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消化器系の疾患/肝臓疾患の合併症

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肝臓疾患の合併症

肝性脳症

 慢性肝性脳症

肝性脳症の犬や猫に対する治療は、消化管や末梢由来の毒性物質の生成を減少させて、増悪因子を除去して、電解質異常を補正することで、正常な神経機能を回復させること、です。最も重要な脳毒性物質は、アンモニアです。アンモニアの発生源は、組織におけるアンモニア代謝で、食事性蛋白質が消化されずに腸内で分解されるアンモニアは、それ程重要な要素ではありません。

門脈体循環シャントの犬や猫では、ストレスや感染によっても肝性脳症が悪化することがあります。これは、代謝亢進、炎症、体を構成している蛋白の分解が肝性脳症の発症に関与していることを示唆しています。特に、後天性門脈シャントや蛋白質カロリー欠乏の犬では、窒素バランスの悪化や筋肉の分解で肝性脳症が引き起こされて、この場合、栄養失調や蛋白制限食で肝性脳症は悪化します。

慢性肝性脳症の長期的な管理するための標準的な治療法は

  1.  慎重な食事管理
  2.  急速に吸収されるアンモニアの生成を抑えて消化管からの排泄を早める局所作用性物質の投与
  3.  アンモニアや他の消化管由来の脳毒性物質を生成する細菌数を抑える抗菌薬の投与
  4.  増悪因子に対する治療

です。食事管理と基礎疾患の治療が重要です。
門脈シャントの犬や猫は、蛋白質要求量が多いので、蛋白質カロリー欠乏を防ぐためにも、蛋白制限食を与えないようにしましょう。後天性門脈シャントは門脈圧亢進症が原因となるので、門脈圧亢進による他の症状や、基礎となる肝疾患の治療も必要となります。

肝性脳症の内科治療

食事管理








通常量の良質かつ高消化性の蛋白質を、少量で頻回、給餌
  (未消化の食事が大腸に到達する危険性を減少させる)
長期にわたる絶食や過度の蛋白制限を避ける
  (蛋白質カロリー欠乏を予防)
脂肪便が発症しない限り、通常食を給餌
胆汁うっ滞や門脈亢進症では、高脂肪食を避ける
炭水化物は高消化性のものを給餌
  (肝臓で脂肪や蛋白質から糖新生を起こす必要性を軽減)
便秘を予防する程度の繊維を給餌
ラクツロース





大腸内容物を酸性化する水様性繊維であり、アンモニアの吸収を抑制する。大腸内の細菌増殖が促進されて、アンモニアが細菌の細胞壁に取り込まれる。
  犬:2.5~15mL(経口)  猫:2.5~5mL(経口)
効果が認められるまで
1日2~3回の投与、1日2~3回の軟便が排泄されるように調整
抗生物質


アモキシシリン(20mg/kg、経口、BID)
メトロニダゾール(7.5mg/kg、経口、BID)
  腸内細菌数を減少させて菌血症を予防
増悪因子の管理併発している感染症や炎症を特定して治療

食事療法
慢性肝炎の犬と同様の食事を心掛けます。
腸内細菌は、大腸に到達した未消化蛋白質のみを代謝してアンモニアを発生させるので、食事中の蛋白質の消化性が高く、小腸の消化能力を超えない量の蛋白質を与えることは構いません。食後は門脈循環血液中に多量のアンモニアが存在しますが、これは小腸のグルタミン異化作用によるもので、超細胞の主要なエネルギー源として必須のものです。

食事は少量ずつ、頻回に分けて与えましょう。肝臓の代謝能力を超えた給餌では、症状が悪化する可能性があります。肝臓用の処方食を与えてもいいですが、肝臓用処方食は蛋白質が制限されているので、消化性の高い蛋白質を含んでいる消化器疾患用の処方食でも構いません。

ラクツロース
ラクツロース(βガラクトシドフルクトース)は、消化されない二糖類なので、経口投与でも大腸まで到達して、細菌に短鎖脂肪酸(乳酸や酢酸)に分解されます。短鎖脂肪酸は、消化管内容物を酸性化して、アンモニウムイオンを大腸内で捕捉します。同時に、浸透圧性の下痢を促進するので、便秘を防ぎ、肝性脳症の症状を緩和します。

さらに、短鎖脂肪酸は、大腸内細菌のエネルギー源として利用されて、細菌を増殖させるので、大腸のアンモニアが細菌蛋白質に組み込まれて、結果的に細菌とともに糞便中に排泄されます。

ラクツロースの経口投与は、1日に2~3回の軟便が出る量を調整しましょう。過剰投与は水様性下痢になります。浣腸投与も可能です。

抗菌薬投与
食事管理・ラクツロースの投与で肝性脳症の症状が調整できなければ、抗菌薬を投与することもあります。慢性肝性脳症なら、アモキシシリン(20mg/kg)やメトロニダゾール(7.5mg/kg)が適切です。長期的に、敗血症を防ぐため、全身性に吸収される抗生物質を使用することが理由です。メトロニダゾールは、肝排泄遅延が起こることがあるので、神経毒性を防ぐため、低用量で使用します。

増悪因子の管理

肝性脳症を増悪させる状況や原因があれば、除去して回避させたり、積極的に治療をするべきです。実際のところ、食事よりも、増悪因子の方が、肝性脳症を引き起こす上では重要です。膀胱炎や中耳炎などで、軽度な感染であっても肝性脳症を誘発することがあるので、どんな炎症性疾患であっても、併発していれば中了することが必要です。炎症と炎症性サイトカインは、肝性脳症の誘因として重要です。

肝性脳症の増悪因子

消化管における
アンモニアの産生増加





高蛋白食
消化の悪い蛋白質
消化管出血
便秘

高窒素血症

子犬用や子猫用のフード
大腸でアンモニアに代謝されてしまう
後天性門脈シャントで起こる出血性潰瘍
大腸内細菌と糞便の接触で
 アンモニア産生が増加
大腸の細胞膜を通過して拡散する尿素が
 細菌によってアンモニアに分解される
全身性のアンモニア
生成の増加




異化

代謝亢進
蛋白質カロリー欠乏
粗悪な蛋白質の給餌

筋肉の異化が増進して
  NH3の放出が起こる


蛋白質がエネルギーとして利用される際
  過度の脱アミノ化が起こる
脳における
アンモニアの取り込み
および代謝に影響
を及ぼす因子



代謝性
アルカローシス
低カリウム血症
鎮静薬・麻酔薬
発情
炎症

循環中非イオン化アンモニア量が増加して
  脳血液関門の通過が亢進する
アルカローシスをもたらす
神経伝達物質に対する直接作用
神経学的作用を持つ神経ステロイドの産生
炎症性サイトカインが中枢に対して
  直接的な作用をする

 急性肝性脳症

急性の肝性脳症は、頻度は低いですが、救急案件です。発作や昏睡を呈します。発作が持続して、癲癇(てんかん)の重積や昏睡が続くと、脳に障害が残ることもあります。肝性脳症が持続すると、星状膠細胞内に浸透圧作用を持つグルタミンが蓄積され、重篤な脳浮腫をもたらします。グルタミンは、アンモニアを解毒したときにできます。

急性肝性脳症による低血糖は致死的で、緊急を要します。絶食と浣腸、静脈内輸液を行うことが基本的な治療法です。温湯による洗浄浣腸は、大腸内を空にして、消化管からの脳毒性物質の吸収を防ぐための緊急処置で、有用です。大腸内を酸性(pH6以下にする)に保って、アンモニアの吸収を減少させるために、ラクツロースを希釈して浣腸剤として投与することも有効です。液量を20mL/kgとして、ラクツロース:水=3:7が適当です。但し、ラクツロースは浸透圧作用を持つので、脱水が生じないよう、水分補給に配慮してください。

喪失した水分の補給や体液量の増加・維持は、静脈内輸液で行いますが、乳酸加の輸液剤は使用してはいけません。乳酸は、重炭酸塩に変換されますが、アルカリ化された溶液は、より拡散性の高いアンモニアを生成してしまいます。生理食塩水にブドウ糖を加えて(0.5%程度)、カリウムを20mEq KCl/Lで添加した輸液剤を使いましょう。検査結果が得られたら、それに基づいて、電解質を補正していきます。

犬が発作を起こしていれば、低用量のプロポフォール点滴やフェノバルビタールで鎮静します。フェノバルビタールは肝毒性があるので、注意して使用しましょう。プロポフォールは、最初に急速静注(1mg/kg)をして、その後、発作をコントロールしながら、0.1~0.2mg/kg/分で持続注入するのが効果的です。意識を回復させたり、食事を取らせたりするために、徐々に点滴速度を落とします。
発作に対する治療を行う前に、慎重に、治療可能な原因を除外しましょう。原因としては、電解質異常、低血糖、高血圧、特発性てんかんがあります。

急性肝性脳症の救急管理
確認された全ての増悪因子の除去・治療
24~48時間の絶食
静脈内点滴: 過剰輸液を避けること
低カリウム血症の回避・治療
低血糖の回避・治療: 1~2時間毎に測定することが賢明
体温をモニタリング
大腸からアンモニアを除去するために浣腸:
    温湯もしくは希釈したラクツロース
結腸内容物を除去した後、ネオマイシンの停留浣腸(20mg/kg)
アンピシリンの静脈内投与(20mg/kg)
発作に対する処置
  プロポフォールを急速静注(1mg/kg)
  続いて、持続点滴(0.1~0.2mg/kg/分)が効果的
  フェノバルビタールが使用されることもある

肝性脳症に対する薬物療法で効果が確認されているのは、今のところ、ラクツロースと抗菌薬だけです。急性肝性脳症の場合は、ネオマイシン(20mg/kg)を使用することも可能です。経口投与が可能なら、1日2回の服用です。グラム陰性菌や尿素分解菌に有効です。ネオマイシンは、全身性に移行せず、消化管内に留まる傾向があり、腸内細菌が、ネオマイシンに耐性を獲得しやすいこともあり、長期的には使用すべきではありません。なので、急性肝性脳炎の時には使います。

門脈圧亢進症

主に、慢性肝炎の犬で認められる、門脈系の血圧の持続的な上昇です。急性肝疾患でも、時々みられます。猫では稀です。類洞を通る血流に対する抵抗が高まること、もしくは低頻度ですけど門脈の血栓塞栓症で発現します。慢性肝疾患の初期には、肝臓の星細胞(伊東細胞)の増加や変性で門脈圧が亢進します。星細胞は、類洞の周囲に存在する細胞で、収縮性筋線維芽細胞に変性して収縮を引き起こします。病状が長期にわたると、この活性化した星細胞の作用によって沈着した線維組織が、不可逆的な類洞の閉塞をもたらします。つまり、犬で門脈圧亢進症が起こる最も多くの原因は、慢性肝炎が肝硬変に進行していくこと、なわけです。

門脈循環の血行動態が変化することで、消化管壁の浮腫・潰瘍腹水後天性門脈体循環シャントが発現してきます。後天性門脈シャントは、門脈圧が後大静脈圧よりも持続的に高くなったときに、迂回路として生じるものです。迂回路は、腹膜に走行する血管で、常に多発性に生じます。でも、後天性門脈シャントってのは、上昇した門脈圧を下げるし、消化管潰瘍の危険性を減らすので、重要な代償機構なのです。よって、後天性門脈シャント血管を結紮手術することは、禁忌です。致死的な内臓のうっ血をもたらします。

しかしながら、後天性門脈シャントは、先天性の場合と同様に、肝性脳症を引き起こします。それは、適切に治療してあげましょう。

 内臓のうっ血と消化管潰瘍

門脈圧の亢進により、門脈系に流れ込む血流量の低下が、内臓循環の血液をうっ血させます。特に、消化管壁にうっ血と浮腫をもたらします。エコー検査でも、消化管壁の肥厚や層構造の消失が確認されることがあります。内臓のうっ血は、腹水の発現より早く起こって、腹水が消失しても持続してしまいます。

消化管壁がうっ血すると、消化管潰瘍の起こる危険性が増します。胃腸や食道に重篤な潰瘍が起こると、それは慢性肝疾患の犬での死因の一つにもなります。要注意です。犬では、十二指腸潰瘍が頻発します。

敗血症や蛋白質カロリー欠乏の併発は、消化管潰瘍の発生因子になります。食欲不振がみられる犬は、問題です。消化管の組織損傷の修復には、消化管内腔のグルタミンが使われることが一つの機構ですが、食欲不振でグルタミンが枯渇すると、より消化管潰瘍の危険が高まります。

慢性肝炎⇒門脈圧の亢進⇒内臓うっ血、が認められる犬に対して、獣医さんは消化管潰瘍が急性に起こることを考慮しておかなくてはなりません。消化管内腔の出血で、小腸から大腸へ出血した血液が移動するまでに掛かる数時間、小腸内を移動する血液は、『高蛋白食』となるので、下血症状を呈する前に、肝性脳症を示す可能性があることも知っておきましょう。

  •  治療
    •  門脈圧亢進による消化管潰瘍が起こることを知って、消化管潰瘍を予防することが不可欠です。
    •  行える処置は、長期間食欲不振が続いているならば、食事を摂取させること(重要)、ステロイド・非ステロイド系抗炎症薬の使用を控えること、手術をするなら低血圧に注意すること、が挙げられます。
    •  潰瘍や下血の改善には、H2阻害薬を使用することがあります。ファモチジン(0.5~1mg/kg、経口、BID)がいいでしょう。シメジチンは、肝臓のP450酵素に影響を及ぼすので禁忌です。

出血性の変化ですので、血液凝固系検査も評価しておきましょう。血液凝固障害があれば、ビタミンKや血漿輸血で治療します。

 腹水

腹水貯留も、門脈圧亢進症で起こる病態です。犬では腹膜炎を起こすほどのことはないのですが、それでも慢性肝疾患において、腹水は予後不良因子になります。低アルブミン血症も腹水を助長する可能性がありますので、低アルブミン血症が認められたら、アルブミンの投与をしておく方がいいでしょう。

肝疾患による腹水の貯留では、糸球体濾過率の低下と尿細管へのナトリウム運搬の減少、レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系の機能賦活よる遠位尿細管でのナトリウム保持によって、循環体液量の増加がもたらされ、腹水生成の増加を招きます。

  •  治療
    •  利尿薬の投与をしますが、発生機序を考えて、アルドステロン拮抗薬(スピロノラクトン; 1~2mg/kg、経口、BID)を用います。ループ利尿薬(フロセミドなど)の単独使用は、無効です。スピロノラクトン単独では効果のない難治性の腹水貯留に対しては、フロセミド(2~4mg/kg、経口、BID)を追加することがあります。
    •  毎日、体重を計測して、腹水の消退を評価しましょう。

治療開始後、電解質濃度(ナトリウムとカリウム)をモニタリングすることは重要です。低カリウム血症は、肝性脳症を悪化させますし、フロセミドを投与している症例でも低カリウム血症を起こし得ます。

腹水の貯留が、呼吸障害を引き起こすほどに重篤な場合、腹腔穿刺によって腹水を除去することもあります。腹部が膨満して、犬が横になれないほどに大きくなることもあります。腹腔穿刺をする際には、アルブミンや血漿の投与をしておく方がいいでしょう。

蛋白質カロリー欠乏

栄養失調みたいなもんです。
慢性肝炎の犬では、食欲不振、嘔吐、下痢で蛋白質の摂取量が下がります。その上、代謝亢進、肝機能不全によって喪失されるカロリーや消耗するカロリーが増加するため、蛋白質カロリーの欠乏が頻繁に認められます。

蛋白質カロリーの欠乏は、QOL(生活の質)だけでなく寿命に対しても深刻な影響を与えることがあります。感染性の合併症が多くなる危険もあります。栄養失調の影響で、窒素バランスが悪くなり、筋肉量が減少してしまうので、肝性脳症を引き起こしやすくなりますし、体の蛋白質の分解は、さらなるアンモニアの産生をもたらします。
正常な個体では、動脈血中のアンモニアの半分程度が、骨格筋でグルタミン酸塩がグルタミンに変換されることによって代謝されます。ですので、筋肉量が喪失されると、アンモニアを解毒する能力が低下することにもなります。

注意しておきたいのは、蛋白質カロリーの欠乏が起こる原因が獣医師、という状況があるということです。検査を行うために何日も絶食をさせたり、この疾患に対する認識不足や注意不足などもあり得ますので、十分に注意しましょう。

先天的な門脈シャントでも栄養失調がみられることがありますが、これは肝臓の合成能低下に起因する変化であったり、獣医師が不適切に極端な蛋白制限を支持したために起こることです。猫は、常に肝臓で蛋白質を利用して糖新生を行い、蛋白質が不足すると体内の筋肉の蛋白質を利用し始めるわけですから、常に注意しましょう。獣医師にとって、猫では、蛋白質補給は当たり前ですが、犬でも細心の注意を払わなければならない、ということですね。

  •  症状
    •  困ったことに、目立った症状が出ません。筋肉量の減少・喪失は、栄養不良が進行した後期に生じます。
    •  血液検査で、栄養失調を診断することも出来ません。せいぜい、アルブミン濃度を測定する程度です。

肝疾患を有する犬では、常に蛋白質カロリー欠乏の危険性を意識しましょう。食欲不振、食欲廃絶が3日以上続いている、体液喪失に関連しない10%以上の体重減少が短期的に認められたら、栄養管理を至急、開始すべきです。

  •  治療
    •  適切な食事を与えましょう。
    •  蛋白質の制限は、できるだけ避けます。他の疾患との関連で、処方食・維持食などを食べているなら、良質な蛋白質を補給することも必要です。
    •  自力で食事ができないなら、胃瘻チューブなどの設置で、強制給餌も必要です。特に、肝リピドーシスの猫。
    •  食事管理ができて、動物の状態が安定したら、併発する感染症など、食欲不振の原因を探して治療しましょう。

血液凝固異常

肝臓では、凝固系と線溶系とも、ほとんどの因子が合成されています。第Ⅷ因子以外の全ての凝固因子が合成されて、凝固阻止因子、線溶阻止因子も産生されます。第Ⅱ、Ⅶ、Ⅸ、Ⅹ因子は、肝臓でビタミンK依存性カルポキシル化反応による活性化を必要とします。それらの働き割には少ない頻度なのですが、肝疾患を有する犬や猫では止血異常が認められます。

凝固時間の延長は、ビタミンKの吸収不足が原因の一つです。ビタミンKは、脂溶性ビタミンで、胆道系疾患に関連して吸収の低下が起こります。ビタミンK反応性血液凝固障害の犬と猫では、プロトロンビン時間の延長と活性化部分トロンボプラスチン時間の延長が認められます。猫の方が顕著です。

慢性胆道系疾患に罹患した猫は、炎症性腸疾患を併発していることが多くて、炎症性腸疾患が脂肪の吸収(つまり、ビタミンKの吸収)低下をもたらします。とくに猫の場合、胆道系疾患があると、慢性膵炎を併発することが多いわけですから、膵外分泌不全に進行して脂肪の吸収(つまり、ビタミンKの吸収)がさらに低下します。

犬では、臨床的に問題となるような凝固時間の延長はあまり認められません。しかしながら、犬でも猫でも、重篤なび慢性肝疾患、急性のリピドーシス、リンパ腫などでは、肝細胞の障害と、肝臓での凝固因子の合成低下に起因する凝固因子の活性低下を来たします。これらは、基礎疾患を適切に治療して改善していけば、回復します。

急性劇症肝炎や肝臓腫瘍の合併症で播種性血管内凝固(DIC)が起こると、凝固時間の炎症と血小板減少を伴いますが、DICの治療は困難で、ほとんど死亡してしまいます。

症状では、出血病変の生じることがあります。慢性肝炎よりも、急性肝炎で多く、自然発生的な出血です。凝固因子の枯渇が原因です。
生検を行う際の出血にも、獣医さんは十分に注意して、事前に処置しておきましょう。

凝固不全に対する治療は、非経口的にビタミンK(0.5~2mg/kg)を補給します。ビタミンKの過剰投与でハインツ小体性貧血になる可能性がありますので、長期治療には凝固時間のモニタリングを欠かさないようにしましょう。
DICの治療は困難です。基礎疾患を取り除くのが有効でしょうが、急性肝不全に対して肝臓移植をするわけにもいかず、DICが認められると予後不良です。ヘパリン療法も有用性は認められていません。