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血液・造血器系の疾患/止血異常

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止血異常

正常な場合、血管が損傷を受けると即座に血管収縮などが起こって、止血系の活性化が急速に誘導されます。損傷部位の長軸方向の血流変化を感知して、循環血液が血管内皮下のコラーゲンと接触すると、即座に血小板がその損傷部位に接着します。血小板の血管内皮下層への接着には、フォンヴィレブランド因子(vWD)やフィブリノーゲンなどの凝固系蛋白が関与しています。傷害を受けた血管内皮に接着した血小板は凝集して、寿命の短い不安定な一次止血栓を形成します。この一次止血栓は、二次止血反応が起こる場の枠組みとなって、凝固因子の大部分は、この止血栓上に血餅が形成されます。

凝固系の内因性・外因性経路、共通経路は詳細に解明されていますが、生体内では必ずしもその通りに進まないこともあります。第Ⅶ因子や第XI因子は、凝固の開始に必ずしも必要ではないようで、第Ⅶ因子が欠損している犬や猫では、出血傾向は認められません。

凝固経路の接触相の活性化は、血小板の接着・凝集とほぼ同時に起こって、内因系の経路を経て、フィブリン形成が引き起こされます。内因性因子には、第XII、XI、Ⅸ、Ⅷ因子があって、第XII因子は、血管内皮下のコラーゲンとの接触や血小板止血栓によって活性化されて、この活性化によってフィブリンや二次止血栓が形成されます。プレカリクレイン(フレッチャー因子)と高分子量キニノーゲンは、第XII因子の活性化に重要な補因子です。

凝固経路

二次止血栓は安定したもので、長期間保存されます。これに加えて、組織が損傷を受けた場合には、組織因子の放出が起こって、外因性凝固経路が活性化されて、フィブリンが形成されます。組織因子は血管内皮細胞を除く全身に存在していて、 ほとんどの細胞の細胞膜に存在します。

血液凝固反応の接触相を活性化する刺激は、同時に線溶経路とキニン経路も活性化します。線溶は、過剰な血餅や血栓の形成を防止するための保護機構として非常に重要です。プラスミンがフィブリノーゲンを溶解すると、フィブリン分解産物が産生されて、損傷部位における血小板のさらなる接着や凝集を抑制します。キレート因子である第XIII因子によってフィブリンが安定化すると、プラスミンの溶解作用でD-dimerが産生されます。プラスミノーゲンが活性化されてプラスミンになると、既存の血餅や血栓の分解や溶解を起こすだけでなくて、正常な凝固機構に対する緩衝作用も生じて、損傷部位の血小板の凝集や凝固因子活性化の抑制が起こります。したがって、過度の線溶は自然出血を誘導してしまいます。プラスミノーゲンがプラスミンに活性化されるには、プラスミノーゲン活性化因子(tPA)とウロキナーゼ型プラスミノーゲン活性化因子の刺激が必要です。プラスミノーゲン活性化抑制因子(PAI)には、PAI-1、PAI-2、PAI-3があって、フィブリン分解を抑制するので、血栓症が起こりやすくなります。

血管内凝固が起こると、血液凝固を抑制するその他の機構も働き出します。最も知られているのが、アンチトロンビン(AT)です。ATは、肝細胞で生成される蛋白で、ヘパリンの補因子として働いて、第Ⅸ因子、第Ⅹ因子、トロンビンの活性化を阻害します。ATは、tPAも阻害します。プロテインCとプロテインSは、ビタミンK依存性抗凝固因子で、これも肝細胞で生成されます。これらの3つの因子は、過剰な血餅形成を抑制するための生理的な抗凝固因子として働いています。

症状

自発性出血や過剰出血が認められたら、飼い主に対して、以下の点を確認しましょう。

  •  今回が始めての出血か
      後天的凝固障害の疑い
  •  出血の前に手術を受けたか。手術の際に、大量の出血があったかどうかを確認。
      過去に避妊手術や去勢手術で出血傾向がみられていたのなら、先天性凝固障害の疑い
  •  同腹子が同じような症状を示しているか
      先天性凝固障害の疑い
  •  最近、ワクチン接種を受けたかどうか
      生ワクチンは、血小板減少や機能不全を引き起こすことがある
  •  最近、血小板減少や機能不全を誘発する可能性のある薬剤の投与があったか
      非ステロイド系抗炎症薬、サルファ剤、抗菌薬、フェノバルビタールなど
  •  殺鼠剤を誤飲した可能性の有無
一次止血異常二次止血異常
 点状出血が多い
 血腫はまれ
 皮膚・粘膜の出血
 静脈穿刺直後の出血
 点状出血はまれ
 血腫が多い
 筋肉内・関節内・体腔内の出血
 静脈穿刺後の遅延性出血

一次止血異常に伴う臨床徴候は、二次止血異常のものとは大きく異なります。正常な凝固機構を考えると、ある程度の判断は可能です。重度の血小板減少症や血小板機能不全症が存在するのであれば、一次止血栓は形成されないと考えられます。一時止血栓は、寿命が短くて、フィブリンによって徐々に覆われます。一次止血栓が不十分な場合は、多巣性に一時的な出血が起こりますが、すぐにフィブリン形成とともに止血されます。結果として、多巣性で小さな表層出血として認められます。

重度の凝固因子欠損では、機能的な血小板は十分あるために一次止血栓は形成されますが、フィブリンは形成されません。結果として、遅発性で持続的に長期間にわたる出血が起こるので、血腫形成や体腔内出血が起こります。

一次止血系の異常(血小板の障害)がある犬や猫では、典型的な症状として、点状出血・斑状出血、粘膜面からの出血(メレナ・血便・鼻出血・血尿)といった表層出血、静脈穿刺直後の止血時間の延長が認められます。原因の多くは循環血小板数の減少です。でも、犬や猫ではあまり起こりません。

二次止血系の異常(凝固因子欠損)では、体腔内出血、関節内出血、深部血腫といった深層出血です。第XII因子欠損、プレカリクレイン欠損、高分子量キニノーゲン欠損など特定の先天性凝固障害の場合は、活性化凝固時間(ACT)や活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)の延長は著しいのですが、自発性出血や出血時間の延長はありません。二次止血異常の多くは、中毒や肝疾患によることが多いのが特徴です。一次止血異常と二次止血異常の両方が起こっている場合は、ほとんどの場合、DICと考えて構いません。

 診断

自発性出血や出血時間の延長を呈している動物や、先天性の凝固障害が疑われる場合は、血小板数の測定、凝固時間の計測などを行って評価をしておきましょう。血液塗抹検査などは病院内で簡単に行えますが、必要に応じて、検査機関に依頼をして、凝固系(APTT・PT・フィブリノーゲン)や線溶系(フィブリン分解産物)の検査を行ってもらうといいと思います。

 症例の一般的な管理

出血性疾患は、命に関わる可能性があるので、積極的な管理を行って、医原性出血を最小限に抑えます。外傷は最小限に抑えて、安静に保って、運動制限を行います。

静脈穿刺はできるだけ細い針を用いて、最低5分間は圧迫止血してください。その後、包帯で穿刺部位を圧迫しておきます。侵襲的な検査はできるだけ避けます。膀胱穿刺による採尿は不可です。骨髄穿刺やリンパ節、体表腫瘤の針吸引、脾臓の針吸引、静脈カテーテルの留置は構いません。脾臓は線維筋性被膜が厚いので、針を抜くとすぐに針穴は塞がります。

自然発生の出血性疾患では、輸血が必要な場合もあります。症例の状態を見ながら判断してください。

一次止血異常

一次止血異常では、体表と粘膜の出血があって、症状としては点状出血、斑状出血、血尿、鼻出血などが認められます。通常、血小板の減少が原因となります。血小板機能異常が、犬や猫で自発性出血の原因となることはまれです。血管障害による一次止血異常が起こることもまれです。

 血小板減少症

犬で自発性出血の起こる原因は、血小板の減少です。血小板産生の低下血小板破壊の亢進血小板消費の亢進血小板隔離の亢進のいずれかが起こると、循環血液中の血小板が減少します。猫で血小板の減少が起こることはあまりありません。

血小板減少症の原因

血小板産生の低下血小板の破壊・隔離・消費の亢進
 薬剤誘発性
 骨髄癆
 特発性骨髄無形成
 レトロウイルス感染
 エールリヒア症
 免疫介在性骨髄巨核球低形成


 免疫介在性
 感染症
 生ワクチン
 薬剤誘発性
 播種性血管内凝固(DIC)
 脾腫・脾捻転
 尿毒症・血管炎・エンドトキシン血症
 急性肝壊死・腫瘍など

末梢で血小板が破壊される最も一般的な要因は、免疫介在性、薬剤誘発性、生ワクチンの接種、敗血症関連性の機序によるものです。血小板消費の亢進は、DICで頻発して、血小板の隔離は脾腫によることが多くて、稀に肝腫でも起こります。

血小板減少を呈する症例への対応
犬種特異的に、血小板数が基準範囲以下である場合や、巨大血小板がみられる犬種もあったりしますので、注意しましょう。それを踏まえた上で、血小板の絶対数が25,000個/μL以下に減少すると免疫介在性血小板減少症が疑われて、50,000~75,000個/μLでの減少には、エールリヒア症や脾臓に浸潤を伴うリンパ腫、殺鼠剤(ビタミンK拮抗薬)中毒を疑います。免疫介在性の血小板減少を示す症例で、免疫抑制剤に対して2~3日以内に反応しないなら、骨髄吸引検査を行いましょう。

まずは、飼い主に投薬歴を確認します。その時点で、服用している薬があれば、薬剤誘発性の血小板減少の可能性を考慮します。服用を中止することができるのであれば中止して、1週間以内に血小板数を再検査します。戻っていれば、薬剤誘発性です。血小板を減少される薬剤の多くは、貧血や好中球の減少も引き起こします。

レトロウイルスに感染している猫は、骨髄に影響を受けるために血小板が減少することがあります。FeLV・FIV検査を行っておきましょう。FeVL陽性猫の多くは、血小板容積が大きく、巨大血小板血症を示します。巨大血小板は、末梢で血小板の破壊・消費・隔離が亢進している症例でもみられます。

末梢の血小板破壊・消費・隔離が起こると、骨髄で巨核球の過形成が起こります。免疫介在性血小板減少症では、骨髄中の巨核球数の減少や遊離した巨核球の核が多数認められることがあります。これは、血小板に対する抗体が骨髄巨核球も破壊しているためと考えられます。腫瘍細胞の浸潤や細胞の異形成を伴う骨髄疾患が血小板減少の原因となっている場合、骨髄塗抹で簡単に鑑別できます。

免疫介在性血小板減少症は、消去法的に診断されます。薬剤誘発性を除外して、つぎにダニ介在性疾患を除外しましょう。免疫学的な検査がいいですが、出血以外に関連症状がみられないなら敗血症やダニ介在性疾患の可能性は低いのですが、不顕性のリケッチアのこともあります。敗血症の疑いがあるときには、発熱、頻脈、循環血液量の低下、白血球の左方移動、低血糖、高ビリルビン血症などがありますので、血液や尿の細菌培養検査を行います。

血小板減少症で、球状赤血球を伴う溶血性貧血や赤血球の自己凝集が認められる場合、エバンス症候群(免疫介在性の溶血性貧血と血小板減少の併発疾患)が強く疑われます。クームス試験を行いましょう。

血小板減少を呈していて、血液塗抹で赤血球断片が認められて、血腫や体腔内出血(二次性出血)が認められるなら、必ず凝固系スクリーニング検査を行って、DICの鑑別をします。単なる血小板減少症では、血小板以外の凝固系スクリーニング検査は正常です。

免疫介在性血小板減少では、単核食細胞の過形成や髄外造血の結果を反映して、脾臓が腫大していることがあります。腹部X線検査やエコー検査をしておきましょう。結節があれば、針吸引を行って細胞診を行います。穿刺で出血が起こることは稀です。

場合によっては、試験的にステロイドの投与を行うと、免疫介在性疾患が明らかになる場合もあります。免疫介在性疾患と感染症の疑いが、どちらも消えないときには、検査の結果が出るまで、免疫抑制量のステロイドとドキシサイクリン(5mg/kg、経口、BID)を併用投与しておきます。

免疫介在性血小板減少症
犬では出血の原因で最も多いのが免疫介在性ですが、猫では稀です。徴候は、一次止血異常による点状出血、斑状出血、粘膜出血です。出血が著しいと、虚脱が起こります。軽い貧血なら、症状がほとんど認められません。多くは急性に発症して、検査で脾腫がみつかることもあります。

血液検査では、血小板の減少がみられるだけです。貧血を伴う場合は、Htの低値もあります。免疫介在性溶血性貧血が併発しているなら、球状赤血球を伴う再生性貧血、クームス試験陽性、赤血球の自己凝集が認められます。骨髄細胞診では、巨核球の過形成が認められることもあります。血小板の減少以外に検査で特定できる異常は、出血時間のみで、APTTやフィブリノーゲン濃度など、他は正常です。

検査で血小板の減少だけがみられて、症状が軽微で、一次止血系の異常による自発性出血があると、免疫介在性血小板減少症を強く疑うのですが、そのような症例には、試験的に免疫抑制量のプレドニゾロン(2~8mg/kg/日)を用いた治療を開始します。通常、24~96時間以内に反応がみられます。ステロイドの副作用による消化管潰瘍による出血を予防するために、ファモチジン(0.5mg/kg、経口、SID)などのH2ブロッカーを投与しておく方がいいと思います。血小板減少に対して、出血は症状を悪化させます。

治療によって血小板が正常化しないなら、原因は、投与量が低い、他剤の併用が必要、治療期間が短すぎる、診断の誤りのどれか、だと思われます。修正すれば、血小板の減少は改善します。併用する他剤としては、寛解導入にはシクロフォスファミド(200~300mg/平米を単回投与、ivもしくはpo)、寛解を維持するにはアザチオプリン(50mg/㎡、経口、SID)が有効です。アザチオプリンを投与するときは、骨髄抑制作用や肝毒性の可能性があるので、十分に注意しましょう。プレドニゾロンの代わりに、シクロスポリンを用いることも可能ですが、プレドニゾロンで効果があるならプレドニゾロンで処置した方がいいと思います。免疫介在性血小板減少症の予後は、多くは良好ですが、生涯にわたって治療が必要になることもあります。

猫の免疫介在性血小板減少症が、認知されつつあって、猫の場合、血小板の減少があっても自発性出血はありません。症状もほとんどないのですが、非再生性の貧血、好中球の減少、リンパ球の増加を伴うことがよくあります。血球減少症は、突然改善することもありますし、数ヶ月して再発することもあります。治療には、デキサメタゾン(4mg/Head、1~2週間毎)とクロラムブシル(20~30mg/㎡、経口、2週間毎)の投与を行います。

 血小板機能不全症

一次止血障害による出血がある動物で、血小板数が正常な場合、血小板機能不全症が強く疑われて、その他では、血管症や線溶亢進の可能性も考えられます。血小板の機能不全では、先天性のものと後天性のものがあります。自発的出血を起こすことは稀です。病態は、手術前の検査で出血時間の延長を認めたり、以前に行われた手術中に見つかることがよくあります。先天的な疾患のほとんどは、フォンヴィレブランド病(vWD)です。血小板の機能不全は、後天的なことの方が多くて、尿毒症、エールリヒア症、レトロウイルス感染、薬剤誘発性などが原因となります。プロスタグランジン阻害薬、一部の抗菌薬、ワクチンなどに気をつけましょう。

フォンヴィレブランド病(vWD)
vWDは、犬で最もよく認められる遺伝性の止血異常です。フォンヴィレブランド因子の濃度や活性が低下する場合(Ⅰ型)・フォンヴィレブランド因子の欠損(Ⅲ型)・異常なフォンヴィレブランド因子の存在(Ⅱ型)に分類されます。症状では、軽度の自発性出血と、手術時における出血の持続が認められます。vWDの犬の、止血系スクリーニング検査は、正常です。血小板数も正常です。出血時間だけが延長することがあります

フォンヴィレブランド因子の役割は、内皮細胞が損傷された際に、損傷の大きな領域の内皮下構造(コラーゲン)に血小板を接着させることです。一次止血栓の形成を開始する因子です。循環血液中のフォンヴィレブランド因子は、らせん構造ですが、内皮細胞の障害部位に到達するとらせんが解けて、コラーゲンに結合するとともに、血小板上のレセプターに結合します。これによって、血小板が損傷部位に引き寄せられます。そのため、vWDは、点状出血・斑状出血・粘膜出血(一次止血異常)が特徴的です。しかしながら、実際のところ、自発性出血は少なくて、手術中や術後の出血が顕著です。歯の抜け替わりや発情出血でも、過剰な出血がみられることがあります。

Ⅰ型vWDは、術前や出血中にデスモプレシン(点鼻製剤; 1μg/kg、単回、皮下)を投与すると、治療できます。デスモプレシンは、内皮細胞からのフォンヴィレブランド因子の大量放出を誘導して、投与30分以内に出血時間を短縮します。Ⅱ型やⅢ型vWDは、フォンヴィレブランド因子が異常か欠損している状態なので、デスモプレシンは効きません。Ⅱ型やⅢ型vWDを治療するときには輸血を行いますが、輸血ドナー犬に採血1時間前にデスモプレシンを投与しておくと、フォンヴィレブランド因子が回収可能です。先天性vWDの犬は、繁殖には供しないようにしましょう。

二次止血異常

二次止血系に異常のある犬は、虚脱、運動不耐性、呼吸困難、腹部膨満、跛行、腫瘤を主訴に来院します。多くは、体腔内出血による貧血で起こるものです。跛行は、関節血症で、腫瘤は血腫です。二次止血異常では、点状出血や斑状出血は認められる、粘膜出血もまれです。二次止血異常の主な原因は、肝疾患や殺鼠剤によるビタミンK欠乏です。

 先天性凝固因子欠損症

先天性凝固因子欠損の原因となる遺伝子は、ほとんど解明されていて、遺伝子検査を行うことも可能です。出生時に異常を来たすことも多いので、臍帯出血の延長、流産や死産もあります。点状出血や斑状出血はなく、体腔内の出血や血腫が形成されます。

無症状の犬でも、過剰出血がなくても、検査では凝固時間(APTT)が著しく延長していることが通常です。第XII因子・第XI因子・プレカリクレイン・高分子量キニノーゲンなどの特性因子(接触因子と呼ばれるもの)の欠損が認められます。第XI因子の欠損犬では、術後24~36時間を過ぎて、命に関わる大出血の起こることがありますので、注意が必要です。

治療には、支持療法と輸血療法しかありません。先天的な異常を持つ犬は、繁殖には供さないように。

 ビタミンK欠乏症

ワルファリンのようなビタミンK拮抗薬の摂取と、閉塞性胆汁うっ滞、浸潤性腸疾患に伴う吸収不良、肝疾患も原因となります。ビタミンK依存性の凝固因子は、第Ⅱ因子、第Ⅶ因子、第Ⅸ因子、第Ⅹ因子の4つです。生理的な抗凝固因子であるプロテインCとプロテインSも、ビタミンK依存性です。

殺鼠剤中毒の犬は、急性の虚脱と殺鼠剤の誤飲を主訴に来院します。発咳、呼吸困難もみられます。検査をすると、体腔内出血と血腫がよく認められます。特に起こりやすいのは、胸腔内の出血です。液窩や鼠径部など、摩擦を受けやすい皮膚表面には、挫傷がみられることもあります。粘膜蒼白や貧血のある場合もあります。中枢神経系や心膜での出血があると、突然死することもあります。

殺鼠剤を摂取して間もないなら、催吐処置と活性炭を投与することで、除去できます。摂取をしたかどうか、が不確かで、凝固障害の症状が認められない、ということであれば、プロトロンビン時間の測定を行います。第Ⅶ因子は、ビタミンK依存性蛋白の中で最も半減期が知事会ので、自発性出血が起こる前にプロトロンビン時間の延長が認められるからです。

治療
殺鼠剤の誤飲や肝疾患によるビタミンK欠乏症の治療は、ビタミンKの補給です。経口剤と非経口剤がありますが、静脈内投与はアナフィラキシーショックやハインツ小体形成が起こる危険があるので、行いません。筋肉内投与も血腫を起こすことがあります。なので、皮下投与(初回量5mg/kg、以降8時間毎で2.5mg/kg)をしましょう。経口投与ができるなら、その方が安心です。ビタミンKは脂溶性なので、高脂肪食と一緒に与えます。投与量・投与回数は、皮下投与と同じです。胆汁うっ滞や吸収不良に対しては、継続的なビタミンKの皮下投与が必要な場合があります。

摂取した抗凝固剤が、ワルファリンや第一世代ヒドロキシクマリンであることがわかっているなら、凝固障害の回復には、1週間のビタミンKの経口投与で十分です。摂取したものが、インダネジオンや第二世代・第三世代の抗凝固薬のときは、ビタミンKの経口投与を最低でも3週間、場合によっては6週間継続する必要があります。どんな殺鼠剤を摂取したかを判断できないなら、ビタミンK治療を1週間行って、プロトロンビン時間を調べましょう。延長しているなら、治療を再開して、さらに2週間後にプロトロンビン時間を測定して再評価します。

播種性血管内凝固(DIC)

DICは、過剰な血管内凝固によって多臓器性細小血管症(多臓器不全)を引き起こして、線溶系の亢進による血小板や凝固因子の不活化や過剰消費が原因となって矛盾性の出血が認められます。DICは特定の疾患ではなくて、さまざまな疾患に共通した病態の進行の結果として起こっているものです。DICでは、治療中に動物状態や凝固系検査の結果が、著しく、しかも急速に、繰り返し変化します。

 機序

血管内皮の損傷、血小板の活性化、組織因子の放出によって血管内凝固が活性化されます。これらの機構によってDICが起こります。血管内皮の損傷は、一般的には、感電や熱中症によって起こることが多くて、血小板の活性化は主にウイルス感染や敗血症によることが多くて、組織由来の前凝固因子(組織因子)は外傷、溶血、膵炎、細菌感染、急性肝炎、腫瘍など多くの病態で放出されます。

DICの病態を理解するには、全血管系を一つの巨大な血管とみなして、DICによって正常な止血機構が誇張されたものである、と考えるといいと思います。凝固経路が一度活性化されると、体内の広範囲の細小血管系で広く反応が起こって、体中で色々な変化が起こります。

  1.  最初に一次血栓と二次血栓が形成されます。これが一度に多くの細小血管で同時に起こっているので、多数の血栓が微小循環で形成されます。放置されると徐々に虚血が起こって、多臓器不全が起こります。この過剰な血管内凝固が起こっている間に、血小板は大量に消費・破壊されて、血小板減少症が起きます。
  2.  次に、全身的な線溶系の活性化が起こって、その結果、血餅の溶解、凝固因子が不活化・分解されて、血小板の機能阻害が起きます。
  3.  さらに、血管に凝固を阻止するためのアンチトロンビンⅢ、プロテインC、プロテインSの消費が起きます。その結果、内因性の抗凝固形態が枯渇します。
  4.  4番目の事象として、微小循環中のフィブリン形成があって、このフィブリン鎖によって赤血球が断片化されて溶血性貧血が起こるとともに、血小板の減少がさらに進行します。

これら4つの事象すべてを考慮して初めて、

  •  なぜ、血管内凝固亢進と抗凝固因子の欠乏が原因で起こる多臓器血栓で、血小板減少・血小板機能不全・凝固因子の不活化が原因となる出血が、同時に起こるのか
  •  なぜ、DICの出血を止める有効な治療法の一つが、ヘパリンや他の抗凝固剤の投与であるのか

が、理解できます。アンチトロンビンⅢが十分にある場合、ヘパリンは血管内凝固を阻止して、それによって線溶系の活性化が低下するため、凝固因子と血小板機能に対する抑制効果が発揮されます。

また、組織灌流量の低下が二次的なDICの促進因子となることがあります。低酸素症、アシドーシス、肝機能不全、腎機能不全、肺機能不全、心筋抑制因子の放出などです。単核食細胞の機能低下も認められるので、フィブリン分解産物や他の分解産物の他、腸管から吸収された細菌も循環血液中から排除できなくなります。当然ながら、こられの要因も治療します。

犬でDICを起こす基礎疾患は、腫瘍(主に血管肉腫)、肝疾患、免疫介在性疾患が一般的です。猫は、肝疾患(主に、肝リピドーシス)、腫瘍(主にリンパ腫)、FIPが主ですが、発生率は高くありません。血管肉腫の犬で起こるDICは、多くの要因が関与しているようです。血管内凝固が引き起こされる主な要因は、腫瘍内における異常で不規則な内皮(内皮下のコラーゲンへの暴露と凝固系の活性化)と考えられていますが、犬の血管肉腫のなかには、腫瘍由来の前凝固因子を産生するものもあると思われます。それは、小さな血管肉腫でも、重度のDICとなることがある一方で、広範に播種した血管肉腫でも止血能が正常なことがあるからです。

 症状

慢性無症候型(潜在性)DICと急性型(劇症)DICがよく認められる型です。慢性症候型の犬では、自発性出血の所見は認められませんが、止血系検査でDICに相当する異常が確認されます。悪性腫瘍やその他の慢性疾患の犬でよく起こります。

急性(劇症)型は、まさに急性に認められることもありますし、慢性無症候型の急性代償不全に陥ってみられることもあります。おびただしい自発性出血と貧血、実質臓器の血栓症に続発した全身症状(多臓器不全)を呈します。一次出血障害(点状・斑状・粘膜出血)と二次出血障害(体腔内出血)の両方を呈しています。

 診断

いくつかの血液学的な所見で仮診断を行います。再生性溶血性貧血、ヘモグロビン血症、赤血球断片や分裂赤血球、血小板減少、左方移動を伴う好中球増加などがあれば、疑いましょう。Ht値と血液塗抹で判断可能です。生化学的には、高ビリルビン血症、高窒素血症、高リン血症、低酸素症、肝酵素活性の上昇などがみられます。尿検査では、ヘモグロビン尿やビリルビン尿が多くて、蛋白尿や尿円柱が認められることがあります。尿の採取で、膀胱穿刺は出血の恐れがあるので、行わないように。

止血系の異常は、血小板減少、プロトロンビン時間や活性化部分トロンボプラスチン時間の延長、フィブリノーゲン濃度の低値、フィブリン分解産物やD-dimerの陽性反応、アンチトロンビンⅢ濃度の低下などがみられます。これらの所見のいくつかが見られた上に、分裂赤血球が確認されると、明確にDICと考えていいと思います。

 治療と予後

DICと診断したら、すぐに治療を開始します。強く疑う場合も、遅延なく治療を始めましょう。残念ながら、有効性を保証する治療法はないのですが、最善を尽くすべきです。

治療は原因を除去することを考えながら行いますが、必ずしも、それが可能な状況にはありません。血管肉腫、敗血症、免疫介在性溶血性貧血、感電、熱中症、膵炎などが挙げられますが、そう簡単には原因を除去できるわけではないので、

  •  血管内凝固を止める
  •  実質臓器の灌流状態を良好に維持する
  •  二次的な合併症を予防する

ということを念頭において、治療を行うことが必要です。DICの犬の多くは、肺の機能不全や腎不全で死亡します。輸血がすぐに出来る状況であれば、循環血液量が保たれ、機能不全に陥ることはないのですが、実際のところ、そんな恵まれた状況にある動物病院が少ないのが現状です。

DICの治療方法
1. 増悪因子の除去
2. 血管内凝固の阻止
   ヘパリン
    ・超低用量:5~10IU/kg、皮下、TID
    ・低用量:50~100IU/kg、皮下、TID
    ・中用量:300~500IU/kg、皮下またはiv、TID
    ・高用量:750~1,00IU/kg、皮下またはiv、TID
3. 実質器官の灌流維持: 積極的な輸液
4. 二次的な合併症の予防
    酸素吸入
    電解質補正
    抗不整脈薬投与
    抗菌薬投与

血管内凝固の阻止
血管内凝固を阻止するに、治療には、ヘパリンと血液の投与を行います。ヘパリンは、アンチトロンビンの補助因子なので、血漿中に十分なアンチトロンビン活性がないと、凝固系の活性化を抑える効果はありません。DICでは、過剰な消費と不活化によって、アンチトロンビン活性が低いので、アンチトロンビンを十分量、供給してやらなくてはなりません。そのためには輸血がいいのですが・・・

ヘパリンと輸血を併用すると、DICの治癒率は向上します。通常は、低用量でヘパリンを投与する方がいいようです。低用量のヘパリンは、活性化凝固時間や活性化部分トロンボプラスチン時間を延長することがなくて、この用量だと、止血系異常に対して改善を認めます。重度の微小血栓症を示す徴候(高窒素血症・肝酵素活性の上昇・心室性期外収縮・呼吸困難・低酸素血症)が認められたら、中用量から高用量のヘパリンを投与します。活性化凝固時間を2~2.5倍に延長させます。

アスピリン(0.5~10mg/kg、経口)や他の抗血小板薬には、血小板の活性化を抑制する働きがありますが、あまり効果はないようです。むしろ、アスピリンの副作用である消化管出血が重度になると、DICでは致命傷になるので、使用する場合は、厳重な注意が必要です。

実質臓器灌流の状態維持
器官の血流量を増やすためには、輸液療法が必要です。循環血液中の凝固因子や線溶系因子を希釈して、微小循環中の微小血栓を洗い流して、前毛細血管細動脈の開存性を維持することが目標です。これによって、酸素交換の効率がいい場所に血液が向かうようになります。

腎臓や肺の機能に問題がある症例では、水分過剰にならないように注意が必要です。

二次合併症の予防
常に、合併症を意識して、酸素吸入、アシドーシスの補正、不整脈の除去、細菌による二次感染の予防を行いましょう。虚血状態の消化管粘膜は、微生物に対する効果的な障壁の役割を果たさないので、細菌が侵入して、肝臓の単球食細胞で排除されないので、敗血症になります。

予後
一般的に予後は悪いですが、原因をしっかり管理して、適切な治療を行えば、回復可能です。止血系の検査において異常項目が多いと、予後や生存率が悪いので、治療にあたっては考慮が必要です。活性化部分トロンボプラスチン時間の著しい延長と、血小板減少は、不良因子です。

血栓症

犬や猫は、血栓症・血栓塞栓症の頻度は、多くはありません。血行静止、血管内皮の異常、血管内皮が障害された部位での血管内凝固の活性化、抗凝固因子活性の低下、線溶系の活性低下や障害などが原因となります。心筋症、副腎皮質機能亢進症、蛋白喪失性腸症、蛋白喪失性腎症、免疫介在性溶血性貧血との関連がよく言われます。

血行静止と血管内皮表面の不整が、肥大型心筋症の猫で二次的に起こる大動脈血栓塞栓症の主な原因と考えられます。蛋白喪失性腸症や蛋白喪失性腎症の犬では、アンチトロンビン活性の低下が関与していると思われます。PAI-1濃度が高いために、線溶系が抑制されて、凝固促進が優位になっている状態も考えられます。アンチトロンビン活性が低下するのは、アンチトロンビンが比較的分子量の小さな物質なので、蛋白喪失性腎症や高血圧では、尿中や腸内容物中に失われてしまうためです。副腎皮質機能亢進症の犬では、糖質コルチコイドによって、PAI-1の産生が誘導されることに関連していると考えられています。糖質コルチコイドは、線溶系を抑制します。IMHAを発症している犬では、溶血した赤血球から放出される前凝固因子が原因であろうと思われますが、微小循環において自己凝集した赤血球が泥状化することも凝固系活性化状態に関与するとも考えられています。

血栓症・血栓塞栓症の診断は容易ではありません。明確な診断ができなくても、危険性の高い犬や猫に対しては、抗凝固剤を投与します。アスピリンやヘパリンが使用されます。クマリンは、過剰出血が起こる可能性があるので、使いません。