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繁殖障害と生殖器系の疾患/雄の繁殖障害

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雄の繁殖障害

胎子の精巣で産生される物質が、腎臓の後端近くに発生する精巣を、鼠径管を通して陰嚢内に下降させます。陰嚢内への精巣下降は、猫では出生前に起こって、犬では、生後10~42日齢で起こります。生後8~10週齢になっても陰嚢内に精巣が触知できない場合は、潜在精巣と診断されます。

正常な雄性の発達と性行動

間質(ライディッヒ)細胞は、黄体形成ホルモン(LH)の刺激によって、テストステロンや少量のエストラジオールを産生します。テストステロンによって、精管や精巣上体が発達するとともに、精子形成が開始されます。

テストステロンによって、精子形成が維持されて、性欲が誘起されて、また、ネガティブフィードバック機構によって視床下部からの性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)の分泌、下垂体からのLHと卵胞刺激ホルモン(FSH)の分泌を調節します。ジヒドロテストステロンやエストラジオールは、精巣内や末梢組織内で、5αリダクターゼやアロマターゼと呼ばれる酵素によって、テストステロンから産生されます。ジヒドロテストステロンは、前立腺や外部生殖器を発達・成熟させて、二次性徴を促進します。性成熟後の雄では、エストラジオールの大部分は、精巣以外の組織内で、血中テストステロンからアロマターゼの酵素作用を利用して産生されてます。精巣内で産生されるエストラジオールは極少量です。

セルトリ細胞は、ライディッヒ細胞で産生されたテストステロンをエストラジオールに変換します。性成熟前の雄で顕著です。性成熟後は、精巣内エストラジオールは、ライディッヒ細胞で産生されます。雄に対するエストラジオールの作用は不明な点が多いですが、テストステロンとともに、下垂体からのゴナドトロピンの分泌を調節していると考えられています。

エストロジェンにはアンドロジェンの作用を促進する働きもあります。犬の前立腺にあるジヒドロテストステロンのレセプター数が、エストラジオールによって調節されています。逆に、乳腺組織ではエストロジェンは、抗アンドロジェン作用を示すと考えられています。

セルトリ細胞は、アンドロジェン結合蛋白を産生します。この蛋白は、精巣や精巣上体で、アンドロジェンを運搬します。セルトリ細胞は、インヒビンやアクチビンというホルモンを産生します。インヒビンは下垂体FSHの分泌量を減少させて、アクチビンはFSHの分泌を促進する作用があります。

精子の形成は、精細管内で精祖細胞の数を維持しながら、精祖細胞から精子への分化によって成り立っています。精祖細胞として増殖する細胞と、精母細胞に分化していく精祖細胞が、基底膜付近に存在しています。精細胞は、精母細胞、精子細胞へ分化・成熟していくにつれて、精細管の中間腔に向かって移動していきます。中心腔付近の精細胞が、最も分化の進んだ細胞になります。

精祖細胞のうち、精母細胞には分化せずに、精祖細胞として増殖する細胞は、A0精祖細胞と呼びます。A0精祖細胞は、毒素や放射線に対して抵抗性を持っています。精巣が損傷を受けた場合、A0精祖細胞の増殖によって、精上皮細胞が復活します。

犬では、精祖細胞から分化して精子となって精細管の中心腔に精子が放出されるまでの日数は、約62日です。精巣上体に入った精子は、約14日で成熟して、運動性を持ちます。頻回の射精をしても、精巣内の1日の精子産生数は変わらないので、射精される精子数は減少していきます。

性成熟と身体的な成熟には、関連性がみられます。雄猫の性成熟は、9~10ヶ月齢です。犬でもほぼ同じ時期ですが、大型犬は、少し遅めです。その頃になると、顎の周囲の筋肉が発達して、排尿によるマーキングや乗駕行動がみられます。老齢化とともに、精液性状は悪化して、性欲も減退します。6歳齢を過ぎると、繁殖能力の落ちる犬や猫もいます。繁殖にいい時期は、雌で6歳齢以下、雄は8歳齢以下です。

繁殖行動
繁殖には、雌を雄のもとへ連れて行くのが一般的です。種雄となるには、身体的、性的、社会的に十分に成熟していなければならないので、12ヶ月齢になるまでは、繁殖に供するべきではありません。

交尾が不慣れな雄には、経験豊富な雌と、雄が慣れている環境下で交配させてあげるのがいいでしょう。交尾がうまくできずに、雄が欲求不満に陥ったり、体力的に消耗しないよう注意が必要です。

猫では、雄猫が雌の肩付近、頸部を咬んだり、前肢で雌を押さえ込んだりします。雌猫の攻撃を抑制するための行動です。雌猫の排卵には、膣への交尾刺激が必要なので、発情期の初めの3日間は、1日3回ずつ交配させると効果的です。

犬のペニスには陰茎骨という骨がありまして、陰茎の硬さを維持します。勃起する前に、陰茎を雌犬の膣内に挿入できます。勃起する前に挿入されたら、その後、膣内で陰茎が勃起して、勃起することによって亀頭球というのが2~3倍に膨らんで、膣の入り口付近で栓をするような形になって、雄と雌が離れられないようになります。

乗駕して、膣内に陰茎が挿入されると、第一、第二分画液と呼ばれる精液が射精されて、雄犬は激しく腰を振ります。その後、雄犬は、腰を動かすのを止めて、雄と雌が尻を合わせて、一直線の状態になります。陰茎が、勃起した状態で、180度回転して、雌犬の後方へ向くことになります。これは、ポスト・コイタル・ロックといいます。前立腺からの分泌液からなる第三分画液は、交尾している間(15~30分間)、射精され続けます。犬では、受胎を確実にするために、1回の発情期に、2回交配させることが推奨されています。

人工授精
自然交配が行えない場合は、人工授精を行います。交配したい犬同士が遠距離である、人体的な問題がある、相性に問題がある、膣脱などの疾患がある、と言う理由が考えられますが、そこまでして交配するのか、疑問です。一般の飼い主さんは、無理に交配させることは避けましょう。

人工授精をするのであれば、精液は子宮内へ直接注入するほうが、受胎率が高くなるので、いいかと思います。授精に用いる精液は、慎重に取り扱いましょう。特に温度変化に注意です。精液希釈液を用いて、冷蔵で保存することは、凍結精液より受胎率も良好です。5℃以下で保存すれば、1~2週間は、精子を良好に維持できます。凍結精液は、貴重な雄の精子を保存しておくには最適です。

検査

雄の繁殖能力が正常であるためには、正常な精液性状、性欲、交尾能を有していることが必要です。正常な雌犬を用いた繁殖で、受胎率が75%以下であると、雄犬の受胎成績は不良であると、判断します。健康な種雄犬の受胎率は、85%です。

 精液採取

雄の不妊の原因を調べるためには、精液を採取して、性状検査を行います。年齢、精巣容積、射精回数、性欲の程度、精液採取法や精液の量などの要因で。精液性状は影響を受けます。犬の精液の採取は、亀頭球をマッサージすると容易に可能です。猫では、麻酔下で、電気刺激による射精によって精液を採取するのが一般的です。

犬の精液は、3分画で射精されます。第一分画液は、精子が射精される前に前立腺から分泌される透明な2~3滴の精液です。第二分画液は、精子を含む精液で、0.5~5mL程度、射出します。第三分画液は、前立腺分泌液で30mL以上、射出されます。

精子の構造や機能を調べるためには、さまざまな検査方法があります。生存精子数、精子細胞膜の状態、精子の受精能獲得や先体反応を調べるための染色などがあります。運動性や形態の評価も可能です。

臨床面で必要な情報は、精子数、精子の形態、精子活力などです。精液中に含まれる精子以外の細胞(白血球、赤血球、上皮細胞など)の検査も重要で、無精子症では精液中のアルカリホスファターゼ活性値の測定が重要です。

精子活力
精子の活力検査は、採取して初めに行う方がいいでしょう。精液の採取後の時間経過とともに、精液の温度が変化して、活力が低下してしまうからです。顕微鏡で、動きを見ることでも判断可能です。

精子の形態
精子の頭部には核があって、先体という帽子状の物質で覆われています。精子頭部の中央部分は、先体の薄い部分で覆われていて、精子頭部の後方部は、先体はありませんが、細胞膜で包まれています。

精子の尾部は、頸部、中片部、尾部の主部と終末部に分けられます。頸部は、薄層の線維と移植板で形成されていて、頭部と中片部をつないでいます。中片部では、ミトコンドリアが螺旋状に軸糸を取り囲んでいます。軸糸は、9本の微小管からなっていて、2本の中心管を取り囲むようにして分布しています。外側の高密度の9本の線維は、尾部に向かうにつれて消失していって、線維鞘の末端で尾部の終末部が始まります。精子の細胞質の残余物質は、中片部の外側に排出されて、細胞質小滴になります。

精子濃度
運動性の正常な精子数は、受精能に関連します。当然、多ければ多いほどいいのですが、人工授精では、200万以上の活力ある精子を用いることが推奨されています。精子数が少なかったり、奇形精子数が多いと、受胎率が低くなって、産子数も減少します。

精子数は、血球計算盤を用いて検査できます。犬では、1回の射精精子数は3~20億個、猫では0.3~3億個です。犬の大きさによっても異なりますが、小型犬は大型犬に比べると、やはり射精精子数は少なくなります。それでも、超小型犬でない限り、1回の射精総精子数が2億個以下であると、精子減少症と判断するべきです。

精液量
精液量は、採取方法によっても異なりますが、精液量よりも総精子数が受胎率に関連します。

精液の色
肉眼で、白色から乳白色をしていることを確認します。炎症性細胞や鱗状上皮細胞が精液に混入した場合も、精液が乳白色になります。尿道や生殖道で入り込みます。包皮腔の恥垢が混入するときもあります。

精液が黄色っぽいときは、尿の混入を疑います。通常、射精とともに尿がでることはなく、精液採取の直前は、尿をさせない方がいいでしょう。尿が入ると、精液の性状は悪化します。精液が赤色、赤茶色なら、血液の混入を疑いますが、前立腺由来であることがほとんどです。

細胞学的検査
精液中に精子以外の細胞がある時には、すべて検査しておきましょう。第三分画液の細胞学的検査は、前立腺の疾患の診断にも有効です。

赤血球があれば、どこからか出血が考えられますし、白血球があれば、炎症を意味しています。白血球があると、ブルセラを疑うこともあります。最近があれば、培養を実施します。少数の上皮細胞は、犬の精液中に存在していても性状です。

精液中アルカリホスファターゼ
精液中のアルカリホスファターゼ(ALP)は、犬では精巣上体、猫では精巣と精巣上体で産生されます。なので、精液中でALPが検出されれば、精巣上体由来の液が含まれている証拠になります。

無精子症で、精液中ALP活性値が低い症例では、両側の精巣上体の遠位部での精巣上体管の閉塞か、射精が不完全であったことが想定されます。ALP活性が高いのに無精子症である症例は、精巣での精子形成がないか、両側の精巣輸出管の閉塞が疑われます。

精液pH
犬では、精液のpHは6.3~7.0、前立腺分泌液のpHは、6.0~7.4です。猫の精液のpHは、6.6前後です。これらは、診断的な意味はありません。

精液性状の評価
受胎能力を評価するためには、1回の射精総精子数、精子活力、精子奇形率が重要です。精液の性状は、精巣内での62日間の精子形成能精巣上体での14日間の精子熟成能精巣上体内と精管内での精子の貯蔵能(7日間で満杯に)、的確な射精時の精子能出能、などが反映されます。正常な形態の精子の割合が60%以下である場合、活発な前進運動を示す精子の割合が50%以下である場合は、受胎率が低くなると考えられます。

 精液の細菌培養

雄の繁殖不能症の原因を調べるため、精液中に炎症性細胞が認められたとき、細菌感染が原因と思われる前立腺炎・精巣上体炎・精巣炎がみられたときは、細菌培養試験を実施しましょう。特に、ブルセラには要注意です。

 性ホルモン検査

テストステロン
テストステロンは、ライディッヒ細胞から分泌されて、雄犬は、約80分間隔でパルス状に放出されているLHやGnRHによって調節されています。血中濃度は1日の中で変動しており、朝は最低値で、夜に最高値を示します。血中濃度を調べるときは、hCGやGnRHによる刺激試験を行って測定する方が確実です。精巣が摘出されているのか、潜在精巣なのか、判断が出来ない犬に対して測定することがあります。

性腺刺激ホルモン
性腺刺激ホルモン(FSH)と黄体形成ホルモン(LH)は下垂体で産生されて、視床下部で産生されるGnRHに支配されています。LHは日中100分毎、夜間80分毎に、パルス状に分泌されています。

FSHには、セルトリ細胞の機能と精子形成能を促進する働きが、LHはライディッヒ細胞作用してテストステロンの分泌を促進する働きがあります。精巣から分泌される性ホルモンは、フィードバックして視床下部・下垂体の機能を調節しています。去勢手術をして精巣を摘出すると、フィードバック機構が働かなくなってFSHもLHも血中濃度が高くなります。

テストステロンの測定同様に、犬が去勢したのか、潜在精巣なのかを開腹手術をせずに確認する方法として、LH濃度を測定することは有用です。去勢されていれば、LH濃度は高くなっているはずです。

 精巣組織の生検

色々と調べてみたものの、繁殖不能症の原因が究明できなかったら、精巣や精巣上体の生検や穿刺吸引を行って、検査を行いましょう。精巣や精巣上体に病変が確認できる場合や、硬さに明らかな変化がある場合は、有効な手段となります。炎症性細胞、精子、腫瘍細胞や感染物質の有無を確認できます。精子形成能を調べるための検査とはなりません。穿刺する針は、25Gぐらいの細い針で大丈夫なようです。ちなみに、精巣組織の組織学的検査を行う場合、固定するにはホルマリン液ではなく、ブアン液やグルタールアルデヒド液を用いましょう。ホルマリンでは精巣組織が崩れます。

精巣に非炎症性の退行性変化が起こっていると、精細管内の精細胞数が減少したり消失したりして、精細管内にはセルトリ細胞しか認められない症例があります。退行性変化の原因としては、慢性的な感染、毒物、異常な温度、放射線障害などが考えられますが、原因を取り除けば、重度の病変でない限り、自然に治癒します。退行性変化があっても、ライディッヒ細胞とセルトリ細胞は生き残っている可能性は多く、ライディッヒ細胞が障害を受けていなければ、性欲は持続します。

精巣に化膿性炎症が発生すると、好中球の浸潤像がみられます。マクロファージや巨細胞も観察されます。細菌感染や真菌感染による炎症が一般的です。

精巣炎においてリンパ球形質細胞が多数観察されたら、免疫学的な反応が起こっていると判断されます。但し、ブルセラ菌の感染が起こると、抗精子抗体が産生されるので、リンパ球性形質細胞性の炎症がみられるので、要注意です。

健康な精巣では、精子が生殖器以外に漏れ出ることはないので、精子が有する抗原性物質が免疫反応を誘起することはありません。精細管が破裂したり、血液-精巣関門機序が崩れると、精子の抗原物質に対する免疫反応が生じます。その機序が、精巣の外傷、感染、腫瘍の発生からのリンパ球性炎症を引き起こします。

犬ではリンパ球性精巣炎の原因を特定できないことが多いのですが、繁殖不能症が発生してしまいます。

繁殖不能症の診断

これまでの繁殖経験や健康上の問題点を把握して、薬物や代謝異常を考慮した上で、性欲や交尾能を調べることは鑑別診断に役立ちます。繁殖能力が正常でも、自分のテリトリーではない不慣れな場所であったり、雌より優位な立場に立てない場合、相性が悪い場合など、性欲を示さないことがあります。雄が正常であっても、雌が発情期に入っていなければ、興味を示さないこともあります。

猫では頻繁な射精による性欲低下はないのですが、犬では、1日に複数回の射精や継続的な射精を行わせると性欲が低下します。人工授精による人為的な精液採取に慣れてしまった犬では、意欲はあっても自然交配に興味を示さないことがあります。他では、加齢性の変化、ストレスや疼痛、グルココルチコイドが体内で異常に分泌されていたり、ステイロイドが異常に大量投与されている場合も性欲は低下します。

生理的な要因、解剖学的な要因が交尾能に影響します。神経機能の低下であったり、前肢・後肢の異常、脊椎の異常で乗駕できない場合があります。疼痛さえなければ性欲に影響は及ぼしませんが、このような雄には精液採取・人工授精が適応されます。

代謝性の異常や身体的異常があると、精子形成能、性欲、交尾能の低下が誘起されます。触診で精巣や精巣上体の大きさ、形、硬さや位置を知ることが出来ますから、片側の精巣に異常が認められたら、対側の精巣に波及しないよう、早急に原因を究明して治療に取り掛かります。前立腺は、直腸検診や腹部触診で触知できますし、陰茎亀頭部や包皮は触診と視診で診断できます。

精子減少症・無精子症

1回の射精精液中の総精子数の減少が、精子の形態異常や精子活力の低下を伴いながら、起こることがあります。精子数が異常に少ない場合は、精子減少症といい、精子が精液中に存在しない場合は、無精子症といいます。

精巣での精子形成能の低下や射精の異常によって、射精精液中の精子濃度が低下する可能性があります。精液採取時に、発情している雌犬を、雄犬の前に立たせたり、PGF2αを事前に投与しておくと、射精精子数を増加させることができる場合があります。

精巣の精子形成能は、陰嚢の温度、代謝性疾患(内分泌障害など)、毒物・薬物、感染など、さまざまな要因に影響を受けます。生殖路をエコー検査すると、精子減少症や無精子症が精巣そのものの異常によるものなのか、精管や精巣上体管に閉塞があるために発生しているのか、が確認できます。前立腺付近で、左右両側性に生殖路の閉塞が起こっているのであれば、前立腺の検査をしっかりと行いましょう。精液中のALP活性を測定して、高値であれば、精液中の少ない精子数の原因は、精巣上体や精管の閉塞によるものではない、と判断できます。

尿道内ではなく、膀胱内に精液が入り込んでしまう逆行性射精も、精子減少症の一因となります。神経学的な異常で、膀胱頸部やその付近の尿道部の括約筋の締まりが、射精時に不十分なままであるために起こります。逆行性射精では、膀胱内の尿中に多数の精子が混入して、射精精液量も精子数も減少します。正常な雄でも、ごく少量、膀胱内に精子が入り込むことがありますが、非常に多くの精子が膀胱内の尿中に混入している場合に異常所見と判断します。治療には、αアドレナリン作動薬(エフェドリン、4~5mg/kg、経口)で治療します。射精の3時間前と1時間前の2回投与すると、尿道の状態が良好になる可能性があります。

精子減少症と無精子症の治療は、原因をみつけることから始めるべきではありますが、原因の究明はなかなか困難です。精子減少症の場合は、受胎率が低くなるということであり、繁殖不能ではありません。無理に繁殖に供することもないとは思いますが、受胎能力の高い雌を用いて交配するとか、人工授精を行うなどの対処をすれば、受胎率を上げることができると思います。

精子減少症は、ときおり無精子症に陥る可能性があります。精巣が小さい無精子症の雄は、左右精巣の精子形成能が全くないこともあります。精巣が小さい原因には、先天性の発育不全、後天的な萎縮や線維化、などが考えられます。このような場合は、治療による回復は見込めません。

精巣の損傷の回復には、時間が掛かります。犬の精子形成は62日間を要するので、6~12ヶ月間、2ヶ月ごとに精液性状検査を実施して、回復度合いを調べましょう。

先天性繁殖不能症

繁殖不能症が先天的な原因ならば、治療は不可能です。性腺刺激ホルモン分泌不足による精巣の機能不全のような内分泌的異常、精巣上体管や精管の閉塞などの解剖学的なウォルフ管の形成異常、間性などの性分化の異常などが考えられます。これらは、無精子症です。

三毛猫の雄ならば、遺伝的に繁殖不能であることはわかりますが、他の症例では、原因を調べるには色々と検査が必要です。三毛猫は、黒色の被毛とオレンジ色の被毛が別々のX染色体上の遺伝子によって生じる色なので、正常な雄ではX染色体を一つしか有しないわけですから、普通、雄猫は三毛色の被毛にはなり得ません。三毛猫の雄の性染色体は、XXYになっているということです。

先天性繁殖不能症は、表現型の異常・性腺の異常・染色体の異常に分類できます。染色体の異常で起こる繁殖不能は、核型で決まります。表現型の異常が、外部生殖器の異常であれば、みればわかります。内部生殖器(ミュラー管やウォルフ管の異常)は、エコー検査でみるのが妥当でしょうか。性腺の異常は、内分泌検査(テストステロン濃度やLH濃度の測定)や精巣生検での組織学的検査で判明します。

後天性繁殖不能症

以前は機能的・解剖学的に正常な生殖器官が認められていた場合は、後天性の繁殖不能症と考えます。原因として、毒物や薬物によるのもの、過度のストレス、過度の頻回射精などを調べてみます。精液性状検査、精液中の細菌培養試験、生殖器のエコー検査、ブルセラの抗体検査などを行うべきです。これらの検査で原因がわからなかったら、精巣生検の前に、代謝に関する検査や内分泌系の検査を行います。

精巣、精巣上体、陰嚢が細菌感染性の炎症を起こすと、局所的な腫脹や発熱が生じて精子形成能が低下します。精液中に多数の細菌が検出されたら、培養試験を行って、効果のある抗生剤を選択して治療を開始します。少なくとも、2~4週間は継続しましょう。慢性の細菌性前立腺炎だと、さらに長期間の治療が必要です。

左右の精巣容積がほぼ正常なのに、精子形成能が劣っている場合は、精巣の穿刺吸引・生検を検討する必要があります。犬では、腫瘍、化膿性炎症・非化膿性炎症、真菌性炎症、リンパ球性炎症、肉芽腫性炎症、。精子形成能の消失、精巣の退行性変化などが認められることがあります。猫の場合は、加齢性の変化のみられることが一般的です。

精巣の退行性変化、萎縮、線維化などで、精巣が小さい場合、精巣は元に戻りません。なので、精巣が小さい症例に対する生検は、必ずしも役に立つかどうかは、疑問です。