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血液・造血器系の疾患/血球減少・白赤芽球症

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血球減少症/白赤芽球症

血球減少症は、血球産生の低下や末梢での血球破壊の亢進によって起こります。2系統血球減少症や汎血球減少症は、多くは原発性骨髄疾患(造血器系の問題)で起こります。末梢での血球破壊は、敗血症、播種性血管内凝固(DIC)、免疫介在性血液疾患の結果で起こります。

2系統血球減少症と汎血球減少症の原因
血球産生の低下
  骨髄低形成・無形成
    特発性・中毒性・エストロジェン(内因性・外因性)
    薬剤性(抗癌剤・抗生剤・抗痙攣薬・非ステロイド系抗炎症薬)
    放射線治療
    免疫介在性
    感染症(パルボ・FeVL・FIV・エールリヒア・ヒストプラズマ)
  骨髄壊死
    感染性疾患(敗血症・パルボ)
    毒素(マイコトキシン)
    腫瘍(白血病・転移性腫瘍)
    低酸素・DIC
  骨髄の線維化・硬化
    骨髄線維症・骨硬化症・大理石骨症
骨髄癆
  腫瘍
    白血病・リンパ腫・多発性骨髄腫・全身性肥満細胞腫
    悪性組織球症・転移性腫瘍
  肉芽腫性疾患
    ヒストプラズマ・マイコバクテリア
骨髄異形成
血球の破壊と隔離の亢進
  免疫介在性疾患
  敗血症
  細小血管症
  DIC
  脾種・血管肉腫

白赤芽球症では、未成熟な血球が骨髄やその他の造血組織(脾臓・肝臓)から放出されて、末梢血液中に未成熟血液細胞が存在します。様血性貧血や失血、腹膜炎などによって血球の需要が亢進すること、骨髄や髄外造血組織からの移行時間の短縮、白血病や骨髄リンパ腫などによって正常な骨髄前駆細胞が押し出されること、が主な原因です。

白赤芽球症の原因
髄外造血
免疫介在性溶血性貧血
失血性貧血
敗血症
DIC
慢性低酸素症(うっ血性心不全)
腫瘍(血管肉腫・白血病・リンパ腫・多発性骨髄腫)
糖尿病
甲状腺機能亢進症
副腎皮質機能亢進症

血球減少症の症状と所見は、貧血によって可視粘膜の蒼白、血小板減少による自発性出血(点状・斑状)がみられる場合と、基礎疾患による場合とがあります。治療に際して、最初にしておくべきことは、治療に用いられた薬剤、中毒を引き起こす化学物質への暴露、ワクチン接種、旅行や他の動物との接触の有無がなかったか、などをしっかり問診しておくことです。

複数系統の血球減少を示す症例では、多くは自然出血や貧血に付随する蒼白が認められます。意外と重要な所見として、汎血球減少症の雄犬で認められる雌性化現象があるようです。停留精巣の犬で多いようです。セルトリー細胞腫、ライディッヒ細胞腫や精細胞腫が存在していて、二次性の高エストロジェン血症が起こっていることを示唆します。

全身性リンパ節腫大、肝脾腫、服腔内や胸腔内の腫瘤などが認められると、ある程度、疾患を絞り込めます。腹部の腫瘤で多いのは、脾臓の血管肉腫です。脾臓が全体的に腫大している場合は、脾臓の循環血液中の血球隔離・破壊や、原発性骨髄疾患に反応した髄外造血が起こっている可能性があります。血球減少症と脾腫を併発している症例は、肥大した脾臓が血球減少の原因か結果かを鑑別するために、穿刺吸引を行って細胞診で診断してもらいましょう。

感染症の疑いがあれば、犬ではバベシア症、猫ではFeVLとFIVをチェックしておきます。免疫介在性疾患が疑われたら、クームス試験や抗核抗体検査を。関節液の細胞診で、化膿性無菌性関節炎を示唆する所見がみられたら、免疫介在性疾患か、リケッチア症の可能性があります。貧血に対しては、末梢での破壊が原因なのか、骨髄の疾患が原因なのか、を鑑別しておくことも重要です。必要に応じて、骨髄吸引検査を行いましょう。

骨髄細胞が増加する場合の診断フローチャート

骨髄細胞増加

白赤芽球症では、末梢血で認められる未熟白血球や未熟赤血球が原発性骨髄疾患によって出現したものか、髄外造血による二次的なものか、を鑑別することが重要です。骨髄検査、服腔内腫瘍や血管肉腫を疑えば腹部エコー検査、脾臓が腫大していれば穿刺吸引などを行います。

骨髄細胞が減少する場合の診断フローチャート

骨髄細胞減少

 骨髄の低形成・無形成

末梢血の血球減少と骨髄中の血液前駆細胞の不足や欠乏が特徴の疾患です。薬剤の投与と関連することが多いので注意してください。猫のクロラムフェニコールや犬のエストロジェンが要注意です。感染症でも起こることがあります。

この症例において骨髄吸引を行うと、骨髄細胞は減少しています。感染症や薬剤暴露が除外できたら、免疫抑制量のステロイドを用いて、試験的治療を行ってみましょう。

 骨髄癆

腫瘍細胞や炎症細胞が骨髄に浸潤すると、正常な造血前駆細胞が追い出されてしまい、結果として、末梢血での血球減少が起こります。骨髄癆は、貧血を主訴とすることが多いのですが、好中球の減少による発熱や、血小板減少に起因する出血傾向を示すこともあります。肝脾腫、リンパ節の腫大が認められる場合、腫瘍性や感染性の疾患が強く疑われます。骨髄細胞診などを行って診断し、腫瘍であれば化学療法、感染症なら対症療法を行います。

 骨髄異形成

骨髄の異形成は、数ヶ月~数年をかけて急性白血病へ進行しうる血球の形態学的変化を伴う病態です。末梢血と骨髄の血球の形態学的な異常に加えて、顆粒球と血小板の機能的な異常も知られています。顆粒球や血小板が正常範囲内であっても、感染症を繰り返したり、出血傾向がみられます。

レトロウイルスに感染した猫で、より多く認められるようです。倦怠、体重減少、食欲低下などの非特異的な症状を示します。呼吸困難、再発性の感染症、出血傾向を示す猫もいます。肝脾腫が半数以上で認められます。血液検査では、2系統もしくは汎血球減少、大赤血球症、好塩基性赤芽球、網状赤血球の減少、巨大血小板増多症などがみられます。骨髄では、過形成の細胞が増えて、芽球比率が30%未満であり、骨髄球/赤芽球比が上昇して、赤芽球や骨髄球、巨核球の産生障害などが知られています。猫では、多くが急性白血病へ進行することが知られていますが、FeLVに感染している猫がほとんどであり、白血病への進行がFeLVで引き起こされている可能性は否めません。

犬で発症すると、倦怠、抑うつ、食欲不振がみられます。検査をすると、肝脾腫、粘膜蒼白、発熱などがあります。血液検査では、2系統もしくは汎血球減少、大赤血球症、好塩基性赤芽球、網状赤血球の減少などがあります。

治療で、有効なものはありません。支持療法(輸液・抗菌薬)と、分化誘導剤として低用量シトシンアラビノシドを併用する方法が推奨されています。

 骨髄線維症・骨硬化症・大理石骨病

骨髄中の線維芽細胞や骨芽細胞は、レトロウイルス感染や慢性的な刺激、ときには原因不明に増殖して、骨髄腔が線維様あるいは骨様に置換されてしまうことがあります。稀な疾患ではありますが、FeLV感染で起こることもありますし、バセンジーやビーグルに好発するピルビン酸キナーゼ欠損症を初めとする慢性溶血性疾患の犬での報告があります。

骨線維症の犬では、楕円赤血球や涙滴状赤血球が特徴的な所見です。症状の多くは、ステロイドとアザチオプリンの併用による免疫抑制療法で改善します。骨硬化症や大理石骨症は、血球減少とともに、X線検査で不透過性の亢進がみられたら、仮診断されます。確定診断には、生検が必要ですが、診断されても治療法はありません。