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腫瘍の動物への対処法

孤立性腫瘍の場合

孤立性腫瘍を評価するには、針吸引生検(FNA)を行うのが、侵襲性も少なく、迅速で、安価な方法であり、有効だと思います。腫瘤の性質が、良性なのか、悪性なのか、炎症性なのか過形成なのか、がわかれば、その後の検査や治療方針が立てられます。

病理組織学的検査のための採材も、診断には優れた選択肢なのですが、侵襲性や費用の面で、FNAの方がいいかと思います。孤立性腫瘍の場合、諸検査を行っても有用な情報を得られることが少ないので、胸部X線検査による転移性の病変が特に肺にみられないことを確認することを、ひとまず行っておくといいかと思います。

腫瘤が良性であると診断できたら、何もせずに腫瘤の観察を続けるか、外科的に除去するか、の選択肢があります。良性腫瘍が悪性腫瘍の前段階であることは、通常、ありません。腫瘤が大きくなったり、炎症を起こす、潰瘍化する、ということがあれば、切除した方がいいでしょうが、良性の場合、静観することも悪いことではありません。割と、手術をする、ということをためらう人が多いですよ。手術する側としては、腫瘤が小さい方がやりやすいんですけどね。

細胞診で悪性が疑われたら、追加の検査を行いましょう。肥満細胞腫でなければ、胸部X線検査を行って、転移の有無を検査します。可能であれば、CTを用いるといいかと。腹部エコー検査が有用なこともあります。

悪性腫瘍で転移性病変がなければ、腫瘤の外科的切除が強く勧められます。転移病変であっても、リンパ腫や血管肉腫のように化学療法に反応しうる腫瘍であれば、化学療法が選択肢になります。転移があっても、原発巣の外科的切除が、苦痛の緩和と生存期間の延長をもたらすことがあります。

 転移性病変が存在する場合

悪性腫瘍と診断された場合、転移所見の有無をしっかりと調べましょう。最初に評価しなければならないのは、肺への転移の有無です。その他の器官への転移もありますが、肝臓や脾臓の結節性病変を、転移性病変と見誤らないようにしましょう。しっかりと診断するためには、FNAを行う必要があります。

転移病変も、化学療法で良好に治療できる機会が増えています。そのためには、病理組織学的に腫瘍の種類を知っておかなくてならないので、FNAの手技は重要です。

転移病変があると、安楽死が現実的な選択肢になる可能性があることは、飼い主さんにはしっかりと説明しておきたいことでもあります。

縦隔腫瘤の場合

胸部X線検査を行った際、前縦隔腫瘤として病変が見つかることがあります。よく認められる縦隔腫瘤は、リンパ腫と胸腺腫です。他では、非クロム親和性傍神経細胞腫(心基底腫瘍)、異所性甲状腺癌、脂肪腫などがあります。縦隔にできる非腫瘍性病変には、血腫や嚢腫があります。

胸腺腫に特徴的な腫瘍随伴症候群として、重症筋無力症、多発性筋炎、剥離性皮膚炎などがあります。縦隔のリンパ腫では、高カルシウム血症がよくみられます。

猫の場合、前縦隔のリンパ腫は、若い猫(1~3歳齢)に多くて、胸腺腫は8~10歳齢の猫で多く見られます。猫白血病ウイルス(FeLV)感染との関連性もあります。前縦隔リンパ腫のほとんどの猫が、FeLV陽性です。胸腺腫では、ほとんど陰性です。

犬では、リンパ腫も胸腺腫も高齢の犬でみられます。区別できるのは、縦隔型リンパ腫では、高カルシウム血症を呈することです。神経筋疾患が胸腺腫の特徴でもありますが、これは犬でも猫でも起こります。また、リンパ腫は背側前縦隔で発生することが多くて、胸腺腫は腹側縦隔でより多くみられます。エコー検査やCTを用いて、より確実な診断ができることがありますので、可能な限り行いましょう。

FNAによる細胞診では、リンパ腫は、細胞が未成熟です。核/細胞質比が大きくて、細胞質は濃青色で、凝集したクロマチンパターンを示して、核小体が存在します。均一な形態の細胞集団が形成されます。胸腺腫は、小リンパ球が多く認められます。

治療
前縦隔リンパ腫には、化学療法が最も有効です。放射線療法と併用がより速やかな寛解を得られるという知見もあるようですが、化学療法単独治療に対する利点はそれ程なく、前縦隔リンパ腫の猫の多くは、呼吸障害があるので、実際のところは有益とは考えづらいところがあります。

胸腺腫は、ほとんど良性なので、外科的切除で治癒します。周術期の合併症による死亡率が高いので、むしろそちらを気をつけましょう。切除が不可能な胸腺腫の場合、化学療法が有効なことがありますが、なかなか長期の寛解を得ることも難しいようです。

リンパ腫や胸腺腫の確定診断が得られない症例では、開胸手術をして腫瘤を切除するか、リンパ腫に対する化学療法(COP、COAP、CHOP)を開始することです。化学療法の開始10~14日で寛解が得られないなら、腫瘤は胸腺腫の可能性が高いと考えられます。