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消化器系の疾患/腸の疾患/消化管内寄生虫

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消化管内寄生虫

回虫

犬回虫、犬小回虫、猫回虫は、よくみられる寄生虫です。虫卵の直接摂取や中間宿主の摂取で感染します。犬回虫は、胎盤を介して母子感染があります。新生子に見られる回虫卵は、だいたい母子感染です。猫回虫は経乳感染があります。犬小回虫は、中間宿主(げっ歯類)が必要な回虫です。

回虫

回虫の成虫は、小腸内腔に寄生します。消化管壁への炎症細胞の浸潤が引き起こされて、下痢などの症状がみられます。小回虫は体内移行しませんが、回虫は、組織へ迷入することがあり、肝線維症や肺病変を引き起こすことがあります。

特に、若齢の犬・猫に対して、下痢、成長不良、被毛不良がみられます。虫卵が糞便中に多数排出されるので、診断は容易です。胎盤感染している新生子は、既に寄生虫感染が成立しているので、虫卵がなくても症状を呈することがありますので、注意しましょう。

治療には、駆虫薬を飲ませます。ピランテル(ドロンタールプラス)が効果的です。予防的に飲ませておくのもいいでしょう。寄生が確認できていれば、1度、服用させた後、20日後にもう1度、服用させましょう。駆虫薬投与後に、腸の管腔内に移動してきた回虫を駆除するのが目的です。
しっかり駆除できれば、予後良好です。

鞭虫

糞便に排出される虫卵の摂取で感染します。虫卵は環境中で長期間生存可能なので、糞便の処理と洗浄はしっかりと行いましょう。成虫になると、結腸や盲腸の粘膜に穿孔して、炎症、出血、消化管からの蛋白喪失を引き起こします。よって、血便や蛋白喪失性腸症がみられます。重症になると、低ナトリウム血症や低カリウム血症を起こすことがあります。低ナトリウム血症は、発作などの中枢神経症状の原因にもなります。
猫は、さほど重篤な症状を示しません。

鞭虫

なかなか診断が難しいので、大腸疾患では、まず経験的にドロンタールプラスで駆虫しておくといいと思います。これも最初の治療時に消化管の内腔にいなかった成虫を駆除するため、一度服用後、3ヶ月以内にもう一度服用させましょう。

鉤虫

多くは糞便中に排出される虫卵の経口摂取と初乳の摂取による感染で寄生しますが、孵化したばかりの幼虫が、終宿主(犬や猫ですけどw)の皮膚を穿孔して寄生することもあります。成虫は、小腸内腔に寄生します。粘膜に付着して、腸管粘膜栓や血液を栄養にしています。

鉤虫

若齢の犬では、命に関わる度合いの血液喪失、鉄欠乏性貧血、黒色便、鮮血便、下痢、成長不良がみられます。成犬や猫は、それほど重篤な症状にはなりません。

これも、ドロンタールプラスで駆除できますので、しっかり予防と駆虫をしておきましょう。貧血がひどくなると、予後が悪くなります。

条虫

最もよく見られるのは、犬条虫ですが、マンソン裂頭条虫もちょっと都会を外れるとまだまだ(笑)。犬や猫には影響ないですが、小型条虫(終宿主:げっ歯類・人、中間宿主:ノミ・甲虫)というのもいます。

犬回虫は、別名で瓜実条虫と呼ばれます。平べったくウニョウニョした虫体ですが、本体をみることはほとんどありません。肛門周囲で分節が、ゴマ粒様に付着して、それがごそごそ動いて掻痒感を示します。症状としては、その程度です。飼い主が、肛門を痒がる犬や猫の糞便や会陰部に片節を見つけて気付くことが多い疾患です。

犬回虫の終宿主は犬や猫、中間宿主はノミです。治療には、ドロンタールプラスの服用とともに、ノミの寄生を予防しましょう。犬では、フロントラインやマイフリーガード、猫にはレボリューションがいいですね。

マンソン裂頭条虫も、所見は同様で、ほとんど無症状です。多数寄生すると、慢性下痢や栄養障害になります。マンソン裂頭条虫の終宿主は犬や猫、中間宿主は2つあって、第1中間宿主がケンミジンコ、第2中間宿主(待機宿主)がカエルやヘビです。なので、郊外で、外飼いの猫ちゃんなら、感染の恐れは普通にあります。人の皮下に、孤虫症を引き起こしますので、注意しましょう。
獣医学的には、第1中間宿主内の幼虫をプロセルコイドと呼んだり、第2中間宿主内ではプレロセルコイドと呼んだり、待機宿主内では、プレロセルコイドのままであったりと、ライフサイクルを学ぶ上で重要なこともありますが、臨床的には感染経路だけをしっかり認識しておきましょう。

治療は、ドロンタールプラスを服用させます。

糞線虫症

糞線虫による疾患で、主に、多頭飼育環境下にある子犬に寄生します。糞線虫は糞便中に運動性の幼虫を産出して、幼虫は皮膚や粘膜を穿孔できます。

糞線虫

寄生すると、粘液や血液を含む下痢を起こして、衰弱します。下痢は比較的ひどい下痢になります。肺を貫通すると呼吸器症状を呈します。
治療には、イベルメクチン(200μg/kg)を使いますが、コリー種では投与できないので、困ります。海外で販売されているパナキュアという薬が効くようです。

糞線虫は、ペットショップや動物保護施設が感染源になりやすいのですが、劣悪な環境でないとあまり発生しません。犬舎を清潔に保つことが重要です。幼虫は皮膚や粘膜を穿孔するので、人の衛生上も危険です。免疫抑制状態になると人でも重篤な病態に陥る危険があります。例えば、東南アジアで、裸足で泥水の中を歩いた、という経験があり、他の疾患でステロイドを服用した、というケースでは、発症の可能性があるわけです。注意しましょう。

コクシジウム症

獣医学的には重要な寄生虫で、単に「コクシジウム」というと、獣医学分野では鶏のコクシジウムを指します。一般的にコクシジウムと言えば、草食動物がアイメリアの感染、肉食(犬ね猫)だとイソスポーラの感染です。

コクシジウムのオーシスト

コクシジウム(イソスポーラ)は、若齢の犬や猫にみられます。感染性のオーシストを経口摂取する直接感染が主な経路です。イソスポーラの生活環ははっきりとわかってなくて、固有宿主や非固有宿主(げっ歯類など)を通じて間接感染も起こりえます。

コクシジウムのオーシストを顕微鏡で見ると、回虫卵と似た形状ですが、大きさが全然違います。コクシジウムのオーシストは小さいです。消化管、消化腺の上皮細胞内(絨毛)に寄生するのが原則です。組織を破壊して、軽度から重度の、ときおり血液が混じった下痢を引き起こすことがあります。無症状のこともあります。

治療には、サルファ剤を、30mg/kgで10日間、服用させます。根絶はしませんが、数を減らして、免疫機能が向上したらコントロールできるようになります。ダイメトンシロップを50mg/kg/日で、5日間程度でも効果があるようです。

コクシジウム症は、ウサギで重要です。重度の下痢を起こして、死亡することもあります。エンロフロキサシンなどの抗生剤で対症療法を行います。

クリプトスポリジウム症

胞子形成をしたオーシストの摂取で感染します。オーシストは感染した動物の糞便中に排泄されます。卵殻の薄いオーシストで、消化管内で破れて、自家感染します。小腸上皮の刷子縁に寄生して、下痢を引き起こします。

犬の下痢は、6ヶ月齢以下の子犬に多く、猫では無症状であることが多いのが特徴です。人や牛にも感染する人畜共通伝染病ですが、人や牛は自然に感染を排除できることがわかっています。犬や猫ではよくわかりません。

治療法がなく、クリプトスポリジウムによる下痢を呈した子犬は、死亡するか、安楽死処分となります。

ジアルジア症

ジアルジア原虫によって起こる下痢疾患です。
写真ですと、ジアルジアスケッチするとジアルジア絵になります(笑)
これは、トロホゾイトという運動能力のある栄養体で、糞便中に含まれ、検便で顕微鏡下で、クルクルと木の葉が舞うように回っている様子が観察されます。虫体を検出することは難しく、通常、糞便中のトロホゾイトを見つけて感染の有無が確認できます。

ジアルジア症は、感染動物から排泄されるジアルジア原虫のシストを摂取することにより、感染が成立します。通常は小腸に寄生して、消化を障害します。どうやって障害するか、はわかりません。
症状は、下痢(軽度~重度まで)です。持続的であったり、間欠的であったり、自然消失することもあります。

トロホゾイトを見つけたら、メトロニダゾールを1週間程度服用させて治療します。根治は難しく、症状が治まれば良し、としましょう。予後は良好です。

ジアルジアは、薬剤耐性を獲得してしまうということ、免疫不全や併発する疾病の影響、ジアルジアのシストが環境の影響に抵抗性を示すこと、再感染には少数のシストで感染可能であること、が根治できない理由として挙げられます。犬を洗ってやる、飼育環境を清潔に保ってやるのは、有効です。

トリコモナス症

猫におこります。トリコモナスという原虫の感染で起こります。糞便からの経口感染と思われます。

大腸性の下痢、血液や粘膜を含んでいることもあります。ソマリやベンガルで症状の発現が多いようですが、多くの猫は健康体です。肛門付近を気にしたり、不適切な場所で排便をしたりします。

これと言った治療法がなく、効くといわれる薬もあるのですが、少なくとも日本では手に入りません。しかしながら、トリコモナスは、90%が2年以内に改善して、キャリアになります。飼い主さんには、「2年間、我慢してもらって、自然治癒を期待するしかありません」と正直に言う方がいいでしょうね。

他の下痢の原因がないか、を調べることは重要で、クロストリジウム感染や食事性の下痢を治療すると改善することもあります。それでもダメなら、少なくとも2年程度我慢してもらうしかないでしょうか...