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繁殖障害と生殖器系の疾患/陰茎・包皮・精巣

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陰茎・包皮・精巣の疾患

陰茎の疾患

 外傷

陰茎の外傷は、喧嘩や交通事故、交尾の失敗、障害物に飛び乗ろうとしたときなどに起こります。血腫や裂傷、陰茎骨の骨折も発生する可能性があって、通常は疼痛を伴います。腫脹、挫傷、出血が認められれれば、念のため、X線検査を行っておくといいかと思います。

治療には、傷の消毒、壊死組織の切除などを行います。裂傷の場合は、縫合する必要もあります。性的な刺激は与えないようにします。陰茎の勃起が起こると出血が再発したり、傷口が開いてしまう可能性があります。

陰茎骨の骨折が起こると、亀頭部尿道の閉塞、尿道の裂傷が起こる場合があります。排尿困難になって、尿毒症にならないよう、注意しましょう。緊急処置としては、膀胱穿刺で尿を除去して、尿道損傷が治癒するまで、尿道カテーテルを留置しておきましょう。尿路の細菌感染を予防するために、抗生剤の投与も必要です。

骨折で、骨変位していれば、ワイヤーで固定する必要があります。変位がなければ不要ですが、治癒過程で形成される仮骨が尿道閉塞を起こすことがあります。陰茎の外傷が著しい場合、切断も必要となります。

 持続勃起症

性的な刺激に関係なく、陰茎の勃起が異常に長く続く症状です。神経系の異常であると考えられます。

交感神経性の下腹神経、副交感神経性の骨盤神経、知覚神経性の陰部神経が、勃起を制御する神経系です。特に、陰茎の勃起には、副交感神経性の刺激が深く関与していて、射精には交感神経系の刺激が重要です。正常な勃起は、海綿体付近の毛細血管周囲にある平滑筋の弛緩、小動脈の血流量が増加して、海綿体組織に急激に血液が充満することにより、静脈が圧迫を受けて静脈血が陰茎内にうっ滞することによって起こります。勃起の終了は、海綿体にある平滑筋が収縮して、静脈内に貯留していた血液が陰茎内から流出して生じます。

脊髄損傷、全身麻酔、血栓塞栓症、投薬などが犬の持続勃起症の原因と考えられます。陰茎亀頭部の基部の静脈に閉塞が起こると、持続勃起症が発生します。原因がわからないことが多いのですが、陰茎内の静脈血の流れがなくなるため、血液が海面体洞内にうっ滞します。血流がなくなるので、陰茎の壊死がおこります。

興奮しやすい犬や、多少の勃起の持続は異常ではありません。発情雌犬から引き離すか、気を紛らわせると治まることが多いのですが、それでも治まらないなら、鎮静剤を投与したり、冷水を陰茎にかけるなどの処置を行います。血腫や浮腫などのような陰茎の腫大とも区別しましょう。

持続勃起症に陥ると、海面体内にうっ滞している血液がどろどろになって、早い時期に壊死が起こります。数時間以内に、薬物治療を行いましょう。非虚血性の持続勃起症では、ジフェンヒドラミンなど抗ヒスタミン薬、抗コリン作動薬を投与に反応します。しかしながら、犬や猫では、持続勃起症が発生してから数日間、放置されてしまうことが多くて、陰茎亀頭部の壊死が既に起こっていて、陰茎の切断や会陰部の新たな尿路形成手術を行わなくてはならないのが一般的です。

持続勃起症が起こってる場合は、性的な興奮を与えないようにして、浮腫、血栓症、線維化、知覚麻痺や壊死などが発生しないように注意しましょう。治療としては、陰茎亀頭部を清潔に保って、抗菌剤軟膏を塗布して、できるだけ包皮内に陰茎を収めておくことが大切です。

 その他

小疱、潰瘍、イボの形成、可能性肉芽腫性病変、腫瘍の発生を認めることがあります。包皮からの排膿・排液があったり、包皮や陰茎を舐めたり、包皮から腫瘤塊が露出していることもあります。視診、細胞診、細菌・真菌培養、政権などを行いましょう。

可移植性性器腫瘍は、陰茎で生じる腫瘍の中では最も多い疾患です。イボと外見が似ています。イボは、生検を行った後、自然に消失することがあります。小疱の発生原因は不明です。ヘルペスウイルスと関連するのではないか、と考えられます。陰茎亀頭部の基部にあるリンパ濾胞が腫大すると小疱と同じように見えます。リンパ濾胞の腫大は、持続的な刺激によって起こると考えられます。潰瘍や化膿性肉芽腫性病変はほとんどみられませんが、感染や包皮炎が関連していると思われます。

陰茎小帯の遺残をを除いて、陰茎の先天的な疾患の発生は稀です。陰茎の発育不全、尿道下裂などが起こることがありますが、手術に補正を考えなければなりません。

 陰茎小帯の遺残

陰茎亀頭部の表面と包皮粘膜は、アンドロジェン作用によって、出産前や生後数ヶ月以内に分離します。これがうまく行かないと、陰茎と包皮の間に結合組織が残存してしまいます。これが陰茎小帯の遺残です。

臨床症状はありませんが、包皮からの排出物があったり、自分の包皮をよく舐めたりすることがあります。陰茎小帯のために、陰茎の先端が下や横に向いてしまって、交尾が出来ない状況が生じることもあります。小帯は透明で、血管もありません。局所麻酔下で、外科的に小帯を切断するといいでしょう。

生後7週~5ヶ月齢で、精巣の摘出手術を受けた猫では、包皮と陰茎亀頭部の癒着を認めることがありますが、手術との関連性は明確ではありません。臨床的にも意義はないと思います。

包皮の疾患

 包皮炎

包皮腔内や陰茎亀頭部の炎症や感染を、亀頭包皮炎と呼びます。犬でよく認められます。原因には、ヘルペスウイルス感染やブラストミセスの感染が多いようですが、一般細菌で普通に起こります。

包皮炎では、白色の恥垢や緑色の多量の膿液などが包皮口から排出されます。それ以外に症状はありません。腫瘍が亀頭部に発生していたり、異物が包皮腔内に存在しない限り、包皮口からの排出液は血様になりません。なので、異物の有無、腫瘍や潰瘍の有無、炎症性の腫瘤塊などがないか、を確認しましょう。

水疱を生じたり、他の部位にも同様の病変を起こすヘルペスウイルスや真菌感染が疑われる場合を除いて、包皮炎では細菌培養などは行うこともありません。保存療法で十分です。包皮口の周囲に排出液が付着しているなら、被毛を刈って、抗菌性の消毒液を用いて包皮腔内を洗浄すると治ります。

 嵌頓包茎

嵌頓包茎というのは、包皮腔から突出した陰茎亀頭部が包皮腔内へ戻れなくなった状態をいいます。犬で、しばしば勃起後にみられる疾患です。精液採取や交尾後にも発生します。一般的に、勃起が終了して陰茎が包皮腔内に引っ込む際に、包皮口の皮膚やその周囲の被毛が陰茎に付着して、陰茎が包皮腔内へ巻き込まれて起こると考えれます。巻き込まれた皮膚による圧迫で、陰茎の血液循環が障害を受けます。

発生当初は、露出した陰茎に疼痛もなく正常様にみえますが、数分後には浮腫が起こって疼痛が現れてきます。血液循環の悪化によってもたらされる障害に加えて、露出した陰茎が外傷を受けやすくなります。亀頭部の表皮は乾燥して、ひび割れが生じてきます。この時点で尿道には障害はないですし、露出していない陰茎や包皮にも異常はなく、疼痛もありません。しかしながら、時間の経過が長くなると、露出部に壊死が起こって、尿道にも障害が出てきます。

治療には、疼痛が伴っているため、鎮痛薬の投与か麻酔が必要になります。発生初期は、疼痛がないので不要です。反転している包皮口の皮膚を元の形状に戻して、亀頭部の血液循環を復活させて、露出していた亀頭部を包皮腔内へ収めなければなりません。

一旦、包皮を後方にずらして、陰茎の後部を露出させます。巻き込まれた包皮を出してきて、包皮の形状を元に戻すと、陰茎の血液循環はすぐに回復します。浮腫も、しばらくすると解消します。陰茎の表面は、水洗して清潔に保ちます。粘膜に外傷があれば、抗生剤もしくはステロイド含有の抗生剤の軟膏を塗布しておきましょう。

多少浮腫があっても包皮内に戻りますが、戻りにくいなら潤滑液を用いましょう。陰茎の血液循環が回復されているにも関わらず、浮腫が消失しないなら、冷やして浮腫を改善させます。

症例によっては包皮口を外科的に広げる必要もあります。腫脹した陰茎が、再度、包皮口から出てしまうなら、一時的に包皮口を縫合してしまう方法もあります。但し、尿の貯留には注意しましょう。

 包茎

包皮腔内から陰茎が突出できない状態です。先天的に包皮口が狭いために突出できない、ということが原因として最も多いようです。外部に完全に排尿できないため、包皮腔内に尿が貯留して、包皮口から尿がポタポタと滴り落ちてしまいます。治療は、外科的に包皮口を切開することです。

精巣の疾患

 潜在精巣

よく起こります。精巣が陰嚢内に下降していない状態です。片方だけの場合もありますし、両方の精巣が下降しないこともあります。陰嚢内に下降していない精巣が、腹腔内に停留していることもありますし、鼠径部の皮下に停留していることもあります。原因としては、遺伝的な要素があるようです。

出生前後の雄は、精巣のライディッヒ細胞で産生されるホルモンなどが、精巣を鼠径管まで、腹腔内を移動させる働きがあるようです。鼠径部から陰嚢への皮下の移動は、テストステロンが関与しているようです。テストステロンが、精巣に付着している尾側懸垂靭帯の退行を引き起こします。鼠径管から陰嚢までの精巣の移動は、精巣導帯と外精巣挙筋の収縮作用で起こります。

猫の精巣下降は出生前に終わっていて、犬では、生後10~42日で完了するようです。生後8~10週齢までに精巣が陰嚢内で触知されなければ、潜在精巣と判断できますが、若い時期の精巣は皮下で動きやすいので、最終的な判断は生後6ヶ月齢を過ぎてから行う方がいいでしょう。

潜在精巣の精巣機能は異常で、精子形成能がありません。とくに、腹腔内に停留している精巣は、高温環境下にあるので、尚更です。潜在精巣になると、後に陰嚢内に精巣が下降しても精子形成能を示しません。潜在精巣であっても、精巣の間質細胞はテストステロンを分泌する能力があるので、雄の性欲や性成熟は正常です。

潜在精巣の治療はありません。潜在精巣の場合、腫瘍の発生率が正常よりも高くなるので、摘出したほうがいいと考えられています。しかしながら、腹腔内にある潜在精巣は、発見が困難な場合もあります。

ときおり、片側しか精巣のない単精巣という症例があります。片側を摘出して反対側があるのか、ないのか、わからない場合は、GnRHの投与前後のテストステロン濃度かLH濃度を測定してみましょう。

 腫瘍

雄の老齢犬では、皮膚の腫瘍に次いで多いのが、精巣腫瘍です。セルトリ細胞腫、ライディッヒ細胞腫(間質細胞腫)、精上皮腫に分類されます。腹腔内の潜在精巣では、セルトリ細胞腫が最も多くなります。

症状
精巣の腫大が共通の症状です。セルトリ細胞腫、間質細胞腫では、ホルモン(エストロジェン)を多量に分泌することがあって、その影響による症状がでることがあります。腫瘍の精巣と反対側の精巣の萎縮、骨髄の造血細胞の阻害、包皮の下垂、雌様の乳房腫大、脱毛、皮膚への色素沈着、前立腺上皮細胞の鱗状化生などがみられます。

造血機能の阻害では、重度の貧血、血小板数の減少、白血球数の減少が起こります。腹腔内の潜在精巣が腫瘍化して、顕著に大きくなると、腹腔内の臓器を圧迫して障害を与える可能性があります。

診断
診断は比較的簡単です。精巣に腫瘤塊があれば、そうでしょうし、雌化減少が認められると精巣腫瘍の可能性を考慮します。潜在精巣の腫瘍を疑えば、エコー検査を行って、腹腔内の腫瘤を確認しましょう。

治療と予後
治療は、精巣の外科的な摘出が第1選択です。通常は、両側性に摘出しますが、繁殖用に共用したいのであれば、片側だけの摘出でも構いません。摘出後は、早期に症状が改善します。

摘出した精巣は、病理組織学的検査を行うべきですが、精巣腫瘍の多くは良性です。悪性で転移性の場合、肺よりも腹腔内臓器への転移を起こしやすい傾向があります。悪性の場合は、専門医に相談しましょう。

 精巣炎・精巣上体炎

精巣や精巣上体への感染は、血行性や尿道からの上行性に起こります。外傷で起こることもあります。精巣で感染が起きると、精巣上体に波及しますし、その逆も普通です。好気性菌の感染で起こることが多くて、ブルセラ菌が最も問題となりますが、その他、マイコプラズマ、ブラストミセス、エールリヒア、紅斑熱、FIPなども原因となります。精巣、精巣上体、陰嚢に細菌感染が起こると、組織破壊、局所的な腫脹、炎症、発熱によって精子形成能が低下します。

症状
急性の感染症では、陰嚢の腫大、陰嚢内への液体の貯留、疼痛があります。感染を受けた精巣や精巣上体は、腫大・硬結して、発熱がみられます。陰嚢の皮膚が炎症を起こすと、しきりに陰嚢を舐めます。

慢性の精巣炎・精巣上体炎では、陰嚢の状態は一見、正常に見えますが、精巣は徐々に軟化して萎縮します。精巣上体は硬結化して、腫大化します。

診断
慢性の炎症、精巣の萎縮を起こしている場合、穿刺生検を行うと、炎症細胞が確認されて、精子数の減少があります。精液中の細菌培養を行うと、菌が検出されます。

治療
培養試験の結果を見て、適切な抗菌薬を選択して治療しますが、感受性試験の結果が出るまでは、尿路・生殖器系の炎症に幅広く効果的な抗生剤を投与しておきます。エンロフロキサシンがよく用いられますが、他にも、アモキシシリン、クロラムフェニコール、サルファ合剤、セファロスポリン系など、グラム陰性菌にもグラム陽性菌にも効果のある薬剤が選択されます。

投与期間は、最低でも2週間は必要です。陰嚢を冷やして、少しでも炎症性の発熱や腫脹を軽減してあげましょう。慢性的な場合は、手術で除去する手段も考慮していいと思います。予後は良好です。

 精索捻転

精巣捻転ともいいますが、腹腔内にある精巣の方でみられることが多い疾患です。腹腔内で、激しい疼痛が起こります。疼痛と、陰嚢や精巣の顕著な腫脹が認められます。肥厚した精索を触知できることもあります。

精索捻転が起こると、1~2時間以内に、精巣が虚血状態になるため、機能回復が不可能な状態になります。治療には、罹患した精巣を摘出するしかありません。捻転が解除できれば機能が回復することもありますが、多くの症例では精巣の線維化が起こります。

 その他

片側の精巣に病変を認めたら、対側の精巣も含めて精査をすべきです。エコー検査、穿刺吸引による生検が有効です。

精液瘤は、精子のうっ滞や貯留によって生じる疾患です。精細管で起こることは少なくて、精巣上体管や精管で発生します。原因は、先天的であったり、穿刺吸引や生検などによる外傷によるものであったりしますので、気をつけましょう。精液瘤が、局所的な炎症や精子肉芽腫の発生原因になる可能性があります。

嚢胞は、精細管や精巣輸出管での発生が多くて、エコー検査で偶然発見されることがあります。嚢胞が形成されると、そこは腫瘤のように膨らんで、精子の流れが阻害されます。

陰嚢が腫脹していると、内部の精巣が腫脹していると考えがちですが、精巣上体の腫脹、精索の腫脹、大網や腸が陰嚢へ脱出していたり、陰嚢浮腫や陰嚢水腫が原因である可能性も考慮しましょう。触診とエコー検査で確認できます。

陰嚢の皮膚が激しい炎症を起こすことがあります。精巣疾患が原因で、陰嚢の皮膚が脱落することもあります。その他、他の皮膚と同様、陰嚢の皮膚もさまざまな皮膚疾患を呈することがありますので、考慮しましょう。