです。体液量の維持、電解質異常、敗血症の有無を調べて、迅速な治療が必要であれば、すぐに実施します。

動物の状態が安定してみえるが、原因がはっきりしない時には、1~3日間の対症療法を施しましょう。治療に反応せずに3日以上経っても嘔吐が続く、状態がどんどん悪くなる、症状が重篤で対症療法で様子を見る状況ではない場合は、詳細な検査(X線検査や腹部エコー検査)を必要とします。

異物、毒物、不適切な食事、薬物の摂取について確認した後は、腹腔内の異常(腫瘍の有無など)、腹腔外疾患(尿毒症や甲状腺機能亢進症[猫])を検討します。猫の場合は、口腔内(舌下)の異物も考慮しておきましょう。

さらに、腹部の触診で、腫瘤や疼痛を調べます。腸重積や捻転、拡張、瘢痕が原因であることもありますが、触診では判断しづらい疾患です。原因がはっきりせず、動物の状態が悪くない場合は、試験的な治療を行いながら考えていきましょう。寄生虫も嘔吐の原因になり得るので、糞便検査をしておくことは必要です。

X線検査や腹部エコー検査は、慢性的に嘔吐が続く場合にも実施します。急性症状でも慢性症状でも、腸管の閉塞、異物、腫瘤、膵炎、腹膜炎、腹水やガスの貯留などを見ていきましょう。血液検査や尿検査も必要です。猫では、猫エイズ・猫白血病ウイルス、甲状腺機能亢進症についても調べておきましょう。肝不全・肝疾患、胆嚢炎、副腎機能不全、高カルシウム血症、糖尿病性ケトアシドーシス、子宮蓄膿症でも嘔吐がみられますが、血液検査で異常が引っ掛からないこともあります。すぐには鑑別診断から除外せず、様子を見ながら判断していきましょう。最終的には、特発性の胃腸障害であったり、中枢神経系疾患(辺縁系てんかん)を考慮しなければならないケースもあります。


吐血

吐物中の血液は、鮮血であるか、一部消化されてコーヒー様になっているか、を判断します。さらに、少量の血液が混じる嘔吐なのか、多量の血液を伴う嘔吐なのか、を鑑別しましょう。血液の混入が少量なら、激しい嘔吐に伴う胃粘膜の傷害によるものであることが一般的であり、嘔吐の治療を行うことで対処できるのがほとんどです。多量の血液を伴う場合が重要です。

吐血の原因

凝固障害消化管病変消化管外病変
血小板減少症
血小板機能不全
凝固因子欠損
播種性血管内凝固






胃腸管潰瘍/びらん
ストレス性潰瘍
胃酸過多
胃炎
過度の嘔吐
胃ポリープ
肝疾患・膵炎・腎疾患
非ステロイド系抗炎症薬
ステロイド性(デキサメタゾン)
副腎皮質機能低下症
気道の疾患
  肺葉捻転
  肺癌
  後鼻孔病変






吐血は、通常、胃や十二指腸の潰瘍およびびらんが原因ですが、吐血がみられる状態では、いきなり制酸剤、粘膜保護剤の投与をしてはいけません。

先ずは、血液検査です。ヘマトクリット値と血漿中総蛋白をチェックして、輸血の必要性を判断しましょう。循環血液量の減少や敗血症によるショック、急性腹症の可能性があれは、支持療法・対症療法で状態を落ち着かせます。
次に、凝固障害があるか、気管からの血液の流入、潰瘍・びらんがあるかどうか、を調べて原因を特定します。血小板数の確認と凝固系検査(PT、PTT、粘膜出血時間)の実施、潰瘍・びらんの原因として急性胃炎、出血性胃腸炎、非ステロイド系抗炎症薬やデキサメタゾンの投与、全身性の炎症、胃粘膜に波及した腹部腫瘤、肥満細胞腫が考えられます。

急性胃炎、出血性胃腸炎、非ステロイド系抗炎症薬によって誘発された潰瘍・びらん、ショックによる潰瘍・びらんが疑われたら、血液の喪失量および腎臓、肝臓、副腎の機能低下の程度を判断するために、血液検査を行いましょう。その後、3~5日程度の対症療法を行い、治療の効果を評価します。原因が特定できず、嘔吐や血液の喪失が重度であったり慢性的であったりする場合は、腹部X線検査や腹部エコー検査、さらには内視鏡による検査が感度もよく有効です。潰瘍やびらんの確認、腫瘍や炎症性腸疾患を特定できる可能性が高いです。

それでも原因がわからない場合、口、後鼻孔、気管、肺の病変に由来する血液を飲み込んでいる可能性や、胆嚢からの出血、胃や十二指腸病変からの間欠的な出血が考えられます。