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皮膚の疾患/免疫介在性皮膚疾患

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免疫介在性皮膚疾患

天疱瘡・類天疱瘡

天疱瘡は、体液性の自己免疫性疾患で、重層扁平上皮の細胞間接着が自己抗体によって障害された結果、皮膚や口腔粘膜などに水疱やびらんを認めることが特徴です。

臨床病型の相違に基づいて、落葉状天疱瘡、尋常性天疱瘡に大別されています。落葉状天疱瘡では、病変が皮膚に限局して認められます。原発疹は膿疱で、しばらくすると破れて表面に痂皮を被るびらんになります。猫では爪周囲にびらんを認めることが多いのが特徴です。尋常性天疱瘡は、皮膚や口腔粘膜などに水疱やびらんを認めます。

診断
皮膚の生検で、病理組織検査を行うことと、蛍光抗体検査で自己抗体の沈着を確認して確定診断します。

治療
ストロイド治療です。初期治療はプレドニゾロンを2~6mg/kg/日の用量で、経口投与します。投与開始10~14日目から、漸減・隔日投与とします。副作用で多飲・多尿が問題となるなら、鉱質コルチコイド作用の弱いメチルプレドニゾロンの投与を行います。

重症例で高用量のプレドニゾロン(>4mg/kg)の連続投与が必要な症例では、予後をよくするためにパルス療法が有効なようです。プレドニゾロンの10mg/kg/日を2~3日、経口投与して症状の改善を確認した後、症状が再燃するまで1~2mg/kg/日で投与を継続します。

アザチオプリンは単剤で用いられることもありますが、通常はプレドニゾロンと併用されます。1.5~2.5mg/kgを経口で1日1回、投与します。効果がみられたら漸減・隔日投与にします。副作用には、肝酵素活性の上昇、骨髄抑制、膵炎があります。2~4週毎に血液検査を行ってモニタリングをしておく方がいいと思います。

シクロスポリンは、単剤では治療効果に乏しいのですが、プレドニゾロンと併用すると有効性が高くなります。初期用量は、5~10mg/kg・経口・1日1回投与です。嘔吐・下痢などの消化器症状が、副作用で頻発しますが、投与5週目以降は改善する場合がほとんどです。

軽症例の落葉状天疱瘡では、グルココルチコイド製剤の外用でも症状が軽減します。副作用を避けるために、初期には高力価のステロイドを使用して、症状が改善すれば低力価のステロイド剤に変更するといいでしょう。

処方例
プレドニゾロン
  初期投与量2~6mg/kg・PO・SID
  10~14日間投与の後、漸減・隔日投与に
メチルプレドニゾロン
  初期投与量2~6mg/kg・PO・SID
  10~14日間投与の後、漸減・隔日投与に
アザチオプリン
  初期投与量1.5~2.5mg/kg・PO・SID
  効果がみられたら、漸減・隔日投与に
シクロスポリン
  初期投与量5~10mg/kg・PO・SID
  4週間投与後、症状をみながら漸減・隔日投与
グルココルチコイド外用剤
タクロリムス外用薬


エリテマトーデス

エリテマトーデスは、抗核抗体などの自己抗体が免疫複合体を形成して、これが補体を伴って皮膚、血管壁、腎糸球体基底膜、関節腔膜に沈着して炎症反応を惹起する疾患、と考えられています。皮膚に症状が限局する皮膚型エリテマトーデスと、全身に播種する全身性エリテマトーデス(SLE)があります。紫外線が増悪因子のようです。

SLEの症状は、免疫介在性溶血性貧血、免疫介在性血小板減少症、免疫介在性好中球減少症、血液凝固異常、非びらん性多発性関節炎、糸球体腎炎、血管炎、皮膚の紅斑、発作、多発性筋炎、多発性神経炎、重症筋無力症などです。犬では、皮膚症状をみることが少ない、と言われています。さらに、SLEの犬では、発熱、リンパ節腫脹、脾腫、多クローン性高ガンマグロブリン血症を伴うことがあります。

皮膚型エリテマトーデスでは、犬種特異的に発生することが多くて、鼻鏡に白斑を認めたり、顔面、体幹に紅斑や痂皮形成がみられます。

診断
末梢血の血球減少症、限局性・多発性関節炎、糸球体腎炎、神経症状、皮膚症状、多発性筋炎、重症筋無力症、血管炎、抗核抗体検査陽性のうち、2項目以上を満たせば、SLEだと判断していいと思います。皮膚型エリテマトーデスの症例では、抗核抗体は通常、陰性です。

紅斑部から生検材料を採材して病理検査を行って診断することもありますし、蛍光抗体検査で免疫グロブリンやCaの沈着を認めることがあります。

治療
犬のSLEや、コリーやシェトランドシープドッグで発症する水疱性皮膚エリテマトーデスでは、プレドニゾロン(2~6mg/kg・PO・SID)、アザチオプリン(2.5mg/kg・PO・SID)、シクロスポリン(5~10mg/kg・PO・SID)が用いられます。水疱性皮膚エリテマトーデスでは、二次感染を防ぐために、患部の洗浄や抗菌薬の投与が必要です。

ジャーマンショートヘアードポインターで発症する剥脱性エリテマトーデスは、治療に対する反応が悪く、予後がよくありません。円板状エリテマトーデスの多くは、グルココルチコイド製剤の外用薬、タクロリムス外用剤とともに、紫外線への暴露を避けることで症状が軽減するようです。

処方例
プレドニゾロン
  初期投与量2~6mg/kg・PO・SID
  10~14日間の投与後、漸減・隔日投与
アザチオプリン
  初期投与量1.5~2.5mg/kg・PO・SID
シクロスポリン
  5~10mg/kg・PO・SID
患部の洗浄・抗菌薬
グルココルチコイド外用剤
タクロリムス外用薬


多形紅斑・中毒性表皮壊死症

多形紅斑は、犬の体幹に多形、ときおり融合した環状~標的状の紅斑を認める疾患です。原因はよくわかっていません。病変は自然治癒することはなく永続して、過角化による鱗屑、落屑を伴うようになります。

中毒性表皮壊死症は、急激に、かつ広範囲に皮膚、粘膜の壊死を伴って、びらんや潰瘍を認める疾患です。おそらく薬物有害反応によるものと考えられています。

診断
病理検査などで診断します。中毒性表皮壊死症では、症状が急激に発現することでも疑います。

治療
いずれの疾患でも、病因となる薬物、食物、細菌感染が疑われたら、原因除去を試みます。多形紅斑は、グルココルチコイド製剤(プレドニゾロン)、アザチオプリン、シクロスポリンに対する反応が良好です。

中毒性皮膚壊死症では、早期に電解質輸液、創面の保護、疼痛治療、抗菌薬・グルココルチコイド製剤の投与を行わないと、体液、電解質、蛋白の喪失並びに二次的な細菌感染症によって致死的な経過を辿ることが予測されます。

処方例
プレドニゾロン
  初期投与量2~6mg/kg・PO・SID
  10~14日間投与の後、漸減・隔日投与に
アザチオプリン
  初期投与量1.5~2.5mg/kg・PO・SID
  効果がみられたら、漸減・隔日投与に
シクロスポリン
  初期投与量5~10mg/kg・PO・SID
  4週間投与後、症状をみながら漸減・隔日投与
電解質輸液・創面保護・疼痛治療・抗菌薬投与


ブドウ膜皮膚症候群

眼と皮膚に異常をもたらす稀な疾患です。おそらく免疫異常と遺伝的な関与があると考えられます。人のフォークト・小柳・原田病に類似した疾患です。

ブドウ膜皮膚症候群の特徴

好発犬種秋田犬・シベリアンハスキー・サモエド・チャウチャウなど
発症年齢6ヶ月齢~6歳齢
発症部位と症状




眼(前後ブドウ膜)
  :肉芽腫性ブドウ膜炎・粘膜炎・角膜浮腫・白内障・緑内障
皮膚(鼻鏡~鼻梁・眼周囲・口唇・外陰部・陰嚢・肉球・肛門周囲など)
  :色素脱失・潰瘍・痂皮など
毛 :色素脱失(白色毛)

犬種、発症年齢、発症部位、症状が重要です。ブドウ膜皮膚症候群が疑われたら、病変部の皮膚生検を行って、病理組織学的に診断してもらいましょう。皮膚直下に沿った真皮浅層に帯状に浸潤する密な単核細胞浸潤が特徴です。鑑別疾患として、他の免疫介在性皮膚疾患、白斑、上皮向性リンパ腫があります。とくに円板状エリテマトーデスと類似しているので注意が必要です。円板状エリテマトーデスでは、眼病変を伴うことはなく、比較的様々な犬種に認められます。ブドウ膜皮膚症候群だと、眼病変が先行してみられて、病理組織学的検査では多くのメラノファージが特徴です。犬種も限られていて、発生率も多くありません。

治療と予後
皮膚よりも、眼病変の進行を抑制するために、早期に積極的な免疫抑制療法が必要です。しかも、長期的な治療が必要で、生涯に亘る治療が必要なこともあります。

眼病変を早期治療しなかった場合、白内障や緑内障、さらには失明に至ることもあります。皮膚病変は、主に、色素脱失が問題になりますが、治療で改善しないこともあります。治療への反応性は、眼病変の改善傾向で判断します。定期的な眼検査を行いましょう。

処方例
プレドニゾロン
  初期投与量2~6mg/kg・PO・SID
  10~14日間の投与後、漸減・隔日投与
アザチオプリン(イムラン)
  2mg/kg・PO・SID
シクロスポリン(アトピカ)
  5mg/kg・PO・SID
テトラサイクリン
  10kg未満: 250mg/Head・1日3回
  10kg以上: 500mg/Head・1日3回
ニコチン酸アミド
  10kg未満: 250mg/Head・1日3回
  10kg以上: 500mg/Head・1日3回

0.1%デキサメタゾン点眼液
  点眼・1日4~5回
デキサメタゾン(デカドロン)
  1~2mg・結膜下注射・単回
トリアムシノロン(ケナコルトA)
  10~20mg・結膜下注射・単回