役に立つ動物の病気の情報 | 獣医・獣医学・獣医内科学など

皮膚の疾患/炎症性皮膚疾患

Top / 皮膚の疾患 / 炎症性皮膚疾患

炎症性皮膚疾患

アトピー性皮膚炎(犬)

犬のアトピー性皮膚炎と診断される症例の約80%で、抗原特異的IgEが検出されます。しかしながら、20%程度は、症状はアトピー性皮膚炎と一致するのにIgEを検出できない症例があるわけです。そのため、免疫病態的に肥満細胞とIgEを主体とするⅠ型過敏症が、犬のアトピー性皮膚炎の原因であると説明できないことが多々あります。

最近では、リンパ球活性化の制御異常、皮膚バリア機能の低下、ケラチノサイトにおける炎症性メディエーターの産生が病態に関与している可能性も示唆されています。そのため、現在は、環境抗原に対するIgEを有する症例をアトピー性皮膚炎として、それ以外は、アトピー様皮膚炎、と分類するようになっているようです。臨床的には、どうでもいいことなんですけどねw どっちであっても治療内容は変わりません。

診断
このように、アトピー性皮膚炎の病態が完全に解明されていないので、客観的な診断指標がありません。結局、アトピー性皮膚炎の確定診断を行うためには、瘙痒性皮膚疾患を引き起こす疾患群を適切に鑑別していくこと以外に有効な手段がありません。

診断にあたって重要なことは、感染症の関与を確実に評価することです。アトピー性皮膚炎に続発して、ブドウ球菌やマラセチアによる感染症がみられることが多いので、適切な治療を行って、現在発現している症状にどの程度感染が関与しているかを評価しましょう。感染症の治療が終了してから、アトピー性皮膚炎の診断を下すことが可能になります。

アトピー性皮膚炎の診断を下すまでは、ステロイド剤の投与は行いません。感染症の治療が適切になされたにも関わらず瘙痒感が残存している場合は、角化異常も考慮します。鱗屑形成が重度ならば、角化異常の可能性が高いので、角化細胞の分化状態を再評価して、食事内容なども聴取しておきます。

アトピー性皮膚炎に特徴的な原発疹は紅斑や丘疹などで、続発疹は掻破痕、二次性脱毛、苔癬化、色素沈着などです。病変の分布は特徴的で、顔面、耳介、頸部腹側面、液窩部、鼠径部、下腹部、会陰部、尾の腹側面、四肢屈曲・内側面、肉球部などに多く認められます。耳介辺縁や腰背部にはあまり認められません。

発症年齢も、アトピー性皮膚炎を診断する上で重要な指標で、ほとんどが6ヶ月齢~3歳齢に皮膚症状を初発しています。中高齢犬で瘙痒性皮膚疾患が初めてみられた場合には、疥癬や内分泌異常に関連した膿皮症や角化異常など、アトピー性皮膚炎以外の皮膚炎を疑いましょう。

アトピー性皮膚炎と食物アレルギーを鑑別することは不可能なので、初期の診断プロセスで、除去食試験を8週間実施して、食物アレルギーの関与を明らかにしておきましょう。

治療
実際の症例に認められる瘙痒感は、アトピー性皮膚炎に続発する感染症で増悪していることが多くて、治療に対する反応性も、病期、犬種、飼育環境によって大きく異なります。なので、アトピー性皮膚炎に対する画一的な治療法は存在せず、各症例に応じた治療計画が必要になります。

原則として、犬のアトピー性皮膚炎を根治させることはできてません。生涯、何らかの治療が必要になります。治療は、ステロイド剤・免疫抑制剤(シクロスポリン)で行いますが、これらの薬剤の投与量を減じるためにできることを考慮しながら治療を進めていくことが必要です。漢方治療やオゾンを用いた代替療法も含めて、考えておくべきことだと思います。

  •  治療方針
    •  感染症に対する適切な治療が行われていることが前提です。
    •  皮膚病変を伴わない痒みに対しては、抗ヒスタミン薬を投与します。
    •  皮膚病変を伴う症例には、ステロイド剤や免疫抑制剤を用います。
    •  皮膚病変を伴わない慢性疾患には、投薬とスキンケア(シャンプーやコンディショナー)に努めます。できるだけ、抗ヒスタミン薬を用いながら、痒みが強く出たらステロイド剤を用いて治療して、症状が軽減した漸減します。
処方例
プレドニゾロン
  0.5~1mg/kg・PO・SID・1週間投与
  その後、0.25~0.5mg/kg・PO・SID
  0.25mg/kg・隔日投与と減量していく
  必要最低量を算出して投与を継続する
ヒドロキシジン塩酸塩(アタラックス)
  2mg/kg・PO・BID
クロルフェニラミン(ポララミン)
  0.4~0.8mg/kg・PO・BID
ジフェンヒドラミン(レスタミン)
  2~4mg/kg・PO・BID
シクロスポリン(アトピカ)
  5mg/kg・PO・SID
  4週間毎に投薬頻度を見直して
  寛解状態なら投与間隔を延長していく
角質溶解シャンプー(トラトラックス)
コンディショナー(ヒュミラック)

抗アレルギー薬
抗アレルギー薬というのは、Ⅰ型過敏症に関与するケミカルメディエーターの遊離、並びにその作用を調節する全ての薬剤およびTh2型サイトカイン阻害剤の総称です。ヒスタミンなどのケミカルメディエーターの作用を軽減させる薬剤が抗ヒスタミン薬で、多くの抗アレルギー薬がこれに分類されます。

古典的な抗ヒスタミン薬は、ヒスタミンの受容体を阻害するだけでしたが、最近の抗アレルギー薬は、抗ヒスタミン作用以外にも、ロイコトリエンやプロスタグランジンD2などの産生も阻害して、催眠作用も少なくて、副作用もほとんどない、という利点があります。

これらの薬剤の多くは、ステロイド剤との併用で効果が発揮されることが多くて、抗アレルギー薬単独では、すでに生じたアレルギー性炎症を沈静できないと考えられています。併用して投与することで投薬量を減量できるという利点もあります。但し、治療に即効性がなくて効果発現に2週間程度を要するので、飼い主を満足させることができないことがあります。

副腎皮質ステロイド剤
アトピー性皮膚炎の持続的な症状の発現の多くはⅠ型過敏症の即時型反応と、その後に生じる遅発型反応が関与しています。これらの反応は、それぞれが単独で起こっているのではなく、相互作用を持ちながら炎症を持続させていると考えられています。特に、遅発型反応ではサイトカイン介在性の強力な炎症反応が生じていると考えると、抗ヒスタミン薬の有効性は低いと納得できます。

遅発型反応による炎症を迅速に軽減するには、ステロイド剤(プレドニゾロン)が有効です。抗炎症量0.5~1mg/kgから投与を始めて、効果を見ながら漸減していきましょう。アトピー性皮膚炎には、長期間作用型ステロイドは推奨されません。

ステロイドの強力な抗炎症作用で、瘙痒感、皮膚病変は劇的に改善されるので飼い主の満足度は高く、中には常に処方を希望される方もおられますが、ステロイド治療は根治を目指すものではなく、あくまで対症療法ですし、長期間の投薬によって副作用の出現の可能性が高いこと、QOLを高めるにはステロイドの投与量を減じるほうが何より重要であることを、飼い主にはわかってもらえるよう、説明すべきです。

免疫抑制剤(シクロスポリン)
アレルギー反応には、IL-4・IL-5・IL-13などを産生するT細胞(Th2型細胞)が関与しています。なので、T細胞の活性化を選択的に抑制することによってアレルギー性の炎症を軽減できることになります。

シクロスポリンの投薬は、ステロイドによる対症療法では制御できない症例、ステロイドによる副作用が重篤な場合、基礎疾患があってステロイドを投与できない症例、ステロイド投与が禁忌の症例、飼い主がステロイドを望まない場合に考慮されます。

これまでにステロイドを投薬していた症例に対して用いる場合には、併用してシクロスポリン(5mg/kg)を1日1回・4週間投与を行って、瘙痒感と皮膚病変の改善を評価して、ステロイドを減量していきます。ステロイドを用いなくても症状が制御できるようになったら、シクロスポリンの投薬頻度を1日1回から2日に1回、3日1回と徐々に間隔を延長していきます。

シクロスポリンによる改善効果は投薬開始後1ヶ月程度が必要なので、有効性の評価は、投薬開始2ヵ月後を目処に行う方がいいでしょう。副作用は、嘔吐や下痢ですが、一過性のことがほとんどです。免疫抑制剤ですので、感染症(細菌、真菌、寄生虫)を併発している症例には使わないようにしましょう。

スキンケア
アトピー性皮膚炎は、表在性膿皮症やマラセチア性皮膚炎を続発することが多くて、これらの皮膚疾患は瘙痒感を増強させるので、原因や重症度に応じて、内服やシャンプー療法を行います。感染が制御された後も、予防的に抗菌・抗真菌シャンプーを用いて定期的に洗浄を行うといいと思います。

鱗屑形成などの角化異常を続発してる症例には、角質溶解シャンプー(サルファサリチル酸)と保湿(アデルミルなど)を徹底的に行います。角化異常はマラセチア性皮膚炎を発症しやすいので、定期的な検査と予防措置(マラセブシャンピーなど)も重要です。

予後
致死的な疾患ではありませんが、根治は望めないので、続発する感染症の予防とスキンケア徹底して、最低用量のステロイドによって症状の緩和に努めましょう。


食物アレルギー

食物アレルギーは、食物抗原い対する免疫学的な副反応として、皮膚症状・消化器症状を示す疾患です。IgEやリンパ球を介した免疫反応が関与していると考えられています。

原因となる食物抗原が色々と挙げられていますが、個人的な印象では、食材をきちんと選んだフードを食べていれば、食物アレルギーの頻度は大きく下がるように思います。それまで鶏肉にアレルギーがあった、という飼い主さんが、無添加で、人工防腐剤を含まない、鶏肉も管理された食材のフードを食べたら何ともなかった、なんてことは身近には普通にあります。そんなフードを食べても反応するというなら、食物アレルギーを持っている動物だと判断できますが、割合はそう多くありません。

食物アレルギーは、性差や犬種に関係ありませんが、多くは1歳未満で発現することが多いようです。症状は、非季節性の瘙痒感で、痒みの程度は症例によってさまざまです。皮膚病変は、丘疹や紅斑などの原発疹のほかに、自傷による脱毛、掻破痕、鱗屑、痂皮、色素沈着、苔癬化などの続発疹を認めます。皮疹は、顔面、耳介、四肢、腰背部、液窩部、鼠径部、会陰部などに認められます。外耳炎も食物アレルギーに特徴的な所見です。

アトピー性皮膚炎と同様に、再発性の膿皮症を認めることが多くて、ノミアレルギーなど他のアレルギー性皮膚疾患を併発することも多いのも特徴です。アトピー性皮膚炎との鑑別は非常に難しいですが、食物アレルギーには慢性の下痢や軟便を示す症例が多いことやステロイド剤に反応する症例が少ないことが報告されています。

診断
診断アプローチとしては、常に感染(細菌、真菌、寄生虫)を除外して、その状態で除去食試験、負荷試験を実施します。除去食試験は、アレルゲン性の低い除去食を食べさせて反応がなくなることを確認するのですが、全く反応しないこともよくあります。幸いにも除去食で症状が改善されたら、以前与えていた食事を一つずつ与えてみて(負荷試験)、症状の再発を確認します。

治療
除去食で改善する症例であれば、除去食を継続的に食べることになります。加水分解タンパクを使用した食事が最初に選ばれます。その他では、アミノ酸フード、他のタンパクフード(豚肉、ラム肉、なまずなど)を用いることもあります。

  •  内科的治療
    •  除去食で劇的な改善を示すことは少ないので、瘙痒感を軽減させるには内科的治療を行います。瘙痒感の程度に応じて、抗アレルギー薬やステロイド剤を投与します。
    •  明確な皮疹が認められないなら、抗ヒスタミン薬(ヒドロキシジン塩酸塩; アタラックス)を用います。ヒドロキシジン塩酸塩は、抗ヒスタミン作用に加えて精神安定作用もありますので、過度な掻破行動の軽減や痒みによるストレスの軽減にも緩和効果が期待できるようです。
    •  瘙痒感と、紅斑や丘疹など原発疹が認められる症例には、プレドニゾロンの投与が適切です。但し、可能な限り、投与量は減量できるように指導していくことが必要です。
    •  アトピー性皮膚炎を併発している症例には、シクロスポリンを投与することもあります。
処方例
食事の変更
ヒドロキシジン塩酸塩(アタラックス)
  2mg/kg・PO・BID
プレドニゾロン
  0.5~1mg/kg・PO・SID・1週間
  その後、0.25~0.5mg/kg・PO・SID
  0.25mg/kg・隔日投与と減量していく
  以降、最低用量で投薬を継続
シクロスポリン
  5mg/kg・PO・SID

予後
原因となる食物抗原が明らかになって、適切な食事が見つけられれば、予後良好です。アトピー性皮膚炎の併発疾患には、内科的な治療が生涯に亘って必要となりる場合があります。


虚血性皮膚障害

皮膚における血流障害の結果、低酸素症に伴った皮膚障害が、末梢部位や全身の皮膚に生じる一連の症候群を、虚血性皮膚障害といいます。この症候群には、犬家族性皮膚筋炎、皮膚筋炎様疾患、ワクチン誘発性虚血性皮膚障害、汎発性特発性虚血性皮膚症などが含まれます。紫外線への暴露は、この疾患の増悪因子と考えられています。

犬家族性皮膚筋炎は、コリー、シェトランドシープドッグ、その交雑腫によく認められます。皮膚筋炎様疾患は、その他の犬種に見られます。臨床病理的には、両疾患とも同様です。通常、6ヶ月未満で発症して、初期は鼻梁、眼瞼、口唇、手背、鼻部先端に紅斑、丘疹、水疱を認めて、その後、潰瘍化して、痂皮、瘢痕、脱毛を呈します。

筋炎に伴う咀嚼筋の萎縮や、咬筋の萎縮による咀嚼や嚥下障害が稀に認められます。多くは加齢とともに症状が軽減しますが、重症例は全身性の筋萎縮や巨大食道症にともに誤嚥性肺炎などで予後不良となることもあります。

ワクチン誘発性虚血性皮膚障害は、限局性狂犬病ワクチン接種後脂肪織炎や汎発性ワクチン誘発性虚血性皮膚症に分類されます。日本では報告がないようです。汎発性特発性虚血性皮膚症は、ワクチン接種に伴わない虚血性皮膚症で、汎発性ワクチン誘発性虚血性皮膚症と同じ症状がみられます。

診断
特徴的な症状と病理組織学的所見をもとに診断します。

治療
一般的に、疾患の管理は困難で、治療法がありません。ワクチン誘発性なら、疑わしいワクチンの接種を避けること、紫外線の暴露をできるだけ避けることで予防していくしかありません。

根治はできませんが、末梢血流の改善を目的として、ビタミンEの投与を行います。ステロイド剤や抗ヒスタミン薬は、痒みを管理することで自己損傷による症状の増悪を予防することに対しては有効ですが、ステロイドの長期投与による副作用には注しましょう。