役に立つ動物の病気の情報 | 獣医・獣医学・獣医内科学など

繁殖障害と生殖器系の疾患/膣と子宮

Top / 繁殖障害と生殖器系の疾患 / 膣と子宮

膣と子宮の疾患

陰門排出物は、肉眼観察と膣細胞診を行います。細胞診では、膣上皮細胞の成熟過程と角化の検査をすることと、他の細胞の分類と粘液の識別をします。排出物が子宮由来であると疑われたら、すぐに腹部X線検査とエコー検査を実施すべきです。

陰門排出物の細胞性状による鑑別

角化上皮細胞末梢血粘液滲出物
正常な発情前期
正常な発情期
卵巣残渣
異常なエストロジェン
扁平上皮の混入
胎盤の修復不全
子宮・膣の腫瘍
生殖器の損傷
子宮捻転
止血異常
正常な発情休止期
妊娠
子宮粘液症
アンドロジェンの刺激

細胞残渣
好中球の滲出
 正常な発情休止期初日
 膣炎・子宮炎
 子宮蓄膿症
  •  血様陰門排出物
    •  発情前期と発情期には、多数の赤血球と、多くの成熟(角化)上皮膣細胞がみられて、エストロジェンの影響が示唆されます。白血球や細菌も存在します。卵巣残渣や外因性エストロジェン、卵胞嚢腫や卵巣腫瘍によるエストロジェン分泌過剰でも同じような所見がみられます。
    •  角化細胞が存在しない状態での赤血球の存在は、膣の裂傷。子宮や膣の腫瘍、胎盤の修復不全、子宮捻転や止血異常のような出血原因を考えましょう。白血球が同時にみられるなら、炎症性疾患も考慮にいれて調べましょう。
  •  粘液様陰門排出物
    •  粘液は、分娩後は正常な排出物です。正常な妊娠末期にも存在します。
    •  子宮頚管炎や子宮粘液症は、粘液様陰門排出物を生じます。
  •  滲出物
    •  流産、胎子や胎盤停滞による子宮炎に伴った排出物の主な構成成分は細胞の断片です。
    •  膿様陰門排出物
      •  膿様、粘液膿様の陰門排出物は、多形核細胞の存在が優勢です。細菌も存在すれば、敗血性と判断できます。
      •  退行性変化や敗血症がなく、多数の多形核細胞が発情休止期の初日に認められることが多く、これは正常な反応です。発情休止期開始後48時間以内に消失します。
      •  アンドロジェンによる刺激によって、非敗血性の炎症を生じます。
      •  その他、陰門炎、膣炎、子宮蓄膿症、子宮炎、流産や子宮内肉芽腫や腫瘍でも陰門排出物が認められます。
  •  異常細胞
    •  子宮内膜細胞や腫瘍細胞が、膣細胞診上に認められることがあります。嚢胞性子宮内膜過形成や移行上皮癌、可移植性性器腫瘍などでみられます。

膣の疾患

 先天異常

胎生期の器官形成において、膣弁の異常な形成や消退によって、前庭膣接合部は組織の垂直体(肉柱)や輪状絞縮となります。輪状絞縮が起こると、膣前庭部は狭窄します。垂直中隔(肉柱)は、2本の中腎傍管が異常な融合や不完全に融合することで起こります。生殖壁が異常に融合すると、前庭と膣内の絞縮が生じます。先天的な異常は、触診で識別できます。

  •  症状
    •  特に症状を示さず経過することもあります。交配ができずに、異常がみつかることが多いようです。
    •  陰門周囲皮膚炎、再発性尿路感染症、慢性膣炎を生じることもあります。
    •  尿失禁との関連性が強く、異所性尿管などの先天的な異常で尿が貯留しているためです。
  •  治療
    •  症状がなければ、治療は不要です。症状があるなら、外科的な修復が必要です。術後の陰門周囲皮膚炎、再発性尿路感染症、膣炎の予後は良好です。

先天的な異常があるなら、無理に繁殖させることもないと思いますので、合併症を避けるためにも、避妊手術を行っておく方がいいと思います。

 陰核肥大

陰核は、生殖結節から発達して、雄はそこから陰茎が発達します。陰核は、アンドロジェン影響下では腫大します。骨化することもあります。肥大化する原因は、外因性アンドロジェンが投与されていたり、間性動物(両性の生殖器を保有する個体)の精巣組織からの内因性アンドロジェンの産生によるものであったり、染色体の異常などによるものです。

視診や触診で、肥大した陰核が確認できます。犬が陰部を舐めて、粘液様排出物が出たり、尿感染が再発性にみられることがあります。

治療は、症状やアンドロジェンの分泌組織があるのなら、性腺・子宮・陰核を外科的に除去します。陰核の肥大が軟部組織であれば退縮しますが、骨化組織はそのままです。

 膣炎

膣炎は、未成熟な生殖器、膣や前庭の解剖学的異常、尿による刺激が原因で起こる場合と、細菌、ウイルス、真菌の感染、アンドロジェンによる刺激、異物や腫瘍によって起こる場合があります。

粘液様、粘液膿様の陰門排出物がありますが、血液を含むことは稀です。子宮蓄膿症との鑑別にもなります。それと、膣炎の犬は、比較的、正常です。

性成熟前の犬の治療
1歳齢以下の犬の場合、陰門排出物や陰門と膣の炎症の症状があって、他は正常です。膣細胞所見は、非敗血性です。抗生物質の投与を行うことが多いのですが、若い犬の場合、自然回復することがほとんどですので、治療の必要はありません。

若い犬では、膣炎と発情との因果関係はなく、性成熟に到達すると自然に治癒します。卵巣・子宮摘出手術が膣炎の治癒を促進することはありませんが、発情期の生殖器の成熟が膣炎の治癒をもたらす場合があるので、卵巣・子宮摘出手術は初回発情後に行うという考え方があります。

雌成犬の治療
1歳齢以上の犬では、もとにある異常の識別と排除を行うことです。陰門の異常、膣絞縮、垂直膣中隔、異物、陰核肥大、膣腫瘍が一般的な原因です。尿路感染症と尿失禁など尿路系の異常もみられます。膣細胞診と膀胱穿刺による尿検査を行いましょう。

ときおり犬ヘルペスウイルス感染による膣炎が生じることがありますが、ヘルペスウイルス感染は、新生子の多臓器障害や成犬の呼吸器感染、流産の方が重大な疾患です。

基礎疾患を治療すれば、膣炎は治癒します。陰門と膣の先天異常は外科的に修復すれば治りますし、異物を除去した後に尿失禁が制御されれば治ります。感染が疑われたら、抗生剤を投与すれば治癒します。

膣炎症状は、発情のたびに改善します。卵巣・子宮摘出手術による効果はありません。

慢性の非反応性の膣炎
基礎疾患がみつからず、適切な治療で回復しない慢性の膣炎には、ストレスが関与している可能性があります。避妊手術を行った犬なら、卵巣残基からの異常なホルモン産生を疑う必要もあります。真菌(酵母菌)の感染が起こっているかも知れません。長期間の抗生剤を投与している場合には考慮しておきましょう。

 腫瘍

高齢の犬や猫では、平滑筋腫が最も多い腫瘍です。治療は、外科的切除します。完全に除去できる位置に腫瘍があるのであれば、予後良好です。

移行上皮癌は、尿道から前庭と膣に侵入することがあります。移行上皮癌は、剥離するので、細胞診で診断できます。移行上皮癌は、化学療法で治療します。予後は要注意ですが、尿流が維持されて、尿路感染と炎症が制御されていれば、QOLは良好です。

可移植性性器腫瘍(伝染性の円形細胞腫瘍)は、外部生殖器の粘膜表面に発生する腫瘍ですが、舐めたり、腫瘍に直接接触することで、自身の体の他の部位に移行したり、他の犬に伝染します。新鮮な充血性の様相を呈して、初期所見では隆起してきます。成長すると、カリフラワー状になって、直径5cm以上に達します。非常に脆く、すぐに出血します。雄でも、陰茎と包皮にできることがあります。肥満細胞腫、組織球腫、リンパ腫や他の円形細胞腫と鑑別するためにも、生検を行って病理検査をしましょう。

治療は、ビンクリスチンの投与に反応します。単剤で、週1回の投与で有効です。毒性も低く、ほとんどが回復して寛解が得られます。治療期間は、通常、4~6週間です。

 過形成と膣脱

発情前期と発情期には、膣が浮腫性に過形成となります。これはエストロジェン刺激による影響です。その変化が異常に強く現れて、膣組織が陰門から突出することがあります。それが、膣の過形成、膣脱と言われるものです。

突出の程度は3段階あります。浮腫を起こした組織が膣と膣前庭内に収まる程度の小さいものなら、滑らかで光沢のある小さな組織が淡桃色を呈しています(Ⅰ型膣脱)。過形成の組織が陰門から突出すると、乾燥して、弛緩して、皺が寄ってしまいます。露出状態が続くと、亀裂と潰瘍が発生します(Ⅱ型膣脱)。陰門からの組織の突出が非常に大きくなって、過形成の組織が膣の全周を含んでいることもある状態がⅢ型です。

浮腫を起こした部分以外は異常がなく、過形成の組織が外尿道口を塞いでいても、尿の流れが障害されることはありません。

治療
治療は、支持療法です。卵胞期とエストロジェンの卵巣からの産生がなくなると、浮腫と過形成は自然に消退します。これらの変化は、卵巣・子宮摘出手術で促進されるので、避妊手術を行えば、再発が防止できます。

露出した組織は、外傷や粘膜損傷から守って、感染があるなら抗生物質の服用か、抗生剤入りステロイドクリーム(デルモゾールGなど)を塗布して対応します。温めた生理食塩水で組織の洗浄を行いましょう。

組織を傷つけないために、刺激のある床剤は避けて、気にして舐めたり咬み切ったりすることもあるので、エリザベスカラーを装着しておきます。

浮腫組織の外科的除去は、出血も多くなりますし、除去したからと言って次の発情前期・発情期の再発を防止するわけではないので、あまり行いません。膣脱の程度はもちろん、著明に減少します。

子宮の疾患

子宮異常では、異常な陰門排出物によって感知されます。子宮が肥大して、腹部の不快感と腹部弛緩になります。子宮感染が加わると、食欲不振、元気消退、多飲・多尿、発熱などの全身性症状を示します。腹部X線検査と腹部エコー検査は非常に有用ですので、疑いがあれば、血液検査、尿検査とともに実施しましょう。

子宮の疾患で多いのは、子宮蓄膿症と分娩後の子宮炎です。子宮の腫瘍は稀です。腫瘍には、平滑筋腫が多いのは膣の疾患と同様です。腫瘍があると、血様の陰門排出物、食欲不振、体重減少、腹部の腫大がみられます。治療は、卵巣・子宮摘出手術を行います。平滑筋腫は、完全に除去できれば予後良好です。子宮癌は、転移が多いので予後不良です。線維腫のような巣状の良性子宮塊がまれに高齢犬で認められます。

子宮捻転は、予定日の近い妊娠子宮に発生することがあり、命に関わる疾患となります。子宮捻転が起こると重症で、急性腹症で来院します。重度の代謝障害を伴うので、血液検査と電解質を評価して、卵巣・子宮摘出手術を行います。

 嚢胞性子宮内膜過形成

子宮内膜腺の分泌機能が亢進して、嚢胞を形成して、子宮内膜の過形成が起こる疾患ですが、臨床的には特に目立った所見が現れるわけではありません。
プロジェステロンの発生が影響するようで、プロジェステロン濃度が高くなる発情周期の黄体期(発情休止期)に発生します。腹部の触診と、エコー検査でみつかります。

 子宮粘液症

嚢胞性子宮内膜過形成が進行したものが、子宮粘液症であると考えられています。嚢胞性の子宮内膜腺内の液体貯留に加えて、無菌の液が子宮腔内に貯留します。子宮頚管が開いていれば、粘液様もしくは漿液粘液様の陰門排出物が出てきます。排出物は、細胞診では膿様ではありません。

腹部の触診と画像診断を行います。ときおり症状で多飲・多尿や嘔吐、食欲不振のみられることがありますが、普段の生活は概ね正常です。エコー検査のみでは、子宮蓄膿症との鑑別は難しいですが、子宮蓄膿症で貯留する液体は、エコー源性です。子宮粘液症は、症状がそれほど重くなりませんが、軽度の貧血になります。白血球数もそれほど上がりません。生化学的検査もほぼ正常です。血液塗抹で、桿状核好中球の比率もそれほど高くなりません。これらが子宮蓄膿症との鑑別の指標になります。

 子宮蓄膿症

子宮蓄膿症は、膿様物が子宮内に貯留して炎症細胞が子宮内膜に浸潤している所見が特徴です。子宮内膜への線維芽細胞の浸潤、子宮内膜の浮腫、壊死、潰瘍や子宮腺の膿瘍形成がみとめられます。過形成より、子宮内膜の壊死を伴うことが多いでしょう。

何がきっかけで子宮蓄膿症が発症するかは、よくわかりません。プロジェステロンが影響を及ぼしているとは考えられますが、細菌の浸潤や膣の細菌叢が発症の原因にもなると思われます。大腸菌が同定されることが多いのですが、大腸菌のようなグラム陰性菌は、エンドトキシンを産生するので、サイトカインの反応経路を動かして、炎症伝達物質が放出されます。これらが、子宮蓄膿症の炎症反応の原因と考えられます。C反応性蛋白、TNF-α、ラクトフェリン、PGF2αなどの炎症性伝達物質の濃度が高まるようです。

子宮蓄膿症の発症リスクは、加齢とともに高まります。子宮へのホルモン刺激が繰り返されるためと考えられます。ホルモン治療によってもリスクが高まりますし、未経産の犬の方が発症率は高くなります。

症状
子宮蓄膿症は、命に関わる重度の疾患です。敗血症とエンドトキシン血症が短時間で発生してしまうためです。緊急の治療、手術が必要になります。

発情休止期に発症します。症状では、陰門排出物が認められて、元気消失、食欲不振と多飲・多尿を示します。陰門排出物は膿様、血様ですが、疾患が開放性か閉鎖性かの違いで、陰門排出物の有無が分かれます。腹部が腫大していることも多く、脱水状態にもなります。

血液検査では、左方移動した好中球(桿状核好中球)がみられて、白血球数が増加しています。軽度の正球性、正色素性、再生不良性貧血もみられます。加えて、高蛋白血症、高ブログリン血症、高窒素血症があって、ALTやALP活性が上昇しています。尿検査では、等張尿や蛋白尿がみられることが多く、細菌尿もよく認められます。子宮蓄膿症を疑えば、腹部エコー検査を行って、液体が充満した子宮を確認しましょう。それで確定診断可能です。

治療
迅速に治療を開始しなければなりません。すぐに静脈を確保して、輸液療法を開始してください。組織循環を維持して、腎機能を改善することも必要になると思われます。敗血症が併発していたり、術後の高窒素血症が続くと、予後も悪くなります。術後も輸液点滴は継続して、低血圧を防いで尿量を維持しなければ、死亡率が高くなります。

適切な抗生物質の投与もできるだけ早く開始しましょう。エンロフロキサシン、サルファ合剤、アモキシシリンなどがグラム陰性菌に効果的です。培養試験を行った方がより確実ですが。

一般的には、手術を行って、卵巣と子宮を切除します。が、中には、産子を得たいという飼い主もおられて、根治的ではありませんが、内科的治療を選択することもあります。

内科的治療
内科治療を選択する場合は、症例の健康状態に十分注意しましょう。感染した子宮内容物を排除するには、数日~数週間が必要です。但し、子宮頚管が開放性の場合でないと、子宮破裂の危険性が高く、治療が失敗する可能性があります。頸管閉鎖型の子宮蓄膿症の治療には、手術を選択する方が賢明です。

黄体退行や子宮収縮薬が用いられます。黄体を退行させることは、プロジェステロンの産生を止めるので、重要です。子宮筋を収縮させることは、子宮内容物を排出するために必要です。ドーパミン作動薬(例:カバサール;5μg/kg、po、SID)は、黄体刺激作用を持つプロラクチンを抑制するので、黄体機能を抑制します。プロスタグランジンF2α(0.1~0.25mg/kg、sc、SID)などのプロスタグランジン製剤は、アポトーシスによって黄体を退行させて、子宮筋の収縮を生じます。

治療は子宮が空になるまで続けます。通常1~2週間は必要です。子宮が空になってくると排出物が増加しますが、症状と検査値は改善してきます。内科治療を行っても症状が悪化するなら、外科手術をするべきです。子宮の内容物が多少でも排出されると、動物の状態は少しでもよくなりますから、外科手術のリスクも多少ながら軽減できます。

PGF2αによる副作用として、浅速呼吸、流涎、嘔吐、排便、排尿、散瞳などがみられます。投与後すぐ(5分以内)にみられて、30~60分程度持続しますが、投与回数ごとに副作用は弱くなってきます。

日本では手に入りませんが、アグレプリストン(10mg/kg、sc)というプロジェステロンレセプターの競合的拮抗薬は、プロジェステロンの作用を遮断して、子宮頸の弛緩と子宮の収縮を生じます。閉鎖型の子宮蓄膿症が内科的に改善できる可能性もあるようです。投与は、1日1回で、1、2、8日目に投与を行って、14日目にエコー検査で改善がなければ、同用量を14日目に1回投与します。副作用もなく、効果のある薬ですが、残念ながら日本では発売されていません。