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皮膚の疾患/寄生虫性皮膚炎

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寄生虫性皮膚炎

毛包虫症(アカラス、ニキビダニ) 

Demodex canisの寄生が原因で起こる皮膚疾患です。犬の毛包内に寄生して、生活環は宿主の表皮のみで完結します。生後72時間以内に、母親から子犬に伝播する常在寄生虫で、毛包虫症(ニキビダニ症)の発症には、何らかの免疫失調が関与するものと考えられています。

生後18ヶ月以内に発症する若年性毛包虫症と、成犬が発症する成犬発症性に分けられています。成犬発症性の汎発性毛包虫症は、背景に免疫抑制剤の投与、内分泌疾患(甲状腺機能低下症、クッシング症候群)、全身性疾患(糖尿病、リンパ腫)、乳腺癌、血管肉腫、加齢に伴う皮膚機能低下、発情・出産・ワクチン接種・消化管内寄生虫が関与していることもあります。

稀ですが、猫でも感染することがあります。原因となる寄生虫は、D.catiが多くて、これは非伝播性の疾患で、糖尿病、クッシング、FeLV・FIV、全身性エリテマトーデスなどの背景疾患が考えれています。D.gatoiという種類もあって、こちらは伝染性と考えられていて、強い痒みを呈して、四肢、下腹部に舐性行動による裂毛を生じます。

症状
毛包虫症は皮疹が特徴的な所見ですが、色素沈着、発赤、鱗屑、角栓や二次的な細菌感染による膿皮症を呈することがあります。皮疹は、頭部、頸部、四肢に後発します。

D.catiによる猫の毛包虫症では、眼の周囲、頭部、頸部に痒みを伴わない脱毛と落屑がみられます。汎発性では、皮疹が四肢、体幹部に拡大して、紅斑、色素沈着、痂皮がみられることがあります。

診断
皮膚の掻爬や生検で、ニキビダニを検出して診断します。ニキビダニは、毛包内に寄生しているので、真皮まで深く掻爬して、検体を採取します。眼の周囲や肢端では、毛検査が有効です。スライドガラスにミネラルオイルを滴下して、カバーグラスをかけて鏡検します。

治療
治療は、駆虫、薬用シャンプーによる外用療法、二次的な細菌感染の治療、背景疾患に対する対処を行います。若年性毛包虫症は、適切な治療で成長とともに治癒することが多いのですが、成犬発症では維持療法が必要なことがほとんどです。若年性の局所性毛包虫症は外用療法を中心に、汎発性では全身療法で治療を開始します。治療は、皮膚掻爬検査でニキビダニが検出されなくなるまで行います。

  •  駆虫
    •  イベルメクチンの外用
      •  イベルメクチンを、プロピレングリコールで10倍に希釈して、1日1回、局所に塗布します。
      •  イベルメクチンは、線虫と節足動物のグルタミン酸作動性Clイオンチャンネルに選択的な高い親和性を有していて、過分極による神経遮断によって。寄生虫が麻痺して死に至る薬剤です。
    •  イベルメクチンの全身投与
      •  600μg/kgを、症状に応じて、1週間に1~2回の皮下もしくは経口投与から、1日1回の経口投与までを行います。通常は連日投与が望ましいのですが、軽度な場合は、より少ない投与回数で有効な場合もあります。
      •  初回は300μg/kgの用量で副作用の有無を確認した方がいいですし、フィラリアの感染がないことを確認するために、抗原検査も実施しておくべきです。
      •  特に、コリー種では、中枢神経系に重篤な副作用を生じるので、使用できません。
    •  ドラメクチン(デクトマックス)の全身投与
      •  投与量、投与形態、副作用など、基本的にイベルメクチンと同様の仕様になりますが、作用時間がイベルメクチンよりも長くて、皮下投与での刺激が少ないのが特徴です。
      •  週1回の投与を行う場合は、皮下投与でもいいでしょうが、毎日服用する場合は、経口投与でも体内動態は変わらないので、経口投与で十分です。
  •  シャンプー療法
    •  過酸化ベンゾイル(ビルバゾイル)による、週1~2回の局所もしくは全身洗浄を行います。
    •  過酸化ベンゾイルは、角質溶解作用、毛包洗浄作用、抗菌効果とともに、脱脂作用があるので、脂漏性皮膚炎を併発している毛包虫症には、特に有効です。皮脂の少ない症例には、皮膚刺激が生じることがあるので、注意しましょう。
  •  二次的な細菌感染
    •  毛包炎、膿皮症などを併発している症例には、抗菌薬としてセファレキシン(20~30mg/kg)を1日2回、経口投与を行います。
処方例
ドラメクチン(デクトマックス) 600μg/kg
  皮下注・週1回もしくは経口連日投与
過酸化ベンゾイル(ビルバゾイル)
  週に1~2回のシャンプー
セファレキシン
  20~30mg/kg・経口・BID


疥癬症

疥癬は、ヒゼンダニ科・キュウセンヒゼンダニ科・トリアシヒゼンダニ科に属するヒゼンダニが寄生して起こる皮膚疾患です。最も多いのは、イヌセンコウヒゼンダニとネコショウセンコウヒゼンダニであり、これらは人に皮膚にも寄生して皮膚病変を生じることがあります。人獣共通感染症です。

症状
感染が初期であったり軽度のものは、紅斑性小丘疹やわずかな脱毛、落屑、痒みを呈する程度ですが、重症になると角質増殖が顕著になって、猛烈な瘙痒を伴います。犬や猫の体調や免疫状態、他の併発疾患の関与でも症状は変化します。

宿主特異性の高いダニですが、年齢・性別を問わず寄生して、すべての動物に罹患する可能性があります。同居している動物間での伝播や、人への影響もありますので、注意してください。センコウヒゼンダニは、皮膚の角質層にトンネルを作って産卵します。卵は、幼ダニ→若ダニ→成ダニと成長して、ライフサイクルは2~3週間程度です。なので、寄生虫の殺虫処置は、2週間毎に、数回くり返すのが効果的です。

診断
特徴的な症状と皮疹の確認、皮膚表面の角質層を掻き取って直接鏡検でダニを確認することで診断しますが、ダニの検出率は高くありません。25%程度です。

症状の発現部位や若い動物での発症が多いことと、痒みが著しいことなど、アトピー性皮膚炎との類似点が多くて、血清中抗原特異的IgEなどの検査で、コナヒョウダニやヤケヒョウダニに陽性反応が出ると、短絡的にアトピー性皮膚炎と診断してしまうことがあります。疥癬でヒョウダニ類に交差して陽性反応が出ているのに、誤ってアトピー性皮膚炎の治療を開始してしまうと、抗炎症治療は、疥癬症の症状を著しく悪化させます。なので、鑑別診断は非常に重要です。

治療
見逃されがちな皮膚疾患ですが、完治可能な疾患です。多くのヒゼンダニは、宿主から離れると長く生息しませんが、2週間程度は生存する可能性はあるので、徹底的な清掃は大切です。

皮膚炎症状が軽度で、疥癬が除外できない症例では、診断的治療で2週間間隔で2回のイベルメクチン(200~300μg/kg・皮下)の投与を行ってみます。重症例では、イベルメクチンの2週間間隔の投与に並行して、プレドニゾロン(0.5~1mg/kg・PO・SID)を2~3日間投与します。二次感染を考慮して、膿皮症の治療に使用する抗菌薬を用いることがあります。

イベルメクチンの治療に反応したら、角質溶解作用を有するシャンプーで、落屑・痂皮を除去します。イベルメクチンが使用できないコリー種などでは、フロントラインスプレーなどを用いて駆虫する方法が用いられます。治療後、猫は、その後の予防を兼ねて、レボリューションを月に1回、滴下してあげましょう。

老齢動物や免疫機能が低下している症例、コリー種には、ミルベマイシンオキシム(インターセプター)を用いた治療を選択しています。それでも、コリー種は安全域が狭いので、注意して投与することが必要です。

処方例
イベルメクチン
  200~300μg/kg・皮下・2週間間隔で2~3回投与
レボリューションの滴下による駆虫
プレドニゾロン
  0.5~1mg/kg・PO・SID・2~3日間投与
ミルベマイシンオキシム
  2mg/kg・PO・週に2回・2~4週間


ツメダニ症

ツメダニ(Cheyletiella属)が犬や猫に寄生する伝染性の皮膚炎です。発生は稀です。ダニの生活環のすべてのステージ(卵・幼虫・さなぎ・成虫)を寄生宿主上で過ごしますが、被毛に産み付けられた卵が、環境中に脱落して新たな感染源となります。成虫は、体液・リンパ液を摂取する際に皮膚表面を徘徊します。卵から成虫になるまで3~4週間、かかります。

ツメダニには、宿主特異性がないので、他の動物からも感染伝播が成立します。人にも感染します。刺咬による丘疹と瘙痒性皮膚炎を呈しますが、人ではCheyletiella属は繁殖しません。しかしながら、感染源の動物を治療して、環境を浄化することが予防対策となります。

診断
落屑、鱗屑を集めて顕微鏡で観察するか、セロハンテープ、掻爬、検便などで虫卵やダニを検出します。虫卵やダニが検出できなくても、鑑別診断リストから他の疾患を除外して診断的治療を行うこともあります。

治療

  •  外用療法
    •  石灰硫黄合剤を配合したシャンプー、硫黄・サリチル酸配合のシャンプー、硫化セレン含有シャンプーで体を洗ってあげます。
    •  その後、フロントラインかレボリューションを滴下して外用療法を行います。1ヶ月間隔で、少なくとも3回の滴下は行うことが必要です。
  •  全身療法
    •  イベルメクチン(200~300μg/kg)を、2~3週間間隔で皮下注射(2~3回)します。概して、猫で3週間間隔、犬で2週間間隔が適切なようです。

ほとんど外用療法と環境のダニ対策を徹底すると、完治します。寝具やリード、服などは、高温のお湯で洗濯して、汚染環境はダニ用の殺虫剤で消毒すれば大丈夫です。同居犬・同居猫がいれば、一斉に処置しておくことが重要です。

ノミアレルギー性皮膚炎

犬や猫に寄生するノミは、通常ネコノミ(Ctenocephalides felis)です。ノミの唾液には、酵素・ポリペプチド・アミノ酸などのヒスタミン類似物質が含まれていて、ノミが吸血する際にそれらが侵入して、Ⅰ型もしくはⅣ型アレルギー、好塩基球過敏症を引き起こすようです。

ノミのライフサイクルの内、成虫だけが吸血可能ですが、我々が見つけることができる成虫の数は、5%程度のノミだけで、残りは生活環の中に潜んでいます。寄生していても成虫すら見つけることが難しい、ということになります。

原発疹は丘疹で、著しい痒みによって自傷による二次病変が起こります。脱毛、落屑、痂皮、苔癬、剥脱病変が認められます。痒みの程度は様々ですが、発症する犬や猫は、年々悪化する傾向があります。

犬では、病変部の多くは下半身で、腰背部・尾根背部・後肢・会陰部・臀部が主です。若齢の犬では、全身性に丘疹を認めて、疥癬に似た症状となることがあります。ほとんどが持続性にブドウ球菌性毛包炎(膿皮症)を併発します。ノミの活動時期に季節性に生じるものと考えがちですが、通年性に認められることも多くて、治療をしない限り、増悪と寛解を繰り返します。

猫では、著しい痒みを呈して、執拗にグルーミングをします。そのためノミが見つからないことが多いのですが、ノミ糞の付着が多いので、ノミ糞を確認するようにもしましょう。過剰に舐めたり引っ掻いたりするので、脱毛・落屑・小さな痂皮を伴う粟粒性皮膚炎と呼ばれる状態になります。皮膚炎を伴わない対称性脱毛、好酸球プラーク、肉芽腫のみられる場合もあります。

診断
ノミやノミ糞を直接見つけて診断します。わかりにくい場合は、コーミングして集めたフケや黒い顆粒を水で塗らしてみて、血液成分が滲み出てくるかどうか、を確認します。

客観的には、免疫学的検査でIgE抗体を測定することで診断が可能です。IgEに依存するⅠ型アレルギーの評価を行います。しかしながら、これらの検査は、アトピー性皮膚炎の関与を考えられるような疾患で用いると有意義です。

治療
ノミのライフサイクル(卵→幼虫→さなぎ→成虫)に対して、処置をすることも有効です。卵は、犬や猫の被毛に産み落とされて、宿主から環境中に落下します。卵から孵化した幼虫は、犬や猫の生活環境中に生息していて、成ノミの糞を食糧にしています。卵は薬剤に対して比較的抵抗性があるのですが、幼虫は一般的な殺虫剤や、薬剤を含んだノミ糞に対しても感受性があります。幼虫は、高温・多湿環境を好んで、低温・乾燥下には弱いです。

さなぎは、宿主の生活環境中にいて、ドアの後など、空気の振動の少ないところで長期間潜んでいることもあります。振動、体温、二酸化炭素などの刺激で羽化します。低温・乾燥、殺虫剤にも抵抗性があります。成虫の生存期間は、10~20日程度です。羽化して宿主に寄生すると、5分程度で吸血を始めます。ノミ駆除剤が効果を発揮する前に、吸血されてしまうので、ノミにアレルギーがある動物は、皮膚炎の発症を免れません。なので、成虫の吸血を予防するよりも、成虫の絶対数を減らす対策が必要です。

上記、ノミのライフサイクルのどこかを遮断することで、ノミの絶対数を減らすことができます。

ノミが付着した動物に対する処置もしっかりと行ってあげましょう。

  •  8週齢以下の犬や猫には、ピレスリン(天然の除虫菊成分)含有のシャンプーやムースで、ノミを駆除します。
  •  8週齢以上の猫に対しては、レボリューション6%(セラメクチン)がいいと思います。スポットオン薬剤ですが、血中に移行して効果を示します。猫により効果が高くて、ノミとミミヒゼンダニに効きます。フィラリアにも効果があるからという理由で犬にも使う獣医さんもいますが、マダニに対して効果がないので私は使いません。
  •  8週齢以上の犬には、フロントラインプラス(フィプロニル+S-メトプレン)やマイフリーガードでいいかと思います。皮膚角質層、被毛に付着して、毛包から皮脂腺に成分が貯留されます。殺ノミと卵に対する効果もあって、マダニ・シラミ・ハジラミにも有効です。

痒みのコントロール

  •  痒みが強い場合は、ステロイド剤の内服として、プレドニゾロン(1mg/kg・PO・SID)を、症状の重症度に応じて、投与日数を加減します。3~5日後には、投与量を0.5mg/kgにして、その後、隔日投与から2日間隔投与へ漸減した後、投与を中止します。
  •  時間の経過とともにステロイドに対する反応が悪くなるので、痒み対する処置よりもノミのコントロールを確実に行って、年間を通じてノミの管理を継続させることが有効です。
  •  二次感染を防ぐために、ノミアレルギー性皮膚炎が疑われて、著しい痒み認めた場合、速やかにステロイドで自傷を防ぐことが必要です。既に二次感染が認められるなら、抗菌薬を投与します。
処方例
フロントラインプラス(犬)
レボリューション(猫)の滴下

プレドニゾロン
  1mg/kg・PO・SIDから漸減
セファレキシン
  25~30mg/kg・PO・BID