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消化器系の疾患/胃の疾患

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胃の疾患

胃炎

 急性胃炎

急性の嘔吐を示して来院する犬(が多い)で、刺激性物質を食べたことがわかっている場合を除いて、消化管内異物、閉塞、パルボウイルスの感染、尿毒症、糖尿病性ケトアシドーシス、副腎皮質機能低下症、肝疾患、高カルシウム血症、膵炎の可能性が否定された時に、急性胃炎と仮診断します。
嘔吐がみられるので非経口的な輸液療法と、24時間の絶食・絶水を行います。この1~2日の対症療法・支持療法で食欲不振や嘔吐が改善したら、ほぼ確定です。

嘔吐物には、食べ物と胆汁、ときおり少量の血液が混じっています。食欲不振に陥る場合もありますが、元気があることもあります。一般的な原因は、腐敗した食べ物、汚染された食べ物、有毒な植物、異物、化学物質、刺激性のある薬剤の摂取です。

嘔吐が持続する場合には、中枢作用性の制吐薬を非経口的に投与します。2~3日を経過しても症状の改善がない場合は、他の疾患を疑って画像診断、血液検査、尿検査を行いましょう。

食事の再開は、少量に水を何回かに分けて与えてみて、嘔吐がなければ、少量の消化のよい食事を与えましょう。様子を見ながら徐々に食事量を増やして、元の食事量に戻していきましょう。成犬は、2~3日食べなくても体力的には平気です。

治療に抗生剤やステロイド剤は不要です。
水分と電解質パランスを維持すれば、予後良好です。

 出血性胃炎

出血性胃炎では、急性胃炎より重度の疾患で、多量の吐血や血便がみられます。原因不明です。急性の経過を辿ることがあり、来院時に瀕死状態に陥っている場合もあります。

血漿中の蛋白濃度は正常だが、血液濃縮がみられると出血性胃炎と判断できます。出血性胃炎の治療と、ショック、低血液循環による二次的な播種性血管内凝固、循環血液量の低下による二次的な腎不全を防ぐために輸液をすぐに行いましょう。低アルブミン血症の併発にも要注意です。

手遅れにならなければ、回復します。大量の吐血・血便は、すぐに病院へ。

 慢性胃炎

食欲不振や嘔吐を主症状として、嘔吐は、週1回程度から1日に数回まで、様々な頻度で起こります。猫の方がよくみられます。

リンパ球性、形質細胞性、好酸球性、肉芽腫性、萎縮性の胃炎が知られています。リンパ球形質細胞性胃炎は、様々な抗原に対する免疫介在性もしくは炎症性の反応と考えられます。好酸球性胃炎はアレルギー反応の一種で、食物抗原によ対する反応と思われます。萎縮性胃炎は、胃の慢性的な炎症もしくは免疫介在性に起こると考えられます。胃粘膜の生検で診断可能ですが、そこまでするかどうか・・・

リンパ球形質細胞性胃炎は、低脂肪食、低繊維食、アレルゲン除去食のみで改善することがあります。治療では、まずここから試してみましょう。食事療法で不十分な場合は、プレドニゾロン(2mg/kg/日)を併用して、反応があれば、最低有効量まで漸減していきましょう。注意して漸減しないと、症状が再発した場合に治療に反応しづらくなります。H2受容体拮抗薬の併用が効果的なこともあります。
潰瘍が併発していれば、制酸剤を用いて治療しておきましょう。

肉芽腫性胃炎や萎縮性胃炎は、リンパ球形質細胞性胃炎や好酸球性胃炎(犬のみ)よりも治療か困難ですが、同じように低脂肪、低繊維の食事で様子を見ていきましょう。肉芽腫性胃炎は、ステロイド剤にもあまり反応してくれません。萎縮性胃炎では、抗炎症薬、制酸薬、消化管運動調節薬に反応することもあります。この際に投与する消化管運動調節薬は、夜間に胃を空にする目的で投与します。猫の好酸球性胃炎は、治療方法がありません。予後も悪くなります。

 寄生虫

胃の疾患を引き起こす寄生虫は、スピロヘータ(ヘリコパクター)、ラーラ胃虫、猫胃虫などです。あんましメジャーではないです。

  •  ヘリコバクター

スピロヘータの仲間であるヘリコパクターは、犬や猫にも感染します。ピロリ菌は人だけのようです。犬や猫では、無症状なんで問題になることはありませんが、胃炎を引き起こす場合があるようです。他の疾患の胃炎である可能性が高いので、注意深く診断を下しましょう。

抗菌薬に反応します。メトロニダゾールを投与するようですが、アモキシシリンでも効果があるようです。制酸剤(シメチジンやファモチジン)を併用すると有効です。10日間、投与を継続しましょう。

  •  ラーラ胃虫(Physaloptera rara)

ラーラ胃虫(Physaloptera rara)って線虫がいて、中間宿主として甲虫、コオロギ、ゴキブリ、待機宿主としてげっ歯類、蛇などが必要で、それらを習慣的に捕食している犬や猫は感染の可能性があります。1匹の感染で難治性の嘔吐が起こることもあります。
虫卵が糞便中に検出されることは稀でもあり、経験的にドロンタールで治療してもいいと思います。駆虫してしまうと、嘔吐が止まります。

  •  猫胃虫(Ollulanus tricuspis)

中間宿主の不要な線虫で、吐物を介して伝播します。
嘔吐が主要な症状ですが、全く症状のない猫もいます。嘔吐物(胃液や吐物)中の虫体が確認されれば、胃炎や嘔吐の原因がこの線虫に起因するかも知れません。
ドロンタールで駆虫できるようです。一度、服用させた後、2~3週間後にもう一度服用すれば駆除できます。

胃の流出路の閉塞/胃の停滞症

胃の構造

胃の構造を貼り付けておきました。

 幽門狭窄

幽門は胃の出口、十二指腸につながる部分です。ここの筋肉が肥大して出口が狭くなってしまうのが、幽門狭窄(良性幽門筋肥大)です。原因はよくわかりません。特発性のものでしょう。

犬にも猫にも起こります。若齢の動物が、持続的に嘔吐するのが特徴です。噴出すような嘔吐が、食後すぐに起こります。嘔吐と多少の体重減少がみられますが、基本的にそれ以外は健康な状態です。
猫では、頻回の嘔吐で、二次的な食道炎、巨大食道症、吐出がみられることがあり、原因として幽門狭窄を見つけにくくなることがあります。

疑いがあれば、バリウム造影X線検査か、腹部エコー検査で確認してみましょう。できれば、生検を行って、浸潤性疾患など、嘔吐を引き起こす可能性のある他の原因を除外してから、外科的に整復(幽門形成術)すれば完治します。
薬では治らないよ。

 胃前庭粘膜過形成

特発性の疾患です。非腫瘍性の粘膜が過形成を起こして胃前庭遠位部(幽門部付近)を塞いで閉塞を起こす疾患です。見た目は幽門閉塞と同じようにみえますが、幽門閉塞は粘膜下の筋層が肥厚する疾患で、この疾患の場合は、胃粘膜のみです。

食後直後に嘔吐をする症状も、幽門閉塞と似ています。違いは高齢犬に多いということでしょうか。
幽門閉塞と同様に、X線検査、エコー検査で狭窄部を特定しますが、生検による確定診断が必要です。前庭粘膜の過形成であれば、浸潤性の癌や平滑筋腫でみられる粘膜より下層の浸潤性病変や、幽門狭窄を示唆する筋層の肥厚がないはずです。胃癌は予後が悪く、手術を必ずしも行う訳でないので、適切な治療を行うにあたり、鑑別診断は重要です。

粘膜切除術を施して、幽門形成術も同時に行う方がいいでしょう。手術を行えば、予後良好です。

 胃内異物

来院理由で結構多いのが、異物の摂取、誤飲です。
食道を通過できれば、胃内異物や腸内異物になってしまいます。胃を刺激して嘔吐が起こったり、胃流出路の閉塞や胃の拡張が起こります。線状の異物が幽門部に引っ掛かると、消化管穿孔とそれに続く腹膜炎を引き起こすこともあり、迅速な対応が必要です。

嘔吐以外では、食欲不振、元気がない、という症状が一般的ですが、無症状のこともあります。特に子犬で、元気だったの急に吐いた、という場合には異物の摂取を疑いましょう。
吐出ではなく、嘔吐です。

疑いがあれば、単純腹部X線検査、バリウム造影X線検査を行うべきでしょう。消化管を障害しそうにない小さなもの、柔らかいものなら消化管を通過できることがありますが、通常は、催吐薬で異物を吐き戻させるか、出てこない、もしくは尖っていて吐かせるのが危険であれば、内視鏡や胃切開手術にて摘出除去するしかありません。

催吐薬には、昔は過酸化水素水(オキシドール)を使ってましたが、胃に対する負担が大きいので、できれば止めておきたいですね。犬なら、トラネキサム酸を急速静脈内投与を行うと、嘔吐します。副作用も少ないので、この方法がいいでしょう。用量は、25mg/kg程度で、『急速投与』することが必要です。猫ではキシラジンを、0.5mg/kgで静脈内投与すると嘔吐します。

異物を排出できれば、予後は良好ですが、衰弱している場合や胃穿孔による二次的な敗血症性腹膜炎があると、死に至ることもあります。

 胃拡張・胃捻転

胃拡張・胃捻転を疑ったら、すぐに対処しましょう。どれだけ迅速に診断し、治療を開始するか、が分かれ目です。

突然、起こることが多く、原因ははっきりしませんが、胃の運動性の異常や胸郭の深い大型犬で主に起こるので、胸郭の形や腹腔内での胃の位置や状態にも関わっていそうです。急いで食事をする犬に起こりやすい傾向もあります。

過剰なガスによる胃拡張が一般的です。ガスが溜まると、胃もフワフワして、腹腔内でクルッと回ってしまうのでしょうか? 捻れてしまうと、胃捻転です。幽門部が、腹側に回転して、腹腔の右側から胃体部の下を通って、腹腔の左側で噴門の背中側に位置するように捻れてしまいます。文字だととわかりずらいですが・・・

重度の胃捻転は、閉塞を起こしますし、空気による拡張が進行していきます。胃が回転する際に、腹腔の右側にある脾臓も回転して、脾捻転を併発することもあります。
重度の胃拡張では、肝門脈や後大静脈の閉塞が起こって、腸間膜のうっ血、心拍出量の低下、ショック、播種性血管内凝固(DIC)が起こることもあります。

胃拡張・胃捻転になると、犬は嘔吐しようとしますが、何も出てこない(空吐き)ことが多く、腹部の疼痛がみられます。前腹部の拡張がみられることもあります。放っておくと、抑うつ状態になって、昏睡状態に陥ります。胃拡張・胃捻転は、迅速に対処しましょう。疑ったら、すぐに右側横臥で単純X線検査です。

部分的な胃捻転や間欠的な胃捻転も起こります。この場合は、生命に関わる進行性の症状はみられません。繰り返し発症して、自然に回復します。慢性的て間欠的な症状を起こします。発症しているとき以外は、見た目、普通です。診断にはX線検査を行いますが、何度も行い、造影検査の必要な場合もあります。

  •  治療
    •  まずショックに対する積極的な治療を行いましょう。輸液点滴を開始して、胃の減圧を行っていきます。呼吸困難を起こしている症例は、最初に胃の減圧が必要です。
    •  胃の減圧は、経口の胃チューブを用いて行います。同時に、胃の内容物を除去するために、胃を温水で洗浄しましょう。捻転などでチューブが胃内に入らない時は、穿孔を起こさないよう無理に入れず、左側の腹の肋骨のすぐ後から、太目の針を胃内に刺入して空気を抜きましょう。
    •  もしくは、いずれにしても胃の整復手術を行うので、さっさと胃切開手術を行います。胃壁を皮膚に縫合してから、胃壁を切開して、蓄積したガスと胃の内容物を除去します。状態が安定したら、胃切開部を閉じて、胃を整復して、脾臓に梗塞があれば摘出、傷害を受けた胃壁・壊死部を切除か陥没させ、最後に胃の固定術を行います。再発防止と予後の改善に、胃固定術は重要です。
    •  胃拡張による腸間膜のうっ血は、感染やエンドトキシンショックを誘発するので、抗生剤の投与(iv)を行いましょう。セファゾリンを20mg/kgとかで大丈夫です。
    •  術後は、2~3日、心電図をモニターしておく方がベターです。低カリウム血症による不整脈が起きやすいので、電解質の調整もしっかりと行いましょう。
  •  予後
    •  何度もいいますが、迅速な診断と治療が重要です。早期治療で予後が改善します。発症から5時間以上経過して来院した場合には、低体温、不整脈、胃壁の壊死、DICなどが予後を悪くします。
    •  部分的、間欠的な胃捻転は、外科的な整復と胃固定術で完治します。

 特発性胃運動低下症

閉塞や、炎症性の病変ほか、原因がなく特発的に胃の運動が低下してしまい、胃の内容物がうまく排出されない疾患です。

犬に多く、食後、数時間後に嘔吐することが主な症状です。他には目立った症状もなく健康体です。X線検査で胃の運動性の低下がみられますが、胃の運動を低下させる他の疾患を除外していきましょう。胃の閉塞、浸潤性疾患、炎症性疾患、腎臓・副腎・肝臓の機能不全、低カリウム血症や高カルシウム血症が考えられます。

メトクロプラミドで、胃の蠕動運動を亢進させてやることで、反応することもあります。反応してくれると、予後は良好です。治療に反応しないと、治癒の見込みはありませんが、低脂肪・低繊維のフードは、胃からの排出が促進されるので、効果がみられることがあります。
治療できないと予後不良というわけではなく、栄養管理を行って生活していくことが可能です。

 胆汁嘔吐

犬の胃が長時間、空になった場合、胆汁色の液体を嘔吐することがあります。普段の生活において、夕方に食事をして、一晩食事をしないだけで、朝方、食事の直前に嘔吐する、ということもあります。嘔吐液は、黄色っぽい色をしています。

空腹時間が長いと嘔吐するので、夜、寝る前に、軽い食事を摂る、などの処置で完治します。嘔吐が持続するなら、消化管運動調節薬を投与してもいいですが、治療に反応せずとも、この症例の犬は健康です。


胃潰瘍/びらん

凝固異常がなく、吐血、メレナ、鉄欠乏性貧血がみられたら、胃潰瘍・びらんと判断していいでしょう。胃潰瘍や糜爛が生じる原因としては、ストレス性薬剤性肥満細胞腫やガストリノーマによる二次的な変化、腎不全・肝不全・異物・その他の腫瘍が考えられます。

ストレス性潰瘍は、外傷、手術、循環血液量の減少、敗血症、ショックで起こります。胃の前庭部、体部に認められることが多い潰瘍です。十二指腸にもみられることがあります。

薬剤性で起こる潰瘍・糜爛は、特に、非ステロイド系抗炎症薬の服用でおきます。薬剤としては、アスピリン、イブプロフェン、ピロキシカム、カルプロフェンなどです。COX-2受容体選択的なNSAID(コキシブ系など)は潰瘍・びらんのリスクは低くなっています。ステロイド剤は、潰瘍・びらんを起こす危険性は低いですが、非ステロイド系抗炎症薬との併用は禁忌です。

肥満細胞腫というのは、ヒスタミンを放出して、胃酸の分泌を起こします。胃が過剰に酸性化して、潰瘍・糜爛を形成します。ガストリノーマ(膵臓の内分泌腺腫瘍)においても、腫瘍から分泌されるガストリンが胃を著しく酸性化し、胃潰瘍・糜爛だけでなく、十二指腸潰瘍、食道炎や下痢も引き起こします。

腎不全で潰瘍や糜爛が起こることは少ないですが、可能性として考慮しましょう。肝不全はよく潰瘍・びらんが起こります。異物は潰瘍・びらんの原因というよりは、潰瘍の治癒が妨げられ、潰瘍からの出血が増加します。猫や高齢犬では、肥満細胞腫やガストリノーマ以外の腫瘍も重要な原因の一つです。

  •  症状
    •  潰瘍や糜爛は犬で多く、食欲不振や嘔吐が主症状です。嘔吐物には、血液が混入することもあります。短期間に重度の出血があると、メレナが認められることがあります。
    •  潰瘍や糜爛で、腹部の疼痛はありません。潰瘍による穿孔が生じて、化膿性腹膜炎が起こりますが、塞がった穿孔部に膿瘍ができると、食欲不振、嘔吐と共に、腹部の疼痛がみられます。
  •  治療と予後
    •  原因がわかっている場合は、とにかく原因を取り除きましょう。NSAIDの投与を止める、異物を取り除くなどが考えられます。
    •  命に関わらない潰瘍やびらんと判断できれば、対症療法を行いましょう。H2受容体拮抗薬、プロトンポンプ阻害薬、輸液、絶食が効果的です。5日程度で効果がみられない時には、潰瘍を切除する外科的な処置が必要になることがあります。
    •  ガストリノーマは、H2受容体拮抗薬で症状が緩和できます。
    •  基礎疾患をしっかり管理して、潰瘍の穿孔を防げば、予後良好です。


腫瘍

胃の腫瘍というと、犬では、腺癌、リンパ腫、平滑筋腫、平滑筋肉腫、猫ではリンパ腫が考えられます。

胃の腫瘍を有する犬や猫は、進行するまで無症状です。初期に嘔吐はありません。食欲不振を示します。腫瘍が進行したり、胃の流出路を閉塞すると嘔吐が起こり始めます。腺癌は浸潤性で、胃の運動性を低下させたり、流出路を障害したりして、胃の内容物の流出を妨げます。平滑筋腫で、吐血や消化管出血が頻発するようです。出血がみられなくても鉄欠乏性貧血を起こすことがあります。

診断には生検が必要です。潰瘍や糜爛の治療に反応が悪い場合には、腫瘍を疑いましょう。
腺癌やリンパ腫は、早期発見されないと予後不良です。早めの診断を行いところです。腺癌は、浸潤性が強く、進行していると外科的に完全に切除するのは不可能に近い癌です。平滑筋腫や平滑筋肉腫は早期発見による手術で完治することが多々あります。リンパ腫なら、抗癌剤に反応することもあるのですが、その他の腫瘍では、化学療法は効果を期待できません。
良性のポリープは、閉塞を起こさない限り、手術は不要です。