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消化器系の疾患/腸の疾患/細菌性腸疾患

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細菌性腸疾患

カンピロバクター症

カンピロバクターは、スピロヘータの仲間です。健康な犬や猫からも検出される常在菌です。人にも感染します。糞便検査にて顕微鏡で見ると、らせん状の菌が、縦方向に進みながら、クルクル回っている様子が観察されます。

カンピロバクター

症状を発するのは、6ヶ月齢以下の若齢動物や、ケンネルや保護シェルターで多頭飼いされている若齢の犬や猫に多いですが、自然に治癒することも多い疾患です。主症状は、粘液性の下痢です。出血が見られることもあります。ペットショップで購入後、自宅に連れて帰って1週間以内に起こる下痢では、カンピロバクターがよく見られます。

治療は、抗菌剤の投与です。βラクタム系は、あまり効きません。エリスロマイシンやネオマイシンが効果的なようですが、メトロニダゾール(フラジールやアスゾール、30mg/kg、BID)がいいのではないでしょうか。
下痢症状は5日ほどで消失して治りますが、完全には腸管内から排除できないので、慢性的な下痢に移行することもあり、数週間の治療が必要な場合があります。

サルモネラ症

サルモネラ菌は、病原性を持つ多数の血清型が存在します。人にも感染します。非常に若齢な犬や猫、高齢の動物で、急性もしくは慢性の下痢、敗血症、時には突然死を起こすこともあります。パルボウイルス感染症と類似した症状を示すので、パルボウイルスの抗原検査が鑑別診断に有用です。サルモネラ症が、パルボウイルス性腸炎と併発することもあるので、予後にも注意しましょう。

下痢が唯一の症状なら、輸液による支持療法で改善します。敗血症を起こしているなら、対症療法を行って、抗菌剤の投与を行います。キノロン系、サルファ剤、クロラムフェニコールが第一選択薬としてよく使われます。

公衆衛生上の問題(人畜共通伝染病であること)があるので、サルモネラの感染が疑われたら、犬や猫は、子供や高齢者から隔離しましょう。改善後もしばらく糞便内に菌の排出があるので、要注意です。

クロストリジウム感染症

クロストリジウムも、健康な犬から検出されます。犬に見られる疾患です。症状の発現は、細菌が細菌毒の産生能を持って、芽胞を形成できる環境下におかれた場合にあり、下痢を起こします。

Diff-Quikの染色をして、顕微鏡1000倍下(小さいんです)で芽胞が観察されることもありますが、確定診断には至りません。可能性は示唆されますが・・・
クロストリジウムの下痢は、急性で、かつ出血性です。軽症から重症例まであり、自然に回復する症例や、急性で命に関わる出血性の下痢になることもあります。慢性の小腸性、大腸性の下痢の原因となることもあります。

治療には、抗菌薬ですが、タイロシン(20~80mg/kgを1日2回で分割投与)やアモキシシリン(25mg/kg、BID)が短時間で反応してくれます。個体によっては、1日1回の投与で反応する場合や、隔日投与で維持できる場合もありますし、症例によっては、1~3週間程度の期間、治療が必要なこともあります。

クロストリジウムによる慢性大腸性下痢では、高繊維食によく反応する動物もいます。総じて、予後は良好です。

その他の腸疾患誘発細菌

エルシニア、アエロモナス、プレジオモナスが犬・猫で、急性腸炎・慢性腸炎を起こします。小腸性の下痢が多いようです。人にも感染する細菌です。犬や猫に対しては、それほど問題になる菌ではないですが、原因として全くないわけではありません。

  •  エルシニア(Yersinia enterocolitica)
    •  寒い気候を好む細菌です。ブタが保菌動物になっている可能性があり、低音でも繁殖するので、食中毒菌でもあります。
    •  小腸性の下痢以外にも、結腸に感染して、慢性的な大腸性の下痢を引き起こします。
    •  治療は、抗生剤による支持療法です。罹患動物は隔離しましょう。なかなか菌を特定することもないので、どの菌による下痢なら隔離すべきなのか、は判断しづらいのですが、一般的に、細菌性の下痢と思われる疾患があるなら、隔離が無難です。

プロトテカ症

プロトテカは、土壌や水溜りに存在する藻類です。環境中から口や鼻から入り込んで、腸に達して、鮮血便、消化管からの蛋白喪失、間欠的な発熱、体重減少が認められることがあります。コリー種に感染しやすい疾患です。

プロトテカ

播種性プロトテカ症として、犬に主にみられますが、眼や脳に感染することもあり、失明や網膜剥離を併発する下痢の症状があると、プロトテカ症かも知れません。抗生剤や抗真菌薬の効果もなく、治療は困難です。ただ、症例数は少ないので、それほど怖がる必要はありません。免疫不全の状態にあると、罹患し易いようです。

ヒストプラズマ症

日本では、発生してないようですが、獣医学的には知っておかなくてはなりません。真菌感染症です。しかしながら、ヒストプラズマを疑わせる症例が日本でも報告されていますので、今後は注意しておきましょう。

症状は下痢、体重減少です。猫では、呼吸器症状が主症状です。
ケトコナゾール、イトラコナゾール(10mg/kg、BID)で回復します。