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神経系の疾患/脊椎・脊髄の疾患

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脊椎・脊髄の疾患

先天性奇形は出生時から存在して、非進行性で、品種に関与することが多いようです。外傷、Ⅰ型椎間板逸脱、血行障害(出血、梗塞)の多くは急性発症で、非進行性の徴候を示します。感染性・非感染性炎症性疾患は亜急性で進行性です。腫瘍や変性性疾患は、緩徐に進行します。

脊髄病変の局在診断

脊髄病変を有する犬と猫の神経学的所見

病変前肢後肢
C1-C5
C6-T2
T3-L3
L4-S3
UMN
LMN
正常
正常
UMN
UMN
UMN
LMN

神経学的検査を実施して、姿勢反応、プロプリオセプション、強度、筋の緊張、脊髄反射を評価すると、脊髄病変の位置を決定できます。脊髄は機能的に四つの領域に分けられます。頭側頸髄(C1-C5)、頸部脊髄膨大部(C6-T2)、胸腰部(T3-L3)、腰部脊髄膨大部(L4-S3)となります。

各脊髄領域を侵す疾患

C1-C5C6-T2T3-L3L4-S3
椎間板疾患
線維軟骨塞栓症
出血
骨折・脱臼
椎間板脊椎炎
髄膜脊髄炎
肉芽腫性髄膜脊髄炎
腫瘍
クモ膜嚢胞
脊椎関節嚢胞
頸椎脊髄症
環軸亜脱臼
ステロイド反応性
   髄膜炎・動脈炎
椎間板疾患
線維軟骨塞栓症
出血
骨折・脱臼
椎間板脊椎炎
髄膜脊髄炎
肉芽腫性髄膜脊髄炎
腫瘍
クモ膜嚢胞
脊椎関節嚢胞
頸椎脊髄症
腕神経叢裂離


椎間板疾患
線維軟骨塞栓症
出血
骨折・脱臼
椎間板脊椎炎
髄膜脊髄炎
肉芽腫性髄膜脊髄炎
腫瘍
クモ膜嚢胞
脊椎関節嚢胞
変性性脊髄症



椎間板疾患
線維軟骨塞栓症
出血
骨折・脱臼
椎間板脊椎炎
髄膜脊髄炎
肉芽腫性髄膜脊髄炎
腫瘍
馬尾症候群
二分脊椎
仙尾椎発育不全



 C1-C5病変

頭側頸髄の病変は、四肢の上位運動ニューロン(UMN)性不全麻痺の原因となります。後肢への脊髄路は、前肢よりも脊髄の表面近くに位置しているので、C1-C5に軽度の脊髄圧迫性病変があると、前肢よりも後肢に神経学的な欠損の悪化が認められます。

C1-C5の中心管の病変(髄内腫瘍、梗塞、水脊髄症など)は、後肢への白質路が表層に位置するので、後肢の機能は正常に近くて、前肢での重度のUMN障害を起こします。C1-C5脊髄における病変の多くは、長い歩幅の歩様失調を引き起こします。プロプリオセプションの減少(緩慢なナックリング)を含む、姿勢反応の欠如、伸筋緊張の増加、四肢の脊髄反射の亢進もみられます。

頸髄の片側性病変は、片側不全麻痺と同側の前肢と後肢のみのUMN徴候を引き起こします。深部痛覚が消失するほどの頸部の病変は稀です。そこまで重度の損傷病変になると、完全な呼吸麻痺で急死します。

 C6-T2病変

C6-T2の脊髄病変では、四肢すべてに不全麻痺を起こして、後肢に顕著な失調を認めます。腕神経叢の神経細胞体を含む脊髄分節が侵されると、前肢の顕著な虚弱、短い歩幅のよちよち歩行、筋萎縮、脊髄反射の低下といった下位運動ニューロン(LMN)徴候が認められます。

この領域の上行性・下行性の脊髄路の障害は、運動失調、歩幅の延長、プロプリオセプションの消失、姿勢反応の遅延、伸筋緊張の増加、反射の亢進といった後肢UMN欠損を引き起こします。脊髄の中心のみに病変がある場合は、表層の後肢への脊髄路が損傷を受けないので、前肢LMN徴候が顕著になります。

C6-T2病変が片側性のときは、同側の前肢と後肢が障害されます。T1-T2の脊髄分節や神経根が侵されるとホルネル症候群が認められます。C8-T1の脊髄分節や神経根が障害されると、同側の皮筋反射が消失します。横隔神経の起始部がC5-C7に存在するので、この領域の病変は、横隔膜麻痺も引き起こします。

 T3-L3病変

T3-L3の脊髄病変は、後肢にUMN性不全麻痺と運動失調を引き起こします。前肢は正常です。後肢の検査で、協調不能で延長した歩幅、プロプリオセプションの消失、姿勢反応の遅延、伸筋緊張の増加、脊髄反射の亢進が認められます。

この領域の脊髄圧迫性病変では、重症度が増すにつれて神経学的欠損の悪化が顕著になります。重度の局所的病変では、病変部位よりも尾側の皮筋反射が消失します。

圧迫性脊髄病変の重症度評価

重症度後肢の異常

軽度











重度

病変部の疼痛

プロプリオセプションの消失

運動失調

起立・歩行困難

浅部痛覚消失
随意運動消失
(完全麻痺)

尿停滞
UMN性膀胱

重度深部痛覚消失

 L4-S3病変

腰部脊髄膨大部の病変で、後肢にLMN徴候が誘起されます。重度の虚弱、筋萎縮、反射消失が後肢に認められます。前肢は正常です。歩行可能な状態だと、後肢に狭い歩幅の歩様が認められます。重度の病変では、膀胱機能障害と、尻尾や肛門括約筋の不全麻痺や麻痺が認められます。脊柱管内で、脊髄週末より尾側に広がる腰椎、仙椎、尾椎の神経根(馬尾)を圧迫する病変では、その部位の疼痛と、LMN障害が起こります。

 診断について

神経学的検査に基づいて脊髄領域の病変局在診断を行います。脊髄分節は、椎骨の位置と直接的に相関しないことを認識しておくことが重要です。

椎体内の脊髄分節の位置

脊髄分節椎体
C1-C5
C6-T2
T3-L3
L4
L5-L7
S1-S3
尾髄
馬尾脊髄神経
C1-C4
C4-T2
T2-L3
L3-L4
L4-L5
L5
L6-L7
L5

頸部脊髄膨大部のC6-T2脊髄分節は、C4-T2椎骨内に位置しています。腰部脊髄膨大部のL4-S3脊髄分節は、犬でL3-L5椎骨内に、猫ではL3-L6椎骨内に位置しています。脊髄は、脊柱管よりも短くて、尾側の分節終末はそれぞれ犬でL6椎骨、猫でL7椎骨付近です。L7、仙髄、尾髄の脊髄分節から発生する神経根(馬尾)は、脊柱管内を尾側へ走行して、同じ番号の椎骨の尾側のすぐ脇に存在する椎骨の出口に向かいます。その解剖学的な特性から、腰仙椎領域での圧迫性障害を受けやすくなります。

脊髄病変が、適切な脊髄分節領域と椎骨に特定されたら、病因を特定するための検査を行うのが通常です。障害脊髄分節を含めて、脊椎のX線検査は行いましょう。脊椎奇形、外傷による亜脱臼、椎間板脊椎炎、椎体骨折、椎間板疾患、脊椎融解性腫瘍などが確認できます。脊柱管内の圧迫性や拡張性を明らかにするには、脊髄造影やCT検査・MRI検査を実施します。腫瘍や炎症をみつけるための脳脊髄液検査も必要です。ミエロパチー(脊髄障害)の鑑別として全身性の感染症や腫瘍性疾患が考えられる場合は、胸部・腹部のエコー検査、リンパ節吸引、眼検査、血液検査などが診断の助けになります。

急性脊髄障害

 外傷

脊柱管の外傷性障害はよくみられます。脊椎の骨折や脱臼、外傷性椎間板逸脱がよくある疾患です。脊柱管の骨破壊がなくても、外傷で二次的な重度の脊髄挫傷や浮腫の起こることがあります。

症状
脊髄外傷による症状は急性で、一般的には非進行性です。通常は、疼痛を示して、ショック、裂傷、擦過傷、骨折などが認められます。脊髄損傷の局在と広がりを調べるために、神経学的検査を行います。脊椎が安定していることを確認するまでは、過度の触診や回旋を避けておきます。

診断
視診で容易に診断が可能です。それよりも、生命の危機に瀕していないかどうか、を判断しなければなりません。ショック、気胸、肺挫傷、横隔膜破裂、胆管系の破裂、膀胱破裂、頭部やその他の外傷などを注意しましょう。脊髄外傷後の最も重要な予後因子は、深部痛覚の有無です。外傷性脊髄病変よりも尾側の深部痛覚が消失していると、神経機能の回復の予後は不良です。

X線検査を行って、病変部位を特定します。可能ならば、CT検査を行うとより詳細にわかります。脊椎全体を観察して、脊椎骨折と脱臼をしっかりみておきましょう。椎体の複数個所に損傷がある場合は、外科的な処置や副子固定が必要です。脊髄圧迫を伴わない安定した骨折なら、保存療法を行います。

脊髄外傷

治療
急性脊髄損傷に対する初期治療は、血圧・血流の維持、酸素吸入と安静を確保することが必要です。神経保護作用のある水溶性のコルチコステロイドとして、コハク酸メチルプレドニゾロンナトリウムを静脈内投与をすると有効な場合がありますので、とにかく処置します。30mg/kgを緩徐に静脈内投与した後、2時間後と6時間後に15mg/kgを投与します。副作用に消化器潰瘍を起こすことが多いので、H2受容体ブロッカー(ファモチジンなど; 0.5mg/kg、SID)やプロトンポンプ阻害薬(オメプラゾールなど; 1mg/kg/日)と、粘膜保護剤(スクラルファート; 0.25~1g、PO、BID)を投与することで軽減させます。

集中的な看護がとくに重要で、必要に応じて、鎮痛薬(ブトルファノールやモルヒネ)を用いて状態を安定させます。クッションをよくした床材を用いて、頻繁に体位変換をして、床ずれを防ぐようにします。障害のある肢に対して、毎日、頻繁に、関節可動域の屈伸を繰り返し行います。尿道カテーテルの挿入も必要ですが、3日以上の留置は尿度感染の危険性を増大させるので、長期管理が必要になるなら、圧迫排尿か、定期的なカテーテル導尿で膀胱内を空にします。

UMN性膀胱や尿道痙縮が認められるなら、フェノキシベンザミン(1mg/kg)やジアゼパム(1.5~2.5mg/kg)で尿道括約筋を弛緩させて、圧迫排尿を容易にして膀胱損傷を軽減させます。肢に随意反応が戻り始めたら、理学療法の回数を増やします。運動可能になれば、水泳など体重負荷の少ない運動で、随意運動を刺激して、肢への血液循環を促します。

予後
回復の予後は、損傷の程度と部位によります。不安定な頸椎骨折は、受傷時の死亡率は高くて、術中も予断を許しません。呼吸機能不全による急死を逃れることができれば、回復の予後は良好です。

胸部、腰部脊髄損傷でも随意運動が失われていない場合は、予後良好で、完全な機能の回復が見込まれます。麻痺はあっても、正常な膀胱機能と深部痛覚があるなら、回復具合はまずまずです。深部痛覚が消失すると、回復はあまり期待できません。

UMN徴候を示す白質病変の方が、頸部や腰部膨大部のLMN徴候を示す病変よりも、予後はいいようです。脊髄損傷で麻痺を呈する症例では、損傷後21日までに回復兆候がみられないと、予後不良です。今は、脊髄損傷に対して、幹細胞療法を行うと回復する症例がありますので、できるだけ早い持期に、実施可能な動物病院にコンタクトを取って、治療を開始すると完全回復することもあります。

 出血・梗塞

脊柱管内の非外傷性出血は、急性の神経学的欠損と疼痛(知覚過敏)を引き起こします。血友病、フォンヴィレブランド病、後天性出血障害(ワルファリン中毒や血小板減少など)、血管奇形、腫瘍などで知られています。出血は、硬膜下や硬膜外に起こります。

症状は急性で、進行性はありません。MRI検査での診断が必要になりますが、全身性出血障害や腫瘍とともに神経症状が出ている場合は疑われます。出血原因を治療することと、出血による脊髄圧迫を外科的に減圧が必要になることもあります。

血栓による脊髄梗塞が神経機能不全の原因となることは稀ですし、生前の確定診断は困難です。CT検査やMRI検査で偶然に見つかれば、支持療法を行います。

 急性椎間板疾患

椎間板は、外周の線維層(線維輪)とゼラチン様中核(髄核)で形成されています。髄核は、加齢と共に、徐々に線維性軟骨に置き換わっていきます。軟骨異栄養性犬種では、髄核基質が変性・鉱化して、椎間板破裂を起こしやすくなることがあります。

脊髄と椎間板

背側線維輪を穿通する脊柱管内への鉱化した髄核の逸脱では、ハンセンⅠ型に分類される脊髄挫傷や脊髄圧迫(椎間板ヘルニア)が誘起されます。ダックスフント、トイプードル、ペキニーズ、ビーグル、コーギーなどが好発犬種です。

頸部椎間板疾患
主な症状は、頸部痛です。動くことでも痛みを感じることがあって、動くたびに鳴くことがあります。頭部と頸部を伸展した姿勢を取って、床に置かれた食器からの食事や飲水を嫌がります。罹患犬の中には、神経根刺激と頸部筋痙縮の不快感を軽減するために、起立時に片側の前肢を挙上することがあります。神経根徴候と言われるものですが、どの部位の頸部椎間板疾患でも認められます。神経根と髄質の圧迫が、頸部痛の原因となります。

頸部における脊柱管の直径が非常に大きいために、脊柱管内に大量の椎間板物質が突出したときでも、重度の脊髄圧迫はまれです。重度の脊髄圧迫や脊髄震盪が起こった場合、四肢すべてにUMN性不全麻痺や麻痺が認められて、前肢よりも後肢の方が、より重度の症状を示します。頸部尾側椎間板逸脱(C6-C7、C7-T1)では、前肢にLMN性の虚弱と肩甲筋の萎縮、後肢にUMN性の麻痺が引き起こされます。

Ⅰ型椎間板逸脱による脊髄圧迫の症状は、左右対称ですが、片側性の椎間板ヘルニアでは、非対称性の症状を示すことがあります。一般的には、C2-C3椎間板が最も罹患しやすい部位で、C3-C4→C7-T1へと向かうに従って、罹患率が減少します。頸椎奇形不良関節症候群(ウォブラー症候群)では、C6-C7椎間板が最もヘルニアを起こしやすい部位です。

  •  診断
    頸部痛の症状から疑いを持って診断を行いますが、通常、頸部椎間板疾患では、病的な発熱や体重減少はなく、頭蓋内疾患を疑わせる神経学的異常もありません。髄膜炎、脊椎炎、脊椎腫瘍、多発性関節炎、骨折・脱臼などとの鑑別を行うために、X線検査を行います。脊髄造影でも構いませんが、可能であれば、CT検査やMRI検査を行いましょう。
  •  治療
    •  治療内容は重症度に基づいて決まります。
    •  急性の頸部痛が1回あったのみで、神経学的欠損がない症例は、ケージ内での安静と鎮痛薬による保存療法を行います。排尿・排便時以外は、抱えておきましょう。3~4週間のケージ内の絶対安静を行った後、しばらくは家の中だけで生活をさせて、3週間は飛び上がったり走ったりはしないことが重要です。必要なら減量します。
    •  保存療法に反応しても、難治性の疼痛を示す症例があります。疼痛の再発もあります。治療開始1~2週間経っても疼痛が改善されない場合、再発する場合、頸髄圧迫を示唆する不全麻痺や麻痺を示す場合は、外科治療を行うべきです。最近では、幹細胞療法もありますが・・・。外科手術でも一応完全な回復が期待できます。

      頸部椎間板ヘルニアの治療

      重度臨床所見治療


      一時的な疼痛
      神経学的検査: 正常
      ケージレスト
      必要なら、鎮痛剤


      難治性の疼痛
      疼痛の再発
      外科的減圧術



      神経学的欠損
      疼痛
      外科的減圧術


胸部・腰部椎間板疾患
胸腰部に椎間板疾患を伴う犬の多くは、背部痛と後肢不全麻痺や麻痺で来院します。背部痛は、頸部椎間板疾患で認められるほど重度ではありませんが、背中を弓状に曲げた姿勢を取って、圧迫や腹部の触診を嫌がります。

胸腰部の脊柱管径は、頸部に比べて相対的に小さくて、そのために脊柱管内への少量の椎間板物質の逸脱があっても、脊髄圧迫と神経学的欠損が起こります。椎間板物質の圧迫作用に加えて、椎間板の破裂による脊髄の衝突性損傷が起こるのが一般的です。

この領域での椎間板ヘルニアのほとんどが、T12-T13・T13-L1に起こって、T11-L3間の逸脱がほぼ8割を占めます。後肢にUMN性不全麻痺や麻痺が生じます。L3-L4や、L6-L7の椎間板で逸脱が起こる場合は、腰部膨大部での脊髄損傷と、それに起因するLMN徴候を示します。神経学的な所見は左右対称性で、罹患した椎間板の真上の脊椎を触診すると、髄膜や神経根が刺激されて疼痛を訴えます。

  •  診断
    外傷、線維軟骨塞栓症や椎体腫瘍を鑑別するために、病変部を正確に特定します。最低限X線検査は行って、可能な限り、CT検査やMRI検査を行って確定診断をするべきです。CTやMRIは精度が高いので、脊髄圧迫を引き起こしていない椎間板ヘルニアも特定できるので、そこは注意しましょう。臨床的に意味はなく、治療は不要です。
  •  治療
    •  内科的治療と外科的治療がありますが、最近では内科的治療が主流で、治療実績も上がっています。
    •  内科治療で最も重要なのは、厳格なケージ内での安静です。線維輪回復のためには、6週間程度の安静が理想的です。鎮痛薬(NSAIDs)や抗炎症薬(ステロイド剤)を投与します。NSAIDsなら各薬剤の薬効量を投与、ステロイドならプレドニゾロン2mg/kg/日で開始して漸減していくといいかと思います。1週間以内に改善の兆しがない場合には、外科的治療を考慮します。
    •  外科減圧術は、片側椎弓切除をして、脊柱管から椎間板物質を取り除きます。術後は、運動制限して、麻痺のある症例では、褥創を予防するために体位変換を行ってあげましょう。
    •  膀胱機能が消失していれば、圧迫排尿か導尿カテーテルで排尿させます。UMN性膀胱ならば、フェノキシベンザミンとジアゼパムの投与で、括約筋圧を減圧させます。
    •  肢のマッサージや肢の外転など、受動的なリハビリは、対麻痺による神経原性萎縮や筋の線維化に役立ちます。対不全麻痺の犬に、タオルで保持して歩行補助をすることは、早期回復を促します。切開部が治癒したら、水泳をさせるのも有効です。回復が遅い犬には、車椅子を利用して、歩行に対する刺激を与えてあげましょう。
    •  術後、神経機能は1週間以内に回復します。21日以上、回復が認められない場合は、予後不良です。深部痛覚のある犬なら、回復は90%以上です。神経症状の発症から48時間以内なら、より結果はよくなります。急速に(4~6時間で)麻痺に進行する犬は、外科手術をした方がいいかも知れません。
    •  深部痛覚が消失した犬は、外科手術をした方がいいと思われますが、中には内科的に回復する症例もあります。それも、処置の開始は早ければ早いほど、予後は良くなります。それと、幹細胞療法の成功例が、どんどん増えています。

      胸腰部椎間板ヘルニアの治療

      臨床症状治療
      1回のみの疼痛
      神経学的検査: 正常

      難治性の疼痛
      疼痛の再発
      神経症状の悪化

      運動失調、プロプリオセプションの欠如
      対不全麻痺、起立・歩行可能
      重度対不全麻痺、起立・歩行不可能
      対麻痺
      ケージレスト
      必要なら、鎮痛剤


      外科的減圧


      ケージレスト
      鎮痛剤
      外科的減圧

急性の激しい椎間板ヘルニアでは、かなりの量の脊髄内出血や浮腫が誘起されます。完全麻痺や深部痛覚が消失して来院した犬で、脊髄損傷と浮腫による脊髄虚血、進行性脊髄軟化症が生じている可能性があります。皮筋反射が頭側に移動する場合や、椎間板逸脱後に後肢のUMN性麻痺だった犬が膝蓋腱反射や屈曲反射を消失(LMN徴候)したら、疑うべき疾患です。原発の椎間板ヘルニアから5日以内に発現してきます。犬は、激しい疼痛を示します。脊髄軟化症が認められると、回復の見込みはなくて、数日以内に呼吸不全で死亡してしまいます。安楽死を選択することも必要です。

胸腰部椎間板疾患の治療実績

 神経学的重症度保存療法
成功率
保存療法
回復時間
減圧術
回復時間
1欠損なしほぼ回復3週2週以内
2不全麻痺(歩行可能)85%6週2週以内
3不全麻痺(歩行困難)85%6週2週以内
4対麻痺80%9~12週4週以内
5深部痛覚消失10%以下5~10週
(成功率65%)


 線維軟骨塞栓症

椎間板の髄核の中にある線維軟骨が、脊髄実質と軟膜に分布する微小な血管に塞栓を形成したとき、脊髄実質の梗塞と虚血性壊死が起こります。この急性で、非進行性の現象によって不全麻痺や麻痺を起こす疾患です。原因不明です。

症状
発症が突発的で、数時間のうちに症状の悪化する場合があります。軽度の外傷直後や運動中に起こることがあります。神経学的検査では、局所的な脊髄病変を反映しています。胸腰髄(後肢にUMN徴候)と腰部脊髄膨大部(後肢にLMN徴候)に起こりやすい疾患です。

症状が非対称性であることが多くて、左右で症状の程度が異なります。発症時は、疼痛で鳴き叫んで、局所的な脊髄の痛覚過敏が認められます。しかしながら、疼痛は速やかに解消して、動物病院に到着する頃には脊髄の触診でも疼痛を示さなくなっています。

診断
急性に発症すること、非進行性で非対称性、無痛性の脊髄障害が鑑別で考慮される点です。X線検査所見や脳脊髄液検査が正常です。この疾患では、CT検査やMRI検査が診断に役立つことはあまりなくて、症状の特徴と、急性の圧迫性脊髄疾患と炎症性脊髄疾患を除外することで診断可能です。

治療と予後
支持療法と看護管理です。多くは大型犬が発症するので、管理は大変です。麻痺を呈して6時間以内の症例には、コハク酸メチルプレドニゾロンナトリウムを単回投与することが効果的だと思われます。神経症状を発症してから、7~10日以内であれば、ほぼ症状の改善が見られます。完全な機能回復には、6~8週間はかかります。

回復は、脊髄の損傷部位や広がりに左右されます。筋緊張の増加や反射亢進のようなUMN徴候があって、深部痛覚が障害されていなければ、回復の予後は良好です。病変部が頸部(C6-T2)や腰仙部(L4-S3)の脊髄膨大部にあると、LMN徴候が引き起こされて、完全な回復は見込めません。発症後21日以内に治療に対する改善が認められない場合も、回復の見込みはありません。

 環椎軸椎不安定症

先天性環椎軸椎不安定症の犬は、四肢不全麻痺が強くなったり弱くなったりしながら、緩徐に進行していきます。後天的には、歯突起の外傷性骨折や亜脱臼による環椎軸椎の疾患が起こる可能性があって、四肢に急性UMN障害が生じます。

 腫瘍

腫瘍が脊髄実質を圧迫したり、実質に浸潤したりして、神経症状が生じます。脊髄実質内の出血や骨折を誘引する椎体の骨融解の結果、急性非進行性の神経徴候が惹起されることもあります。

進行性脊髄障害

数日~数週間かけて進行する亜急性の脊髄障害は、多くが炎症や腫瘍が原因で起こります。変性性疾患や多くの腫瘍は、全般的により緩徐な進行性脊髄機能障害を示します。

 亜急性進行性疾患

感染性炎症性疾患
感染で脊髄炎が生じることがあって、多病巣性や限局性脊髄障害を示唆する進行性の神経症状を引き起こします。脳脊髄液検査を行って炎症性疾患の存在を確認しましょう。

非感染性炎症性疾患
とくに肉芽腫性髄膜脳炎、ステロイド反応性髄膜炎・動脈炎、猫灰白脳脊髄炎が脊髄を侵すことがあります。これも脳脊髄検査が必須で、感染性要因を除外する検査も行って診断します。

椎間板脊髄炎
椎間板と隣り合った椎対終板への細菌感染や真菌性病原体の感染が原因で起こる炎症です。体中の病巣からの血行性感染、局所感染巣からの拡大で起こります。最初に現れる症状は、脊髄の疼痛です。触診で病変部位の特定が可能です。

発熱、食欲不振、抑うつ、体重減少の認められることもあります。二次性の多発性関節炎が起こることがあって、硬直した歩様を呈することがあります。椎間板脊髄炎で神経学的欠損の認められることは稀で、神経機能障害が生じるのは、慢性例や無治療の症例で、椎体の骨融解による骨折や炎症性組織の増生に起因する脊髄圧迫のためです。

  •  診断
    症状からの推察の後、X線検査を行って診断します。椎間板腔の狭小化、椎体終板腹側の不整や骨融解、骨欠損辺縁部の硬化、隣接した椎対の骨増殖が特徴的です。好発部位は、胸椎中央、頸椎後部、胸腰部脊椎、腰仙部脊椎です。感染源の可能性があるので、心エコー検査と尿培養検査は実施しておく方がいいと思います。
  •  治療
    •  初期治療は、抗生物質の投与、ケージ内安静、鎮痛薬の投与です。連鎖球菌の感染が最も多いので、グラム陽性菌に有効で、骨への浸透性のある殺菌性抗生物質を用いるのがいいでしょう。第1世代セファロスポリン(セファゾリンやセファレキシン)やアモキシシリンが効果的です。培養検査でグラム陰性菌が疑われたら、キノロン系を追加投与します。
    •  アクチノマイセス感染(植物の迷入)に対する抗生物質は、アンピシリンを使用します。
    •  神経学的欠損がみられる場合、最初の3日間は、非経口的抗生物質を投与します。その後は、最低8週間、必要に応じて6ヶ月間の経口投与を継続します。
    •  骨折や脱臼を予防するために運動制限を必ず行って、鎮痛薬を投与しますが、鎮痛薬の投与で元気になってしまってケージ内の安静が困難になる場合があるので、注意しましょう。治療開始1週間程度で症状の改善は認められます。
    •  3週間毎にX線検査を行って、視覚的な骨融解がなくなれば、抗生物質の投与を中止して構いません。異物(植物[ナギ])による椎間板脊髄炎でなければ、再発はありません。

 慢性進行性疾患

腫瘍
腫瘍の成長による圧迫や脊髄実質への浸潤によって、慢性進行性に脊髄機能障害が悪化することがあります。犬では、椎体に発生する硬膜外腫瘍として骨肉腫、軟骨肉腫、線維肉腫、骨髄腫があって、他では転移性血管肉腫、癌腫、脂肪肉腫、リンパ腫などの硬膜外の軟部組織腫瘍があります。硬膜内の髄外腫瘍としては、髄膜腫、神経上皮腫、末梢神経鞘腫です。髄内腫瘍はまれです。猫では、硬膜外リンパ腫が唯一認められる脊髄腫瘍で、FeLV感染猫に多発します。

脊髄腫瘍の発生に性差はなく、中高齢で多くなるのが一般的です。大型犬での発生率が少し高いようです。リンパ腫と若齢犬のT10-L1に好発する原発性硬膜内髄外腫瘍の神経上皮腫が、とくにジャーマンシェパードやゴールデンレトリバーにみられることがあります。椎骨の骨腫や軟骨外骨腫症が若齢犬で起こりますが、これは骨の良性増殖性病変で、結果として脊髄を圧迫します。

  •  症状
    •  潜行性で、腫瘍が脊髄の圧迫や破壊を起こすまで、神経学的な異常は認められないので早期診断ができません。
    •  脊髄を侵害する神経根腫瘍、髄膜を巻き込む腫瘍、椎骨を巻き込む悪性腫瘍では、疼痛が最も目立つ症状です。頸部・腰部脊髄膨大部を巻き込む末梢神経鞘腫は、神経学的欠損を伴わない進行性の跛行と四肢の疼痛(神経根痛)を示します。胸部神経根が侵されると、同側のホルネル症候群や皮筋反射の消失が認められます。
  •  診断
    鑑別診断には、Ⅱ型椎間板ヘルニアや変性性脊髄症のような緩徐に進行する神経機能障害を引き起こす疾患を考えますが、X線検査を行うのは当然かと思います。脊椎腫瘍なら骨の変化が認められて、骨融解や骨増殖があります。脊髄軟部組織腫瘍は、X線検査では明らかにならないので、CT検査やMRI検査を行うといいと思います。腫瘍の疑いが強ければ、最初からCT検査・MRI検査でいいかと。
  •  治療
    •  完全に被嚢された硬膜内髄外腫瘍なら、外科的減圧手術と腫瘍の完全切除を試みてもいいかと思われます。髄内腫瘍は、神経組織に密着してしまい、手術は不可能です。
    •  放射線療法は腫瘍によっては効果が得られますが、化学療法とともに限局的にしか用いられません。抗癌剤で、血液脳関門を通過できる薬剤が少ないことが理由です。
    •  ステロイドの抗腫瘍効果はありませんが、腫瘍による浮腫や炎症を軽減して、一時的にQOLの改善をもたらしてくれます。

脊椎内関節嚢胞
脊椎の関節突起間関節の関節包で発生する嚢胞は、増大して、慢性進行性に脊髄や神経根の局所的な圧迫を引き起こします。滑膜の嚢胞突出(滑膜嚢胞)であったり、関節周囲結合組織の粘液変性(ガングリオン嚢胞)から発生します。両者は識別不可能で、どちらも関節突起間関節の変性性変化によって二次的に発生します。変性性変化は、先天性、椎体不安定症、外傷が原因となります。

症状は、発生部位によって異なります。頸椎にあれば、UMN性脊髄障害や頸部痛があります。MRI検査で確認が必要です。

治療は、脊髄減圧術、嚢胞排液法、関節突起関節の固定術があります。概ね、予後も良好です。

クモ膜嚢胞
クモ膜下腔における嚢胞様構造内への脳脊髄液の局所的な蓄積が緩徐に進行して、非疼痛性の脊髄圧迫障害が、若い大型犬で好発します。頸部と胸部尾側領域が起こりやすいようです。先天的な憩室として起こる場合と、外傷や椎間板逸脱による二次的なクモ膜下腔の癒着による嚢形成として起こる場合があります。MRI検査で確認してください。

神経学的欠損が重度でなく、症状の発生から4ヶ月以内に診断と嚢胞造袋術を実施できれば、回復の予後は良好です。

Ⅱ型椎間板疾患

犬の加齢性変化として、椎間板の線維性変性が起こって、これが線維輪のなかに少量の椎間板髄核の突出を導くことがあります。結果として、線維輪が半球状に背側に膨れた状態となって、脊柱管内に突出して、緩徐な進行性の脊髄圧迫(ハンセンⅡ型の椎間板ヘルニア)を引き起こします。

Ⅱ型椎間板ヘルニア

緩徐な進行性脊椎圧迫によって、脊髄の不快感を示す犬もいます。胸腰部Ⅱ型椎間板ヘルニアでは、前肢は正常、後肢にUMN徴候が発現します。頸部のⅡ型椎間板疾患は、ドーベルマンピンシャーに好発する疾患で、ウォブラー症候群と関連しています。頸部のⅡ型疾患では、前後肢に症状がみられて、特に後肢のUMN症状が顕著です。

  •  診断
    高齢犬の緩徐な進行性脊髄機能障害では、先ず、Ⅱ型脊椎板突出を考えるべきです。神経学的検査で病変の脊髄領域は特定できますが、この疾患ではほとんど疼痛を認めないので、より正確な位置を特定することは困難です。X線所見は正常なので、特定するならばCT検査かMRI検査が必要です。他の疾患(変性性脊髄症や腫瘍など)との鑑別も可能になります。
  •  治療
    •  内科療法で解消されます。非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)や低用量プレドニゾロンを投与します。
    •  進行する神経症状には外科手術を行うこともあります。頸椎なら腹側減圧術、胸腰椎なら片側椎弓切除術による減圧を行うようです。効果的な手術は結構困難なんで、最近では幹細胞療法もありますが・・・
    •  治療目標は、神経学的状態を安定化させること、QOLを改善することです。慢性的な圧迫を受けているので、完全回復は難しいかも知れませんが、内科的な治療でその後の発症がなくなる犬もいます。オゾン療法も椎間板ヘルニアには効果があります。

変性性脊椎症
ウェルシュ・コーギー・ペンブロークで有名な疾患ですが、広範なミエリンと軸索の消失を特徴とする脊髄白質の変性性疾患です。胸部と胸腰部脊髄分節が最も重度に罹患して、神経学的所見はT3-L3病変を示唆します。

残念ながら、原因は不明です。遺伝的な要因があるのではないかとも推察されています。発生要因は何であれ、人の多発性硬化症に類似した免疫介在性神経変性性疾患ではないかと考えられています。細胞性免疫の抑制と、循環免疫複合体の増加が罹患犬に一致した所見でもあり、脊髄への免疫グロブリンと補体の沈着が、組織学的病変に関連しているようです。

  •  症状
    •  緩徐な、進行性のUMN性不全対麻痺と後肢の運動失調が生じます。固有受容感覚が消失して、肢端のナックリングを呈して、後肢の趾の背側面の磨耗と重度の後肢の運動失調が発現します。間隔が麻痺しているので、後肢がひっくり返ったまま歩行するので、後肢の甲が擦り切れて出血しても犬は気づきません。
    •  筋緊張の増加と後肢の腱反射亢進により、臨床的に脊髄障害の局在は、T3-L3脊髄分節と判断できます。前肢は全くの正常で、病態が末期になるまでは、排尿・排便機能も正常です。
    •  神経学的欠損は、非対称性です。反射弓の求心性に必要な背側脊髄神経根が侵されることがあって、末期に後肢の反射低下や消失が認められます。
  •  診断
    •  生前診断は、除外診断です。脳脊髄液検査やX線検査も正常です。脊髄腫瘍や圧迫病変を除外して、股関節形成異常、前十字靭帯断裂、腰仙部疾患を鑑別していきます。概ね、コーギーで、後肢に緩徐に進行するUMN性不全麻痺を呈していると、この疾患です。
  •  治療
    •  残念ながら、有効な治療法はありません。最近では、幹細胞療法が試みられて、いい結果が出ているようですが・・・。免疫介在性と考えられますが、免疫抑制剤の有効性はありません。ステロイドは筋の消耗や虚弱悪化を促すので投与してはいけません。
    •  歩行練習、水泳などが病気の進行を遅らせることがあるようです。

馬尾症候群
犬の腰部脊髄分節の最後の3分節(L5、L6、L7)は第4腰椎内にあって、仙部の分節(S1、S2、S3)は第5椎体内にあって、尾部の脊髄分節は第6椎体内にあります。こららの腰部・仙部・尾部の脊髄分節から分岐した神経根は、同じ椎体の尾側にある椎間孔を通って脊柱管から出ます。分節は上位の椎体内にあるけれども、神経根の出口は番号どおりになっているということで、そのため神経は脊髄終末部から尾側へ向かって脊柱管内のかなりの距離を走行することになります。

この脊柱管内を下行する神経根の収束を、馬尾、と呼びます。仙部や尾部分節からの脊髄神経は、腰仙関節の上にあるので、ここが圧迫されると、L7、仙部、尾部神経のすべてが侵されます。

一般的に、馬尾神経の圧迫は、L7-S1椎間板腔において、関節包と靭帯の進行性増殖を伴った後天性Ⅱ型椎間板ヘルニアが起こるために発現します。過度の運動と不安定性が原因であると考えられています。腫瘍や椎間板脊椎炎、骨軟化症、先天性の奇形が馬尾圧迫を起こすこともあります。

  •  症状
    •  腹臥位から立ち上がる動作が遅くなって、走ったり、立ち上がったり、跳んだり、階段を上がったりすることを嫌がります。運動によって神経根に平行に走る血管が拡張して、さらに神経根が圧迫されるので、運動で後肢の跛行が悪化します(神経原性跛行)。尻尾を振る動作も減ります。
    •  仙椎背側の触診、尻尾の背屈、腰仙部の過伸展を行うと疼痛を示します。重症例では、両後肢の引っ込み反射消失や、肛門の緊張低下、排尿・排便失調が起こります。知覚過敏や感覚異常のために、会陰部や尾根部を自傷して皮膚炎を起こすこともあります。
    •  診断
      症状や神経学的検査所見から判断しますが、初期の神経学的欠損がみられない犬では、変性性関節症や前立腺疾患、椎間板脊髄炎による跛行や疼痛と区別がつきません。X線検査所見で判断可能な場合もありますが、MRI検査が最も感度良く正確に診断できます。感度が良すぎて偶発的な臨床上問題のない馬尾圧迫病変も検出されますので、症状と合わせて判断することが必要です。
  •  治療と予後
    •  症状が疼痛と跛行のみであれば、運動制限と鎮痛薬、抗炎症薬の投与で改善して、予後も良好です。通常の生活に戻ると再発することがあります。
    •  確実な治療は、腰仙部背側椎弓切除手術、圧迫組織の切除、神経孔減圧手術です。重度の症例では、腰仙部の伸延固定を行うこともあります。術後は疼痛がなくなりますが、4~8週間の運動制限が重要です。運動は徐々に再開してください。
    •  重度のLMN障害や排尿失調を呈した犬では、永久的に障害が残るようです。

頸椎脊髄症(ウォブラー症候群)
ウォブラー症候群は、大型犬の発生上の奇形、頸椎不安定症、不安定症に関連した脊柱管の変化のために二次的に発生する尾側頸髄と神経根の圧迫を表す呼び名です。脊柱管の狭窄は、椎体板の奇形、黄色靭帯の肥厚、小関節窩の拡大、関節周囲軟部組織の肥大で生じます。椎体や終板に起こる変化は、椎間板の損傷、Ⅱ型椎間板突出、Ⅰ型椎間板逸脱を引き起こす不安定症を生じます。

頸椎頭側面の狭窄(C4-C6)と小関節窩の奇形は、若齢のグレートデンで認められる異常です。中高齢のドーベルマンピンシャーでは、先天的な頸椎奇形と脊柱管狭窄(C5-C7)とともに、二次的な軟部組織や椎間板の肥厚による脊髄圧迫を伴う脊柱の不安定症が、知られています。遺伝的要因や栄養過多も発生に関与しています。

  •  症状
    •  緩徐に進行する不全麻痺や協調不能が後肢に認められます。よろよろと歩きます。後肢の開脚姿勢を示して、後肢の運動失調がとにかく顕著です。
    •  C1-C5に圧迫があると、前肢にも浮遊性の歩行、過大歩様が認められます。頸髄尾側に病変があると、短い歩幅、引っ込み反射の弱い前肢の歩行も見受けられて、肩甲骨棘上筋・棘下筋が著しく萎縮します。
    •  片側の前肢跛行と筋萎縮や前肢を牽引したときの疼痛(神経根徴候)は、神経根圧迫が疑われます。
  •  診断
    X線検査で頸椎脊髄症の確定は不可能です。頸髄圧迫に関連する他の疾患の除外には役立ちます。脊髄造影やCT検査・MRI検査を行って詳しく検査を行います。この疾患は、麻酔で状態が悪化することがあるので、手術を計画しているなら、画像診断後48~72時間に計画します。トーベルマンピンシャーで、甲状腺機能低下症、フォンヴィレブランド病、心筋症を併発していることがあるので、全身性疾患の評価も必要です。
  •  治療と予後
    •  運動制限、ハーネスを使用して頸部への負荷を減らすこと、プレドニゾロンの抗炎症量の投与で、神経症状の改善が認められます。疾患が軽い場合は、運動制限とプレドニゾロンを、0.5mg/kg・経口・BIDで開始2日間、次の2日間をSIDに切り替えて、その後0.5mg/kgを1日おきに14日間、その後用量を0.25mg/kgに下げて1日おきに2ヶ月間の投与で回復することがあります。
    •  内科的治療で改善は認められますが、根本的な圧迫や不安定性は継続します。神経学的障害が続く症例には、外科的処置を行うといいと思われます。Ⅰ型椎間板逸脱による腹側脊髄圧迫なら腹側減圧術、線維輪の腫大や黄色靭帯の肥厚なら椎体を引き離して維持する伸展/癒合術を行います。画像診断の結果をよく議論して、最適な手術を行ってください。
    •  単発性の病変やすぐに回復して歩行可能な症例は予後良好で、手術後の成功率も高くなります。多発性病変、慢性病変、歩行困難の予後は思わしくないと考えられます。

 若齢性の進行性疾患

神経アビオトロフィーと変性性疾患
進行性の神経機能障害が幼若時から現れる疾患です。脊髄全体が侵される場合は、後肢に症状が初期から認められて、経過とともに四肢不全麻痺に進行します。白質が侵されてUMN徴候を生じる品種と、灰白質が侵されてLMN徴候を生じる品種があります。生前診断はできず、治療法もありません。

代謝性蓄積病(ライソゾーム病)
遺伝的な酵素欠損による細胞内での代謝産物の蓄積が、病理学的検査で特徴づけられる疾患です。脊髄機能障害による進行性の神経症状を呈します。発作や測定過大歩様が一般的です。UMN障害が通常ですが、末梢神経障害も起こることがあります。症状は緩徐に進行して、1~2歳齢で明らかになります。

環椎軸椎不安定症と脱臼
正常な環椎(C1)と軸椎(C2)は、靭帯で固定されています。軸椎の椎体頭側面から突出した骨である歯突起は、横行靭帯によって環椎の脊椎床に接して堅固に固定されていて、脊柱管の統合と2椎体の配列を維持しています。

環椎と軸椎の不安定症を引き起こす歯突起の奇形や欠損は、多くの小型犬種で先天的な欠損として認められます。その結果、反復性の脊髄損傷と緩徐な進行性の頸髄圧迫障害が誘発されます。先天性環椎軸椎不安定症の若齢犬では、軽度の外傷でC1とC2の脱臼が引き起こされて、頸部痛、四肢不全麻痺・麻痺が誘起されることもあります。

正常な犬でも、重度の外傷で、C1・C2に脱臼や骨折が起こって、同じ症状が生じ得ます。

  •  症状
    •  先天性環椎軸椎不安定症の犬は、2歳までに頸髄圧迫を示唆するUMN徴候を示します。頸部痛、頭部下垂、運動失調、四肢不全麻痺、固有受容感覚の欠如がみられます。
    •  脊椎の触診ですら運動障害を悪化させることがあるので、十分に注意が必要です。
  •  診断
    •  X線検査による歯突起の異常や骨折を確認します。まずは無麻酔で行います。
    •  麻酔下での触診やX線検査で、頸部の過度な屈曲や回転で、さらなる脊髄圧迫が生じて、呼吸麻痺や死亡することもあるので、細心の注意が必要です。
  •  治療と予後
    •  治療は、急性脊髄外傷の場合と同じ治療を行います。
    •  ケージ内安静、頸部を固定、鎮痛薬を投与します。環軸関節を動かないように固定することは重要です。
    •  外科処置は非常に有効ではありますが、手術中の死亡率が高いので要警戒です。手術が成功すると、予後良好です。2歳齢以前に発症して、発症して10ヶ月以内に非外科的整復がうまくいくと予後良好です。

 若齢性の非進行性疾患

二分脊椎
椎弓の背側棘突起の胚性癒合不全で、二分された脊椎が生じます。尾側腰椎や腰仙部に起こりやすいようです。マンクス猫で認められるのは、常染色体劣性形質で、尾無形成にも関連します。症状は非進行性で、出生時から両後肢のLMN性不全麻痺、排尿・排便失調、会陰部感覚の消失、肛門括約筋の緊張低下が認められます。治療法はありません。

マンクスの尾無形成
尻尾のないマンクス猫で、仙尾部脊髄と脊椎の先天性奇形が認められます。仙髄と尾椎の無形成や異形成によって症状が生じます。出生時から症状はみられて、後肢の飛び跳ねるような歩行、しゃがみ込むような歩行、排尿・排便失調、慢性の便秘が認められます。

脊髄癒合不全
脊髄癒合不全は、脊髄の遺伝性先天性奇形です。中心管の欠損や拡張、白質の空洞化、中心管と腹側正中裂溝の間の中央平面を超えて腹側灰白柱細胞の異常出現が認められます。

症状は出生時から認められて、対称性の後肢のうさぎ跳び歩行、開脚姿勢、固有受容感覚の低下がみられます。膝蓋腱反射は正常です。片側後肢の屈曲反射刺激を行うと、両後肢で同時に屈曲が誘発されます。症状は非進行性なので、軽度な症例は、普通の生活を送ることができます。

脊髄空洞症・水脊髄症
脊髄内で、液体が嚢胞性に蓄積して、実質に圧迫を起こします。これは、CT検査やMRI検査による高度画像診断を使用する機会が増えたことによる結果です。脊髄内のどこかに、脳脊髄液で満たされた腔が発生するのが脊髄空洞症で、拡張した中心管内に脳脊髄液が過剰に蓄積すると水脊髄症です。脊柱管内の脳脊髄液圧の変化、脊髄実質の消失、炎症や腫瘍、奇形による脳脊髄液の二次的な閉塞で生じます。

症状は、運動失調と不全麻痺です。頸部脊髄の背側や外側部が侵されていると、顕著なUMN徴候が後肢に現れます。脊髄障害が、より中心に位置していると、前肢により顕著な運動失調と不全麻痺が現れます。神経根や髄膜の伸張によって脊髄痛が起こることもあります。

キャバリアで、水脊髄空洞症が報告されています。後頭骨の奇形で生じるようです。若い成犬にみられて、肩部領域の引っ掻き行動があって、罹患している側の耳や肢、頸部を触られるのを嫌がります。頸部痛や、前肢のLMN虚脱と筋の萎縮、後肢のUMN症状と運動失調もあります。診断にはMRI検査を行います。抗炎症量のプレドニゾロンで、脳脊髄液の産生を抑制すると改善がみられると考えられます。外科手術を行うこともあります。