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消化器系の疾患/肝臓・胆道の疾患(猫)

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肝臓・胆道の疾患(猫)

  • 猫の総胆管と膵臓、十二指腸の位置関係

三徴炎

猫では、肝胆道系の疾患や急性リピドーシスが一般的で、慢性の肝実質性疾患はあまりみられません。肝疾患が肝硬変に進行することも、あまりありません。

原発性二次性
一般的な疾患
 特発性肝リピドーシス
 好中球性胆管炎
 リンパ球性胆管炎


二次性リピドーシス
甲状腺機能亢進症
膵炎
糖尿病
稀な疾患
 門脈体循環シャント
 肝外胆管閉塞
 肝吸虫
 原発性腫瘍
 感染症
 薬物性・中毒性肝症
 胆管嚢胞
 硬化性胆管炎・胆管硬化症
 肝アミロイド症
 肝内動静脈瘻

転移性腫瘍(原発性より少ない)
肝外の敗血症に関連した胆汁うっ帯
肝膿瘍







猫の肝胆道系の疾患の臨床症状は様々で、炎症性腸疾患や膵炎とも似ています。主膵管の出口が、十二指腸に出る直前に総胆管に吻合しているため、三徴炎を起こすことも多く、さらに複雑になってきます。肝リピドーシスでは、黄疸や肝性脳症が生じることも、よくあります。

  • 猫の肝胆道系疾患の特徴
疾患の種類




犬に比べて罹患率が高い。
慢性肝実質疾患、肝線維症、肝硬変、門脈圧亢進症は少ない。
膵炎、炎症性腸疾患が起こりやすい。
逆流性の胆管感染も猫の方が多い。
肝リピドーシスに感受性が高い。
薬物・毒物の代謝活性

グルクロン酸代謝酵素が欠乏している。
薬物・毒物の代謝活性が低い。
ALPと
ステロイド性肝障害

ステロイド誘発性アルカリホスファターゼ(ALP)のアイソザイムを産生しないので、ALPの半減期が短く、副腎皮質機能亢進症は、ほとんど起こらない。
肝臓における
炭水化物と蛋白質の代謝




高蛋白質食に順応。
肝臓で蛋白質から糖を産生。
肝臓の蛋白異化酵素活性は持続的に高い。
蛋白異化酵素の活性は、食事中の蛋白質量に左右されない。
肝臓の尿素回路を維持するため、アルギニン要求量が高い。
タウリンが胆汁酸塩に結合するため、必須の栄養素となる。

猫の胆管疾患の罹患率が高いのは、主膵管が総胆管と一緒になって十二指腸に通じていることが、一つの原因かも知れません。

猫は、食べ物を選り好みするし、ゴミを漁って食べたり、中毒性の肝障害は少ないですが、肝臓で毒素を代謝する能力が劣っているために感受性が高く、注意を要します。ステロイドに対する反応は少なく、ALPの上昇はあまり見られません。

猫は、肝臓の蛋白異化酵素活性が持続的に高く、蛋白質が不足すると、体を構成する蛋白質を利用して、肝臓にて糖の新生を行います。そのため、蛋白質由来カロリーの栄養失調に、急速に陥りやすくなります。その他にも、アルギニンが欠乏すると、高アンモニア血症に進行する可能性が高いですし、タウリンが欠乏すると様々な病気の原因になります。

タウリン、アルギニン、蛋白質の欠乏は、猫の肝リピドーシスの原因となる可能性が高いので、気をつけましょう。

肝リピドーシス

原発性・特発性の肝リピドーシスと、他の疾患から波及した二次性の肝リピドーシスがありますが、いずれの場合でも、猫に強制給餌を行わないと、死亡率が高くなります。

 原発性肝リピドーシス

原発性、特発性の肝リピドーシスは、肥満の猫に発症することが多い疾患です。肝細胞内に大量の脂質が蓄積する、急性の肝障害です。いわゆる、脂肪肝ってやつですね。肝細胞が急激に機能を失って、諸症状が出るわけですが、この機能障害は可逆的な変化で、肝臓から脂質が取り除かれれば、回復します。

原発性肝リピドーシスが、何に起因して起こるのかはよくわかりませんが、末梢血中の過剰な脂質が肝臓へ動員されること、食事中の蛋白質やその他の栄養素が不足して肝臓での脂質代謝が低下して肝臓からの脂質輸送が機能しなくなること、併発する原発疾患による食欲低下、などが肝臓に脂質が蓄積する病因になります。

著しく太った猫が、食欲不振に陥ったり、ストレスに曝されたりすると、末梢血中に脂質の過剰な動因が起こります。食欲不振が原因で、食事からの摂取すべき蛋白質やその他の栄養素が欠乏します。猫は、食事から摂取するべき栄養素の要求量が多いため、栄養素の欠乏に対して、感受性が高いわけです。栄養素の中でも、メチオニン、カルニチン、タウリンは、脂質の代謝や動員に重要な役割を果たしていますので、これらの栄養素を欠乏は、肝リピドーシスの原因となります。

メチオニンは、肝臓の重要な抗酸化物質であるグルタチオンの前駆物質で、肝リピドーシスの猫では、肝臓のグルタチオン濃度が極端に減少します。アルギニンが相対的に欠乏すると、尿素回路活性が低下するために、結果的に肝性脳症に陥ることがあります。

 二次性肝リピドーシス

二次性の肝リピドーシスも、猫で一般的な疾患です。肥満の猫に多いということはなく、正常や痩せ気味の猫でも発症します。併発疾患があり、食欲不振を呈する猫は全て、肝リピドーシスの発症リスクが高くなります。猫の食欲が落ちたら、すぐに適切な食事管理を行うべきです。
膵炎、糖尿病、他の肝疾患、炎症性腸疾患、腫瘍に罹患した猫に発生の危険がより高くなりますが、どんな疾患でも食欲不振を呈するようですと、肝リピドーシスの発症の可能性があります。

黄疸が主症状で、間欠的な嘔吐と脱水が認められます。下痢や便秘がみられることもあります。肝臓の腫大を触知できることが多いです。これらの症状は、肝内胆汁うっ帯の結果として起こる、急性で可逆性の肝細胞の機能喪失、肝細胞の肥大で典型的に認められるものです。

肝性脳症になっていると、抑うつや流涎の症状が発現しますが、これも肝細胞の機能障害と、アルギニン欠乏に関連しています。食欲のない猫には、発現しやすいので注意が必要です。

診断
肝リピドーシスの確定診断を下すためには、開腹手術や腹腔鏡手術で生検を行うことが必要で、状態が悪い猫や、見た目に開腹手術が必要なのか、と飼い主が思うこと、それを説得するだけの説明がつけにくいことがあり、確定診断は非常に難しいものです。同時に、併発する膵臓や小腸の疾患も生検を行わないと見つけられません。
腹部X線検査では、肝臓の腫大が認められます。腹水はあまり貯留しません。腹部エコー検査で、肝リピドーシスの肝臓は、エコー源性が高くなりますが、悪性リンパ腫や肝アミロイド症、他の肝実質性疾患でもみられる所見です。

一般的には、胆汁のうっ帯と著しい肝細胞の機能障害を、血液検査から推測していくしかない訳です。高ビリルビン血症は、ほとんどの症例でみられます。アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT[GPT])やアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST[GOT])の活性が、著しく上昇します。アルカリホスファターゼ(ALP)活性も上昇することが多いので、肝リピドーシスを疑ったら、測定しておきましょう。猫では、ALPはステロイドで誘導されないので、有効な指標になります。血中尿素窒素(BUN)濃度は、低値を示す例が半数程度います。広範囲の肝細胞の機能障害を反映しています。電解質の異常も比較的多くみられます。補正しないと命に関わることもあります。低カリウム血症や、低リン血症、低マグネシウム血症が報告されています。低カリウム血症は予後を悪くするので、必ず、検査でチェックしましょう。

γグルタミルトランスフェラーゼ(GGT)の活性を調べることもあります。原発性の肝リピドーシスでは、低値を示します。一方で、他の肝障害や膵疾患による二次的な肝リピドーシスでは、GGTは高値を示します。原発性の胆管疾患でも、GGTとALPは高値を示します。このあたりを認識して、GGTの検査値を評価し、基礎疾患の探索を怠らないようにしたいですね。

肝リピドーシスでは、胆汁のうっ帯が併発します。そのため胆汁酸は上昇するので、肝リピドーシスの肝機能の評価としてはあまり使えません。
絶食時に、コレステロール濃度と血糖値が高値を示すこともあって、高血糖が激しい場合は尿糖も認められることがあります。これは、ストレス性、代謝性の反応であり、治療をすれば下がります。
糖尿病が肝リピドーシスの原因となることもありますので、血中・尿中のグルコースとケトン体は注意してモニタリングしましょう。高血糖の猫で、尿糖に加えてケトン尿を呈する猫は、糖尿病と判断していいでしょう。

肝リピドーシスの猫では、止血検査に異常が認められることも多く、貧血がみられる症例もあります。肝リピドーシスは、非感染性の疾患ですので、好中球の増加は見られません。

治療

  1.  基礎疾患に対して効果的な治療を行いながら、その他の治療も開始します。
  2.  輸液療法:
    可及的速やかに輸液点滴(静脈内)を始めます。特に、カリウムやリンなど、電解質bランスを補正します。塩化カリウムを添加した生理食塩水が、最も適切な輸液剤です。肝臓の疾患では、乳酸リンゲルの使用は止めましょう。肝機能障害のため乳酸の代謝が出来ません。
  3.  栄養補給:
    これも、可能な限り早期から開始します。ほとんどの症例で食欲不振が続いています。治療開始、数日後からは、輸液と電解質の補給も、経口的に行います。鼻チューブを最初の数日間のために、その後、胃瘻チューブなどを設置して長期間(4~6週間)使用できるようにします。できるだけ、高蛋白質の食事を与えて、脳症が発現する場合には、給餌量を少量ずつ頻回に行うようにして対応します。
  4.  食事量:
    安静時エネルギー要求量(=50×BW)で、控え目な量で給餌を開始します。少量頻回もしくは、少量ずつの持続注入で始めて、1週間程度かけて、1回の給餌量を増やして、回数を減らしていきます。摂取カロリーを代謝エネルギー要求量(=70×BW)まで、漸増していきます。
  5.  栄養素の補給:
    ビタミンB12の欠乏がみられることがあるので、非経口的に補給してやる必要があります。ビタミンK反応性の血液凝固不全がみられることもあるので、0.5~1.5mg/kgで補給しておくのも有効です。
  6.  嘔吐がみられるなら、メトクロプラミド(0.5mg/kg)を1日2回、投与します。静脈が確保されているなら、1~2mg/kg量を24時間かけて、静脈内に持続点滴しても構いません。
  7.  抗酸化剤(SAMe)の投与も推奨されますが、SAMeが日本に入らなくなったので、その代用品で構いません。ウルソの効果は、報告されていません。

死亡率を下げるため、最も重要かつ唯一の方法と言ってもいいのですが、高蛋白食(a/d缶など)を、早い時期から強制的に給餌することです。自力で嚥下できない場合は、経鼻チューブを数日間、設置して、状態の安定を図りましょう。安定したら、胃瘻チューブなど、長期に亘る給餌を行うために、置き換えていきます。多くは4~6週間の給餌が必要になるので、飼い主にも、そのつもりで説明をしておきます。状態がある程度改善して安定すれば、自宅で胃瘻チューブを介した給餌をさせることができます。

症例の中には、最初の数日間の高蛋白食の強制給餌で、肝性脳症がみられたり、悪化したりすることがあります。その場合は、食事量を減らすのではなく、給餌する1回量を減らし、何度も給餌することが望ましい対応です。
膵炎が併発していても、早くから強制給餌を始めて、脂肪分の制限をしないことが必要です。

体液と電解質異常に対しても、できるだけ早く処置をして、必要に応じて制吐剤を用いましょう。多くの場合、血液凝固不全に対するビタミンKによる治療が必要です。ビタミンK1を、初期用量0.5mg/kgで、皮下もしくは筋肉内に、1日2回、3日間投与を行います。1.5mg/kgまでは増やして構いません。これらが、恒常化するまで、中心静脈カテーテルや、侵襲性のある食事用チューブの設置は、控えておいた方が賢明です。無駄な出血を引き起こして、より状態が悪くなることも考えられます。

肝リピドーシスでは、グルタチオンの枯渇があるので、抗酸化療法も有効です。S-アデノシルメチオニン(SAMe;20mg/kgもしくは1日総量200mg、空腹時投与)とビタミンEの補充がいいようです。しかし、SAMeは、日本で手に入らなくなったので、他の抗酸化剤で代用するしかありません。

予後
猫の肝リピドーシスは、給餌が迅速かつ効果的に行えた場合に、予後がよくなります。強制給餌を行えなかった場合、死亡率は非常に高くなります。貧血、低カリウム血症の併発や、高齢猫では、生存予後を悪化させます。注意しましょう。


胆道疾患

猫では、肝疾患の中で、胆道系の疾患も多いのが特徴です。犬では肝実質疾患が一般的です。おそらく、猫の膵管と胆管が、十二指腸に開口する直前に吻合して、共通の流出路になっていることが原因であると考えられますが、それ以外の要因も否定は出来ません。

猫の胆道系疾患では、嗜眠、食欲不振、黄疸など、他の肝疾患と同様の症状を示すことが通常です。症状、血液検査、尿検査、画像診断では、疾患の区別は不可能です。細胞診、胆汁培養、肝臓の病理組織検査を行わないことには、確定診断はできません。

 胆管炎

胆管の炎症が胆管炎ですが、炎症が肝実質にまで波及することがあります。胆管炎は、好中球性胆管炎、リンパ球性胆管炎、肝吸虫の寄生による慢性胆管炎に分類されます。

好中球性胆管炎
好中球性胆管炎は、化膿性胆管炎、滲出性胆管炎、急性胆管炎とも呼ばれます。

小腸由来の細菌が、上向性に感染したものと考えられます。多くは大腸菌ですが、連鎖球菌、クロストリジウム、サルモネラが分離されることもあります。解剖学上、膵炎や腸炎を併発することが多くなります。細菌感染の結果、好中球が胆管の管腔内に浸潤します。ときおり、胆管壁にも浸潤して、胆管壁の浮腫、門脈域の好中球浸潤もみられることがあります。場合によっては、肝膿瘍に進行します。胆嚢炎が併発していることもありますが、これらが一連の変化という訳でなく、別々の疾患として発生しているかも知れません。

急性胆管炎は、若齢から中年齢の猫で頻度が多い傾向があります。慢性の経過を辿ることもありますが、どちらかと言うと、急性経過をたどることが多いのが特徴です。罹患した猫にみられる症状は、嗜眠、発熱、黄疸を示しますが、これは胆汁うっ滞と敗血症の典型的な症状なので、他の肝疾患・胆道疾患との区別は出来ません。

急性好中球性胆管炎の猫では、桿状核好中球・分葉核好中球の増加、ALT活性の上昇、総ビリルビン濃度の上昇が著しいので、その辺りから判断するのがいいでしょうか。エコー検査で胆管の拡張が認められることもありますが、確定診断には、胆汁の細胞診と培養検査が不可欠になります。細胞診では、細菌や好中球が多くみられるのですから、培養検査、感受性検査を実施しておきましょう。

  •  治療
    •  培養検査・感受性検査の結果に基づいた適切な抗菌薬を用いて、4~6週間を目安に投薬を行います。検査をしていない場合や、結果を待つまでの間、第1選択薬としては、アモキシシリン(15~20mg/kg、経口、BID)が適当です。
    •  ウルソ(15mg/kg、経口、SID)を併用しておくことも悪くないと思います。胆汁分泌促進と抗炎症作用が期待できます。

敗血症や、猫の状態が悪い場合は、静脈を確保して、静脈内点滴と抗生剤の持続投与を行います。食欲不振があると、肝リピドーシスの併発があるので注意が必要です。早いうちに適切に治療を行えば、予後良好です。胆汁の漏出や、胆汁性腹膜炎が疑われる場合は、外科手術が必要です。

リンパ球性胆管炎
リンパ球性胆管炎は、リンパ球性胆管肝炎、リンパ球性門脈肝炎、非化膿性胆管炎と表現することもあります。

この疾患は、ゆっくりと進行する慢性疾患です。肝臓の門脈域に小リンパ球の浸潤が認められることが特徴です。胆管の増殖も観察されて、胆管壁が肥厚を伴って不規則に拡張します。閉塞することは、あまりないです。門脈線維症がみられることもあります。原因はよくわかりません。

リンパ球性胆管炎も、若齢から中年齢の猫に発生が多いようです。軽い症状が良くなったり悪くなったりを繰り返して、数ヶ月から数年に亘る長期的な疾患になることがあります。黄疸、体重減少、軽度の食欲不振や嗜眠が症状として認められます。発熱はありません。腹水の貯留する症例もあるので、FIPとの鑑別はしっかりと行いましょう。

症状に特徴的なものがないので、他の疾患との鑑別はしっかりと行いたいところです。重症例では、リンパ腫との鑑別をまず、行います。最終的には病理組織学的検査を行わないことには確定的な診断はできませんが、腹部エコー検査や血液検査で、可能な限り、仮診断を行っておきましょう。
ALT活性はそれほど上昇しません。好中球も少ないはずです。特徴的な所見としては、γグロブリン濃度が増加します。ここでもFIPとの鑑別が必要です。腹部X検査で肝腫大と腹水の貯留がみらる症例がありますので、その後、腹部エコー検査を実施しましょう。胆管の拡張が認められます。総胆管や胆嚢の拡張、胆泥の貯留もみられることがあります。ここでは胆道閉塞を区別することが必要です。同時にエコーでは、膵臓、小腸、腸間膜の疾患も注意深く観察しておきましょう。

  •  治療
    •  良い治療法がありません。ステロイドの投与で、病状の拡大と悪化は抑制できますが、症状は改善しません。必ず、再発を繰り返します。
    •  感染による病因が除外できるまで、初期治療で抗菌薬を用いることは賢明な処置です。ウルソ(15mg/kg、経口、SID)は、胆汁酸の毒性を減少させて、胆汁排泄作用と抗炎症作用も併せ持つので、投与しておくといいでしょう。効果の程は、明確ではないのですが・・・。
    •  胆汁は肝臓に参加毒性を示す可能性があるので、SAMe(20mg/kgもしくは1日量200mg、SID)とビタミンE(1日量100IU)など、抗酸化作用を持つ薬物を使用しておくのもいいでしょう。

肝リピドーシスが起きないように、食事量はしっかり確認しましょう。高消化性、高蛋白、高品質の食事が必要です。炎症性腸疾患の併発も多い疾患ですので、食事療法を行うことも考えておきましょう。重症例、特に膵臓疾患や腸疾患もある症例では、胃瘻チューブの設置や強制給餌、入院して静脈内点滴による治療も必要になることがあります。

治療をしっかり行っても、長期間、症状は良くなったり悪くなったり、波があります。但し、死亡する症例は、ほとんどありません。

慢性胆管炎
肝吸虫の寄生が原因で起こる、慢性の胆管炎です。
肝吸虫のライフサイクルは、第1中間宿主と第2中間宿主があって、終宿主が猫になります。犬や人にも感染しますよ。終宿主の糞便中に含まれる虫卵が、水中に流出して、虫卵は水中でも孵化しないのですが、その虫卵を捕食した水生カタツムリやタニシが第1中間宿主になります。第1中間宿主の体内で、スポロシスト→レジア→セルカリアと成長して、セルカリアが水中を泳いで第2中間宿主である、トカゲ、両生類、ヤモリ、淡水魚に寄生します。第2中間宿主の中で、メタセルカリアに発育して、メタセルカリアが経口的に猫に摂取されて感染が成立します。メタセルカリアは、消化管から胆管を通って肝臓に移行します。8~12週で成熟して成体になります。
肝吸虫が胆汁の完全閉塞を引き起こすと、糞便中に虫卵は出てこないので、胆汁を吸引して検査すると虫体と虫卵がみられます。

感染した猫の多くは、軽症です。少数の寄生では無症状であることも多く、多数寄生すると、致死的な場合もあります。重篤な症例は、胆管周囲の炎症と肝臓の線維化を起因として、肝後性黄疸が典型的な症状としてみられます。食欲不振、嗜眠、体重減少、衰弱といった炎症性の肝疾患も併発されます。下痢や嘔吐、肝腫大と腹水もみられることがあります。

  •  治療
    •  プラジクアンテル(20mg/kg)を皮下に3日間投与するのがいいようですが、効果的な治療法は無いようです。
    •  重症例は、回復しないことが多い疾患です。

硬化性胆管炎
硬化性胆管炎や胆汁性肝硬変は、慢性の胆道系疾患の行く末、と考えていいと思います。胆管の完全閉塞や、肝吸虫の重篤な寄生による慢性胆管炎に続発することがあり、最終的に線維化した肝臓で認められる疾患ですが、猫では非常に稀な状態です。この状態陥ると、慢性の門脈圧亢進症に進行することがあり、その結果、腹水の増量、胃十二指腸潰瘍、さらには後天性門脈体循環シャントや肝性脳症がみられることになります。

確定診断には、肝生検が必要ですが、どんな肝疾患でも、血液凝固時間の延長の可能性を考慮して、凝固系パラメータの評価は事前に行っておきましょう。問題があれば、ビタミンK(0.5mg/kg)を皮下に1日2回、3日間投与しておくことが重要です。

症状は、胆管炎や肝外胆道閉塞でみられる症状と同じですが、硬化性胆管炎の猫の腹部X線検査では、肝腫大がみられます。これは、犬の肝硬変で小肝症を示す場合とは逆ですので、知っておきましょう。肝腫大は、胆管拡張と胆管周囲の線維化によるものと考えられます。

治療は、支持療法を行いますが、門脈圧亢進症に関連した症状が認められた場合に限って、その治療(肝臓の合併症のページをご参照の程を)を行います。

 胆嚢炎

胆嚢の炎症です。好中球性胆嚢炎は、猫で頻繁にみられます。好中球性胆管炎に併発することがあります。腹部エコー検査で、胆嚢壁が肥厚して、不規則な画像になることが多く、胆泥や胆石が認められることもあります。
症状、診断、治療法は、好酸球性胆管炎と同じと考えて結構です。

 胆管嚢胞

猫が肝臓で最も嚢胞を形成しやすいのは、胆管です。

先天性嚢胞は、多発性であることが多くて、腎臓やその他の臓器にも多嚢胞性病変を形成して、その一つの病態として胆管内にも認められることがあります。嚢胞内容物は、透明です。ペルシャ猫に発症率が高いようです。嚢胞が大きくなると、嚢胞が肝組織を破壊して、周囲の胆管を圧迫して、胆道閉塞を引き起こします。嚢胞が小さく、進行性でなければ治療は不要ですが、大きくなって症状を引き起こす場合は、手術をします。

後天性嚢胞は、単発であることも多く、大小も様々です。内容物も、透明、血様、胆汁様と様々です。外傷、炎症、腫瘍(胆管嚢胞腺腫など)から二次的に発症することもあります。肝吸虫が原因のこともあります。こちらも大きなものは、手術が必要になる場合があります。


肝外胆管閉塞

肝外の胆管閉塞は、複数の基礎疾患によって起こります。管腔外からの圧迫性病変の場合もあれば、管腔内の閉塞性病変のこともあり、両方が組み合わさって起こることもあります。例えば、胆管炎では、浮腫と炎症を引き起こして管腔外からの圧迫が生じますが、同時に、粘稠性の高い濃縮胆汁によって管腔内の閉塞が組み合わさって、肝外胆管閉塞が起こります。

原因として多いのは、膵臓、十二指腸、胆管の炎症や、組み合わさって起こる三臓器炎、胆管や膵臓の腫瘍が一般的です。胆石はあまりみられません。

黄疸、食欲不振、嗜眠、嘔吐、肝腫大が主な症状です。つまり、これでは他の胆汁うっ滞性肝障害と区別できません。血液検査や尿検査、腹部X線検査を行った上で、腹部エコー検査を行うことが、鑑別診断に有用です。胆嚢と、肝外と肝内の胆管の拡張を確認できます。小腸、肝臓、脾臓の炎症や腫瘍も胆管閉塞の原因になり得るので、エコーで注意深く検査しましょう。

完全に胆管が閉塞すると、糞便が無胆汁性になり灰白色を呈します。これなら、胆管閉塞を強く疑えます。肝外胆管閉塞の猫では、ビタミンKなどの脂溶性ビタミンが吸収不良となります。腸管内の胆汁酸が不足して、脂肪の消化ができなくなるためですが、解剖学的な特徴から、腸管や膵臓にも炎症を併発してることも多くて、さらに脂肪の吸収が悪くなります。なので、胆管閉塞を疑ったら、血液凝固時間の測定、ビタミンK(0.5mg/kg)を皮下に3日間(1日2回)投与しておくのは重要です。

試験開腹を行うこともありますが、猫の胆道系の手術は、合併症の発生率・死亡率が高いので、完全閉塞による外科手術がどうしても必要な場合のみ、実施します。部分的な閉塞では、内科的治療は有効です。

糞便が無胆汁性でないなど、十二指腸に胆汁が流れていることがわかる場合(部分的な閉塞)、ウルソ(15mg/kg、経口、1日1回)の投与による胆汁分泌促進を行いましょう。胆汁による肝細胞の酸化・傷害を防ぐため、SAMe(20mg/kgもしくは1日量200mg、空腹時に投与)を飲ませるのも効果的です。

数日間の内科治療で改善がない、無胆汁便が出た、など、完全閉塞に進行したりしたら、手術を考慮しましょう。

肝アミロイド症

アミロイド(Amyloids)ってのは、「ある特定の構造を持つ水に溶けない繊維状の蛋白質」です。何らかの原因で、器官や組織に異常に沈着するとアミロイド症と言われ、組織構造を破壊してしまうことがあります。

猫では、肝臓や腎臓に病変を形成することが多いようですが、沈着するアミロイドは、炎症性アミロイドです。罹患すると、貧血と低血圧を示します。これは、肝臓の被膜が破裂して、血腹になっているためです。アミロイド症の猫は、肝臓の腫大して、硬化しているので、日常的な生活の中でジャンプした際の腹部への衝撃で、肝臓の破裂が起こりやすくなります。

貧血による二次的な心雑音や、嗜眠、食欲不振、粘膜蒼白が認められます。他の肝臓疾患に特徴的な症状は出てきません。注意しましょう。

診断も難しく、治療法もないので、治療は、支持療法が中心になります。アミロイドが沈着するトリガーとなる炎症性基礎疾患(慢性歯肉炎など)を緩和させて、治癒させることが必要となってきます。

抗酸化剤(SAMe)やビタミンKの補充(0.5mg/kg、sc、1~3週間)など、対症療法も必要に応じて行いましょう。長期的には、予後が悪く、死因は腹腔内出血がほとんどです。

腫瘍

猫では、肝臓の腫瘍の頻度は高くありません。犬よりも、発生頻度は低く、これは、肝炎ウイルス感染やα-protease inhibitor欠損が犬や猫では見られないことが大きな要因となっているようです。肝硬変も、猫にはほとんど見られないことも、肝臓腫瘍の少ない原因と考えられます。

腫瘍としては、悪性腫瘍よりも良性腫瘍の方が、猫では発生率が高いのが特徴です。悪性腫瘍では、胆肝癌が最も多く、転移性よりも原発性の腫瘍が多いのも特徴です。転移性の腫瘍には、リンパ腫、白血病・組織球系腫瘍・肥満細胞腫などの造血系腫瘍、膵臓・乳腺・消化管からの転移などがあります。原発性肉腫の中では、血管肉腫が多いようです。

半分程度は、無症状で過ごします。
症状としては、嗜眠、嘔吐、体重減少、腹水、黄疸などが認められて、腹部の触診で、肝腫大、肝腫瘤が触知できます。触診で、肝臓付近に何か触われたら、画像診断を行いましょう。別の理由で画像診断を行った際に、見つかることもあります。

原発性の肝臓腫瘍の治療は、切除可能であれば、手術をすることが推奨されます。胆管腺腫のように、良性でも外科的切除を行う方がいいようです。
び慢性、結節性、転移性腫瘍の治療は困難であり、原発性の肝臓腫瘍は化学療法に対する反応も悪いので、厄介です。正常な肝細胞は、放射線感受性が強いので、放射線治療も止めておきましょう。リンパ腫は、化学療法に比較的よく反応します。

良性で、切除できれば、予後良好ですが、悪性の肝臓腫瘍の予後は、非常に悪いので、QOLを下げない治療をしてあげましょう。

先天性門脈体循環シャント

門脈体循環シャントというのは、門脈と体循環の間の血管の異常な吻合を言いますが、先天性のものと、門脈圧亢進による後天的なことでも起こり得る疾患です。しかしながら、後天性のシャントは、肝線維症や肝硬変に続発するものであり、猫ではそれらの疾患の発生自体が少なく、結果として、猫の門脈シャントは、ほとんどの場合、先天性で、犬に比べて一般的な疾患ではありません。

猫の先天性門脈体循環シャントは、単発的なことが多く、肝内でも肝外でも起こり得る疾患です。肝外門脈シャントは、門脈と、原因となる血管が、尾側大静脈あるいは奇静脈との間の異常な吻合としてみられます。原因となる血管には、左胃静脈、脾静脈、頭側腸間膜、尾側腸間膜、胃十二指腸静脈があります。肝内の門脈シャントは、左側の肝臓でみられて、出生後の静脈管残存が原因と考えられます。

門脈シャントになると、肝臓を通過しない血液が、直接、体循環に流れ込むため、高アンモニア血症や肝性脳症が発現します。肝内の門脈血管の抵抗が高いため、門脈血は抵抗の低いシャント血管に流れてしまうからです。後天性の門脈シャントだと、門脈圧が高くなりますが、先天性のシャントでは、門脈圧は、正常値より低くなるわけです。発生頻度は低いとはいえ、先天性と後天性のシャントの区別をする所見の一つです。肝血流量の低下は、肝臓の萎縮や肝細胞の機能変化に影響を及ぼします。門脈は、肝臓で必要とする酸素の50%を供給する血管ですが、門脈シャントの場合、酸素供給が減少します。代償性に、動脈血圧が上昇して、肝臓の血流量を維持しています。

その他、菌血症や血液由来の感染が起こりやすくなりますし、時折、発熱がみられることがあります。さらに、肝臓の萎縮と代謝活性の低下が起こりますので、食事中の栄養素を有効に利用することができず、成長不良がみられます。

先天性門脈シャントの症状は、消化器症状、泌尿器症状と、神経症状(肝性脳症)です。猫では、神経症状が顕著に出て、ゆっくりと悪化していくのが特徴です。神経症状が出ると、流涎が出ます。これは犬ではあまりない症状です。さらに悪化すると、昏睡や発作が認められます。
消化器症状としては、間欠的な嘔吐や下痢がみられます。泌尿器症状では、結石に関連する症状や多飲多尿ですが、泌尿器症状は猫では犬に比べて少ないのが一般的です。また、虹彩の色調が銅色を示すことがあります。
門脈圧の低下で、猫では腹水は見られません。後天的な門脈シャントでは腹水が見られることが多いので、鑑別に役立ちます。

神経症状が出たら、先天性の門脈体循環シャントを疑いましょう。その後は、必要に応じて、アンモニア濃度や胆汁酸濃度を測定しましょう。最近では、画像診断で見つけることができる場合もあります。

確定診断ができたら、治療は、シャント血管を結紮する手術、になります。犬よりも術式が複雑なので、経験豊富な先生に頼む方がベターです。

術前と術後は、前後2ヶ月程度、内科治療で門脈血管と肝臓実質を回復させるよう努力(なかなかコントロールが難しいんで・・・)します。食事の蛋白質を、「軽度に」制限して、抗菌薬(アモキシシリン20mg/kg、経口、1日2回)と、ラクツロース(2.5~5mL、経口、1日2回)を効果が出るまで投与してみます。但し、投与の手順として、食事の変更⇒1週間後に抗菌薬の投与⇒1週間後にラクツロース、というように、徐々に治療を変更していきましょう。猫は、食事による蛋白質の要求量が高いので、「軽度に」蛋白質を軽減してください。肝臓の処方食などが適してます。また、乳製品による蛋白質は、アルギニンが相対的に不足してるので、尿素回路でのアンモニアの解毒がうまくいかず、高アンモニア血症になります。気をつけましょう。

手術がうまく行って、シャント血管が結紮され、術後の経過がよければ、予後良好です。術後の死亡率は比較的高いので、気を抜かず、術後のケアを慎重に行いましょう。

肝胆道系の感染症

猫伝染性腹膜炎(FIP)は、非滲出型も滲出型も肝臓に病変を形成します。滲出型のFIP感染猫は、リンパ球性胆管炎と同じような症状を示します。鑑別診断はしっかりとしましょう。

トキソプラズマ症で、肝臓の細胞内で増殖して、病変を形成して、肝細胞壊死を起こすことが稀にあります。肺、眼、中枢神経系とともに肝臓へのトロフォゾイトの感染が症状の発現と関連しています。他の肝疾患のように、ATLの高値と高ビリルビン血症がみられます。胆管上皮への感染に起因する胆管肝炎もトキソプラズマ症で確認されています。

猫の肝臓に病変を形成する感染症
猫伝染性腹膜炎
トキソプラズマ症
パルトネラ症(猫ひっかき病)
サルモネラ症
連鎖球菌の感染(新生子)
全身性マイコバクテリウム感染症
野兎病
ティザー病
肝吸虫
ヒストプラズマ症

中毒性肝症

治療薬の中には、肝臓に副作用が強く出るものがありますし、環境中には毒物がありますので、猫が不用意に口にしないように注意しましょう。幸い、猫は食べ物を選り好みするので、それほど拾い食いはしません。

猫で肝毒性を示す可能性のある薬剤や環境毒
アセトアミノフェン   >120mg/kg
ケトコナゾール
アスピリン       >30mg/kg/日
テトラサイクリン
ジアゼパム
メチマゾール
エッセンシャルオイル

環境毒
 イソプロパノール
 無機砒素剤
 タリウム
 リン化亜鉛(殺鼠剤)
 タマゴテングダケ(Amanita phalloides)
 アフラトキシン(カビ毒)
 トリクロロエチレン(ドライクリーニング液)
 トルエン
 フェノール

特に気になるのは、エッセンシャルオイルでしょうか。
エッセンシャルオイルは、経口でも経皮的にも、急速に吸収されて肝臓で代謝されて、グルクロン酸とグリシンの抱合体に代謝されます。猫は、肝臓のグルクロン酸転写酵素活性が低いために、高い感受性を持っているということになり、肝毒性が現れるということです。同様の理由で、フェノール類に対しても感受性が高くなります。

アセトアミノフェンは、肝毒性が強いので、注意しましょう。毒性量を服用すると、摂取後数時間以内に、メトヘモグロピン血症やハインツ小体性貧血、血液凝固不全が起こります。2~7日以内に肝不全が発現します。

中毒性の肝症が疑われたら、それ以上の暴露と吸収を防いで、心肺と腎障害に対する治療を行います。これは、命を脅かす疾患を早く取り除くための努力です。出来る限り静脈を確保して、できる限り早く支持療法を開始し、物質の除去を早めることに尽力しましょう。
肝毒性を示す薬剤に対する特異的な解毒剤は、ない、と思っておきましょう。世の中に存在しても、手元にないこともあります。取り寄せてる暇はないので、まずは点滴を持続的に行って、代謝を促進することが肝要です。

全身性疾患に併発する肝胆道系疾患

肝臓以外の全身性疾患が、肝胆系に影響を与える場合があります。

腫瘍の転移による肝腫大がみられることがありますが、猫では転移より、原発性の腫瘍が多いのが特徴です。

甲状腺機能亢進症で認められる頻繁な嘔吐、下痢、体重減少は原発性の肝胆系疾患の症状に似ていますが、ALPの高値もみられます。ALT、ASTの高値を認める症例もあって、ほとんどが3つのうち、どれかが上昇しています。高ビリルビン血症が認められることもあります。肝細胞の障害は軽微です。栄養不足、肝細胞の低酸素症、甲状腺ホルモンの直接作用が原因と考えられます。

糖尿病の猫で、中程度の脂肪沈着が起こって、肝臓が肥大するのは、肝リピドーシスの項目内でも書いたとおりです。黄疸がみられることもあり、ALTやASTの上昇も認められる場合があります。

副腎皮質機能亢進症は、猫では少ないですが、仮に発症しても肝臓への影響も少なく、肝腫大は認められません。ALPやALT活性の上昇も、ほぼありません。ALTの上昇がみられたら、糖尿病が併発している、と考えた方がいいでしょう。