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消化器系の疾患/腹腔・腹膜の疾患

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腹腔・腹膜の疾患

炎症性疾患

 化膿性腹膜炎

化膿性腹膜炎は、消化管の穿孔や組織障害で起こります。消化管の穿孔や組織障害の原因には、腫瘍、潰瘍、腸重積、異物、術創の裂開が考えられます。術後の縫合部からの感染で二次的に生じる腹膜炎は、術後3~6日でみられます。
症状としては、抑うつ、発熱、嘔吐がみられ、腹部の疼痛を示すこともあります。

化膿性腹膜炎の多くは少量~中程度の腹水が貯留します。腹部X線検査や腹部エコー検査でないと、検出できない程度の量です。頑張って腹腔穿刺で採取し、細胞診と培養を行いましょう。腹水中に、白血球に鈍食された細菌や糞便内容物が存在すれば、化膿性腹膜炎と思われます。が、無菌性膵炎でも、好中球に変性性の変化がみられることがあり、その鑑別は試験開腹なしでは不可能です。両睨みでの治療にあたりましょう。
腹水の培養も必要ですが、治療を開始するにあたっては、結果を待っている暇はありません。敗血症性ショックに進行する場合もありますので、注意しましょう。

腹腔内にガス所見を認めることがあります。消化管からの気体の漏出やガス産生菌の感染が強く示唆されます。

  •  治療
    •  多くは消化管のからの漏れがあるために起こる疾患ですので、状態を安定させて、すぐに試験開腹手術を行いましょう。
    •  穿孔部分が見つかれば、周囲の組織を生検し、腫瘍や炎症性腸疾患が基礎疾患として存在するかどうか、を調べましょう。術後は、大量の温めた生理食塩水などで腹腔内を繰り返し洗浄し、壊死した組織や細菌を除去しておきます。癒着があっても、取り除く必要はありません。
    •  腹腔内の汚染がひどい場合には、ドレナージ(開放ドレナージがいい)が必要です。腹腔からの滲出液が減少するか、腹膜の汚染が全くなくなるまで続ける必要があります。開放ドレナージでは、低アルブミン血症が起こることが多いので要注意です。
    •  抗菌薬には、βラクタム系とアミノグリコシド系の併用が効果的です。βラクタム系は1日3回の投与、アミノグリコシド系は1日1回の投薬を行います。アミノグリコシド系薬剤を使用するので、腎毒性を防ぐために、水と電解質の補給はしっかりと行いましょう。
  •  予後
    •  漏出の原因が悪性腫瘍による穿孔、敗血症ショックや播種性血管内凝固がある場合、予後は悪くなります。

 硬化性被嚢性腹膜炎

腹部の臓器が、重層した結合組織に覆われて包まれた状態が慢性化した疾患です。嘔吐、腹部疼痛、腹水が臨床症状です。

病変は中皮腫に似ています。稀な疾患ですが、原因としては、細菌感染、脂肪織炎が知られています。基礎疾患(猫の脂肪織炎)がみつかれば除去することが望ましいのですが、どんな治療に対しても反応することは少なく、残念ながら、ほとんどの動物は死亡します。


血腹

血腹は、ヘマトクリット値が10~15%以上の貯留液が腹腔内にある状態を言います。よくみられる赤色腹水は血液の混入で色がついた漏出液です。血腹の原因は、腹腔穿刺の際に起こる出血、交通事故などでの外傷、ビタミンK拮抗薬による出血、腹腔内の疾患(血管肉腫や肝癌)による出血が考えられます。血餅や血小板が含まれた貯留液の場合、穿刺や外傷によるものと思っていいでしょう。

 腹腔内血管肉腫

腹腔内の血管肉腫は、脾臓に由来するものが一般的です。血管肉腫は、播種性に腹腔内を広がって、腹膜からの血液の滲出を引き起こします。肝臓や肺に転移することも。

腹部エコー検査が腫瘤を見つけやすい検査です。脾臓の血腫、血管腫や脾臓の広範囲の組織変化と似た所見ですが、予後が全く異なりますので、できれば開腹、摘出手術を行い、標本を病理学的検査で見てもらいましょう。

ゴールデンレトリバーの高齢犬に多い疾患です。
貧血、腹水貯留、末梢循環血液量の減少による虚脱がみられます。孤立性の腫瘤は切除すると症状は軽減されますが、血管肉腫は転移が早く、予後不良です。QOLを向上させるような処置が最善と思います。


その他

  •  腹部癌腫症
    •  さまざまな部位に生じた癌が、腹膜に伝播して、広範囲の粟粒状の癌が認められる状態です。腸管や膵臓の癌は、癌腫症を起こすことが多い癌です。
    •  腹水が著しく貯留し、体重減少もみられます。
    •  治療法はなく、予後不良です。
  •  中皮腫
    •  胸水と腹水の貯留がみられます。予後不良です。
  •  猫伝染性腹膜炎
    •  腹水が貯留することがあります。有核細胞が少なく、マクロファージと非変性好中球を含む腹水です。この疾患の詳細は、感染症のページに記載しておきます。