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繁殖障害と生殖器系の疾患/妊娠と分娩

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妊娠と分娩の異常

正常な妊娠と分娩

犬でも猫でも、妊娠期を通じて、体重と栄養要求量は、しだいに増加します。特に、後半の3分の1は著しく増加します。体重の増加は、妊娠4~7週にかけて安定的に増加して、栄養要求は40%程度増加します。妊娠の終わり2週間ぐらいは食欲が低下することがありますが、胎子と乳房の成長で体重は増えます。正常な妊娠なら、体重が減ることはありません。

低体重の犬や猫は、分娩後の体格と乳汁産生に支障を来たすことが多いようです。肥満も難産と新生子の死亡率の上昇に関与します。赤血球数やヘモグロビン値、ヘマトクリット値の低下がみられて、犬では、分娩時はHt値35%以下になります。猫でも低値傾向を示しますが、Ht値は正常範囲内に留まります。

受胎
健康状態、体格、栄養状態、年齢が受胎に影響を与えます。犬では、概ね、2~3歳で、最も受胎率や産子数が多くなって、5歳を過ぎると低下してきます。分娩回数で3~4回目が産子数が最も多くなります。小型犬種では、産子数は少ない傾向にあります。

猫は、品種に関係なく、産子数は2~5頭です。産子数と新生子生存率は、経産猫で増加します。但し、初回分娩が3歳齢以降だと、産子数と新生子生存率は低いままです。猫の繁殖能力は、6歳齢以降で低下します。

犬も猫も、同腹子で父親が異なる同期腹妊娠が起こりえます。どうしても父親を特定する必要があれば、DNA鑑定が可能です。

診断
診断は、腹部触診、画像診断や血中のリラキシンの検出で確定できます。特に、腹部エコー検査は、非侵襲的で有用です。心拍や胎動が確認できます。胎嚢は交配後10日程で確認可能ですが、妊娠診断を確実に行うなら、犬は交配後24~28日、猫は20~24日でエコー検査を行うと信頼度が高くなります。X線検査は、十分な骨化の後に行いましょう。犬では、交配後40~45日、猫では35~40日ぐらいです。

胎子の心拍数は、200~250回/分です。胎動は、交配後33~39日で多くなって、40~50日で胎子の内部構造がはっきり抽出できます。生きていない胎子は動きがなく、死後1日経つと、識別可能な内部構造は見えなくなります。死後は、胎子は小さくなって卵形の塊になります。

リラキシンは、胎盤で産生されるホルモンで、妊娠時に特有のものです。LHサージの20日後ぐらいから検出可能です。LHサージ後30~35日でピークに達して、妊娠中は高値を保ちます。分娩前には急激に減少します。

妊娠期間
猫は64~71日(平均66日)で、犬の場合は、初回交配日から分娩までとすると63±7日、LHサージのピーク日から計算すれば65±1日、細胞診で発情休止期の初日を確認してその日から計算すれば57±3日です。犬種や産子数で多少のずれはあります。

分娩
妊娠は、プロジェステロンとリラキシンによって維持されます。子宮の活動を刺激(収縮)するのは、プロスタグランジンとオキシトシンです。分娩前に、プロスタグランジンF2α(PGF2α)濃度が上昇します。PGF2αは、黄体の退行をもたらして、プロジェステロンは分娩前24時間に濃度が低下します。オキシトシンは、子宮頸への圧力反応に対して放出されます。

プロジェステロンの低下とプロスタグランジンの増加によって、胎盤の分離が始まります。リラキシンは急速に減少します。分娩前にはプロラクチンの濃度も上昇して、分娩後、プロラクチン分泌は吸乳によって刺激されます。

分娩日を正確に予測しておくことは、正常な分娩のために必要ですし、帝王切開をする準備もできますし、長期在胎を防ぐにも有効です。猫は妊娠期間のブレは少ないですが、犬の場合、細胞診で発情休止期の初日を判定するか、ホルモン濃度を測定するなりして、ズレを少ない方法を取る方がいいかと思います。

分娩直前は、犬ではプロジェステロン濃度が低下するタイミングで、一時的に直腸温が下がります。分娩が差し迫っていることを示す変化ですので、これも有用な場合があります。

分娩は3段階に分けられて、Ⅰ期は巣作り行動、不安、ふるえや食欲不振があって、多くはパンティングをしています。子宮頚管が拡張しますが、外部徴候はみられません。子宮収縮の頻度、持続、強さが増してきます。これらの変化は、プロジェステロン濃度の低下、直腸温の低下、行動変化に一致します。Ⅰ期の持続時間は、6~12時間程度です。

分娩Ⅱ期は、明らかな腹部の収縮と羊水の通過、子犬や子猫が娩出される段階です。直腸温は戻ります。通常、3~6時間で終わりますが、長く続く場合もあります。第1子の娩出前は、間欠的な強い陣痛が数時間続きます。継続的な陣痛は異常です。第2子以降は、1時間以内に娩出されます。

胎盤が排出される段階がⅢ期です。分娩後5~15分後に起こります。母親は、羊膜を除去して、新生子を舐めて綺麗にして、臍帯を噛み切って、胎盤を食べます。母親が新生子の顔面から胎膜を取り除かない場合は、飼い主さんがやってあげましょう。新生子を清潔にする母親の行動は、母子の絆に必要で重要な行動になりますので、そう仕向けてあげましょう。全ての胎盤は4~6時間で排出されますので、飼い主が手伝えるのであれば、臍帯を鉗子で挟んで、体壁から約1cm離して切断しましょう。出血があるなら、臍帯を結紮します。

偽妊娠

妊娠していないが母性行動を示す状態で、巣作り、おもちゃや他の動物を養育したり、乳腺が発達して泌乳があったりします。発情休止期(黄体期)の後、プロジェステロン濃度が低下するときに発生します。プロジェステロン濃度の低下は、プロラクチン分泌の増加をもらたすので、泌乳と偽妊娠行動が生じると考えられます。

犬は、自然に排卵して、常に長い黄体期に入りますから、偽妊娠は発情のある犬でみらることはよくあります。異常ではありません。繁殖障害とも関連しません。逆に、偽妊娠があるということは、直前の発情周期に排卵が起こったこと、視床下部-下垂体-性腺の反応が正常であることを証明しています。偽妊娠は、猫ではあまり起こりません。

症状
乳腺の腫大と泌乳が症状です。多くの症例で、何かを育てようとします。中には、不安や過敏症を示したり、腹部膨満、食欲不振、嘔吐を示す症例もあります。

診断は、発情周期を確認した後、妊娠がないことを確認すれば、確定できます。

治療
正常な現象ですから、治療は不要です。2~3週間すれば、自然に解消されます。

乳房を舐める行動は、ホルモン分泌を刺激するので泌乳を促進します。乳量を減らすために、1日絶食させた後、1週間ぐらいかけて通常量に食事を戻していくと、泌乳を減少できます。

どうしても治療したいときは、ドーパミン作動薬(カベルゴリン)やセロトニン拮抗薬を投与して、プロラクチンの分泌を抑制します。カベルゴリンは、5μg/kg、経口、1日1回の投与で、3~4日で改善がみられます。セロトニン拮抗薬(メテルゴリン)は、0.1mg/kg、1日2回を8日間で効果があります。無理に飲ませることはありませんけど。

偽妊娠が起こっているならば、避妊手術は避けましょう。卵巣の切除によるプロジェステロンの低下が起こってしまうためです。避妊手術をしている犬に偽妊娠が起こるのであれば、卵巣残基がある可能性を考慮すべきです。

偽妊娠が長引くようであれば、甲状腺機能低下症の検査を実施しましょう。原発性の甲状腺機能低下症は、視床下部の甲状腺刺激ホルモン放出ホルモンの増加を伴っており、プロラクチンの放出を刺激します。

難産

高齢の犬では、難産の危険性が高いようですが、猫では年齢は関係ありません。犬でも猫でも、純粋種は交雑種よりも難産になりやすい傾向があります。犬では、頭部が大きな品種も難産になりやすいのですが、繁殖選抜をする基準に正常分娩を含めて選抜していくと、難産の発生がグンと減るので、品種要因だけとは言えません。血統種の遺伝的な要因があると考えられます。

難産で多い原因は、陣痛微弱(子宮無力症)と胎子の失位(体位異常)です。陣痛微弱というのは、正常な分娩の進行に必要十分な子宮の収縮が起こらない状態です。要因は、遺伝的なもの、年齢、栄養、代謝異常などが考えれます。機械的な子宮の閉塞で、子宮筋の消耗と続発性の陣痛微弱になることもあります。閉塞性難産は、場帯の骨盤腔の大きさと形の異常に関係しています。

同腹子が少ないのも、難産の誘因になります。分娩開始の胎子側の症状が不十分になって長期在胎になったり、同腹子が少ないために、胎子が大きくなって難産になることがあります。一方、同腹子が多すぎても、子宮が過度に伸張して陣痛微弱になります。但し、血統を考えた繁殖をしていると、産子数は多くなって、安産も多くなります。

症状
陰門部の胎膜や胎子の存在、陰門排出物の存在と正常には注意しましょう。部分的に出掛かっている胎子には、迅速な処置が必要です。何らかの薬剤投与があったか、何らかの処置をしたか否かは、確認しておきましょう。

分娩第Ⅰ期から12時間以内に、分娩第Ⅱ期に移行しない場合は、異常がないように見えても、母犬・母猫を検査しましょう。運動させると、陣痛が刺激されることがあります。

難産の指標
分娩期の雌における何らかの疾病徴候
過去の難産歴
既知の難産素因
分娩期の直腸温低下後24時間以上(犬)
分娩期の摂食停止後24時間以上(猫)
異常な陰門排出物
12時間で第Ⅰ期からⅡ期に進行しない
胎子が一部出たまま10~15分以上経過
娩出と娩出の間に活発な陣痛が1時間以上持続
持続的で強力で効果のない陣痛が20~30分持続
胎子の娩出前に陣痛が停止

分娩しかけている子犬や子猫を生存させるためには、迅速な処置が必要です。濃緑色排出物(犬)や赤褐色排出物(猫)があれば、少なくとも胎盤の一つが分離し始めていることを示していますので、2~4時間以内に子供が分出されなければ、母体を検査しましょう。鮮やかな黄色の陰門排出物は、胎便で、それは胎子に重度なストレスが掛かっていることを示します。羊水吸引と関連していることが多くて、予後が悪くなります。膿様の排出物があると、子宮感染か胎子ミイラ変性があると考えられますが、生存胎子がいることもあります。

新生子の死亡率は、分娩時間に関連しています。分娩第Ⅰ期の持続が6時間以内で、第Ⅱ期の持続が12時間以内であれば、母子とも健康であることが一般的です。分娩第Ⅱ期が12時間以上になると子犬は予後不良で、24時間以上になると母体にも影響を与えます。

診断
娩出しかけている胎子がいるかどうか、会陰部を調べて確認しましょう。腹部の触診では、胎動や子宮の収縮はわかりません。陰門排出物の存在と性状を確認した上で、産道内に胎子がいるかどうか、を調べましょう。胎子が出掛かっているのであれば、すぐに摘出します。

母体が健康であれば、X線検査やエコー検査を実施します。過大な胎子や異常な骨盤腔、胎子の位置の異常など、閉塞の原因が特定できます。胎子内のガスは死後6時間、胎子骨格と頭部の骨は死後48時間で崩れます。それらの変化があれば、X線検査で生死の判断が可能です。エコーであれば、心拍と胎動によって生存性の判定が可能です。犬胎子の心拍数は170~230bpm、猫胎子は190~250bpmです。正常以下の心拍数なら、すぐに摘出が必要です。

治療
一部が娩出しかけている胎子は、10分以内に摘出するべきです。大量の潤滑剤を用いて、関節離断を起こさないよう、左右交互に揺さぶって、引き出します。膣の背壁を叩いてやると、腹部の収縮が刺激されます(フェザリング)。少しでも陣痛を開始させるためにやってみることも必要です。

閉塞の有無と、母体と胎子の健康状態によりますが、難産であると判断したら、遅滞なく帝王切開をするべきです。閉塞がなければ内科的な処置をしてもいいのですが、内科的処置で難産を回避できる確率は、20~30%程度しかありません。

内科的な処置の目的は、子宮収縮の正常な陣痛を再確立させることです。処置は、オキシトシンとカルシウムの投与です。オキシトシンは、陣痛の頻度を増やして、カルシウムは陣痛を増強します。高用量や頻回のオキシトシン投与は、持続性の強い子宮収縮を起こし、胎盤の血流を妨げて胎子の娩出が遅くなってしまいますので、禁忌です。オキシトシンは、あくまで子宮収縮の頻度を、正常な陣痛と同程度に増やすために投与します。投与量は0.25単位/headで、筋肉内投与します。

子宮筋層の収縮は、カルシウムの流入に依存します。10%グルコン酸カルシウムを0.2mL/kgで、皮下投与すれば効果が得られます。分娩が進行するなら、必要に応じてカルシウムを再投与したり、オキシトシンとともに投与を続けたりします。オキシトシンは累積で4単位/head程度まで、カルシウムは累積投与量3mL程度まで、投与可能です。

内科的治療に反応しなければ、帝王切開です。

流産

感染症が流産の重要な要因です。感染症による母子感染を起こして、早期胚死滅、再吸収、流産が誘発されます。細菌性感染では、ブルセラ菌、大腸菌、β溶血性連鎖球菌、レプトスピラ、カンピロバクター、サルモネラ、マイコプラズマがあります。猫では、トキソプラズマ感染が問題になります。

症状
胚の死滅と胎子死は母体の異常、胎子の異常や胎盤の異常によって発現します。犬や猫では、1頭、胎子が体内で死滅しても、分娩期まで残りの胎子を維持して、正常で健康な子を分娩することがあります。母体の健康に悪影響のあるすべてのもの、治療のために投与された薬剤は、妊娠に悪影響を及ぼします。胎子の死に伴う症状は、喪失が生じる妊娠の時期によります。

早期胚死滅が起こったときは、母親には症状が出ませんが、猫では、発情周期間隔が長くなります。犬は、妊娠の有無に関わらず黄体が60日以上存続するので、発情周期に影響を与えません。妊娠30日以内に胚死滅では、症状は示さず再吸収が起こります。妊娠30日以降に胎子死が起こると子宮内容は排出されます(流産)。流産が起こると、血液の混じった陰門排出物がみられます。

 マイコプラズマ

マイコプラズマとウレアプラズマは、犬の膣、包皮、遠位尿道の正常菌叢です。犬では、肺炎、尿路感染症、大腸炎、繁殖障害の起こることがあります。猫では、マイコプラズマ感染で結膜炎、多発性関節炎、膿瘍、尿路感染を生じます。

テトラサイクリン、クロラムフェニコール、フルオロキノロンに感受性がありますが、これらは妊娠期と泌乳期には使用禁忌です。マイコプラズマの感染が妊娠に対して重大な影響を与えることは少ないので、それほど気にすることはありません。

 ブルセラ菌

生殖器系の感染というと、ブルセラ病が要注意です。法定伝染病なので、発病すれば殺処分です。

ブルセラ菌は、小さなグラム陰性の球菌です。どの部位でも粘膜を通過して、生殖器の伝播もありますが、最も多い感染経路は、口腔粘膜、鼻粘膜と結膜です。ブルセラが原因で流産の起こった後の膣排出物中に菌が排泄されて、環境を汚染します。精液中にも排泄されて、感染後6~8週後に多くて、その後、2年近く排泄されることがあります。尿中にも排泄されて、3週間程度、排泄が持続します。乳汁中にも排泄されて、経胎盤感染も生じます。

マクロファージや他の鈍食細胞は、ブルセラ菌をリンパ節、骨髄、生殖器へ運んで、そこで菌が増殖します。菌は、単核貪食細胞、骨髄、リンパ節、脾臓、前立腺に存在し続けます。菌血症が、感染1~4週後にみられることがあり、5年にわたって持続することもあります。

症状
ブルセラ菌による胎盤炎が胎子死の原因となって、妊娠45日頃の流産が最も多い症状です。胎子死は、妊娠のどの時期にも起こる可能性があって、早期胚死滅が見逃されたり、受胎障害と誤認されることもあります。分娩期まで胎子が維持されることもありますが、出生後、数日以内に死亡します。

雄のブルセラ菌感染で多い症状は、不妊症です。陰嚢と精巣上体の腫大が、感染初期の一過性の変化です。精液正常の異常が感染後5週以内にみられて、8週までに重症化します。白血球、マクロファージ、精子凝集、奇形精子が認められます。感染後20週になると、90%が異常な精子になって、最終的には精巣の萎縮と無精子症が起こって、炎症細胞は精液中にはみられなくなります。

生殖器症状以外は比較的、健康ですが、ブルセラ菌は、眼や椎間板への感染があります。ぶどう膜炎や椎間板脊椎炎が症状になります。ブルセラを疑ったときは、検査機関で抗体価を測定してもらいましょう。

治療
ブルセラが見つかってしまうと、殺処分で、治療は行えません。いくつかの抗生物質が効果があるようですが・・・治療しても、犬は容易に再発、再感染して、他の犬への感染源となります。ワクチンもありません。

予防
ブルセラ菌は、潜行性です。症状は、感染後、数週間から数ヶ月、現れません。その間も、感染した犬は、他の犬に対して感染源になります。受胎率が低下して、流産の率が80%に達して、産子数も激減します。ブリーダーにとっては壊滅的な被害を及ぼします。少しでもリスクのある犬は、集団の中で生活する前に、検査を行いましょう。2回の検査を1ヶ月開けて行って、陰性であるとわかるまでは、隔離しておくべきです。

運悪く、ブルセラ陽性反応が出てしまうと、殺処分です。

 ヘルペスウイルス

ヘルペスウイルスも、犬と猫の流産、死産や不妊症の原因に関わります。犬ヘルペスウイルスは、膣や包皮の水疱性病変の原因と思われてきましたが、それほど多くはなく、軽い呼吸器疾患が犬ヘルペスウイルスの主症状です。猫では、鼻気管炎の症状が重度になって、結膜炎、角膜潰瘍、致死性肺炎を起こしますし、新生子でも、ヘルペスウイルス感染は、爆発的な多臓器障害と死亡の原因になります。子宮内で母子感染して、生後も他の猫に感染を起こします。

ヘルペスウイルスは、飛沫感染と、口や鼻の分泌物への直接接触によって拡散されます。集団での感染が多いので、多頭飼いの猫では十分に注意しましょう。感染すると、生涯保菌すると考えられます。感染は、潜在的であることが多いですが、症状がいつも出ている症例もあります。

ヘルペスウイルス自体は、非常に脆弱で、一般の消毒剤で死滅します。消毒と衛生状態を清潔に保つことで、予防が可能です。妊娠雌と新生子は、隔離して無駄な感染を可能な限り防ぎましょう。雌犬は、感染後には免疫を獲得するので、以降の妊娠には影響を与えないようです。

 その他

猫のカリシウイルス感染も、流産の原因となることがあります。FIV、FeLV、FIPも流産の原因として挙げられます。犬では、ジステンパーウイルスが流産を生じることがあるようです。

他では、先天的な異常があることも考えられますし、一部の薬剤による影響もありますし、栄養不均衡も流産の原因となります。

流産した雌の治療には、原因がわからなければ、支持療法と対症療法を行います。生存胎子が残っていたら、妊娠はそのまま継続させます。いなければ、子宮内の残存物を卵巣・子宮摘出手術によって除去するか、堕胎薬の投与で除去します。

堕胎(誤交配)

犬や猫は、飼い主の気付かないうちに、望まれない妊娠をしてしまうことがあります。飼い主や獣医師の道徳観を損なうことなく、母体と将来の繁殖機能を損なうことなく、望まれない子犬や子猫の出生を防止できないか、可能ならどのようにすべきなのか、を考えなくてはなりません。

以後の繁殖を行わないのであれば、卵巣・子宮摘出手術を行います。繁殖の持続が重要であれば、まずは、妊娠の可能性を評価します。膣細胞診と血清プロジェステロン濃度を測定します。受胎の可能性が高いのであれば、早期の処置をした方がいい場合もありますが、不必要な処置をするよりも、妊娠が確定するまで待っていたほうがいいと思います。

内科的な処置では、子宮蓄膿症で用いる黄体退行・子宮収縮薬が、流産を誘起するために用いられます。黄体を退行させるためには、持続的なプロジェステロン産生を中止させるために重要です。子宮筋を収縮させることは、子宮内容物を排出させるために必要になります。カベルゴリンなどのドーパミン作動薬は、黄体を刺激するプロラクチンの分泌を抑制して黄体機能を抑制します。プロスタグランジン類は、アポトーシスによって黄体を退行させると同時に、子宮筋の収縮も誘発します。アグレプリストン(商品名:アリジン)のようなプロジェステロンレセプターの競合的拮抗薬は、子宮と子宮頸に対するプロジェステロンの影響を阻害します。

 プロスタグランジン

望まない妊娠が確定された後、流産が完了するまで、プロスタグランジンを投与します。全胎子が流産される前に処置を中止すると、残った胎子が分娩期まで維持されることがあります。

プロスタグランジンは、0.1~0.25mg/kgを皮下投与します。犬では、交配30~35日後に開始して、1日2回、3~9日で流産が完了しますので、毎日、投与します。猫は、0.2mg/kgを皮下投与で、妊娠45日に開始して、1日2回、5日間投与すれば処置可能ですが、副作用の起こることがありますので、注意しましょう。

妊娠が確定する前の、発情休止期早期の犬に、プロスタグランジン類を投与すると、胎子は排出されず、再吸収されます。陰門排出物も少なくなります。但し、不必要な治療になって、不要な副作用を発現させることがありますので、十分に注意してください。PGF2αを、BIDで4日間投与すれば作用するようです。処置が終われば、プロジェステロン濃度を測定します。低値が48時間維持されれば、黄体が退行していると考えられます。

 代替療法

カベルゴリンを単剤で用いることもあります。5μg/kgを1日1回、妊娠7週以降に5日間経口投与すると、流産が起こります。妊娠後期では、出産後すぐに死亡する胎子が排出されますので、使用する時期に注意が必要です。

アグレプリストン(商品名:アリジン)は、どの時期に投与しても効果が得られるようです。犬では、10mg/kgを1日1回、2日間、皮下投与します。猫は、10mg/kgもしくは15mg/kgを、犬と同様の処置をします。処置後、1~7日で、再吸収か流産が生じます。妊娠が中断されない場合もありますので、処置後は、エコー検査を行って、胎子が残っていれば、もう一度、アグレプリストンを投与するか、プロスタグランジンを投与します。アリジンは、比較的安全な薬ではありますが、残念ながら日本では承認されておらず、個人輸入でしか手に入りません。

 エストロジェン

エストロジェンは卵管内の胚の移動を遅らせて、胚を変性させ、結果として妊娠を阻止させますが、発情休止期にエストロジェンを投与すると子宮蓄膿症が誘発されたり、発情行動を延長させて卵胞嚢腫の形成要因となったり、再生不良性貧血を誘発したりするので、使用は推奨されません。