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神経系の疾患/頭蓋内の疾患

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頭蓋内の疾患

精神機能異常

異常な行動、精神錯乱、強迫行動、発作は、大脳皮質の病変や中毒、代謝性脳症に罹患した犬や猫において認められます。脳幹の疾患も重度の抑うつ、昏迷、昏睡を引き起こします。

犬や猫が精神機能異常を呈したとき、まず問題が、単なる行動異常なのか、全身性の疾患の結果なのか、頭蓋内の疾患の徴候なのか、を確認します。問診による普段の行動、症状の発症に先行する環境などの聞き取りで、神経学的な問題を特定する補助になります。明らかな神経学的欠陥は、神経系の異常の存在を確定させます。片側性の前脳病変によっては、動物は、病変側に回転・旋回して、病変の反対側への感覚(触覚、視覚、聴覚)が無視されます。歩様は正常ですが、病変の反対側への姿勢反応が欠如します。

脳幹の病変は、意識状態の変化、多発的な脳神経の欠陥と、同側の上位運動神経麻痺、運動失調、姿勢反応の欠如を引き起こします。

 中毒

急性に精神機能異常を発症した犬や猫では、自宅内にある毒物、殺虫剤・殺鼠剤、処方薬・薬物による中毒を考慮します。不安や精神錯乱は、重度の抑うつ、発作、他の神経性・全身性の徴候を示すことがあります。

中毒物質には、ストリキニーネ、メタアルデヒド、四塩化炭素、有機リン酸、鉛、エチレングリコールなどがあります。中毒症状は、迅速に悪化して、急性で重症になります。治療は、催吐処置ができれば行い、それ以上の吸収が起こらないようにして、排泄の促進を行います。

 代謝性脳症

精神機能異常、意識の減弱、発作を呈する動物では、肝性脳症、低血糖、重度の尿毒症、電解質異常、糖尿病などの代謝性障害を考慮しましょう。抑うつされた状態では、全身性疾患、敗血症、副腎皮質機能低下症、甲状腺機能低下製粘液水腫性昏睡などが顕在化している可能性もあります。

 診断手順

精神機能異常を引き起こす頭蓋内の疾患は、外傷、血管障害(出血・梗塞)、奇形(水頭症・滑脳症)、チアミン欠乏症、炎症(脳炎)、変性性疾患、脳腫瘍などがあります。評価を行うには、一般的な検査とともに、神経学的検査、眼科検査を含めて実施すべきです。原因が簡単に明らかにならないなら、胸部・腹部X線検査やエコー検査を行って、炎症や腫瘍疾患の全身スクリーニングを行います。

疾患が頭蓋内に限局されたら、CT検査やMRI検査、脳脊髄駅の採取と検査を行います。それでも検査に異常がなければ、変性性疾患が疑われます。

精神機能異常の診断手順
1. 問診、身体検査、神経学的検査
  部分的・片側性の異常は、頭蓋内疾患を示唆

2. 代謝性脳症の除外
  血液検査・尿検査、血糖値や食後の肝機能検査

3. 全身性の炎症・腫瘍性疾患の評価
  眼科検査、胸部・腹部X線検査、リンパ節吸引生検など

4. 頭蓋内の検査
  CT・MRI、脳脊髄液の採取と検査


頭蓋内疾患

 頭部外傷

頭部に外傷を受けた動物の予後は、傷害部位と重症度に依存します。一般的な原因は、交通事故と、大きな動物に蹴られたり咬まれたりするケースがほとんどです。外傷による出血や虚血、浮腫は、二次性障害に直結します。脳は頭蓋骨の中に囲われているので、浮腫や出血による脳容積の増加によって頭蓋内圧の上昇が起こって、脳血流の低下と更なる脳障害が引き起こされます。

初期治療では、全身性の傷害の確認と治療、適切な循環と呼吸の維持に努めます。低血圧は、脳の灌流をさらに減少させるので、血流量を維持するために輸液を行います。酸素吸入と行います。意識がないなら、気管チューブを挿管して、自発呼吸がないならレスピレーターで人工呼吸を行います。

発作が明らかなら、積極的に抗痙攣薬の投与を開始します。発作は、頭蓋内圧を上昇させるので、直ぐに対処しましょう。頭蓋内圧を低く維持するには、頭部を30度の角度で持ち上げた状態で動物を寝かせて、20%マンニトール(1g/kg)を15分以上かけて静脈内投与します。同時に、フロセミド(1mg/kg)を投与します。脳傷害では、ソルメドロール(メチルプレドニゾロンコハク酸ナトリウム)の投与は控えましょう。脊髄損傷では効奏する場合があります。

頭部外傷の管理・治療
気道の確保・酸素吸入
併発している外傷の確認と治療
ショック治療(輸液点滴)
血圧維持
30分毎の神経学的評価

重症例
 頭部を30度の位置に保持
 発作の治療
 20%マンニトールの投与(1g/kg)
 フロセミドの投与(1mg/kg)

全身の検査と神経学的評価を、30分毎に繰り返します。運動活性、脳幹反射、意識程度をスコアリングした指標がありますので、それを使って動物状態を把握しましょう。

昏睡の指標

 スコア
運動活性
 正常な歩様・正常な脊髄反射
 不全片麻痺・四肢不全麻痺・除脳活性
 横臥・間欠性の伸展硬直
 横臥・持続性の伸展硬直
 横臥・後弓反射を伴う持続性の伸展硬直
 横臥・筋の緊張消失・抑圧状態・脊髄反射消失

6
5
4
3
2
1
脳幹反射
 正常な対光反射・眼球回頭性反射正常
 対光反射の遅延・眼球回頭性反射の減弱
 両側性の瞳孔収縮反応消失・眼球回頭性反射の減弱
 ピンホール状の瞳孔・眼球回頭性反射の減弱
 片側性の無反応な瞳孔散大・眼球回頭性反射の消失
 両側性の無反応な瞳孔散大・眼球回頭性反射の消失

6
5
4
3
2
1
意識程度
 覚醒や環境に対する反応をする時間がある
 抑うつ状態・せん妄状態・反応はできるが不適切
 半昏睡状態・視覚刺激に反応
 半昏睡状態・聴覚刺激に反応
 半昏睡状態・侵害刺激の反復にのみ反応
 昏睡状態・侵害刺激の反復に無反応

6
5
4
3
2
1


 血管性障害

中枢神経系においても、自然発症性の梗塞や出血が発生します。老齢犬、腎不全、甲状腺機能亢進症、高血圧の犬や猫で発現しやすくなります。頭蓋内出血と梗塞は、敗血症性塞栓、腫瘍、血小板減少、凝固異常、フィラリア症、血管炎に続発することもあります。

血管性障害による神経学的異常の発症は、甚急性です。基礎疾患を反映している場合もありますが、検査所見は神経学的異常以外、特筆すべき点がみられません。高血圧や凝固障害のような基礎疾患には注意が必要です。高血圧に関連する出血を評価するには、眼科検査で網膜剥離を評価するといいいでしょう。

MRI検査は有用です。脳脊髄液では、蛋白濃度の上昇、単核球や好中球の増加、場合よっては、過去の出血を示唆する赤血球貪食像が認められます。頭蓋内圧の減圧のための治療が必要なことがありますが、軽度な症例は、3~10日で劇的に回復します。

 虚血性脳症(猫)

猫の虚血性脳症は、種類や性別と問わず起こる、脳梗塞によって生じる急性の大脳皮質機能不全症候群です。中大脳動脈が供給する皮質部分に病変の起こりやすいことが知られています。固有受容感覚の消失や病変部位と反対側の肢の反射亢進(UMN徴候)があって、眼が見えなくなる場合もありますが、病変と反対側の瞳孔対光反射は正常です。

検査では、神経学的徴候以外に異常は認められません。梗塞部位を確定するには、MRI検査が最善です。組織学的には、急性の梗塞によって、大脳皮質の広範囲にわたる急性壊死と浮腫が認められます。急性期は、マンニトールやフロセミドで血管病変に伴う浮腫を軽減させます。発作が起きたら、抗痙攣薬を投与します。

多くの猫は、2~7日で急速に回復します。後遺症として、攻撃性や再発性の発作が残ることがあります。

 水頭症

脳室が脳脊髄液の増加によって二次的に拡張した状態で、二次的な周囲神経組織の圧迫や萎縮を伴います。多くは先天性の疾患です。好発犬種があって、とくにチワワは有名です。他では、マルチーズ、ヨーキー、ポメラニアン、トイプードル、ボストンテリア、パグ、チャウチャウ、ペキニーズなどです。

罹患した動物は、頭部の拡大と泉門の開口が明らかになります。但し、半球状の頭部形状と泉門の開口は、トイ種では一般的で、特にチワワの幼少期は泉門の開口は当たり前です。9週齢で泉門の開いている犬の多くは、側脳室の拡張があるにも関わらず、水頭症の徴候を示すことは一生ありません。

水頭症の犬は、物覚えが悪くて、しつけが難しくなることがあります。反応も鈍く、抑うつ状態にみえる場合もあります。発作が起こることもあります。重度の水頭症では、四肢不全麻痺と姿勢反応の遅延がみられる場合があります。外側腹側斜視が認められることもあります。

泉門が開いていたら、開口部から脳のエコー検査を行って、側脳室の大きさと診断を行いましょう。泉門が小さかったり閉じていたりするとエコー検査は難しいですが、若齢なら側頭骨を通しても見えることがあります。無理なら、CT検査かMRI検査です。

神経症状を呈する動物に対する長期間の投薬による治療目標は、脳脊髄液の産生と脳圧を下げることです。ステロイドは脳脊髄液の産生を減少させます。プレドニゾロンを初期用量で0.5mg/kg/日で経口投与して、週毎に漸減して、0.1mg/kg・隔日投与できる状態まで持っていきます。てんかんには、抗痙攣薬で対処します。

神経症状を呈している症例の予後はよくありません。外科的な排液と、脳室と腹腔とのシャント手術がうまくいくことも、稀にあります。

ときおり、急性で重度の進行性神経症状が、水頭症の犬や猫でみられることがあって、急激な頭蓋内圧の上昇によるものと考えられます。処置としては、頭蓋内圧を減じるために、マンニトールやフロセミドの投与を行います。泉門が開いているなら、0.1~0.2mL/kg程度の脳脊髄液を、脳室に穿刺して除去することで改善を促すことも可能です。

 滑脳症

脳溝と脳回の発達が正常でなく、大脳皮質が滑らかになっている奇形です。小脳低形成が関連してみられることがあります。好発犬種があるので、遺伝的な疾患と考えられます。行動異常と視覚異常がみられます。訓練ができず、排便や排尿のしつけができません。発作は、生後1年を過ぎるまで顕著にみられないこともあります。

 チアミン欠乏症

チアミン(ビタミンB1)は、食欲不振の猫、チアミナーゼを含有した未調理の魚のみを摂取している猫で発症することがあります。犬では、生魚を摂取させられる犬を除いて、ほとんどありません。

チアミンが欠乏すると、脳で異常なグルコース代謝を引き起こして、脳症や脳幹出血を起こします。初期症状は、元気消失、運動失調で、両側性の前庭性運動失調が続発します。頭部と頸部の腹側への屈曲、失明、痴呆、頭部傾斜、眼振、発作が認められることがあります。

チアミン(2~4mg/kg/日)を投与すると24時間以内に症状が改善すると、仮診断は指示されます。欠乏が補正されるまで、治療を継続します。

 炎症性疾患(脳炎)

脳炎では、精神状態の異常と発作が誘起されます。肉芽腫性髄脳膜炎は、犬の非感染性炎症性疾患として一般的で、前脳、脳幹、小脳を侵して、神経学的異常を惹起します。

 遺伝性変性性疾患

代謝性の蓄積は、遺伝的な神経系の細胞内酵素の欠損による致死的な神経変性性疾患です。若齢の動物に生じて、進行性で、発作と重度の意識障害に進行します。好発犬種があります。有効な治療法はありません。

 認知機能障害(老齢犬)

アルツハイマー病に似た変性性の脳疾患があります。老齢犬で、不適切な排泄、しつけを忘れる、昼夜逆転の睡眠・覚醒の変化、飼い主に対する認識や関係性の喪失、徘徊、夜鳴きなど、慢性で進行性の行動異常がみられて、他の頭蓋内疾患が除外されたら、認知症と判断していいと思います。

治療方法はありませんが、抗酸化物質や、オメガ3脂肪酸など、サプリメントを服用してみること、高次運動、環境刺激を与えることが推奨されます。精神安定剤や鎮静薬の服用で、夜中の行動や遠吠えを抑制できることもあります。

 腫瘍

脳腫瘍は、緩徐に進行する神経徴候を徐々に発症します。腫瘍性の出血が起こると、急性症状になります。脳リンパ腫以外は、中高齢で発生します。

脳腫瘍は、隣接する組織の破壊、頭蓋内圧の上昇、出血性水頭症や閉鎖性水頭症によって症状を誘発します。発作が主訴であることが多くて、旋回、運動失調や頭部傾斜はそう多くありません。頭蓋内腫瘍が拡大すると、意識の消失や精神状態の変化とともに、頭蓋内圧が上昇することによる抑うつ、反応の鈍化、「老けた」という主訴も伺えます。進行性の疾患なので、飼い主の気づく数週間~数ヶ月前から徴候が現れていることもあります。

頭蓋内腫瘍には、原発性、頭蓋骨・鼻・副鼻腔など隣接する組織からの浸潤、他の部位からの転移の場合とが考えられます。腫瘍の原発巣の特定のために、詳しい検査を実施することが必要です。特に、鼻やリンパ節、脾臓、皮膚、乳腺、前立腺には注意を払って精査しましょう。

血液検査や尿検査、胸部・腹部のX線検査やエコー検査も行いますが、頭蓋内腫瘍の検出と特徴と捕らえるには、CT検査やMRI検査が最も有用な方法です。頭蓋内腫瘍は、剥離性が乏しいので、脳脊髄液に腫瘍細胞が認められることは滅多になく、診断には役に立ちません。

治療は、腫瘍の種類、部位、成長過程、神経学的徴候によって異なります。切除可能、切除することで改善があると判断できれば、外科的な処置を行います。放射線治療ができるのであれば、手術の補助として、もしくは、切除不可能な原発性・非転移性の腫瘍に対する単独治療として用いるといいと思います。今後、ホウ素中性子捕獲療法(BNCT)も出来るようになると思います。

化学療法を行うこともあります。ステロイドの投与は、腫瘍の周囲の浮腫の軽減と、脳脊髄液を吸収して改善することがあります。プレドニゾロン(0.5~1mg/kg/日)を使います。急性に悪化した場合、頭蓋内圧を減少させるために、マンニトールとフロセミドの投与を行います。

中枢神経系のリンパ腫に対しては、特異的な化学療法が可能ですが、化学療法剤の多くは、血液脳関門を通過しません。プレドニゾロンや、シトシンアラビノシド、ロムスチンあたりは多少効果的です。

過大歩様

過大歩様は、各肢を前方へ進める際に、大げさに持ち上げて、正常よりも力強く戻して負重させる様子です。小脳による動きの速度や範囲、力加減の正常な制御が失われていることを示唆します。

小脳疾患に罹患した動物は、運動失調性ですが、この疾患では、力強くて、姿勢反応と脊髄反射は正常です。罹患動物は、距離感のは難や動作の範囲の制御が不能になって、正確な動作をしようとした際に、一連の痙攣と頭部をすばやく揺らす動作を示します(企図振戦)。休んでるときにも、細かな頭部と体躯の振戦が認められます。

頸部脊髄の表層部の脊髄小脳路に傷害を受けた症例でも類似した測定過大歩様が四肢すべてに認められますが、ナックリングの遅延することがあって、頭部の振戦や他の脳徴候はみられません。

異常な精神状態や発作を引き起こす大部分の頭蓋内疾患は、小脳の機能障害を引き起こす可能性があります。小脳への障害は、外傷、出血、梗塞、感染性炎症疾患、肉芽腫性髄膜脳炎、腫瘍によって起きるのが普通です。診断には、異常な意識状態の動物に対する手順と同じです。

 先天性奇形

小脳の奇形は、先天的に好発犬種もありますが、多くの犬種や猫種で報告されています。猫の小脳低形成は、汎白血球減少症ウイルス(猫パルボウイルス)の子宮内での自然感染や、妊娠中の母猫がワクチン接種を受けたときに、よく起こります。小脳低形成の症状は、歩き始めたときに、過大歩様をしたり、運動失調、振戦がみられたりして気づきます。歩行や摂食が困難になることもあります。症状は非進行性なので、軽症なら寿命を全うできます。

 小脳皮質変性症(アビオトロフィー)

小脳のアビオトロフィーは、早発性の小脳細胞変性による疾患です。細胞は正常に発達しますが、後々、内因性の細胞異常で変性します。多くは、3~12ヶ月齢で歩行異常が始まりますが、成犬になってから発症する場合もあります。治療法はありません。

 神経軸索ジストロフィー

徐々に進行する変性性疾患で、中枢神経系のほとんど全体の白質の神経細胞体が侵されて、特に脊髄小脳路とプルキンエ線維に重篤な病変が生じます。ロットワイラーが好発犬種です。1~2歳齢で、過大歩様と運動失調が認められて、2~4年かけて、緩徐に進行します。振戦、眼振、威嚇瞬き反応の消失へと症状が進行していきます。ナックリングや跳び直り反応は正常です。有効な治療法はありません。

 脳嚢胞

類表皮、類皮とクモ膜の嚢胞が、小脳を圧迫することがあって、過大歩様を含む進行性の神経学的徴候を誘発します。嚢胞は、CT検査やMRI検査で確認されて、外科的な処置が可能です。

振戦

振戦とは、体の一部が律動的に振戦する動きです。頭部の企図振戦は、通常、小脳に関連していて、動物が目的のはっきりした行動を起こす際、頭部が目標物に近づくと著しく増悪します。動作振戦は、動作中を通して起こっていて、休むと消失します。

重度の全身性振戦やテタニー(筋肉の緊張や硬直が増大する症状)の急性発現が見られる場合は、毒物の摂取を原因として疑うべきです。ストリキニーネ、メタアルデヒド、四塩化炭素、有機リン酸などは振戦やテタニーを起こす毒物です。薬物誘発性の振戦は、メトクロプラミド、フェンタニル・ドロペリドール、ジフェンヒドラミンの過剰な投与で起こる可能性があります。低血糖や低カルシウム血症のような代謝性障害も、筋線維束性収縮やテタニーを引き起こします。

代謝や毒物に関与しない頭部と体躯の振戦が、若い(5ヶ月齢~3歳齢)小型犬腫で、急性に発症することがあります。細かい振戦が、1~3日で進行します。興奮時に悪化して、睡眠時に減弱します。過大歩様や眼振、頭部傾斜や発作が認められることもありますが、神経学的所見は、通常、正常です。血液検査や尿検査も正常で、脳脊髄液検査で、軽度なリンパ球増加と蛋白濃度の軽度な上昇が明らかになります。

治療しなくても発症後、1~3ヶ月で振戦が少なくなって緩和する犬もいますが、そのまま生涯にわたって持続する犬もいます。疾患初期に、ジアゼパム(0.5mg/kg、BID、po)とプレドニゾロン(2~4mg/kg/日、po)の投与で、4~5日以内に症状は改善します。投薬は、4~5ヶ月かけて漸減して、投薬量は、症状を制御できる用量を見つけて設定しましょう。再発による再治療が必要なこともありますし、生涯にわたって低用量の投薬治療が必要になることもあります。

先天的な振戦が、犬種特異的に起こることがあります。軽度な症例は、無治療でも数ヵ月後に回復することがありますが、通常、予後はあまりよくありません。

老齢犬では、神経学的には正常ですが、弱って後肢が震える(攣縮; 老齢性振戦)ことがあります。休息時には消失しますが、起立時や運動時に悪化します。神経学的な検査以外も正常で、これは治療法がありません。電解質の異常、甲状腺機能低下、副腎皮質機能亢進、股関節形成異常、腰仙部の疾患のないことを確認しておく必要があります。

運動障害

意識がしっかりしているものの、結果的に不随意運動を起こす中枢性の疾患が、運動障害です。部分発作や常同行動異常との区別が難しい疾患です。多シナプス性の皮質脊髄路の皮質下錐体外路基底核に起始する神経路の異常で起こる障害で、不随意な肢の過伸展や過屈曲、頭部の動揺、異常な姿勢を取るなどの症状がみられます。