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神経系の疾患/検査

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神経学的検査

神経学的検査

検査項目
精神状態
姿勢
歩様
  不全麻痺・完全麻痺
  運動失調
   固有受容感覚(UMN)・前庭・小脳
  旋回行動
  跛行
姿勢反応
  ナックリング
  跳び直り反応
  手押し車反応
  片側歩行反応
筋の緊張と大きさ
脊髄反射
会陰反射・肛門の緊張
感覚的知覚(侵害受容)
脳神経

精神状態

飼い主に対する行動変化の問診は重要です。検査を行うために来院すると、犬も猫も、興奮するので、わずかな変化は不明瞭になるためです。

抑うつ、昏迷、昏睡のような意識レベルの低下は、大脳、脳幹における代謝障害、傷害や質病に伴って生じることがあります。せん妄や錯乱は、大脳皮質や代謝性脳症が疑われます。てんかん発作によって、前脳病変や代謝性脳症、中毒に続発する機能性障害が生じます。攻撃性、強迫性行動、しつけの喪失、吠える、ヘッドプレスは全ての前脳疾患で認められます。構造的に片側性の前脳病変が存在する動物において、周囲の環境の反対側からの反応をすべて無視するという行動上の異常がみられることもあります(半側無視症候群)。

意識の異常

状態特徴
正常覚醒状態;  環境刺激に対して適切に反応する
抑うつ静かで眠い状態;  環境刺激に反応する
せん妄覚醒状態;  刺激に対して不適切な反応・激越・混乱状態
昏迷強い有痛性の刺激を与えたときを除いて意識消失状態
昏睡侵害性刺激によっても覚醒できない深い意識消失状態


姿勢

正常な直立姿勢は、複数の中枢神経系の経路と脊髄反射の統合作用によって維持されています。姿勢異常は、正常な統合が崩壊されていることを反映します。立ち幅の広い場合は、失調性で、小脳や前庭疾患の特徴所見です。まっすぐできない持続的な頭部傾斜は、前庭系の異常に関連しています。横臥している動物は、姿勢とその他の神経学的所見が病変部位の特定に役立ちます。

シェフ・シェリントン姿勢
犬にみられる、急性で重度の胸髄・腰髄の頭側部の病変が、前肢の伸展運動神経に対する脊髄のL1-L7に存在する辺縁細胞による正常な上行性の抑制を妨害したときに認められる疾患です。多くは、骨折、脱臼、梗塞や出血が原因となります。

随意運動、力の入り方、意識的な固有受容感覚は正常なまま、前肢は伸筋の亢進した緊張を示します。後肢での反射は正常~亢進(UMN)を伴う麻痺を呈します。重度の脊髄障害が疑われますが、予後に影響は与えません。

除脳固縮
脳幹の吻側部(中脳)に病変がある時です。罹患動物は、昏迷や昏睡状態で、四肢が強直伸展して、頭頸部が背側に伸展します。後弓反張の状態です。

除小脳固縮
小脳の吻側は、過度の伸展筋緊張の抑制に機能しています。正常な意識を保ったまま、前肢の伸展筋緊張の亢進と、後弓反張を引き起こします。後肢は腸腰筋の緊張の亢進の結果、臀部が前方に屈曲した状態になるのが典型的な姿勢です。

歩様

平坦で滑りにくい床面で、折り返したり回らせたりして、動きを観察しましょう。支えがないと歩けない場合は、随意運動や歩様がより評価できるよう、ハーネスなどで補助します。不全麻痺(脱力)、運動失調、跛行、旋回を評価します。

不全麻痺
不全麻痺は、脱力や体重の支持、正常な歩行ができない状態です。全ての随意運動が消失した状態が、麻痺です。不全麻痺は、LMNやUMN病変で起こります。

LMN疾患に罹患した動物は、脱力があって、歩幅が狭くなって、肢が重心の下に位置するようになります。歩幅が短くなった歩様は、跛行と間違えることがあります。LMN疾患では、肢が小刻みに震えたり、少しの労作で虚脱したりします。すばやく動作させようとすると、うさぎ跳びのような歩様になります。

UMN疾患では、前方への踏み出し開始の遅延、痙縮、肢の硬直を伴って、正常より広い歩幅がみられます。多くは、UMN経路に付随する全身性の固有受容感覚経路の崩壊によって、運動失調がみられます。

運動失調
運動失調や協調運動障害は、小脳、前庭系、脊髄と脳幹尾側部にある全身性の固有受容感覚経路の病変で起こります。固有受容感覚の病変による運動失調では、肢がどこに位置いているか、という認識が失われます。肢が広がった姿勢で、歩幅が長くなって、折り返すときには肢の外転が過剰になって、肢の動きは誇張されて、歩く時には肢を引きずったりナックリングしたりすることもあります。肢が交叉して、肢の牽引が遅れるので負重時間が長くなります。

前庭運動失調は、平衡感覚の喪失で一時的に顕在化します。頭部の傾斜と肢が広がってしゃがんでいる姿勢をとったり、もたれたり、すべったり、倒れたり、横に転がったりする傾向があります。異常な眼振を併発することがあります。

小脳性運動失調は、運動の速度や範囲、力の制御が不可能な状態を反映します。罹患動物は、正常な力は保たれていますが、筋緊張の亢進を伴った状態で、肢が広がった姿勢や左右の揺れ(体幹運動失調)、誇大した足の運びが認められます。細かい頭部の振戦が認められることがあります。

跛行
四肢に違和感があると、跛行がみられます。四肢全体に痛みが生じた場合、多発性関節炎の動物でみられるような硬直した短い歩幅の歩様になることがあります。1肢のみであれば、その肢に負重している時間が短縮して、反対側の正常な肢は負重時間が延長します。

痛みのある肢を挙げたままの状態になることもあります。外傷やパテラによる跛行は一般的ですが、脊髄神経や神経路が椎間板突出や神経路の腫瘍によって狭窄すると、顕著な徴候として現れる可能性もあります。

旋回
前脳や前庭系の病変で生じます。片側性前脳病変のみられる犬では、病変側に向かって大きな円を描くように歩きます。病変側へ狭い円を描くのは、前庭疾患に関連した場合です。前庭疾患に罹患していると、多くは頭部の傾斜と眼振も認められます。

四肢不全麻痺・四肢麻痺の病変部位: 四肢全ての不全麻痺・麻痺

状態病変部位
意識的固有受容性感覚と
脊髄反射が正常


非神経性疾患
  心疾患・低血糖・電解質異常・低酸素症
重症筋無力症
全身性筋疾患
前後肢にLMN徴候

脊髄腹側の灰白質、腹側神経根
末梢神経や神経筋接合部の汎発性疾患
前肢LMN・後肢UMN徴候C6-T2の脊髄
前後肢UMN徴候C1-C5もしくは脳幹

不全対麻痺・対麻痺の病変部位: 後肢の不全麻痺・麻痺

状態病変部位
前肢正常・後肢にLMN徴候L4-S3の脊髄
前肢正常・後肢にUMN徴候T3-L3の脊髄

不全単麻痺・単麻痺の病変部位: 一本の肢の不全麻痺・麻痺

状態病変部位
LMN徴候


患肢を直接支配するLMNの病変
 (脊髄腹側の灰白質の運動神経細胞体
  腹側神経根、脊髄神経、末梢神経)
後肢にUMN徴候同じ側のT3-L3の脊髄

不全片麻痺・片麻痺の病変部位: 片側の前後肢の不全麻痺・麻痺

状態病変部位
前肢LMN・後肢UMN徴候C6-T2の同側脊髄
前後肢UMN徴候C1-C5の同側脊髄、同側の脳幹、反対側の前脳病変


姿勢反応

直立姿勢を保つには神経系の反応が必要です。姿勢反応の検査は、通常、動物が肢の空間位置認識をできるか、で判断します。固有受容感覚の感覚受容器は、筋肉、筋、関節に起始していて、脊髄の固有受容感覚路が大脳皮質に感覚情報を伝達します。固有受容感覚路のほとんどは、同側の脊髄を上行して、脳幹吻側部の中心で交叉します。

検査には、ナックリング、跳び直り反応、手押し車歩行反応、片側歩行反応があります。左右の肢を比較する場合は、跳び直り反応が最も感度が高くて信頼できる検査です。顕著に脱力があると、体重の大部分を支持することが、姿勢反応試験では重要です。肢の正常な感覚と随意運動能力がまた残っている神経筋疾患の動物では、体重を支持している限り、固有受容感覚が正常なので、すばやい跳び直りがみられます。

姿勢反応試験

ナックリング

肢の背側表面を床につけて評価。
正常なら、すばやく正常な位置に戻す。
跳び直り反応


片方の肢を地面から持ち上げたまま、動物を傾けて、
評価する肢の方向へゆっくりと動かす。
正常なら、動かした方向にすばやく肢を持ち上げて移動させる。
手押し車反応後肢を持ち上げて前肢だけで歩行させる。
片側歩行反応片側の前後肢を持ち上げて、前方と側方への歩行を評価。

病変の位置を特定するという観点からは、姿勢反応検査の異常は、通常、UMN徴候と解釈されます。追加で筋の緊張と脊髄反射の検査を行って確定していきます。

筋肉の緊張と大きさ

触診と、肢の可動域の動きによって、筋の萎縮と筋の緊張が評価できます。筋萎縮は、筋肉を使用しないことで徐々に起こったり、筋を支配するLMNの病変(神経原性萎縮)によって急激に引き起こされたりします。個々の肢の筋肉を神経支配しているそれぞれの神経分節と末梢神経についてはわかっているので、限局的な筋萎縮が一つの肢に認められるなら、病変が末梢神経、神経根、脊髄灰白質のどの位置であるのか、が正確に特定できます。

筋の腫脹や肥大は、ある種の筋症の特徴です。筋緊張は、LMNの病変が明らかな動物では低下して、UMN病変のみられる動物の伸展筋では緊張が亢進します。極度の筋緊張の変化は、シッフ・シェリントン症候群の動物と除脳固縮と除小脳固縮の動物でみられる可能性があります。

脊髄反射

脊髄反射の評価は、神経性疾患がUMNなのか、LMNなのか、を鑑別する上で信頼できる方法です。脊髄反射と筋緊張は、LMN疾患では低下か消失、UMN疾患では正常か亢進しています。側方横臥の状態で保定してリラックスしている状態で、脊髄四肢反射を評価します。

消失・低下・正常・亢進の4段階で、反射を区別します。著しいLMN病変では、隔日に反射の消失や低下がみられます。UMN病変では、亢進します。他の神経学的な欠陥が認められない状態での反射亢進には意味がありません。興奮しているか、神経質な正確である、と考えるのが妥当です。

犬や猫で最も有効な四肢反射は、膝蓋腱反射、坐骨神経反射、後肢引っ込み(屈曲)反射、前肢引っ込み(これも屈曲)反射です。

脊髄反射

反射刺激正常な反応脊髄分節
前肢引っ込み前肢端をつまむ肢を引っ込めるC6・C7・C8・T1
膝蓋腱膝蓋靭帯を叩く後膝関節の伸展L4・L5・L6
後肢引っ込み後肢端をつまむ肢を引っ込めるL6・L7・S1
坐骨神経

大転子と坐骨間の
坐骨神経を叩く
後膝関節と
踵関節の屈曲
L6・L7・S1

前脛骨筋

脛骨の基部付近の
前脛骨筋の筋膜を叩く
踵関節の屈曲

L6・L7

会陰

会陰をつまんで刺激

肛門括約筋の収縮
尾を尾側に屈曲
S1・S2・S3
外陰部神経
球海綿体

陰部か尿道球を圧迫

肛門括約筋の収縮

S1・S2・S3
外陰部神経
皮筋


脊柱のすぐ傍の
背中の皮膚を刺激

体幹皮筋の収縮


重度の脊髄病変よりも
尾側で反応は消失
T3-L3間の病変の特定に用いる


膝蓋腱反射
側方横臥の状態で、後肢の膝関節を部分的に屈曲させた状態で保持して、膝蓋靭帯を打診槌の平らな面で叩いて、四頭筋線維の伸展を評価します。正常なら、反射的なキックが起こります。四頭筋の反射性の収縮です。

この反射は、単シナプス性の筋伸長(伸展)反射で、大腿神経とL4、L5、L6の脊髄神経、神経根と脊髄分節に含まれる感覚成分と運動成分の両方が関与しています。膝蓋腱反射が弱いか消失してると、大腿神経もしくはL4-L6脊髄分節、神経路の病変の存在を示唆します。頭部からL4脊髄分節の間の病変では、典型的な反射亢進を引き起こします。

後肢引っ込み反射(屈曲反射)
趾間部をつまみます。正常なら肢を引っ込めます。この反射(感覚入力)は、坐骨神経の腓骨枝と腓骨枝、大腿神経の伏在枝を通って反応します。運動出力は、坐骨神経とその分枝である脛骨神経と腓骨神経を通って起こります。臀部の屈曲は、大腿神経と腰脊髄神経によって起こるので、この反射は、坐骨神経とその分枝が破壊されていても、内側趾が刺激されたら認められます。

後肢引っ込み反射の低下は、坐骨神経やL6-S2の脊髄分節または神経根のLMN病変の存在を示唆しています。頭部からL6の間の病変では、正常~亢進した反射反応が引き起こされます。引っ込み反射は、動物の侵害性刺激に対する意識的知覚にはよらない分節性反射で、頭部からL6の間の脊髄の機能的切断は、反射の亢進(UMN)を引き起こしますが、刺激を知覚する能力はなくなってしまってます。

坐骨神経反射
大腿骨の大転子と坐骨結節から形成される切痕を触診します。打診槌の尖った方で、その切痕を叩くと、踵関節の屈曲が誘発されます。坐骨神経反射の発現には、坐骨神経、L6-S2の脊髄分節、腓骨神経が無傷であることが必要です。それらの部分の病変によって反射が低下して、頭部からL6の間のUMN病変がある場合は、正常~亢進しています。

前肢引っ込み反射(屈曲反射)
前肢の反射で信頼できる検査は、引っ込み反射(屈曲反射)です。複数の神経が関連しているので、大まかな評価しかできませんが。腕神経叢全体と頸膨大(C6-T2)の機能の評価に利用します。

趾を圧迫したり、つまんだりして、肩、肘、手根と趾の屈曲を誘発させます。末梢神経、神経根、脊髄分節における病変は、反射の減少・消失を引き起こします。脊髄C6より上位の病変では、正常~亢進した反射(UMN)が引き起こされます。

交叉伸展反射
引っ込み反射(屈曲反射)を誘発したときに、反対側の肢に、反射的な伸展が起こることを、交叉伸展反射といいます。立ったり、動いたりできない動物で、この反射が発現すると、検査した肢にUMN病変の存在が示唆されます。

会陰反射と球海綿体反射
陰部神経(感覚性と運動性)とS1-S3の仙脊髄分節の評価に用いる検査です。会陰反射では、会陰部の皮膚を鉗子でつまんで、肛門括約筋の緊張と尾の腹側への屈曲が引き起こされることを確認します。外陰部や陰茎球の軽い圧迫で、尿道球反射が刺激されて、肛門括約筋が収縮します。

陰部神経やS1-S3の脊髄分節に対するLMN傷害では、反射の消失、尿失禁、肛門括約筋の緊張消失、結果として肛門の弛緩と便失禁が引き起こされます。

皮膚体幹反射(皮筋反射)
背側の皮膚をつまむと、皮膚体幹筋の反射性収縮が両側性に起こって、皮膚全域に攣縮が生じます。この反射は、T3-L3に重度の脊髄病変が存在する症例に対する検査として有用です。そこが侵されると、後肢ではUMN徴候を示します。前肢は正常ですが、痛みを呈する部位がない限り、より正確な病変部位を特定することが難しくなります。

背中に沿って皮膚をつまんだとき、その部位で刺激された感覚神経は、脊髄に入って、求心性の感覚情報は感覚路を通って脊髄を上行します。刺激された部位とC8-T1脊髄分節との間が無傷であれば、C8-T1脊髄分節でシナプスが両側性に惹起されて、外側胸神経の運動ニューロンが刺激されて、体幹皮筋の収縮を引き起こします。

完全麻痺を起こす脊髄病変がある場合、上行性の経路が破壊されて、病変部より尾側をつまんでも、皮筋反射は誘発されません。病変部より頭側の皮膚を刺激すると反応します。攣縮がより尾側で起こる場合、すべての経路が無傷と判断できます。反応がない場合、攣縮が観察されるまで、前方に向かって刺激を進めていきます。

皮膚に分布している感覚神経は、脊髄の刺激した皮膚分節よりも、1~2椎体分、頭側にあります。なので、脊髄病変は、皮膚反射が消失した部位よりも、若干頭側に位置している、と判断します。同側性の腕神経叢やC8-T1脊髄分節、腹側神経根、脊髄神経に病変がある場合、皮膚体幹反射が片側性に消失する可能性があります。

感覚評価

つねる、などの侵害刺激に対する動物の反応を評価すると、UMNやLMN病変の位置の特定が可能になります。横断性のUMN脊髄病変が存在するときは、上行性の感覚路が障害されるので、病変部より尾側の体幹の皮膚や肢で、痛み刺激に対する感知能力は低下します。

麻痺がある場合で、軽い痛覚刺激に対して咬もうとするような反応がないなら、より強い刺激を与えて検査します。爪の付け根を強くつまんで、深部痛覚に対する反応を見てみましょう。深部痛覚を伝達する脊髄路は細くて、両側性の多シナプス性で、脊髄白質の深部に位置しています。非常に重度な両側性の脊髄病変のみが、完全にこれらの経路を遮断するので、深部痛覚の感知能は、脊髄傷害の重度な動物の重要な指標になります。

肢の引っ込み反射は、完全な反射弓(末梢神経、脊髄分節)の存在を示すだけで、行動的な反応には、脳に上行する感覚性脊髄路も完全に通じていることが必要であることを覚えておきましょう。

肢のLMN麻痺が明らかなときは、正常と異常な感覚の境界を正確に捕らえることが、末梢神経、背側神経根、脊髄分節の病変部位を特定する手段です。皮膚を、止血鉗子などでつまんで、感覚の消失・低下している部位を特定しましょう。

疼痛・痛覚過敏

疼痛範囲や可動性制限をみつけるために、頸部、脊椎、肢、筋肉、骨、関節をしっかり触診しましょう。疼痛は、その病変に直接かかる部位で激しくなるので、病変の部位を特定するための神経学的検査として重要です。

外傷性や炎症性の疾患の多くは痛みを伴いますが、変性性や先天性の疾患では、疼痛はあまりありません。腫瘍性疾患も、髄膜・神経根・骨の歪みを引き起こすので、疼痛があるのが通常です。

先ずは、動物の姿勢や歩様を観察しましょう。頸部疼痛を呈する動物は、頭頸部を伸展した状態になって、頭部を低くして、頸部を側方に向けようとしません。横を向くときには、体全体を旋回させます。胸椎や腰椎に疼痛を伴う症例は、背中をかがめながら起立します。骨や関節、筋肉に疼痛を持つ症例は、歩幅が短くて、拘縮した歩様になって、散歩や運動を嫌がります。

頸部の疼痛は、一般的に、頸部脊髄、頸髄の神経根、髄膜の圧迫性・炎症性疾患に関連してみられます。頸部をゆっくり背側、側方、腹側に屈曲させて、動きと抵抗性、疼痛の有無を評価します。椎骨や頸髄軸上筋に対して、深部の触診も行います。頸部の疼痛は、髄膜、神経根、椎間板、関節、骨、筋肉から起こっているはずです。頭蓋内疾患、とくに前脳の腫瘤病変としても認められることがあります。

その他の脊椎での疼痛を評価することは、椎間板疾患、椎間板脊椎炎、腫瘍による病変の部位の特定に有用です。胸腰椎に疾患が存在する犬や猫では、病変のある脊椎上に圧を加えると、痛みを感じます。この場合、腹部の触診でも抵抗するので、脊椎や脊髄の痛覚過敏を、腹部疼痛と誤解しないように注意しましょう。

腫瘍、椎間板、靭帯の肥厚によって、脊髄後方の馬尾の部位に圧迫が生じると、腰仙部位に疼痛が引き起こされます。腰仙接合部への直接刺激か、尾を背側に牽引することに対して痛みを感じることで判断可能です。

筋肉の痛みは、肢を動かしたり、個々の筋肉を触診して評価します。触診では、筋肉内に起こった痛みと、骨と関節の異常で生じた痛みの鑑別を試みることが重要です。痛みを伴う筋肉の疾患は、炎症性疾患が主体で、免疫介在性多発性筋炎、咀嚼筋炎、トキソプラズマやネオスポーラの感染が原因となります。虚血性筋症は、筋肉対する動脈血の供給が阻害される血栓症を伴う動物で起こりますが、結果的には、重度の筋痙攣や触診時の疼痛を引き起こします。

尿路機能

重篤な脊髄病変は、尿路機能の障害に関連することがあります。膀胱の機能は、排尿の様子、膀胱の触診や圧迫排尿の試みで評価します。会陰反射と球海綿体反射が消失・低下して、肛門の緊張が低下していて、簡単に尿が絞りだせるような弛緩した膀胱が認められると、LMN病変が推察されます。部位としては、S1-S3脊髄分節、陰部神経、骨盤神経です。

頭部から仙髄の間のUMN病変では、排尿の随意的な制御の消失と、尿道括約筋の反射性興奮亢進を引き起こします。不完全な排尿と、排尿筋/尿道の協調障害が生じます。重度のUMN病変では、膀胱が緊張して、拡張して、圧縮困難になります。

脳神経

脳神経の機能不全は、単一の神経が侵される疾患、複数の神経が侵される多発性神経症、中耳や内耳、脳幹を侵す疾病を持つ場合などが考えられます。脳幹の疾病が存在する動物では、姿勢反応の異常、不全片麻痺、四肢不全麻痺や意識状態の変化などの症状が認められます。

脳神経の検査は、それほど難しくありません。

脳神経の部位評価

検査検査方法感覚入力運動機能
威嚇瞬き反応
眼に向かって手で威嚇して、瞬きをさせる視神経顔面神経
眼瞼反射
眼角に触れて、瞬きをさせる三叉神経顔面神経
瞳孔対光反射
眼に光をあてて、瞳孔の収縮を誘発視神経動眼神経
頭部傾斜検査
頭部の位置評価内耳神経
前庭動眼反射


頭部を上下左右に動かして、
正常な眼球の動き、斜視、眼振を評価

内耳神経


動眼神経
滑車神経
外転神経
鼻粘膜刺激

鉗子で鼻中粘膜を刺激して、
頭部の退避を確認する
三叉神経



顎の緊張
顎の緊張具合と口の開閉を評価三叉神経三叉神経
顔面の対称性

顔面の対称性と、瞬きの有無・口唇の牽引・耳介の動きを評価視神経
三叉神経
顔面神経

咽頭反射

咽頭を刺激して収縮を誘発

舌因神経
迷走神経
舌因神経
迷走神経
舌の評価


対称性の確認と、
摂食・節水時の舌の動きを観察
三叉神経
顔面神経
舌下神経
舌下神経


上記の検査によって得られた所見が、異常の存在を示唆するようであれば、、個々の脳神経の検査をさらに詳細に行います。

脳神経の機能

脳神経機能喪失の徴候
Ⅰ(嗅神経)嗅ぐ能力の喪失
Ⅱ(視神経)視覚喪失、散瞳、対光反射の喪失
Ⅲ(動眼神経)罹患した側の眼の対光反射の喪失、散瞳、腹側外斜視
Ⅳ(滑車神経)眼の背内側へのわずかな旋回
Ⅴ(三叉神経)

側頭筋と咬筋の萎縮、顎の緊張と力の喪失、顎の下垂
分布している領域における痛覚消失(顔面・眼瞼・角膜・鼻粘膜)
Ⅵ(外転神経)内側斜視、側方への凝視不能、眼球の後退不能
Ⅶ(顔面神経)唇・眼瞼・耳の下垂、瞬き不能、口唇の牽引不能、涙の産生低下
Ⅷ(内耳神経)運動失調、頭部傾斜、斜視、難聴
Ⅸ(舌因神経)咽頭反射の喪失、嚥下困難
Ⅹ(迷走神経)咽頭反射の喪失、咽頭麻痺、嚥下困難
XI(副神経)僧帽筋・胸骨骨筋・上腕頭筋の萎縮
XII(舌下神経)舌の脱力

威嚇瞬き反応・視覚・瞳孔の検査
視神経は、威嚇瞬き反応、視覚、瞳孔の対光反射に対する求心性の要素として重要です。

初めに、一方の眼を覆って、反対側の眼の威嚇瞬き反応を評価します。次に、手や指を検査したい眼に向かって進めていって、瞬き反応をみますが、眼瞼や睫毛、角膜を刺激する風を起こさないように注意しましょう。それらの反応は、三叉神経に支配されています。

威嚇瞬き反応は、学習性の反応なので、10~12週齢までの子犬や子猫では生じません。加えて、急な動作を行ったり、物を落としてみて、その動きを追いかけるかどうか、を確認することで、周囲環境に対する反応も観察します。

瞳孔の大きさは、安静時に十分明るい部屋で検査してから、薄暗い部屋に移して検査をします。それぞれの瞳孔に、収縮と散大が、一方の眼に明るい光を当てることで生じるかどうか、を評価して、次に反対側の眼に光を当てて同様の反応を確認します。その後、もう一度、最初に検査して眼に戻って確認しましょう。動眼神経の副交感神経索が、瞳孔の収縮機能に関与しています。

斜視・眼振・頭部傾斜の検査
斜視、眼振、頭部傾斜を検査するために、先ずは、眼球が眼窩内の正常な位置にあるか、安静時の眼振に異常が認められるか否か、を判定します。自発性の眼振は、中枢性前庭病変とCN8の前庭部分の病変、小脳の病変のいずれかを示唆します。頭部斜頸も、同じ部位の病変によって引き起こされます。

眼球の異常な位置(斜視)は、前庭疾患、外眼筋の神経支配(CN3、CN4、CN6)の疾患や傷害を示唆しています。動眼神経(CN3)の機能障害は、腹外側斜視を引き起こして、背側、腹側あるいは内側への眼球の回転ができなくなります。外転神経(CN6)の病変は、内側斜視を引き起こして、側方を見ることができなくなって、滑車神経(CN4)の病変は、眼球の背外側回転を引き起こします。これらCN3・CN4・CN6神経の病変は、通常、併発して、完全な外眼筋麻痺を引き起こします。

前庭障害は、通常、頭部と頸部を伸展させた間のみに明らかになる、病変側の腹側斜視(眼球の落ち込み)が引き起こされます。

上記の神経機能の迅速な評価は、頭部を左右に動かして、前庭動眼反射を誘発して行います。頭部を徐々に右側に傾けると、両眼の視線は、徐々に左側に流れた後、反射的に右方に移動して、再び中心部に位置するようになります。頭部を左右の方向に動かして、正常な前庭性眼球運動(生理的眼振)を評価します。

眼球の運動が正常か異常かを判断するために、頭部を左右に動かすことに加えて、動物の頭部を左右の側方位で静止した状態に固定して、異常な眼振が生じるかどうか、を判定します。正常ならば、頭部を静止させたときに眼振は認められません。重篤な中枢性・末梢性の前庭病変ならば、安静時の眼振は頭部の位置に関わらず認められます。それほど重篤ではなく、代謝性の前庭障害などならば、頭部を固定したときに、異常眼振が数回誘発されます。頭位眼振といいますが、これは、頭部と頸部を伸展させた状態で、動物を背伏位(仰臥位)にしたときにだけ明らかになる場合があります。

三叉神経(CN5)の検査
三叉神経(眼枝と上顎枝)は、顔面の皮膚、角膜、鼻中隔粘膜、鼻咽頭粘膜、上顎の歯と歯肉の感覚神経支配を担っています。下顎枝は、顔面の下顎部と口腔の感覚神経支配と同時に、咀嚼筋に対する運動性機能も司っています。感覚性機能は、角膜ならびに眼瞼の反射、鼻中隔粘膜の刺激に対する反応、顔面の皮膚をつまむことで、検査します。

運動性機能は、咀嚼筋の大きさと対称性と開口時の下顎の抵抗性を評価することで検査されます。両側性の三叉神経の運動性麻痺によって、下顎が落ちて、閉口できない状態が起こります。

角膜感覚の喪失では、反射性の涙と栄養因子の放出が減少して、角膜炎(神経栄養性角膜炎)や、ひどくなれば角膜潰瘍が引き起こされます。

顔面神経(CN7)の検査
顔面神経は、顔面の筋肉の運動神経支配と、舌の吻側の2/3(味覚部分)と、口蓋の感覚神経支配に関与しています。副交感神経性の線維が、涙腺と下顎と舌下の唾液腺を支配していて、シルマーテストで評価可能です。

運動性機能は、顔面の対称性と自発性の瞬きと耳の動作の観察、さらには、角膜、眼瞼反射、威嚇瞬き反応、皮膚をつねったときの顔面の収縮(これはCN5支配)を同時に検査することで評価されます。顔面神経の経路は、顔面の筋肉に分布する手前で中耳を通過するので、中耳病変が機能障害を引き起こす可能性があります。

舌因神経(CN9)・迷走神経(CN10)・舌下神経(CN12)の検査
舌因、迷走、舌下神経は、咽頭反射や正常な摂食と飲水の要素として、同時に評価されます。舌因神経は、咽頭と口蓋の運動神経支配と、舌の尾側1/3と咽頭の感覚神経支配を担っています。耳下と頬骨の唾液腺に、副交感性の刺激を与えています。迷走神経は、喉頭、咽頭、食道の運動、感覚神経支配、胸腔・腹腔内臓器の感覚神経支配を司っています。迷走神経の副交感性部分は、胸腔・腹腔内臓器の大部分の運動神経支配を担っています。舌下神経は、下の運動神経支配を担っています。

飲み込んだりする動作と咽頭反射については、飲み込みを誘起するために、舌に対して外からの圧をかけたり、咽頭反射を誘起するために、咽頭を外部から手で刺激したりして評価します。動物の摂食・飲水状態を観察することでも、評価可能です。

CN10(迷走神経)の交感神経部分は、眼球を指で押したとき、正常に起こる反射性の徐脈によって確認できます。舌下神経については、舌の萎縮や非対称性のないことを視診で評価します。摂食や飲水の様子や、鼻の上を舐める舌の動きの観察によっても評価できます。

病変部位の特定と診断

神経学的検査が完了したら、動物の精神状態、姿勢、歩様、前肢、後肢、会陰、肛門、膀胱について、正常か、異常か、を診断します。疾患が、大後頭孔よりも上位に存在する場合、症状をみて脳病変の特定部位を確定させます。脊髄疾患の症例では、それぞれの肢について、神経学的な異常がUMNなのか、LMNなのか、を確定することで、病変の脊髄の範囲や特定脊髄部位を決定します。LMN徴候が単一の肢に存在するときは、罹患した筋を特定すると病変部位を正確に特定できることが多くて、感覚神経も侵されているなら、皮膚分節の感覚を検査することで、より正確な位置を特定できます。局所的な痛覚過敏も、正確な病変部位の特定に役立ちます。

神経性病変の部位が特定されたら、考えられる鑑別診断リストを作成してきましょう。

 診断について

症例の年齢、性別、犬種・猫種、生活環境から、根底にある疾病を推測する手掛かりが得られることがあります。若齢の動物なら、先天性・遺伝性の疾患であることが多くて、中毒や感染症の疑いも強くなります。老齢動物では、腫瘍性の疾患や変性性の疾患が原因である可能性が高くなります。犬種によっては、その犬種に特異的な疾患もあるでしょう。

初発と経過
神経学的徴候の初発と進行経過の評価は、鑑別診断の前に必要なこともあります。急性なのか、慢性的なものなのか、どれほどの時間をかけて進行したものなのか、を確認します。

急性なら、神経学的徴候が起こったときは、まさに発生初期の状態で、数分から数時間以内に起こった変化と考えられます。症状は、非常に早い段階で最大強度に発現して、その後は、静的に推移するか、徐々に改善していきます。外傷や梗塞、出血性、中毒性の神経疾患などでよくみられる状態です。腫瘍のように緩徐に進行する疾患であっても、腫瘍部位からの出血や骨折によって、急性の神経性症状を呈することがあります。それは、しっかりとした問診から推測できることがあります。

数日~数週間かけて進行する亜急性の神経性疾患は、炎症性疾患や急速に進行する腫瘍、代謝性疾患や栄養性疾患などが分類されると思います。中毒によっては、徐々に進行するものもあります。

数週間~数ヶ月以上かけて、ゆっくり進行する慢性的な進行性徴候を示す症例は、腫瘍性、変性性の疾患が存在しているもの、と考えられます。

全身徴候
併発性の全身的な異常が特定できると、腫瘍性、代謝性、炎症性の神経系の疾患の診断の助けになります。神経系の疾患を疑う全ての動物に対して、眼底検査を含めて全身の検査を行うべきです。