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その他の腫瘍

血管肉腫

原発腫瘍や転移性の病変が自然に破裂した後に起こる急性の虚脱が認められます。脾臓や心臓の血管肉腫では、心室性不整脈があって虚脱の起こることもあります。脾臓の血管肉腫では、腫瘍が成長したり、服腔内血液貯留によって二次的に腹部膨満がみられます。腫瘍の発生部位と転移性の病変の有無、腫瘍の破裂、凝固障害や不整脈による変化です。

心臓の血管肉腫は、うっ血性右心不全や不整脈による症状で来院されます。皮膚や皮下組織の血管肉腫は、腫瘤がみつかることで明らかになります。筋肉内血管肉腫は、グレーハウンドに好発する疾患ですが、後肢の大腿二頭筋や大腿四頭筋に多く発生して、患部が腫脹して、皮膚に傷が認められます。

血管肉腫では、原発部位や病期に関係なく、貧血と自発性の出血が問題になります。体腔内出血や微小血管病変による溶血の結果で、貧血になります。溶血によって二次的に引き起こされる播種性血管内凝固(DIC)や血小板減少症で、自発性の出血が起こります。DIC症状の犬がいたら、血管肉腫を必ず疑いましょう。

血液学的な異常と止血異常が特徴的な変化です。貧血、血小板減少症があり、血液塗抹では有核赤血球、赤血球断片(分裂赤血球)、有棘赤血球の存在、好中球増加症と左方移動、単球増加を伴う白血球増加症です。

診断
針吸引生検(FNA)や押捺塗抹所見による細胞診で診断可能です。細胞は、紡錘型や不整型です。細胞形態が大型で、クロマチンパターンが認められる大きな核と、核小体を有しています。細胞質には空胞がみられます。滲出液中には細胞はあまりみられません。最終的には、病理組織学的検査で確定診断します。組織学的には、フォンヴィレブランド因子抗原陽性で、CD31抗体陽性です。

転移部位は、X線検査・エコー検査、CTを用いて確認可能です。心臓の腫瘤が確認されれば、心エコー検査で、治療による縮小率を調べましょう。

治療と予後
血管肉腫の予後は不良です。無治療では、生存期間は、せいぜい2ヶ月程度です。予後は悪いものの、治療には手術を行います。術後はドキソルビシン単独投与、ドキソルビシン・シクロフォスファミド併用投与、ビンクリスチン・ドキソルビシン・シクロフォスファミド併用投与などを行います。化学療法を行う方が、治療成績は上がります。それでも、1年程度の延命が一般的です。

転移病巣は、予後を悪くする要因ではなく、転移病変は化学療法で高率で軽減できます。副作用は、骨髄抑制、胃腸炎、脱毛と色素増強、心毒性などです。大きな病変の場合は、外科的処置による効果はあまりありません。化学療法では、併用治療の方が、効果はいいようです。

骨肉腫

犬の原発性骨腫瘍の多くは悪性で、局所への浸潤や転移があって、死に至ります。病的骨折が起こったり、激痛で安楽死に至る場合、肺への転移が起こります。猫でも悪性腫瘍ですが、広範囲の外科切除(切断)で回復します。

骨に転移してくる場合、犬では尿路系の移行上皮癌、四肢骨の骨肉腫、血管肉腫、乳腺癌、前立腺癌などです。猫では、骨へ転移する腫瘍は、まずありません。

骨肉腫の発生率は意外と高くて、大型・高齢・雄犬に多く、犬種ではグレーハウンドに好発します。周辺組織への激しい局所浸潤と肺への血行性転移が特徴です。

症状
骨肉腫は、橈骨遠位端、大腿骨遠位端、上腕骨近位端の骨端線に好発します。飼い主は、跛行や肢の腫脹に気づきます。痛みと腫脹が急激に起こるので、非腫瘍性の整形外科疾患と診断されてしまい、腫瘍に対する治療が遅れてしまうことがあります。病的な骨折もあります。

診断
X線検査で、骨端部分に骨融解と骨増殖の像が認められます。通常は関節腔を越えません。仮診断できたら、胸部のX線検査も行います。転移巣があれば、予後不良です。

罹患部位を針吸引、骨髄吸引して細胞診を行いましょう。骨肉腫細胞は、大型の円形や楕円形で、細胞質の境界線が明瞭で、細胞質は顆粒状になっています。核小体があったりなかったりで、核は偏在しています。骨芽細胞由来であることを診断するには、ALPの染色を行います。骨芽細胞はALP陽性です。

治療と予後
断脚しても、化学療法を行わないと、半年以内に肺に転移が起こって死亡します。なので、骨肉腫で選択される治療は、断脚です。加えて、化学療法を行います。ドキソルビシン(30mg/㎡、iv、2週間毎)もしくは、カルボプラチン(300mg/㎡、iv、3週間毎)を用いた治療を、外科手術後5回行うのが一般的です。

飼い主が断脚を望まない場合、放射線治療や化学療法剤の投与で様子をみるしかありません。鎮痛薬による疼痛管理と疼痛緩和も必要です。化学療法では、骨転移が多くなりますが、肺への転移が少なくなります。転移病変の腫瘍細胞倍加時間も長くなりますし、転移の結節数も少なくなります。

肥満細胞腫

肥満細胞腫は、犬で最もよく認められる皮膚腫瘍の一つです。腫瘍は肥満細胞から発生します。肥満細胞は、局所の血管の正常な維持に密接に関係していて、ヘパリン、ヒスタミン、ロイコトリエンやその他のサイトカインなどの生理活性物質を細胞質内に多く含有しています。

 犬の肥満細胞腫

表皮の腫瘤と皮下組織の腫瘤として発生します。短頭種に発症が多くて、中年齢から高齢犬でよくみられます。性差はありません。火傷の瘢痕のような慢性炎症や外傷でみつかることもあります。肥満細胞腫は、肉眼的には斑や丘疹、結節、痂皮のような皮膚病変に類似しています。皮膚の腫瘤や皮下組織の腫瘤として発生して、脂肪腫とも区別できません。疑わしき症例や原因不明の皮下腫脹がみられたら、針吸引で細胞診を行いましょう。細胞診で診断できます。

多くは単一部位で発生します。転移性病変によって起こる局所のリンパ節腫大は、侵襲性肥満細胞腫です。全身播種性の肥満細胞腫になると、脾腫や肝腫大がみられます。

肥満細胞は、血管作用性の生理活性物質を産生するので、腫瘍周囲に広範囲に浮腫と炎症、転移病変、紅斑、紫斑などを認めます。症状が突然現れたり、運動中やその直後、気温が下がったときなどに起こることもあります。

典型的な肥満細胞腫は、表皮に存在して、ドーム型で脱毛がみられる紅斑性の病変ですが、多くは傷ついていたり、擦ったり、圧迫されて、紅斑と蕁麻疹がみられる徴候があります。血液検査所見は、ほぼ正常です。病理組織学的検査では、高分化型(GradeⅠ)・中等度分化型(GradeⅡ)・未分化型(GradeⅢ)に分類されます。分化した腫瘍は、転移の可能性が低いので、高分化型の方が、予後はましです。

動態
肥満細胞腫の動態は、予測不能です。高分化型は、皮膚の肥満細胞腫で、転移の可能性が低くて、全身に広がる可能性も高くありません。中等度分化型・未分化型の腫瘍は、転移の可能性が高くて、局所リンパ節への転移がよく起こります。近接するリンパ節だけでなく、全身性に播種することもあります。リンパ節の大きさに変化がなくても、転移の可能性があります。肺への転移は少ないのですが、同じ肥満細胞腫でも、発症部位の違いで転移する確率が異なります。

肥満細胞腫は、全身性の疾患であることも特徴です。元気消沈や食欲不振、嘔吐、体重減少を示したり、脾腫や肝腫、蒼白などが見られたりします。

罹患部の浮腫、紅斑、紫斑を起こす生理活性物質を産生することもあります。肥満細胞が腫瘍かするので、ヒスタミン分泌が増えるために胃腸粘膜潰瘍の生じることがありますが、消化管潰瘍を起こすまで肥満細胞腫が進行すると、予後不良です。安楽死を考えてもいいでしょう。なので、肥満細胞腫をみつけたら、抗ヒスタミン薬を飲ませることと、糞便検査(潜血の有無)を行いましょう。

肥満細胞からの生理活性物質の放出により、術中・術後の大量出血や創傷治癒が遅れることもあります。注意しましょう。

肥満細胞腫の病期分類

病期状態



一つの腫瘍で、皮膚に限局していて、周辺リンパ節への侵襲がみられない
   Ⅰa: 全身症状がない
   Ⅰb: 全身症状がある



一つの腫瘍で、皮膚に限局していて、周辺リンパ節への侵襲がある;
   Ⅱa: 全身症状がない
   Ⅱb: 全身症状がある




多発性皮膚腫瘍である
大型の浸潤性腫瘍である(周辺リンパ節への浸潤は問わない)
   Ⅲa: 全身症状がない
   Ⅲb: 全身症状がある




遠隔転移を伴う腫瘍
転移を再発する腫瘍
   Ⅳa: 全身症状がない
   Ⅳb: 全身症状がある

治療
外科的な切除が可能な部位にある単一の肥満細胞腫は、2~3cmのマージンを取って、積極的に切除すべきです。完全切除ができて、腫瘍がGradeⅠかⅡで、転移病変が存在しないなら、それ以上の治療は不要です。切除が不完全なら、再手術を行うか、化学療法を行います。

転移や播種があると、完全に治癒することはありませんので、化学療法と支持療法を行います。プレドニゾロン、ロムスチンを用いるのが一般的ですが、ロムスチンの肝毒性を軽減させるために、ビンブラスチンを併用してロムスチンの投与回数を減らすことも可能です。ファモチジン(H2ブロッカー)やスクラルファートを併用するのもいいと思います。

肥満細胞腫の化学療法プロトコール
1. プレドニゾロン単独: 50mg/㎡・PO・SID・1週間 その後25mg/㎡・PO・1日おき
2. ロムスチン単独: 60mg/㎡・PO・3週間毎
3. プレドニゾロンとロムスチンの併用投与
4. ビンプラスチン: 2mg/㎡・iv・6週間毎
   ロムスチン: 60mg/㎡・PO・6週間毎、ビンブラスチンと3週間ごとに交互に
   プレドニゾロン:  50mg/㎡・PO・SID・1週間 その後25mg/㎡・PO・1日おき


 猫の肥満細胞腫

猫の肥満細胞腫は、犬のような重篤な症状を引き起こすことはありません。発生頻度は、高齢の猫で多くて、性差はありませんが、シャムが好発品種です。猫では、内臓型と皮膚型に分類されます。FeLVやFIVの関与はありません。

内臓型の肥満細胞腫では、血液リンパ系や腸管に病変の認められることが特徴です。血液リンパ系は、肥満細胞性白血病と分類されます。症状としては、食欲不振や嘔吐、下痢を示して来院されます。

血液検査で異常はないことが多く、検査で腹部に腫瘤が触知されます。主に小腸に腫瘍が認められますが、1箇所であったり、数箇所であったりします。腸間膜リンパ節、肝臓、脾臓、肺を侵す転移性病変がよく認められます。猫の腸管腫瘤には、リンパ腫と肥満細胞腫が多くて、両者が混在する場合もあります。

皮膚型の肥満細胞腫では、2~15mmの小さい、白色~ピンク色の、真皮~表皮にかけての腫瘤が認められて、頭部と頸部にできることが多いのが特徴です。肥満細胞型と組織球型に分けられて、肥満細胞型の多くは4歳齢以上で単一の腫瘤がみられて、組織球型は4歳齢以下のシャム猫に多い傾向があります。良性の多発性の腫瘤で、自然に退行することもあります。

治療
猫の肥満細胞腫は、犬ほど活動的な腫瘍ではなくて、単発~数個の皮膚腫瘤や、腸管、脾臓に病変がある場合は、外科的な切除を行います。単発性の表皮腫瘍では、皮膚のパンチ生検だけで治癒する場合もあります。

脾臓摘出とプレドニゾロンの投与が効果的です。手術が出来ないときも、プレドニゾロン単独投与に反応することがあります。4~8mg/kgを経口で、1日1回の投与でいけます。どうしても化学療法を行うなら、クロラムブシル(20mg/㎡、経口、2週間毎)を用います。猫では、ロムスチンは有効ではありません。

猫の注射部位肉腫

注射やワクチン接種が、肉腫の発生と関連しています。注射部位である左右肩甲骨間や大腿部の皮下や筋肉に線維肉腫などが発生します。肉腫の発生する割合は、1万頭に1~2頭程度のようです。おそらく、アジュバンドと抗原に対する局所免疫反応や炎症が原因と考えられています。

ワクチン接種の数週間~数ヵ月後に腫瘤が生じてきます。線維肉腫の多くは転移の可能性が低いのですが、注射部位肉腫は侵襲性が強くて、転移する割合が非常に高いのが特徴です。ですので、治療としては、積極的な切除をする方がいいでしょう。直径が2cm以下の小さい腫瘤なら、完全切除されれば寛解します。

化学療法には検討の余地があって、どの治療が効果的なのか、まだわかっていません。ドキソルビシンとシクロフォスファミドの併用か、カルボプラチンの単独投与で寛解を得られるという知見がありますが、転移病変が既に存在していると、化学療法はあまり期待できません。