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消化器系の疾患/膵外分泌疾患

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膵外分泌疾患

膵外分泌疾患は、比較的頻度の高い疾患ですが、臨床症状が特異的ではないことや、血液検査での膵酵素活性値の測定の信頼度が低いこともあり、見過ごされれることがあります。膵炎が最も一般的で、膵外分泌不全症もしばしば認められます。稀に、膵臓腫瘍や膵膿瘍、膵嚢胞もみられます。

膵炎

膵炎には、急性と慢性、があります。肝炎の場合とは異なり、臨床的な区別ではなく、組織学的な所見に基づく分類です。慢性膵炎では、初診時に、慢性膵炎の急性期の症例であることが多いのですが、処置としては、急性膵炎と同様の処置をするので、鑑別は不要です。慢性膵炎になると、長期的に続発症が起こりうることを認識しておけばいいでしょう。

 急性膵炎慢性膵炎
病理組織





腺房細胞の壊死、浮腫
好中球の浸潤を伴う炎症
膵臓周囲の脂肪壊死;
膵臓の構造や機能の
   不可逆的な変化を伴わない
完全に回復する可能性がある
リンパ球性の炎症
不可逆的な構造の崩壊を伴う線維症
急性期に好中球性の炎症と
   壊死を伴うことがある


臨床徴候


無症状~重篤で致死的なものまで


軽度で間欠的な消化器症状(一般的)
急性膵炎と区別がつかない
   急性期症状もある
診断

酵素検査や超音波検査の感度が高い

酵素検査や超音波検査の感度が低い
診断が困難
死亡率
予後

短期死亡率が高い
続発症はない

急性期を除けば、致死率は低い
外分泌不全と内分泌不全が
   徐々に起こる危険性が高い


 急性膵炎

膵炎の根本的な原因はよくわかりませんが、トリプシンが膵炎を起こす主要物質の一つである事はわかっています。トリプシンの自己活性の増加、自己不活化の減少に起因した、膵臓内でのトリプシノーゲンのトリプシンへの異常な早期活性化で膵炎が生じます。

犬と猫で急性膵炎の原因と考えられるもの
特発性:  急性膵炎のほぼ90%が特発性
膵管閉塞、膵酵素分泌過多、膵管への胆汁逆流
高脂血症
品種? 性別? :  テリア種に多い? 雌に多い?
食事性(高脂肪食)
外傷
虚血
抗カルシウム血症
薬剤・毒性
感染

トリプシンは、膵臓から分泌されるプロテアーゼ(蛋白質分解酵素)で、腺房細胞内での異常な早期活性化は、自己細胞を消化して、重度の炎症を引き起こします。通常は、早期活性化を防ぐ防御機構が備わっています。普段、トリプシンは、膵臓の腺房細胞の中で、不活化前駆物質であるトリプシノーゲンとしてチモーゲン顆粒のなかに蓄えられています。正常な犬や猫では、少量のトリプシノーゲンが、チモーゲン顆粒のなかで徐々に自己活性化してトリプシンになるのですが、他のトリプシン分子や膵外分泌性トリプシン阻害物質(セリンプロテアーゼ阻害因子Kazal 1型)という保護物質によって不活性化され、調整されています。膵炎は、トリプシノーゲンや膵外分泌性トリプシン阻害物質の遺伝子突然変異で発症すると考えられています。

この防御機構を上回るトリプシンが膵臓内で自己活性されてしまうと、活性化されたトリプシンが膵臓内でより多くのトリプシンやその他の消化酵素を活性化してしまいます。その連鎖反応が、膵臓の自己消化、炎症、無菌性腹膜炎に発展する膵臓周囲の脂肪壊死を引き起こしていきます。炎症が起こると、好中球の活性化と炎症性サイトカインの放出が全身性に起こり、全身性炎症反応が起こります。重篤な症例では、多臓器不全や播種性血管内凝固(DIC)になることもあります。

循環血液中のプロテアーゼ阻害因子(α1アンチトリプシン)やα2マクログロブリンは、トリプシンや他のプロテアーゼを循環血液中から除去する働きを果たしているのですが、過剰量のプロテアーゼによって、これらの阻害因子が枯渇して、さらに全身性に炎症が起こることになります。

  •  症状
    •  軽症例では、軽度の腹部疼痛や食欲不振を呈する程度です。
    •  重症例では、急性腹症がみられます。多臓器不全やDICも認められて、急性の嘔吐、食欲不振、激しい腹部の疼痛を示して、脱水、虚脱、ショックを呈することもあります。嘔吐は、腹膜炎による胃排出遅延の徴候で、食後に、結構時間が経ってから未消化のフードを吐きます。病状が進行すると胆汁のみを嘔吐します。
    •  強い腹部の疼痛によって、背中を丸めて痛みを感じている様子が伺えます。但し、急性膵炎に限った現象ではありません。
    •  致死的な壊死性膵炎を持つ猫では、食欲不振や嗜眠程度の軽微な症状しか示さないことが通常です。
    •  急性の徴候が幸い治まった後、黄疸を呈することがあります。黄疸を呈する場合、多くは慢性膵炎による急性期と考える方がいいようです。

激しい嘔吐を繰り返す症例では、腸内異物や腸閉塞との鑑別をしっかりとしましょう。不用意に開腹手術をしてしまわないように。
膵炎が軽症な場合、飼い主からの主訴では、食欲不振、軽度の嘔吐、鮮血を伴う大腸性と思しき下痢、です。膵炎が生じていると、この出血性の下痢は横行結腸付近の腹膜炎によるものです。ここでは、炎症性腸疾患、感染性腸炎、慢性肝炎との鑑別を行います。

膵炎は、遺伝的な背景もあるように思える場合もありますし、何らかのトリガーとなるもの(高脂肪食や薬剤性)で発症することもあり、原因は明確にはなりません。多因性の疾患です。他の疾患に併発することも多いので、より診断が困難になることもあります。

診断
脱水、ショックの程度確認と、併発疾患(内分泌疾患など)の評価、腹部触診を入念に行います。重症例には、点状出血・斑状出血、呼吸困難がみられます。しかしながら、これら日常の検査(血液検査、尿検査を含めて)では、膵炎を確定させる診断というのはできません。実施することは、予後に関する重要な情報を得られ、効果的な治療に役立ちますので、意義のあることです。

注意しておくことは、全ての非侵襲的な検査は、膵炎の診断に特異的な結果を与えるものではないので、全ての結果を総合的に判断して診断を下すことが、獣医師には求められます。重篤な膵炎でも、全ての検査が陰性になることもあります。

  •  より特異的な膵酵素検査
    膵臓に関するより特異的な検査では、アミラーゼとリパーゼの測定と、トリプシン様免疫活性(TLI)と膵特異的リパーゼ免疫活性(PLI)があります。アミラーゼとリパーゼは、膵炎を疑った症例で、とりあえず測定してみますが、参考程度に留まります。強く疑ったら、TLIとPLIを測定する方が、より信頼性の高い結果が得られます。急性膵炎は、緊急性の高い疾患であることも多く、検査機関に依頼すると、時間が掛かるということが難点ですが...
  •  画像検査
    急性膵炎では、腹部エコー検査が感度の高い画像検査です。急性腸閉塞との鑑別には、腹部X線検査が必要ですが、腹部エコー検査を行う前には、必ず腹部X線検査をしておくべきです。エコー専門医の大先生からの教えです。
    注意点としては、急性膵炎がエコーで明確に抽出されるまでに、発症からの時間経過が必要と言うことです。24時間後を目安に検査する方がいいようです。
  •  腹水検査・尿検査
    膵炎では腹水が認められることがあるので、あれば検査しておくといいかと思います。通常は、漿液血液状の無菌的な滲出液です。アミラーゼやリパーゼの活性が血清中よりも腹水中の方が高いという特徴があります。
    尿検査では、BUNやクレアチニンの高値と尿比重の低下が指標になる可能性があります。
  •  病理組織学的検査
    結局のところ、急性膵炎の確定診断は、生検による病理組織学的検査所見のみです。でも、生検は侵襲的ですから、適用されません。可能なのは、試験開腹が行われる場合だけでしょう。仮に、肉眼的に膵臓を観察できるなら、腫瘤様の病変を、脂肪壊死と線維化によるものであることを認識しておきましょう。必ず、細胞診か病理組織学的検査を行いましょう。

治療と予後
来院時の重症度で、治療方針と予後が決まってきます。
重度の急性膵炎は、非常に高い死亡率であり、集中治療が必要です。中程度の膵炎は、静脈内輸液と鎮痛薬で治療、軽症なら外来で片付くこともあります。でも、重症度を判断するのは、なかなか難しいです。なので、基本的に重症であると考えて(特に、猫)、肝リピドーシスや他の致命的な合併症の予防や治療を含めた集中治療を行うことが賢明です。

壊死性膵炎の予後は、極めて不良です。全身性の炎症疾患に伴って、体液異常、電解質異常、腎機能障害、さらにはDICの発生リスクが高くなります。血漿輸液も必要な場合があって、経腸チューブや完全静脈栄養での食事管理が必要になります。飼い主には、致死的であることを伝えておくべきかも知れません。

嘔吐や脱水が認められる膵炎では、輸液点滴を12~24時間程度必要となるので、入院管理が必要です。意識がはっきりしていて、水分補給も可能で、軽症と判断できれば、自宅で1~2日間、絶食(水分だけ摂取させる)を行い、鎮痛薬を投与して、その後は食事療法を行えばいいでしょう。

治療は、往々にして対症療法になりますが、静脈内輸液、電解質補正、鎮痛薬、栄養補給は全ての症例に対して検討しましょう。必要に応じて、制吐剤、抗菌薬投与など、支持療法を行いましょう。

  •  静脈輸液と電解質補給
    非常に軽度な膵炎以外は、必ず静脈を確保して点滴を入れましょう。目的は、脱水の改善、嘔吐、運動機能が低下した消化管内の液体貯留による電解質異常の補正、膵臓の血液循環を維持することです。膵臓の循環血液量が低下すると壊死を起こしますので、予防が肝心です。
    軽度~中程度の症例なら、維持量の倍量程度(100~120mL/kg/日)、重症例は、ショック用量(90mL/kg/時、30分~1時間)から始めます。尿量も測定しておくべきでしょう。血管透過性が亢進しているなら、末梢浮腫の危険性を考慮しつつ行います。
    電解質異常では、低カリウム血症に注意します。嘔吐と食欲不振が原因です。低カリウム血症は、骨格筋の虚弱だけでなく、消化管のアトニーで、さらなる食欲不振で回復を遅らせ、予後を悪化させます。嘔吐がある間は、毎日、カリウム濃度を測定して、輸液中に塩化カリウムを添加(最低でも、20mEq/L)しましょう。輸液療法の記載に従って補正しましょう。
    重篤な膵炎では、α1アンチトリプシンやα2マクログロブリンを補給するための血漿輸液を行うこともあるようです。凝固因子の補充も兼ねています。
  •  鎮痛薬
    膵炎は、痛みを伴うので、鎮痛薬の投与が必要です。しかしながら、最近は、モルヒネやケタミンが麻薬指定を受けてますので、管理が大変で使いづらくなっています。入院中は、リドカインの点滴が最もいいと思います。犬は、1mg/kgを急速静注した後、20μg/kg/分で持続点滴を、猫は、0.1mg/kg/時で点滴で投与します。猫には、リドカインは毒性があるので、注意して使用しましょう。
    非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)は、消化管(胃や十二指腸)潰瘍の危険性や、低血圧やショック状態では腎不全を増悪させるので、可能な限り使用を避けたいところです。最近は、シクロオキシゲナーゼ2(COX-2)選択的阻害薬として、メタカム(メロキシカム)やオンシオール(猫用、ロベナコキシブ)が経口剤でもありますから、それなら自宅でも投薬可能でしょう。アセトアミノフェンは、消化管や腎臓への影響がないので、犬では10mg/kgで、経口的に服用しても構わないですが、猫には禁忌です。
  •  栄養補給
    膵炎は、栄養管理が非常に重要です。以前は、急性膵炎には絶食が推奨されてましたが、今は全く逆で、早い時期から経腸栄養を促した方が、回復が早いことが当たり前になっています。特に、猫は肝リピドーシスの併発があるので、絶食は禁忌です。胃瘻チューブや腸瘻チューブを、可能な限り早く設置してやるようにしましょう。
    治療としては、初期は低脂肪の療法食を与えます。
  •  制吐剤
    膵炎は、嘔吐を伴う疾患ですので、制吐剤が必要です。栄養補給を行う上でも必要です。メトクロプラミドを用いてもいいのですが、胃腸の運動を亢進させる働きがあるので、腹部の疼痛が増加したり、膵酵素の放出が増加したりする可能性があります。投与するのであれば、0.5~1mg/kgを経口的に1日2回投与するか、点滴に加えるなら、1~2mg/kgを24時間かけて微量投与します。
    他では、マロピタント(NK1受容体拮抗薬、セレニア)でもいいかも知れません。注射なら1mg/kg、錠剤なら2mg/kgを、1日1回の投与で、最大5日間までに使用期間が制限されています。
    オンダンセトロンは、5-HT3受容体拮抗薬が膵炎のトリガーになるかも知れないという報告があるので、使わない方がいいでしょう。
  •  胃腸粘膜保護剤
    急性膵炎では、局所性腹膜炎による、胃や十二指腸潰瘍の危険がありますので、スクラルファート(アルサルミン)や胃酸分泌抑制薬(H2受容体拮抗薬やプロトンポンプ阻害薬)を使って治療します。H2受容体拮抗薬のうち、シメチジンは、チトクロームP450に影響を及ぼすので、肝疾患の併発やその恐れがある症例には使用しないようにしましょう。ファモチジンで代用できます。
  •  抗菌薬
    膵炎の感染症の併発は、症例は少ないですけど、感染が起こってしまうと重症化します。予防的に服用させることもあります。広域スペクトルを持つ抗菌薬の使用が推奨されます。小腸内細菌過剰増殖の併発も考慮に入れると、メトロニダゾールの使用がいいでしょうか。

慢性膵炎の急性期に続いて発症することのある黄疸は、肝外胆道閉塞によって起こりますが、これは対処療法で治ります。1週間から10日程度で黄疸が解消してきます。抗酸化剤やウルソを服用しておけばいいでしょう。

 慢性膵炎

慢性膵炎の定義は、『内分泌機能や外分泌機能に、進行性または不可逆性に障害を引き起こす膵実質の破壊を特徴とした持続性の炎症性疾患』です。確定診断には、病理組織学的検査が必要ですが、普通は生検を実施しません。非侵襲的な検査での診断は難しく、血液検査で信頼できる指標がありません。これまで、犬での発生頻度は低く考えられてましたが、膵外分泌不全症の多くは、慢性膵炎が原因であることや、糖尿病の一部も慢性膵炎に起因することがあるようです。獣医さんが考えるより、慢性膵炎の症例は多いかもしれません。

特発性慢性膵炎
慢性膵炎も原因はよくわかりません。犬種特異性もあるかも知れませんが、多くは特発的なものでしょう。急性膵炎と思われる症例でも、半数程度は慢性膵炎の急性期であることがわかっています。

自己免疫性慢性膵炎
イングリッシュ・コッカー・スパニエルでみられる慢性膵炎は、自己免疫疾患と考えられています。自己免疫性疾患である乾性角結膜炎を併発します。罹患犬の50%は糖尿病や膵外分泌不全症を発症します。エコー検査で腫瘤状病変がみられて、生検では線維性病変とリンパ球性病変が認められます。免疫染色すると、膵管と静脈周囲にCD3+リンパ球(T細胞)が浸潤しています。
免疫反応なので、ステロイド治療に反応するはずです。

  •  症状
    •  間欠的に軽度の消化器症状を示します。食欲不振、間欠的な嘔吐、軽度の血便、食後に示す腹部の疼痛が、数ヶ月~数年にわたって認められます。
    •  慢性膵炎が急性期に進行すると、重篤な症状を示します。重度の嘔吐、脱水、ショック、多臓器不全を起こしますので、急性膵炎と変わらない状態です。
    •  慢性膵炎は、穏やかに病態が進行し、膵臓細胞の広範囲な崩壊が長期間で起こります。軽症、ときには無症状で過ごしていて、急に症状を発症しますが、発症したときには、急性膵炎とは異なり、外分泌や内分泌機能不全に陥る危険性が非常に高いことを認識しておくことが大切です。
    •  病状が進行して、糖尿病の症状を示してから、病院に来られる飼い主さんも多く、糖尿病性ケトアシドーシスによる救急状態にあることも考えられます。膵外分泌不全症や糖尿病を発症するには、膵臓の内分泌・外分泌組織が90%以上喪失されていると考えてよく、末期症状であることを示しています。
    •  猫の症状は、これまた軽微です。急性膵炎と似ていますね。しかしながら、炎症性腸疾患、胆管肝炎、肝リピドーシス、腎臓病を併発していることが多くて、それらの症状が現れることがあり、診断を悩ませます。
    •  肝外胆管閉塞による、黄疸にも注意しましょう。

慢性膵炎の犬や猫は、異常所見が不明瞭で、あらゆる検査の診断感度が低く、病歴、腹部エコー検査、血液検査などの結果を総合的に判断していくしかありません。TLIやPLIがそれなりの指標になることもありますが、急性膵炎に比べて、感度は劣ります。

慢性膵炎で注意することは、ビタミンB12(コバラミン)濃度の測定をしておきましょう。膵外分泌不全症まで進行すると、回腸疾患を併発して、ビタミンB12の吸収が悪くなります(特に、猫)。必要に応じて、ビタミンB12を、0.02mg/kgの用量で、2週間毎に、皮下投与しましょう。

  •  治療
    •  慢性膵炎の急性期は、対症療法です。急性膵炎と同様の集中治療が必要です。死亡するリスクも考えておいてください。急性膵炎との違いは、回復しても、内分泌・外分泌機能不全が残る可能性がある、ということです。
    •  軽症例も、対症療法を行いますが、QOLは劇的に改善します。低脂肪食への変更で、腹部の疼痛や急性期の再発が、明らかに軽減されます。おやつなどは、一切与えないようにしましょう。場合によっては、短期間の絶食で、膵臓を休ませることでも改善しますので、飼い主への指導は重要です。
    •  痛みがあるようなら、鎮痛薬を与えることもあります。
    •  急性期の発症時に、メトロニダゾール(10mg/kg、経口、BID)の投与が有効なことがあります。腸の運動停滞による二次的な細菌の異常増殖が起こっているためと思われます。
    •  ビタミンB12(0.02mg/kg、皮下、2週間毎)の投与も、必要に応じて行いましょう。
    •  肝外胆管閉塞は、ウルソと抗酸化剤での対症療法で、改善します。

慢性膵炎の末期では、外分泌・内分泌機能不全に進行して、膵外分泌不全症や糖尿病に進行します。それらは、消化酵素やインスリンを用いて治療しますが、多くは順調な経過を示して改善します。


膵外分泌不全症

膵酵素の不足でおこる疾患ですが、特に、膵臓が唯一の供給源であるリパーゼの分泌不全による、脂質を多く含む便(脂肪便)を伴う脂肪の消化不良と体重減少が主な症状です。

原因は、膵臓の腺房細胞の萎縮と、慢性膵炎の末期症状であることが知られています。猫では、腺房細胞の萎縮はないので、慢性膵炎による膵外分泌不全症が主な原因です。症状が現れる頃には、広範囲に膵腺房細胞が喪失されており、リパーゼの産生は90%以上減少しています。なので、急性膵炎では起こりません。

腺房細胞の萎縮が若齢性であったり、膵炎と関与してないと思われる場合、先天的な疾患かも知れません。自己免疫疾患と示唆される犬種もいますが、免疫抑制療法に反応しなかったりもします。腺房細胞の萎縮が原因で、膵外分泌不全になる場合には、ランゲルハンス島には影響を与えないので、糖尿病は併発しません。慢性膵炎の末期に膵外分泌不全症が生じる場合は、ランゲルハンス島が破壊されるので糖尿病も併発します。

その他、膵臓の腫瘍、胃酸過多によるリパーゼの不活性化、リパーゼの欠乏も膵外分泌不全症の原因になります。

  •  症状
    •  慢性の下痢と、食欲旺盛にも関わらず、削痩が改善しないことが、主訴です。脂肪の消化不良が著しくなるので、下痢便は脂肪を多く含んだ白っぽい便(脂肪便)になることが多いのが特徴です。
    •  必須脂肪酸の欠乏が原因で、慢性の脂漏性皮膚疾患を伴うことがあります。この症状・主訴で来院する飼い主もいますので、見逃さないようにしましょう。
    •  慢性膵炎に起因するなら、間欠的な食欲不振、嘔吐もあります。膵外分泌不全症には、併発疾患が多いので、注意して診察することが必要です。慢性膵炎の末期の糖尿病や、消化管、皮膚症状、猫なら三臓器炎(胆管炎、炎症性腸疾患)など、類似した症状も多いので、より複雑です。

膵外分泌不全症の犬の多くは、小腸内細菌の過剰増殖を併発しています。細菌は、胆汁塩を抱合して脂肪の乳化作用を低下させるので、脂肪の消化不良が起こります。そんでもって、細菌は、その未消化の脂肪をヒドロキシ脂肪酸に分解して、このヒドロキシ脂肪酸と脱抱合型の胆汁塩が大腸の粘膜を刺激して下痢を引き起こします。なので、膵外分泌不全の犬の下痢は、小腸性下痢と大腸性下痢、両方です。

ビタミンB12が、内因子と結合した形で、担体輸送を利用して遠位回腸で吸収されるのですが、内因子は猫では膵臓のみで産生されますから、猫はビタミンB12欠乏に陥りやすい傾向があります。炎症性腸炎の併発も多いために、回腸でのビタミンB12の吸収が低下するので、消化管絨毛の萎縮、消化管機能の低下、体重減少、下痢が悪化したりします。なので、慢性膵炎を起因とする膵外分泌不全なら、ビタミンB12(0.02mg/kg、im、2~4週毎)の補給は必要でしょう。

膵外分泌不全の犬や猫では、血液検査で異常のないことが多くて、もし異常があるなら、他の併発疾患を考えておきましょう。なら、どうやって膵外分泌不全を診断するか、というと、今は、血中のトリプシン様物質の測定(TLI)を測定するのが感度と特異性の高い方法です。膵外分泌不全なら、TLIは低下します。その他、ビタミンB12(コバラミン)濃度の測定や葉酸濃度の測定も参考になるかも知れません。

  •  薬物治療
    •  食事に酵素(パンクレアチン)を補給します。生涯必要であると考えておいていいでしょう。長期的には、栄養失調の改善をみながら、投与量を減らせることがげきます。急に中止するは止めましょう。
    •  用量は、個体によって調節可能です。酵素活性は、胃液の酸性pHレベルで、リパーゼで85%、トリプシンで65%が喪失されてしまいます。効き目をみながら、酵素の投与量を増やすか、胃内のpHを上昇させるために胃酸分泌阻害薬(H2阻害薬)を併用するといいでしょう。
    •  小腸内細菌の過剰増殖を併発している症例には、抗菌薬の投与が必要です。テトラサイクリン、タイロシン、メトロニダゾールあたりが適当です。予防的に投与しておいて構いません。
    •  ビタミンB12の投与も、上記用量で、必要に応じて。
  •  食事療法
    •  脂肪が消化できないことが膵外分泌不全の問題点です。かと言って、低脂肪食の給餌では、十分に消費カロリーを補うことができないことが多く、体重増加を見込めません。なので、通常の脂肪量を含有した食事で、高消化性のフードを与えてあげることが効果的です。消化器疾患用の療法食で、高消化性のものを選びましょう。
    •  繊維質は、膵酵素活性を阻害したり、酵素を吸着するので、減らしましょう。
    •  慢性膵炎の場合は、低脂肪食の方が有効です。
    •  給餌方法は、1日に2~3回、消化酵素を混ぜてあげる方がより効果的です。食欲は旺盛なので、しっかり食べさせてあげて、盗み食いしないよう、気をつけましょう。

この疾患は、治療可能ですから、予後も良好です。しかしながら、治療に対する反応が悪いことが多く、飼い主と生涯にわたってじっくりと取り組む必要性を確認することが重要です。治療の初期で止めるのではなく、定期な検診で、治療内容を調整していくことが大切です。中には、普通の食事に戻せる症例もありますよ。

膵外分泌腺の腫瘍

膵外分泌腺の腫瘍は、犬や猫では発生頻度が低い腫瘍ですが、膵腺癌は極めて悪性で、予後も非常に悪い腫瘍で、診断された時点では、広範囲に播種していいます。化学療法や放射線治療に対する感受性も低く、安楽死を考えることも必要です。多くの場合、転移するまで症状を示さないことが多いのですが、膵炎を引き起こしたり、膵外分泌不全を発症することもあります。
膵腺腫は、猫で稀に報告される疾患です。

膵外分泌腺の結節性過形成も、高齢の犬や猫でしばしば認めらる多発性の小さな腫瘤です。しかしながら、膵臓の腫瘍は、単一所見です。それでも、過形成と腫瘍の鑑別には組織検査や細胞診が必要です。急性・慢性膵炎では、脂肪壊死、線維化で巨大な腫瘤がみられることがあって、これを腫瘍と見誤らないことも必要です。

慢性膵炎が、膵腺癌やその他の膵臓腫瘍の危険因子となる可能性はあります。逆に、腫瘍によって、典型的な血液学的な異常を伴った膵炎、膵外分泌不全に進展したりします。腫瘍が周辺臓器に影響を及ぼして、黄疸や著しい肝酵素活性の上昇を伴う胆道閉塞を引き起こすこともあるので、肝胆系の疾患との鑑別も重要です。

上記、腫瘍に比べて、犬ではインスリノーマやガストリノーマなど神経内分泌腫瘍の発生率が高いので、内分泌・代謝系の疾患に関する記述を参照してください。

膵膿瘍・膵嚢胞・膵偽嚢胞

滅多にない疾患ではありますが、膵炎の併発症や続発症として起こることがあります。膵嚢胞は、先天性であったり、嚢胞性の腫瘍に続発することがありますが、膵炎に続発する偽嚢胞であることが普通です。上皮で覆われていない嚢内に、膵酵素や液体が貯留したものです。液体の中には、好中球やマクロファージ、反応性線維芽細胞を含んでいます。膿瘍では、多数の変性性好中球、膵腺房細胞を含んでいます。嚢胞より、もっと発生頻度は低いです。

針の穿刺吸引で得られた液体の細胞診では、嚢胞・偽嚢胞では、変性性漏出液です。膿瘍では、化膿性滲出液です。壊死した膵組織や膵偽嚢胞の二次感染に起因するものです。

嚢胞・偽嚢胞では、膵炎に関連した所見以外、明らかな所見は見られません。見つかれば、超音波(エコー)ガイド下で、嚢を吸引してやると治ります。一方で、膵膿瘍は、外科手術をするしかないのですが、予後不良です。