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繁殖障害と生殖器系の疾患/発情の異常

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発情の異常

発情周期

犬の繁殖は、縄張りや社会的な序列が重要なので、交配には雌犬を雄犬のところへ連れて行きます。最適な交配方法は、発情周期をもとに排卵が予測される日を目安に交配を開始して、発情行動が続いている間1日おきに交配させるか、最低2回の交配をさせるか、です。交配開始日は、発情前期が始まって10日~12日目が適切です。

LHサージが通常は発情行動の開始前後に起こって、排卵がLHサージの2日後に起こること、卵子はその2日後に受精可能になることと、射精された精子は4日間、受精能を保持することから、上記の方法での交配を行います。

膣の細胞診は、雌犬が明らかな発情行動を示さない場合や、交配相手が遠方で
人工授精のために精液を輸送しなければならない場合、交配管理の手段として有用です。剥離細胞の変化がエストロジェンの膣上皮細胞への影響を反応します。通常は、角化していない2~3層の扁平上皮細胞層が、発情期には著しく角化して樹状突起のみられる多数の厚い細胞層に変化します。合わせてLHサージを確認すれば、受精の確率は高くなります。

発情前期
発情前期は、外陰部の腫脹と血様排出液が観察されたときが開始で、雌犬が雄犬の交配を許容し始めたときが終了です。発情前期の平均日数は9日間です。発情前期を通じて、徐々に雄犬の許容は高まってきます。

無発情期を通じて、卵胞刺激ホルモン(FSH)と黄体形成ホルモン(LH)は分泌されています。FSHは分泌量の振幅は小さいですが、持続的に分泌されています。FSHは無発情期に徐々に上昇しますが、それ卵胞の発育と発情前期の開始に重要であると考えられます。発育中の卵胞の大きさは、直径1.5~5mmです。

卵胞はエストロジェン(主にエストラジオール17β)を分泌して、エストラジオールによって外陰部の腫脹、膣の浮腫と角化亢進および漿液血様液の陰門排出によって認められる糸球出血が生じます。エストラジオール濃度は、発情前期の初期に、徐々に増加していきます。排卵前のLHサージの直前に顕著に上昇して、その後、急速に低下します。

エストロジェンの影響下で、膣上皮細胞は増殖して、成熟します(角化亢進)。扁平上皮層の厚さは、無発情期は数層ですが、発情前期の後期になると20~30層になります。なので、膣細胞診によってエストロジェンの影響、発情周期の各段階が判断できます。

発情期
発情期の行動は、雌犬が交配を受け入れる行動をすることが特徴です。立位許容雌性を示す発情(スタンディングヒート)といいます。尾も側方に寄せます(フラッギング)。会陰部を刺激すると、尾振りが生じることで、発情を確認できます。

発情期は、平均で9日間続きます。外陰部の腫脹は、発情前期よりも軽度です。発情期の陰門排出物は、発情前期よりも血液が少ないですが、両期を通じて血様液を排出する犬もいます。

排卵前の卵胞は、3~8mmです。視床下部へのフィードバックによる発情前期のエストラジオール濃度の上昇によって、LHサージが発現して、それが排卵を有機します。続いて、黄体形成と卵巣からのプロジェステロンの分泌をもたらします。発情行動の開始は、通常、LHサージの1~2日後に起こりますが、LHサージに先行して起こることもあれば、4~5日遅れることもあります。

LHサージ後、48時間以内に排卵が起こります。一次卵母細胞(分裂前期Ⅰ)が排卵されて、卵管移動中に第一成熟分裂を開始します。排卵後2~3日で卵母細胞が成熟(分裂前期Ⅱ)して、受精が可能になります。成熟卵母細胞は、2~4日間かそれ以上は受精能があります。犬の精子も、雌の生殖器内で3~4日間は受精能を保持しています。

発情休止期
発情休止期に入ったかどうかは、膣細胞診の変化でみるのが正確です。表層細胞の急速な減少、中間細胞層、好中球や残屑などが特徴です。発情休止期は、黄体期です。黄体のプロジェステロン分泌は、下垂体からのLHとプロラクチンに依存します。しばらく、プロジェステロン濃度は高値で推移しますが、妊娠しているしていないに関わらず、2ヶ月間で徐々に低下します。

妊娠した犬では、分娩の約24時間前にプロジェステロン濃度が急激に低下します。妊娠していなければ、急激には下がりません。漸減します。黄体機能を調整しています。犬では、LHとプロラクチンは、黄体刺激作用を示しますが、LHの継続的な利用とは無関係に、黄体の退行はある程度の期間が過ぎれば起こります。

無発情期
発情休止期に続いて、無発情期(4~5ヶ月)が起こります。この間も、下垂体からのLHとFSHの分泌は続いています。

 猫の発情周期

猫は、季節性の多発情動物です。光周期に発情周期が支配されます。生後6~9ヶ月齢で、性的な成熟に達します。犬は自然排卵しますが、猫は膣への交尾刺激によって排卵が誘起されます。

卵胞期は、エストロジェン(エストラジオール17β)濃度が上昇して、発情前期と発情期の開始に関連します。猫は、発情しても陰門の腫脹や排出物はありません。発情前期と発情期の区別は、行動の変化で読み取ります。発情前期になると、雌猫は雄猫に対する敵意が減って、鳴き声が変わって、擦りつけ行動や後肢の足踏みをしたりします。発情前期は、1~2日間、持続します。

発情期は、鳴き声が増加して、腹這いになったり、尾を一方向に向けたりして、交尾を許容する行動を起こします。猫の発情期間は、1週間前後です。光刺激が十分にあれば、発情周期は2~3週間ごとに訪れます。

排卵は、膣と子宮頸における感覚受容体への刺激でおこる神経内分泌反射の結果で生じます。刺激で、下垂体から放出されるLHサージを誘発して、排卵を生じます。同時にエストラジオール濃度も高くないと排卵されません。LHサージの誘起に必要な交尾刺激は猫によって異なりますが、交尾刺激の頻度によって増えるようです。一旦、LHサージが起こると、その後の交尾刺激に対するホルモンの反応は消失します。排卵はLHサージの48時間後に起こります。

交尾が終わると、雌は叫んで雄を威嚇します。その後、激しく転がったり会陰部を舐めたりします。それが収まると、雌猫は次の交尾に入ります。盛っているときは、頻回の交尾行動を起こします。排卵誘起に十分な交尾刺激を確保するには、1日3回、3日間の交配をすれば、ほぼ大丈夫なようです。

排卵後、卵胞は黄体化して、プロジェステロンが産生されます。子宮内でエストラジオール濃度が低下してプロジェステロン濃度が上昇すると、子宮頸が閉鎖します。プロジェステロン濃度は、排卵後24~48時間で上昇して、25~30日後にピークに達します。黄体のプロジェステロンが、妊娠の維持に必要です。妊娠期間中(約65日)、プロジェステロンが分泌され、妊娠後期は徐々に低下していきます。

産子は2~5頭で、子猫を哺育している時は、発情しません。離乳後、2~3週間すれば、また発情します。


検査

細胞診
剥離性膣細胞診を行うことは重要です。発情周期の時期、交配日や分娩日の判定、生殖器内の異常な性状の進行を判断することができます。細菌、赤血球・白血球、粘液、細胞残屑、子宮内膜細胞や腫瘍細胞も検査します。

膣上皮細胞は、エストロジェンの影響を受けて変化します。発情前期の初期では、未角化の傍基底細胞と中間層細胞が多いのですが、発情前期が進むと剥離細胞の比率が徐々に増えて、角化細胞が増えます。発情前期の末期には、表層の無核扁平上皮細胞がほとんどになります。

発情期は、表層細胞がほとんどで、好中球の少ない状態になります。上皮細胞のほとんどは無核扁平細胞です。発情休止期に入ると、表層細胞が激減して、中間層細胞、好中球や細胞残屑が再出現してきます。

その他
膣鏡検査は、下部尿路疾患、尿失禁、膣排出物や不妊症や解剖学的な異常をみつけるに有用な検査です。また、生殖器の細菌感染は比較的多く、不妊、膣排出物がある場合、子宮蓄膿症、子宮炎、流産や死産などの繁殖障害には細菌培養をします。特に、ブルセラは、症状がなくても殺処分になりますので、要注意です。ヘルペスウイルスが繁殖障害に影響を及ぼすこともありますので、注意しましょう。他では、画像診断(X線検査とエコー検査)が、卵巣や子宮、妊娠の確認や胎子の生死判定に有用です。

 ホルモン検査

繁殖ホルモンの血清濃度を測定することは、繁殖障害の疑いのある動物に有用な検査です。但し、突発的にホルモンが放出されることがあるので、数時間おきに測定したり、数日間~数週間の反復測定が必要なこともあります。

プロジェステロン
発情期に排卵の時間が近づくと、卵胞細胞はエストロジェン産生細胞からプロジェステロン産生細胞に転換します。黄体形成ホルモン(LH)が排卵を促しますが、この転換にも関与しています。排卵後に、卵胞は黄体になって、プロジェステロンを産生します。プロジェステロン濃度が高い間は、発情休止期と考えられます。妊娠が成立すると、発情休止期はそのまま妊娠期間となります。

妊娠期間は、犬で平均63日、猫で平均65日です。排卵をしても妊娠しなかった猫は、30~40日で黄体は退行しますが、犬では妊娠と関係なく黄体が60日以上持続して、プロジェステロンを分泌します。妊娠すると黄体からプロジェステロンが分泌され、妊娠を維持するために必要です。分娩時には、プロジェステロン濃度が低下します。

犬は、排卵前の減少として、プロジェステロン濃度が上昇してきます。LHサージと同調して起こるので、プロジェステロンは排卵の予測に用いることが可能です。猫は、LHサージが起こった後に、プロジェステロン濃度が上昇します。いずれにしても、犬や猫での高いプロジェステロン濃度は、排卵が生じたことを示します。次の発情は、プロジェステロン濃度が基低値まで戻ってからしか起こりません。

プロジェステロン測定の指標
排卵時期の判定
  LHサージを識別
  受胎可能時期を識別
不妊症
  排卵の可否を確定
  黄体嚢腫の有無を考慮
  排卵の誘発有無を確定
黄体機能の評価
  鈍性発情を識別
  卵巣残渣の識別
分娩予知
  プロジェステロンの低値で24時間以内に
  LHサージから65日±1日
プロジェステロン産生性精巣腫瘍の認識

エストラジオール
エストラジオールは、卵胞から分泌されます。エストラジオールは、無発情期に低く、発情前期に入ると段々と上昇して、発情期は低下していきます。しかしながら、エストラジオールの測定は難しいので、臨床診断に対しては、あまり価値がありません。

性腺刺激ホルモン
卵胞刺激ホルモン(FSH)と黄体形成ホルモン(LH)は、視床下部からの性腺刺激放出ホルモン(GnRH)の支配下で、下垂体で産生されます。無発情期末期のFSH濃度の上昇によって、卵胞の発育と次の発情周期が開始され、LHサージは、卵胞の成熟と排卵をもたらして、卵胞は黄体化してプロジェステロンを産生します。LHサージの持続時間は、24時間以内です。

性腺刺激ホルモンは、視床下部と下垂体にフィードバックします。なので、避妊手術をした犬や猫では、LHへの負のフィードバック作用がなくなるので、血清中のLH濃度・FSH濃度は高く維持されます。避妊手術がされたかどうか、わからない動物は、LH濃度を測定すると判断可能です。FSH濃度は測定しづらいので、通常、測定しません。測定できるのであれば、同様な判断は可能です。

性腺刺激ホルモン放出ホルモン
GnRHは、雄でも雌でも、FSHとLHの分泌を制御しています。GnRHを測定は難しいので、検査値を利用することは少ないでしょう。発情を誘発するときに、GnRHを投与して、LHを上昇させることがあります。

リラキシン
胎盤で放出されるホルモンです。妊娠特異的に産生されるホルモンです。リラキシン濃度が高いと、妊娠を意味するということです。簡単に測定できるものではないですけど。

不妊・避妊

 不妊症

無発情の場合
2歳以上で発情の来ない場合(原発性)と、過去に発情を示していたけれども、その後発情を示さなくなる場合(続発性)があります。原発性無発情は、正常な未性成熟動物であったり、先天性の異常を持っていたり、発情周期を傷害する何らかの異常を持っていたりします。続発性無発情では、性腺の機能不全、代謝異常や投薬による影響、加齢性の変化を考慮しましょう。

発情がないと思ったら、プロジェステロン濃度を測定してみるとか、1~2週間おきに膣細胞診を行うとか、発情中の雌犬と同居させてみるとフェロモンによって発情が誘起されることがあるので試してみるとか、猫なら2ヶ月間1日12時間の光刺激をしてみるとか、で調べてみましょう。

続発性無発情は、視床下部-下垂体-性腺の機能不全で生じることもあります。甲状腺機能低下症、外因性ステロイド療法による影響や代謝性疾患が原因となることがあるようです。血液検査や尿検査、必要に応じてホルモン測定を行いましょう。卵巣形成不全、プロジェステロン産生性黄体嚢腫や卵巣腫瘍でも影響を受けることがあります。GnRH投与前後のLH濃度・プロジェステロン濃度やエコー検査を行って診断をしていきましょう。

発情周期間隔の変化
犬は1年以上の発情が来ない場合、繁殖期中の猫では1ヶ月以上発情が来ない場合は、周期が長い異常です。但し、発情周期が1年に1回の犬種(バセンジーなど)もあります。ステロイドの投与や猫の光に当たる時間が短い場合は、発情周期が長くなります。

犬で、4ヶ月以内の発情間隔は、周期が短い異常と考えていいと思います。排卵障害や着床障害による不妊症と関連します。犬では、子宮内膜が発情から回復するのに120~150日が必要ですが、発情周期の間隔が短いのは前回の発情周期から回復していないことを示しています。但し、ジャーマン・シェパードなど、4~4.5ヶ月の発情周期が正常な犬種もあります。

短い発情周期間隔は、分裂発情と区別する必要があります。分裂発情は、正常な発情前期が発情期に移行する前に、突然停止する現象です。2~4週間後に、発情前期が再開して、正常な発情期に移行します。これは正常な現象で、どんな犬にも起こりうる症状です。再発は稀です。

発情前期と発情期の異常
発情期に交尾を拒絶したり、持続性の発情や異常に短い発情を示すことがあります。精神的なものだったり、身体的な異常で交尾しないこともあります。

犬の発情前期と発情期は、それぞれ9日前後で終了しますが、ともに20日近く持続することもあります。飼い主は、3週間程度の生理が続くと、心配になって来院されることもありますが、犬では、35~40日以上にならないと異常とは判断しません。猫は、16日以上続くと異常です。多くは、卵胞嚢腫が原因です。エストロジェンが持続的に分泌され、子宮と骨髄に有害なので、卵巣・子宮摘出手術を行う方がいいでしょう。

犬で3日以内、猫で1日以内の異常に短い発情は、発情の見誤りであることが多いようです。細胞診をしっかり行って確認してみましょう。加齢によって発情が短くなることもありますし、体調に悪い影響を及ぼすことはありません。

正常な発情周期の場合
繁殖周期が正常なのに不妊症の場合、繁殖管理が不適切か、雄に問題があるか、卵巣・卵管・子宮・膣の異常、早期胚死滅、加齢に起因します。人為的な交配の失敗を防ぎたいのであれば、膣細胞診をしっかり行いましょう。ホルモン濃度を測定すれば、排卵障害や発育不全黄体の鑑別もできます。

感染因子、特に犬のブルセラ菌による不妊は問題となりますので、繁殖を行うのであれば、抗体価を測定しておくといいと思います。猫では、カリシウイルスやヘルペスウイルスが不妊の原因になります。

 避妊について

犬や猫の個体数管理を行うため、猫では特に望まれない子猫を増やさないためにも、避妊処置は必要だと思います。最も確実なのは、卵巣・子宮摘出手術です。と言いますか、日本ではこれ以外の方法で避妊はしていないのではないでしょうか?


卵巣の疾患

 卵巣残渣

卵巣・子宮摘出手術後の犬や猫で、発情周期が回帰して、発情を示してしまうことがあります。これは、卵巣が残渣した組織内で、卵胞形成とエストロジェン産生が再開したものです。簡単に言うと、卵巣摘出手術の失敗ですね。

エストロジェン濃度が高くなると、膣細胞診で、上皮の角化がみられます。外因性のエストロジェンがないなら、卵巣残渣と疑っていいでしょう。治療は、卵巣残渣をみつけるための試験的開腹手術をして、残った卵巣を除去します。手術がうまくいったかどうかは、血清プロジェステロン濃度を測定して確認します。

 卵巣腫瘍

卵巣腫瘍の症例数は多くないですが、顆粒膜細胞腫が発生します。残渣卵巣にも発生します。エストロジェン産生性の卵巣腫瘍では、発情、骨髄毒性、皮膚病変を示します。hCGやGnRHの投与に反応しません。プロジェステロン産生性の顆粒膜細胞腫では、乳腺の発達と嚢胞性子宮内膜過形成を示すことがあります。

発情と排卵の誘起

発情の誘起は、原発性・続発性の無発情の治療や、飼い主の希望による妊娠と分娩時期を調節するために行われます。排卵の誘起は、発情休止期にプロジェステロン濃度が低くなる排卵障害の症例や、卵胞嚢腫による持続性発情の症例で行うことがあります。

猫の場合
猫では、光刺激の操作で発情が誘起されます。発情している猫と同居させると、発情が誘起されることもあります。薬物を用いるのであれば、GnRH(25μg)を筋肉内投与すると、LHサージが誘発されます。物理的な刺激として、細い頭の丸い棒で、膣内を2~3秒、刺激するとLHサージが起こります。このような操作は、普通はしません。絶滅危惧種の保存のために行う程度のようです。

犬の場合
犬では、薬剤での発情誘起が行われます。子宮蓄膿症の治療に用いられるプロスタグランジンF2αは、黄体の退行と、黄体からのプロジェステロン産生の減少をもたらします。犬が正常な状態では、長い発情休止期を短縮します。

排卵の誘起は、排卵障害の発情周期を呈する犬や、嚢腫卵胞の犬で行うことがあります。hCG(20IU/kg、im)やGnRH(50~100μg、im)を投与すると、誘起されます。発情期の初日に投与するのが効果的です。排卵がうまくいったかどうかは、プロジェステロン濃度を測定すれば確認できます。