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神経系の疾患/神経筋障害検査

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神経筋障害の検査

血液検査所見が特異的であることはほとんどありませんが、白血球の増加は、炎症性疾患を示唆していて、例えば、細菌性髄膜炎や脳炎では、重度の炎症と好中球の左方移動が予期されます。急性のジステンパーウイルス感染では、リンパ球の減少に加えて、赤血球とリンパ球における封入体の確認できることがあります。門脈体循環シャントでは小赤血球症が一般的ですし、脳や脊髄のリンパ性腫瘍で併発性の白血病がみつかることもあります。

代謝性疾患が、神経障害や脳障害、発作の原因となることがあります。それも血液検査で確定できます。糖尿病、低血糖、低カルシウム血症、低カリウム血症、尿毒症所見がみられたら、注意しましょう。末梢神経障害を呈していて、コレステロール値が上昇しているなら、甲状腺機能低下症を疑うべきですし、前脳徴候を呈していてALT・ALPの高値や低アルブミン血症の所見があれば、肝性脳症も考えられます。トキソプラズマや転移性腫瘍などの存在も推察できる場合がありますし、CK値の上昇は、筋肉の炎症・壊死が疑われます。

尿比重は、原発性腎性高窒素血症と腎前性高窒素血症を区別するのに有効です。頭蓋内の疾患で摂水をやめたり、尿崩症が進行すると、高ナトリウム血症が起こります。極度の低ナトリウム血症・高ナトリウム血症や、電解質の急速な補正は、脳の機能障害を引き起こします。門脈シャントでは、尿酸アンモニウム結晶が尿中に認められることもあります。

諸検査

前脳症状を呈している症例に対して、肝性脳症を除外するためには、胆汁酸検査を行うこともありますし、抗痙攣薬を服用しているならば、肝機能を監視するために、定期的な血液検査は欠かせません。

中枢神経系の出血が考慮される場合には、凝固系の検査(PTやPTTなど)を実施すべきです。神経症状を呈する動物で、内分泌系の疾患(甲状腺機能低下症、副腎皮質機能亢進症・低下症)が疑われるならば、内分泌検査を行うことが推奨されます。

 免疫学的検査

神経系の疾患で、感染性・免疫介在性の診断が考慮されるときは、いくつかの特異的な検査が可能です。脳、脊髄、髄膜の炎症性疾患があるなら、脳脊髄液・血液・尿の細菌培養を実施しましょう。

血清中の抗体・抗原検査も、中枢神経系の疾患に罹患する可能性のある多くの感染性病原体に対して利用できます。脳脊髄液中に、特異的な抗体力価の上がっていることがあります。その他、免疫組織学的染色で、組織中の病原体が特定されることもあります。PCRを使うこともあるでしょう。

ステロイド反応性の髄膜炎や肉芽腫性髄膜脳脊髄炎など、免疫介在性の中枢神経系の疾患は、犬でよくみられます。感染性疾患を除外した後、血清や脳脊髄液のIgA値の上昇を確認すると、診断の助けになります。多発性神経症や多発性筋症など、複合性免疫介在性疾患に罹患した犬は、抗核抗体の力価を測定して、全身性エリテマトーデスの診断補助として利用します。後天性重症筋無力症では、循環中のアセチルコリン受容体の抗体の検出が可能で、咀嚼筋炎では2M型筋線維に対する抗体が検出できます。

 画像診断

X線検査
脊柱のX線検査は、先天性奇形、骨折、脱臼、椎間板疾患、椎間板脊椎炎、椎骨の腫瘍を診断するために、必須の検査です。神経学的検査に基づいて、重要な部分を中心にX線撮影を行います。脳や脊髄の軟部組織腫瘍は、X線検査上では異常を示しません。頭蓋のX線検査はそれほど有益ではないのですが、骨融解の範囲、腫瘍の石灰化領域、鼻腔内腫瘤の所見については診断の助けになります。

脊髄造影
脊髄の疾患や圧迫のある症例では、病変の確認、位置の確定、病変の特徴を得るために、脊髄造影が行われます。とくに、椎間板ヘルニアや腫瘍による圧迫の確認に有用です。CT検査やMRI検査よりも簡易で費用も安いですが、併発症の発生率は高くなります。例えば、髄膜炎に罹患している動物への造影剤の注入は、炎症や症状を悪化させるので、非炎症性の場合のみ、実施すべきです。

麻酔をかけて、非イオン性造影剤を、大槽(小脳延髄槽)部もしくは腰部(L5あたり)のクモ膜下腔に注入します。大槽脊髄造影では、大槽穿刺による脳脊髄液の採取と同様の手技で行います。穿刺針を挿入して、針先の斜面は尾側に向けて造影剤を緩徐に注入すると、脊髄クモ膜下腔を尾側に流れていきます。体を持ち上げると尾側への流れが促進されて、10分以内にクモ膜下腔の尾側末端まで不透化します。

腰髄造影は、大型犬はL5-L6間、他はL6-L7間に穿刺針を刺入します。針先は頭側に向けて、まずは少量(0.2mL)の造影剤を注入して、脊髄実質に造影剤が入っていないことを確認します。穿刺針の位置がよければ、透視下で注入を行って、針を設置したままでX線撮影を行います。硬膜外への漏出が穿刺部位から起こることがあるので、穿刺針を抜いたら、X線写真で確認しましょう。

脊髄造影後、てんかん発作を起こすことがあります。多いのは大型犬で、大槽脊髄造影を実施した場合、造影剤を2回以上注入した場合にもみられます。発作があれば、ジアゼパム(5~20mg、iv)を用いて処置します。造影後に神経症状の悪化する症例もありますが、一過性です。

超音波(エコー)検査
転移性の腫瘍が神経症状の原因として考えられる場合、腹部エコー検査が意味のある検査になります。門脈体循環シャントの有無をエコーで確認することも、肝性脳症を診断する上で有用です。開口した泉門からの脳のエコー検査で、水頭症の診断も可能です。

CT検査・MRI検査
非侵襲で行える検査として有用です。椎体や頭蓋の骨の異常、圧迫病変や微細な変化もとらえられるので、必要に応じて、設置している大きな病院で行ってもらうといいでしょう。

 脳脊髄液の採取と解析

特定の神経系の疾患では、脳脊髄液中の細胞や蛋白濃度が特異的な変化を起こすことがあるので、診断の助けになります。細菌培養、病原体の特定、抗体の定量なども実施可能で、感染性の中枢疾患に罹患した症例では、確定診断につながることもあります。

診断が難しく、外傷・代謝・先天性異常とは考えられないような神経系の疾患に対しては、積極的に行っていいと思います。特に、脊髄疾患が明らかなら、炎症性疾患の除外のために常に行うべきでしょう。進行性の前脳症状を起こす病変が頭蓋内で見られる場合、発熱や疼痛を伴う疾患において、より有用な検査となる可能性があります。

適切な手順で行えば、脳脊髄液の採取は、安全で簡単です。全身麻酔を行って、穿刺部位の毛を刈って、消毒を行います。不要な感染が起こさないことが重要です。麻酔の危険が明らかに予想される症例や、重度の凝固異常の動物には実施してはいけません。頭蓋内圧の上昇が疑われる症例では、脳ヘルニアの危険性を避けるために、脳圧降下の処置をしてから実施します。頭蓋内圧の減圧には、20%マンニトール(1g/kg)を静脈内に15分以上かけて投与を行い、同時にフロセミド(1mg/kg、iv)の投与を行います。麻酔は、短時間で終わらせましょう。

頭蓋内圧上昇の疑われる症状
抑うつした状態や異常な行動
瞳孔の収縮、散大、反応の消失
徐脈
血圧上昇
呼吸状態の変化   など

最も適切な脳脊髄液の採取部位は、小脳延髄槽(大槽)です。ここから採取するのが、頭蓋内疾患の正常を最もよく反映します。腰椎穿刺は、脊髄疾患の特徴をよく反映するようです。腰髄への穿刺部位は、L5-L6間です。

採取された脳脊髄液は、無色透明です。採取したら、細胞数、赤血球数、白血球数を算定します。正常なら、白血球数は5個/μL以下、蛋白濃度は25mg/dL以下です。細胞のほとんどは、小型の成熟リンパ球です。腰髄から採取した脳脊髄液の蛋白量は少し高めになります。蛋白分画も調べておきましょう。細菌感染が疑われたら、細胞培養を行って評価します。

 電気生理学的検査

一般の動物病院では行わない検査ですが、筋電図や網膜電位、脳波を測定すると、神経系の疾患の病変部位の特定と特徴づけができることがあります。

正常な筋肉は、電気的に不活性です。正常な筋に針を刺入すると、電気活性の短い突発波が起こって、針の挿入を止めると止まります。筋肉への末梢神経支配の切断、破壊、脱髄があると、自発性の筋肉の細動が起こったり、鋭利な陽性波がみられたり、針の刺入に伴う活動電位の延長がみられます。

網膜電位(ERG)は、発光刺激に対する網膜の電気反応を記録したものです。ERGは、桿体と錐体受容体を評価することで、網膜機能を評価します。網膜の変性性疾患では、ERGは異常を示しますが、視覚機能の障害が網膜より後方の視神経・視交叉・視索・大脳皮質にあれば、ERGは正常です。

脳波は、大脳皮質の自発的な電気活性を記録したものです。てんかんの犬では、発作と発作の間に異常な脳波がみられることもあります。

 生検

筋疾患の疑いがあるなら、筋生検を行うといいかと思います。確定診断が可能なこともありますし、疾患の進行性を確認できる場合もあります。全身性の疾患では、2箇所以上の筋肉を採取します。筋の障害では、外側広筋や三頭筋など、近位の肢の筋を生検すべきで、神経障害では、頭側脛骨筋や橈側手根伸筋などの遠位の肢の筋肉を採取すべきです。検査では、筋肉が萎縮しないような採材方法が必要です。凍結標本を作製することも有効です。免疫染色などを行って、筋線維の分類や病原体の検出ができることもあります。

末梢神経疾患を評価するために、神経の生検材料を採取することもあります。腓骨神経と尺骨神経は、運動神経と感覚神経が混在していることから、よく生検される神経です。